やはり俺の短編篇帙はまちがっている。   作:ハーマィア

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お前は次に「次はガハマさんじゃないのか?」と言う……。


ガハマさん書いたらr指定かかりそうになったのでやめました。ほんとすみません。




一色いろはの本音とタテマエ。

 オンライン授業。それは、俺のようなぼっちのために開発されたと言っても過言ではない、最先端テクノロジーだ。

 

 人と直接会わず、教師の授業配信を見るだけで出席扱いとなり、テストの時だけ学校に行けばそれで良い。

 

 ぼっちに優しい……どころの話ではない。

 

 朝礼も、ホームルームも、昼休憩も、部活も。行うことに「他人」が必要なものは全て、一切合切、斬り捨てられる。

 

 これはどういうことか? その分自由な時間が増えるということだ。単純計算で、最低でも一日三時間は自分の為の時間が増えることになるのだ。なんだそれ。ハッピーじゃないか。

 

「不要な時間を自分のために使える」……素晴らしきかな高校生生活! 人と会わずに単位を貰える日が来るなんて!!

 

 つまりこれから俺は、俺の、俺だけの、俺のみが許される〝真の青春〟というものを謳歌することになるのだ。

 

『——現代文なんて読めば簡単——』

 

 とはいえ、授業は授業。サボるわけにはいかない。

 

 俺は群れることが嫌いなのであって、学ぶことはむしろ好きなのだ。

 

 …………。

 

『——むしろ入試で出る傾向にあるのは——』

 

 とはいえ、だ。

 

「……一回くらいサボってもバレんだろ」

 

 八幡、悪い子! てへぺろ。

 

 授業なんて、視聴画面を点けるだけで単位を貰えるのは、ありがたいのだけれど。

 

『成績優秀だけど興味があるのでサボります。』

 

 こういう事を体験してみたいお年頃なのだ。

 

 幸い(?)にも妹の小町は今日が登校日であるし、今日の授業はこれで終わり。

 

 ……結局サボりにもならんか。いや、一分でもサボリになると俺は信じてるよ。最早何に意地を張ってるのかわからんけども。

 

 まぁマスクして一時間くらいなら外出もいいかなーと思って……いたんだ。

 

「何をしてるんですか?」

 

「…………」

 

 部屋のドアを開けてゼロ秒。幻覚さえ見なければ。

 

「先輩?」

 

 見覚えのある後輩美少女——に似た妖精さんが、そこにいた。

 

 腰に手を当て、呆れた様子で俺を見ている。

 

「……ちょっとタンマ」

 

 一旦ドアを閉め、ドアの向こうにいる妖精さんと距離を取る。ソーシャルディスターンス。

 

『ちょっ……先輩? どうしたんですか、顔色悪かったですよー?』

 

 ドアの向こうから練乳のように甘めな声が聞こえる。……それはそうと、え? 顔色?

 

「マジ……うおっ」

 

 言って気を緩めた途端、閉じていたドアが引き開けられる。

 

 瞬間、ふわりと甘い香りがした。甘いけど甘ったるくない、優しさとスパイスが入り混じった香りだ。

 

 自然と視線は下に向く。

 

 同級生や他の奴らに普段向けられているつぶらな瞳は、つまらないものを見るジト目で俺を見上げている。渇きを知らない小さく結ばれた唇はぷくー、と膨らむ柔らかそうな頬の膨らみを抑え込んでいて……。

 

 それにしても、どうしてこう、顔がいいヤツって不機嫌な表情でも可愛らしいのか。

 

 冷血そうな女王様には無い器量の良さを持ちつつ、思いやりがあって優しい女の子とは違う心強さがある。

 

 普段顔に貼り付けている造り物の笑顔も可愛いとは思うが、愚痴や本音を零す彼女の方が可愛らしいと思ってしまうのは俺の心が歪んでいるからなのか。

 

 ドアの向こうには、一色いろはが立っていた。」

 

「…………」

 

「……見る見る内に、彼女の顔が赤くなっていく。果実が熟すように、ではなく、ほんのりと薄く化粧をする様に。こいつのこういう顔もやっぱ可愛いから困るんだよな……。」

 

