継ぎ接ぎだらけの中立区 ~赤き花の姫と小さな淑女~   作:猫又葉月

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その一撃は艦種を超えて

遂に始まった元施設組の合同演習。相手艦隊は来栖提督の鳳翔と唯一渡り合えると噂される龍驤含む実力者達。先制で空母隊の攻撃を受けそうになったが進化した巻雲の乱撃で見事乗り切り、その隙に朝霜が前衛として特攻。その攻撃は長門の鋼の肉体によって防がれてしまったが、それでも臆せず朝霜は攻め続ける。支援の到着までたった1人で大立ち回りを演じるのであった。

 

「クソ、ちょこまかとすばしっこい奴め…!」

「まるでmouseネー…!」

 

自身の攻撃を避けられ続け思わず悪態をついてしまう長門と金剛。近づかれれば艤装や砲身に棍棒を食らい、振り払って砲撃を試みようとすれば相方が巻き添えを食らいそうな位置にいつの間にか移動しているという始末。ならばと龍驤と飛龍が足止めの艦載機を向かわせるが、その効果も数秒だけで朝霜の乱射で撃ち落とされてしまう。そのため膠着状態が続いていた。

 

「金剛さんって言ったっけ?アンタも艤装ばかりじゃなくあたいの棍棒をその肉体で受けてみたらどうだ!」

「お断りネー!長門ォみたいにmuscleじゃないから私の柔肌じゃ傷ついちゃうヨ!そういうYouも私達の攻撃食らってさっさとretireしなサーイ!」

「それこそお断りだねぇ!」

「おい、今の会話で一瞬私の悪口が聞こえた気がするんだが」

「気の所為ネー」

 

等と口撃や軽口を叩き合いながらも一進一退の攻防が崩れない状況が続く。このままでは埒が明かないと舌打ちをした長門は空母隊に指示を出し始めた。

 

「おい、コイツは私達が相手するからお前達は残りの5人の殲滅に注力してくれ!」

「ウチはかまへんけどエエんか!?」

「構わん。さっきも言ったように柔な攻撃はこのビッグ7には通じん。それに今頃は北上と島風が暴れているはずだ。更に追い打ちを掛けてやれ!」

「しゃーないな!行くで飛龍!」

 

龍驤の掛け声に頷いた飛龍は先程の謎の狙撃手による一撃を食らったため、後ずさりをして少し警戒をしながら弓を構える。そして妨害が無いことを確認し続々と矢を放ち発艦を行った。同時に龍驤も巻物を広げ大量の艦載機を発艦。その数は先制で放った数よりは劣るものの『暗雲』に変わりはなく、今度こそ仲間達を殲滅せんと言わんばかりに向かっていった。

 

()()()の砲撃が無かったって事は向こうもちょっと慌ただしいのかねぇ。こりゃますます1人で頑張らないと、なっ!」

 

そう言いながら今度は長門の脚へ目掛けて棍棒を振るう朝霜。その勢いは普通ならへし折られ、そうでなくともバランスを崩してしまうのは必至な威力である。しかし当の長門は先程と同じく眉を少し動かしただけで全く微動だにしていなかった。

 

「なにやら支援を期待しているようだがその願いは叶わん。手間が掛かったが向こうも後少しでズタボロになるだろう。大人しく諦めて敗北に身を委ねろ」

 

棍棒を蹴りで払い除けた長門は冷めた目で降伏を勧告する。そしてそのまま砲身を朝霜へ向け砲弾が発射された。ギョッと一瞬顔を歪めて慌てて退避したその瞬間、元居た位置に着弾し大きな水柱が立つ。間一髪逃れた朝霜だったが、その威力を目の当たりにして怖気づくどころか逆に闘志を燃やし、ますます不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

「やなこった!好き勝手言ってくれてるがあたいの仲間達はそんなに柔じゃねぇ!逆に参ったって言わせてやらぁ!!」

「減らず口を…!」

 

