継ぎ接ぎだらけの中立区 ~赤き花の姫と小さな淑女~   作:猫又葉月

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リコが見た悪夢

…轟音が響き、私は意識を覚醒した。途端、足に激痛が走った。ああ、そうか。私はこの襲撃で怪我を負ったのか。自身の持つ最大戦力で対抗したが、多勢に無勢で私は為す術もなくやられ、今まで気絶していたのか。

周囲を見渡す。それは惨憺たる光景だった。私の部下(家族)達は大部分が壊滅し、奪われた命が海の上に散らばっていた。

側近の二人が私の肩を支えてどこかへ連れ出そうとした。どこへ行くんだ、まだ戦っている奴らがいるじゃないか、見捨てるわけにはいかない。そう訴えたが首を横に振られた。これは私達の総意です、姫様が生き残るのが何よりの願いなのです、と説得をされた。…私は、何も返すことができなかった。

後ろを振り返る。殿を務める残った部下(家族)達が大勢の艦娘に一つ、また一つと命を散らされていく。その光景を、私は唇を噛み締めながら見ることしかできなかった。

 

 

…私は現在、この状況を客観的に見ている。そう、これはあの頃の夢だ。一方的な虐殺を、私は止めることができない。…それが『結果』なのだから。

『私』を見ると再び意識を失ったようで、ぐったりとしながら部下(家族)二人に支えられながら撤退をしていた。ワカバ達がいる施設にたどり着けたのは偶然なのだろうか。ひょっとしたら島から離れたワカバ達を誰かが監視して居場所を把握したのだろうか。…今となっては、知る由もないが。

遠く離れる『私』を確認し、振り返る。殺戮はいよいよ終盤を迎えようとしている。その時、記憶にない光景が追加されていた。殿を務める部下(家族)達の中に交じって、見覚えのある()()が戦っていたのだ。

 

「…アカツキ?」

 

何故この場にアカツキが居るんだ。何故部下(家族)達と共に戦っている?いや、そんな事はどうだって良い。『結末』を知っている私は彼女を止めようと近づこうとする。だが、体が動かない。

やめろ、コイツは関係ないじゃないか。離れろ、アカツキ。このままだとお前も死ぬんだぞ!()のお前にはあいつらに敵う術なんて無い!逃げろッ!!

 

…だが、私の願いも虚しく、一発の砲弾がアカツキに直撃し身体を―――

 

 

 

 

 

「…マキグモとアサシモも島に行きたい?」

 

暁の成長の秘密を知った私達、若葉と三日月はリコに巻雲と朝霜も慰霊を行うため島に訪問したい事を伝えた。結局あの後2回の実戦演習を行い、施設への帰投時間が迫ったためここで終了となった。ちなみに暁は終盤疲労により少し動きが鈍くなってしまったが、それでも掠っただけで済んでいるあたり流石である。

 

「私は別に構わないわよ。でも何かあったの?」

 

着替えてきた暁が合流して会話に加わった。私は二人がリコの故郷の襲撃という悪夢を見た事により、罪悪感で少し落ち込んでいることを伝えた。

 

「…全然気づかなかった。二人ともそんな素振り見せなかったわ」

「あれはオオヨドにやらされていたんだ。私はそれを理解している。あまり気負わないでほしいものだ」

 

呆れ気味ながらも、「だが、」とリコは続ける。

 

「それで気が晴れるなら私も構わないさ。後で私が伝えておこう。不安が少しでもなくなれば演習での力が発揮しやすいというものだ」

 

確かに、本人の口からなら安心するだろう。これで島への訪問はリコと暁、私と三日月に加え朝霜と巻雲の六人で向かうことが決定した。

 

悪夢…か。私も、あの二人も、あの頃の記憶は大なり小なり影響を与えるんだな…

「…リコさん?」

「何でもないさ。そうだな、明日は近接戦闘の訓練をやるか。あの回し蹴りはかなり効いたぞ。徹底的に鍛えるから覚悟しておけ」

「…望むところよ!!」

 

