やはり俺の短編篇帙はまちがっている。   作:ハーマィア

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雪ノ下雪乃のふじゅん。

 例えば。

 

 自分の身近な知り合い——例えば上司で同級生で知人である雪ノ下雪乃が、突然幼女もしくは幼児の姿になって目の前に現れたなら。

 

 そいつの中身が知り合いであると確信を持ってしまったのなら、その時はどうすれば良いのだろう。

 

 知らんぷりで追い返せば、俺の平穏は保たれる。ただその場合、罪悪感という大きなしこりを心に残すことになる。

 

 それはそれで、その後の人生をそいつに束縛されるようで気に入らない。

 

 では、問題解決に向かって協力すべきか。

 

 幸か不幸か、他人を他人として扱う生き方をしてきた彼女は、一人でも強い。というか、ほっといても彼女一人で解決してしまうのではなかろうか。

 

 そう考えると、俺が心配するだけ彼女の迷惑となる可能性がある。

 

 どうするべきか。

 

「……とりあえず保健所に連絡でいいか? なんか新型肺炎よりヤバいウイルスにかかった知り合いがいるんですけどって」

 

 懐からスマホを取り出してチラつかせる。……すると、ちっちゃな体でありながら様になる飲み方で我が家の紅茶を楽しんでいた我が同級生は、ティーカップを皿に戻しながらこう言った。

 

「小児科ではなく保健所が迷わずに出てくる辺り、普段あなたが私をどういった目で見ているのかよく分かったわ」

 

「わかればいい——痛っ」

 

 あぶなっ。こいつマジで俺の小指をへし折りにきやがった。まぁ幼女のぱわー(笑)なんてたかが知れているわけで、全然痛くないのだが。

 

「それじゃあ私は猟友会にでも連絡を取ればいいのかしら? この腐れ眼きゅ——あぅ」

 

 ぢゃきん。そんなどこか間抜けた効果音が出そうなくらいに可愛——恐ろしい動きで、小児用スプーンを突きつけようとして椅子を踏み外し、俺の膝上にダイブしてくる我が部の部長様。

 

 これがたまたま隣に座っていたから良かったものの、対面とかでテーブルに顔面ぶつけたらどうなっていたことか。

 

 たぶん泣いていたかもと思うと、その後の八つ当たりが怖くて膝が震えるぼく八幡です。

 

「こら。椅子の上に立つな。行儀が悪いだろ」

 

 雪ノ下の脇に手を差し込み、持ち上げて彼女の席に戻す。

 

「離しなさいこのユキコン」

 

 ジタバタ暴れるような真似はせず、大人しく運ばれながら毒を吐く我が知り合い。

 

 呂律もぶんぶん回ってるというか振り回しているようだし、幼少期からこいつはこうだったのかと思うと、少し寒気がする。

 

「ロリコン扱いしてんじゃねえよ……」

 

 着地すると同時に着席し、ぷんすか、と怒る雪ノ下。

 

 とっっっっっっっっっっっっっっっっっってもかわええ。

 

「ロリコン扱いなんかしてないわ。貴方は雪乃コンプレックスなのよ」

 

 からん、と俺の握っていたスプーンが床に落ちた。あーあ、離乳食が……って。

 

 なんか信じらんない言葉が聞こえてきた。

 

「ユキノ=コンプレックス……?」

 

「人名じゃないわ」

 

「雪のコンプレックス……ああそうか、雪が嫌いなんだな」

 

「違うわ」

 

 じい、とこちらを見上げてくる雪ノ下。早く気付け、なんて抗議しているようで、あの雪ノ下がそんな、馬鹿みたいなことを言うはずが……。

 

「『雪乃』のコンプレックス。つまり貴方は私が大好きで大好きで仕方ないのよ。理解できたかしら?」

 

 なっ。

 

「————!!!」

 

 自分でも、何を言っているかわからない。色々な言葉を同時に使おうとしてぐっちゃぐちゃになって、ただの悲鳴になっていた。

 

「……大丈夫かしら」

 

「だっ、大丈夫なわけっ、おまっ……!?」

 

 むせる。

 

 気管が詰まる。

 

 血の巡りが激化したのを内臓が感じている。

 

 ……こんなの、雪ノ下雪乃じゃない。

 

「——き——くん」

 

 絶対に何かの間違いだ。彼女らしくない。

 

「ひ——やくん」

 

 幼女になっているという点でまずおかしいのに。

 

「比企谷くん」

 

「……!」

 

 目が覚めた。……なんか夢を見ていたらしい。思い出せないけど。

 

 頭痛がする。そうだ、俺は風邪をひいて寝ていたんだ。……だからあんな夢を。

 

 外はもう真っ暗。時計は1時半を過ぎていた。いや、いつから寝てたんだよって話だけども。

 

 ……? まて、何か今、見逃したような……。

 

「……?」

 

 顔を横に向ける。……うん、壁だ。

 

 でわ反対側。……?

