継ぎ接ぎだらけの中立区 ~赤き花の姫と小さな淑女~ 作:猫又葉月
慰安施設への旅行から数日後、変わらず平穏な日々を送っている私、若葉。本日も日課であるエコとの散歩に行くため起床。同時に三日月も起きる。見慣れた寝ぼけ眼の姿だが相変わらず愛らしい。
「おはよう、若葉」
「おはよう三日月。今日もいい朝だな」
いつもの挨拶を行い寝間着から普段着に着替え、セスとシロクロの待つ場所に向かう。
「そういえば今日は新提督が来るんだっけ」
「ああ、たしか午後からだったな」
本日は新提督の視察の日である。深海棲艦が住む施設のため定期的に様子見という名目があるが、敵対する意思はないと分かりきっているので実際は軽く見回った後に世間話をし簡単な調査報告書を作成といった形になっている。
「私の顔、喜んでくれるかな」
「もちろんさ。
あれから三日月は私だけでなく皆にも笑顔を見せるようになった。不安定な頃の三日月を知ってる者たちからすれば、その喜びもひとしおだ。
新提督とて例外ではない。子供が傷つくことが許せない優しい性格だ。必ず祝福してくれるだろう。
そして色々と話しながら私達は集合場所まで向かった。
散歩を終え私達は施設に戻り朝食をとりはじめる。全員が食べ終わった後に飛鳥医師からこんな言葉が発せられた。
「有明鎮守府の加賀から連絡があった。赤城、翔鶴、君たち二人を招待できる準備が整ったそうだ」
「本当ですか!?」
歓喜の声を上げたのは赤城だ。移籍した加賀と瑞鶴、そして旧友の利根と筑摩の尽力もあって提督や艦娘たちの理解を得られたらしい。
姿が姿だけに他の旧友たちに会いに行くのを諦めていた赤城だが、未練はやはりあったようだ。それを払拭できたのはかなり大きい。
「私もよろしかったでしょうか」
「ああ、君だって久々に瑞鶴にも会いたいだろう。姉妹の交流は大切にすべきだ」
おずおずと尋ねる翔鶴に、当然の権利だと返す飛鳥医師。姉を紹介するにあたって、現在の姿の事は避けては通れない。今回の件で他の者達と交流を深めさらなる理解を得られるのは悪いことではないはずだ。
「とはいえまずは本日の視察だ。訪問の日程を決めるのはその後が良いだろう」
「わかりました」
「楽しみね、赤城さん」
そう言って二人は互いに微笑んだ。最初の確執はもう影も形もない。立派な友人関係だ。
「私もそろそろ考えておくか…」
今までの会話を聞いて、神妙な顔でボソッと呟いたのはリコだ。隣のセスが反応する。
「何が?」
「故郷への訪問だ。今どんな状態になっているかを見ておきたい」
リコは襲撃によって大怪我を負い、二人の部下による文字通り命懸けの救助でこの施設にたどり着いた。
おそらく島はメチャクチャ、下手したら跡形も無くなっているかもしれない。それを踏まえても散っていった家族たちのために慰霊の意味も込めて向かいたいそうだ。
「その際にはアカツキも連れていきたい。この前ここに来たときに話したら自分もと言い出してな」
この前の嵐の後、片付けたゴミを回収しに来た第二二駆逐隊に加え暁も手伝いに来た。おそらく目的はリコ。事件解決後の別れのときに抱きついて号泣していたのを思い出した。それだけこの二人の絆は深いのだろう。作業後の少しの自由時間で交流した際に話したら興味を持たれたそうだ。
「お姉ちゃんもきっと喜ぶわ!」
「とはいえ私みたいのが遠出するのはかなり問題があるのだろう?」
「ああ、先生を経由して大本営の許可が必要になるはずだ。旅行先での事もあったからおそらく時間がかかるだろう」
「全く面倒くさい話だ。だが理解はしている。その時まで待つとしよう」
過激派の摘発が優先されるため、そっち方面に時間が割かれるかもしれないとの事。私もリコの意見に同意。早く解決してほしいものだ。
「他にしたいこともあるが…これもおそらく許可がいる。その時に相談させてもらおう」
「わかった。とりあえず午前中は新提督を迎え入れる準備だ。それ以降は各自いつも通りに過ごしてくれ。それじゃあ、本日もよろしく頼む」
