落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
トキトの体が緑色の球体に包まれて、宙に浮かび上がる。
地面に滴り落ちていた血が球体の中へと吸い込まれて、トキトの体の中に戻っていく。
そして球体がはじけ、再びトキトが地面に足をつけたとき彼女の体のどこにも傷が残っていなかった。
しかしその一瞬の隙を魔物が見逃すはずがない。
トレントキングは枝を伸ばし、ジャイアントウルフは再びトキトの体めがけててとびかかる。
「しゃら……くせえ!!『回転斬』」
トキトは真上に落ちてきた自らの刀を軽くジャンプしてそのままつかむと、ジャンプした勢いで身をよじって刀を振り回す。
ジャイアントウルフはそれをよける形となり、トキトから距離を開け、トレントキングの枝はトキトまで攻撃が届かない。
そんなトキトの奇跡的な復活からの攻撃に転じた瞬間も、グラフォスは考え続けていた。
ここで既存の魔法をぶつけても結果はきっと今までと同じ。
あの魔物たちにそれが通用するとは思えない。
それであるならば、一度目トレントキングと相対したときのように魔法を創造するしかない。
でも創り出す魔法がどれがいいか。それが重要となる。
グラフォスの後ろから回復魔法がトキトの方に飛んでいく。
トキトも復活して善戦しているようだが、それでも傷を負うのは避けられない。
それをもう限界であるはずのアカネが必死に回復魔法を飛ばして、トキトの傷を癒している。
そんな二人が必死な状況の中、それでもグラフォスは二人を信じて考え続ける。
三体の魔物を同時に倒せるような魔法。今の魔力量でそんな魔法が造り出せるのか?
そもそも今までそういった魔法を使ってきてまともに勝ててきた試しがない。
うぬぼれるな。
グラフォスはトキトの方に目を向ける。
トキトは未だに縦横無尽に魔物の周りを駆け回り、攻撃を繰り出している。
攻撃がほとんど当たることはないが、回避力もそれなりに高い。
アカネがカバーできるほどのダメージしか受けていない。
グラフォス一人ではこの戦いに勝てているはずがない。
あの三体の魔物どころか豹変したネオに襲われたときにトキトが助けに来てくれなければ死んでいた。
これまでだってそうだ。
アカネがいなければ最初にトレントキングと相対したときに、ぼこぼこの穴だらけにされて間違いなく死んでいた。
シャルがいなければ、トレントキングから逃げることができず同じように死んでいた。
グラフォス一人ではここまで生きていくことはできなかった。
グラフォス一人で戦って勝てる相手であるはずがない。
自分はあくまでトキトをサポートすればいいのだ。
しかし自分にはエンチャント魔法を他人に付与することができない。
一番なのは敵の動きを止めること。
敵の動きを止めれば攻撃されることもなければ無防備になるから、こちらからは攻撃し放題。
それがわかっているからこそシャルも敵の動きを止める呪術を使用していたのだ。
グラフォスはそれ系統の魔法を思い浮かべる。
敵の動きを見せる魔法は『ストップ』と『止』しか見たことがない。
でもあれでは属性もちのジャイアントウルフには効果が薄い。
もっと相手の動きを阻害するような魔法が必要だ。
イメージしろ。
グラフォスは目をつぶり、ひたすら魔法のイメージを構築する。
これまで自分が収集してきた情報と創造力を集約させる。
以前にも味わったこの脳が焼き切れるように熱くなる間隔は嫌いではない。
知識の集約をしている実感がある。
自分が『ヴィブラリー』でいた時間は決して無駄ではない。
そしてグラフォスは静かに目を開け、魔力で浮いていた本を左手に持つ。
黄金色の羽ペンが本の上を走りだし、そして唱える。
「我創造す。いかなる敵もそれには抗えず、攻撃の余地を与えず。闇はすべてを飲み込み、今、理を記す書より放たれる厳槌《いかづち》から決して逃げることは許されず。仲間を苦しめた罪の重さを知れ。『リリースクリエイト』『重力《グラビティ》本《ほん》』」
羽ペンが白紙のページに文字を書き終えるとほぼ同時に、グラフォスは本を閉じてそれを思い切り振りかぶり、放り投げる。
グラフォスが投げた本は黄金色の光を纏いながら放物線を描き、三体の魔物の中心地に落ちる。
「開け」
グラフォスの一言で地面にぽつりと落ちている本は、まるで意思を持っているかのように黄金色の文字が光っているページが開かれる。
そこから、魔物たちを囲うように四方と上空、地面に巨大な魔法陣が描かれる。
そして次の瞬間、真っ黒な球体が三体の魔物とトキトを覆っていた。