Cルート   作:油性

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俺は何もしない、今はね

 

 夏休みも終わりが近い。

 宿題は当然終わらせ、夏休みにやるべきことを済ませ切った俺は、ついに最終フェーズに突入する……! 

 

「悪い悪い! 遅れちまったか!?」

「ううん。大丈夫だよ。今来たところだから」

「うん! サンちゃん部活お疲れ様!」

「おう! 今日はとことん楽しむぜ!」

 

 俺はひまわりと、部活帰りのサンちゃんと共に夏祭りを回ることになっている。祭が終了する直前まで俺はいるつもりだ。

 俺はチノパンにシャツを着て、サンちゃんは部活帰りだから制服で、ひまわりはオレンジ色の浴衣だ。うむ。よく似合ってるぞ。

 

「ねぇねぇジョーロ、この浴衣似合ってる? 大人っぽいかな?」

「うん。すごく大人っぽい」

「ほんと!? やったぁ!」

「サンちゃんもそう見えるよね」

「あぁ! 大人っぽく見えるよ、ひまわり」

「あ、ありがとう!」

 

 何度も言うぞ? 口調は純情鈍感BOYのままだ。急に変えたらさ、その……目立っちゃうじゃん? やると決めたらこれで通すって、俺もう決めてるわけ。

 

「じゃあ中歩いて行こうか。屋台をいろいろと回って行こうよ」

「うん!」

「そうだな!」

 

 階段を上がってみると、そこにいるのは当然人だ。今年も賑わってるな……。数多くの屋台も置いてあり、大盛況でこの状況が進んでいる。

 さて。今日の俺にはやるべきことがあると思っていないだろうか? 何日か前のチェリーさんの宣言。当然だがその後も俺は手伝った。チェリーさんがホースと出かける機会を作ったり、反省会とかをな。やるべきことは大体終わった。チェリーさんも『今日はうまくいけたっしょ! ありがとね、ジョーロっち!」って毎回送ってきたからな。信じて待つしかない。チェリーさんは後からやってくる。つきみとホースっで来るからな。

 ちなみにホースに会ってはいけない。あの男なら多分俺たちを見つけたらおそらく一緒に行動させようとするからだ。それだけはダメだ。

 チェリーさんの告白プランは花火が打ち上がってる最中での告白。協力者は俺とつきみ。俺が作戦の提案。実行はチェリーさん。補助はつきみだ。

 

「私金魚すくいやりたい!」

「いいよ。早速行こうか」

 

 で、その結果俺にやるべきことはないと判断したので、普通に楽しむことになったわけだ。前から約束はあったしね。六話で。

 金魚すくいをしにきた俺たちは、金を払ってポイを手に持って早速挑戦する。

 本音を言うと別に欲しくないので取れたら取れたでひまわりに、『お前に、これやるよ』ってドヤ顔で言うつもりだ。どや? 俺カッコよくない? 主人公感出てるよね? ちなみにひまわりは金魚すくいを最後にやったのは……まぁ最近じゃないから多分いける。

 

「っと、これ結構難しいな……ひさしぶりにやるからか?」

「あはは! サンちゃん下手ー! 私の方が上手だからね! 見ててね!」

「えっ……ひまわり上手くない?」

 

 俺は普通に驚いたよ。ひまわり普通にうまいわ。あっれー? 俺の完璧な作戦が? バカな……、そんなはずがあってたまるか……。

 

「ひまわりって金魚すくいうまいんだな!」

「そうでしょ! テニスやってるからかなぁ」

 

 関係ないと思うんですけど。もしや運動神経と金魚すくいって何か関係があるのか……? だとしたら俺不利じゃん。もう負けじゃん。なんで負けたか、明日までに考えときます……。

 そう思っているうちにひまわりが金魚をホイホイと掬ってて笑う。俺のポイはボロボロだ。これもう無理だろ。

 

