落ちこぼれ職業の英雄創作《ヒーロークリエイト》~知りたがりと怖がりとお人よしにチートを添えて~   作:葵 悠静

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第6節 冒険者からの警告

「悪いことは言わないからもうそういう真似はやめろ」

「ちょっとあんた、飲みすぎじゃない?」

「いや、酔ってなんかいねえ。こいつにはいつか一言言ってやろうと思ってたんだ」

 

 男はずっと手に持っていたジョッキをテーブルの上に置くと、止めようとしている魔法使いの手を払いのけグラフォスの前に立ちはだかる。

 いかつい顔つきに不機嫌さが増した凶悪極まりない顔面。目の前に立った男はそれ相応の迫力があったのだが。

 

「そういう真似とはどういうことでしょうか」

 

 グラフォスはその無表情を崩すことなく首をかしげて、世間話を始めるかのように男に話しかけた。

 冒険者は一瞬驚いたような表情をのぞかせたが、それもほんの一瞬。怒気に近い雰囲気をはらみながら彼に向かって言葉を続ける。

 

「そういう冒険者のまねごとをしようとしているところだよ。ちょっと前にうまくいったからって、調子に乗って何回も運にあやかろうとするんじゃねえ」

「五年前はちょっと前ではありませんよ」

 

 グラフォスは目の前の男の一言にわずかに無表情を崩し苦い顔をのぞかせる。

 それと同時に思い浮かんだのは約五年前の出来事のことだ。

 

 グラフォスのギルドでの一連のルーティンは生半可なものではない。それは五年間街の外に出るときは必ず行っていることだ。

 初めて街の外に出ようと決意した日。グラフォスは初めてギルドへと足を運んだ。

 そしてドリアに護衛依頼の出し方を教えてもらい、それと同時にパーティ募集依頼の出し方も自分で覚えた。

 

 最初のうちは書き師が街の外に出るという物珍しさからパーティを組んでくれる冒険者はまあまあいた。

 しかしそれも最初のうちだけ。書き師という職業であるグラフォスが戦闘で役に立つことなど皆無だ。戦闘中にその戦闘風景、相対している魔物の情報、見方が使用している技、魔法の数々をただただ自分が持つきれいな本に書き記していくだけ。

 それもすべて既出の情報だ。その情報がパーティメンバーの役に立つわけではない。

 

 そんな役に立たず、依頼先で危険な目にあうとわかっているグラフォスをパーティに入れようというもの好きはだんだんといなくなった。

 そして初めてギルドに足を踏み入れてから、一年後にはグラフォスとパーティを組もうという人は一人もいなくなってしまったのだ。

 

 もちろん最初の一年のようにうまく毎回毎回パーティ加入を引き受けてくれる人がいるとは思わない。ただ四年間ずっと一人で街の外に出ることになるとはその時のグラフォスには想像することができなかった。

 

「別に俺らは遊んでいるわけじゃねえ。それをお前はわかってねえ」

 

 昔の記憶を思い返し、苦い顔をしているグラフォスに容赦なくまくしたてる冒険者。グラフォスは意識を目の前へと戻した。

 

「それはわかっているつもりです」

「いーや、わかってない。冒険者は本気で冒険を仕事にしているんだ。そんな俺らの稼業に書き師のお前がのこのこと土足で踏み込んできて、いい気分じゃないやつもいるってのはわかるか?」

「…………」

 

 冒険者は確かに酒を飲んでいる時間と、ギルドにいる時間が長い体たらくな一面を見ることが多い職業だが、それでも遊んで暮らせる生半可な職業だとはグラフォスも考えていない。

 

「そんな書き師のお前がこれまでプライドを汚された冒険者に喧嘩売られなかった理由がわかるか? お前がガキだったからだよ」

「ガキ……子供」

「そうだ。でもお前ももういい年だろう? これからはそんな都合のいい言い訳は聞かなくなる。いつかぼこぼこにされるのは目に見えている。だからそうなる前にこういう舐めた真似はやめろって忠告してやってるんだ」

「僕がぼこぼこになろうが、街の外で魔物に襲われて死のうがあなたには関係ないように思えますが」

「あんたねえ」

「いやいい。こいつは変に頭が回る。自分が言っていることがいかにガキじみているかわかってるはずだ」

 

 女魔法使いのあきれたようにグラフォスを咎める声を男が止める。

 確かに言葉にした直後、自分のあまりの幼稚さに口を堅く閉じたグラフォスだ。自分が今いかに子供じみているかは身にしみて感じている。

 

「変に意地になっているんだろうけどよ。その意地は自分を殺す。冒険者は無茶をしない、無謀をしない、意地にならない。だ。別に死にたがりの集まりじゃねえからな。確かに俺はお前がどうなろうが知ったこっちゃないが、気にしてる人もいるんじゃねえのか?」

 

 男冒険者は三本の指をたてながら説明した後、その手で受付のほうを指さす。

 そこに目を向けると相も変わらず心配そうにこちらを見つめるドリアさんの姿があった。ほかの受付嬢も不安げな表情でこちらを見つめている。

 

「だからあんまり俺らの領域に手を出すんじゃねえ。そんだけだ」

 

 男は自分の頭をがしがしと掻くと、ジョッキを置いたテーブルに戻っていった。

 

「お気遣いありがとうございます。」

 

 グラフォスは小さく口の中で礼を言いながら男から視線を外す。そしてゆっくりとギルドの出口に向かって歩き始める。

 

「でも……」

「グラフォス君、今日もやっぱり一人で行くの?」

 

 駆け足音と共にかけられる声、振り返るとそこにはドリアさんが立っていた。

 

「そうですね。パーティにいれてくれるような人はいなかったので、仕方がないです」

 

 忠告を受けても街の外に行こうとするのはやめないグラフォス。酒飲みの冒険者が言うようにそれは確かに、ただの彼の意地かもしれない。

 

「それでも」

「グラフォス君?」

「冒険って別に冒険者の特権ではないと思うんですよね」

 

 グラフォスは少し冷たい口調でそう言い放つと、眉を寄せて渋い表情をのぞかせているギルド嬢に向かって一礼して、ギルドの外へと出て行った。

 

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