継ぎ接ぎだらけの中立区 ~赤き花の姫と小さな淑女~   作:猫又葉月

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師弟の始まり

鳥海から語られたリコによる暁の訓練の始まり。

そこで明かされたのは優れた観察眼と思考能力の速さという暁の特異性だった。

これにより短期間での成長が見込めると判断したリコは徐々に難易度を上げ、そして暁もまたその複雑化する内容に食らいついていく。

この時にリコは、自身が暁の成長を眺めるのが楽しいと感じるほどまで入れ込んでいた。対する暁もリコを慕っている様子から二人の関係性はここから強固なものになっていったのだろうと窺える。

 

「お姉ちゃんそんなにすごい力を持っていたんだ…!」

 

鳥海の話を聞いていた雷は目をキラキラとさせながら興奮気味に発した。共に過ごした姉の努力を身近に見ていた者として、この話は衝撃が大きかったようだ。何なら雷自身による暁への評価というか尊敬度はストップ高になっていると言ってもいいだろう。

訪問初日に二人の訓練を見学した私達、若葉と三日月はこの特異性に同じく衝撃を受けたが、それと同時に納得もした。常に考え瞬時に的確な判断をしながら動けていたのはこういう事だったのだ。

 

「全てが順調。近い日には練度も皆さんに追いつくかと思っていたある日、リコさんは夢を見ました。…故郷の襲撃という悪夢を」

 

そこから鳥海から語られたのは、私達の顔を顰めさせる内容だった。

騙されていると島に来た私達に進言され協力相手(大淀達)に不信感を募らせていたその直後、突然の敵襲に。部下(家族)達と迎え撃つが対策をしっかりと取られていた上に人海戦術で為す術もなくやられ、更にリコ自身もWS(ヴェーゲー)の攻撃をモロに受け気絶状態に。目を覚ました時には既に大部分が壊滅しているという惨憺たる光景だったという。

そしてリコは、その一部始終を客観的に見ていたそうだ。手を出して介入しようにもすり抜けてしまい、確定している『結果』をただ眺めることしか出来なかった。

 

「…惨いものじゃのう。再び悲劇を見せられた挙げ句、明晰夢に近い形じゃったのに介入もできんとは」

「めいせきむー?」

 

苦虫を噛み潰したような顔をしながら感想を述べる姉に、隣りにいた初霜は知らない単語に首を傾げた。

 

「簡単に言うと、夢の中で本人がこれは『夢』だと自覚できる夢のことだ」

「そして一般的には自覚することでその見ている『夢』をコントロールできると言われています。初霜ちゃんだったら何がしたいですか?」

 

飛鳥医師の解説に蝦尾女史が補足を加える。思い通りになるなら何が良いかと問われ初霜はしばらく唸っていた。

 

「はつしもはおそらをとびたいなー」

「それは艦載機に乗ってか?それとも自らの手でか?」

「うーん、どっちも!」

 

選べないからどっちもしたいと笑顔で答える初霜に私達は苦笑する。

でもそれは当然の考えだとも私は思う。思い通りになるのなら夢の中ぐらい自由にしてみたい。切羽詰まったあの頃の日常を考えたら尚更だ。

だが、リコは出来なかった。起こった『事実』を諦めて受け入れてしまったのだろう。

 

「再び気を失ってル級(側近)のお二人に支えられながら撤退をする自分を見届けたリコさんですが、再び戦場を振り返ったその時、ありえない光景が映し出されていました」

 

ここから話は急展開を迎える。相も変わらず行われていた一方的な殺戮がいよいよ終盤に差し掛かるその時、殿を務める部下(家族)達の中に暁が交じって戦っていたという。

 

「…お姉ちゃんが!?」

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 

身を乗り出しながら驚く雷に、大淀は動揺しながら鳥海の話を手で制した。

 

「暁さんは私達の所で建造した艦娘です。一緒に『処置』に関わったあなたもそれは分かっている筈ですよ」

「ええ、その通りです。そもそも襲撃時にはまだ建造されていません。だからこそ()()()()()んです」

 