「ジョーロも下手だね」

「ジョーロ、お前俺より下手だな」

「サンちゃん。もしかして挑発してる?」

「なら戦ってみるか?」

「よし、乗るよ。やろうか」

「負けたら焼きそば奢りな?」

「いいね」

 

 というわけで再挑戦だ。売られた挑発をしっかりと返して圧倒的な差をここで見せつけてわからせたくなってきた。ひまわりにアドバイスを聞いてみるか。

 

「ひまわり。どうやって金魚を掬ったんだい?」

「えっとねぇ……。こう、ガッとやって、ピュッてやってズガーン! って感じ!」

「なるほどね。だいたいわかったよ」

 

 わかるわけねぇだろ! こんな説明でわかる奴がどこにいるんだ……! 

 

「なるほどな! そういうことなんだなひまわり!」

「え?」

 

 なんでサンちゃんは理解してるんだよぉ……同じ運動部だからシンパシーでも感じてるのか…………? いやハッタリの可能性も……。

 

「うおらぁ!」

「嘘ぉ!?」

 

 めっちゃ掬ってんじゃねぇか! マジかよ!? そんなことってある!? 

 

「へへ! どうだジョーロ。これが俺たちのウィニングショットだ!」

「どうだー!」

「そのセリフはまだ早いかな!」

 

 ちなみに逆転のチャンスはもう残されてない。俺はゼロ匹、サンちゃんは九匹。つまりはそういうことである。はぁ……。

 

「じゃあ早速奢ってもらおうか!」

「私のもよろしくね!」

「えぇ……」

 

 なんでお前の分まで奢ることになってんのさ……。いいけど、別にいいけど! 

 そんなひまわりは手に入れた金魚を飼うつもりなのか、屋台の人が袋に入れてひまわりが持っている。

 

「それ、大切にしろよ?」

「うん!」

 

 ラブコメしとるやんけ。

 ひまわり……!? てめぇの金魚はどこに!? もしかして返した? しっかり返して三匹だけ残してんの!? しかもサンちゃんから貰ったやつを!? ポイントが高いな……、今度参考にしよ。

 

「じゃあお金払ってくるよ」

 

 時間的にはそろそろチェリーさんが行動を開始し始めている。焼きそば買って、そのまま奥に進んで行かなきゃな……。

 種類聞いてなかったけど全部ソースでいいよな。まぁまだ旅行の時に使わなかったお金があるので余裕はある。そのまま払っておこう。

 

「買ってきたよ。次はどこに行く?」

「私射程やりたーい!」

「なら次は射的で勝負だな、ジョーロ!」

「ほんとに言ってる……?」

「あぁ! 負けたらわたあめ奢ってもらうからな!」

「どんだけ奢ってもらいたいのさサンちゃん……」

 

 別に問題ないからいいんだけどさ。

 だが負けっぱなしなままなのは癪だ。射的なら……なんとかなんねぇかなぁ……。

 焼きそばを手に持って射的の屋台に向かう。歩き食いって焼きそばでするイメージがないからしてないけどするものなんだろうか? 歩き食いといえばわたあめとかりんご飴だが、俺は買ってないし、買ってるのはひまわりとサンちゃんだし。よく食うなぁ。

 射的の屋台は奥っ側で見つかった。位置的に大丈夫だろうか。

 

「じゃあ早速やろうぜ!」

「いいよ。見せてあげるよ、僕の力を……!」

「ほう……。なら見せてもらうとするか! 先行はジョーロな!」

「頑張れジョーロー!」

 

 厨二主人公みたいなこと言ってるけどごめんな。そんな実力ないんだが。コルク銃も持ったことないから使用感もわからない……。

 えぇい! なるようになれ! 

 

「おっ!?」

 

 なんとなく放った球がお菓子に当たって倒れたぞ……? あれ、もしかして俺才能ある? 

 

「マジかよ。……やるなジョーロ!」

「ふっ……。また僕、何かやっちゃいました?」

 

 イキっとけイキっとけ。イキれる場面でイキれないでどうする。相手にプレッシャーを与えていけ。へいへーい! ピッチャービビってるー! 次もお菓子を狙ってみるか! あと二回撃てるしな!