「…………!!??!! る!??!?」

 

「……?」

 

 顔がぽん、と真っ赤になった。何か見てんのか……? 特に変なものは無い。

 

 仕方ない、ここは……。

 

「ばっかお前、自粛期間だろうが。外に出てはいけない、人と会ってはいけない、家で過ごしましょう、の三つを守って楽しく自宅学習するんだよ」

 

 常套句。働くなという台詞では無いから混同してはいけない。働きたくないけど。

 

 教師が不良生徒に諭すように優しく言ってやると、一色は俺から目を背けた。

 

「……いえ。先輩の事だから、家に誰も居ないこの時間に出かけようとするし、暇だったら面倒を見てほしい……と小町ちゃんに頼まれまして」

 

 なるほど、小町が呼んだのか。

 

「え? お前、授業は?」

 

 納得してないからね全然。

 

「今日はお休みです。うちの担任がもらってた(・・・・・)みたいで、濃厚接触者が学年を跨いででてるみたいですし、先輩のところも含めて授業自体が二日くらい無くなりましたから」

 

 ……そういえば俺の学年もいくつか潰れてたな。俺たちの場合は今年受験だからって完全隔離措置を取った上で録画した授業を流してもらってるが。

 

 まぁ、授業が潰れたんならしょうがな——いやいやいや。

 

「……なんできたの? ちょっと歩くどころか行くのめんどくさくなるくらい離れてんだけど俺とお前の家!?」

 

 顔を背けて後退りする一色を追いかけ、壁際にて問い詰める。

 

 ありえない。仮に一色が「そうじゃない」としても、俺が今現在も「そうじゃない」とする理由がない……だろ。

 

「……それでも。先輩に、会いたかったからです」

 

 一色の頭を挟んで左右の壁に手をつき、逃げられないようにしてから問答すると漸く一色は答えてくれた。

 

「ああ、そうなん……ですか」

 

 言ってる途中で気付く。俺何してんだ。……と。

 

「…………すいませんでした」

 

 八幡渾身の全力土下座。

 

 いや常にモノゴトには全力を出してるけどね? やり方を知ってる知らないで力の出し方が違うじゃん?

 

 つまり土下座のやり方というか頭の下げ方は熟知しているというわけで。

 

 膝の間に隙間はなく、足と腕の平行線に角度はない。

 

 このまま梱包されてしまえそうなくらい、キチッとした土下座を一色に見せつける。

 

 問題なのは謝罪する際の誠意だが、これは態度で表すのが一番効果的だ。

 

 理解して欲しい相手が人間なら、理解させるのもまた人間。ヒトはテレパシーなんて持っていないし、本能はまず見た目で判断するだろう。するよね?

 

 ある程度の信頼関係が築けている「家族」ならまだしも、学校の後輩に過ぎない一色には、形で誠意さえ示せば、心で舐め腐った事言っててもバレない。ちょろいに違いない。一色のバーカ。

 

「何を思ってるかわかりませんけどわたしを馬鹿にしてますよねこの野郎」

 

 げしっ。そう言いつつ俺の頭を踏みつける一色。……何故聞こえたのか。

 

「まったく——」

 

 ため息をつく一色。息を吐きたいのはこっちですよ。

 

「仮にも〝彼女〟に対してその言葉遣いはどうなんですかー? 先輩、来月のお小遣い減らされたいんですか?」

 

 少し照れくさそうにする一色。普段の十五倍くらい可愛い。」

 

「うくっ!?」

 

「あ」

 

 なぜか苦しげな顔で胸を押さえる一色をよそに、俺はとある事を思い出していた。

 

 やっべ。俺への給金事情コイツが握ってるんだった。小町経由で俺の錬金術が伝わってしまい、スカラシップ云々を親にバラされたくなければ金回りは管理させろ、と相手は恋人なのに脅迫されて。

 

「……さ、さあ! 謝るなら今のうちですよ! 一ヶ月1万円が五千円になっちゃいますよ!?」

 

 うぐっ……。……仕方ない、誠意を見せるか。

 

「マジで不本意だ。一色は黙ってなくても美人なのに、俺はそこにいるだけで不審者扱いだぞ? そんな俺からかき——小遣いを取り上げようだなんて、とても人間のする事とは思えない。」

 

 すみませんでした。いご、気をつけます——

 

 ……あれ?