『処置』とは恐らく洗脳のことだろう。そしてあの頃の朝霜の証言で()()()()に居た時は見ていないと発言していたから、鳥海の話に裏付けが取れる。

リコは信じられないといった様子で呆然と見ていたが、やがて気を取り直し『結末』に巻き込まれないようにと暁を止めようとした。

だが何故か身体が動かなかった。急成長を遂げているとはいえ実戦にはまだまだなのを知っているリコは、逃げてくれと必死に懇願する。

しかしその願いも虚しく一発の砲弾が暁を無惨にも散らしそして――

 

「――リコさんは悪夢から目を覚ましました。そしてこの出来事は暁ちゃんに抱いていた、ある()()に気付き弟子にするきっかけへと繋がる事になります」

 

 

 

 

 

「―――ッ!!…ハァ…ハァ…!」

 

まだ日が差し込んでいない真っ暗闇の中で私は飛び起きた。呼吸が落ち着かない、思考が纏まらない。

ここはどこなんだ、…ああ自室か。今何時なんだ、…まだ夜が明けていないのか。

どうでもいい自問自答を繰り返してようやく冷静になっていく。それと同時に吐き気がこみ上げてきた。口を押さえ逆流してくるモノが出ないよう必死に堪える。

数分後、治まってきた吐き気に安堵しつつ今度は先程見た夢に対し思考を巡らせる。

…酷い夢だった。愛した部下(家族)達が抵抗も虚しく次々に殺され、それに対し何も出来なかった自分に悔しさを募らせる。

だがそれ以上に頭に焼き付いた光景がある。アカツキの存在だ。何故彼女があの場に居たのか、部下(家族)達と共に戦っていたのか。…どうしてあんな最期を迎えなければならなかったのか。様々な疑問が生じるがその答えを出すことが出来ない。

分かっているのは、今のままでは向こう(オオヨド)の『完成品』とやらに敵わないという事。著しい成長を遂げているアカツキは回避や射撃とその精度を順調に上げている。このまま皆に追いつくのもそう遠くない未来だと、そう考えていた。

だが、もし間に合わなかったら?実戦で相手に慣れる隙を与えられず、持ち味の特異性を活かす事が出来なかったら?何かの拍子で孤立無援の状況に陥ってしまい、迫る脅威に対し咄嗟の判断が行えなかったら?…全てあの夢で見た最期に直結してしまうだろう。

そもそも連中の『完成品』一人に対し複数人の連携で辛くもどうにかなっているのが現状だ。先程の()()()()で出した隊列から離れてしまうという事態は絶対に避けなければならないが、強制的に分断される可能性だって無きにしもあらずである。その際に目をつけられてしまい、全く対処できないのは非常に不味い。回避一辺倒なんか許してくれる筈も無いだろうしいずれジリ貧になる。射撃もどこまで通用するか分からない。

…悪い展開しか頭に浮かばず焦燥に駆られる自分がいる。だったらどうする、その2つ以外でこの状況を切り抜けられる一手があるのか。

 

考えろ、どうしたらアカツキは死ななくて済む?

考えろ、どうやれば彼女は生き延びることが出来る?

考えろ、どうすれば()()を―――

 

「…ああ、そうか」

 

夢の中でアカツキが介入してきた理由が、今分かった。

 

どんなに厳しい試練を課しても食らいついていく彼女を――

容赦なしの訓練を行う私に萎縮するどころか笑顔で慕ってくる彼女を――

成長を眺めるのが楽しいと感じる程まで情が湧いた彼女を――

 

――私は、かつての『家族』と重ねてしまったのだ。

 

 

 

あの悪夢から数時間が経過。現在は午前の訓練が終わり昼休憩の真っ只中である。

結局、私はあれから何も対策を思い浮かべずにいた。死なせたくない、どうすればいい。そんな堂々巡りが哨戒中でも、朝食時でも、果ては訓練中でも繰り返されていく。

休憩を宣言した際はアカツキに怪訝そうな顔をされた。なるべく表情には出さないようにしていたつもりだが、アカツキの観察眼からは誤魔化しきれなかったようだ。それでも特に事情を問われなかった辺り気を使われている。しかしそれも午前中までかもしれない。午後の訓練までこの堂々巡りが続いたら、流石に理由を聞かれる可能性がある。

