継ぎ接ぎだらけの中立区 ~赤き花の姫と小さな淑女~   作:猫又葉月

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姉たちの涙

本日行われた新提督の視察。何事もなく終わりいざ帰投しようとしたそのとき急な嵐が来ることがわかったため施設に泊まることになった。その日の夕食後に明かされた衝撃の内容。なんと慰安施設を襲撃した提督の影響で各鎮守府の交流が禁止された。問題なしと判断されたところも近海のみと決められたので有明鎮守府に訪れる計画を立てていた赤城と翔鶴は中止せざるを得なくなり愕然。更には私、若葉が生まれた家村鎮守府跡に人が利用していた痕跡がありつい最近では武器と弾薬が置かれていたのである。おそらくはリコの討伐を狙ったものであるため、リコの故郷への訪問も見送ることとなってしまった。

 

重苦しい空気が流れる中、摩耶が口を開いた。

 

「…ってことはよ、ここも危ないってことになるのか?」

 

当然の疑問である。思想のためならなりふり構わず慰安施設をも襲撃して来るような連中だ。リコや私といった近接戦闘に長けている者を除いて武装は水鉄砲ぐらいしかないため防衛には心許ない。人数にもよるが良くて苦戦、最悪全滅は免れない。

だが新提督はおそらく大丈夫だと言う。

 

「ここは中立区だ。事情を知らぬ者はわざわざ深海棲艦が出ることのないこの区域まで出向く理由がないし、仮に知っていても近海には来栖大佐が眼を光らせているし、先生や私といった大本営が密接に関わっている。藪をつついて蛇を出す行為は自滅につながると自覚しているため、連中はコソコソと行動するしかないんだ」

 

だがそこに新たな疑問が生まれる。

 

「そしたらあの男は何なんだ。綿密に計画を立てていたんだろうが、大本営が管理する施設であんな事しでかしたら只じゃすまないことぐらいわかるはずだ。実際蛇どころかそれ以上のものに圧巻されてたぞ」

 

それ以上のものとはもちろん加藤中将。朝潮たちには申し訳ない表現をしたが暗殺成功の図が思い浮かばない。危ない場面はあったが下呂大将とはまた違った意味でどうにかできてた気がする。仮に成功しても後処理とか隠蔽の類は可能だったのだろうか。

 

「それについてなんだがな…、こう表現するのは不適切かもしれんが、襲撃はあの男の勇み足だったようだ」

「…なんだと?」

「尋問によると、内部のスパイから加藤中将が施設に泊まるとの情報を得た際に複数の過激派と面談して襲撃の計画を立てようとしたそうだ」

 

だが他の者達はその男の計画には乗り気ではなかったようだ。曰く『彼に挑むのは無謀すぎる』『関係ない者たちを巻き込むのは本意ではない』『帰り際のほうが隠蔽しやすいのでは』『バレたら自分たちの存在が明るみになる』、挙げ句の果てには『別の日にしてはどうか』と言った意見まで出たそうだ。この発言で男は憤慨、彼らを『腑抜け』『弱腰』などと罵り独断で実行したのであった。

 

「その結果失敗に至ったということだ。若葉たちが泊まりに来ることや特殊な力について知らなかったのも大きい。艦隊司令部の場所や隠し武器を知られたのは予想外だと嘆いていたよ」

 

つまり反省の色未だになしか。更生にも時間がかかりそうだ。

 

「襲撃失敗の報は外部には漏れていない。この事実が知られる前に我々は方を付けるつもりだ。だが万が一のことがあるため、来栖大佐には先生を通じてしばらく中立区の警備を行ってもらうことにした。昼と夜のローテーションで行われる」

「…僕は来栖から何も聞かされていないんですが?」

「もともとは先生が大本営に相談して私が出発する前に許可がおりたそうだ。来栖大佐も急な話だったが快く承諾してくれた。話すタイミングが遅れてそちらへは事後承諾という形になってしまったのは本当に申し訳ない」

