ミューズナイツ~SBY48~   作:赤月暁人

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第17話 あかり初研修

研修生のあかりは見学がてら結衣と加奈子の仕事を体験する。

 

二人は学園ドラマに出演していてちょうどその最終話の撮影の準備中だった。

 

その学園ドラマは女の子同士の三角関係にある女の子二人による恋愛学園ドラマで少しだけコメディ要素がある。

 

そしてついにその最終話の撮影が開始された。

 

「今日は百合ヶ丘女学園・恋愛部の最終話です。よろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「今回はSBY48の研修生で見学に来た前田あかりちゃんもいるので張り切っていこうね!」

 

「はい!」

 

「私たちの女の子同士の恋愛三角関係もこれで終わりなんだね」

 

「そうですね。まさかアイドルになって連続でドラマの撮影とは思いませんでした。やっぱり子役の印象は拭えないのですね」

 

「仕方ないよ。結衣は子役からずっと活動しているんでしょ?私より芸歴では先輩なんだから期待されてこんなにドラマの撮影があるんじゃない?」

 

「芸歴では確かに私が先輩ですが、アイドルとしては加奈子先輩の方が上ですよ。それに…あんなに真面目な同期で後輩のあかりが見ていますから変な芝居は出来ませんね」

 

「完璧主義ってほどじゃないけどストイックな結衣らしいね。じゃあそろそろ撮影が始まるしウォーミングアップしよっか」

 

「はい」

 

「加奈子先輩と結衣ちゃんのお仕事…どんな芝居力なんだろう…楽しみだなぁ」

 

こうして加奈子と結衣は雨の中の撮影で初の喧嘩シーンをする。

 

結衣自身は筋トレを趣味としているので腕っぷしには少しだけ自信はあった。

 

一方の加奈子も運動自体は嫌いではなく週に三回もジムでトレーニングするほどでそれなりに体力はある。

 

二人は喧嘩のシーンに慣れていないのでお互いを殴る事に抵抗があったがその事が監督にバレてしまう。

 

「うーん…二人はやっぱり先輩後輩として意識しちゃうのかな?加奈子ちゃんは可愛い後輩を虐待しているみたいで嫌で、結衣ちゃんは頼れる先輩を殴るのを躊躇っちゃうかな?」

 

「申し訳ありません…」

 

「まぁ確かに実際に殴ったりすることはないけど、胸ぐらを掴むときに震えたり遠慮がちになったりしていたからね。そうだ、少しだけディベートしてみよう。テーマは…あの前田あかりちゃんを急遽ドラマに出すべきか出さないべきかだね。結衣ちゃんは出さない派で加奈子ちゃんは出す派でよろしく!」

 

「えっ…?」

 

「いきなりですか…?」

 

「私…!?」

 

「監督…確かに使用時間終了までかなり時間はありますが何故…」

 

「悩める子役たちを導くのも監督の役目だ。彼女たちはまだ若いから当然我々大人よりも悩みが複雑だ。だから大人である我々が責任を持って導くんだよ」

 

「なるほど…前田さん、ご協力お願いしますね」

 

「は、はい!」

 

「ごめんなさいあかり。あなたまで巻き込んじゃって」

 

「いいの。それより私は出演しなくても役に立てるのなら嬉しいな」

 

「ポジティブなあかりらしいね。私も先輩だからって後輩から何も学ばないわけにはいかなさそうだね」

 

「同じく芸歴に驕ったらいつかあかりに抜かれそうね。加奈子先輩、よろしくお願いします」

 

こうして結衣と加奈子は急遽監督の計らいでディベートをする。

 

テーマは前田あかりを急遽ドラマに出演させるかどうかで、結衣が出演反対派で加奈子が出演賛成派になる。

 

結衣と加奈子は遠慮がちではあるもののやるからには全力でやらねばと深呼吸して力を入れる。

 

そして…

 

「よーい…始め!」

 

