継ぎ接ぎだらけの中立区 ~赤き花の姫と小さな淑女~   作:猫又葉月

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演習の概要

嵐の後のゴミ拾いを終えた私、若葉と施設の仲間たちは現在食堂でお茶会を楽しんでいる。

鋼材を引き取りに来た第二二駆逐隊が顔が治った三日月を見て感極まるという場面があったが、今は共に和気あいあいと談笑をしている。

暁はリコと話し込んでいたが、何かを思い出したのか興奮しながらこう言い放った。

 

「私ね、合同演習に参加することになったの!」

 

 

突如放たれた言葉にピンとこなかったのか、リコは疑問符を浮かべたような顔になった。私も思考回路が一瞬止まってしまった。再び動き出した時、その意味を考え始める。言葉通りなら演習を合同で行うという意味だが――

 

「あ、あれ…?」

 

思った反応が返ってこなかったのか困惑する暁。その表情を見たリコは少し困った顔をしながら取り繕うように言った。

 

「ああすまん。いきなり言われたから反応ができなかった。それは一体どういうやつなんだ?」

 

それを聞いた暁はそれもそうかと説明を始めようとする。

 

「えっと、えっとね――」

「合同演習というのは大本営主催による、各鎮守府との交流を兼ねた大規模演習の事だ」

 

興奮してうまく説明ができなかった暁に代わり新提督が助け舟を出した。

 

「年に数回、指定した鎮守府を会場にして複数の鎮守府が演習を行う。艦娘同士が切磋琢磨と競い合う場だけでなく、提督同士も新人がベテラン勢から戦術や教育の方針を学んだり、海域攻略についてアドバイスが貰える貴重な場だ。ああ、そういえば今回の会場は来栖鎮守府だったか」

 

会場は固定ではなくローテーション。参加する鎮守府も同様だそうだ。多種多様な戦術に触れ、己を高め合い、相手を称え合い、共に海の平和を取り戻す。そういった意味合いが込められたのが合同演習だという。ちなみに費用と資材は大本営持ちだとか。

 

「来栖鎮守府は戦果はもちろん、個々の強さや艦娘への思いやり、人柄などが各方面から評価されており是非とも演習をという要望が多かったんだ。だがここ数ヶ月は大淀関係で参加できずにいた。今回は久々の復帰という事だな」

「だが大丈夫なのか?あの事件で過激派が判明した今、このタイミングは危険なのでは」

 

当然の疑問を私はぶつける。だが新提督はそこは対策済みだという。

 

「今回参加するのはローテーションではなく先生、元帥、加藤中将の三人が厳選して疑い無しと判明した真っ当な鎮守府だ。そもそも疑いがかかっている所は通達すらいっていない」

 

過激派対策の三人が直々に指名したのなら確かに安心だ。さらには中立区の現状も説明済みだという。穏健な深海棲艦について理解があるのとないのとでは天と地の差がある。

 

「更に今回のこの演習はガス抜きの意味も込められている。交流は近海のみと設定したのは我々大本営だからな。疑い無しとはいえ行動を制限されるのは不満が募るはずだ。…とこれでよかったかな?」

「えっ、ええそうよ!そういうことなのよリコさん!」

「ああ、大体の概要はわかった」

 

ほとんど新提督が説明をしてくれたため、最後においしい所をドヤ顔で言い放った暁であった。そのやり取りにリコは苦笑する。

出場メンバーは第二二駆逐隊に足柄と如月、第二四駆逐隊に羽黒と綾波、そして姉を除いた第九二駆逐隊に巻雲、朝霜、暁のリザーバーを加えた元施設組の3チームで挑むという。鳳翔はどうするのだろうか。ケッコン艦で鎮守府最強の戦力なのだから各方面から手合わせを願われそうなものだが。

 

「鳳翔さんは裏方ね。会場がウチだから司令官と一緒に運営の方に力を入れるそうよ。伊勢さんと日向さんもそのお手伝いね」

 

会場が他だった場合は出場していたかもしれないという。あの圧倒的な力を体験できないのは勿体ないものだと私は思う。

 

「アカツキたちは強敵と戦うのか」

「そうよ!各鎮守府の最高戦力たちが勢揃いするの!」

 

まれに新人艦への場慣れを目的としたり、鎮守府内で中堅ぐらいの実力を持つ者たちが自身のステップアップのために出場する事もあるのだとか。その際は組む相手もある程度考慮されるらしい。だが大体は最高戦力のぶつけ合いが主だそうだ。なんだかお披露目会的な面が強そうな気がするが、そこに慢心はなく、勝利あるいは敗北から何を学び取り次に活かすのかが重要なのだろう。

 

