ダイレクトアタック上等のポケモン世界じゃオラァン! 作:ポケモンだいすきクラブ名誉会員
「ねーね、おにーちゃん。いっしょにタマゴ作ろー」
「……オう。あのナ? ちょっとストップダ。そんデ一回オニーチャンと話し合おうゼ……?」
☆ ☆ ☆
「ダブリーズ、いつものお願い」
「BAI、PU~!」
「わはー……すっごいすずしい……ありがとー……」
うだるような暑さをまぎらわすために繰り出したバイバニラのダブリーズちゃん。ふうぅ、と吹きかけてくれる『こごえるかぜ』は、熱でくらくらした頭をすっきりリフレッシュさせてくれた。
本来は凍えさせてすばやさを下げながらダメージを与えるわざのはずなのに、ずいぶんうまい事威力を調整してくれたんだなあと、いつも任せている事ながら感心させられる。
この子がいてくれるから今日も私は、テントの中まで蒸し焼きにする勢いがあるかんかん照りの中でも快適に過ごせるんだ。この温度じゃ氷の体を維持するのも一苦労なはず、もっと不満げな顔を見せても良いだろうに、記憶をたどる限りそういうネガティブな感情をダブリーズちゃんが見せた事は無い。それどころか、パートナーの私が気持ちよくいられる事が嬉しくって仕方がないって満面の笑みを浮かべながら、献身的に冷気を送ってクーラーをやってくれる。この感動、うまく伝わるかしら。
バイバニラはみんないつでも笑顔なのはよく知っているのだけれど、ダブリーズちゃんが私に向ける笑顔はそこらのバイバニラが漫然と浮かべるそれとはひと味もふた味も違うんだよ。具体的になにが違うのか説明しろと言われると困っちゃうのだけれど、そのあたりはまああれだ。長い事いっしょにいる子が表情で伝えてくる気持ちもくみ取れないでポケモントレーナーを名乗るとか、そういうのはなんかさ、違うじゃん。ねえ。そう思わない?
少なくとも私は、大好きなポケモンとはいっしょにいろんなものを見て回りたいし、同じ釜のごはんを食べたいし、ハグしていっしょに眠りたいし、ポケモンバトルで深く分かりあってみたい。考えを他人に押しつけるような真似は角が立つぞと教わったから控えているけれども、私は強くそう思ってる。それぐらいの情熱を抱いた上でパートナーと向きあってるのなら、他のどこが至らなくても大丈夫じゃないかな、だいたい万事がうまくいくでしょうとすら思う。もちろんポケモンによって
そういうごちゃごちゃした話をひっくるめて言うと、私ポケモン大好き。これに尽きる。
語ろうと思えばダブリーズちゃんのどこがどう魅力的なのか微に入り細を穿つように語る事もできるけれど、今はする相手がいないからしない。……訂正。したくってたまらないのを頑張って我慢してる。あ、ダメだ。お顔見てたら我慢の限界が来ちゃった、いっこだけ言お。
「そのよだれすっごいかわいいねえ……」
「NI、BA!?」
あ、まずい。今ダブリーズちゃんの愛が減ったな。あれー、なんでなんで?
