Cルート   作:油性

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うちが伝えたかったことは

 

 北海道でジョーロっちにあった借りを返してさらに増えて終わった翌日の話。

 うちらは西木蔦高校にやってきたっしょ! お盆休みが迫ってる中で詰め詰めの予定だから、ジョーロっちには感謝しかないね。

 

「じゃあ俺が先に行きますから、チェリーさんはここで待っていてください」

「一緒に入るのはダメなの?」

「入ってきたらパンジーが困惑しますよ……。というか、まだチェリーさんが知ってるパンジーとはわかりませんから」

 

 ふむ。言われてみればそうだ。一理あるねジョーロっち。来るときに毎回ゆっくり歩いてくださいって言われたから、うちのドジを警戒してここまで慎重になってるんだろうけど……。

 そういえば西木蔦高校に向かうときに、ジョーロっちはこんなことを言っていた。

 

『俺の知ってるパンジーはチェリーさんのこと知ってましたが、もしかしたら別の人かもしれません』

 

 それうちしかなくない? って思ったけど思ったより深刻な顔をしていたのでうちはそのまま頷いて終わっちゃったけど、別に頷く必要なかったよね。うちを知ってる三色院菫子ってそれもう菫子っちしかないじゃん。

 飛行機内で三つ編みメガネの姿のイラストを見せられたけど、菫子っちはさすがにそんな姿じゃなかった。というか胸っしょ、胸。

 物理法則を無視して凹んでたよ、あの絵。

 だからうちは冗談だと思ってたんだけど、どうやらジョーロっちの知ってる菫子っちと違いが生じてるみたい。

 ……早く会いたい。うちは菫子っちに話さなきゃいけないことがあるんだ。

 

「お待たせしました。入って来てください」

 

 ジョーロっちが入り口からひょっこりと顔を出して言った。

 ジョーロっちが告白を勇気を振り絞って応えたんだ。うちもそれに応えられなきゃダメな気がするんだ。

 図書室に入って真っ先に疑ったのはそこにいた女の子の姿だった。

 メガネで目は隠れて入るけれど、額に浮かぶ汗からは焦りを感じる。三つ編みで控えめな胸からは記憶に残っている菫子っちとは別人としか思えなかった。

 

「桜原先輩……? なんで……?」

「うそ……ほんとに菫子っち…………?」

 

 名前を言われて、本物だって確信した。

 三つ編みメガネの女性。パンジーの髪留めを付けてそこに佇んでいる。

 

「ジョーロ君。これはどういうことかしら?」

「どうもこうも何も、こういう事だよ。パンジーさん」

 

 あっ、ジョーロっちその口調で通すんだ。学校内ではまだそのキャラでいたいのかな……。

 

「それもやめてジョーロ君。私、貴方のその口調嫌いなの」

「……君は何を言っているのかな?」

 

 さすが菫子っち。一瞬でジョーロっちの本性を看破しちゃったよ。

 ジョーロっちの額には汗が浮かんでいる。ここでうちの話題を出さずにジョーロっちを使ったのは、おそらく平静を保つためだ。

 ……なんかうちが知っている三色院菫子とは違くない? 君そんな喋るキャラクターだったっけ? 

 

「私は俺口調で人をてめぇ呼ばわりする方の方が好きなの。でないと、その本性をバラしてもいいのよ?」

 

 ジキルとハイドを手に持ちながら菫子っちは言った。あれ、おかしいな。うちが会話しに来たはずなのにうち蚊帳の外じゃない? 

 

「……今はそんなことより、チェリーさんがここに来た理由について会話しようよ」

「嫌よ。私のお願いを聞いてくれるならいいわ」

「何かな?」

「その口調をやめてって言ってるのよ」

「……はぁ。これでいいのか?」

「うわぁ」

 

 ジョーロっちが根負けしていつも通りに戻った。口調が変わる時にほんの少し見えたんだけど、菫子っちの口角がほんの少し上がっていた。嬉しいってことだよね。なんで? 

