ペルソナ5 if -もう一人のワイルド-   作:ロイヤルお兄さん

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「……あら?」

「おや?」

「……ほほう」

「ベルベットルームの気配が……消えた?」

「いいえ、気配はあるわ。ただ……」

「はい。何かに覆われているようですね。テオ、ちょっと見てきなさい」

「姉上。……分かりました。…………おや?」

「どうしたのかしら?」

「あ、はい。どうにも、ベルベットルームに入れないようなのですが……」

「はて?」

「……本当ね。主と連絡が取れないわ」

「……『あの子』ともです、姉上」

「これは些か奇怪。何かあったのでございましょうか?」

「……待って。外に主の力の気配があったわ」

「おお、そのようです」

「感じますに、一方は変則的なお客人だと思われます」

「それに……主と微かにだけど繋がっている」

「そうなのですか?」

「……一度見に行きましょうか」

「ええ、そうしましょう」





「……どうでもいいけどさ、アタシの部屋で寛がないでよあんたたち」

「あら、マリー。いたの?」

「いたよずっと!!」




遭遇/Encount

 秀尽学園高校。

 蒼山一丁目にあるそれなりレベルの進学校だ。

 様々な有名大学への進学者を毎年それなりに排出し、最近ではバレーで全国に名が轟き始めた事により知名度も上がっている。名門とは呼べないが、まさしく『それなり』の進学校だ。

 そんな高校のある場所に、見覚えのない()が建っていた。

 

「なん、だ……これ」

「……」

 

 呆然とする竜司。

 転校生もまたどこか呆気に取られた様子で城を見上げていた。

 そんな二人を尻目に、眼差しを鋭くし警戒する恭護。

 気配で分かるからだ。

 肥大化した欲望で認知が歪んだ場所。

 誰かのせいで、誰かが苦しんでいる演目が繰り広げられる――主の為の人形劇の会場。

 

「……なあ、こうしていても仕方ねぇから、早く行こうぜ」

 

 竜司がそうせかす。

 しかし、

 

「待て」

 

 恭護はそれに待ったをかけた。

 

「常識で考えろ。ここは本当に秀尽なのか?」

「え、そうじゃねぇの? 高校の名前だってあるし」

「阿呆。ならなんでその中に、中世の城みたいな建造物があるんだ」

「……改築したとか?」

「昨日は普通だっただろうが。一日で改築出来るか馬鹿野郎」

 

 恭護の物言いに、転校生――雨宮蓮も頷いた。

 

「確かにおかしい。……調べてみよう」

 

 まずは一階。

 3年生のクラスがある階だ。

 しかし、そこは――全く別の空間が存在していた。

 

「……エントランスか」

「おいおいおい。教室はどこ行っちまったんだよ。それに……なんか空気がピリピリしているような……」

「……」

 

 正面を見据える恭護。

 肖像画がある。

 剣を掲げた鎧姿の教師の絵だ。

 

「……鴨志田」

「あ?」

「ん?」

 

 恭護の視線の先に気付いた二人は、その先へと目を向けた。

 竜司はその肖像画を見て、嫌悪を露わにした。雨宮の方は、困惑するばかりだ。

 

「なんであのクソヤロウの絵がここにあんだよ!」

「……何かがおかしい」

「ああ、おかしいな。……兎に角、まずはここを離れよう」

 

 恭護に促され、三人は左横にある扉を抜ける。

 三人がホールから離れた瞬間に、二体の鎧を着た何かが現れた。その二体は何かに気付いたかのように慌ててどこかへ去っていった。

 

『賊の気配、だと?』

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 三人は、どこか歪んだ印象の扉がある部屋へと逃げ込んだ。

 

「くっそ! なんなんだよココ!? 鴨志田鴨志田鴨志田……まるでアイツがここの王様みてーじゃねぇか!!」

「……」

 

 イライラが収まらない竜司。

 口数は少ないが雨宮もこの現実を受け入れようと必死なようだ。

 だが、恭護は――不思議な『懐かしさ』を感じていた。

 

「……(ここに来た事はない。それは確かだ。でも、()()()()()()()()()()()()())」

 

 脳裏にちらつくのは、朧気な船の記憶。しかしそれだけだ。

 恐らく失った記憶に、何か関係するものがあったのだろう。この既視感はそのせいに違いない。

 困惑する恭護を余所に、横では会話が続いている。

 

「……あの鎧を見たか?」

「ああ、でもあれもコスプレだろ?」

「コスプレか。だけど、この状況にマッチし過ぎてるとは思わないか?」

 

