落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~   作:葵 悠静

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第62節 鈴木緋音の場合(3)

 ちぎれた足、腕から噴き出る血は止まる様子がありませんでした。

 血が失われていき、体温が下がっていく中で変に私は冷静になっていました。

 

 ここで終わりか、大したことない人生だったなって。そう考えていました。

 気づいたんです。これまでの人生大したことなかったなって。

 

 特に何かに熱中するわけでもなく、いじめを止めるようなヒーローになるわけでもなく、そして何も成し遂げていない。

 

 そんな人生に価値があったんだろうか? 何か一つでも何か成し遂げたかった。

 将来の夢がなくても、何となくでも生きていれば何か成し遂げられたかもしれないのに。

 

 ああ、まだ死にたくないな。どんな世界だろうと自分が存在していることに変わりはないんだから、生きていたいな。

 

 そう考えたときでした。

 

 直感的に回復魔法の使い方が頭で理解できたんです。

 自分の中にある魔力の使い方も感覚的に理解できました。

 自分の中にある魔力をひねり出して、腕と足に意識を集中させました。

 

 温かい感覚に包まれると同時に、先ほどとはまた違った激痛に襲われました。

 私は知らなかったんです。人体を無理やり回復させると痛みが伴うなんてこと。

 

 でも確かに腕と足は生えてきました。10秒も立たないうちに、私は立てるようになっていました。

 

 私が使える力はこれなんだって。みんなを回復させることなんだって、その時初めて理解しました。

 

 剣を振り回すような筋力も、光を放つようなそんな攻撃もできないけれど、だれかの怪我を治すことはできる。

 

 それなら私にできることは一つだけ。

 

 ただひたすらに誰も死なないように、みんなを治すことが私の役目だと、そう思いました。

 

 それからは武器を持つことはしませんでした。

 ただただけがをした人を治す、それだけを意識して魔法を使っていました。

 

 幸いゴブリンに襲われていた人たちも致命傷には至っておらず、たとえ致命傷に至っていたとしても、死んでいなければ回復できる。

 その一心でただただ回復し続けました。

 

「よくやった。初日にしては上出来だ」

 

 眼球の化け物が手をたたきながら再び姿を現したとき、周りで暴れている魔物はもういなくなっていました。

 

 全員頭がひしゃげるか、バッサリと胴体を切られているか、何らかの理由で地面に倒れ、死んでいました。

 それでもみんな眼球の化け物が姿を見せるまで、ただ手に持った武器を振り回していたんです。

 

 もう敵がいないことに気づかないほど、自分が生きるためにただただ必死だったんです。

 

 みんなそれに気づいたとき、ようやく血にまみれた汗で持っているのか持っていないのかもわからないほど滑る武器を地面に捨て、そしてその体も地面にへたり込みました。

 

「終わった……」

 

 誰かのその一言で周りから安堵の声が聞こえてきました。

 思い思いに思ったままのことを口に出している。そんな印象でした。 

 でも私まで休んでいるわけにはいきません。

 

 私の役割は誰かの怪我を治すこと。

 

「ケガしている人、いませんか?」

 

 私はひたすらにそう声をかけて、森を抜けてすぐ目の前にあった大きなお城に戻るまでひたすら誰かが負ったけがを治していました。

 

 私も役に立とうと必死だったんです。守られているだけじゃ、攻撃のできない私だと役に立たないから。

 

 

 お城の中では普通のご飯が出てきて、普通に食べさせてもらいました。

 味はよく覚えてないし、みんなの疲れのあまりあまりしゃべれないのか終始無言でした。

 でも私には一つ気になっていることがありました。

 

「あの……森に行く前にいた広間に行くことって……できますか?」

 

 意を決して給仕をしていたカエル顔のメイドのような恰好をした化け物に声を掛けました。

 

「どうされました?」

「先生を……先生を治さないと」

「先生……ああ、でもあれは……いいでしょう。ついてきてください」

 

「緋音ちゃんどこか行くの? 僕もついていこうか?」

「大丈夫。私一人で行けるよ」

 

 そんなやり取りをして私は化け物に案内され、私たちが召喚された大広間へと足を運びました。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

 そんな場違いな言葉をかけて部屋を出て行った化け物を横目に私は必死に先生が倒れた場所に向かいました。

 

 でも先生はいなかったんです。跡形もなくその姿はなくなっていました。

 

「なんで……?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()かもしれない。でも体がないならどうしようもない。

 

 もしかして先生は死んでなくてどこかにいる? 昼に見たあれば幻?

 

 そんなことも考えましたが、間違いなく床に敷かれている絨毯には大量の血を吸い込んだ跡があります。 

 それが幻なんかではないと物語っていました。

 

「血が、血があればなんとかなる……? いや、なんとかしなきゃ『パーフェクトヒール』『オートヒール』なんとか……『ヒール』私が治さなきゃ『ヒール』『ヒール』私が何とかしなきゃ『ヒール』」

 

 きっとその時の私の思考はおかしかったんだと思います。

 

 私は完全に乾ききっている絨毯に染み込んだ血に向かってひたすら回復魔法を詠唱していました。

 

 でも血から人が戻ってくることはありません。

 私の魔力はむなしく絨毯に染み込んでいくだけです。

 

 結局私は魔力切れで倒れるまで絨毯に向かってただひたすらに魔法を詠唱していました。

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