明日への特訓に気合を入れる暁。だが、リコの小さな呟きは私も、三日月も、そして暁にも届いていた。

 

襲撃の記憶。部下(家族)達を失った痛み。その悪夢は一体リコにどんな影響を与えたというのか。気になったが、私達は誰も触れることが出来なかった。

 

 

翌日、私達施設メンバーは再び来栖鎮守府に訪れた。ただ昨日と違うのは赤城と翔鶴に代わって摩耶と鳥海が参加している。空母二人は鬱憤を出し切ったようで本日は施設護衛に専念するようだ。入れ替わりとなった摩耶は明石と艤装の整備を行いながら色々と語り合いたいと言っており、鳥海はリコに近接戦闘訓練のフォローを頼まれたようである。

現在、私と三日月に加え雷と曙の第五三駆逐隊は来栖提督と合同演習の警備について打ち合わせを行っている。内容はあの場に居なかった二人に前日に話した説明を改めて行い、どの時間帯でどのように配置するなどといった細かい部分を決めていくものだった。

 

「そういえば当日の施設の警備ってどうなるんだ?」

 

段取りを話し合っている途中で私は気になった事を聞いてみた。

 

「何人かは付けるつもりだが殆どの人員はコッチに割く事になる。すまねェがそちらでなんとか自衛を頼むぜェ。近くで大規模な演習を行っている中で今更中立区に攻め込もうと考えるアホは居ないと思うがな」

 

申し訳無さそうに話す来栖提督だがこればっかりは仕方ないと私達は納得する。

 

「そっちの見学者はリコと初春と初霜で良いのか?」

「ああ。本当はクロも興味があったみたいだが…」

 

先程の施設警備の話からするとクロは残ってもらった方が良いだろう。少し残念がる顔が目に浮かぶ。

 

「なァに心配すんな。退屈しないように秘密兵器を用意してっからよ。楽しみにしとけと伝えてくれェ」

 

不敵な笑みを浮かべながら答える来栖提督。何やら企んでるみたいだが不審な匂いはないので信頼することにする。むしろ期待してほしいと自信満々だった。

この会話の後、引き続き打ち合わせを再開。詳細な部分も決まり、後は本番前日での最終確認を行うのみとなった。

 

 

 

あれから更に日が経過した。毎日鎮守府に訪れた私達は、雑談だけでなくセスと共にエコの散歩や曙との釣り、更には演習相手として久しぶりに艤装を装着して戦うなど充実した日々を送った。

そして気づけば本番二日前。もはやお馴染となった文月達による送迎だが、今回は少し様子が違った。大発動艇に明石が同乗していたのである。その傍らには何やら機材が置いてあった。

 

「おはようございます。若葉達は提督から説明を受けていると思いますが」

「それが秘密兵器というやつか」

「はい。人が集まる広い場所が良いので食堂に設置させてもらいますね」

 

そう言いながら機材を持ち運びテキパキと作業をしていく。艤装整備とは違う光景にクロシロだけでなくみんなが興味津々で見学していた。

 

「…プロジェクターか?」

「スクリーンもありますよ。明るい場所でもハッキリ映ります。あっ、設置はこの辺が良いですね」

 

飛鳥医師の質問に笑顔で答えながら、迷いなく設置していく明石。数分後、作業が完了したようだ。

 

「よし、完了!では皆さんちゅーもーっく!」

 

若干テンション高めになりながらリモコンを握りしめ電源スイッチを押す。そこに映し出されていたのは――

 

「わっ!?何これスゴイスゴイ!!」

「本当に凄い…。これ…向こうの光景…?」

 

大はしゃぎのクロに感嘆の声を漏らすシロ。そう、スクリーンにはシロの言う通り来栖鎮守府の光景、正確には演習場の光景が映し出されていた。

 

「海風達が鳳翔相手に戦っているわね…。これ、リアルタイム?」

「はい。ライブカメラを設置して視れるようにしてみました。ちなみにチャンネルを変えると別視点に切り替えられますよ?」

 

