やはり俺の短編篇帙はまちがっている。   作:ハーマィア

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折本ヒロインの話です。

折本と八幡が幼馴染で告白が成功して2人が付き合ったら?っていうシチュ。


折本さんと初恋と隕石と。

『ひきがやはちまんー? なにそれ、ひとのなまえー?』

 

 ……小さい頃、嘲りもわざとらしさもないガチな顔でクラスメイトにこんな事を言われた。

 

 こっちが『ひきがやはちまんです』って名乗ってんのに、わざわざそれを指摘するという事は、その子は多分性根が腐っていて将来はろくな大人にならないのだろう。単にやな奴、みたいに考えてた気もするけど。

 

 でもそいつなんかクラスの女の子にモテてたし、正直俺も自分の名前を自慢できるものなんて思っちゃいなかった。

 

 ……思えば、俺がこの道を歩むようになったのはあの時に彼……? と、会話をしたせいなのだ。いやあいつのせいだとはひとつも思っちゃいないが。

 

 トロッコ問題で直接落下のシード権をもらうようなもの。

 

 何をどうしていたところで、初対面のそいつに壁を感じたせいで、俺はクラスの中心からどんどん離れていく運命だったのだ。

 

『やきゅーしよーぜ! みっちーとなっすーとうち! あと……ひきがやの、うしろのきみもどう?』

 

 初対面のクラスメイトより優先順位が低くて、もはや誘われることすらない。

 

 小学校二年生にして馴染めなさというものを掴みつつあった。まさにぼっちの片鱗が顔を見せていたのである。

 

 そうしてしっかりとぼっちの道を歩み始めた俺だが、実は中学生の時、そのぼっち路線から一度脱線しかけていた。

 

『ひきがやはちまん? 面白い名前だよねっ!』

 

 初恋の降臨である。遭遇とか普段絶対しないもんだから、思わず降臨とか言っちゃったよ。

 

 ひと目で初恋だと判断したその女の子を目にしたのは、校舎二階に上がる途中、下から階段を数えて7段目。すれ違った時の階段の段数とか覚えてる俺きめえなとか思ってたりしてるんだが、名前を聞かれたのは教室内での事なので俺の視線がただ単にキモかっただけです、はい。

 

 入学式を終えてすぐだというのに、もうクラスメイトが作る輪の中心にいたその女の子は、ショートウェーブとショートボブのハーフ&ハーフ? みたいな感じの髪型で、明るめの茶色をしていた。そして、彼女は特にアクセサリーなんかは付けてないのに、何なら隣に何人か女子がいたというのに、明らかに彼女だけが、俺には微妙に輝いて見えていた。

 

 ……たぶん、この胸の高鳴りは初恋だ。

 

 避けられない、避けたくないこの気持ち。

 

 たとえ後から被せられる言葉に埋もれていくのだとしても、この時、これだけは曲げられない、嘘をつけないという本物。

 

 俺がその少女に抱く気持ちは酷く傲慢で、一方的な偏執にもほどがある。そういう自覚は、間違いなくあった筈なのに。

 

 それでも、俺は自分の気持ちを偽物だと断じる事はできなかった。

 

 ……だが、その時の事をいま振り返ってみても、また(・・)不思議な気持ちになる。

 

 初恋とは、一目惚れが通用するほど甘いものなのか、と。

 

 会話が多かった訳じゃない。話も名前を聞かれた時きりで、挨拶も交わすほど気安くもなれなかった。

 

 なのに、俺はその女の子を見た途端、好きになっていたんだ。

 

 でも、流石に。

 

『一目惚れです、好きです。付き合ってください』

 

 好きになってすぐにこれは無いだろう。今でもハッキリと言える。

 

 好きになったから告白するとか、恋はそんな簡単であるはずがないのだ。車を運転したいからと無免許で直接運転席に座るレベルでイカれてる。

 

 それ故に、その状況(・・・・)に至った経緯として、俺はその時、その後の学校生活を投げ打つほどの覚悟を決めていた訳でも、それほど本気でその女の子を好きだと思っていた訳でもなかった。

 

 

 

