加奈子がアイドルを引退してから10年間の出来事の話をしよう。
加奈子は引退してすぐにアメリカへ行き、すぐに芸能界のプロデュースに取り掛かった。
同時にハリウッド芸能大学で留学生として入学し、そこでプロデューサーや企画担当の勉強を4年間続けた。
卒業後はアメリカで3人ほどのスターを生み出し、ヨーロッパでもイギリスでエマのバンドの再結成に尽力、フランスでも無名劇団の公演を満員にしたりとかなりの結果を残した。
加奈子が日本を経ってから約10年目を迎えて韓国で、あるアイドルに憧れる中学生の女の子をプロデュースしていた。
「はぁ…はぁ…!」
「さぁ、残り5キロメートルだよ。もう少しペース落として。トバすにはまだ早いからね」
「はい…!」
加奈子はこのイ・ユナという根暗で太った女子中学生をアイドルにすべく、今までのキャリアを隠してプロデュースしていた。
太った理由が小学校の時にいじめられて引きこもりになり、そこから徐々に太り始めてしまったという。
心無い同級生からブスとかお前にアイドルは無理だと罵られてきたが、加奈子がたまたま橋の上で自殺しようとしたところに出会い、止めたところで加奈子はユナの隠れた才能を感じて自らプロデュースを申し込んだ。
自殺の経緯を聞いた加奈子は見返してやろうという気持ちでいっぱいになり、言葉使いこそ優しいが練習メニューが厳しかった。
その成果が現れたのか1年間だけでマイナス20キログラムのダイエットに成功、食事や睡眠も改善され、今やモデル並みの美貌を手に入れた。
しかしある問題がまだあった…
「はい終了!お疲れ様!」
「はぁ…はぁ…!」
「ユナちゃんって結構根性あるね。私の厳しいレッスンにも耐えられるなんて。少しは自信ついた?」
「えっと…わかりません…。やっぱり図々しいですよね…こんな私みたいなブスがアイドルになろうなんて…」
「うーん、他人に言われ続けたせいか、自分をブスと思い込むようになった感じかぁ…。ユナちゃんは肌や髪などのケアもしっかりしてるし、私の後輩たちに負けないくらいアイドル力が高いと思うけどね」
「加奈子先生は買いかぶりすぎですよ…。私なんてまだ…」
「わかった。そこまで自分に自信がないならこうしよう。韓国最大のアイドルオーディション番組って知ってるよね?」
「は、はい…」
「そこで優勝出来なかったらアイドルを諦めると同時に私は日本へ帰る。でもその間は私がしっかりプロデュースしてあげるよ。心配しないで、こう見えて私は人を見る目には自信があるから。ユナちゃんは自分が信じられないと思うけど、せめて私だけは信じてほしいな」
「加奈子先生…わかりました!先生だけでも信じます!」
「それじゃあ今日のレッスンはここまで!そのオーディションは夏に行われるからその時までよりハードにいくよ!」
「ひっ…!が、頑張ります…!」
加奈子はユナにノルマを課して自分自身にもプレッシャーを与える。
受ける側だけにプレッシャーを与えるとパワハラになるので、もしダメなら無能な指導者としていさぎよく去って、まぎれもない本名でSNSに結果を晒して批判を受ける覚悟も決めていた。
始動する自分にもプレッシャーを与える事で受ける側と連携を取る作戦で今までたくさんの才能の芽を育て上げたのだ。
あれから夏になり、ついに韓国最大のアイドルオーディションが行われた。
ユナは地区予選を難なく突破して決勝ブロックまで駒を進めた。
そしてついに決勝ブロックの開催日となった。
「これより、コリアアイドルオーディションを行います。まずはエントリーナンバー1番、カン・ユジン」
「はい!」
「どうしましょう…緊張してきました…」
「うん、私も緊張するよ。やっぱり何度経験してもこれだけは緊張するな…」
「あの秋山拓也さんの一人娘ですよね…?後で調べてようやく知りました…」
「あー、バレちゃったか。実は正体を隠して世界中の原石を磨くプロデューサーの修行をしているんだ。10年間も世界中を回っているけど、まだ自分に納得いかなくて日本にあれから戻ったことがないんだ。だからユナちゃんのプロデュースを終えたら日本に戻るよ。あの子たちももう自立して成長しているしそろそろ…」
「え…?」
「ううん、こっちの話。それよりもオーディション、頑張ろうね」
「はい!」
「あっれー?誰かと思ったらブスユナじゃーん!アイドルオーディションとかよく出られたわね?」
「誰なの?いきなり失礼じゃないかな?」
