落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
「なめてんじゃないわよ……!」
ネオは一瞬青ざめた表情を見せたが直後顔を真っ赤にして、無表情で落下してくるグラフォスをにらみつける。
グラフォスの剣はネオの腕には届かない。
グラフォスは剣に何か阻まれたまま、体を半回転させると足を地面につける。
ネオの方を見ると、ネオは両手をクロスさせていてその手には氷でできた短剣を握っていた。
どうやらグラフォスの剣が接触する寸前に、短剣を出現させ攻撃を防いだようだ。
「今度は私の番よね?」
ネオは力任せにグラフォスの剣を押し上げると、グラフォスの懐に向かって勢いよく飛び込んでくる。
しかしグラフォスはそれをジャンプして空中に浮かぶことで回避すると、ネオの背後に立ち、逆にネオの背中めがけて二本の刃を突き出す。
ネオは飛び込んだ後グラフォスがいなくなったことを瞬時に察知して、勢いのまま地面に転がる。
そしてすぐに体勢を立て直すと、グラフォスに向かって短剣をたたきつける。
「別に近距離戦闘が苦手なわけではないんですね」
グラフォスは必死に剣を体の前に構えることで、ネオの攻撃を防御すると攻撃に転じる。
「あたりまえでしょ。この私に苦手な物なんてあるはずがないわ」
そう答えるネオの顔には自信が満ち溢れている。
それから二人の一進一退の攻防が始まった。
魔法属性の相性と回復魔法をかけてもらっているグラフォスの方が有利なように見えた。
炎の剣で氷の短剣を溶かしたり、雷の剣で短剣の刃の部分を両断する。
しかしそのたびに一瞬でネオは氷の短剣を再び顕出させ、グラフォスに奇襲を仕掛ける。
浅い攻撃はすべてアカネがかけた魔力によって包み込まれるように防がれる。
グラフォスの体に攻撃が通ることはあっても、それでできた傷もオートヒールですぐに回復する。
攻防を見ている限りではグラフォスの方が有利なように思えたが、彼の方にも問題はあった。
圧倒的にネオよりも基礎体力が低いのだ。
サポート魔法で自分の能力を強化しているといっても、それは基本的にただの補助効果だ。
近接戦では体力があるものの方が当然持久力に長けていて、有利となる。
そんな近接戦に持ち込んでおきながらグラフォス自身の体力は、そして運動神経も圧倒的に戦士よりも劣っていた。
グラフォスの攻撃は時間が経過するごとに雑になっていき、ネオの攻撃も通りやすくなっている。
しかしネオの魔力量もグラフォスよりは圧倒的に低い。
氷の短剣を出現させられるのにも限度があった。
お互いの限界を感じ、自然と一度距離を取るような形となる。
理由は違うものの二人とも息が上がっていて、顔から大量の汗が噴き出していた。
「はあ、はあ。これではらちがあきませんね」
グラフォスとしては短期決戦で彼女を戦闘不能にまで持っていきたい。
しかしそれをするには魔法詠唱の時間もなければ、近接戦で決着をつけられるほどの体力も残っていなかった。
次の攻撃に関してグラフォスが必死に頭を巡らせている最中、対するネオはどこか上の空で何かをぶつぶつとつぶやいていた。
「どうして私ばっかりこんな目に合わなきゃいけないわけ? 私こんなに頑張ってるのに……誰も私を認めてくれないじゃない。ほら見て、大事な大事な手だってこんなことになっているっていうのに……」
誰に見せるわけでもなく頭上に掲げてうつろな目で見つめている彼女の手は、ネオが言う通り皮膚がはがれ血が滲みだして、それが垂れてきていて掲げている手の真下にあるネオの顔にぽたぽたとかかっていた。
グラフォスの炎の剣を受けているときに焼けただれたのかもしれないし、そもそも氷をその手で握りしめているのだから短剣を振るう瞬間に皮膚がはがれていたのかもしれない。
「あーあ、私の綺麗なきれいな顔も血と汗で台無し。私ほんとはここまで頑張らないのよ? でも頑張らないと誰も認めてくれないから……こんなに頑張ってるのに……どうして誰も私を認めてくれないのよ!! もっと私に感謝しなさいよ! 私を認めなさいよ!! 私のことをもっと見てよ!!」
ネオは突然激高すると、その場に膝から崩れ落ち号泣し始めた。
血まみれの手で顔を覆っているため、彼女の顔はどんどん血にまみれていくがそんなことも気にしないぐらい、ただただネオは泣いていた。
唐突な彼女の変化にさすがのグラフォスも戸惑うしかない。
しかし戦闘中に敵そっちのけで泣き始めるというあまりに異常な光景に、彼女が次にどんな行動に出るのかわからず剣は構えたままだった。
「いったいなんなんですか。もしかしてこのまま引き下がったりしてくれませんかね」
グラフォスは戸惑いながらもそう彼女に話しかけると、激しくふるえていたネオの肩が不自然なほどに突然止まる。
「ごめんなさいね。この子ったらすごく情緒不安定なのよね」
一瞬誰がしゃべったのかわからなかった。
それくらいに不自然な変わりようだった。
目の前に座る彼女がしゃべっていると理解できたのは、こっちに向けた口元が動いていて、それに合わせて声が発せられていたからだ。
「んーー、よいしょ……」
ネオはさっきまでとは一風変わった調子でその口元に笑みを浮かべたまま大きく伸びをして、ゆっくりと立ち上がる。
「待たせちゃってごめんなさいね? じゃあ続きを始めましょうか?」
そういってネオは、いや目の前の女は血まみれのままの顔をこちらに向け微笑み、そして短剣を構える。
その動作やしぐさ、言葉全てが気味が悪いほどに妖艶に映っていた。