落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~   作:葵 悠静

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第58節 起床と帰ってきた日常

 嗅ぎなれた紙の匂い。

 

 グラフォスの意識が戻ってから最初に感じた物がそれだった。

 ゆっくりと目を開けると見知った風景と、最近知った女の子の姿が目に入る。

 

「アカネ……」

 

 寝ている感触は毎日感じている当たり前の布団の感触。 

 グラフォスはそれらの感覚を経て、今自分が自室で寝かされていることに気が付いた。

 

「ん……グラフォス君……」

 

 アカネは寝ているグラフォスの体に頭を預けるようにして、眠りこけている。

 眠っているその表情は安らかで、でもどこか不安そうで眉間にしわが寄っていた。

 

 一体どれくらい眠っていたのだろう。

 アカネも魔力かつかつで疲れているはずなのに、ずっと隣にいたのだろうか。

 

 グラフォスは体を起こしながらそんなことをぼんやりと考える。

 

「フォス!!」

 

 どこか穏やかな気持ちでアカネの寝顔を眺めていると、突然グラフォスの耳に聞きなれた声が飛び込んでくる。

 突然の大声にグラフォスの肩が跳ね、声の主の方を見る。

 

「ミン姉……」

「なに、びっくりしてるんだい。もしかしてアカネちゃんに何かしようとしたんじゃないだろうね!」

「してませんよ!」

「うん……? ミンネさん……?」

 

 目ざとくびっくりしたグラフォスの行動に目ざとくミンネが突っ込むとグラフォスもそれに応戦する。

 

 そんな二人のやり取りの中アカネがゆっくりと目を覚ました。

 

「おはようございます。アカネ」

「……グラフォス君! 大丈夫!?」

 

 アカネはグラフォスと目があい、状況を理解するとその目を大きく見開き、グラフォスの体をペタペタと触り、安否確認をしてくる。

 

 あれ、こんな展開前にもあったような……?

 

「ぼ、僕は大丈夫ですから、アカネの方こそずっとついててくれたんですか?」

「そうだよ! アカネちゃんに感謝しなよ。この子も疲れてるはずなのに丸一日眠っているあんたについててくれたんだから」

「私は! あの時何もできなかったから、これくらいは当然だよ!」

「それはないでしょう」

 

 グラフォスはアカネの謙遜に苦笑いで返す。

 

 あの戦いでアカネがいなければ少なくともトキトは死んでいたし、グラフォスも無事ではなかった。

 アカネがいなければあの戦いに勝つことは間違いなくなかった。

 

「積もる話もあるだろうし、フォスも気になることが山ほどあるんだろうけど……」

 

 そんな二人のやり取りを見ながらミンネはあきれたように笑いながら、話しかけてくる。

 

 確かにあの時聞けなかった、知りたいことは山ほどある。アカネのことを知っていた様子であるネオとのことや、ネオが言っていたあの方とか……。

 そもそもあんな満身創痍の状態でどうやって街まで戻ってこれたのか。

 

「その前に腹、減ってるだろう? 二人とも飯にするよ」

 

 ミンネの言葉にグラフォスとアカネは二人そろってお腹を鳴らすのだった。

 

 

 

「それで、私がフォスとアカネちゃんに出かける前に何言ったか、忘れたわけじゃないだろうね?」

 

 二人ともミンネのご飯にがっつき、腹が満たされくつろいでいたところ、不意にミンネからそんな一言を投げかけられる。

 

 グラフォスとアカネの顔が曇る。

 

 もちろん忘れてなんかいない。 

 ミンネは出かける前にグラフォスたちに「死ぬんじゃない」と言われた。

 ふたを開けてみれば確かに生きて帰ってこれている状態ではあった。

 

 でも今は元気になってるとはいえ、きっと帰った直後はアカネはボロボロでグラフォスに至っては血だらけで気絶している状態だった。

 

「全く二人とも……」

 

 グラフォスとアカネはそろって身を縮こませながら、うつむいたままミンネの続く言葉を待っていた。

 

 きっとグラフォスたちが思っている以上にミンネに心配をかけたに違いない。一晩帰ってこなかったわけだし、帰ってきたと思ったら二人ともボロボロ。

 

 怒られて当然だ。

 

 グラフォスはそう思い、ミンネの怒りを受け止めるつもりでいた。

 

「よく帰ってきたね。よくやった」

 

 しかしそんな二人の考えに相反してミンネの口から続く言葉は、とても優しく体全体を包み込んでくれるようなそんなものだった。

 

 そしてグラフォスとアカネの頭に優しく大きな、でも細いミンネの手が乗せられる。

 

 撫でられているわけでも殴られたわけでもない。

 ただ頭に手を乗せられただけなのに、その手はとても暖かくて、ミンネの感情が伝わってくるようなそんな感覚を覚えた。

 

「ミン姉、心配じゃなかったんですか?」

 

 グラフォスはあまりの予想外のミンネの行動に思わず顔をあげて、そんな問いを投げかける。

 その瞬間ミンネの表情が豹変する。

 

「フォス、あんたはバカなのかい!? 心配しないわけがないじゃないか! 一晩帰ってこなかったんだよ? あんたたちは! 朝送り出したことを死ぬほど後悔したし、私も森に出向こうとした。まあドリアちゃんに止められちゃったけどね。それで帰ってきたと思ったら、アカネちゃんは気絶寸前フラフラの状態で、フォスは気絶してるじゃないか。心配しすぎて私が先に死んじまうかと思ったくらいだよ!!」

「そ、そうですよね」

「グラフォス君のばか」

「す、すいません」

 

 立ち上がって物凄い剣幕で顔を近づけてきたミンネと、あきれたようにこちらを見つめるアカネの両方から責められるグラフォスである。

 

 確かに昨日のミンネの言動を受けて心配をしなかったのかなんて質問は愚問すぎた。

 それはグラフォスでもわかった。まあ分かったところで発言してしまっているので、もう後の祭りではあるが。

 

「まあそれでも」

 

 ミンネはグラフォスとアカネから手を離し、自分の椅子に深くもたれかかりながら言葉を続ける。

 

「あんたたちは家に帰ってきたじゃないか、ちゃんと。私との約束したことは守ったわけだ。話は聞いているけど、実際はもっと凄惨で絶望的な経験をしてきたんだろう? それこそ死んでしまうんじゃないかってくらいの。それでもあんたたちはちゃんと帰ってきた。私からすればそれだけで十分よくやったって、そう思えるのさ」

 

 ミンネははにかむように二人に笑いかけ、そして照れくさそうに立ち上がると、二人の後ろに回り込み雑に頭を撫でた。

 

「さて、私は片付けするからね。お二人さんはお好きにどうぞ」

「ミン姉」

「なんだい?」

 

「ただいま」

「ただいまです!」

 

 

「あいよ、おかえり」

 

 

 今ようやく本当にあの戦いが終わった。

 

 グラフォスはいつものように軽く返してくるミンネの姿を見て、本当の達成感に包まれていた。

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