 

「はい来月のお小遣い半分貯金箱行きでーす。お昼はわたしがお弁当作るので、それ食べてくださいね」

 

 俺なんか今、口にしてはいけないことを口にしていたような……?

 

 ……ためしてみるか。

 

「一色」

 

 ぷんすかと怒る一色を呼び止める。すると、不機嫌ながらも彼女はきちんと振り返ってくれた。

 

「なんですか? ごめんなさいなら聞きませんよ」

 

 一色って、すごく可愛いよな。

 

「一色って、どんな時でも滅茶苦茶可愛いよな」

 

「…………へ」

 

「ぽかん、と口を開けた彼女の呆けた顔。中途半端に開かれた目と口、ぴくぴくと動く耳。うん、やはり俺の彼女はどんな時でも可愛い。」

 

「……そ、そうですか」

 

 耳まで赤くする一色は本当に可愛い……じゃ、なくて。

 

「ちょきん、ちょきん〜♪」

 

 ぺし、と自分の財布から五千円抜き出して俺の財布に入れる一色の表情を見て、俺は確信した。

 

「いやまて、一色」

 

「何か?」

 

「おかしい」

 

「何がですか?」

 

「本音が」

 

 建前が。

 

「言える」

 

 言えない。

 

「…………は?」

 

 ハイキマシタ極寒のブリザード。雪ノ下にも匹敵する「何言ってんだコイツ」視線を一身に浴びて、わりと深刻な凍傷を負いながらも俺は意思を伝えるために口を開く。

 

「だから、なんか変なんだって。お前が可愛いってことは素直に言えるのに、それ以外の事がまるきり……」

 

「……そ、それってコミュ不足の先輩じゃないですか。何か変なんですか」

 

 なんか一色がすごい真っ赤っか。サーモグラフィーでみたら絶対赤く染まってるよこの子。

 

「単純に困る。本音……建前を使い分けられないと人前で話せないだろ」

 

 割と、ガチで。深刻な問題だ。由々しき問題だ。

 

 悩む俺に、しかし一色は。

 

「心配ないんじゃないですか?」

 

 あっけらかん、けろりと言ってのけた。

 

「心配ないって、どうしてだよ」

 

 イミワカンナイ。若干潤んだ目とか覚悟を決めたようにきゅっと結ばれた口元とか、なお真っ赤な耳とか。彼女は今から何を言うつもりなんだ。

 

「先輩のそばにはわたしがいますから。……ずっとずーっと。太陽が爆発しても、です」

 

 太陽て。

 

「お前どんだけ生きるつもりなんだよ、……っ!?」

 

 …………!?

 

 い、今……!?

 

「い、いっしき?」

 

「はい」

 

「い、いま」

 

「はい」

 

「プロポーズ……みたいなこと言わなかったか?」

 

 噛みそうなくらい震える顎を必死に動かして、一色の顔を見る。

 

「……いいましたよ?」

 

 上目遣いで一色は俺を見て…………。

 

「……はあ」

 

 思わず、ため息をついてしまう。

 

 そんな俺の態度にどんな想像をしたのか、一色は顔を青ざめさせた。

 

「……えっ、嫌……なんですか?」

 

 数秒の空白。

 

「可愛い…………じゃなくて、プロポーズは俺からしたかった」

 

 ……あり?

 

「…………そ、そうでしゅか」

 

 っべー。ガチの本音ぶちまけちゃった。

 

「……あ、ああ」

 

 なんか側頭部が熱い。まともに一色の顔をみれない。

 

 それから、どれくらいの時間が経ったのか。

 

「おにいちゃーん、お義姉ちゃーん、晩ごは——おやおやおやおやあ!?」

 

「「……っ!?」」

 

 晩飯を呼びに来たであろう我が妹の言葉がトドメとなって、俺と一色はさらに顔を赤くしたのだった。






騎乗位で「はしゃぐ」ゆきのん。
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