落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~ 作:葵 悠静
「あんただけ全然動いてないんじゃない? 私がもっと動かしてあげるわよ」
次の日から森での戦闘が終わったあと、必ず音緒ちゃんに絡まれるようになりました。
戦闘後だというのに彼女は全然疲れている様子もなく、私に氷魔法をぶつけてきます。
私に避ける術もあるはずもなく、まともに食らいそれを自分で治します。
学校で行われていたいじめなんかよりもひどくて、それも当然で相手は攻撃性のある魔法も持っていて、武器も持っているんです。
それなのに私が死にそうになればなるほど、彼女は、音緒は楽しそうな表情を見せてくるんです。
「今日はこれくらいにしてあげるわ。明日も楽しみにしときなさい」
私が一方的に攻撃を受けているあいだ、周りの同級生が私のことを助けてくれるわけがありません。
それを責めることもできない。私が今までやってきたことだから。
「大丈夫?」
「立てる?」
でも彼女がいなくなったあとは、男子が話しかけてくれます。
でもそんな男子の私を見つめてくる目が私にはどうしようもなく気持ち悪く思えて仕方なかったんです。
「ほら、もっと立ち向かってきなさいよ? 今日も私の勝ちね!」
次の日も私が勝てるはずがないのに、そんなことをいいながら氷の刃で私の肉体をえぐってくる。
それは森の戦闘だけではなく、城の中でも続きました。
でも私はすぐに回復するから誰も気づかない。
「なんでそんなに弱いのにまだ立っているわけ? さっさと倒れなさいよ!」
次の日も私には回復魔法しかないから、立ち続けるしかないから、ひたすら自分のためだけに回復を続ける。
このころには誰もめったにケガなんてしなくなっていました。
森での戦闘でもけがをしているのは私だけ。でもそんな私を助けてくれる人は誰もいない。
だから私自身で何とか生き延びるしか方法はない。
「ちょっと今日はいい話があるのよ。あんたたちを守ろうとしてた男たち。私が気づかないとでも思った? ちょーっとたのしいことしてあげたらもう近づかないってさ」
私はそれを聞いていてもたってもいられなくなりました。
急いで城に戻って男の子たちの怪我を治さないと。
そう思って私は城に向かって走ろうとしましたが、彼女に手を掴まれてそれを阻まれます。
「なに、どこ行こうとしてるのよ。今日の訓練がおわってないでしょ?」
そして始まる一方的な攻撃。
私のことはいい。私はすぐにでも直せるからいい。
でも彼らがどうなっているか。私のせいで彼らまで死なせてしまっては、私がここにいる価値がなくなる。
誰かを治すことができるのが私の役目だから。
「はあ、何よその目は。心ここにあらずって感じの目は! 私ともっと向き合いなさいよ。私をもっと見なさいよ」
その日の攻撃は今までで一番苛烈なものでした。
でもそんなのどうだっていい。
やっと訓練と称したいじめが終わって、城の中に戻って男の子たちを探しました。
彼らは普通に特にけがした様子もなく食堂でご飯を食べていました。
「大丈夫ですか!」
「緋音ちゃん……」
「悪いけど近づかないでくれるかな」
「僕たちも死にたくないし」
「怪我なら私が……」
「大丈夫、自己回復で治るから、大丈夫だよ」
冷たい目を向けてそう言い放ってきた男の子たちは私の前から逃げるように、食堂から逃げていきました。
でも私はそんなことよりも彼らに怪我がなくてよかったとそう思いました。
「いたっ! ちょっと緋音、回復魔法私に使って!」
次の日の森での魔物との戦闘中、珍しく音緒ちゃんが魔物からの攻撃を食らって腕にけがを負っていました。
私は少しうれしかったのかもしれません。
音緒ちゃんがケガをしているのに、誰かの回復をできる。けがを治せるという事実に喜んでしまっていたのかもしれません。
「なにやってんの、ぐず! 早くしなさい!」
「ご、ごめん……『ヒール』」
それはいつも通りの魔法。
私が私自身を直すときに使っていたいつも使っていた回復魔法。
たしかに魔力が減る感触はありました。でも彼女の音緒ちゃんの腕の切り傷は、治る様子がありませんでした。
「な、なんで!?『ヒール』『パーフェクトヒール』『ヒール』」
いくら魔法を使っても一緒。これくらいの怪我ならば、一瞬で治せるはずなのに、一向に彼女の傷口がふさがる様子はありません。
「はあ、もういいわよ。『自己回復』これくらいの怪我も治せないなんてほんと役立たずね」
呆れたような音緒ちゃんの声が聞こえてきて、私は彼女のそばから吹っ飛ばされました。
それは魔物からの攻撃ではなくて、彼女の周りにいた同級生の私に向かっての攻撃。
私は派手に地面に体をこすりつけましたが、そんなことは大して気になりませんでした。
むしろいい実験機会が与えられたとすら思ってました。
「『ヒール』……なんで」
私は突然回復魔法が使えなくなったのかもしれないと思いました。
でもそれは違いました。
自分に対して使った魔法はいとも簡単に私の怪我を直したのです。
それは今まで食らってきたどんな攻撃よりも、罵倒よりもきついものでした。
私は誰かを回復することでしか自分の価値を証明することができない。
それなのに、いつの間にか私は私のためだけにしか回復魔法で体を直すことができなくなっていたんです。