リコのしたいことが気になるが今は新提督を迎え入れることに集中しよう。飛鳥医師の挨拶の後、私達は各自の持ち場に戻った。
部屋を片付けた後、自由に過ごし午後を迎える。昼食後に新提督が視察にやってきた。
「遠路はるばるご苦労さまです」
「なに、これは必要なことだし特に苦ではない。それに交流したがっている子達もいる」
そう言ったあとに車から降りてきたのは秘書艦の瑞鳳、そしてなんと4代目大淀と5代目大淀改め小淀だった。
二人は施設にいる3代目大淀が、回復に向かってはいるとはいえまだ不安定なところがあると聞いたらしく、是非ともと同乗を志願したそうだ。
「
「それは助かる。彼女もきっと喜ぶよ」
そう言いながら飛鳥医師は四人を案内。私はその後ろについていく。勿論不審な匂いはない。
「そういえば人工皮膚が完成して治療されたと先生から聞いた。経過は順調なのか?」
「大丈夫です。今は顔だけですが、他の方も完成したら順次治療に取り掛かります」
「新提督、三日月は本当に明るくなった。玄関で出迎えたいと自ら志願したほどだ」
「それは…楽しみだ」
安堵、そして嬉しさの匂いが新提督から感じられた。初めて監査に来て事情を聞いたときは元凶へ怒りを覚えるほどに心配してくれた人だ。これなら安心して会わせられるだろう。
「お久しぶりです、新提督」
「三日月…!ああ、確かに…!」
扉を開けると、先程言ったとおりに三日月が出迎えてくれた。今までの引っ込み思案な性格しか知らない新提督は改めて驚愕。そして傷のない顔を見てうっすらと涙を浮かべた。
「ちょっとちょっと提督!感極まり過ぎだって!」
「す、すまない。経緯を知ってるから嬉しさのあまり…」
突然の事態に側にいた瑞鳳が慌てて支える。子供が傷つくのを極端に嫌っている人だからこそ、この涙と言葉は匂いを嗅がなくとも本音だとわかる。
「あ、あの。ご心配おかけしました」
「いや私こそ済まない。では改めて、おめでとう三日月。心から祝福させてもらうよ」
涙を拭き、駆け寄った三日月に笑顔で言葉をかける。三日月も笑顔で応える。
「ありがとうございます。これも先生と蝦尾さんのおかげです」
「いい顔だ。やはり子供はこうでなくては」
「あーもー!提督、ほらしっかり!」
また涙を浮かべ、呆れた瑞鳳に慰められる。このやりとりが少しの間続いた。
しばらくした後、落ち着いた新提督の視察が始まった。ちなみに4代目と5代目は3代目のところへ、瑞鳳はセスとリコ、次に赤城と翔鶴の方へ向かった。
視察の結果は問題なし。やましいことはしていないのでこの結果は当たり前だが、やはり緊張してしまう。
「今回の視察はこれで終了だ。この報告書が出来上がり次第帰投することになる」
「お疲れさまでした。ご苦労さまです」
食堂でパソコンに打ち込みながら新提督が応える。側には雷お手製のクッキー、そして蝦尾女史がお茶を入れて労っていた。
「そういえば君は飛鳥医師と結ばれたと聞いた。おめでとう、祝福するよ」
「あ、ありがとうございます」
まさか話を振られるとは思わなかったのだろう。顔を真っ赤にしながらも、笑顔で応じた。飛鳥医師も少し照れている。
「ちなみに結婚式は何時になるんだい?私も先生も都合をつけて出席させてもらうよ」
「ま、まだそこまでは…。ですがゆくゆくは…」
「てーいーとーくー、ちょっといいー?」
更に顔を赤くさせながらも健気に答えようとする蝦尾女史を遮って瑞鳳が割り込んできた。その顔は少し困惑気味。匂いも困ったという感情が伝わってきた。
「どうした?」
「いやー、それが赤城さんと翔鶴さんから有明提督の鎮守府に招待されたから行くことになったって言われて…」
「…何?」
眉を顰める新提督。何か問題でもあるのだろうか。
「リコちゃんからもいつかは故郷を見に行くって…」
「参ったな…」
「…何かあったんですか?」
額に手を当てる新提督に飛鳥医師が尋ねる。