リーズちゃん(バイバニラ右)が独断で体をねじって私の顔が見えないよう庇う感じの体勢になって、庇われたダブちゃん(バイバニラ左)は私と同じように不思議がってる様子で……、あー、そっかそっか。
「私、また変な顔しちゃってたか。なんかいつもごめんねー」
「NIー、BAIBAI!」
「もちろん怖がらせようとか思ってたわけじゃなかったんだよ? でもちょっとした事でね、スイッチ入っちゃうって言うのかなあ……」
「NIBA~」
あ、良かった。許してくれたみたい。いや、ドン引きしただけで最初から嫌いになったわけじゃなかったのかな? なんでも良いか。
まあそんな感じで。いっしょにおいしいカレーを食べたり、ダブリーズちゃんをハグしてお昼寝したり、目をさますと良い具合に日が傾いてきたから、ちょっとテントを出てポケボールとってきてーしたりして。
私は待っていた。テントに帰ってくるのをのんびりダブリーズちゃんといっしょに待っていた。
――――ポケモン捕獲、所持の免許こそ成人したらすぐに取っているし、ダブリーズちゃんとも信頼関係を築けていると自負しているけれども。彼女は私の指示でポケモンバトルしてくれる事は無い。
なぜって、こんな私が指示を出すには、ダブリーズちゃんはちょっとどころでなく強すぎるんだもの。いっしょに遊んだりお手伝いをお願いする分には問題が無くても、ことバトルに関しては別。自分が繰り広げるバトルは私にはまだはやい、変に首を突っ込んで私がケガでもしちゃったらたまらない……前にダブリーズちゃんはそう言っていた。
もっともな言い分だよ。なにせ私はまだ旅に出ていない。ガラル各地に点在するバトルの専門家、『ジムリーダー』に力を示す事でのみ手に入る、どんなポケモンでも一目見てそれと分かる特殊な材質でできているらしい『ジムバッジ』なるものをひとつも持っていない身の上で、ダブリーズちゃんほどのポケモンにあれこれ指示を出すなんて身の丈に合わないにもほどがある。
そもそもダブリーズちゃんのおやは別にいるのだし。
……そう。私が待っているのはまさにその人。若干14歳にしてジムバッジをすべて取得し、ダブリーズちゃんが喜んで後方指示を任せるほどの、私が知る限りいちばん強いポケモントレーナー。
その人はワイルドエリアを好んでいた。私に負けず劣らずポケモンが大好きなその人はかつて、直にポケモンと触れ合うにあたってここ以上に良い場所は無いと断言した。
そういうわけで今日も足を運ぶその人にくっついて、キャンプしながら帰りを待っていたというわけで。
ちょうど戻って来たみたいだ。
「アッハッハー、たっだいマー! カレー、まだ残ってっかなァ、ツェーダ!」
「おかえりー。もちろんダウおにーちゃんの分は残してあるよ。当たり前じゃん」
……言い忘れてたけどダブリーズちゃんのトレーナーは、私の
☆ ☆ ☆
「で? 今日はどこまで行ってきたのさ?」
「……あァ、はふ、むグ、ん……自転車飛ばしてハシノマ原っぱまでナ」
「誰とバトルしてきたの?」
「今日は久々に冒険したゼ。まァタチフサグマが文字通り立ちふさがっテきたもんだから仕方なくだがなァ」
「さぞかし嬉々とした顔で殴りかかっていったんだろうね、目に浮かぶよ」
「めちゃめちャ楽しかっタ。再戦の約束も交わしてきたゼ」
「……未だに疑問だからまた訊くんだけどさ。おにーちゃんはどうしてみんなと違う事するの?」
「あン?」
「みんな野生のポケモンにはボールから繰り出したポケモンに相手を任せてるよ」
「あァ、そうだナ」
「未だにおにーちゃん以外で見た事無いよ。
「……カワイイ妹の質問なら何度だって答えてやらァ。まァ今日は特に気分が良いかンな。ちっとばかし長くなるゼ」
―――……この世界には多種多様な姿形をした不思議な生き物、ポケモンがいる。
どこにでもいる。
そりゃあもうそこらじゅうにいる。
そんなところにもいんのかよ、って言いたくなるレベルでいる。
火の中水の中草の中森の中、土の中や雲の中にだっている。
なんかの特性かわざでごまかしてるだけで、しれっとお前のスカートの中にかくれてるスケベなヤツだって、絶対にいないとは言い切れないんだぜ。……ここ、笑うところだぞ? なに真面目に受け取ってんだ? おかしなヤツだなあ、最後のはさすがに冗談だよ。本当にそんなヤツがいやがったら、兄としてその不届き者を再起不能になるまでボコらなきゃいけねえじゃねえか。
まあそりゃ今はどーでも良いこったなあ。
昔からニンゲンはポケモンがすぐ隣にいるっつー世界に生きてきた。ニンゲンにとってポケモンは良い友達だったり、家族の一員だったり、良き相棒だったり。……まあ胸糞の悪い話だが、道具とか消耗品扱いしやがる輩もいないわけじゃない。中には自分の力とみなしてるっつー変わり種もいるらしいな。
