「キュゥべえ、何とかなりませんか・・・!」
「あまりにも船が原始的過ぎて無理だね」
燃料は三時間で切れてしまった。
まだ最寄りの管理世界とやらには遠い。
「近くの管理世界が遠すぎてどうしてもつけない」
「こんなときは契約の出番」
「まさか全管理世界一位になった!・・・と言うと思いましたか?」
クソ広告の漫才をしている場合ではない。
「契約しようよ」
「別の可能性に賭けます」
かごめの日ごろの行いが良かったからだろうか。
ちょうど次元航行船が通りかかってくれた。
「助けてください!お願いします!」
「助けてくれないと、ボクがこの子を魔法少女にするぞ!」
次元航行船に乗っていた男はかごめたちを乗せてくれた。
「・・・丁儀は生きてるのか」
「ええ。知り合いでしたか?」
「ああ。彼の夢は悪い形で叶ったようだな」
「・・・すみません」
「いや、気にしないで良い。どうせいつかはこうなったんだ」
男はかごめが頼む前に最寄りの管理世界に船の進路を変えた。
「・・・先に言っておくが、外を出歩くときはこのフードを被ったほうが良い。
君はアニメキャラだ。コスプレイヤーと見間違われるならまだマシだが、
丁儀の通信は全管理世界に発信された。君の正体を見破る者が現れるかもしれない。
それに、私自体がそもそもとっくに死んだことになっている人間だからな」
「・・・お名前は」
「章北海だ。つい最近までアニメ監督だった」
彼は死んだ男でした。暗き内ゲバと呼ばれる事件で命を落としたはずだったのです。
しかし、彼は生きていました。そして、私を導いてくれたのです。
彼がいなければ、この画面の外の昔話を書くことはなかったでしょう。
最寄りの管理世界は無気力に包まれていた。
人々は未来に希望を見出せなかった。
「誰がガンボーイの新作を作ってくれるんだ・・・」
「マギレコがやれなくなった・・・」
「ああ、レジアス監督が蘇ってくれたら・・・」
「これを機に実写映画に鞍替えするか・・・」
「ちくわ大明神」
人々は誰もフードを被った一行を気にしなかった。
そもそも気づいてすらいなかった。
ある意味では犯罪を実行するのに絶好のチャンスだが、
犯罪者ですら無気力になっていたので問題はなかった。
映像はキュゥべえを介して、無人世界に送られた。
誰もが茫然とした。アニメひとつでここまでひどいことになっていたからだ。
環いろはも何かを諦めた表情になった。
「これじゃあ子供じゃない・・・!」
七海やちよはそう吐き捨てた。
場面を管理世界に戻そう。章北海はずっと黙っていたままだった。
何か指示を出すときは手ぶりだけだった。
どうしてそこまで自分の正体がバレないようにするのか、かごめにはわからなかった。
だが、それはある出来事でわかった。
珍しく生気を失っていない男が前に立ちはだかった。
「おい、お前ら!顔を見せろ!」
章北海は手ぶりで、かごめに大人しく従うように指示した。
一行がフードを外して顔を見せると、男は血相を変えた。
「お前・・・章北海監督なのか!?死んだはずじゃないのか!」
「・・・運命は私に安らぎを許さなかった」
「だったら、俺が安らぎを与えてやるよ!この親の七光りめ!
下呂温泉戦記は俺の思い出の小説だったのに、それを汚しやがって!」
男はナイフを突き刺そうとしたが、章北海はそれをあっさりと避け、
逆に男をアームロックで気絶させた。
「・・・かごめ、私を軽蔑するか?私は父の才能を引き継げなかった男だ」
「・・・章北海さんがどんなアニメ監督だったとしても、
私はあなたが優しい人だということは知っています」
「・・・ありがとう」
急に雨が降り出した。
その雨は、都市に漂う終末感をさらに強調することになった。
※実在の作品、人物とは関係ありません