「…帰り際に伝えようと思っていたことがある。報告書ももうすぐ終わるし全員集合をかけて―――」
「センセ、ちょっといいか」
言いかけたところで今度は摩耶が部屋に入ってきた。
「どうした?」
「哨戒をしていたセスとリコから雲行きが怪しいって報告を受けたんだ。おそらく1時間もしないうちに嵐が来る。シロクロには帰ってこいってもう伝えてるぜ」
その言葉を聞き、飛鳥医師は即座に天気予報を調べだした。朝の時点ではそうでもなかったが、また急激に下り坂になったのであろうか。
「最新ではこっから先悪くなるとなっている」
案の定であった。しかも少し規模がでかいという。明日はかなりのゴミが流れ着くだろう。
「提督、どうする?このままだと帰るのは危険だと思うよ?」
「だったら泊まっていったら良いわ!滅多にないお客様だもの、大歓迎よ!」
瑞鳳の説得に雷が乗じた。久々に人数が増えるのが楽しいようである。ここまできたら無下にするのも悪いと考えたのか、新提督は雷の提案を受けることにした。
「わかった、今晩は世話になる。話は夕食後にでも話そう」
「腕によりをかけて作るから楽しみに待っててね!」
パタパタと調理場に向かう雷に三日月も手伝うとついて行った。
「まさかこんな事になるとはな…」
「大丈夫?」
「先生はこれから忙しくなるからあまり連絡が取れなくなると言っていた。つまり伝えられるのは私しかいないんだ。この機を逃したら問題が発生した場合の対処が遅れることになる。」
新提督の悩みに瑞鳳が慰める。不穏な言葉が聞こえるが一体何があったのか、不安になる私であった。
そしていつもより少し豪華な夕食後、新提督の話が始まった。
「実は近日中に過激派への一斉摘発が行われる事となった。先生と元帥、そしてあのとき施設で狙われていた加藤中将を中心としたメンバーで強制監査が実行される」
あの加藤中将も参加するのか。自身の
「そういえばオッチャンよりでかいんだっけ?」
「信じ…られないよね…」
シロクロが呟く。もし二人に出会ったら笑いながら肩車をしてくれそうだ。クロはすごく喜ぶだろう。
「だが慎重に進めねばならない。先生の目を掻い潜った者がいると聞いているからな」
「艦隊司令部を使われたことか」
私の言葉に新提督は頷く。あの時、同志は沢山いると男は言っていた。つまり大本営の内部にも少なからずそういう輩が存在するということだろう。
全員の顔が強ばる。あの力には散々な目に遭わされたから当然だ。
だが私達以上に動揺する者がいた。先々代で嬉々として使っていた記憶を持つ3代目大淀だ。
「大丈夫よ、あなたが悪いわけじゃないんだから」
「そうですよ、勝手に持ち去ったやつが悪いんですから気に病むことはないんです」
すかさず二人がフォローに入る。説得のかいあってか徐々に落ち着きを取り戻し始めた。
「…すまない、配慮に欠けていた」
「…いえ大丈夫です。あの、お二人を連れてきてくれてありがとうございます。おかげでだいぶ楽になれました」
「…そう言ってもらえると嬉しいよ」
だがこれ以上の話に参加するのは無理と飛鳥医師が判断。三人はそのまま部屋に行き休む事となった。
「…話を続けよう。慰安施設を襲撃した男を先生が尋問したところ、おおよその繋がりが見えてきたそうだ。おかげで内部に暗躍している者も把握できた。かなり困難を極めたらしいがね」
あの男の信念は歪みまくっているとはいえ本物だ。下呂大将も苦労したことが窺える。
「だが各鎮守府となると話は別だ。襲撃者の証言で出たところ以外でも、そのような思想を持つ者がいる可能性がある。すべてを大本営は把握できていない」
それは非常に厄介だ。徒党を組んで活動をしてるやつもいれば、それを知らず単独で活動してるやつもいるということになる。あの男は前者だろう。