勢い付く朝霜を見て長門は苦虫を噛み潰したような顔をする。その自信は何処から来るのか、全く理解できないと言った様相であった。

 

そして前衛は再び一進一退の攻防へ。その均衡が崩れるのはもう少し後の事である――。

 

 

 

少し時間を遡り、朝霜が前衛に向かった後の5人は夕雲と風雲、霰と巻雲そして暁の二手に分かれて戦っていた。

夕雲達が現在相手をしているのは島風である。砲撃しては自身の速力を活かし即離脱を繰り返すその戦法に2人は翻弄されていた。

防戦を強いられ、何とか隙を見つけ砲を構えるも照準から既に消えているを繰り返される。なかなか攻めに転じられずにいた。

 

「おっそーい!何処見て撃ってるのさ!」

 

等と煽りながら3体の謎の生き物から砲撃が次々と発射される。自立しながら動いている事からエコみたいな『生体艤装』なのだろうか。可愛らしい表情とは裏腹にその攻撃は割と凶悪で、2人は回避一辺倒を余儀なくされていた。

 

「ああもう、鬱陶しいわね!何時の間にか近づいて来て、撃とうと思ったら避けられて!」

「言葉で表すなら『一撃離脱』ですかね!駆逐艦最速の噂は伊達ではなかったという事でしょう!」

 

そんな島風の攻撃に対し風雲はイライラが募っているが、逆に夕雲は冷静に分析中。必死の形相ながらも打開策を考えているようだ。

 

「よく落ち着いていられるわね夕雲姉さんは!」

「こっちも避ける事に専念してますからそんな暇ないですよ!ほらまた来ました!」

 

夕雲の注意喚起で会話を中断したその直後にまたもや急接近する島風は砲撃を放ち2人を分断。通り過ぎた後に風雲は砲を構えるが結局は間に合わず直ぐに解除。忌々しいという表情で島風を睨みつけていた。

 

「もう島風(本体)狙わず生き物(艤装)に攻撃を絞る!?」

「的が多い分そっちの方がまだ可能性があるかもしれませんね!ですがあの3体の速度も彼女の動きに連動していますから一筋縄では行かないかと!」

「じゃあどうするってのさ!このままじゃジリ貧だよ!?」

 

叫ぶ風雲に対し夕雲はどうにかならないものかと顔を少し俯かせ思案。そこで何かに気付いたのかハッと顔を上げた。

 

「そうだ、この感覚――」

「戦場でボーッと突っ立ってるなんて余裕あるね!連装砲ちゃん、仕留めちゃえ!」

 

ここで何時の間にか急接近していた島風が夕雲目掛けて砲撃を繰り出す。慌てた夕雲が急いで回避を行ったが砲弾の一部が背中の艤装に掠ってしまったらしく、小さく火花を散らした後に黒煙を出し始めた。

 

『夕雲、小破』

「しまった…!」

 

破損を感知したセンサーが無機質な自動音声を鳴り響かせる。悪態をついた夕雲が振り返って砲を構えるが既に島風は離脱した後であった。

 

「姉さん、大丈夫!?」

「少し速度は落ちるでしょうが問題ありません!それより聞いて欲しい事が!」

 

心配で駆け寄った風雲を夕雲は手で制す。先程の思案で何かを掴んだようだ。

 

「風雲さん、彼女の速さはどこか()()()()と思いませんか?」

「…ハァ!?いきなり何言ってんのよ姉さん!」

 

突拍子もない発言に困惑する風雲。だが夕雲はお構いなしに続けていく。

 

「私達が施設に居た頃、誰に訓練を受けていました?」

「誰って…。鳳翔さんと足柄さんと羽黒さんと、あとは下呂大将の神風型の人達…?」

「なら何度も味わっている筈です!()()()()()()()()()、いえ、()()()()()()()()!」

 

夕雲の答えに訳が分からないと更に頭を悩ます風雲だったが、それと同時に()()()に受けていた訓練内容を徐々に思い出していく。

過去に味わった感覚を甦らせ、そして現在の状況に当てはめていく。結局は最後まで勝てないまま大淀事件が解決して()()()と別れてしまったが、今の自分達ならもしかしたら――。

