帰宅部ガチ勢の主人公が自分は気がついていないだけで相当なリア充の話 作:A i
あと、感想いただけると嬉しいです。
では、どうぞ!
授業終了の鐘が鳴った。
本日の授業も全て終わり、あとはショートホームルームを残すのみ。
クラス全体に弛緩した雰囲気が流れる中、あるものは友達と「放課後どこに遊びに行くか」を楽しそうに語らい、またあるものは「今日の部活の練習が楽だったらいいのに」などと他愛もない会話に興じている。
そんなリラックスモードの教室にあってただ一人、俺だけは全神経を集中し、その時を待っていた。
しばらくして、担任教師がショートホームルームを始め出す。
明日の予定や、一学期の中間考査に対する準備をしっかりするように、などとウンヌンカンヌンひとしきり喋り終えると、別れの挨拶をするべく「起立」と号令をかける。
それを聞いた生徒は皆立ち上がる。
俺の心臓は、来るべき戦いの瞬間への高揚を抑えきれずにドクンドクンと早鐘のように鳴り響く。
そして、その時は来た。
担任が「礼」を口に出した瞬間、俺は「さようなら!」と一礼しつつ、自分の席の隣にある扉を右手で開き、勢いよく廊下の外に出た。
見ると、まだ廊下には誰もいない。
今日こそどうやら俺が一番だ!!
ただし、走ると目の前奥にいる、生徒指導の山内に注意を受け、大幅なロスを受けてしまう。それだけは避けなくてはならない!!
俺は走り出したくなる気持ちを抑え、落ち着いた足取りで山内の横を通過。
階段は一段飛ばしに降りていき、購買の前を通り過ぎるとようやく玄関入り口に到達する。
スタートダッシュは完璧、山内にも捕まらず、階段はできる限りの速さで降りてきた。
これは今日こそ俺しかここにはいないはずだ!!
そう思い、自らの靴が入っている下駄箱へ近づこうと思ったその時、人影が下駄箱から颯爽と飛び出した。
な!?俺より先に下駄箱へ到達しているだと!?
俺は驚きに目を見開いてその少女を見た。
またあいつだった。
名前は知らないが、帰宅部ガチ勢であるところの俺よりもさらに早くいつもこの下駄箱に到達している猛者。
今日こそはここに俺の方が早く着くと思っていただけにショックが大きかった。
校門を颯爽と抜け、帰宅していく彼女の後ろ姿を半ば放心して見ていると、背後から勢いよく何かが俺に飛びかかってきた。
「拓くん、ドーン!!」
「ぐえっ!!」
背後からの衝撃にたたらを踏んだ俺が振り返ると、悪戯に成功した小さな子供のような笑顔を浮かべた幼なじみ岬美咲(みさきみさき)、通称ミサミサの顔がそこにはあった。
「驚いた?」
「いや、驚くとかより普通に痛えぞ岬」
俺が痛めた腰をさすりながら、そう答えると、岬はサッと右手で顔を覆い、やたらとカッコつけたポーズを取る。
「ふっふっふ!鍛え方が足らんな拓くんは!」
「いや、お前もたいして鍛えてないだろ?お腹ポニョってるぞ、ほれ」
そう言って、俺は岬の少しずり上がったブラウスの下から覗くお腹を指差す。
もちろん別に太ってはいないが、俺の鍛え方どうこうを言えるほど、岬も筋肉はついてなさそうな、白く柔らかなお腹をしている。
すると、お腹を見られていることに気がついた岬はわかりやすく顔を耳まで真っ赤に染めて、シュパッとブラウスの裾を抑えた。
「な、な、な、何見てるんだよ!!拓くんのエッチ!!それにポニョってない!!高校一年の女子からしたら普通だし!!なんならちょっと細い方だし!!細い方だし!!」
「二回言ったな、、、」
「だ、大事なところだからね」
依然、頬を少し赤らめたままの岬はいそいそと裾をスカートの中へ押し込み、居住まいを整える。
「とりあえず、今日こそ一緒に帰ろうよ拓くん!いっつも一番におうち帰っちゃうから、ほんと困っちゃうよ、、、」
やれやれ、と言った様子で首を横に振る岬。
だが、俺は彼女の言葉に大きなため息をつくことしかできなかった。
「なに?どしたの?なんかあった?」
岬が少し心配そうに聞いてくるので、俺は軽く首を振った。
「いや、なんでもない。ただ岬のさっきの言葉には大きな語弊が含まれている」
「ん?なに?語弊って?なんか私間違えたこと言った?」
キョトンと不思議そうな目つきで問う彼女に、俺は頷く。
「ああ、間違えている。岬はさっき『俺が一番に帰っちゃう』と言ったが、俺は一番じゃない」
吐き出すようにそう言った俺に対して、あっけらかんとした声音で岬はそれを否定した。
「それはないない〜!拓くんの病的なまでのホームシックに勝てる人なんてこの学校どころか、地球のどこを探しても見つかるわけないよ〜!ぶっちゃけもはやその帰宅欲求はキモいもん!拓くんよりキモい人なんかいないって!」
「おい、なんか話の論点が俺の帰宅欲求からだいぶズレていって最終的に俺がめちゃくちゃキモいだけになってんじゃねえか、、、」
「へ?なんか間違ってる、私?」
口元に指を当てて、キョトンとする岬は無駄に可愛くて無性に腹が立った。
が、自分が多少キモいことは自覚しているためなにも言えない。うん、多少はねわかってるよ?多少、、、だよね?