話すべきかと迷ったりもした。だが抱いているこの『想い』は私の勝手な一方通行だ。死んだ夢を見たとか、慕うアカツキを『家族』と重ねたとか、向こうにしてみれば押し付けがましい私情である。

 

「難しい顔をされていますね。何かありましたか?」

 

アカツキが薬湯に入っている間、昼食をとっていた私にホウショウが話しかけてきた。横から不意に言われたので少し驚く。

 

「…そう見えるのか」

「ええ。工廠から訓練を眺めていましたが、必死に挑んでいる暁さんに対してどこか上の空な印象を感じましたし」

 

アカツキだけでなくホウショウにも誤魔化せなかったらしい。図星をつかれて少し固まる私にホウショウは柔和な笑みを浮かべて続ける。

 

「私で良ければ相談に乗りますよ。指導者が悩んだまま訓練を再開なんて、受けてる本人も集中出来ませんからね」

 

その言葉を聞いて私は少し思案しながら時計を一瞥した。

 

「…薬湯から戻ってくるまで後少しだ。別の場所で良いか」

「分かりました。では別室に移動しましょう」

 

アカツキには聞かれたくない話だと察してくれたようだ。その心遣いに感謝しながら、昼食を終えた私はホウショウと共に自室へと移動した。同室のセスは工廠でマヤと整備中なので現在は部屋には居ない。聞かれる心配も無く都合が良かった。

 

 

「暁さんを死なせたくない、…ですか」

 

それから私は今朝に見た悪夢の内容、そこで気付くことになったアカツキに対する想い、そして『死』という最悪の事態を回避するためにはどうすればいいかずっと悩んでいる事を洗いざらい話した。その合間、口を挟むこと無く相談にじっと耳を傾けていたホウショウは私の出した結論を反芻しながら神妙な面持ちで数十秒思案する。

 

「…この世に絶対というものは存在しません。実力、心持ち、そのどちらかが欠けていなくとも『死』の可能性は常に付き纏っています。それは私とて例外ではありません」

 

やはりどうにも出来ないのか。気落ちする私にホウショウはまだ早急だと言わんばかりに「ですが、」と続ける。

 

「手段の選択肢を増やすことで『死』の確率を低くすることは可能です。現在暁さんは砲撃しか攻撃の方法がありませんからもう一つ加えてみるというのはどうでしょう?」

「つまり接近戦も出来るようにするという事か」

「リコさんから聞いた暁さんの特異性に加え私の見た感じではそちらの才もあるように思います。それにこの施設は下呂大将の神風型の皆さんを除けば近接戦闘が出来るのはリコさんも含め5人しか居ませんから、戦力の増強という意味でも良いかもしれませんね」

 

ナイフを扱うワカバ、薙刀を使用するアケボノ、棍棒を振るうアサシモ、そして最近加わったチョウカイも驚異の握力を持つため近接組に分類されるらしい。アカツキにはその6人目になってもらうという事なのだろうか。

 

「近寄られたら何も出来ないという危惧した事態は一応これで避けられる筈です。問題は何を持たせて戦うということですが…」

 

コレに関してはホウショウも悩むようだ。私もどうしたものかと思案するが、そこである一つの妙案が浮かんだ。

 

「…あえて、何も持たせないというのはどうだ。私は武器の扱いの心得がないから指導することが出来ない。かと言って他の者に頼むにも人員が少なすぎる。ならアカツキ自身でどうにかするしかないのだが――」

「我流で戦える状態まで持っていくには時間が足りないかもしれない…ですか。ではどうするおつもりで?」

()()()()()()()()()()()()()

 

私の出した答えにホウショウは僅かに目を見開き、その直後に理解したという表情に変わった。

 

「…リコさんの技を暁さんにも使えるようにする、という事ですね」

「そうだ。拳も脚も全てが相手にとって凶器に感じられるよう私が余すこと無く継承させる。まあ手の方は主砲があるから蹴りが主体になるかもしれんがな」

「油断も誘えるかもしれませんね。武器も持っておらず、それ故に他と比べ脅威にも見られていない。相手側は傲慢かつ高飛車ですから、弱いと判断したら調子に乗って真っ先に潰そうと迂闊に近寄る」