 

「今度は2人揃って棒立ち?どんな作戦立ててるか知らないけど私の速さの前では無意味だってば!」

 

ここで島風が再接近し砲撃を放ちながら即離脱。慌てて退避した風雲に対し、今度はしっかりと避けた夕雲が自信に満ちた目で瞬時に照準を合わせる。

 

「思い出しましたか風雲さん?なら後は即実践です!」

 

そうして放たれた砲弾は真っ直ぐと向かっていき、移動中の島風の目の前を高速で通り抜けた。

 

「お゛うッ!?」

 

奇妙な声を放ち、突然起こった事態に急ブレーキを行った島風は慌てて周囲を確認する。そこには不敵な笑みを浮かべる夕雲と、初めて有効な攻撃を出した姉に驚く風雲の姿があった。

 

「…少し外しましたね。でも大体は掴めましたよ」

「ま、マグレだそんなの!適当に撃ったらたまたま私の近くに放てただけなんだから!」

 

攻略の糸口を把握できたと言わんばかりの夕雲に対し、島風は顔を真っ赤にしながら信じられないと首を横に振りながら否定する。まるで駄々を捏ねる子供のような姿を曝す島風に対し、夕雲は笑みを崩さず冷静に言葉を紡ぐ。

 

「先程がマグレと言うのなら、もう一度そのマグレを起こしてみせましょう。立て続けに起こればソレはマグレでなく『必然』です」

「~!!やれるもんならやってみな!!」

 

夕雲の宣告に地団駄を踏んだ島風は目に涙を浮かべながら再度急速接近。先程よりもスピードが上がっており、目にものを見せてやるといった気概がヒシヒシと感じられる。

だが夕雲はそれでも動じない。迫る脅威に臆すること無く隣の風雲に言葉を交わす。

 

「風雲さん、次はあなたです。さっきよりも速いですがやる事は一緒。冷静に見てれば必ず出来ます」

「お、オッケー。…そうよね、()()()()と比べたらあの速さなんて…!」

 

そう呟きながら再び向かってきた砲撃を今度は冷静に避け、風雲はその後直ぐに砲を構え照準を合わせる。今度は消えない。確実に届く――!

そして放たれた砲弾は『連装砲ちゃん』と呼ばれていた3体のうち1体に見事直撃。黒煙を出し、目がバツ印に変化した『連装砲ちゃん』はその場でふらつき始める。

 

『島風、小破』

「れ、連装砲ちゃんしっかり!?何で!何でさ!私の『駿足』には、絶対に追いつけないはずなのに!!」

 

慌てた島風はスピードを落とし気絶寸前の『連装砲ちゃん』を大事に抱え込む。そしてキッと2人を睨みつけて、有り得ないと言わんばかりに捲し立ててきた。

 

「追いつくのは無理ですね。あなたのスピードを私達は出すことは出来ませんから」

「でも対応出来ないとは言ってないわ。慣れれば見えてくるってのもあるけど、何より私達はアンタより速い『神速』を嫌って程味わっているんだから」

 

その2人の言葉に島風は目を見開く。最速を自負する自分よりも速い存在に衝撃を受け、信じられないと唇を震わせていた。

 

「う、ウソだ…。私より速い艦娘なんて…!」

「あら、信じられませんか?では過激派問題が片付いた後に()()()()()()へ演習申請してみてはどうでしょう?」

「下呂大将って言うんだけどね。そこの神風型の人達に私等ボコボコにされて鍛えられたのよ。多分アンタ達が束になっても敵わないんじゃないかな」

 

自分達の提督より階級が上、色々噂されるスゴイ人、そんな人の艦娘から訓練を受けた眼の前の2人。怒涛の情報が一気になだれ込み島風は頭の処理が追いつけずパンク寸前にまでなっていた。

そんな状態を知ってか知らずか、夕雲と風雲はニッと口角を上げて反撃を宣言する。

 