 

「めっちゃ笑顔だなてめぇ! あぁもういい! 本題に移させてもらうぞ!」

「そうね、これでやっと理由が聞けるわ」

「別に来れなくても聞けたよね!?」

「いいじゃない。これくらい」

「よくないが!? ほらもう! チェリーさん置いてけぼりになってんじゃん!」

「うちいる?」

「いる!」

 

 図書室の受付でする会話だろうか。

 幸いこの近くに人は来ていないため、ジョーロっちの本性はバレることはない。

 

「じゃあ訊くわジョーロ君。なぜここに桜原先輩がいるのかしら?」

「チェリーさんが話があるから来たんだ」

「誰に?」

「てめぇにだ」

「私からはないわ」

 

 そりゃそうっしょ。うちのエゴでここに来たのだ。菫子っちからしてみれば傍迷惑だし、何よりうちなんかと顔を合わせたくないって決まっている。

 けれど、うちのためにここまで行動してくれたジョーロっちのために、ここでうちが動かないとダメだ。

 

「いや、うちにはある。だから来たっしょ! ……だから、うちと会話をしてくれないかな?」

「嫌です。……私はもう関わりたくないので」

「そこをなんとか! お願い……!」

「俺からも頼む……。チェリーさんの話を聞いてくれないか?」

「…………」

 

 会話をしてくれなかったら、このまま帰るしかない。そしてまた、もう一度会話をしに行く。うちが決めたあの日までに、菫子っちと会話しなきゃダメなんだ。

 

「はぁ……わかったわ」

 

 ため息をついて菫子っちは言う。よかった……! 

 

「ならジョーロ君。奥側の鍵を閉めてきてくれないかしら?」

「なんでだ?」

「今から私がすることを他の人に見られたくないからよ。あと、図書室の看板をクローズに変えてくれるかしら?」

「……わかったよ」

 

 ジョーロっちが奥の方に行くと、すぐに菫子っちは立ち上がった。メガネを外し、髪をほどき、それでワイシャツに手を……って! 

 

「なんでここで脱ごうとしてるの!?」

「脱ぎませんから」

「いやでも脱いでるじゃん! み、み、見られちゃうっしょ!? ジョーロっちに!」

「……まぁ私はそれでも構わないんですけど、私がしたいんです」

 

 そう言いながらボタンを外すと、露わになったのはサラシだ。それを解くとなんと胸が肥大化し……そうはならないっしょ。どうなってんのさそれ……。

 けれどこれでやっと確認できた。うちの記憶にこびりついている、菫子っちと合致した。

 

「うっし、鍵閉めて来たぞ……!? お、お前は!?」

「この姿だと久しぶりになるのかしら? ジョーロ君」

 

 そうか、あの時ジョーロっちと会話してたもんね、うちはその後にジョーロっちが困ってたから会話したけど、そういえばそうだった。

 

「ほんとはこのタイミングでは見せたくなかったけど……中学時代の思い出話は、中学時代の姿じゃなきゃダメよね」

 

 少し頰を赤らめながら菫子っちは言った。……というか、うちの思い違いだと思うけど、菫子っちってジョーロッチのことを……。

 

「じゃあ話をしましょうか。奥の机に移動しましょう」

「う、うん」

「ジョーロ君は……、もう私の中学校の頃に起きたことを知っているのよね?」

「あぁ。チェリーさんに聞かせてもらったよ」

「なら近くで座っていてちょうだい」

「へいへい……」

「私たちはこちらで」

 

 ジョーロっちとそれなりに離れたところで座るうちら。……ここまで来たんだ。やることをやらないとね。

 

「それで、私に何の用できたんですか?」

「まずは……うちの謝罪を聞いてくれるかな?」

「謝罪ですか?」

「うん。うちはずっと嫉妬していたから」

 

 ホースっちはいつも、菫子っちの助けになるような行動をしていた。目立つ容姿をしていた菫子っちの周りに集まって来た輩を、うちらが助けて、その後もホースっちは菫子っちを守り続けて、最終的に恋心を芽生えさせた。

 うち、というよりも、ホースっちを好きになっていたうちらは当然嫉妬した。

 だってそうでしょ? 自分が頑張っても振り向いてもらえないのに、何もしてないあの子が近くに存在している。その事実を思い知らされた時は本当に、辛かった。

 その時点でうちらは自分たちの恋愛をやめるために菫子っちとホースっちをくっつかせようとしたんだけど……当然うまく行くはずもなく、結果としてうちらに恋心と憎悪を抱かせたまま卒業したってわけだ。

 でも、もううちにはそんな醜い感情はない。そんな言葉はただの逃げだ。うちはひたすらに自分の恋心から目を背けて、逃げていた。

 