「そこで大本営の許可なく他鎮守府との交流を行うことを禁ずる事にした。名目上は第三者による情報漏えいが行われ、とある鎮守府が不利益を被ったという内容だ。ここで横のつながりを完全に遮断する。過激派とて架空の鎮守府と同じにはなりたくないから従うだろう。下手したら自分たちの活動が公になる可能性があるからな」
だが例外として、大本営が無実と認めた真っ当な鎮守府に関しては今回の命令の真実を通達し、
「ちょっと待って下さい、それって…」
赤城がなにかに気づいたようだ。その言葉を聞き新提督は少し悲しい顔をしながら話し始めた。
「…君たちの事は瑞鳳から聞いた。旧友たちから招待を受けていると。だが今は我慢してほしい。移動中の所を万が一過激派に見られたらそれこそ一巻の終わりだ。最悪、有明鎮守府やこの中立区が攻撃されかねない」
「そんな…!」
せっかくみんなに会えると楽しみにしていたところにこの仕打ち。翔鶴も妹に会えると思っていたので言葉が出ずに呆然としている。
「本当に申し訳無いと思っている。だが事が起こってしまってからでは遅いんだ。準備が整い次第、一斉強制監査を行い早期決着を目指す。それまでは…我慢をしてほしい…。私には、それしか言えないんだ…」
絞り出すように応える新提督。夕食前の会話はこういう事だったのだ。期待している所をへし折る役目を図らずも請け負ってしまった。両者ともそのダメージは計り知れない。
「ちょっと待てアタラ、それは私の方も同様なのか?」
堪らず今度はリコが聞いてくる。彼女の目的は故郷の訪問だ。誤認されない服装をしてるとはいえ、攻撃される可能性は十分にある。
だが、新提督が答えた言葉は予想の斜め上だった。
「君の場合は少し特殊だリコ…。君の故郷の海域への途中に家村鎮守府の跡があるのを知っているか?」
「…いや、初めて聞いた。そうなのか?ワカバ」
いきなり話を振られ驚いたが事実なのでそうだと答えた。
「お前に初めて会いに行った時、あの場所を経由しなければならなかった。瓦礫の山だったが、多少片付けられてるのを覚えている」
「実は大淀事件の後、私もそこに訪れたんだ。大本営からの命令でその島はどのような形で利用できるか調べてほしいと依頼されてな。既に更地だったがそこで、
「人が利用していた痕跡…?」
「ああ。足跡や荷物を引きずっていた跡が目立っていた。ただそのときは遠征中の艦娘が休憩に利用していたのかもとしか考えなかったんだが…」
そこで新提督は一旦区切り、神妙な顔になって話し始めた。
「慰安施設襲撃の後、妙な胸騒ぎがして再びそこを訪れたんだ。そしたら新たな人の痕跡とともにあるものが置かれていた」
「あるもの…?」
「…
全員が息を呑んだ。なぜそのような物が更地となった島に置かれているんだ。
「おそらくは過激派によるリコの討伐だろう。とある記録からあの海域に目星をつけ、定期的に突破を試みていたんだと思われる」
「なんだと…」
「だが幸いにもソイツらが手にしたのは古い記録だったようだ。居もしない深海棲艦を探し続けいるんだからな。しかし油断は禁物だ」
フゥと息をついた後、リコに向き直る
「先生からはこの鎮守府跡の動向を探ってほしいと依頼を受けている。こちらも早期決着を目指している。どうか待っていてほしい」
「ああ…わかった…」
真っ直ぐに言われたらリコもそう返事するしかなかったようだ。
まさかあの慰安施設襲撃がここまで長く引きずるとは思いもしなかった。
不穏な空気からの始まりです。あの事件は未だに尾を引いています
加藤中将は本編中名前だけの登場としております
ガチ勢によるガチ捜査。早く捕まえてほしいものです
にしても始まりだけでめっちゃ時間かかった…。妄想だとすぐだけどいざ文章化すると「ここおかしくない?やり直し!」がバンバン出てきて気づいたら10時間以上経過…
毎日あれだけの文章を投稿されている作者様は本当にすごいことをされていると実感しました…
さてタイトル通りメインはあの二人です。まだちょろっとしか出てませんがこれからどんどん絡ませていきます
お楽しみに!