「さて、今まで好き勝手されましたけどもう通じませんからね?」

「防戦一方だったけど次は転じさせてもらうわ。ご自慢の『駿足』で時間一杯まで逃げおおせないと被害が増えるわよ!」

「ち、調子に乗るなぁぁぁ!!」

 

攻勢に出た2人に対し、先程と立場が変わってしまった島風は今度は狩られる側へ。涙目で砲撃を放ち牽制しながら、避ける事に専念をせざるを得ないのであった。

 

 

 

一方、残りの3人(霰・巻雲・暁)を相手していた北上は上手く行っていないこの状況に若干苛つき始めていた。

いつも行っていた戦法(勝利パターン)は巻雲の乱撃による空襲の一掃、自身の先制魚雷は暁によって対処、戦艦のトドメは朝霜を相手にしていてそれどころではない等、ことごとく回避されてしまっている。二手に分かれた相方の島風も、優位に立っていた状況がどうやらひっくり返されたらしいと横目で見ながら感じていた。

 

「でもこのスーパー北上さまはそう簡単にやられやしないよ?」

 

そう言いながら次々と魚雷を発射し、続いて砲撃を放つ。この砲弾は真っ直ぐ相手に向かっていくのもあれば、自身の放った一部の魚雷に当ててその爆発で水柱を起こし目眩ましをさせていた。その隙に更に魚雷と砲撃を行い北上だけが攻撃できるという一方的な光景が繰り広げられている。逆に巻雲達は、どの攻撃が襲ってくるのかその都度判断を迫られなかなか近寄れず足踏み状態に陥っていた。

 

「それにしてもあの駆逐艦、あんな遠くから当てる気あんのかねぇ」

 

そんな自身の好調の中でボヤいた北上は、視線を一瞬『その人物』へと向ける。『その人物』は時たま砲撃を放っては北上の足元手前やその周囲に着弾を繰り返しており、直撃には至っていない。見る人が見れば何かの意図を感じ取れるのだろうが、北上は問題ないと切り捨てていた。

 

「ビビってんのかそれとも下手なのか。どちらにせよ長門さんの言う通り『英雄』かどうかも疑わしいよ」

 

そう言いながら即座に取るに足らないと判断した北上は再び視線を目の前の2()()に向け、攻撃を続ける。その時、背後から大量のプロペラ音が響き渡るのを聞き取り、不敵な笑みを浮かべた。

 

「やーっと第二波が来たんだ。随分と遅かったじゃん」

 

迫りくる『暗雲』が再び襲いかかってくるのを見て、2()()は一言二言交わした直後、二手に分かれた。そのうちの1人、巻雲はその『暗雲』に向けて砲を構える。

 

「またアレ(弾幕)を放つ気?この北上さまの目の前でそう何度も同じ手をやらせるかっての!」

 

そう言いながらこれまで以上の魚雷を放つ北上は勝利を確信。弾幕を張っている間、身体を固定させて動けないのは先程で証明済みなのでこの魚雷は確実に巻雲に当たる。ふっ飛ばされて宙を舞っている間に自分の砲撃やあの『暗雲』が全員の始末をつける。これから起こることを想像しながら北上はほくそ笑んだ。

 

だがその瞬間、一つの砲弾が放たれ発射直後の魚雷に命中。爆発が起き、大量にばらまかれた魚雷が次々と誘爆を受け大規模な水柱に。その勢いをモロに食らった北上は逆に自分が高く宙を舞ってしまうのだった。

 

『北上、中破』

「どわぁっ!!??」

 

センサーが破損状態を周囲に響かせて伝える中、高く舞った北上の真下を二手に分かれた『もう1人』が高速で突っ切っていく。その先は『暗雲』だが『もう1人』が進む道を巻雲が弾幕で切り開きながら快晴へと戻し、朝霜が戦っている前衛へと向かわせていった。

 

「…誰だ!?一体誰が…!」

 