「その際、不意の一撃を食らわせることが可能かもしれない。…かなりの理想論だがな」

 

だが、何も出来ずに突っ立ってるよりは遥かにマシだ。増えた手段を駆使し、『死』の確率を低くする。方向性は決まった。

 

「ですが気をつけねばならない事が。技を伝授すると言うのなら、暁さんはどうしたって理由を知りたがる筈です」

 

それは私も考えていた。先程述べたようにそもそも私の抱いた『想い』は完全に一方通行である。本人に知られたくないからこうやってホウショウに打ち明けていたのだ。

死なせたくないからと答えても「どうして」と問われるのがオチになるかもしれない。どうにか誤魔化せないものか。

そこで私はもう一つの懸念事項が思い浮かんだ。

 

「…強くなれるからでとりあえずは押し通してみるさ。訝しがられるだろうが納得はしてくれる筈だ。だが次の問題はその内容を受け入れてくれるか、だ」

「…?それは一体…」

「私の繰り出す技は、自分で言うのも何だが荒々しく粗暴だ。そしてアカツキの()()()()()()()とは相反する戦い方でな、決してお淑やかではない」

「こだわり…お淑やか…ああ、成程」

 

ここまで言えばホウショウも理解したようだ。苦笑いをしながら続ける。

 

「確かに水と油ですね」

「別にワガママな性格という訳では無いんだがな。だが『レディ』に対して並々ならぬ想いを感じるから難儀しそうだ」

「戦いにお淑やかも何もあったものじゃないと思いますが、それだけ強いこだわりを持っているとやる気にも関わってきますね…」

 

やる気。ホウショウの放ったその単語に私は少し思案する。

アカツキ本人にとって無くてはならないものと公言していた『レディ』は、発破をかける際の便()()()()()として私は使っていた。それさえ言えばどんな煽りにも乗っかってきたし、奮い立たせる事も出来たからだ。

そして何より彼女の目標に近づけると――

 

そこまで考えて私はある事に気づいた。

 

「…ひょっとしたらどうにか出来るかもしれない」

「えっ?」

 

頭を捻らせていたホウショウは不意に放たれた私の言葉に目を丸くした。続きを促され、私はアカツキの()()を逆手に取ったある方法を説明する。

 

「それはまた…かなり強引ですね」

「…私もそう思っているさ。だが受け入れてもらうにはこの方法しか無いと考えている」

「…分かりました。ですが、無理強いはいけませんからね?最終的な決定権は暁さんにあります。明確な拒否をされたら別の道を模索しましょう」

「ああ、その際は再度相談に乗ってもらいたい」

「喜んで。…そろそろ時間ですね」

 

ちらりと時計を見るホウショウに続き私も確認する。もう昼食を終えてる頃だろう。待たせたら不審に思われかねないから急がねば。

 

「艦娘を導く深海棲艦というのもこの施設ならではの光景ですね。それでは行って下さい。健闘をお祈りします」

「…お前に相談してよかったと思っているよ。助かった、礼を言う」

 

部屋を出る直前にホウショウに頭を下げ、感謝の意を示した私は午後の訓練へと向かっていった。

 

 

午前に比べ、午後の訓練は思い悩みもほぼ無くなったせいか私自身も集中することが出来た。それ故に内容が更に熾烈を極める事となったがアカツキは文句も言わず挑んでくれている。むしろ私の変化を感じ取ったのか、こころなしか安心したという顔つきにも見えた。

そして数時間後、本日の訓練終了を宣言し私は今後の予定を話すことになった。

 

「明日から今までと違う特訓を追加する事にした。詳細については次の日に説明する」

「…午前中難しい顔してたけどソレをずっと考えてたの?」

「…そんなところだ。昼休憩ではホウショウにも相談していた。この特訓でお前は更に強くなれる見込みだ」

「強く…?……分かったわ」

 