『ぷぷぷ……あいつ、本気で告白りやがった……!』

 

 

 

 その当時俺は、いじめ、というものに遭っていたのだ。

 

 筆箱や上履きならまだしも、財布とかチャリの鍵とか、洒落にならないものを盗られて、女子に告白するなら返してやると条件を出されて。

 

 放課後の教室で、まだ帰る準備をしてる途中の連中もいる中で、俺はあの子に告白した。

 

 ……いちおう、職員室に駆け込むという手も思いついてはいたが、頭の良いその時の俺は「告白までさせられた方があいつらの罪は重くなるんじゃね?」と考えていた。

 

 小学生ではないのだし、転校なり謹慎なり、重い処罰が降ったりして——なんて、思いつつ。

 

 いじめを言い訳にして俺は、奴らの目論み通り、初恋の女の子に振られるつもりでいた。

 

 振られたら速攻で職員室にGOだ。

 

 むしろ俺の意識はこの後に集中していたと言っても過言ではない。

 

 そうしてその後の事ばかりに集中してしまっていた俺は、目の前の事を疎かにしていた。……疎かに、し過ぎてしまっていた。

 

『——んぇ?』

 

『——んっ。……返事は、これでいい?』

 

 瞬きの後の眼前には、可愛過ぎる、目にし続けたら水晶体割れるんじゃないのってくらい眩しい笑み。そして唇に残る、熱い感触。

 

『…………えっ!?』

 

 キスをされたのだと気づくのに、30秒くらいかかった。

 

 そして——

 

『言っておくけど、あたしは六年前から比企谷に目付けてんだからね?』

 

『えっ、まさか……おまえ!?』

 

 小学生の時に気遅れしたあのクラスメイトが、まさか実は女の子で自分と一緒の中学に入ってたなんて誰が思うだろうか。

 

 いや知らないよね、俺だって忘れてたんだもん。

 

 兎にも角にも、それで普通に付き合い始める——なんて事になっていないから今の俺がいる訳で。

 

 告白の直後、いじめっ子や初恋の子をその場に置き去り……にして人生最速でその場から逃げ出した俺は、学校を1週間休んだ。

 

 女の子と交わしたファーストキスの重みは、何の覚悟も決めていなかった俺には重過ぎたんだ。

 

『お兄ちゃんどしたの?「心臓ここに在らず」って感じだけど』

 

『……心臓がないお兄ちゃんは嫌か……?』

 

『えっ!? ……お母さーん! お兄ちゃんが壊れた! ボケに対するツッコミがなってないよ!』

 

 飯を食ってようと風呂に入ってようと寝てようと、絶えずチラつくあの感触。

 

 最初の3日はまともに眠れず、後の4日は飯が喉を通らなかった。

 

 丁度季節の変わり目だったということもあり、流行り病とかインフルとかそんな感じで、周囲には不審がられたりせずに済んだのは良かった……のか。

 

『……あ、おはよ。ひさしぶり……』

 

 ……不意打ちのキスをされてから1週間ぶりに登校した俺に、疲れた——変わり果てた顔の折本が、言葉だけは変わらない調子で挨拶をしてくれた。

 

 ……いや、あれは「疲れた」なんてものではない。悲しそうで、それなのに俺に向ける顔は笑っていて、彼女は明らかに無理をしていた。

 

 ……そうだ。あの時の俺は、自分よりもまず護るべき「責任を負うべき相手」がいた事を忘れてしまっていた。

 

 

 

 彼女が俺の告白を受けたのは、俺が彼女に迷惑をかけてしまったからだというのに。

 

 

 

 ————————

 

 ————

 

 ——

 

 ……………………。

 

 ……うーん。

 

 今もまだ身悶えしたくなるような恥ずかしい思い出のひとつだった訳だが、あと数十年したら無かったことにならないかしら。マジで。

 

 ——そんな訳で、他人にとっちゃ取るに足らない、(ひょっとしたら既視感があるかもしれない)俺の身の上話は、終わりを告げるのである。

 

「…………はぁ、最悪だ」

 

 回想から現実に戻り、ページを捲る指を白くさせながら、俺は歯を食いしばってその羞恥に堪える。

 