 

「……な、お前……か」

 

 真暗闇のベッドの上に、想定外の人物がいた。いや、この家にいること自体は間違っていないのだが、なんでこいつが……?

 

「ハレンチ谷くん。いい加減、手を離してくれないかしら。今あなたがやっているのは立派な犯罪行為よ」

 

 雪ノ下雪乃。整った容姿と性格の悪さは一級品で、成績は学年トップ、スポーツもまぁ苦手は無い。ただスタミナにスキル振りし忘れただけの天才だ。

 

 国語学年三位というステータスがあっても普通なら関わり合いになることすら有り得ない美少女が、何故か俺の隣で寝ていた。

 

「犯罪? 何言ってんだ?」

 

 雪ノ下の言葉が怖いので、見回してみるも特にマズいものは無し。

 

 あとは、雪ノ下を雪ノ下たらしめているこの微乳が……あ、そうか。

 

「小町でももう少しあるもんなあ。うんうん——ぐふっ」

 

 ぽす、と撃ち込まれた右ストレートが俺の鳩尾にあてられる。

 

 ……こいつ……世界を獲れるぞ……!

 

 いや、そうではなくて。

 

「仮にも、看病してくれた恩人に対して恩をセクハラで返すなんてどうなのかしら」

 

「……っ!?」

 

 胸を。

 

 触っていた。

 

 ……………………。

 

 冗談を言ってる場合じゃないくらいセクハラしてた。

 

「……悪い。悪かった。ごめんなさい」

 

 ベッドの上で土下座。硬い床の上じゃないからとってもらくちんだけどなんか咳がげほっ。

 

 咳き込む。……なんか、風邪だけじゃ無い息苦しさが……。

 

 長らく息をしていなかったような、或いは呼吸を制限される「何か」が口を塞いでいたのか。いずれにせよ、こういう苦しみは目覚めてすぐやってきて欲しい。痛みが到達するまでに差ができてるって、稲妻じゃ無いんだから。

 

 俺が正座したまま伏せて咳をすると、ベッドから降りた雪ノ下は途端に取り乱し始めた。

 

「……あ、いえ、そんな風に謝って欲しい訳じゃないの。元々貴方が寝ているベッドに潜り込んだのは私だから、……む、胸を触られるのも覚悟していた事だったの。ただ、覚悟ができていなかったというか、足りなかったというか、その……」

 

 ……やばい。半分以上何言ってんのかわかんない。雪ノ下が自分の意思でベッドにいたのは理解できたけど……。

 

「……そこまでの覚悟を決める必要なくないか? そもそも俺のベッドに入る理由が……」

 

「そういう気分だったから」

 

 なっとくいかないよ。

 

「……とりあえず、八幡は大人しくしていなさい。お粥なら食べられるかしら?」

 

「おう。…………ん? なんか変じゃなかったか、今の」

 

「…………変なところなんて無いわ」

 

 なんか沈黙があったけど、もうなんも考えらんね…………。

 

土下座の体勢から緩やかにうつ伏せ形態に移行し、そこから寝返りを打ってまた天井を見つめる作業に戻る。

 

「氷嚢と冷えピタ、どちらがいい?」

 

「……氷嚢で」

 

「食欲はあるかしら?」

 

「ある」

 

「うどん?」

 

「お粥で」

 

「わかったわ」

 

 言って、雪ノ下は部屋を出ていく。

 

 ぱたん、と扉が閉じて数秒後。

 

『……比企谷君にキスしたのがバレてなくてよかった』

 

 ゆきのん大爆発……おいどうすんだよ、お粥頼んじまったじゃねえか。顔合わせにくいんだけど。

 

 平常心保てるかな……。

 

 

 

 このあと唇ガン見しててバレました。

 

 動揺しまくりでした。

 

 顔を紅葉みたいに赤くするゆきのんマジえんじぇー。

 

 画像保存しておきましたとも、ええもちろん。

 

 

 

 

 

 

 さらに後日。撮った雪の下の画像を「いみしんにゃんにゃんフォルダ」という写真専用フォルダに紛れ込ませて保管していたら、いつのまにかパスワードを突破されて見られてバレました。

 

 

 

 パスワードの解除は認証などに使われる質問形式。

 

 俺なら絶対に外さないがなぜか俺以外は答えられない質問のみがランダムに四問出題される。だというのに、ほぼノータイムで起動からパスワード破り、使えるようになるまでを約二十秒で俺の目の前で披露して見せた雪ノ下が少しだけ怖かった。

 

 です。

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