私の言葉を反芻して疑問符を浮かべたアカツキだったが、真剣な顔をしている私をじっと見て何かを感じ取ったのかとりあえずは了承をしてくれた。

そして次は実戦訓練の追加へ。これは私がここ最近のアカツキの成長を見て、射撃と回避を更に発展させていきたいと考えて思い付いた訓練である。

今後は主にこの2つを軸に据える為、その時間の確保が必要になる。そこで今までの訓練は内容を圧縮させていく事になった。

まずは回避訓練。現在のアカツキは(イカズチ)と同等と思えるぐらい洗練された動きになっている。そのため短縮させて準備運動という位置づけに。と言っても易しくするつもりは毛頭ないが。

次に射撃訓練。不規則な動きにもしっかり当てる等対応をしてきているが、まだ少し時間が掛かっている。そこで決められた数に対してなるべく早く撃ち落とす内容へと変える事に。コレによって更に特異性を鍛えるのが狙いだ。

以上の予定を話し本日はお開きへ。色々と内容が変わる既存の訓練や実戦訓練よりも、詳細が明らかになっていない追加特訓が未だに気になっている様子で立ち止まっていたが、疲れには勝てなかったかアカツキはその後素直に施設へと帰投していった。『想い』を話さずに済んで安堵の息を吐くが、まだ受け入れてくれるかの問題が残っている。勝負は明日、祈るしかなかった。

 

 

次の日、準備運動という名の回避訓練を行った後、いよいよ行動へ移すことになった。

息切れが落ち着いた後、口頭説明で前日に伏せていた詳細を明らかにしていくが、やはりというか何というかアカツキの顔が微妙な表情になるのが分かった。

 

「遠近両方の戦闘が出来るようになるのは、そりゃ強くなれるかもだけど…」

 

『何で武器じゃ駄目なのか』とか、『自分の求めてるスタイルとなんか違う』とか、色々と口に出したいのが見て取れる。教えてもらっている立場上言い出しにくいのだろうが、このまま納得せずに続けてもいつかは不満を爆発させるだろう。

そこでアカツキにとって最上級の()を私は言葉にして発した。

 

「『レディ』に近づけるぞ」

「…えっ?」

 

アカツキの目の色が変わるのが分かった。覚悟を決めろ、私。ここが正念場だ。

 

「お前の理想で目標たる()()()()()()()が扱う技を余すこと無く伝授する。そしてその技を戦場で遺憾なく発揮できたその時、お前は誰もが認める『一人前のレディ』へと昇華できるだろう。この特訓を受けて損はないと思うが?」

 

…我ながら無茶苦茶な理論展開だと思っている。それに自分自身を『レディ』と表現するのがこれほどまでに恥ずかしいとは。ホウショウに「かなり強引」と言われたのも無理はなかった。

だが効果は覿面みたいだ。お淑やかとは真逆の戦い方に対して抵抗があるという態度から、理想に近づけるし強くもなれるならと悩むほどまで傾いている。

 

「…本当に一人前のレディになれるの?」

「ああ、なれるさ。そこまで私がしっかりと導いてやる」

 

肯定と同時に、提示した道標に対して責務を全うすると私は断言する。この発言を聞いて意を決したのかアカツキは俯いていた頭を上げ、真剣な瞳で私を見つめた。

 

「…正直まだ半信半疑な所もあるの。でもこの訓練中で私にずっと向き合ってくれたリコさんが言うんだから、間違いもないと思う。だから、受けるわ」

 

そこから表情を変え不敵な笑みを浮かべたアカツキは人差し指を私に向ける。

 

「ちゃ~んと責任とってよね、()()?私をヘンテコな道を歩ませたら、ただじゃ置かないんだから!」

 

唐突な言葉に呆気にとられた私だが、受け入れてくれた事実とノリノリのアカツキを見て自然と笑みがこぼれた。

 

――ならば、私もノリ返してやるとするか。

 

「勿論だ、()()よ。では始めるとするか。しっかりとついてこい!」

 

 

 

 

「…本当に強くなったものだ」

 