 もう床とかに転がりまくりたいけど、それをここでやるのは自殺行為としか言いようがない。

 

 外を見やる。せめて気分を紛らわそう。

 

「…………」

 

 土砂降りでした。こんなんで湿気った気持ちが晴れるかっての。

 

「ダーリン、砂糖取ってー」

 

 声。ひそめたものでも、張り上げたものでもない、それなのに人の意識を吸いつける声だ。

 

 己の内から湧き上がる羞恥に耐えて、堪えて、動揺を見せないようにしながら、シュガーポットを要求してきた折本へ渡す。あれ? 己の内とか言ってる時点で相当恥ずくね?

 

「……ほら」

 

 受け取った彼女は「アリガト」と言ってシュガーポットを使わずに横に置いた。……? 必要だったからとって欲しかったんじゃないのか?

 

 そう思ってその顔を見ると、折本はじっと俺を見つめて、にんまりと笑みを浮かべていた。

 

「……っ」

 

「くくっ」

 

 ……視線を持っていた小説に落とす途中で、横から笑いを堪える声が聞こえた。

 

 たった今シュガーポットを渡したばかりの、折本の声。

 

 声が横から聞こえるのは、俺が体勢を変えた為で彼女から目を逸らしたかったから——というのはともかく、何故笑うんだい。

 

「……ほ、ほらね……? あたしと比企谷は、相思相あ……ぷははっ!」

 

 相思相愛……? ……あっ。

 

『ダーリン、砂糖取ってー』

 

 ……………………。

 

 堪えきれない様子で吹き出す彼女は、「してやったり」と言わんばかりに楽しそうな笑みを浮かべている。

 

「くっ……」

 

 机に突っ伏そうかと思ったけど、離れたいという思いの方が強かったので小説で顔を隠す。

 

 なんで気付かないかなー。それとも俺が油断してるタイミングを毎回狙ってきてるのかなー。うわ多分今めちゃくちゃ顔赤い。

 

「……ヒッキー、二人きりの時はダーリンって呼ばれてるの……?」

 

 由比ヶ浜が今年一番くらい上擦った声をかけてきた。緊張とか、照れとかが入り混じったやつ。

 

 ああ、初々しい。

 

「……お前もダーリンって呼ばれたいのか……?」

 

「そっ、そんなわけないでしょ!? ヒッキーのバカ!」

 

 顔を赤くして、そっぽを向いて、頬を膨らます。

 

 期待した通りの反応に安堵したりして、静寂以外が安らぎをもたらす事に感動する。

 

 ——と、時間が来てしまった。

 

「さて……それじゃ、そろそろ帰るわ」

 

 下校時刻より少し早いこの時間。俺は何か目的がある訳でもなく、何か急いでいる訳でもない。

 

 ただ、折本の乗る電車の時間が来たから帰るだけ。

 

 高校生にもなって付き添いが必要とは思えないのだが、これをやらないと小町が家に入れてくれないのでやるしかない。

 

 それを説明したら、雪ノ下も由比ヶ浜も納得してくれた。……2人とも何故かドン引きとかではなく、可哀想なものを見る目をしていたのは引っかかるが。

 

「それなら由比ヶ浜さん、私達も終わりにしましょうか」

 

 どうやら雪ノ下達も帰るらしい。

 

 あの絶対ぼっち女王こと雪ノ下が「私達」という言葉を使うあたり、俺達(・・)が奉仕部に入ったばかりの最初の頃と比べて雪ノ下も大分変わってるんだなぁと思ってたりする。

 

「戸締まり、やっとこうか?」

 

 折本が自分の湯呑み(・・・・・・)を片付けつつ、手にした鍵を雪ノ下に見せた。

 

 確かに、電車の時間にはまだ余裕がある。

 

「そう? それならお願いできるかしら」

 

「まかせて」

 

 雪ノ下は折本の提案に頷くと、荷物を纏め、由比ヶ浜を連れて部室を出て行く。

 

 さっき部活中にクレープとか言ってたから、多分二人で食べに行くのだろう。よほど楽しみにしてたのか、その足取りは素早かった。

 