 二回目! 外れたか。なら三回目だ! 狙いを定めて……ヒィィィィット! 見事に命中して落としてみせたぞ! お菓子、ゲットだぜ! 

 

「見せちゃったみたいだね……。僕の力の一端を……!」

 

 もう厨二キャラでいいや。言ったもん勝ちだからな。

 

「驚いたぜ……まさかここまでやるとはな、だが、俺も負けてられねぇぜ!」

「ジョーロすごいね……私にはできないかも!」

 

 かもて。まだできる可能性はひまわりにはあるもんな。とりあえず射的が終わるまで強者感出しておけ。

 腕組んで仁王立ちでサンちゃんの射的を後ろから見守るぞ! 

 そんな俺のプレッシャーに抑圧したのか、サンちゃんは全弾外した。つまり、俺の勝ちだ。

 

「僕の勝ちだね。サンちゃん」

「……まだ負けてないが?」

「いや負けたじゃん。三発全部外したじゃん」

「やったー! サンちゃんのおっごりー!」

「くっ……。しょうがねぇな……」

 

 勝負を持ちかけた人間が言う言葉だろうか。とはいえこれでわたあめを奢ってもらえるようになった。一勝一負か……あと一回勝負しそうな雰囲気出てきそうだなこれ。いや、まさかな……。

 

「私もやる! そこで見ててね!」

 

 そう言ってひまわりも射的をしに行った。楽しそうだな、ひまわり。

 

「なぁジョーロ」

「何かな?」

「お前が唐菖蒲高校に来た時に呼んできた女の子いたじゃないか」

「……あぁ」

 

 チェリーさんのことか? それがどうしたというのだろうか。

 

「それがなにか?」

「その人とどういう関係なんだ?」

「関係?」

 

 関係、と言ってもそんな大したものではない。友達であり恋愛サポーターの間柄だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「ただの友達だよ。色々あって知り合ったんだ」

「俺の見てないところでよくそんな関係が作れたな……」

「まぁ、地区大会の時に知り合ったんだけどね」

「えっ、あの時にか?」

「サンちゃんがやって来るのを待ってた時に僕に色々あってね……。その時に助けてもらったんだ」

「ラブコメみてーだな!」

「まさかぁ。あはは」

「終わったよー! 見て見て、全部当たったの!」

 

 え、マジ? 

 

「え、マジ?」

 

 サンちゃんと同じこと言っちゃったよ。

 

「マジだよー! ほら!」

 

 ガチで三個景品持ってやって来たわ。……実質俺の負けじゃねぇか! 

 

「私の勝ち! みんな私に奢ってね!」

「そうなるとひまわり二つ手に入るけどいいの?」

「うん! まだまだ食べれるから!」

「……サンちゃん」

「ひまわりの分だけ二つにしよっか。一つは僕が払うから、あと全部よろしく」

「いっそのこと全部払ってくれよ」

「ルールは守ろう?」

 

 サンちゃんが悔しそうな顔をしつつ俺たちにわたあめを奢ってくれた。当然ひまわりの分もだ。これで平等だな。

 

「それで次は何に戦うの?」

「そうだなぁ……」

 

 戦う気満々じゃねぇか。ジャンル変更したの? この作品。ラブコメから異能力バトルに変わるの早すぎない? 

 

「……む? そこにいるのは大賀か」

「……おっ? 特正じゃねぇか! 何してんだ、こんなとこで?」

 

 な、なにぃぃぃぃぃぃっ!? 