現在、夜間訓練を終えた私はアカツキと交代で風呂に入っていた。天井をぼんやりと見つめ、これまでの事を振り返りながら思わず呟く。

結局、ノリの良い発言をする程やる気に満ちたアカツキだったが、その後の私が見せた実演で若干表情を曇らせていたのが印象に残った。聞くのと自分で演るのはまた違う事を痛感し不安になったようだ。しかし受け入れると言った手前、撤回するのは自身のプライドが許せなかったのだろう。その際は、私も『例の言葉』でやる気を出させたりフォローしたりと色々な方法で奔走したものだ。そのおかげか特異性と組み合わさって私の模倣に近い所まで成長していった。

今では駆逐艦の身軽な体格を利用した技を編み出している等、独自の進化を遂げている。勿論、元々の私が仕込んだ技も更なる威力を与えられるよう鍛えた。

明後日の演習では活躍が期待できるだろう。本当の意味で『一人前のレディ』となったアカツキはどんな強敵でも臆さず挑んでくれる筈だ。

 

…ただ、ほんの少し気がかりな事があるとすれば――

 

 

 

「リコさんは、暁ちゃんの道を狭めてしまったのではないかと、今になって少し後悔していると漏らしていました」

 

鳥海から話された現在のリコの葛藤。それは自分への憧れを利用した形での強引な説得をした結果、他の選択肢を潰してしまったのではないかという悩みだった。

特訓を受け入れてもらえたが、綾波戦まで近接訓練は微妙な表情が続いていた。それが不安に拍車をかけていたようで、なんとか『例の言葉』を多用してその度に奮起させていたようだが、罪悪感も少しずつ積もっていったという。

その後は積極的に訓練を受けている辺り、吹っ切れているのかもしれない。でも心の奥底ではどう感じているのか不安に思う時がある、と鳥海に弱音を呟いたそうだ。

 

「それなら心配ご無用よ!」

 

だがそこに待ったを掛けたのが雷である。リコと同じく長い時間共に過ごした妹は、自身の姉の内情をよく知っていたのだ。

 

「最後の戦い後、お姉ちゃん言ってたわ。『最初はこんな戦い方でレディに近づけるのか不安に思う時が何回もあった。でも、その度にリコさんが真剣な顔で励ましてくれたし、その結果、綾波との戦いで私はこの身体を使って仲間を助ける事が出来た。そこで気づいたの。リコさんから授かったこの力は、自分だけでなく皆を護れる誇り高い力なんだって。もう少しで特訓は受けれなくなるけど、決して永遠の別れじゃないから、また機会があれば鍛えてもらいたい。その時は更にレディになった私を見せつけて師匠を驚かせてやるんだから!』…って!」

 

胸を張って笑う雷は、弟子()が後悔していないんだから師匠(リコ)も思い悩む必要がない、心配なんて何一つもない、と自信を持って答えた。

 

「…ふふ。なら、明日リコさんに教えてあげないといけませんね。思った以上にあなたは暁ちゃんに想われていますよ、だから何も心配はありませんっ…て」

 

笑う鳥海に私達も微笑みながら頷く。明日早速伝えてみよう。きっと喜んでくれる筈だ。

 

 

リコと暁の師弟の始まりを知った私達は、明後日行われる演習に期待を寄せる。

一体どんな活躍をしてくれるのだろうか、楽しみになるのであった。




大変お待たせいたしました。第9話です。

また1ヶ月以上に掛かってしまいました…。
アチラ(異端児)はいよいよ佳境なのにコッチはやっと半分…にも行ってないよね、多分orz
本当にちょこちょことしか文章が思い付かない。大体の流れは考えているんですがねぇ…。いざ書くとなったら文章化で一気に難易度が跳ね上がるのがまた…。

ともあれ過去話も終わり次回からは遂に合同演習へ。メインは暁含む元施設組です。他は…ダイジェスト的な感じでお許しくださいorz。再びの戦闘描写挑戦で頭が痛いですが精一杯頑張らせていただきますので応援よろしくおねがいします。

そしてなんと自分の作品に支援絵が…!?

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/88386991
ヒガンバナを持つ暁ちゃん、メッチャ可憐です。
リコのモデル配布が終了してなかったらツーショットになっていたそうです。その場合、笑顔で肩を組んでいるか、不敵な笑みで拳を合わしているかを妄想してしまいました。
本当に感謝いたします!ありがとうございました!
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