俺は心ない一言に多少ならず傷ついていたのだが、そんなこと彼女はつゆ知らず、んん!っと小さく咳払いをして、話し出した。
「そんなわけで、とりあえず、拓くんよりキモい人はいないことは証明終了したわけだけど、、、」
「証明されてしまったのか、、、」
「さっきの拓くんの話し方だと、拓くんより早くに帰ってる人がいるってこと?それってめっちゃ速くない?」
ふむ、と顎に手をやり少し考え込むような仕草を見せる岬に俺も頷く。
「ああ、そうなんだ。ここ最近、あの女いつも俺より先に下駄箱へ到達していやがる。ただものじゃねえ」
「へえ〜女の子なんだ!!可愛い子!?」
なぜかキラキラと瞳を輝かせて前屈みになる岬。
「あ〜まぁ可愛かったんじゃね?知らんけど」
「なにそれ、適当だなぁこの人〜」
岬は残念そうにはぁ〜と大きくため息をつき頭を抑えた。
悪かったな、残念な人で!
「まぁとりあえず、そうなんだ。めちゃくちゃ速く下校している女子がいる」
そう。この事実が俺を入学してからのこの数週間苦しめ続けている。
どんなに工夫しようが、どれだけ入念に準備をしようがただの一度も勝てたことがない。
もちろん、日によっては明らかに俺のクラスの終礼が遅い日もある。
だが、この高校は基本的に帰宅部にとって公平と言っても良い慣習で、その学年の教師、例えば一年は一年の教師、2年は2年の教師といった具合に、一度職員室でショートホームルーム前に集まり、今日一日の出来事などを共有する集まりがあるらしい。
なので、ショートホームルームが始まる時間はほとんど揃っていると言っていいし、それに伴って終礼がほとんど揃うことになる。
よって、毎日下校することが俺より早いというのはよほどの実力者であることが窺い知れる。
だが、、、。
「だが、俺より速く帰れるやつがいるなんて断じて許さねえ!このままだと帰宅部ガチ勢としての名が廃る!!」
「うわぁぁ、、、ちょーどうでもいい」
岬は白い目でこちらを見ているがそんなことは関係ない。
俺にとっては重大なことなのだ。
なぜなら、俺の野望である部活。
「高校初の帰宅部を創設するのは俺だからな!!」
握り拳を高々と掲げて、自らの夢を描いていると、呆れたようなため息が後ろで聞こえる。
「はぁ、、、まだ言ってるの?そんなことより早く帰るよ?今日は拓くんの家でストブラやるんだから!」
岬は見た目は、明るく快活で運動部っぽいんだけど、意外にゲームも好きなのだ。
特になぜか格ゲー。
「岬はほんとゲーム好きだよなぁ」
俺が思ったことをそのまま口に出すと、岬はなぜか少し照れ臭そうにする。
「拓くんも好きでしょ?」
「まあ、好きだな」
そう答えると、俯き、小さく俺には聞こえない声で何かを呟いた様子の岬。
なにを言ったのか尋ねようと思ったがそれよりも早く、岬が何かを思い出したように顔を上げた。
「あ、でも昨日拓くん負けたから、帰りのコンビニでチーズケーキ買ってもらお〜!」
そう言って足取り軽やかに靴を履き、歩いていく岬。
少し不思議に思った俺だったが、それよりも気になることがあった。
「おい、チーズケーキってまさかあのクソ高い新商品じゃねーだろうな!?」
「なんでも奢ってもらう約束だったからね〜!!早く行くよ!帰宅部の名が廃るんでしょ!?」
「はいよ、、、」
約束は約束だが、キツい、、!これは明日も奢ることになったら終わる、、、絶対に今日の勝負は負けられない!!
この後来るべき絶対に負けられない戦いへの闘志を燃やしつつ、俺たちは家路へと着くのであった。
どうでしたか?
感想など気軽にください。