 雨宮にそう言われ、竜司は押し黙る。

 元々彼は体育会系だ。こう見えて普遍的な常識に囚われまくるのが竜司だったりする。

 だからこそ、教師のあり方から外れている鴨志田を許せないのだ。

 髪を金に染め、折り曲げたズボンにチェーンをつけるようなコッテコテの不良スタイルも、言うならば不良生徒のテンプレだ。そうする事で鴨志田への反抗心を忘れないようにしているのである。

 

「あいつら、『人』じゃないかもしれねぇな」

「人じゃないって……じゃあ何だってんだよ?」

「……さて」

 

 竜司の問い掛けに恭護は頭を振った。

 何かを知っている。

 だが、自分が何を知っているのか、皆目検討がつかないのだ。

 

「ところで、ホールにあった反対側の扉の先には何があると思う?」

 

 雨宮の発言に、二人は顔を見合わせる。

 

「……実習棟、か?」

「……分かんねぇ」

 

 であるならば。

 

「調べよう」

 

 雨宮の提案に、二人は頷いた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 城の中を徘徊――いや警備する鎧騎士たちから隠れ、三人は地下へと降りていく。

 

「……ウチに地下牢や川なんてなかったよな」

「……ああ」

「都会の高校はこれがデフォルトなのか?」

「「なワケあるか」」

 

 雨宮の頓珍漢な質問に、二人してそうツッコミを入れる。

 

「……おい、あれ」

 

 ふと、牢の中の人間を見て、竜司が動揺した様子を見せる。

 

「どうした?」

「アレ、うちのクラスのヤツだ。見覚えがある」

 

 バレー部のユニフォームを着ているが、足には鉄球が取り付けられている。

 明らかに疲弊し憔悴しているのが伺えた。

 

「おい! 何があった!?」

 

 牢の鉄格子を掴んで、竜司がそう話しかける。

 だが、

 

「放っといてくれよ」

 

 死んだ眼で、そう言われる。

 

「なん……」

 

 動揺する。

 竜司を見ているようで、しかしその生徒は何も見ていなかった。

 

「どうせ無駄なんだ。何したって俺たちには変えられない」

「何言ってんだよ! 分かるように言ってくれよ!!」

「あ、馬鹿。そんな大声を出したら……」

 

 声を荒げる竜司。

 恭護が慌てて歳下の友人の口を塞ごうとするよりも先に。

 

「……ん? 貴様ら、侵入者だな!?」

 

 鎧の騎士に見つかってしまった。

 それも複数に。

 

「それにその顔……貴様、最悪の超重罪人、葛葉恭護か!!」

 

 なんとも頭の悪い呼び名で恭護を呼んだ騎士は、大声で叫んだ。

 

「飛んで火に入る夏の虫とはこの事だ。貴様ら全員、鴨志田様の前まで連行する!! 増援を呼べ!」

 

 仲間にそう指示を出し、鎧騎士は近付いてくる。

 動きは鈍重だが、殴られればただでは済まないだろう。

 鉄の拳なり盾で殴られるのだ。痛いで済めば御の字といったところか。

 

「逃げるぞ」

「でもコイツが……」

「こっちだ」

「あオイ!!」

 

 雨宮が騎士のいない通路を見つけ、走り出す。恭護も竜司の肩を引っ張りその後に続いた。

 囲まれる前に動く。

 身の危険を感じた三人は、牢の並ぶ地下を奥へ奥へと進んでいった。

 

「なあ!」

 

 息も絶え絶えな様子で竜司が叫ぶ。

 一時期は長時間歩くのさえ困難だったが、葛葉と付き合いのある病院でリハビリを続けているお陰でこうしてまた走れるようになった。

 

「これ、俺ら奥に追い込まれてねぇか!?」

「かもしれんな」

「……」

 

 同意され、竜司は余計に焦った。

 

「ど、どうすんだよ!?」

「……取り敢えず隠れられる場所を探そう」

 

 雨宮の提案に、二人は頷く。

 周囲を見渡す。

 どうやら鎧騎士たちは振り切ったらしい。見た目の通りの鈍重さに感謝するばかりだ。

 

「おい。……おい!」

 

 そんな時だ。

 牢屋から声が聞こえた。

 さっきの生徒とは違う、『生きた声』。

 

「誰だ!?」

「……猫?」

「猫じゃねぇよ!」

 

 困惑する雨宮の言葉に食って掛かる、二足歩行のデフォルメされた猫のような何か。

 怪盗姿の黒猫。

 そんな印象を人に与える存在が、鉄格子の向こうから話しかけてくる。

 

