羅輯は気づけばベッドの上にいた。
彼は自分に一体何があったのかを思い出そうとした。
だが、本能が思い出してはいけないと告げる。
「・・・おじさん、大丈夫?」
オッドアイの少女が心配そうに羅輯を見つめている。
羅輯は自分が汗でぐっしょりと濡れていることに気がついた。
「ああ、大丈夫だ。ここはどこだい?」
「わかんない」
「そうか。僕に何があったのかも?」
「・・・なのはママが知らない方がいいって」
なのは、という名前に羅輯は聞き覚えがあった。
はやての同僚である魔導士だ。
つまり、ここは機動六課の医療施設なのだろう。
「・・・そうか。僕は羅輯。君は?」
「ヴィヴィオ」
しばらく、沈黙が部屋を包み込んだ。
羅輯は自分に何があったのか、思い出そうとしていた。
知らない方がいいと言われても、逆にそれで思い出そうとしてしまう。
だが、記憶が錯綜していて、うまく思い出すことができない。
もし自分が数時間だけ寝込んでいたのなら、絵を描いていたのは昨日だ。
昨日も良い感じに製作が進んでいた。そして、休憩時間にアニメを見ていた。
そして、自分の仕事場は同時に家でもある。家、いえ、おうち、おうち、おうち・・・。
おうちにおかえり
羅輯の体中の至る所から冷や汗が噴き出してきた。
明らかにこれ以上思い出すのは危険だ。だが、もう手遅れだった。
おうちにおかえり
「おじさん!?」
「大丈夫だ!大丈夫だから・・・!」
しかし、誰がどう見ても大丈夫じゃなかった。
「くそっ、どうしてあんなモノを作れたんだ・・・」
羅輯は吐き気を催したが、何もでなかった。
「はあはあ・・・。大丈夫だ。本当に大丈夫だから・・・」
だが、既にヴィヴィオはシャマルを連れてきていた。
「・・・思い出したんですね」
「ああ、まったく。最高評議会は天才だな」
羅輯はいつものように振舞おうとした。
「しばらく休みなさい。来週の分も完成してるんでしょ?」
はやては唐スタジオの傑作の一つである『天空の半島アツミ』を手渡した。
「ヴィヴィオと一緒に見てなさい。それでリハビリにはなるわ」
「ああ、僕の好きなアニメだ」
はやてが部屋から出て行ってから、テレビをつけて、鑑賞を始める。
「親方、イセワンから女の子が!」
おなじみのセリフだ。
アツミは作画も良く、設定も最高だ。
ボーイミーツガールものとして、羅輯はこの映画に大いに影響を受けた。
それに、飯テロも最高だった。
「羅輯おじさん、ヴィヴィオあのパン食べてみたい」
「僕もだよ」
「うむ、私も食べたいものだ」
「大アサリと食パンは別々に食べりゃいいじゃねえか」
「ノーヴェ姉さんはロマンがわかってないっス」
アツミパンはアニメファンの心をいつまでも虜にしている。
「三十秒で支度しな!」
「「「「「おおおお!」」」」」
つい全員が叫んでしまった。
「キャベツがまるでゴミのようだ!」
悪役のセリフもなかなかいい。
「三分間待ってやる!命乞いをしろ!」
お馴染みのセリフだ。ならば、あのセリフだ。
「「「「「「「バルス!」」」」」」」
「目が・・・メガハンバーガーあああ!」
ついつい、全員でまた叫んでしまった。
そして、エンディング。
テメーを乗せては名曲だって、はっきりわかんだね。
「すごかったね、羅輯おじさん」
「そうだな・・・ところで、お前ら誰だよ?」
「ナンバーズのチンクだ。羅輯監督、お会いできて光栄だ」
「・・・ノーヴェだ」
「ウェンディっス!好きな映画は犯人の声っス!」
「ありがとう。君たちは六課の人なのかい?」
「違うな、敵だ」
「そこのガキとアンタを攫いに来た」
羅輯は理解するのに数秒を要した。
「えっと、どうして僕が・・・」
「なんかドクターがアニメ新世紀を作るのに必要だとかうんぬん言ってたっス」
「そうか・・・。へ?」
「あの汚物を見てからドクターが計画を早めやがったんだ」
「あっ(察し)」
・
・
・
「もはやアニメをオワコンにしようとする管理局など不要だ!
さあ、我らの新世界を築き上げるのだ!イエイヌの仇を取る!」
・
・
・
「あっ、六課燃えてる」
「ホントだ、燃えてる」
「ところで、監督どこ行ったんだ?」
「さあ、アレを見てから鬼のような形相でどこか行ったからな」
列文と井上明はいつも通りだった。
だが、東方だけは違った。
「・・・あっ(察し)」
・
・
・
もはや章北海にためらいはなかった。
「親の七光りが何をしようとしている!」
「やめろ!銃を下ろすんだ!」
「話せばわかる!我々と貴様は同じようにアニメを・・・」
すでに何を言っても遅かった。
「問答無用。貴方達にアニメに語る権利などありません」
三発の銃弾が、それぞれ脳髄を貫いた。
「可哀想な最高評議会」
彼はぽつりとそう呟いた。
「あら、横取りされちゃったわね」
「・・・ドゥーエか。彼らは彼ら自身の死でアニメに貢献したよ」
「そう・・・」
「君の情報提供のおかげだよ。ありが・・・」
その時、ドゥーエは彼に抱き着いた。
章北海の腹部に痛みが走る。
「・・・どうして」
「ごめんなさい。あなたはもう時代の遺物だとドクターは認定した」
「手書きだからか?」
「それもあるけど、最初のアレをドクターは許さなかった」
「そうか。・・・すまなかった」
「・・・誰に対する謝罪?」
「アニメに対して」
そのころ、東方延緒は地上本部の前にまで来ていた。
なんかもうひどいことになっていた。
「そんな・・・」
すると、彼女の目の前に数年前に死んだはずの男が現れた。
「・・・最高評議会は暗殺された。お前の上司の手で」
「・・・ゼスト・グランガイツ、それだけではこの状況は説明できません」
「アニメの新時代が始まる。かつて、レジアスと作り上げると誓った世界が」
「新時代?それはどういった世界なの?」
「ひとりひとりが監督であり、声優であり、アニメーターである世界だ」
彼女はしばらく考え込んでいった。
「それは・・・羅輯監督のようなアニメが跋扈する世界」
「そうだ。そして、そんな世界ではお前たちのような旧式のアニメ会社は不要だ」
「それは間違いです」
「・・・そうだろうな。だが、我々はいくつかの会社に攻撃を仕掛けた。
彼らのうちの一つはすでに疑心暗鬼に陥って、別の会社を攻撃しているだろう」
ゼストの言う通り、すでにアニメ会社は殺し合いを始めていた。
特筆すべきは、そのどれもが自然選択スタジオのような会社だった。
最初に攻撃を始めたのは
彼らは
だが、藍色空間は事前対策を既に講じており、彼らだけが攻撃を生き延びることができた。
彼らはすぐさま、反撃に転じた。レーザー・ビーム一発で終わった。
藍色空間は企業、深空の絵コンテやら資料やらを回収して、次元の海の彼方に逃亡した。
同じころ、青銅時代プロも量子スタジオを攻撃して、藍色空間と同じように逃亡した。
ネットはもちろん炎上し、呪詛と罵倒が彼らに殺到したが、すでに彼らはネットを切断していた。
彼らは幼年期の終わりを迎え、古き良きアニメを携え、見知らぬ次元世界に消えていった。
翌日、公園のベンチで冷たくなっている東方が発見され、井上と列文はスタジオで静かに息を引き取った。