曙の疑問に明石が答える。早速使ってみると、全体を見渡せる光景から鳳翔の後ろ姿が見える視点へと変化した。

 

「私の艦載機と視界のリンクが映像化された感じ?」

「そうですね、その表現が近いかと」

「なるほど…。私の場合は細かくは見えないから、これは便利そうだ」

 

セスの質問に明石が返し、リコが感心する。索敵範囲は広いが信号による判断が主だったため、この技術には素直な感想を述べていた。

 

「これで施設待機組も演習を見学することが出来ます。録画機能も付いてますから警備で席を離れてても後で見直せますよ?」

「…至れり尽くせり過ぎて若干申し訳なく感じるんだが」

「そんなに深く考えなくてもいいんですよ。提督も、私達も好きでやってるんですから気にしないでください」

 

困惑する飛鳥医師に明石は苦笑しながら返した。ならば最大限に活用させてもらうことにしよう。その方が来栖提督や明石にとって本望だろう。

 

こうして私達、特にクロはテンションが高めになりながら今日も元気に鎮守府へと訪問するのだった。

 

 

 

朝の明石の作業から半日以上経過。本日も充実した時間を送った私達は現在施設の食堂で早速映像を見ながら談笑をしていた。

 

「おーおー、気合入ってるじゃねぇか」

 

苦笑しながらも感心する摩耶の視線の先には、リコの特訓を受けてる暁の様子が映し出されていた。

本来は警備である第五三駆逐隊(私達4人)と見学者の3人は明日訪れて泊まる事となっていたが、暁から特訓を申請されたリコは前倒しで本日からの泊り込みが許可された。

 

「お姉ちゃん凄い頑張ってるじゃない!」

「こんな時間に実戦訓練を行っているからな。所謂ラストスパートってやつか」

 

応援する雷に続くように私も感心しながら呟いた。初日に見学した内容よりも攻撃が更に激しさを増してる気がするが、負けじと暁も食らいついていく。時折探照灯に照らされる横顔はとても凛々しく、まさに一人前のレディと言っても過言ではなかった。

 

「そう言えばさー、ちょっと疑問に思ったんだけど」

 

ふと、クロが映像を見ながら呟いた。

 

「リコってどうしてアカツキを弟子にしたんだろう?」

「私も…気になってた…」

 

シロも同調するように呟く。この不意に出されたお題に私達は頭を捻る。今まで気にしたことも無かったが、口に出されると確かに疑問に思う。

 

「…順当に考えれば鍛え始めた時からになると思うんだが」

「うーん、それだけであんなに気にかけたりするかなぁ…」

 

私の返答にクロはあまり納得してない様子であった。

 

「回避や射撃だけでなく、自分の技を惜しみなく教えてたんだよね。相当な思い入れがないと中々出来ない気がするな」

 

セスが自身の考えを述べる。そうなると、何かきっかけがあったのだろうか。

と、そこに摩耶が思い出したように呟いた。

 

「…アタシが暁の初めての訓練の後にリコに話しかけたな。『新人の調子はどうだ』っつって」

「なんて答えてたんだ?」

「『中々根性がある奴だ。鍛え甲斐がある』って笑ってたな。でもコレじゃ根拠に弱いか」

 

確かに、将来への期待を述べただけであるため根拠には弱い。そこに雷が「そう言えば…」と続けた。

 

「何時だったかお姉ちゃんが薬湯から戻ってきた時に、次の日の訓練について話してもらった事があるわ。『明日から今までと違う特訓を追加する』ってリコさんに言われたって」

 

雷に伝えられた暁の証言によると、その日のリコは何だか様子がいつもと違ったという。休憩中は鳳翔たちの所に向かい相談事をしていたようで、そしてその日の訓練終了時にいきなり言われたとか。

困惑した暁だったが、真剣な瞳に何かを感じ取ったらしい。強くなれるならばととりあえずは了承したそうだ。

おそらくこの時点で自身の技を教え込もうと決意したのだろう。様子が違っていたと言っているが、いったいリコにどのような意識の変化が起きたのだろうか。

 

