羅輯は『君の縄』の制作をすっぽかして、煙花の制作に取り掛かっていた。
ぶっちゃけ、ミッドの最新技術で、アニメは一人でも作れるのだ。
声優も、音楽も、脚本も、彼一人ですべてこなしていた。
そんなこんなで、締め切りというものもないのだ。
「・・・キャラが少ないのはいいな」
煙花は終末後の世界が舞台なので、キャラクターは少なくて済む。
唯一困っていることと言えば、恋愛要素が少ない事だろう。
あるにはあるのだが、羅輯の作るアニメと比べると随分少ない。
羅輯の得意分野は恋愛映画だ。
少し前に『桂言の葉の庭』という映画があった。もちろん、羅輯の作ったアニメだ。
だが、それは少し炎上してしまった。ネットでは『良い船』という単語ができてしまった。
さらにひとつ前の『時速0.5センチメートル』を公開した時は悲惨だった。
恋愛作家が一気に羅輯を攻撃しまくったのだ。ある時は家のガラスが割られた。
結局、羅輯の映画でウケたのは『犯人の声』だけ。
キャッチコピーは『私たちは、たぶん、塀の中と外でひきさかれる、最初の世代だ。』。
実際のところ、羅輯は君の縄の制作に取り組みたかった。
しかし、レジアスが命をかけて渡した脚本だ。無下にするわけにはいかなかった。
「いっつでもだれかが~」
携帯の着信音が鳴り響く。
音声は誰からかかってくるかによって設定できる。
ちなみに、相手の方にもそれは聞こえてしまうのだが。
「はい。もしもし。羅輯プロです」
「誰がタヌキやねん」
「なんだはやてか」
「なんだとはなんや」
八神はやては知り合いの局員だ。
時速0.5のときの騒動で羅輯を守ってくれた。
「六課に入らへん?」
「すまんが、新しいアニメの制作に取り掛かっているんだ」
「・・・念のため、脚本を見せてくれる?」
羅輯はデータ化した脚本を送った。
数秒して、羅輯はしまったと思った。
公開前の脚本を部外者に見せるのはあまりよくない。
それに、彼女はレジアスの政敵ともいえる立場だった。
しかし、羅輯はすぐに安心した。
間違えて、君の縄の方を送ったのだ。
「・・・羅輯君には反省の二文字はないのかい?」
「えっ、だめなの?」
「だめや。確かに面白いで。でも、SMプレイで高校生の男女が入れ替わるなんて、PTAが発狂するわ。レジアスが生きていたら何と言ったか・・・」
「・・・そうか」
「とりあえず、考え直すんや。アンタは個人制作やろ?だったら、時間はたっぷりあるはずや」
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その事務所は六課の近くにあった。
その事務所の名前は
今時珍しい手書きでアニメを制作している会社だった。
「・・・」
今日も監督である
この事務所の名前が『唐スタジオ』だったころは父が監督を担っていた。
父はアニメに関しては人一倍こだわりを持っていた。
最初のころは親の七光りだと批判されたが、今では聞かなくなった。
章北海が実力を示したからだ。
それでも、デビュー作の『下呂温泉戦記』はなかったことにはならない。
「よく考えろ」
父の言葉は今でも、心に残っている。
章北海の様子は普通の人が見れば、何の異常もないだろう。
だが、他のアニメーターたちはわかっていた。
何か、彼にとって、最悪の事態が進行していると。
「やっぱり、第二期の件か」
井上明は溜息をついて言った。
「ああ、まさか本当に地球とやらの世界の神話を基にするとは」
「最高評議会は本当に狂っているわね」
ミッドでもアニメ会社は禁煙だ。
そのとき、章北海はぽつりと呟いた。
「父さん、ぼくはやるよ」
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確かに、彼らは管理世界のアニメを牽引していた。
だが、すでに彼らは硬直化してしまっていた。
老害になってしまったのだ。
「今こそ、我らの集大成を披露するときだ」
「地球の『神曲』、実に参考になった」
「さあ、豚どもに地獄を見せてやるのだ」
※実在の出来事・人物・作品とは関係がありません