悟飯達が恐竜を倒している一方…
「ぐむむ…2匹目がなかなか釣れねぇな…」
私ことチチは悟空と一緒に釣りを続けていた。1匹目はすでに取ってあるので残すは最後のもう1匹だけである。
「にしても2匹も釣る必要があるだなんて悟空さはよく食べるだな。…このおっきいお魚、1匹でも結構な量の食事になるだよ?おっ父達の量含めても十分でねぇか?」
「じっちゃんによるとオラ凄い食べる子らしいぞ。1匹じゃ満腹にはならねぇかなぁ…でけぇ魚1匹でも腹八分目くらいだ!」
さすがサイヤ人、こんな歳からここまで食べるなんて…。しかしこうなると食べるときの配分は悟空さが1匹、ほか3人で分け合ってもう1匹くらいだろうか。
ガサゴソ…ガサゴソ…
「グルルル…ンガゥ…ジュルリ」
「でもよく食べる子は良い子だ!って…ん?」
「なんだべ悟空さ、どうかしたべか?」
なにやらのんびり釣りをしていたら怪しげな物音が…音をよく聞いているとこっちに近づいてきているような?
「チチッ!危ねぇ!」
「んなっ!?」
スタッ!ダキッ…ストン。ズドッ!
「グルッ…ギャオオオ?」
悟空さはこちらに素早く移動してきたと思うと、私を抱え、そして何者からかの攻撃を避けた。ん?抱えて…?
「こっ恥ずかしいだよー!!!離してけろー!!!」
ポカポカ
「いたたっ!?そんなこと言ってもよぉ…アイツ、オラ達のこと狙ってるぞ。ほら。」
「ンギャオオオオ!グルッガウ!」
はっ!そうだった!何者かからの攻撃を受けていたんだった…私はこんなときに何をしてるんだ。悟空さが指さした方向、つまり先程まで私たちがいた場所を見ると…
「え、ええーっ!?ア、アイツって恐竜でねぇか?」
そう。恐竜がいたのだ。現代では決して体験できないであろう貴重な遭遇だが…おそらくあのままだったらあの恐竜に食べられていただろう。悟空さ、勘が鋭い。これが主人公か。
「そうみてぇだ。それもここらの恐竜の中でもとびっきりつえぇやつだ…悪ぃけどオラ一人じゃコイツにはまだ勝てねぇ…おいチチッ!逃げるぞ!」
悟空さはいくら強くてもまだ4歳児だ。でかい恐竜にはそりゃまだ勝てないだろう。ここは逃げを選択するしかない。
「わかっただ悟空さ!」
ステッステッスタタタ…
ドスドスドスドスドスッ!
「グルギャオウッ!グオオオオオオオオッ!」
明らかに距離を詰められている。このままでは2人ともお陀仏だろう。今のわたしにできることは…そうだ!
「悟空さっ!オラをおぶってけろ!」
「いっ?んなことしたらただでさえ追いつかれそうなのに捕まっちまうよ!」
そりゃそうだ、普通はそう思う。しかしわたしには策があるのだ。それも1人ではできない悟空さが必要な秘策が。
「いいからオラを信じておぶってけろ!絶対何とかしてみせるだ!」
「…わかった!!!」
悟空さは私を信じてくれた。走りながらもわたしは悟空さの背に掴まる。悟空さに足を掴んでもらって完全におぶってもらったのを確認したわたしは…
ヘルメットの向きを逆にしてから、変なポーズを取った。
「これでもくらうだ!」
ビュイイイイイイーン!
「ギャオオオオ!?グオオオオオ!!!」
「す、すげぇぞチチ!後ろからじっちゃんにずっと押されてるみたいだ!」
そう!!!わたしのヘルメットにはビーム機能が搭載されていて、変なポーズを取ると発動するのだ。確か名前は【エメリウm…いやそんなことはどうでもいい。とにかくこのビームは長射程、高威力で4歳児の体では余波で吹っ飛んでしまう。しかし4歳児が2人分の重さならどうだろうか?
「この加速で逃げ切るだよ!目指すは悟空さの家だ!」
「わかったー!」
体が押される程度ですむのである。これを利用してわたし達は加速して孫家まで逃げ切るって寸法だ。恐竜はビームをくらってひとたまりもないだろうし、わたし達も逃げるスピードが早くなっていく。いいことだらけだ。
ストトトトトトト!!!
「で、でもよぅチチ。これオラの足が持ちそうにねぇぞ。」
悟空さの足が少し辛くなってきたみたいだ。ならば!
「わかっただ!でもここまでくれば大丈夫だべ。悟空さ、降ろしていいけろ…」
ここにあるものはせいぜい道中見かけた大木くらいだ。でもこれでいい。ビームを徐々に弱めながらスピードダウン、名残惜しいが…仕方ない、悟空さから降りる。
「グルッ、ギャ、オーウ!」
「こっちさこねぇでけろー!んー…やっ!!!」
しゃ!シュルルルッ!!!