その後、重力落下を始めた北上は無事に着水できるよう何とか姿勢を制御させ必死の形相で辺りを見回す。誰が自分を撃ったのか、怒りと悔しさで頭が混乱しながらもその人物を探っていく。

巻雲は違う。彼女は空に砲身を向けていた。『もう1人』も違う。()()()()()()()()()()が撃ったのはソレだけだ。それに横目で見ていたが前だけ見据えこちらに砲を向けていなかった。

 

なら、残っているのは――。

 

「…アイツか!アイツが、あの距離からアタシに狙撃を…!?」

 

その視線の先に居たのは先程北上が問題ないと切り捨てた意外な人物。

 

釣りで鍛えた集中力を遺憾なく発揮し、長距離用に改造された主砲で北上の魚雷だけでなく飛龍の矢を撃ち落とした(狙撃手)が、モノクルを通して静かに前を見つめていた。

 

 

つまり、前衛に向かった『もう1人』の正体は――。

 

 

 

「Shit!またbarrageを出されたヨ!?」

「何やってるんだアイツ等は…!」

 

またしても大量の艦載機を蹴散らされた光景を見て長門は向かった2人(北上と島風)がしくじった事を悟り悪態をつく。そんな様子を見た朝霜はどうだと言わんばかりの笑顔で棍棒を振るいながら長門に語りかける。

 

「言ったろ!?あたいの仲間達はそんなに柔じゃないってな!そろそろ実力を認めても良いと思うんだが、ねっ!」

 

そう言いながら再び砲身へ打撃を与える朝霜だが相変わらずビクともしない。そんな何度も繰り返された自身への効かない攻撃にいい加減嫌気が差し始めた長門は思わずため息を吐く。

 

「…いいだろう、認めよう。お前の仲間の実力も、諦めの悪さも、私達にとって厄介この上ない事だと」

 

そう言い放った後、再び冷めた目で「だがなっ!」と声を荒げながら続ける。

 

「それでも私達の優位は揺るがない!仮に援軍で誰が来ようとも所詮は駆逐艦、このビッグ7の身体は決して傷付かん!無駄な足掻きは止めることだ!!」

 

そして砲身を振るって棍棒を弾きながら長門は主砲を発射。何とか回避した朝霜だったが、砲弾の着水の衝撃で姿勢の制御が出来ず若干ふらついてしまう。4人相手に1人で暴れていたツケがここで回ってきたようだ。

 

「Oh、そろそろstamina切れデスカ?」

「無意味な攻撃を重ねて動き回ってたんだ。当然の結果と言えよう」

 

朝霜の状況を感じ取った金剛の横で長門が辛辣に言い放つ。そしてその後ろで龍驤が巻物を取り出しトドメを刺す準備を行い、それに呼応するように飛龍が弓を構え、長門と金剛は主砲を朝霜に向けた。

 

「私達をここまで翻弄したんだ。称賛に値するよ」

「ナイスガッツでしたネー。でももうお終いデス。後はゆっくり眠りナサイ?」

 

感心する素振りを見せつつも諦めろと諭し勝利宣言を下す2人だが、朝霜の不敵な笑みは一向に崩れない。それどころか、散々見下してきたお返しと言わんばかりに口角を更に上げ歯を覗かせながらある言葉を発した。

 

「『相手が勝ち誇った時、ソイツは既に敗北している』」

「…何?」

 

眉をピクリと動かした長門が反応するが、お構いなしに朝霜は続ける。

 

「あたいが図書室で見つけたとある漫画のセリフさ。策に長けたジイさんが調子こいた相手を見事に罠に嵌めるんだ。カッコいいだろ?」

 

クックッと笑う朝霜のその様子に全員の背筋が凍る。この絶体絶命の状況で、尚も諦めていない朝霜は異様な不気味さを醸し出していた。

 