「うちは菫子っちが嫌いだったよ。うちが頑張っても……ホースっちは菫子っちのそばにいたからさ」

「……」

「でもその嫌いって感情が間違えてるの気づいたのは最近なんだ。うちがしてたのはただ逃げていただけなんだって」

「桜原先輩……」

「だから……ごめんなさい。うちは、ひどいことをした……」

「……こちらも悪かったところはあります。最初から私が、明確な意思を持って拒絶できてたらこんなことにはならなかった……」

 

 ホースっちは今日までに菫子っちに二回告白して、全て断られている。

 けれどホースっちはまだ恋心を芽生えさせたまま生活している。……これが消える方法はうちには思いつかない。なんだろう。物理的に会えなくするとかかな。

 

「菫子っちは、ホースっちのことを」

「嫌いです」

「だよね〜! あはは……」

 

 うちの好きな人を目の前で嫌いって言われたら結構きつい。

 うちは……ホースッチの愚痴をこぼしつつ、再度会話を始めた。

 

「映画を見に行っても弁当を作っても、純粋な善意に当てられて、好きって言葉が抑えられちゃう。でもうちはそれでもホースっちが好きなんだ。これは……いつだって変わらない」

「……」

「でも、そのままうちの気持ちを終わらせるのは嫌だって、最近になって思い始めた」

 

 きっかけは北海道旅行。

 ライラックっちがジョーロっちに告白してきた時のこと。

 うちは知っていた。ジョーロっちがライラックっちの告白を断ることを知っていた。……多分だけど、ライラックっちもわかっていたはずだよ。

 ライラックっちは教えてくれた。

『これは私の持論ですけど、告白の意味って秘密にしていたこととか、思っていたことを打ち明けること、じゃないですか? 私たちは愛という文字がありますが、秘密や、好きなものを言う時だって告白だと思うんです』

 伝えることが大切なんだ。

 うちはそれからも逃げ、菫子っちに責任転嫁した、最低最悪の屑女だ。

 ジョーロっちと会ってなかったらこんな状態で過ごすことになってるから、頭のおかしいやつに見られてもおかしくないっしょ! ……笑えないけどね。

 

「だから……うちは決めた」

「決めた……?」

「うん、うちは……」

 

 うちがこの言葉を紡ぐためには、菫子っちに謝る必要があった。自分勝手なことを押し付けた相手に謝罪もできずに、そのまま都合よく付き合えてもうちが否定しちゃう。

 果たしてそのままでいいのかってね。

 だから……うちはもう、こうするって決めたんだ。

 

「ホースっちに告白する」

 

 うちが固唾を飲んで、菫子っちの方を向けて言った。その言葉を耳にした菫子っちの顔は驚愕を覚えたような顔だった。でも話を止めるわけにもいかない。うちはこのまま話す。

 

「……え?」

「たとえうちのことを好きじゃなくても、この絆が消えてなくなろうとも……。伝えられないままうちの、この恋を終わらせたくない! って、思ったんだ」

 

 うちの言葉は止まらない。覚悟はもう固めきったんだ。

 やると言ったらやる。それがジョーロっちと、ホースっちのモットー、だもんね。うちもなぞらせてもらうよ。うちも、やると決めたから、ここで告白してるんだ。

 

「だからうちは告白する。……ごめんね、こんなことを聞くために時間をもらっちゃって」

「い、いえ……いいんです。……少し驚きました」

「驚いた?」

「桜原先輩がこんなことを言うなんてって……」

「あははそうかなー?」

 

 うちもこうなるとは思ってなかったよ。

 けれどうちがここに至るまでに、こうしなきゃいけないって確信できたんだ。

 

「だからまずは……告白の前に、ひどいことをした菫子っちに謝りに来たんだ……本当に、ごめんなさい……」

 

 憎み、妬み……など、嫌な感情はここでさらばだ。もう、うちにそんな感情は必要ない。

 

「いつ告白するんですか?」

「今月末の夏祭りっしょ! バックに花火で、二人きりの状況でうちが告白をする」

 

 ちらりとジョーロっちを見た。もう何度目の借りになるけど、ジョーロっちにも手伝ってもらえたら……百人力だ。いつも感謝してるよ、ジョーロっち。

 

「……もし振られたらどうするんですか?」

「その時はその時で、また一から色々と始めるよ。うちの、ホースっちへの恋は、ここで終わることになるっしょ!」

「本気……なんですね…………」

「うん! うちがここでやらなきゃ、絶対後悔するから!」

 

 伝えても伝えなくても後悔するならやって後悔したほうがいいよね! 

