落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
私、鈴木緋音は日本の都会の郊外にある高校に通う普通の高校2年生でした。
何か特質した才能があるわけでもなく、明確な将来の夢があるわけでもない、本当に何の変哲もない学生だったんです。
学校自体も部活が特に強いわけでもなく、全員が異常なほどに仲がいいわけでもなかったです。
ただ私のクラスにいじめがあったのは事実で、私自身に降りかかってこないことであれば気にしないと、そう思いスルーしていました。
今思えばひどい話だと思いますけど、もしやり直せるって言われても私も同じ対処をしていたと思います。
いじめられる側になるのはいやだったから。
そんなある意味普通の学校で普通に過ごしていた私ですが、そんな日常は突然終わりを迎えました。
「うお!なんだこれ!」
「扉があかない!」
「これはまさか……」
ある日の授業中、あれは数学の時間だったかな? 私たちの教室の床を覆い尽くすような魔法陣が突然現れたんです。
この世界でも魔法陣って優秀な魔術師しか使えないみたいですけど、私がいた世界では魔法陣なんて、オカルト、だれもそんなものが存在しているなんて思わない世界だったんです。
だからみんな訳が分からず混乱して、寝ていた人もその周りの喧騒に叩き起こされて、それからパニックになって、やけに冷静な人もいましたけど大半はそんな反応でした。
もちろん私も大多数の中の一人です。友達と顔を見合ってこれからどうなってしまうのか、誰かのいたずらなのか、そんなことを考えてたような気がします。
とにかく永遠のようで一瞬で時間は過ぎ、気づいたときには大きな部屋の絨毯の上で全員が座り込んでいました。
「よく来てくれたな!君たちこそが邪悪な光を払う闇の勇者だ!」
全員何が起こっているのかわからない中で、そんな声を投げかけられました。
私たちがいた世界では異世界に召喚されるとか、転生されるとかそういうお話は多く創られていて、そして多くの人に親しまれていました。
もちろん私もそういうお話は読んだことはあったし、うすうすと自分が置かれている状況を理解し始めました。
ああ、これはクラス転移ってやつなんだろうなって。
でも全くうれしくはなかったです。普通に学生をしてそこそこの贅沢をして、友達と普通に遊んで一日を終わる。
そんな毎日私は満足していたんです。それをいきなり別に世界に無理やり召喚してきて、勇者だなんて言ってきて、きっとこれからどこかの国の王様の命令で、世界中を旅して、殺し合いをして、戦争に参加して、そんなことをしなければいけないんだろうなって、そう思ってました。
でも現実は甘くありませんでした。
想像していたよりももっとひどかったんです。
少し気持ち的に落ち着いてきて、周りを見る余裕ができたんです。
まず声をかけてきた者。
どこぞの貴族か騎士か、はたまた王様自身かと思ったのですが、その人はパッと見金髪のやんちゃなお兄さんというような印象で、服装も特にそういった特徴をした格好はしていませんでした。
でも明らかにそれは人間ではありませんでした。なぜなら目の前で手を広げてこちらに笑みを向けてくるそれは、顔に目が5つあったんです。
そして広げている手のひらにもそれぞれ一つずつ、眼球がついていてぐるぐるとこちらをなめまわすように、見つめてきていました。
そんな化け物の目とあったような気がして、思わず私はその目から逃げるように視線をそらしました。
しかし次に目に入った光景の方がもっとひどいものでした。
ひどく焼けただれた犬のような顔をした何か、全身がぼこぼこと膨れ上がっていて、どこからが顔なのか服を着ているのかわからないような、そんな何か。
目立っていたのはそんな化け物たちでしたが、それ以外にも人間らしい恰好をしている者は一人もいませんでした。
もしかしてここは異形種しか存在しない世界なのかもしれない。
周りのみんなも普通の人がいないことに気付いたのか、だれも立とうともしゃべりかけようともしません。
いつも教室で元気にはしゃいでいる男子たちもこの時ばかりは見たことが無いくらいに静かでした。
そんな中、私たちの中で立ち上がった人がいたんです。そしてその人はどんどん目がたくさんついている人のような化け物へと近づいていきます。
それは数学の授業をしていた、普段はおとなしそうな先生でした。
「何のつもりですかこれは。私たちを解放してください」
先生は足を震わせながら手で拳を作りながら、必死に恐怖に耐えている様子で、ただしとても力強く目の前の化け物に向かってそう言い放ちました。
化け物は何がおかしかったのかにやにやと笑うと、突然先生の顔を両手でつかみました。
一瞬でした。
先生の頭がなくなったんです。
化け物の手を合わせる音だけがその時は、広間に響いていました。
「勇者じゃないものは必要ないんでな。そのまま紛れ込んでいればいいものを……」
化け物は手についた先生の血を汚い物でも払うように降ると、先生だったモノが地面に落ちていました。
誰も悲鳴も倒れることもありませんでした。あまりに理解できない光景に唖然としていたのと、恐怖のあまり誰も声を出せなかったのかもしれません。
声をあげたら殺される。そう直感的に判断したのかもしれません。
私は何も考えることができなくなっていました。ただ目の前に転がった先生の体を見つめていました。
「戦いなさい。そして強くなりなさい」
誰もが絶望的で、何も考えられなくなり、ただ呼吸をして血の臭いだけがその場を支配していた時、その声は不意に耳に入り込んできました。
周りに立っていた化け物、そして座り込んでいた私たちもそちらに顔を向けます。
あれは自然にというよりはほぼ強制的に向かされていたのかもしれません。
それはそれほどの存在感を放っていました。
大広間の一番奥に静かにたたずむ黒いシルエット。
その姿が見えない距離ではないはずなのに、その人のような何かの姿は影のようにぼんやりとしていて、はっきりと顔を見ることができませんでした。
そんな曖昧な情報しかないのに、それはあまりにも圧倒的な存在感を放っていました。
まるでずっとそこにいたような、それでも突然そこに現れたようなそんな矛盾した存在でした。
その影は顔が見えないはずなのに、確かに笑ったように見えそしてこちらに手を向けてきました。
怖かったです。
そのままなにもされていないのに押しつぶされてしまうような、経ってしまえば一瞬で全身の骨が砕けてしまいそうな、そんな圧迫感に襲われていました。
そして激痛が全身を駆け巡ったんです。
どんな痛みだったかも覚えていないほどの、それでも絶対にこれまで味わったことのないような痛みでした。
もちろんついさっきまで普通の高校生だった私がそんな痛みに耐えられるはずもありません。
気づけば、地面に倒れていて意識も遠のいていきました。
薄れゆく意識の中で周りにいた同級生たちの大多数が同じように倒れていくのが見えました。
「強く、強くなりなさい。そして私を満足させてください」
また優しい音色でも、恐ろしく感じる声が耳に飛び込んできます。
私たちは何の反応をすることもできず、そのまま気を失いました。
今思えばこの時に私たちは力を与えられたのかもしれません。
元の世界には魔法はおろか人を殺すための剣術なんて習っている人などいなかったのですから。
そしてそんな力を与えられていた私たちに待っていたのは、地獄でした。