 特正北風がどうしてここに!? 多分みんな知ってると思うが、この男は一応五話に出ている……じゃなくて。こいつは今年の地区大会の決勝。サンちゃんのストレートを打ち取って甲子園出場を決めた男だ。あだ名はフーちゃん。似合わねぇ。

 

「甲子園前に誘われてな……。そこにいる埴輪と男は?」

「埴輪……?」

 

 そういえば女が埴輪に見えるってつきみが言ってたな。マジだったのかよ。呪いじゃん。

 

「俺の親友のジョーロと、ひまわりだ!」

「よろしくね! 私は日向葵! ひまわりって呼ばれてるんだ!」

「僕の名前は如月雨露。よろしくね。ジョーロって呼ばれてるよ」

 

 ほんとはよろしくしたくねぇけどサンちゃんがこう言ってくれるからしてやってんだぞ? 感謝しろよな? 

 

「……して、大賀。貴様は今野球道具を持っているな?」

「持っているが……、なるほどな、そういうことなんだな?」

「あぁ。では早速行こう」

 

 ん? なんか勝手に話が進んでないか? えっ、これ何やってんの。俺全く理解してないんだけど。

 

「すまんひまわり、ジョーロ! 今から特正と野球するから!」

「「えぇ!?」」

「んじゃ、あとは二人で楽しんでくれよな!」

「ちょ、サンちゃん!?」

 

 ……特正とそのまま野球しに行っちゃったよ。そんなことってある? 

 まぁ、はなから離れる予定はあったから別にいいんだが。いいんだが…………。

 というか特正がここにいるってことは近くにホース組がいるはずだ。花火の時間は近い。そろそろ事が動き始めるはずだ。

 俺の作戦なんだがこの場を離れる時、ひまわりを全部サンちゃんに任せようとしていた。それがいなくなったってことは、ひまわりは一人で待つことになる。……それはちょっと俺の良心が許さない。ひまわりを一人にはできない。

 このあとひまわりと離れなきゃいけないってのに……! 

 

「……あれ、電話? もしもし?」

 

 ひまわりが突然電話にで始める。

 話し相手は家族か、友達か、だな。

 

「うんうん……。うん! わかったよ! じゃあまたあとで!」

「どうしたの? ひまわり」

「テニス部の友達がみんなここに来てるから、待ち合わせしよーって話になったの! 今から行って来るね! ……でも、それだとジョーロ一人になっちゃう……」

 

 チャーンス! よくやったぞテニス部メンバー! あとは任せたぞ! 

 

「僕のことなら大丈夫だよ。花火見終わったら帰るからさ。ひまわりも最後まで一緒にいて、花火見終わったら一緒に帰ってもいいんだよ」

「ほんと? じゃあそうする!」

 

 ひまわりは屈託のない笑みを見せて俺に言う。納得してくれたようだ。これでひまわりは家に帰るまでずっと人といることになる。よし、これで俺の用事を遂行する事ができる。

 

「じゃあねー!」

 

 そして誰もいなくなったと。

 ……この近くに花火が見やすいスポットがある。そこで俺はとある人との待ち合わせをしていた。花火まではまだ時間はあるが、先に行ってとくか。やることもないし、買った焼きそばとわたあめでも食べようとしよう。

 少し歩いた先にその場所はあり、人はあまりいない。俺はこの場所を知らなかったが、教えてくれたあの子が知っていて、それであいつが知らないからという理由でこの場所になった。

 まぁそういう場所の方がお互いに都合がいいからな。

 ……よし、見えて来た。まだ来ていないから飯でも食って待っているか……。

 

「いた。ジョーロ」

「来たね。つきみ」

 

 俺に会いたいと言ってきたのはひまわりだ。チェリーさんを通じて俺に連絡をよこしてきた。

 つきみは作戦上一人になるタイミングを作る必要がある。この場に来たということは、今ホースはチェリーさんと二人ってことだ。

 つまり、そろそろチェリーさんが告白をする。……やべっなんかドキドキしてきた。

 話を戻す。つきみの伝達内容はこんな感じだった。『ワタシ、ジョーロに話がある。二人で話すタイミング作ろう』

 文面だけ見たら告白みたいでドキドキするよね。そんなことはないんですけどね。

 つきみは水色の浴衣を着こなして、どこかとは言わないがめちゃくちゃその部分が強調されて、これで惚れない男っていんのかよって思うほどだ。

 

「……それで、話って何かな」

「うん」

 

 つきみが歩いて俺の隣に来る。どんな質問が飛んでくるのか、正直何も考えてきてなかったので答えるのには時間がかかっちまうが……なんでも来い。好きなタイプでも聞いて来るのかな? 