「リコさんは明日、伊勢さんと対戦するのよね?」

「ああ。本当は今日行きたかったんだが」

 

そう言ってちらっと横目で飛鳥医師を見ていたが、苦笑いで首を横に振られていた。この時間からは流石にもう遅いだろう。

 

「それでね、その後で良いんだけど…また、私を特訓してもらえるかしら?」

 

おずおずと尋ねる暁。その顔は不安で曇り気味だ。何か心配事でもあるのだろうか。

 

「ああ、良いぞ。衆目の中で戦うんだろ。だったら誰に見せても恥ずかしくないぐらいまで鍛えてやる」

 

当のリコはそんな暁の様子を知ってか知らずかあっさりと了承した。即断である。

 

「い、いいの?」

「他ならぬ弟子(アカツキ)の頼みだからな。何か問題か?」

「だって…指輪もらうまで練度高めちゃったし…、所属が違うから断られるかと思って…」

 

決死で戦う相手(大淀)がいないのだからもう必要ないのではないか。それに中立区の者が戦いを指導するのも問題があるかもしれないから断られるのではないか。暁はそう思い悩んでいた。

 

「お前は指輪がゴールだったのか?」

「そんな訳ないじゃない!もっともっと強くなって、海の平和を取り戻すのよ!」

「その言葉を聞いて安心したぞ。慢心は己を弱くする。先を見据えてるお前からは確固たる決意を感じ取ったから私もそれに応える義務がある」

「所属の違いについても問題ない。彼女はあの事件の立役者だ。無下な扱いはしないさ」

 

リコの問いに暁が反論。その答えに満足したのか薄く笑いながら頭を撫でた。新提督のフォローも入った為、特訓は問題なしと判断された。

笑みを浮かべ心地よさそうにする暁だったが、みんなが見ていることに気づいたのか途端に顔を真っ赤にして撫でている手を掴んで強制終了させた。

 

「もう!私は立派なレディなんだから子供扱いしないでよ!」

「そうだったな。お前は一人前のレディだ」

「分かれば良いのよ!…みんなが見てないところならまたしてほしいけど…

「なんだ、聞こえなかったぞ」

「あっ、ちょっ、今度は逆の手で!?もぉぉぉ!!」

 

再び撫でられる暁である。微笑ましく見ていた周囲の視線でさらに真っ赤になっていたのであった。

 

 

そのやりとりから数十分後、お茶会は終了し両陣営は帰投することになった。

 

「では明日迎えに行きますので~。10時ぐらいで大丈夫ですか?」

「ああ、それぐらいで頼む。みんなもそれでいいな?」

 

飛鳥医師の言葉に私達は頷く。朝食後にちょっとした準備をするぐらいだ。そんなに時間はかからない。

 

「私達も帰投するよ。泊まるだけでなくお茶もご馳走になった。ちょっとした休暇を過ごせた気分だ」

 

続いて新提督。ゴミ拾いが休暇になるのかは疑問だが土弄りが出来てなかったと言っていたから気分転換にはなったのだろう。

 

「これから忙しくなる。次にここに来るのは過激派の件が片付いてからだな」

「体調には気を付けてくださいね。先生にも伝えてください」

「あの人はそう言っても動き続けるからなぁ…」

 

そう言いながら二人は苦笑した。たしかに下呂大将はそんなイメージだ。というか大淀の件からでもそうだが、休んでる素振りが全く見えない。ある意味飛鳥医師と似た者同士ではないのか。

それから数分後に両陣営はそれぞれの場所へと帰っていった。

 

 

その夜、私達は久しぶりに夢に呼び出された。新婚旅行の時以来か。

 

『チ級はさ、そろそろ慣れるべきなんだと思うんだよね』

『毎晩のことなんだから抵抗もなくなるっぽい』

 

のっけからなんという会話をしているんだ。シグとぽいに挟まれたチ級は顔を真っ赤にして縮こまっている。格上の姫級二人から詰められるのはパワハラじゃなかろうか。あまりに不憫なので私達は助け舟を出すことにする。

 

「おい、そこまでにしておけ」

「若葉の言う通りよ。私達が見せちゃってるんだからチ級さんは悪くありません」

 

私が二人に割り込み、驚いてる隙に三日月がチ級を抱き寄せて少し引き離した。その気遣いもまた愛おしい。

 

『いやぁ、毎度毎度目をそらしたり真っ赤にしちゃってるからさぁ』

『何時まで経ってもウブっぽい。ついからかいたくなるっぽい!』

「つい、じゃないだろ。つい、じゃ。一応姫級なんだから自覚を持て。いじめにしか見えんかったぞ」

「からかうのは私達だけにしてくださいよ…。それで、今日は何かあったんですか?」

 

