悟飯さんからとんでもない提案をされてしまった。
それは
【悟空さと一時的に別れて別々に修行に励む】
というもの。
「オラは、その、」
「絶対、絶対、絶対嫌だ!なんで離れなきゃなんねぇんだ!」
返答に迷っていると悟空さが騒ぎ出して、それどころじゃなくなってしまった。
今回の提案、なにか特別な修行がおっ父の城じゃないとできないとか、こっちだとできないとかそういう理由だけじゃないと思う。
2人に分ける利点として最初に思い浮かんだのが、お互いに頼ったスタイルじゃなくなることだ。
わたし達は何年も一緒に暮らしてるのもあって家族同然のような状態になっているが、それ故にお互いに頼りきっているところがある。
悟飯さんの狙いは恐らくこの状況を打破すること。
「落ち着くだよ!…悟空さ。オラは悟飯さんの提案、ありだと思うだよ。」
「いっ!?…なんでだよチチ、オラのこと嫌いになったんか…!?」
別に悟空さが嫌いになったわけでも、ないしむしろどちらかといえば好きなんだけど…。
このままじゃ勘違いされてしまうし誤解を解くためにも私なりの見解を述べてみる。
「そういうわけじゃねぇだよ?多分な、悟飯さんにはなにか狙いがあるはずだべ!」
「狙い…?」
「んだ!オラ達ずっと助け合って修行続けてきたべ?そったらこと続けてはお互い一人になったとき大変な思いをすると思うだ。」
修行仲間がいることはいいことだし、成長にも繋がる。だけどこのまま続けていくとお互いに依存するような関係に陥ってしまうかもしれない。
私としてはそれも悪くないかな、と思ってるけどお互いがいないとすぐダメになってしまうのは情けない。
天下一武道会とかに参加したとして、タッグじゃないと力が出し切れないから原作より厳しい戦い!とかなったら嫌だし。
わたしは原作でいうクリリンみたいに競争相手のような関係になっている訳では無いし、どちらかといえば頼り、頼られの関係だからライバルがいてやる気アップ!という訳にもいかないし。むしろ成長を抑制しちゃってるのかも?
「正解じゃな。悟空、チチ共にとても成長したが…今の2人での修行を続けていくと、将来的にお互いに頼りすぎて心身共に成長が乏しくなってしまうかもしれんからのう。」
今思えばやる修行も一緒になってやるものが多かったし、元から最初は悟空に仲間の大切さも教えながら成長させて、いずれ引き離して修行させる予定があったのだろう。
「でも!オラそんなことで別れたくねぇよ!なぁ考え直してくれよじっちゃん!」
「うぅむ…この話、わかってくれんかのぅ?」
「…オラ、わかんねぇよ…絶対、絶対、嫌だ…!」
そういうと悟空さは外へ出ていってしまった。悟空さの別れたくないという気持ちも勿論わかるが、悟飯さんの考えてることもよく分かっちゃう。
とりあえず今わたしに出来ることは、悟空さを追いかけることだろう。そう思い、わたしも後を追った。
◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆
「悟空さ、こんなとこにいただか」
「チチ…」
悟空さが駆け出したのを追ってみれば、行き着いたのはなんと一緒にサバイバルしたあの洞窟。
洞窟にはあの時と変わらない風景があった。
「…懐かしいだなぁここ!あのときの石鍋が残ってるだぞ!」
「それ作るの大変だったぞ…でも2人で食べた晩飯はめっちゃうまかったなもんな!」
そう言いながら悟空さはニカッとこちらに笑顔を向けてくるけど、その顔には悲しみが色濃く出てるように見える。
やっぱり無理しているのかもしれないし、こっちに気遣ってくれてるのかもしれない。
石鍋の近くに腰掛けて、あの時の情景を振り返っていると…
「…チチはさ、オラと別れたくないって思うか?」
悟飯さんの提案は別々に別れて、個人でも強くなるのを重点に置いた提案だ。
そりゃ別れるのは嫌かもしれないけど…うーむ、強くなるためって言ったらわかってくれるかな。
「悟空さ、悟飯さんのあの提案にはちゃんとした意味が…」
「そうじゃねぇって!じっちゃんの提案抜きにして、おめぇの意思を聞きたいんだ!!!」
「…えっ?」
そりゃ結果だけ見れば別れて修行に励んだ方が悟飯さんの狙い通り個人として強くなるかもしれない。
でもやっぱりわたし達は確かに「離れたくない」と感じている。
まだ抗議もしてなかったし、別れるって決まったわけでもない!
「悟空さ、オラ絶対別れたくないだよ!」
「チチー!!」
悟空さがハグ、つまりギューってしてくれた。
お互いに思ってるみたいで嬉しいけど、これめっちゃ顔が赤くなる。
少なくともこういうことを悟空さは滅多にやらないから、私も耐性がないのだ。
なにより恥ずかしい!!!
「えへ、んへへ…こ、こっ恥ずかしいだよー!!」
べシーン!
「いーっ!?」
…あ。
しまった、この数年間で結構力がついてるのに、かなりの力で引き剥がしてしまった。
「は、はは…て、手加減しろよな…」
「えへへ…ささ、じゃあ悟飯さ達のところ戻るだぞ!2人で抗議してみるだ!」
「ははっ!だな!!!絶対離れるもんか!」
ナチュラル惚れさせ攻撃、恐るべし。
だけどそのナチュラル惚れさせ攻撃をした悟空さも、ナチュラルでれでれ反撃に同じ感想を抱いていたと思う。
反省してる。
◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆◇◆◆
洞窟で相談した結果、とりあえず悟飯さんに抗議してみることに。
「オラできれば離れたくねぇだよ…なんとかなんねえだか?」
「チチもオラも!離れるなんで絶対嫌だぞ!」
「ほっほっほっ!すまんかったのぅ。そう焦らんでええ。」
ほよ?てっきり別れた方がいい理由をこっぴどく言われると覚悟していたものだけど、意外なリアクションが返ってきた。
「実を言うと、お互いに頼りすぎることへの対策なぞいくらでもできる。今回試したかったのは、お主達の絆じゃな。」
「「え、ええーっ!!!」」
「洞察力の高いお主を欺くためにそれっぽい理由をつけるのは苦労したぞ、チチ。」
「はは、は」
どうやらわたしはまた知らず知らずのうちに悟飯さんに試されてたらしい。
毎回すごいドキドキするのでこちらとしてはやめてほしいものだけど…
「じ、じっちゃーん!!!脅かすなよ〜!!!」
「まぁどちらかが提案を飲み込んでたらほんとにそうするつもりじゃったがの。」
悟空さもさすがに今回のはこたえたようだ。
何はともあれ、わたし達はこれからも変わらずに暮らせることになる。
それは一安心なんだけど、もし飲み込んでたらほんとにそうするって…こういうとこ思い切ってるなぁ、悟飯さん。
「親としては帰ってきて欲しい気持ちもあるけんど、やっぱり子の成長も嬉しいだよ!これからも様子見で抑えるだ」
「おっ父〜!」
思えばおっ父には寂しい思いをさせてると思う。
だってまだこの年齢、普通だったら親にベッタリが当たり前なのだ。
「まぁ別れることはなくなったとはいえ、今までとは少し毛色の違う修行もしてもらう。覚悟することじゃぞ!」
「あぁ!」「わかっただ!」
こうして悟飯さんの絆を確認するための「提案」は幕を閉じた。
恥ずかしいと相手を押す癖は転生チチさんの可愛いところだったけど、力がついたせいで恥ずかしいと相手を「ドーンと突き飛ばす」レベルにまで育ってしまったせいで最早恐ろしい