 

「チェリーさんに告白しろって、ジョーロ指示した?」

「……どういう意味かな?」

 

 質問の意図がまるで読めなかった。というよりその言葉には疑問しか出てこない。そんなはずないだろって否定する前に聞くべきことは聞いておくぞ。

 

「ワタシは、チェリーさんはこのまま告白しないで、そのまま見守っていくと思ってた。でも違う。急に告白するって言われた。それがワタシにはわからない」

 

 なるほどな。チェリーさんがホースに告白をするような女ではないので、お前が何かしたんだろって要は言いたいのか。

 この二人はお互いにライバル関係であり親友だ。中学時代は喧嘩してホースを取り合った……なんて聞いたが、今は違うんだとか。

 だから心配に思って、それで俺がチェリーさんを言葉だ誑かしたと言いたいのか? 

 

「だからワタシ考えた。ジョーロなら、何か知ってるって。教えてほしい」

 

 あっ違ったわ。普通の疑問だったわ。

 純粋に訊いてきただけだわこれ。驚かせやがって……。

 

「チェリーさんからは何も聞いてないのかい?」

「うん。色々と見てきて、決めたって」

「言葉足らず……」

 

 そりゃこんなことになるか。それ以上の会話をしなかったのだろうか。

 今チェリーさんは頑張ってることだし、ここは俺も頑張らなければな。

 

「それで、どうなの?」

「チェリーさんが一人で決めたことだよ。本当に」

「本当? じゃあ、なんで?」

 

 その疑問に答えられるほどの答えが果たしてあるのかと言われてみれば、おそらくあそこの部分だよなぁとしかない。

 

「僕が告白されたのを見たのと……昔の友達と仲直りをしたから、かな」

「……? なにそれ」

「僕夏休みに告白されてね、断ったんだ。僕が断った子と色々話してたんじゃないかな」

 

 今にして思えば仲が良すぎだと思う。もっと気まずくてもいいのに、わりと距離感が近かった。多分俺の知らないところでなにかしら会話をして、チェリーさんの決めた結論の理由にそれが加わっていると思う。

 

「ジョーロってモテるんだ」

「いや、人生初めての告白だったよ……」

「そ。それで昔の友達と仲直りって言うのは?」

 

 そしてもう一つの要因としてパンジーだ。昔ひどいことをした相手、ホースの好きな人に対して話すことで、自分の覚悟をより強固にしようとしたんだ。

 パンジー絡みにはつきみはめちゃんこ関わっていると思うから名前出してもいいものだろうか……。

 

「もしかして、菫子?」

「……よくわかったね」

 

 一発で当てやがった。これが俗に言う女の勘ってやつか? 

 

「仲が悪いって言ったら菫子しか浮かばなかった」

 

 あいつ恨まれすぎだろ……。精神状態大丈夫だったのかなその時。気にしてもしゃあねぇか。

 

「どうして、菫子と仲直りを? ジョーロ知り合いだったの?」

「まぁ少し前にね。仲直りもチェリーさんが自分からするって言ってきたんだ」

「……ほんと?」

「本当ことだよ。自分の意思で言ったんだ」

 

 その結果でもたらしたのが成長ならいいんだがな。……今の状態をどう表現するかって言ったら成長以外の言葉が見つからないが。

 

「仲直り、本当にできたんだ。ジョーロって凄い。ワタシ、一生仲直りできないと思ってた。ジョーロは友達の調停者(フレンズ・ルーラー)」

 

 そんなフレンチクルーラーみたいなことを言われてもなぁ。というかその二つ名呼びなんなんだ。気になって仕方がないだろ。

 

【ドーン!】

 