「やっぱり新人だからって何もさせないといつか才能に埋もれてしまって結局活躍しないパターンになるから彼女を出演させて現場力を叩き上げるのが一番だと思う」

 

「いいえ、まだ彼女は現場をよく知らないし研修生としての技術も全然足りない。そんな状態でいきなり現場に出したら彼女はパニックになりかねないと思うんです」

 

「だからこそ叩き上げて現場力を上げるんじゃないの?甘やかすなんてあなたの育成論はその程度なの?」

 

「先輩こそ随分後輩にスパルタすぎませんか?このままではあかりはプロの洗礼を厳しく受けて芸能界をやめてしまいますよ?」

 

「そうなったらその程度って事でしょ?あかりには経験値が足りないのだから与えればいいじゃない。彼女にとっても最大のチャンスだよ。それを潰すというならあなたは保守的だと思うよ」

 

「私だって彼女に活躍してほしいですが、チャンスはまだ先の方だと思います。ゲームだってレベルが低い状態で先に行き過ぎたら敵にやられますよね。もう少し慎重に言ってからでも遅くないと思いますが」

 

「あれ…意外と二人とも熱くなってる…?」

 

「はいOKです!君たち半分本音入ってないw?」

 

「少しだけ入ってました」

 

「生まれてはじめて先輩に歯向かった気分です…」

 

「いいじゃない。これも芝居に必要な事だよ」

 

「それもそうですね。それじゃあ監督、続きを撮影しましょう」

 

「それじゃあよーい…アクション!」

 

「あなたも彼女が好きなんだね…何で今まで黙ってたのさ…?」

 

「それはお互いさまでしょ…?あなただってずっと私に隠し事してたじゃない…」

 

「喧嘩売っているの…?」

 

「そっちこそ…」

 

こうして二人は芝居に全集中をして胸ぐら掴んだり押し倒したりとアイドルとは思えない気迫溢れる喧嘩のシーンをこなした。

 

人工的に降らせた雨は監督の指示でより強くなり二人はさらにヒートアップした。

 

ただそれでも本当に殴ったりすることはないのであかりは俳優界はハードでこんなこともするんだと驚きながらも熱心にメモを取った。

 

撮影は無事に終了して時間に余裕があったのでスタジオ内でロケ弁をみんなで食べる。

 

あかりの分はさすがに用意されてなかったがあかりは料理も出来るので自前の弁当で昼食を取る。

 

すると共演している子役たちがあかりのところへ集まってきた。

 

「あかりちゃんすごいね!こんな可愛いお弁当作れるんだ!」

 

「はい。一応お弁当は家族全員分作っているんです。お父さんがいつお嫁に行ってもいいように家庭的になりなさいって小学校の頃からやってるんです」

 

「偉いなぁ…私なんて料理は調理実習しかやったことないよ」

 

「あなたは永治大学で学びたい事あるっていって勉強してきてるじゃん」

 

「それはそうだけど…将来お嫁に行った時にどうなるか心配なんだよぅ」

 

「はいはい、あかりもお腹がすいているからそこまでですよ」

 

「もう結衣ちゃんって固いなぁ」

 

「新人相手なんだから少しくらいいいじゃん」

 

「ほらほら、あかりが困っているからね?」

 

「ちぇっ…センターの秋山加奈子さんに言われちゃったら逆らえないや」

 

「じゃあまたねあかりちゃん。今度は一緒に共演しようね!」

 

「こちらこそ貴重な体験ありがとうございます」

 

「すっかり人気者になったわね。あなたって案外人を引き寄せるオーラがあるのかも」

 

「そんな大げさだよ結衣ちゃん」

 

「でもそれはあるかもね。私が騎士になったからとはいえオーディション合格にしてほしいって言わせたほどだもん」

 

「そうですか?でもあの時は拾ってくれてありがとうございました」

 

「いいの。それよりもこれからあかりは研修生として仕事も増えると思うし気を引き締めてね」

 

「はい!」

 

つづく!


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