落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~   作:葵 悠静

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第53話 一般級と王級

「とりあえずこれだけでも回収を……」

 

 グラフォスは目の前に落ちてきた彼女の腕を拾おうと手を伸ばす。

 

「危ない!『フライ』トキト!」

 

 グラフォスの目の前に突如迫る大きな枝。

 枝は一瞬で目の前の腕をからめとると、グラフォスからそれを大きく引きはがす。

 その直後グラフォスの視界が激しく揺れると同時に、横っ腹に鈍痛が走る。

 

「トキトさん?」

 

 高く宙に舞う中でトキトがグラフォスに向かって刀の柄を突き出していたことが理解できた。

 しかしトキトのすぐ頭上には二体のジャイアントウルフの牙が迫っている。

 

「『斬帰《ザンキ》』」

 

 ジャイアントウルフの牙がトキトの体に食らいつこうとする瞬間、トキトの視線はすでに二体の姿をとらえていた。

 

 目が鋭く光る。そして刀の柄を素早く持ち直したトキトの動きに呼応するように、赤い刀身が怪しく光る。

 そしてトキトは突っ込んだ勢いを片足で殺し、二体に向かって刀を横なぎにふるう。

 

 周りに響いたのは肉を切り裂くような音ではなく、硬いもの同士がぶつかり合った時のような鈍い音。 

 ジャイアントウルフは即座に自分の体に氷を出現させ、トキトの攻撃を防いでいた。

 

 しかし衝撃までは殺せない。

 

 トキトの攻撃を空中で食らった二体は、横っ飛びに飛びながらトレントキングの方に戻されていた。

 

 そしてグラフォスも地面に足をつける。

 直後頭に再度鈍い痛みが走る。

 

「馬鹿かお前は!! 死にてえのか!」

 

 頭上から聞こえてくるのはトキトの怒号。

 顔をあげるとトキトは肩を揺らしながら顔を真っ赤にしてこちらをにらみつけてきていた。

 

「それについては後でいくらでも謝ります。でも、今は、あっちが問題です」

「んなことわかってるけど……んな!?」

 

 トキトとグラフォスが再度三体の魔物の方に目を向けるとそこには異様な光景が広がっていた。

 

 トレントキングが高くネオの腕を掲げ、それに二体のジャイアントウルフがくらいついていたのだ。

 

 トレントキングの全身に血しぶきがかかる。

 それにもかかわらずどこかトレントキングは恍惚そうな表情で、頭上から降り注いでいる血を浴びていた。

 

 あの腕はネオの、召喚者の一部。

 召喚術は本で読んだ限りでは、召喚者に絶対服従になると記載されていたが、呼び出す対象があまりにも召喚者との戦力に差があると、ああいうふうに制御できなくなってしまうのか?

 

「三体の魔力が急激に上昇しているわ……」

 

 シャルは目の前の光景を気持ち悪そうに見つめながらそう呟く。

 

 確かにトレントキングは血濡れになっているくらいの差は見られなかったが、ジャイアントウルフの体毛はどんどん水色になっているようにも見えた。

 

 もしかしてネオはここまで想定して腕をわざと切り落とさせたとでもいうのだろうか。

 そんなに頭がいいようには見えなかったが、トキトを見ればわかるように戦闘において先天的なセンスを持ち合わせている者は少なからず存在する。

 

「どういう理由であれ、彼女はやはり情人ではありませんね」

「なんにせよ、早く止めた方がいいってことだろ!」

「僕も手伝います」

 

「ごめん私は魔力切れ起こしそう……」

「わ、私は……」

「シャルはゆっくり休んどけ。なーに、今までの総集編だろ? 任せとけ、ぼこぼこにしてやる。なあ坊主?」

「そうですね。アカネ、回復は任せましたよ」

「うん!」

 

 トキトはグラフォスに問いかけたと同時に腕に夢中になっている三体の中心地へと駆け出す。

 グラフォスもその様子を見ながら再び本を構える。

 

 先ほどの自分にかけた体力上昇の魔法はまだ持続している。魔力もまだ残っている。まだ全然戦える。

 

「正直リベンジマッチは望むところですからね」

 

 あの魔物たち、とくにトレントキングに関しては痛い思いばかりをさせられている。

 

 ここで一矢報いることができるのであればそれは本望というもの。

 

「この考え方だと僕は死ぬ前庭みたいになってしまいますね」

「グラフォス君は殺させないよ」

 

 グラフォスの独り言に力強く答えるアカネ。

 そんなアカネへの返答を頷きで返すグラフォス。

 

「遠慮なく俺から行かせてもらうぜ。『一閃《イッセン》』からの『凄烈斬《セイレツザン》』」

 

 トキトは腰を低くすると刀をトレントキングの根元に向かって一閃する。

 その後大きくジャンプすると未だに腕に食らいついているジャイアントウルフに向かって、素早く刀を二度振るう。

 

 それぞれの魔物はトキトの攻撃が切迫する瞬間に身をよじってよけたため、かすり傷程度の傷しか負わせることができなかった。

 

「ちぃ!」

「『リリースクリエイト』『炎上《バーニング》大剣《たいけん》』」

 

 出し惜しみをする必要は一切ない。そしてあの身軽なトキトであればこれを使っても避けてくれる。

 グラフォスはそんな確信をもって冷たい目線を魔物たちに向けて魔法を唱える。

 

 本から浮き出た魔法陣から顕出するは巨大な炎を纏った大剣。

 

 まだトキトが攻撃範囲内にいたがグラフォスは気にすることなく大剣を振るう。

 

 トキトが大きく跳躍した直後に魔物が炎に包まれる。

 それと同時に大剣が地面にぶつかった衝撃で砂埃が舞い、魔物たちの姿が隠れる。

 残るは炎の揺らめきのみ。

 

「これくらいじゃやられてくれませんよね」

 

 グラフォスの魔法が消失すると同時に、晴れていく砂埃。

 

 完全に目の前が見えるようになると、そこにはトレントキングを壁にし、自身は氷で防御を固めているジャイアントウルフたちの姿があった。

 

 トレントキングには多少攻撃は効いているようではあったが、致命傷ではない。

 そして食事の邪魔をされたからか、奇襲を受けたからか三体の魔物は気が立っている様子でこちらをにらみつけてきていた。

 

 駆け出し冒険者と岩等級冒険者の即席パーティ。

 それに対するはギルド指定討伐魔物、ユニークモンスターのトレントキングに、金等級魔物のジャイアントウルフ。

 

 誰が見ても絶望的な戦いが幕を開けた。

 

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