「さて……」

 

 俺達も帰るか。

 

 荷物は纏めるほどの量は無いし、折本もそんなに持ってない。

 

 小学生の時のランドセルが懐かしい——なんて思っていると。

 

 かちゃ。

 

「……ふふふ……?」

 

 あろうことか、折本は中に2人ともいる状態で鍵をかけやがった。そんな事をされたら……逃げるしかないじゃないか。

 

「……じゃ、こっちの戸締まりもよろしく」

 

 からからから……と、窓を開けて縁に足をかける。————あ、まずい。やり過ぎだ。

 

 ほんの少しの風の変化で天候を読む航海士のように、俺はすぐ窓枠から足を下ろし、行動を変えた。

 

「えっ、比企谷? ……あっ、あたし、気持ち悪い……?」

 

 きょとん、とあっけに取られた表情をしていた折本が、不安に包まれたのか、段々と負の感情を顔に滲ませ始めた。

 

 まっ…………たく。

 

「……冗談だ、早く帰るぞ」

 

 まず今にも泣き出しそうな顔の折本の手を取り、窓を閉めて教室の鍵まできちんとかけて、部室を後にする。

 

 途中何人もの生徒や教師とすれ違ったものの、手を繋いで下校する俺達を気に留めたりする者はいない。

 

 入学当時から、つまりは一年近く続いているこの光景に誰もが慣れきっているのだ。

 

 俺と折本の関係が実は見た目とは違うものだったりするんじゃないか、なんて思うかもしれないが案ずることはない。れっきとした恋人同士です。

 

 キスなんて告白の時にしたっきりで、あとは手を繋ぐくらいまでしかできていないけれど。

 

 ……その成り立ちが少々、歪な形であるというだけで。

 

 俺達は普通の——いや……違う。「普通」……ではない。

 

 折本が「こう」なってしまった原因は、俺だ。

 

 俺が彼女に告白したからに他ならない。

 

 いや違う。俺があの後のキスにびびって逃げ出しさえしなければ、…………あんな事にはならなかったんだ。

 

 告白の翌日。俺が学校を休んだせいで、折本の周りには『俺がフラれた』という噂が飛び交った。

 

 俺が折本に告白するよう仕向けたいじめっ子以外にも、俺の告白を見ていた奴がいるらしく、その『噂』は『ねじ曲げられた事実』となって瞬く間に校内に広がったのだ。

 

 ……そして、俺が学校を休んでいる間にその好奇心の的になったのは、あろうことか告白を受けた折本だ。

 

 決して責められてはいけない人を、俺は見捨てた。

 

 1週間後、彼女と再開した時には既に、折本の心はボロボロに傷ついていた。

 

 ……あぁ、くそ。

 

 今更だというのに、その事を思い出す度に、胸の奥がチリチリと痛い。

 

 ……だけど、決して忘れちゃならない痛みだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝2人はキスしたの? ……中学生のくせに気持ち悪い。学舎は文字通り勉強するところなのよ。あなた達の軽率な行動が周りにどれだけ迷惑をかけてるか、わかってるの?〟

 

 俺が学校に登校してすぐ、2人揃って呼び出された職員室。

 

 そこで生徒を指導する立場の教員が放った言葉——それがトドメだった。

 

『……う、うぐ、うぁ……!』

 

 目をぎゅっと瞑って、うぎゅうぎゅ、としゃくりあげる折本の頬には、涙の筋がいくつも出来ていて。

 

 あの日、いじめ騒動を知った教師から投げかけられた言葉が、クラスメイトからの非難でいっぱいいっぱいだった折本の「何か」を壊してしまったのだ。

 

 決して壊れてはならない、何かを。

 

『…………ごめん』

 

『……ひき、がやあ……』

 

 俺の手にすがる折本の手は冷たく、肩は小刻みに震えていた。

 

 彼女は悪くない。ただその場に呼び出されたというだけで、巻き込まれた。……それなのに、彼女は俺に笑いかけてくれた。

 