「まああたいは策を思いつくほど頭は良くないから、出来ることなんて仲間を信じて自分も精一杯戦う事だけさ。でもなアンタら、駆逐艦を見下して、上から目線で語って、あたいの攻撃を無駄や無意味だと言い切って、挙句の果てには慰めにもならない言葉の後の勝利宣言だ。もう笑っちまうぐらいにセリフ通りで、自らが過ちを犯してるのに気付いちゃいねぇ」

 

その瞬間、はるか後方の仲間達がいる場所から1発の砲撃音が鳴り響き、それから少し遅れて()()()()()()で3発の砲弾が連続で放たれた。

 

「あたい達を嘗めすぎた事を後悔しな」

 

冷徹な目をした朝霜が言葉を放った直後、『1人の人物』が朝霜の横を高速で通り過ぎる。同時に(狙撃手)の砲弾は飛龍の弓を弾き飛ばし、残り3つの砲弾はそれぞれ金剛と長門の主砲を朝霜から逸らし、龍驤の飛行甲板で準備していた式神達を薙ぎ払っていった。

 

「なっ…!?」

「遅せぇぜ!()()()()()()()()()よぉ!!」

 

そう朝霜が言い放った瞬間、何時の間にか長門の懐に潜り込んだ暁は渾身のケンカキックを脇腹に炸裂。咄嗟のガードも出来ずに強力な一撃を見事に食らった長門は、芯まで響く衝撃をモロに受けくの字になって真横に吹っ飛んでいく。直ぐ側に居た金剛は突然の事態に反応できず、蹴っ飛ばされた長門の巻き添えを食らいもみくちゃとなってしまった。

 

「ガッ…!?ゲホッゴホッ…!!」

「ギャオッ!?な、長門ォ、しっかりするネー!」

 

何とか体勢を立て直し長門を支える金剛だが、当の本人は肺の中の空気を一気に出されて咳き込んでしまいそれどころではない。そんな中、センサーから自動音声が鳴り響く。

 

『長門、中破』

「ゴホッ…!ば、馬鹿な…!?」

 

何とか呼吸を整えた長門や他の3人がその判定に目を見開き戦慄する。つまりこれは、艤装の扱いに多大な支障をきたし、更には時間経過による回復が不可能な所まで身体が深刻なダメージを受けた事を意味していた。

 

「オイオイ、小破じゃなくいきなり中破判定って、どんな特訓受けたらそうなるんだよ?」

「文字通りぶっ倒れるまでかしら?」

 

苦笑する朝霜の隣に立った暁は平然とした顔であっけらかんと言い放つ。この10日間でリコから相当しごかれたらしく、直伝の技に限っては本家と遜色無いぐらいまで威力が向上したらしい。

 

「とりあえず遅れて悪かったわね。向こう(夕雲達)はもう大丈夫だから私達はガンガン攻めるわよ!」

「頼もしいねぇ!んじゃ、あたいも引き続き暴れ回るとしますか!!」

 

そう言いながらお互いニッと笑い、拳を合わせた2人は散開する。目指すは勝利、その一点へひたすら突き進む。

 

反撃の狼煙が、今上がったのだ。




お待たせしました。第12話です。

今回も割と早めに書けた気が。でも相変わらず会話文が多い…。
向こうも熱い展開が続いているのでこっちも頑張ろう!…と意気込んで書きましたが、やはり技量の足りなさを痛感します。

結構すんなり書けたのが北上戦です。誰がどんな役割をしてたのかぼかす描写を考えるのが楽しかったですね。多分皆様にはバレバレだったかもしれないけど…。
逆に苦労したのが朝霜の活躍。あのセリフは急にポンと浮かび上がりました。本来の使われ方とは違うかもしれませんが、長門の言動があまりにアレだったのでまあ大丈夫かなと。
そして暁の登場。主役は遅れてやってくる。回転蹴りか迷ったけど結局ケンカキックにしました。綾波戦リスペクトです。当時あの展開は本当に驚きました。

次回はいよいよ決着。ですがその次の話の展開を考えると、今度は文章量が短くなるかもしれません。ですが決して手を抜くこと無く、ちゃんと描ききるので楽しみに待っていて下さい。
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