「お前ら、外の人間だろ? 助けてくれ!」

「助けて欲しいのはこっちもなんだよ!!」

 

 苛立つ竜司。

 だが、こうして押し問答している時間はない。

 雨宮と恭護は、周囲を見渡して鍵を探した。

 言い争う一人と一匹余所に鍵を開ける。

 

「お、おお……ありがとうな」

「困った時はお互い様だ。で、これからどうする?」

「ああ、捕まる前に認知の歪みが少ない場所を見つけてある。そこまで突っ走るぞ!」

 

 猫の先導で三人またも走り出す。

 鎧騎士たちの眼を掻い潜り、主に認識されていないセーフルームへと身体を滑り込ませた。

 

「ぶはぁ……間一髪」

 

 テーブルにだらしなく突っ伏す竜司。

 雨宮の息も荒い。

 猫のような何かは、そんな二人と対照的に比較的落ち着いている恭護に話しかけた。

 

「なあ、ツリ眼のお前」

「……葛葉恭護だ」

「そうか。ならキョーゴ、お前はどうしてそんなに落ち着いていられるんだ?」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「……成程、記憶喪失か」

 

 腕を組んで考え込む猫。

 

「おい猫、何考えてんだよ」

「猫じゃねぇ、ワガハイはモルガナだ。こう見えて元人間なんだよ。記憶がねぇけど」

「……は?」

 

 突然の告白に、竜司は呆気に取られた。

 雨宮も困惑している。

 恭護もまたこの猫の発言に驚きを隠せなかった。

 

「……まあいい。なあ、キョーゴ。お前、もしかしたら昔にワガハイと逢ったことはないか?」

 

 そう言われる。

 ぴくり、と彼の眉が動く。

 

「なんと言うか、不思議な懐かしさを憶えるんだ、お前には。さっきも言ったように、ワガハイも記憶を失っているんだ。もしかしたら昔にメメントスで逢ったことがあるんじゃ……」

 

 過去を求めるモルガナ。無くした記憶を求める気持ちは確かに恭護には分かる。

 だが、

 

「すまん、分からん」

 

 恭護には判断がつかなかった。

 

「……まあ、そうか。でもお互い記憶喪失なんだ、これから仲良くしてくれ」

「こちらこそ」

 

 一人と一匹が握手する。

 二人の問題が一段落したのを確認した雨宮は、改めて問いかける。

 

「……それで、どうする?」

「恐らく、かなり警戒されたと思う。さっきからパレスの空気が重い」

「パレス?」

「このイセカイのことさ。人の認知が歪んで生まれた箱庭で、ここには主が存在する」

「主?」

「……鴨志田か」

 

 恭護の言葉に竜司も同意する。

 

「ああ、それなら納得だぜ。バレー部のヤツへの扱いや、自分が王様だとかの勘違いなんかまさにあいつっぽい」

「……まあ、ここにいるのは本人のシャドウだろうけどな」

「シャドウ?」

 

 モルガナの説明を聞く。

 

「ここの主は、シャドウ――つまり、本人の『影』だ。現実には普通に本人がいるのさ」

「……つまり、どういうことだ?」

 

 竜司が頭から煙を出さんばかりに困惑している。

 

「欲望で歪んだ心が本人から抜け出した、と?」

「正解だ。癖っ毛、勘がいいじゃねぇか」

 

 モルガナの説明を噛み砕くと、どうやらここは『パレス』という、主によって認知が歪められたイセカイなのだそうだ。

 

「ただし、ここは主の世界だから、現実でもパレス(こっち)でもアクションを起こせば影響が出る。それがどんなものであろうと」

「……ってことは」

「現実じゃあかなり機嫌が悪くなってんだろうさ。……バレー部の連中がとばっちりを受けてるかもな」

 

 嫌そうに恭護がそう推察すれば、竜司は激高した。

 

「ふっざけんな! 自分の気分次第で生徒を殴んのかよ!?」

「……するだろうさ。お前、自分の膝の件を忘れたか?」

 

 冷静に指摘すれば、押し黙った。

 それに、恭護は見たことがあった。

 あるバレー部の女子だ。

 

「……打撲の跡がある女子なら見た事がある。同じ学年だ」

「誰だよ?」

 

 それを見たのはほんの偶然だった。

 ポニーテールが似合う活発そうな女子生徒。

 しかし、瞳のハイライトが異常な程に消えていた。

 そんな彼女の前髪に隠れるように――打撲痕があった。

 

「……確か、鈴井――だったか」

「鈴井? 鈴井って……高巻のツレの?」

 