ニンゲンにもポケモンにもいろんなヤツがいるから、築く関係性だって結構変わってくる。そん中でどっかのニンゲンが面白え事を思いついて、たくさんのニンゲンがそれに追従したんだ。
それがポケモンバトルだ。自分のポケモンと、相手のポケモン。戦わせて勝敗を決めようぜってヤツだなあ。
まったくもって、マジで面白い事を考えたよなあ。ポケモンの闘争本能はニンゲンとは比べものにならねえ。ただでさえ厳しい自然界の争いを勝って生き残るためには、なによりも強い生存の意思がものを言ったからこそああまで発達したんだろうが、人間の庇護下に置かれてなお大概のポケモンは戦いを求めてやがる。バカじゃねえのかアイツら。だが気持ちはいてえほど分かるぜ。おれと来たらバトル大好きなもんで。
……ああ、そうだよ。おれが後ろで指示を出すだけにとどまらず、生身でポケモンにダイレクトアタックしかけていく理由はひっくるめるまでも無く単純明快だ。
楽しいから、これに尽きるんだわ。
ほら、おれはあれだろ? ルガルガン少年*1っつったかな。森を気ままに駆けずりまわってたところをチャンピオン……ホップの兄貴に保護されてさ、なんやかんやあって今はツェーダんとこで暮らしているわけだが。
そんなちっとばかし特殊な出自してるおれに言わせれば、戦うのがポケモンだけだっつーのはなんつーかな、人間社会のルールはおかしい。つーかずりぃんだよ。
マジうらやましい。アイツらばっかしずりぃわ。良いじゃねえかよ、おれたちニンゲンが、ポケモンとサシでやり合ったって。
そもそもニンゲンはポケモンと自分らを分けて考えがちだがな……もしかするとおれたちは自分をニンゲンだと主張する習性を持ったポケモンの一種かもしれねえし。
……いや? これは冗談じゃねえよ。大真面目に言ってる。
どうも世間じゃあ、ニンゲンとポケモンの間には歴然とした差がある、的な話がまことしやかにささやかれているがな。おれからすりゃたいした違いはねえ。
本当にどうしようもない差があったらイシツブテを投げ合って遊んだりしねえよ、あんなのガキどもの頭に当たったらそれこそ大ケガしそうなもんだってのに……ああ、カントーじゃ普通らしいがお前にはピンと来ねえか。悪い悪い。
そうだな、ここだと……キテルグマがいるじゃねえか。不用意に近づけば背骨を折られると評判の怪力ポケモンだ。おれがこういう話をすっと大概のヤツはコイツの話を持ち出して、ニンゲンとポケモンの力の差ってヤツを教授してきたもんだ。
でもよ。
それ、生まれたてで全然鍛えてねえポケモンが圧死させられるのとなにが違うんだ?
なんつーか。背骨を折られたっつーニンゲンはただひたすらに弱かっただけの話なんじゃねえのってさ。まあ、だから強くなれーとか、キテルグマの愛情表現に耐えられるだけの身体を作っていなかったのが悪いーとかそんな話をしたいわけじゃねえんだ。
ただ、ニンゲンはポケモンの後ろで指示を出すのがまっとうなスタイルだ、とでも言わんばかりの情勢にはちょっと待てよと言いたいだけで。
おれは証明したいのさ。ポケモンと真正面から殴り合う関係性もひとつの形なんだって。
そもそもニンゲンとポケモンにはたいした違いが無いんだって事をな。
だからおれ、ジムバッジを集めきった後トーナメントに参加しようとはしてねえだろ? おれの関心はポケモンと戦う方向に向いてて、ポケモンで戦うトレーナーにもその頂点たるチャンピオンの座にも興味が無い。ただバッジが無いと強い野生のポケモンがこっちに興味を示さねえ。格下をボコる趣味があるヤツしか相手してくんねえんだよ。嫌な話だが必要に迫られたから集めたにすぎねえんだよな。
ポケモンを道具扱いする趣味はねえから、おれについてきてくれたヤツはみんな頼もしい仲間として尊重しているがな。どうよ、ダブリーズ。かわいいしかっこいいし、かしこくてうつくしくてたくましくて、なにより強いだろ? みっちり鍛え上げて、敵の攻撃をものともしない耐久力と、かたっぱしからバッタバッタとなぎ倒せる攻撃力を兼ね備えるように仕上げた。襲い来る野生のポケモンは、アイツ一匹で十分対処しきれたはずだ。信頼できる子だからな。
ま、よーするに……。誰になんと言われようと、おれはこれからもポケモンとのバトルを楽しむさ。最近色違いのメスドサイドンを見つけたんだ、ゲットもしてねえくせに勝手にタングマムなんてニックネームつけちまったが……アイツは強いぞ。そこらのドサイドンが精魂こめて放つ『がんせきほう』レベルの威力を片手間で、しかも『ロックブラスト』に乗せて放ってくるバケモンだ。当然現状じゃ手も足も出ねえがいつかかならず勝つのさ、今はわざレコードをどうすればおれに使えるのか探ってるところ……ん?