私はヘルメットのてっぺんについてる取り外し可能の武器、【アイスラッガー】を放った!私の力はそこまで強くないので速度は出ないし、原作のようにブーメランのように返ってきたりはしない。現時点だと1回きりの大技である。
恐竜を狙ったらかわされてしまうだろう。なので狙いはもちろん恐竜ではなく…
「ギャオウ?グルオオオ。」
ザシュッ!
ドォォォーーーン!!!
「ギャオオオ!?グルォ!グルォウウウ!」
大木である。この大木が道を塞いだらいくら恐竜でも回り道せざるを得ない。
「さぁ悟空さ!今のうちにオラ達、悟飯さ達を呼びに家に戻るだよ!」
「ははっわかったぞぉ!にしてもよぉチチ!おめぇすげぇな!!!」
「そっそうだか!?えへへ嬉しいだよ悟空さ…えへっ。」
なっなんと。私は悟空さからすげぇ奴認定をもらった!こんなに嬉しいことはない。くぅ〜、1回言われて見たかったんだよなぁこのセリフ!!!この世界に嬉しいことばっかり!
「んへ、いひ、んふふふふふ。」
「でもチチってなんかやっぱ変な奴だなぁ。」
…ギィ…ギシッ!ゴォロロロン!ドーン!
「へっ?」「な、なんだべ…?」
「ンガウウウウ!ギシャアアア!」
なんていうことでしょう。最悪の事態だ。大木の重さが足りなかったのか、恐竜が思っていたよりかなり強かったのか…どうやら大木を退かされてしまったようだ。
「…ギィシャアアア!!!」
「こ、これちょっとやべぇんじゃねぇか?」「…」
完璧な作戦だと思ってた、転生してから物事がいい方向にばっかりいってたから油断してた。
「…もう、策は尽きただ…」
わたし達は大人しく喰われるしかないんだろうか。嫌だ。こんなとこで終わりたくない…でもこんなのどうしようもない。
「…っ!すまねぇ!」
スタタタタタ!
悟空は何やらどこかへ走り去ってしまった。最後は悟空に見捨てられて死ぬのか。でもそれもいいだろう。どうやら私はこの世界を舐めきっていたらしい。
「ギシャアアアア!」
「はは、は…」
思えばあの時大人達がついてくるのを許可してればよかった。なにが悟空さとのデートだ。結果はこれである。
ゲシッ。ゲシッ。
恐竜も私が諦めたのがわかったのか、ジリジリと距離を詰めて強靭な足でわたしをいたぶりはじめる。体が痛い。辛い。視界がグルグルする。
…足が霞んで動けないし、もう抵抗する気力もない。私は下を向いた。
「ぉーぃ…チチー!チチー!!!待たせたなぁ!もう大丈夫だぞ!!!」
あまりの絶望からか悟空さの声の幻聴まで聞こえる。私は最後まで悟空さだよりだったのか。
「かぁ…」スタタタ
かぁ?なんだろうか?カラスの鳴き声だろうか。こんな緊迫とした場面でよく耳に入ったものだ。
「めぇ…」ダダダッ!
亀?そういえば亀仙人のところにも行ったのは1回きりだ。せめてもう少しこの世界、楽しみたかったなぁ。
「はぁ…」シュイイイ
この文字列は…懐かしい響きだ。こちらに転生してきてからはまだ1度も聞けていないけど、前世で散々聞いた懐かしい響き。次は…
「めぇ…」スゥッ
そぅ。そして最後は『は』だ。ドラゴンボールで代表的なあの技。こちらの世界に来たのに見れてないあの技。
「はぁ!」ズォン!
ドウッ!!!チュドォォォン!!!キュウウウイィィィン…
目の前から凄まじい音と風が。思わず私が顔を上げると…
恐竜がさっきまでいた場所が、地面1面えぐり返っていた。恐竜は跡形もなく消え、私を狙うものはもういない。
「チチや、よく耐えたのぅ。」
そして左を見ると、そこには悟飯さんの顔。
「おらも初めて見たんだけどさ、あのじっちゃんの技、すげぇだろ!?」
悟空の顔も見える。こ、これってもしかして、わたし…助かった???
「チチー!こんな傷だらけになって…うぅ、無事で良かっただよー!」
そしておっ父の顔。おっ父がこちらに走ってきて、泣きながら私に抱きついてくる。わたしも涙が出てきた。安心感からだろうか?
「っお、おっ父ー!!!」
転生してからわたしがこんなに泣くのは、生理現象で涙が出てきてた赤子の頃以来かもしれない。
抱き合っていると、だんだん瞼が重くなってきた。
ここのチチさんは頭を使った作戦が得意です。(うまくいくとは言ってない)
※恐竜のセリフを変更しました。