落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
「うお!なんだこれ!」
トキトからすれば突然周りをドーム状に覆われ暗闇の中に放り込まれたのだ。
驚いて当然である。
しかしトキトの攻撃が阻害されるような感じではない。
そしてジャイアントウルフとトレントキングにとっては例外である。
突然現れたドーム状の暗闇に閉じ込められ、そして一気に体の自由を奪われる。
急激にちょうどドームの中心地に落ちている本に吸い寄せられるような感覚に襲われたのだ。
ジャイアントウルフは必死に抵抗して地面に爪を食い込ませるが、それすらもつめをはがしどんどん吸い寄せられていく。
ならばと氷の冷たいブレスをあたりかまわずまき散らし始めるが、その魔力すら逆流し、ジャイアントウルフの体内へと戻っていく。
トレントキングは即座に地面に根を張ったため、引っ張られていない。上半身が傾いているくらいで効果は薄いように思えた。
しかしジャイアントウルフが十分引き寄せられたところで再び異変が起きる。
本から紫電がジャイアントウルフ、そしてトレントキングを縛るように幾本も飛び出してきて、魔物たちを縛り付けるように体に巻きついてきたのだ。
見た目的にはかなり細く耐久度がなさそうな形をしているが、トレントキングは伸ばしていた枝ごと胴体に巻きつかれ一瞬で身動きが取れなくなっている。
そしてジャイアントウルフに限っては引き寄せられる力と、紫電の拘束によってほとんど身動きが取れない状態だ。
これで三体の魔物の攻撃手段は封じられている。
ジャイアントウルフは自分が放ったブレスが逆流したことで、体内が軽く凍りついたのか苦しそうに息をしている。
「トキトさん! いまです!」
「グラフォスの仕業か! やっぱりやるじゃねえか。あとは俺に任せときな!『襲舞絶斬《しゅうぶぜつざん》』」
トキトはグラフォスの声が聞こえてきた方向に向かってにやっと笑うと、ほとんど本にくっついてしまっているジャイアントウルフに向かって刀を構える。
そしてそれは一瞬であった。
一度致命的なダメージを受けているはずのトキト、鎧などぼろぼろでほとんど意味をなしていないそれを着ている彼女は、もうすでにサポート魔法の効果は切れてしまっている状態になっていた。
それでも彼女のスピードは凄まじかった。
勢いよく地面をけったトキトはジャイアントウルフに切迫すると、そのまま中段に構えていた刀を振り切る。
しかしジャイアントウルフの皮膚は意外と固くできているのか、刃が貫通することはなく、そして切り裂くこともなく、浅い傷をつけるのみで終わる。
しかしトキトはそれだけでは終わらない。
動けないでいるジャイアントウルフとトレントキングの周りを縦横無尽に駆け回ると、その体を幹を切りつけていく。
トレントキングに限っては伸ばしている枝を切り落とせるほどのダメージは与えていた。
それはまるで周りが激しい重力に襲われて身動きが取れないなか、一人その重力の中で踊っているようにも見えた。
「これでもまだ押し切るには攻撃力が足りませんか……」
トキトが圧倒的に有利な状況になったものの、倒しきるまではいかない。
このままではグラフォスの魔力が切れて魔物たちに再び自由が戻れば、トキトは劣勢に追い込まれる。
今度はトキトだけではない。そのあと他の三人も確実に殺しに来るに違いない。
グラフォスは再び考える。
ここで自分も攻撃に加わる必要があるが、攻撃魔法を繰り出した瞬間にあの重力のドームは消えてなくなることになる。
それでも紫電の痺れ効果によって少しの間は攻撃の足止めができるかもしれない。
「かけるしかない。そして持ちこたえてくださいよ。僕の魔力」
一日に三回も創造魔法を使用したことがない。というか初めて使用してからそんなに月日もたっていない為、シュミレーションも検証も何もできていない。
それでも今それをやらなければあの魔物に勝つことはできない。
グラフォスは少し遠くに落ちていたリュックを引き寄せると、その中から一冊の本を取り出した。
「『ブレインライト』」
そしていつものように白紙のページを開き、羽ペンを顕出させる。
本は大量にあるし白紙のページもいくらでもある。
幸いグラフォスは魔力量だって普通の人の何十倍も持ち合わせている。
後はグラフォスの体が、頭が、耐えられるか。創造できるか。ただそれだけ。
「我創造す。如何なる硬体も貫き、再生を持って癒しを受けることは許されず。想いを乗せた風はいかなるものにも邪魔されず、ただ一点に目の前の敵の意志を打ち砕け。『リリースクリエイト』『翡翼《ジェイドウイング》大弓《たいきゅう》』くっ……」
グラフォスは魔法の詠唱を終えて、本に魔法陣が浮かび上がると同時に地面に膝をつく。
鼻や口からは血が漏れ出している。
体の中が空っぽになりかけている虚無感に襲われ、自分の体なのにそれは鉛のようにまるでいうことを聞いてくれる様子がない。
「これが……魔力切れ……」
「グラフォス君もトキトも頑張ってるのに私がへたってる場合じゃないわ!『バーニングエンチャント』! トキト、グラフォス君やっちゃって!」
朦朧とする意識の中、後ろからシャルの力強い言葉と詠唱が聞こえ、グラフォスは意識をはっきりとさせる。
そして本から浮かびあがった魔法陣から巨大な弓が顕出されると同時に、シャルがかけた魔法によってトキトの刀身が大きく燃えあがった。