とりあえず強引に話題を変えてみる。大淀事件後は雑談で呼び出されることもあったが、今回は少し違ったような気がした。

 

『うーん、過激派の件がまだ解決してないのが残念だったのがあるけど…』

『それ以上にぽい達は合同演習について語りたいの!懐かしい響きっぽい!』

 

ぽいが目を爛々と輝かせ、シグもうんうんと笑顔で頷いている。そういえばもともと二人は家村鎮守府の出身だった。経験があるのかもしれない。

 

「二人は参加したのか?」

『2回ほどね。大淀(初代)の悪事がまだ提督にバレてない頃だったかなぁ。いやぁあの頃は楽しかった』

『色んな人達が沢山集まってるっぽい!いい刺激になったっぽい!』

 

しみじみと語るシグに、さらに興奮するぽい。少し嫌な過去(大淀関係)を思い出させてしまったかと心配したが、特に気にして無いようなので続けてもらうことにした。

 

(ボク)が一番印象的だったのが同じ艦なのに動きや役割などの戦略がまるっきり違ったところかな。片や前衛、片や後衛みたいな感じだね。ここで提督達の個性というか色がはっきり出てくるんだ』

 

例えるなら相手方に砲撃主体でフォローに徹する若葉()と、近接武器を持ち相手に突撃する三日月が表れた感じか。なるほど、それは確かに新鮮だ。鳳翔に鍛えてもらう際に、与えられた役割がもし逆だったならこのような未来を進んでいた可能性もありうる。

 

「ぽいちゃんは何かあるの?」

『私はねー、実力が拮抗した時のせめぎ合いが好きっぽい!制限時間ギリギリでお互い無傷な時の、ちょっとでも当たったら負けが決まる駆け引きとか手に汗握って堪らないの!あとは逆転劇も良いね!私も何回か経験あるっぽい!』

『君はそういうの好きそうだなぁ』

 

シグが苦笑する。ぽいは追い詰められたら燃えて力を発揮するタイプか。あとは観客視点で純粋に演習を楽しんでいるのを感じた。

 

『あー…戦略といえば何か変なやつがいたなぁ』

「変なやつ?」

『私も思い出した!頭おかしいやつでしょ?』

『もう少しオブラートに包めないかなぁ、ぽいは。わからなくもないけど』

 

そう話す二人の顔はほんの少しだけ曇っていた。何かあったのだろうか。

 

(ボク)達は遭わなかったけど、他人の戦い方に苦言を呈する連中がいたのさ。やれこうすれば勝てたのに―、とか。あの場面であの動きはありえない―、とか。いちゃもんだねアレは』

『勝った相手がアドバイスならまだ分かるけど、なんの関係もない第三者が言ってくるの。見てるだけで腹が立つっぽい!』

 

プンスカと怒るぽいにシグも同意する。もう少し詳しく聞くと、演習を見ていた連中がわざわざ負けたチームにやってきてアドバイスという名の説教をかましてくるそうだ。一通り喋り尽くしたら満足して帰っていく。まるで台風のような存在だ。聞かされたチームはいきなりの事態に対処できず、また負けたという事実も重なってか、なんとなく納得したり、更に落ち込んだりと様々な爪痕を残している。たちが悪いことに、その連中は自分たちより勝手に格下認定したチームにだけいちゃもんをつけているのではないかとシグは分析する。強い者には手を出さないのがなんとも小物だ。

 

「そいつらは何様のつもりなんだ。ほんと胸クソ悪い連中だ。だがおとなしく聞いてるばっかりじゃなかったんだろ?」

『当然反論する子たちもいたよ。その時のアイツら鳩が豆鉄砲を食ったような顔してたね。何で言い返されないって思っていたのか不思議でしょうがないよ』

『でもその後ヤバかったっぽい。険悪な空気になってその場にいた子たちでそれぞれの提督を呼びに行ったっぽい』

「それでどうなったの?」

 

恐る恐る三日月が尋ねる。二人の顔を見るにあまり良くない結末か。

 

『時既に遅しだったね。両者が来たときにはもう殴り合いに発展してたよ。(ボク)達も止めようとしたけどコレがなかなかねぇ…。結局提督達が割って入って強制終了。この事態は大本営の耳に入り煽った方は1ヶ月鎮守府の活動停止。殴った方も1週間の該当艦娘の出動停止が下されたんだ』

「クソな連中はともかく被害者の方もか?」

『手を出したのがいけなかったみたいだね。でも殴られてもしょうがないよ。連中、被害者の提督批判まで口にしたからね。その場にいた(ボク)達の証言がなかったらもっと重かったはずだ。コレでも温情がかけられているんだよ』

 

