落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~   作:葵 悠静

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第54節 免れぬ死と許されない死

「前から思ってたけど、グラフォスの技名、わけわかんないよな」

 

 跳躍してグラフォスの横に降り立ったトキトのそんな一言が耳に入り、さすがのグラフォスもむっとする。

 

「そんな顔できるんならまだいけるな!」

 

 トキトはニヤッと笑いかけると、再び魔物に向かって突撃する。

 もしかして今のはトキトなりの激励の言葉だったりするのだろうか?

 もしそうだとしたらあまりにもへたくそすぎる。

 

 戦闘中とは思えないほどの軽いやり取りを終えた二人はすでに次の攻撃の準備に入っている。

 

 グラフォスが本を構える中、トキトは果敢に刀を振るい攻撃を繰り出している。

 

 しかし魔物もそれを素直に食らってくれるはずがない。

 逆にトキトの攻撃を軽々とよけると同時にジャイアントウルフの凍てついた空気が口から吐き出される。

 

 シャルがトキトにかけたサポート呪術はまだ有効時間内。

 トキトは一切の油断を見せず、それを冷静にかわすとまた攻撃に転じる。

 

「『リリース』『ライトニングアロー』『ファイアアロー』」

 

 トキトが跳躍する瞬間を狙って、グラフォスもタイミングを合わせるように魔法を放つ。

 

 紫電の矢と紅い炎を纏った矢が顕現し、入り乱れながら魔物へと向かっていく。

 こちらは数が多いからかジャイアントウルフとトレントキングにヒットはしているが、それでも大したダメージを与えることができていない。

 

 しかしすでに三体の魔物に対してトキトとグラフォスが、地面に膝をつけていない、まだ立っていることが異常であった。

 

 本来であれば中規模なレイドパーティを組んでやっと倒せるかどうかの魔物である。

 そんな魔物と相対しながらも、トキトとグラフォスはほぼ互角に若干押されながらもまだ戦える余力を残していた。

 

「くそ、隙がねえ!」

「さすがにこのままだときりがありませんね」

 

 きりがないどころか先にトキトの体力、グラフォスの魔力が底をついて一瞬で食い破られて負ける。

 後ろにいるシャルもアカネもさすがにもうそこまで魔力の量は残っていないはずだ。

 

「シャル、俺にかけてる呪術はあとどれくらいもつ!?」

「あと10分ってところかしら」

「……上等じゃねえか」

 

 トキトはシャルの返答に口では余裕そうに答えるものの、その顔にはそれほどの余裕は見られない。

 トキトも内心焦っているのかもしれない。

 

「何か手はないのか!」

「少しだけ、少しだけ考える時間をくれませんか?」

「グラフォス君なにかあるの!?」

 

 何かあるかと問われれば、何もない。

 打開策も必勝法もまるで考えていない。しかしそれを見出さなければこの戦いに勝つことはない。

 

 勝てなければ死ぬ。

 

 それだけは実にシンプルで明確に出ている答えだ。

 

「俺はそういうの苦手だからな。任せたぞ、グラフォス!」

 

 トキトは再び駆け出す。

 しかしジャイアントウルフもトレントキングもいつまでも防戦一方というわけではない。

 

 トキトが三体のもとにたどり着く前に一体のジャイアントウルフがトキトが走る先に氷を張り巡らす。

 

 トキトはそれをジャンプすることでよけるが、ジャンプした上空のその先にはもう一体のジャイアントウルフが大きく口を開けて待っていた。

 

 突如目の前に現れたジャイアントウルフの牙をトキトはよけることができない。 

 とっさに刀をその構内に向かって突き出すが、ジャイアントウルフは空中とは思えないほどの華麗な身のこなしで、首を傾けその攻撃をよける。

 

 勢いのままにジャイアントウルフの真横に到達するトキトの腕。

 

 ジャイアントウルフはその腕を容赦なく食いちぎった。

 

 高く上空に舞うトキトの刀。その柄の部分にはちぎれたトキトの手がまだ柄を握ったままくっついている。

 

「あが……!?」

 

 回復の暇は与えられない。

 

 ジャイアントウルフが食いついてきた衝撃と、痛みによる体のねじりによってトキトはあおむけになり、地面へと落下していく。

 

 しかしトキトの体は地面に着地する前に再び宙に跳ねると同時に、鮮血が辺り一帯に飛び散る。

 トキトの落下地点から大量の根がトキトの体めがけて突き出してきたのだ。

 

 そして一切の防御ができなかったトキトは串刺し状態になる。

 鎧なんてあってないようなものだった。

 

 そして血まみれの根が引き抜かれ、おびただしい量の血だまりができている血の海の中に落ちるトキト。

 

 地面に転がった彼女の全身は穴だらけで腕がない、そんなトキトが動けるはずもなかった。生きていられるはずがなかった。

 

 それでもまだ彼女の手が持つ刀はまだ戦う意思をなくしていないかのように、宙に舞っている。

 

 そんな惨劇が目の前で行われる中、グラフォスはその光景を、ただ一点を見つめ、無表情で眺めて、思考を続けていた。

 

 少なからず動揺はした。しかしそんな動揺すらも今この瞬間には許されない。

 トキトが稼いでくれている一秒を無駄にするわけにはいかない。

 

 それにグラフォスには確信があった。

 

 あんな状態になってもきっとトキトは大丈夫。

 グラフォスの後ろには最高の回復士が存在している。彼女はいつだってグラフォスが死ぬことを許さなかった。

 

 きっとグラフォスだけではない。誰か大切な人が、仲間が、友達が、自分の目の前で死ぬことは耐えられない。

 そんな優しくて純粋な子が、目の前の状況を見逃すはずがない。

 

 そしてある意味無慈悲で、慈愛に満ち溢れた癒しの風がグラフォスの真横を優しく吹き抜けていく。

 

「『リペアヒール』」 

 

 後ろから小さく、しかしはっきりと力強い詠唱が聞こえてくる。

 

 トキトの体に食らいつこうとしていたジャイアントウルフたちが、彼女の魔力によって弾き飛ばされる。

 

 濃い緑色の球体に包まれたトキトが宙へと浮かび上がる。

 

 見たこともない、でも絶対に大丈夫だと確信が持てる。

 

 そんな魔法を放ったアカネの前では

 

「だめ……そんなの……私が、私が治す。『リカバリ―』」

 

 何人たりとも死ぬことは許されない。

 

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