 

急な事で飛鳥医師が若干の不満を述べ、頭を下げる。それと、と新提督は続ける。

 

「来栖鎮守府の演習場など各設備を君たちが自由に使えるようになった。あちらへの移動は連絡を入れれば警備の者が護衛としてついて向こうに連れて行ってくれる。名目上は万が一の事態に備え自衛のために己を鍛える目的となっているが、体が鈍らないための運動場代わりや、あちらとの交流を深めるなどで好きに利用しても良いとのことだ。これについては大本営への許可は要らず、来栖大佐に一任してある。私も先生もしばらくは忙しくなるからな」

 

これに大きく反応したのがリコだ。初代大淀を倒したあと、伊勢を治療した際に横槍無しの1対1(タイマン)による再戦を望まれていた。故郷に行けない鬱憤をここで晴らそうと考えているのだろう。

 

「…鳳翔さんに愚痴でも聞いてもらおうかしら?」

「私もお供しますよ赤城さん。…今回の件色々とぶちまけたいです」

 

続いて旧友と妹に会えなくなった二人の空母。ストレスを溜め込むよりはそのほうが良いのだろう。

 

「私は向こうの海も散歩したいな―。あの頃は色々あって出来なかったもんねぇ」

「私もエコの散歩をしてみたいな。これにも護衛を付ける感じ?」

「ああ、ガチガチではないが最低限規律は守らなければならない」

「別に構わないよ。見知った人たちばかりだし、エコも喜ぶよ」

「フフ…。ローたちと楽しもうね…クロちゃん」

 

クロシロにセスも参戦。普段と違う海や散歩道を仲間と行くことに昂揚しているようだ。

 

「私も久しぶりに鳳翔さんに会いたいわ!お料理のレパートリー増やしたいもの!」

「今でも十分に多いでしょうが…」

「あの人に比べたらまだまだよ!そういうボノはどうするの?」

「あー…アッチでの釣りってまだ行ってないポイントあるのよね。2度目の襲撃で全部燃やされたしバタバタしてたし…」

 

乗り気の雷に赤城と翔鶴が目を輝かした。とんだ食欲魔神だ。

曙も発言こそ迷ってはいるが匂いでは行く方向に傾いているのがわかる。

 

初霜も慕っていた如月に会いたいと言っていた。付き添いの姉もそれに同調。

 

「三日月はどうする。若葉(ボク)は義姉たちや施設の仲間たちと久しぶりに会いたいと思っている」

「私も同じかな。私の顔について報告もしたいしね」

「決まりだな」

 

私と三日月も行くことに。明るくなった三日月を見てどんな反応をするだろうか。

 

「あー、あたしはパス。さすがに施設を空っぽにするのはマズイだろ」

「私も摩耶と一緒に二人の護衛に専念するわ。警備の人たちもいるけど任せっきりにするのはちょっとね…」

 

二人は施設護衛のため残ることに。その代わり楽しんでいってほしいと言われた。

 

「よし、医者よ早速連絡とっとけ。大所帯が向かうとな」

「まてまてまて、まずは明日のゴミ拾いからだ。この嵐だから明日は多くなるぞ」

 

ノリノリのリコに飛鳥医師が諌める。暗い話題から一転食堂は笑いに包まれた。

 

 

夜が明けて翌日、起きたときはまだ小雨が降っていたが朝食後にはすっかり晴れていた。

外に出ると、飛鳥医師が言っていた通りかなりのゴミが漂着していた。前回より多いんじゃないかコレはと思うほどだ。

 

「すみません、手伝ってもらって…」

「構わないさ。泊めてもらった恩は返さなければな。それに最近は例の事件で事務作業に追われて土弄りも出来てなかったからいい運動さ」

「にしてもすっごいねーコレ。どんだけ流れ着いてんのさ…」

 

今回は新提督も参加だ。隣の瑞鳳は普段とは違う海岸を見て唖然としている。少し離れたところでは三人の大淀が談笑しながらゴミを拾っていた。昨晩不安定だった精神もだいぶ落ち着いたようだ。