おう、そうかそうか。ツェーダはニンゲンがポケモンのわざを扱えるわけが無いと。そう、思ってるわけだ。まあ、無理はねえやな。
よし、ちょっと見とけよ。……これが、『とっしん』! 単純だがこれが結構難しい。いずれ『すてみタックル』を覚えるつもりだがまずは『とっしん』をマスターしなきゃな。
ただ突っ走ってるだけに見えるか? じゃあこれはどうだ。手に力込めて……放つ! するとどこからともなく降り注ぐ『いわなだれ』!
意味も無くじめんを踏み鳴らしてるように見えて……しっかり『じだんだ』が出た! これ、しっかり狙えば良いダメージ入る攻撃になるんだぜ!
補助技だってやってやらあ。良い感じに手こすり合わせて静電気作って……絶妙な力加減で振り下ろすと! よっしゃ一発成功、『エレキフィールド』! バチンウニのヤツと比べちゃ粗末な出来だがれっきとしたフィールドだぜ、いずれ完成させてやるよ!
ほら、見たか? ニンゲンにだってポケモンのわざが……うんにゃ。ニンゲンはポケモンの一種なんだよ! どうだ、すげえだろ! この結果を見といて異論は許さねえぞ! ああそうさ、レコードはまだ無理でもわざマシンの要領はもう掴んでんだ! 我ながらすごすぎて怖えくらいだよまったく!
いやあ、ハッハ。結構疲れてたってのにだいぶテンション上がっちまったな。
ツェーダもどうだ? おれにできたんだ、お前にできない道理は無いぜ。わざマシンがハードル高いなら、おれの手持ちに教わるのも良いかもな。お前なら喜んで教えてくれるだろうよ、おれたちじゃ覚えようがねえわざでもなけりゃあな。
お、やるか。良いねえ、良い気概だ。おれみたいな事しないでトレーナーを目指すんでも、ポケモンのわざを自分で覚える事は旅する上でマイナスにゃならねえはずだ。
んじゃさっそく……あ、でも、さすがに今日は……うん、ダメだな。もう帰らなきゃだ。お前、明日は早いんだろ? チャンピオンからポケモンをもらって、ホップの野郎と同時に旅立つって聞いたぞ。
ほのお、みず、くさ。どいつにするかもう決めたのか? 選ぶのは対面してから?
まあ、それも良いか。おれじゃない、お前だけのパートナーだ。仲良くやんなさいよ? ハッハ、なんて兄貴っぽい事を言ってみる。
わざマシンうんぬんは、道中でワイルドエリアに入った時にでも教えてやるよ。旅についていくつもりはねえが、さびしくなったらいつでも連絡してこい。ニーチャンはお前の味方だ。忘れてくれるなよ? って、忘れやしねえか。
それじゃ、呼んどいたタクシーも来た事だし。帰るか。
あ、そうそう。昨日みたいな
……本当に、言うなよ? 気持ちは嬉しいんだが、困っちまうんだ。
ダウ
主人公その一。ポケモンにダイレクトアタックして、ポケモンからダイレクトアタックされて喜ぶ変態。元野生児につき、人間の言語に慣れておらず、発音に少しクセがある。妹がいる。15歳。
ツェーダ
主人公その二。外見は白髪の剣盾女主人公。ロングヘアー。兄の趣味を不思議がっているが当人もそこそこ外れた感性持ち。どう外れてるかは続いたら詳細が書けるかも。時系列は原作開始の前日。14歳。