 ……そう、何もかも俺のせいなのだ。他人のせいになんてしてられないのに、俺は職員室を出る時、がり、と音が鳴るほどの歯噛みをせずにいられなかった。

 

『……送ってく。……家まで』

 

『うん……』

 

 放課後。顔を真っ赤にした折本の手を引いて、俺は下校していた。

 

 2人の向かう先は折本の家。

 

 折本を家に送り届けるのと、俺がしてしまったことの謝罪をする為だ。

 

 ただ……なんか、折本と俺との間にある空気は、ふわふわぽわぽわと、変な熱を持っていた。

 

『…………』

 

『…………』

 

 学校を離れてもう繋いでいる必要はないのに、最初は重ねるだけだった手が指と指で絡まり合っている。

 

 どっちから組み方を変えたとか、そんなのは覚えてない。

 

 ただ、どちらも今の状況を嫌がっていない事だけは確かだった。

 

 ……本来は、俺が告白して折本が受け入れてくれて、それから繋がっている筈の放課後の光景。

 

 それが何故、唐突に再現されているのか。

 

 たぶん、さっき教室で言い放った俺の発言のせいだ。

 

 

 

『フッても、フラれてもねぇよ。折本は俺のものだ』

 

『何よそれ! それじゃまるで付き合ってるみたいじゃない! 何を今さ——』

 

『当たり前だろ。俺達は付き合ってんだから』

 

『——ッ!?』

 

 

 

 教室に帰ってきた俺は、席に座る途中で俺を見る60数個の目玉に対し、こう言った。

 

 見栄でも虚勢でも何でもない。単純な事実を俺はここに突き立てたのだ。

 

 静まる教室。……当然だ、今までそうだと信じきっていたものが180度回転したのだから。

 

 たった1人の少女を目の敵にして、或いは彼女を庇うように俺の陰口を繰り返していた連中——クラスの全員は、諸共に黙り込んだ。それは、折本が彼らに話していた「告白を受け入れた」という話を誰も信じていなかったからだ。

 

 だから、このクラスに傍観者は誰ひとりとして存在しない。俺を叩く派と折本を叩く派、どちらかに全員がいたのだから。

 

 けど、俺の目的は折本の敵を糾弾することでは無かった。

 

 じゃあ、なんのために俺はこんな事をしたのか? 勿論、この騒ぎを目論んだ奴らをこれ以上好きにさせない為だ。

 

 元々フラれたという事実自体が誤認なわけで、あのいじめっ子共は俺と折本が結ばれるという事実を1番嫌っている。

 

 嫌がらせの為に盗みまで働くような倫理観の無い奴らの事だ、デマによってどっちが被害者になろうと構わなかったのだろう。

 

 ……だから、そんな連中にこれ以上好きにさせないように奴らの首は俺が絞める。

 

 おもむろにチョークを手に取り、クラスメイト数人の名前を黒板に書き連ねて、授業を始める教師のように黒板を指差しながらそいつらを()め付けた。

 

『……ところで、お前ら(・・・)俺の告白を見てた筈だよな。折本が俺を好きだって言ってくれた事も、その後俺がこの教室から逃げ出したって事も、最後まで見てたよな。……なのに、何で折本がいじめられてんだ?』

 

 ……元々あいつらは力関係でいじめをしていたわけじゃ無い。ただ数がいて、1人を狙いうちにできて楽しかっただけの連中だ。

 

 俺に指摘されて、そいつらは震え上がった。どちらかのいじめに加担していた連中が「よくも騙したな」みたいな視線をそいつらに投げつける。いやー、みんな、調子のいい事で。

 

 結局、俺をいじめてた奴らの処遇はクラス内での信用を失うに留まった。

 

 クラスメイト達との仲は改善されたり、そのままだったりと色々あった訳だが、転校したり休学するやつは出なかった。関係ない所でこの学校の教師が1人臨時で何処かに飛ばされた、くらいか……?