「ふぅ…さっぱりしましたね」

「あら、リコさんと暁ちゃん、こんな遅くまで頑張ってるんだ」

 

と、ここでお風呂から上がった大淀と鳥海が食堂に入ってきた。タオルで髪を拭きながら訓練中の映像を見て、私達と同じく感心するように呟いた。

 

「あの時も夜まで訓練をしてたっけ。懐かしいなぁ」

 

しみじみと暁の最後の練度上げを思い出す鳥海。すると、何かピンときたのか摩耶が質問を行った。

 

「そういえばお前ってリコと仲が良かったっけ」

「ええ、脚の治療から交流があって、先生達の護衛で組んでたしね」

「じゃあさ、リコがどうして暁を弟子にしたとか、そこらへんのきっかけって聞いてないか?」

 

近接戦闘組としても暁の訓練に付き合っていた鳥海はリコから経緯を聞いてるのではないか。そう踏んだ摩耶は私達で話していた疑問を思い切って投げかけてみる。

その瞬間、鳥海の顔が少し暗くなった。

 

「…どうした。ひょっとして話しにくい事だったか?」

「…ううん、違うの。私も気になって聞いたことがあるし、その内容も皆に言ってもリコさんは多分気にしないと思う。ただ…」

 

言いよどむ鳥海に、隣にいた大淀が同じく顔に影を落としながらも答える。

 

「…『あの頃』の私と行ってきた悪事の記憶。それを思い出すんですよね?」

 

その言葉に鳥海は静かに頷いた。リコと暁の師弟関係の経緯には、かつての悪行を働いていた時間をどうしても思い出させるという。だが関係性が見出だせない。どこか共通点があるのだろうか。

と、ここで私は訪問初日の出来事を思い出した。

 

「…リコの故郷への襲撃か」

 

その言葉に鳥海は目を見開いた。どうやら当たりだったようだ。

 

「どうして…」

「巻雲と朝霜が襲撃の内容を悪夢として見たようでな。その事を私達に相談してきた」

 

ここで私は二人が慰霊を行いたいということ、そしてそれをリコが了承したこと、そしてその後のリコの呟きを話すことになった。

 

「あの時の記憶は大なり小なり影響を与えると小さく呟いていたんだ。おそらくそれが関係してるんじゃないか」

「…ええ、その通りです」

 

実行部隊は巻雲と朝霜だが、口封じの計画は大淀(初代)と共に考えたという。確かにそれなら嫌な記憶を思い出すのも無理はないだろう。

 

「…体調が悪くなるなら無理しなくても良いんだぜ?」

「ありがとう、摩耶。私は大丈夫だから」

 

気にかける摩耶に苦笑しながらも返す。そして深呼吸をした鳥海は意を決した。

 

「それではお話しします。リコさんが暁ちゃんを弟子にした、そのきっかけを」




明けましておめでとうございます(20日遅れ)
そしてお待たせしました、第7話です。

約束通り1ヶ月ギリギリで書けました。本当はもうちょっと早く投稿したかった(涙)
休み無し期間でも某所で感想はなんとか書いてたけど執筆の余裕は全くなし。逆にその後の休暇は餅食ってひたすら寝て執筆には手を付けず…。ええ、叱ってくださいorz

今回新たな試みを行いました。若葉視点以外の描写です。今後の話の展開を妄想していると若葉の一人称だけでは限界が訪れると考えたためこのような形を取りました。…できるだけ本家に似せたかったんだけどな―…。後でトップページにも追記をしておきます。
本当ならもう少し長い文章を書くつもりだったんですが、どうも自分の予想以上に多くなりそうだったのと、平均1話分の文字数で切りが良かったのでここらで投稿することにしました。…これ以上期間を空けたくないという自分の我儘もありますが。

さて次回は所謂過去話です。そのため今回以上に別視点の描写が多くなります。妄想バリバリ、独自解釈や設定ゴリゴリの内容になるかもしれませんが生暖かく見守ってください。
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