落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~   作:葵 悠静

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第52節 知識欲と承認欲

「『パーフェクトヒール』」

 

 トキトとグラフォスの全身に淡い緑色の魔力が降り注ぐ。

 グラフォスの背中の傷は癒え、少なくないケガを負っていたトキトの傷も癒える。

 アカネの方に視線を向けると、その瞳には確かな怒りが込められていた。

 

 アカネの気持ちはよくわかる。仲間が何度も何度も怪我を負っていたら、負わせている相手が目の前にいたら、その敵を恨みたくもなる。

 

「でも、アカネにそんな顔は似合いませんよ」

 

 グラフォスはトキトの手を離し、アカネの方へと体を向けて無表情で、でも優しい口調でそう言い放つ。

 

 アカネははっとしたような表情を見せると、自分の頬を触りそしてその顔を赤らめて弱弱しく笑った。

 

「グラフォス君はいつだって、グラフォス君だね」

「『速』『力』『飛』きゃ!!」

 

 アカネの背後から現れたシャルがトキトに呪術をかける。

 しかしその途中で杖についていた水晶が完全に木っ端みじんに砕け散ってしまった。

 

「もうこんなときに!」

「いや、シャル十分だぜ。やるぞ、グラフォス」

 

 トキトは何度か手を広げ握りを繰り返すと、再び両手で刀を構えてネオと相対する。

 グラフォスもアカネの返答に困ったような笑みを返しながら、意識を切り替えて再び彼女の方へと剣を構える。

 

 魔法剣の維持には魔力を注ぎ込む必要がある。これ以上戦闘が長引くとさすがのグラフォスの魔力量でも、魔力切れが発生する恐れがあった。

 

「あらあら、なんだか仲がよさそうだけど……気持ちが悪い」

 

 ネオはトキト、グラフォス、シャル、そしてアカネの顔をじっと見つめずっとその口元に浮かべていた笑みを消して、光のこもっていない目をこちらに向けてくる。

 

「でも、さすがにこれは分が悪いかしら。思ったよりも戻ってくるのが早かったわ。残念ながら私の出番はここまでね」

 

 ネオはそういいながら四人から距離を取るように後ずさりを始める。

 

「逃がすかよ!」

「『オートヒール!』」

 

 シャルの呪術によって、身体能力が底上げされたトキトはアカネの緑の魔力を纏いながら、一瞬でネオへと切迫する。

 

 しかしそんなトキトの足元に大きな魔法陣が描かれる。

 

「うわっと!」

 

 魔法陣の上にいるのは得策ではない。

 さすがにそれくらいはわかっている、いやただの直感かもしれないが、トキトはその場で急停止すると同時に後方へと大きく飛びのく。

 

 そしてトキトとネオの間に描かれた魔法陣の中心から小さな芽が芽吹く。

 

「まさか……召喚術!?」

 

 芽だったのは一瞬のこと。周りの大地がひび割れ、水分がなくなったかと思おうとその芽はどんどん育ち、枝を伸ばし、そして……それが姿を見せた。

 

「トレントキング……」

 

 地面から生えてきたのはトレントキングそのもの。まさかユニークモンスターを召喚できるというのか……。

 

「お楽しみはこれからよ」

 

 ネオは楽しそうにくすくす笑いながら、両手を地面に向ける。

 再び地面に描かれる魔法陣。

 

 ネオに攻撃を仕掛けようにも今一歩でも動けば、トレントキングのあの太い枝で一瞬にして体を貫かれる。

 四人とも動くに動けない状態になっていた。

 

 そして魔法陣から湧き上がるようにゆっくりと姿を見せたのは、見覚えのある薄青色の体毛に覆われた巨体。

 その口からはよだれが垂れており、おぞましさを演出しているがこちらに流れてくる空気はひどく冷たい。

 

「ジャイアントウルフもですか……」

 

 しかも二体。それはトレントキングを守るように両脇に一体ずつ配置されており、こちらをにらみつけてきていた。

 

「氷属性が付与されているのはきっとおまけね。本当にやさしいお方。いつだって私のことを考えてくれている。そう、私の出番は終わったけれど、何も諦めるわけではないわ。私を、私たちを認めない者なんて滅びてしまえばいいのよ」

 

 ネオはそういうともはや必要ないと判断したのか両手に持っていた短剣を地面にたたきつけて、割ってしまう。

 

「あなたはいったい、何者なんですか」

 

 グラフォスの率直な問い。目の前の状況を恐れるでもなく、怖がるわけでもなく、その場から逃げようとするでもなく、ただ気になるから、その一点でかけられた問いだった。

 

 そんなグラフォスの反応を見て、ネオは眉をしかめる。

 

「あなたこの状況でまだ私のことが気になるのね? もしかしてあなたは知識におぼれているのかしら。あの方を差し置いて知識欲に満たされようと、知識欲におぼれようとそんなふうに思っているのかしら。それは、ひどく不快だわ」

 

「知ろうと思うことはそんなに悪いことですか。僕は目の前に知らないことがあるなら、どんな手を使ってでもそれが何なのか知りたい。それはそんなにおかしいことですか」

 

 グラフォスは至極当然のように、真面目にネオと会話をする。

 ネオはそれを見てさらに口元をゆがめる。

 

 豹変してから一番負の感情が見え隠れしているようにも見えた。

 

「いいわ。あなたのその度胸に免じて教えてあげる。私は五大欲求『承認欲』の権化、ナギネオよ。私たちは満たされたくて満たされたくて仕方がないの。あなたならこの気持ちわかってくれるのかしら? でも残念。知識欲はいらないの。あの方だけで十分なの。だから早く私のために、私たちのためだけに、死んでね?」

 

 ネオは再び妖艶な笑みを浮かべると、急速に上空へと上がる。

 本格的に逃走するようだ。

 

「逃がすわけにはいきませんよ。まだあの方についても召喚術についても、何も教えてもらってない。全部教えてもらいます」

「もう遅いわ。遅すぎる」

 

 グラフォスは両手に持った片手剣を握ったまま両手を握る。

 

 炎の剣と雷の剣は融合するように形を合わせると、雷を纏った炎の剣が完成する。

 グラフォスは一点をただ見つめて、どんどんと上昇してその姿が小さくなるネオだけを見つめてその剣を構える。

 

「あなたの土俵に立った僕が間違ってました。行け」

 

 グラフォスは上空に向かって掲げた剣の柄を軽く押し上げた。

 それだけで紫電を纏った片手剣は、すさまじいスピードでネオの方へと向かっていく。

 

 ネオも当然逃げるようにスピードを上げる。

 

 一瞬鮮血が空中に弾ける。

 

「あらやだ。落とし物をしちゃったわ。まあいいわ。私のお土産、楽しんでね?」

 

 地面に何かが落ちると同時に遠く離れているはずのネオの声が間近に聞こえ、直後魔法剣が霧散するのが見えるのと同時に、ネオは上空から姿を消す。

 

「……逃げられましたか」

 

 グラフォスはただ残念そうに目の前に落ちたネオの片腕を見つめているのだった。

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