唖然とするしかなかった。自分たちだけでなく提督(尊敬する者)をけなされて平気でいられるはずがない。私だって施設の仲間をコケにされたら手を出さない自信がない。それは三日月だって一緒だ。だが行動に移せば連中と同じとみなされ処分が下される。シグ達を含めた複数の証言が彼女たちを救ったのだ。

 

『ただこれではいけないって議題になったみたいでね。2回目の参加の時にとりあえずは抑止力として大本営の人が一人派遣されてきたんだ』

『でも頭おかしいやつって一定以上いるっぽい。あれだけの事があったのに別の連中がまたやらかしたの』

 

だが今回は前にあったことを踏まえてか、煽られても平然としていたとか。その光景を見て件の連中はますますヒートアップ。前回と同じく提督批判まで繰り出してしまった。それでも彼女たちは我慢したのだ。内心腸が煮えくり返っただろうに耐えていたのは本当に感服する。

 

『その間に周囲のみんなは両者の提督だけでなく、大本営の人も呼び出したんだ。そしたら連中どうしたと思う?チャンスだと言わんばかりに相手の負けた理由を聞いてもいないのにつらつらと並べ始めたんだ』

『本当に腹が立ったっぽい!でもね…その後が…』

 

憤っていたぽいが口元を抑え急にプルプルしだした。シグもクックっと笑いを堪えている。

 

『ドヤ顔で言い終えた後こう返されたんだ。「ならこの後エキシビジョンを行いましょう。君たちの手で鍛えてあげなさい」ってね。その時の連中の顔といったらそれはもう…』

『提督ったら顔が超真っ青で、アイツらも「いやそれはちょっと」とか「私達これから忙しいんで」とか慌て始めたけど大本営の人「いや君たちこの後演習入ってないでしょう」ってズバッと返されちゃって』

 

その直後シグがゲラゲラと腹を抱え爆笑し始め、ぽいも我慢できずに崩壊してしまった。今まで二人のこんな姿を見たことがなかった為、チ級含め私達は困惑して動けなくなってしまった。だがそれと同時に察することができた。つまり連中は口だけで実力が全く伴っていなかったのだ。おそらく1回目の連中も同じなのだろう。

 

『新さんがさ、中堅ぐらいの実力を持つ人も参加するって言ってたでしょ?その中に稀にいるらしいんだよ。戦い慣れしちゃって他人の粗探しを始める連中が。アイツらもそれだったんだ』

 

なんとか復帰したシグが解説する。新人は初めての経験に気合を入れているし、実力者は慢心は死に近づくというのを嫌というほど知っているためそういった態度は絶対に出さない。だがある程度の場数を踏んだ中堅者はそこそこ戦い慣れて目が肥えてしまったのか、他人を品評したがる今回のような連中が稀に出てくるのだという。

 

「ちなみに結果は」

『分かってて聞いてるんだろ?もちろん煽った連中はボコボコにされてたよ。涙目でごめんなさいしてる姿は痛快だったなぁ』

『他人をなめ腐ってる輩って自分たちの実力棚に上げてバカにすることに注力してるんだよねー。そんなことする暇あったら強くなるよう努力するっぽい』

「なんというか凄まじいね…」

 

ちなみにシグ達が参加していない合同演習でも同じ試みを行った結果、例外なく煽った連中が負けていたという。そのおかげでいちゃもんをつける連中はかなり減ったのだとか。

 

『今回行われるのは過激派対策の三人が厳選したところなんだよね?だったら大丈夫じゃないかな』

「だが油断はしないほうが良いな。大本営がバタバタしてる今、来栖提督がトラブルを対処しなければならないから負担も大きいだろう。当日は若葉(ボク)達も手伝ったほうが良いかもしれない」

「私も賛成だわ。向こうにはお世話になりっぱなしだもの。明日姉さんたちに相談してみましょう?」

 

三日月の進言に私は頷く。正確な日にちは聞きそびれたがおそらく近日中だろう。何事もなく終わってくれればいいが。

 




やっと3話完成しました。遅れに遅れて楽しみにしてた方は本当に申し訳ありません。
ちょくちょく文章捻り出しては納得せず書き直して気づけば緋寺様の新作が始まっていました…。
夏には終わりを…と思っていたのに現在では年内さえも怪しい状況です。でも必ず完結させます。まだまだお付き合いくださいませ。リアルが忙しいのが悪いんや…(ボソッ

さて捏造設定、合同演習です。このタイミングで?となりましたがあの三人が厳選しているから過激派関係は大丈夫ですね。ただシグとぽいの話で新たな不安が出てきました。一体どうなってしまうのか。

次回は更に暁とリコを絡ませていきたいと思っています。お楽しみください。
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