 下の名前は忘れたが、恭護は鈴井という女子と廊下でぶつかった時に、その額に隠された傷を見たのだ。

 咄嗟に誤魔化されたが、あれは今思い返せば、暴力の痕跡だ。

 

「……こりゃあ、マズいな。今日もバレー部があるなら、鈴井には部活に出ないように説得しねぇと」

「え、なんで?」

「暴力ってのはな、ちょっとした弾みで、性欲に置き換わる可能性がある。特に暴力を受けてるのが容姿端麗な女子なら尚更だ。聞いたことねぇか?」

「……ある」

 

 雨宮はそういった事例をテレビなり本なりで知っていた。

 それどころか、その逆の事例も。

 何故なら、それこそが――故郷を離れ、東京へとやって来ることになった原因なのだから。

 

「ならやべぇじゃねぇかよ!」

 

 竜司は良くも悪くも馬鹿で純粋だ。

 こういった特殊性癖には縁がない。

 だが、恭護のお家柄を考えれば、()()()()()()()を知っていてもおかしくない。

 それを聞いてモルガナも嫌悪に顔を歪めた。

 

「……レディに意味もなく手を上げるなんてな。紳士なワガハイに言わせれば、そいつは男の風上にも置けないクズだぜ」

「……脱出しよう」

 

 雨宮は転校初日だから、その女子生徒を知らない。

 だが、知らない女の子が大人の毒牙にかかろうとしているのなら、助けたい。そう思う正義感は持っていた。

 三人と一匹が部屋を出て、一目散に地下牢からホールに出る扉を抜けた瞬間――

 

「『賊』共を発見! 脱走していた猫も一緒です!!」

「捕まえろ!!」

 

 待ち構えていた騎士の集団に、捕らえられた。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

『ようこそ、俺様の処刑場へ』

 

 現実ではグランドに相当する場所。元々陸上部の練習場所があった場所だ。縮尺に違いはあれど、そこに設えられた玉座に座る男を恭護は睨む。

 異様な格好だった。

 赤い荘厳なマントと王冠を着けておきながら、その下には服を着ていない。ピンクのブーメランパンツのみを装着している。

 変態教師という言葉を体現したかのような格好をした鴨志田のシャドウが、眼を金色に輝かせてニヤつく。

 

『なあ、葛葉……』

 

 ねばついた悪意に満ち満ちた優しい声が、手枷を付けられた恭護へとかけられる。

 

『俺様はな、あの時からずっと夢見てたんだ。……お前が俺様のパレスに現れて、この処刑場に立つのを』

「……」

「だが、俺様は腐っても教師だ。例え重罪人でも生徒を惨たらしく殺したくはない。だから……処刑人(ゲスト)を用意した」

 

 鴨志田の戯言を聞き流しながら、恭護は騎士に足蹴にされている竜司と雨宮、モルガナを横目で観察する。

 怪我はあるようだが、命に影響するような重傷ではないだろう。

 しかしシャドウの数が多い。多勢に無勢とはまさにこれだ。

 呻き声を上げながらこちらを見る三人。しかしモルガナだけは、別の目的があった。

 

「ぐっ……(恐らく、キョーゴは()()()()に目覚めている。でも、記憶喪失になって忘れているんだろう。なら、この場合は渡りに船だ)」

 

 恭護が無意識にする行動が、パレスでの最適解を選択しているのを見て取ったモルガナ。

 それは先程の女子生徒への懸念からも伺えた。

 パレスを生み出す程に歪んだ認知の持ち主の行動予測など、一度でも似た事例を知らなければ出来ない。

 ならば、覚醒した時と同程度の覚悟を決める瞬間を用意すれば――眠っているペルソナは目覚めるだろう。

 そうなれば動揺するシャドウを蹴散らして残り二人を救出し、今度こそ脱出すればいい。数が多かろうと、混乱している集団なら、取れる手段は幾つかある。

 モルガナがそう考えていると、

 

 ジャラリ。

 

 何か鎖が鳴る音が聴こえた。

 

「――っ!?」

 

 モルガナの心臓が嫌な音を立てた。

 知っている。

 この気配。

 この鎖の音。

 この威圧感。

 馬鹿な。

 ここはパレスだ。

 ()()()()()じゃないんだぞ。

 

「馬鹿かお前!!」

 

 つい堪え切れずに、鴨志田のシャドウへそう罵倒する。

 驚いた様子で竜司と雨宮が見るが気にしてられない。

 

「お前、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 最早恭護の再度の覚醒など待っていられない。

 そう判断したモルガナは、自分よりも大きい人間サイズのサーベルを取り出すと、自分を足蹴にしているシャドウを斬り飛ばした。

 