 

「…………」

 

 菫子っちはだんまりとしている。うちの長話に付き合ってもらってたからかな……。疲れてるかもしれない。

 

「その、あまり大きな声で言えないんですけど……」

「……?」

「私にも好きな人がいるんです。……その人のことを考えると、胸がドキドキして、いつもあの人のことを考えてしまう……」

 

 髪をくねくねといじって、顔を赤らめて菫子っち言った。やっぱり、菫子っちには好きな人がいるんだ。そしてその相手は……。

 

「私は、ジョーロ君が好きなんです」

 

 ジョーロっちに聞こえない声で、そう言った。件のジョーロっちはどこから持ってきたのか、文庫本を読んでいた。こちらの方は向いていない。

 ……やっぱり、菫子っちはジョーロっちが好きなんだ……。

 

「きっかけは今年の地区大会の決勝後で、ジョーロ君が串カツを持って、親友の少年を待ってる時だったんです」

 

 菫子っちの話した内容は、概ねうちの知ってる内容と一致していた。

 というか見ていたから、知っていたんだけど、正確な内容は知らなかったから、ここで色々と理解することができた。

 ……ホースっちとは違うジョーロっちの魅力を、楽しく、笑顔で私に伝えてくれる。

 あぁ。その気持ちはうちにもよくわかる。わかるよ。うちも、好きなものを話題に出した時、同じ顔をするからさ。

 

「……だから私はジョーロ君が好きなんです」

 

 聞けてよかった。……これ夏祭りに菫子っちが来たら話がこじれそうだ。

 胸をキュッと抑えながら、菫子っちは言う。うちはこの子をよく知っている。

 菫子っちは嘘をつかない。二年近くも見てればうちだって嫌でも理解している。

 でも肝心な時に自分の言いたいことを伝えられない、ひ弱な女の子。

 本気で、菫子っちは恋をしているんだ。応援したくなる。

 

「……私も、今日、桜原先輩と会話できてよかったです」

「うちも……! 話せて、よかった……!」

 

 あれ、涙が出てきた。

 仲直りできたことが嬉しいのかな。うちって意外と涙脆いのかも。

 

「ジョーロ君。もういいわよ。待ってくれてありがとう」

「まだいいぞ。今キリトさんがヒースクリフにジ・イクリプスを放ったところだし」

「ソードアートオンラインを読むのはいいけれど、私としては青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ないを読んでほしかったわね」「販売が近いからってダイマにもほどがあるぞパンジー。しかも持ってないし」

 

 ……なんの話をしているんだろう。

 でも、ジョーロっちと話してる時の菫子っちの顔はとても楽しそうだ。ジョーロっちはそうでもないように見えるけど。

 

「……まっいっか。話は終わったんだよな……。チェリーさん、再確認ですが、本当に告白するんですね?」

 

 ジョーロっちのその質問は、今日のうちに絶対に訊いてくると思っていた。

 だからうちは答える。

 

「うん。決めたんだ。もううちは迷わないって。昨日も言ったでしょ?」

「そうですか……なら、わかりました。最後まで協力させてください」

 

 終わってほしくない関係を無理やり発展させていかなければ。

 余談だけど、うちはこのことをつきみっちにも報告するつもりだ。うちだけ抜け駆けはフェアじゃないし、二人きりの状況を作るためには、つきみっちにも手伝ってもらわなければダメ。

 夏祭り当日は、うちとホースっちとつきみっちと……予定が合えばフーちゃんが来るはずだ。つきみっちにフーちゃんをどうにかしてもらって、あとはイチャイチャ空間を形成すればいい! これ結構難しいな……。

 そして、その日までにうちはホースっちを振り向かせないといけない、その策略を練るために、ジョーロっちは助けてくれる。これが最後になろうとも、うちは頑張るしかない。

 

「最後までよろしくね、ジョーロっち!」

「えぇ。最後まで任せてください!」

 

 固い握手をうちらは交わした。

 

「パンジー。てめぇはどうするんだ? このまま見守るってことでいいのか?」

「えぇ。私は葉月君に会いたくないもの」

「どんだけ嫌いなのお前……」

「まぁうちは目の前でそんなこと言われてもホースっちのことが好きなんだけどね!」

「この人はこの人でたくましいな!?」

 

 場に笑いが起こる。

 菫子っちと仲直りできた。ジョーロっちは最後まで協力してくれる。うちの覚悟は整った。最後まで……やりきるしかないっしょ!

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