 

「ちょっと前まではコレ全部宝の山だったんだよ!」

「そうか、君たちの艤装はここから組み立てたんだったか」

「少しずつ…少しずつ組み立ててやっと完成したんだ…。どれぐらい…かかっちゃたかな…」

 

クロシロはしみじみとあの頃を思い出す。大淀たちに襲われ破壊され、形になってきたものを襲撃でまた破壊され、それから何日もかけてやっと完成した代物だ。その労をねぎらうかのように新提督は二人の頭を優しくなでた。

 

廃材や鋼材を袋に詰め込み施設へ往復。私が流れ着いて初めて行ったときは丸一日かかっていたが今回の作業は午前中までになんとか終わらせることができた。ちなみに深海棲艦の亡骸は二体ほど見つかったらしい。もう私達に使われることなど殆ど無いだろうが、しっかりと供養して医師二人のさらなる研究へと使われることになるだろう。

 

 

昼食後、第二二駆逐隊が鋼材を運ぶためにやってきた。大発動艇には前回と同じく暁も乗り込んでいる。

 

「飛鳥せんせー、遠征部隊、来ました〜」

「ああ、いつもご苦労さま」

 

相変わらずの間延びした声に飛鳥医師が応え、運ぶ準備を行う。

 

「姉さん、お久しぶりです」

「わっ!三日月ちゃん、顔が…!」

「はい、先生に治してもらいました」

 

ニッコリと笑う三日月。その瞬間、文月の目からポロポロと涙がこぼれだした。

 

「よかったぁ…よがっだよぉぉ…」

「ね、姉さん…!?」

「ふづうにお話でぎるようになっだけど…やっぱつらそうにしでるのがわがっぢゃってぇ…。だがら、だがら笑顔になってぐれだのがうれじくてぇ…」

「姉さん…私はもう大丈夫ですから…」

「三日月ぢゃぁぁぁん!!」

 

文月が三日月を抱きしめ大泣きを始めた。最初に出会った頃とは逆の光景だ。皐月も水無月も涙ぐんでいる。長月にいたっては号泣だ。後から降りてきた暁は一瞬状況が理解出来ないでいたが、三日月の顔を見て察したようだ。コソッと雷に話しかける。

 

「もしかして…」

「うん。三日月の顔が治ったのよ、お姉ちゃん」

「そう…。良かったわね、三日月…」

 

そう言うと暁もまたうっすらと涙を浮かべた。

 

 

文月たちが落ち着いた後、作業が再開された。続々と大発動艇に運び込み、1時間もしないうちに終了。後は自由時間となった。

ちょうど3時になったので全員食堂へ移動。雷がクッキーを、蝦尾女史がお茶を用意して談笑が始まった。ちなみに新提督は第二二駆逐隊とほぼ同じぐらいに帰投するという。暁はリコと話し込んでいた。故郷の訪問については事件の影響で延期になったと聞いたときは残念がったが、解決後は必ず連れて行くと約束され、笑顔で楽しみにしてると応えていた。

その直後、何かを思い出したのか暁はリコの袖を引っ張りながら興奮気味に話し始めた。

 

「そうだ!あのね!リコさん聞いて聞いて!!」

「何だアカツキ忙しないな。一体どうしたんだ」

 

諌めながらも穏やかな表情のリコ。まるで親子のようだ。

 

「私ね、合同演習に参加することになったの!」

 

 

 

 

 

 




遅れましたがやっとこさ次話投稿…
今回もぶっ通しです。前回よりは時間的にマシかな?
妄想は捗るのに文章化は相変わらず進まない…。まだまだ長いですがお付き合いお願いします。

妹を気にかけていた姉たちの涙。ケッコン報告で見せたかもしれないものとはまた違うこの笑顔は、文月たちにとって印象深いものとなるでしょう。

さて合同演習…一体どうなるのか。

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