『くくく……そっちのバケネコは知っているようだな。ヤツの恐ろしさを』

「当たり前だ! ……探索中に何度も追い掛け回されたんだぞ」

『そうか。それはご愁傷様だ。……そら、やってきたぞ』

 

 お前らの死神が。

 心底嬉しそうに、鴨志田が言う。

 

「逃げろキョーゴ! そいつは『刈り取る者』だ!!」

 

 遅かった。

 既にヤツは視界に収めている。

 恭護を。

 モルガナを。

 竜司を。

 そして、雨宮を。

 

「……」

 

 それは、足は無く、宙に浮いていた。

 黒いコートに鎖、手には長い銃身の超大型のリボルバー式拳銃が二丁。

 顔は血塗られた袋に覆われていて、破れた箇所から血走った眼が見えた。

 

 刈り取る者。

 

 成程、モルガナが言う通り命を刈り取る死神のような姿とプレッシャーだ。

 そんなシャドウが、銃口をこちらへ向ける。

 狙いはどうやら恭護のようだ。

 悍ましい叫び声と共に容赦なく引き金は引かれる。

 銃弾が、恭護を貫かんとしたその瞬間――

 

「ぐぅ――!?」

 

 恭護が突如苦しみだした。

 膝を突き、手枷の嵌った両手で頭を抱える。

 そして。

 全身から青白い炎を纏った鎖が伸び、黒いフードの骸骨が青白い馬に乗って飛び出てきた。

 

「……ペイル、ライダー……」

 

 苦しそうな様子で、恭護はそう呼ぶ。

 だが、その姿は悲惨の一言だった。

 全身に亀裂が走り、骸骨の顔は半分が砕かれていた。手にした大鎌は刃毀れどころか刀身が半ばから折れている。

 モルガナのようなペルソナ使いでなくとも分かった。

 あの黒フードが消滅しかかっているのは。

 

『馬鹿が』

 

 嘲笑。

 鴨志田の言葉は正しい。

 戦力差は歴然だった。

 例えるなら、こちらは蟻で、向こうは象だ。

 仮に恭護たちが百人いた所で、ヤツはこちらを簡単に殺し尽くすだろう。

 『刈り取る者』は、その銃口を黒い骸骨へ向けると――連射した。

 六発のリボルバーを連射。二丁分――計十二発。

 ペイルライダーと呼ばれた存在は、一切の抵抗を許さず、その身を打ち砕かれたのであった。

 

「ぐぅ……!」

 

 精神を灼く激痛が、恭護を苛む。

 ペルソナとは、もう一人の自分。

 消滅すれば、そのダメージのフィードバックを受けてしまう。

 そして、恭護は気付いた。

 この灼けるような痛み……憶えがある。

 どうやら自分が廃人化したのは、ペルソナが関係しているようだ。

 

「……ペル、ソナ…………?」

 

 ふと、当たり前のようにペルソナという単語が頭に浮かんだ。その意味も。

 困惑する恭護。

 しかしそれが仇となった。

 『刈り取る者』が動く。

 

 

 コンセントレイト

 

 

 意味ある言葉なぞ発する事のないシャドウ。

 しかしそれでもペルソナを持つ二人には、聞こえた。

 高純度の殺意が込められた技の名前が。

 

 

 メギドラオン

 

 

 光が墜ちる。

 グラウンドの中央。

 咄嗟に鴨志田を鎧騎士のシャドウが庇う。

 モルガナのお陰で自由になった竜司も雨宮も、本能的にその危険性を察知し、シャドウを盾にする。

 

 

 

 そして、大爆発が起こった。

 

 

 

 破滅をもたらす光は、シャドウも人間も関係なく平等に降り注いだ。

 

 結論から述べれば、鴨志田は『刈り取る者』を制御出来ていなかったのだ。

 それ故に、大勢いたシャドウは耐性を貫通する無属性爆発を受けて、軒並み消滅した。

 目の前で自分を守ろうとしたシャドウもあっさりと消滅し、玉座ごと吹き飛ばされた鴨志田は、汗を垂らし動揺する。

 しかしそれでも彼は見た。

 巻き起こる粉塵の奥に悠然と浮く『刈り取る者』。

 

 そして、呻き声を上げながら無様に転がる罪人共の姿を。

 




 葛葉恭護の謎。

 ・過去にペルソナを使えていた?
 ・パレスへの侵入経験がある?
 ・戦闘経験有り。
 ・所持ペルソナ半壊。
 ・シャドウと対峙しても服装が変化しない。
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