 

 ただ、クラス内で起きた変化はそれだけに止まらなかった。折本を叩く理由が消滅した後、奴らは誰とも(・・・)話をしなくなったのだ。

 

 ニタニタと話し合っていた数人の仲間内でさえも、数ヶ月は孤立した状態が続いた。

 

 ——つまり仲間割れ。呪いのようなものだった。

 

 結果として彼らは、その後の中学校生活で二度と友好というものを育む事はなく、俺達の敵はこうして自滅したのだった。

 

 

 

 ……と、ここまで話してみたものの、しかし、その日は連中がクラスメイト達から集中砲火を喰らうだけで終わった。それも、俺たちは全く関わる事なく。

 

 何故か?

 

 そんな事を気にしてられないくらい、恋人として過ごす初めての放課後は、俺達にとって刺激的過ぎたからだ。

 

 冷静になって考えてみてくださいよ。『折本は俺のものだ』? ぎゃあああ! 恥ずかしいっ!

 

 今思い出したら死にたくなるくらい死にたい訳だが、その時はそのくらいしなきゃ折本に申し訳ないなんて思ってたりしたし、結果的に折本の顔が少しだけ明るくなってたから、まぁ良かった————

 

『比企谷……』

 

 ……いやあれ、違う意味で顔赤くなってたよね。俺も、そんなつもりじゃなかった……なんて。よくは思い出せないのだけど。

 

 途中、我慢できずにキスをした。人目のつかない所で、2回も。

 

 

 

 ——しかし俺は、その時でさえ折本を幸せにしてやれるという覚悟を持っていなかったという事を、思い知る羽目になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日以来、折本は俺から文字通り離れられなくなってしまった。

 

 登下校も別だったのに一緒になるし、席の場所なんていつのまにか隣になってるし。担任は何も言わないし。

 

 高校受験は俺が勉強を一緒に見たおかげで総武に受かることができたものの、そんなものより——受験をそんなものと呼べるくらいに緊張した——「折本の両親との顔合わせ」の方が100倍緊張していたりした。

 

 どうやら親同士が顔見知りだったらしく、俺たちの現状やこの関係に至るまでの経緯を説明してる時は怒鳴り声が上がる事は無かった。

 

 それでも、事の発端がイタズラである以上は謝罪が必須であり、俺は殴られても、もし殺されるのだとしても文句は言えないと思っていた。

 

 考え過ぎでは、ない。

 

 他人の心を、人生を壊すという行為は人1人を殺すのに等しい悪行だ。決して取り返せはしない。

 

 だから俺は、奪われる覚悟をしていた。

 

『すみませんでした——』

 

『……ひ、比企谷……』

 

 折本の家の玄関で、彼女の両親に対して膝をつき頭を下げた俺。折本の父親は、愛娘に何があったのか、俺が彼女に何をしてしまったのか。その全てを知った上で、俺の謝罪を静かに受け入れてくれた。

 

『頭を上げてくれ。土のついた膝や手で家に上がられたら、たまったもんじゃないからな』

 

『……、はい』

 

 たまらなく、俺を殴りつけたい筈なのに——彼は、娘によく似た笑顔を浮かべていた。

 

『それはそうと——だ』

 

『……はい』

 

 ——きゅっ。

 

 床から音がする。折本の父親が足を踏みしめた音だ。……殴られ——

 

『リアル「娘さんを僕に下さい」をやれてちょっと感激——げふぁ!?』

 

『……?』

 

 その後、何故か俺ではなく折本の父親が折本の母親になぐられてたけど、何かマズい事を言ってたのだろうか。

 

 兎も角、俺は折本と一緒に居る事を許された。

 

 責任を取る事——それを条件に。

 

 しかし、たかだか14、5歳のガキが取れる責任なんてこれっぽっちもない。

 

 せいぜい真面目に勉強に励むくらいしかやれる事はないので、こうして真面目に勉学に励む日々を送っている。

 

 ただ、同棲はしてない。

 

 普通に待ち合わせをして学校に行き、普通に家まで送り届けて帰るだけ。

 

 高校生になった今も、その生活は殆ど変わっていない。同じ部活に所属して、関わり合う奴らが増えて、俺達の周りは中学の時よりだいぶ騒がしくなったけど。

 

 それが今までの日常で、これからの俺の未来である——筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………学校に、隕石が落ちてくるまでは。






続く……?
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