「あ…ああ…!」
「ユナちゃん?」
「そんな…どうして…?」
「見た目は随分変わったけど、やっぱり中身は根暗でブスなんじゃないの。アンタがいくら才能を磨いたって無駄なんだから諦めて豚小屋に引きこもりなさいよ」
「いや…やめて…!」
「てゆーか生きてたのね。もう死んだかと思ったんだけど?いっそ死んでくれた方がいいってゆーか?早くオーディションに落ちてこの世からバイバイしなさい」
「待って!」
「はぁ?誰なのアンタ?」
「私は秋山加奈子。あなたは?」
「パク・クネよ?何か文句あるの?」
「あるよ。この子がどれだけ勇気を出してこのオーディションに臨んだか。私が声をかける前にどれだけヨナさんのせいで苦しんできたか想像できる?ヨナさんのような心無い人のせいでユナちゃんの未来や可能性が潰されたかもしれないんだよ?もし心からそう思っているなら…ユナちゃんはあなたみたいな最低な子に絶対に負けない!」
「あら?私はアイドル二世の選ばれた存在なのよ?この子みたいなブスと同じ舞台何て困るの。せいぜい私の引き立て役になりなさい」
「加奈子先生…」
「大丈夫、あなたなら出来る。それでダメだったら加奈子は無能な奴だったと思っていいからね?それに…今はトラウマを思い出させたかもしれないけど、これを乗り越えて優勝して見返せばあの子ももうぐうの音も出なくなると思う。さぁ、自分を信じよう」
「は、はい!」
「ではエントリーナンバー7番、パク・クネさん!」
「はーいどうもー!」
ユナを今までいじめていたクネは圧倒的パフォーマンスを見せつけ、観客をすぐに魅了させていった。
ハイレベルな歌唱力とダンスで会場を熱気の渦に巻き込み、他の参加者も戦意喪失するほどだった。
ユナも戦意喪失しかけた瞬間、加奈子はこんな独り言を言った。
「あの子には実力はあるけどオーラがないかな…。残念だけど完成度ばかりで将来性と実用性がないね…」
「加奈子先生…?」
「このオーディションはユナちゃんで決定だね。私はそう預言するよ。後はユナちゃん自身が自分を信じて挑むだけ。頑張って」
「はい!」
「ではラスト、エントリーナンバー8番、イ・ユナさんです!」
ユナは緊張しつつも加奈子に恩返しする気持ちでステージに上がる。
曲が始まるとユナは生まれ変わったかのようにオーラが変わった。
そう、彼女の歌声は茶山くるみに似ていて、ダンスも柔軟性を活かした身体能力だった。
パフォーマンスも周りを伺う性格を利用してファンサービスを徹底させ、ユナの何もかもを引き立てるものとなった。
おまけに見た目もビフォーアフターされていたのか、整形手術もしてないのに美しくなったビジュアルに観客はユナ一色となった。
そして…
「優勝は…イ・ユナさんです!おめでとう!」
「え…?私が…?」
「ちょ、何でよ!こんなブスのどこがよかったのよ!」
「君には完成度は高かったが、ただ歌とダンスが上手いだけだった。だがこの子は一生懸命さと自分は変われるんだという気持ち、そしてファンを大切にする精神を持っていた。君にはどれもない、その決定的な差だ」
「何よ!こんなボロ会場じゃ私の魅力は引き出せきれないのよ!大体私を誰だと思ってるのよ!」
「二世だからって調子に乗るんじゃない!表彰式の邪魔だから出ていきなさい!」
「ムキー!」
こうしてユナはアイドルとして正式にデビューし、加奈子のプロデュースを卒業した。
事務所は日本の芸能事務所となり、留学生としてSBY48の所属となった。
9月に入り、加奈子は韓国を経って日本へ凱旋帰国する。
「もう帰国するんですか?」
「うん。正直、君がこんなに早く成長するなんて想定外だった。もっと長くなるかなって思ってたけどよかったよ。これでユナちゃんは私の遠い後輩だね」
「来年の3月にまた渋谷で会いましょう。その時は私のライブを観に行ってくださいね!」
「ありがとう。でも日本に着いたら、もう私は先生ではなくライバルかもよ?」
「それはどういう意味でしょうか…?」
「さぁね、日本に着いてからのお楽しみだよ。じゃあまた会おうね」
「はい!今までありがとうございました!」
「さてと…ミューズナイツのみんなに一斉送信しよっと。久しぶりだね。突然だけど今年の大晦日に渋谷駅のハチ公前に集まってほしいので、仕事をオフにして時間を空けておいてください。秋山加奈子より。っと。本当にみんなが集まったら、もう一度…」
つづく!