「あっ……花火が鳴ったね」

「実を言うとホースと見たかったけど、今回はチェリーさんに譲る。来年は、ホースの隣にワタシがいればいい」

「……頑張れ」

 

 花火が鳴ったということはつまるところ告白が始まったってことだ。

 怒涛の花火。俺の声がかき消されるほどに大きな音が鳴り響いている。これ大丈夫か? ちゃんと告白できてんのか? 心配しても仕方ねぇ……よな。

 

「もうすぐ、花火が終わる。ワタシもう、行くね」

「うん。送って行ったほうがいい?」

「大丈夫。……ジョーロにはまだやるべき事があるんでしょ?」

「……なくはないけど」

 

 会話をしに行くだけなんですけどね。

 たわいもない会話をするだけだ。この言葉で未来が変わるわけでもないし。

 

「じゃあね」

「またね」

 

 つきみが踵を返してこの場を去る。

 ……じゃあ、俺もそろそろ向かうとするか。どこに行くかは……、走りながら考えるか。

 

 

 ……つきみっちが理由をつくってうちらから離れて行った。花火がもうすぐうち上がる。うちの告白もそろそろ始まる。大丈夫だ。うちならできる。

 

「あはは。もう花火が始まるっていうのに。つきみちゃんったら。こんな時にどこに行くんだろうね」

「そう、だね……」

 

 立場が幼馴染ってやっぱり強いなぁ。うちも幼馴染だったら……。ま、たらればを言っても仕方がないっしょ! 

 うちらが今いるのは人があまりいない場所で、花火がよく見える穴場だ。ここなら告白にうってつけだ。

 

【ドーン!】

 

 花火が打ち上がった。

 うちの心臓が加速する。やばいっ……。緊張で押しつぶされそう……! 

 

「終わる前に来てくれるといいんだけど……ん? どうしたの、チェリーさん?」

 

 うちはホースっちの服の裾を掴んだ。俯いて、多分うちの顔は真っ赤だ。

 今日という日に至るまでうちは積極的にホースっちにアピールしていた。必死に、振り向いてもらうために。ジョーロっちも色々と助けられた。それで成果が出ているかは、うちにはわからないけど……。

 

「う、うちね……」

 

 言葉が詰まっていく。伝えることの苦しさを今うちは味わっている。でももううちは逃げないって決めたんだ。ここで止まってどうするの……! 

 

「ホースっちに伝えたい事があるの……!」

「はい……、……なんでしょうか?」

 

 ……うちの好意に気づいているかどうかは考えないでおこう。うちはホースっちの顔を見た。ホースっちは緊張をしているのか、こちらを見て顔を赤く染めている。

 意識してくれているってことかな……。それなら嬉しいんだけど……。

 

「ちゃんと……聞いてね」

「……はい」

 

 告白に練習なんていらない。伝える事が大切なんだと、うちは知った。この一ヶ月間でうちがここまで変わるとは思わなかったよ。

 本当は告白しないで、卒業して別れてから新たな恋を探そうと思ってたのに。こんなに変わっちゃうなんて。こうなったのはジョーロっちのせいなのかな。

 うちが最初に話しかけたのが始まりだもんね。ほんとうに……、ありがとう。

 うちは、大きく息を吸い込んで、言った。

 

「うち、ホースっちが大好き! だから、君の恋人になりたい!」

 

 届いてほしい。そう思ってその言葉を出した。涙が流れてくる。込み上げてくるこの想いはもう止まらない。吐き出した言葉とともに流れていく。

 うちの告白を聞いて、ホースっちは驚いたような目をしたこちらを見ていた。……今まで気づいてなかったから、そういう表情をするのかもしれない。初めて見る表情だ。

 うちの告白は……届いてくれるだろうか。

 

「…………あ、ありがとうございます、チェリーさん。すごく嬉しいです」

 

 ホースっちにとってうちの言葉は意外なものだろう。普段からは想像できない顔をいくつも見せてくれる。

 

「でも……」

「…………」

「ごめんなさい。僕は……、菫子が好きなんです。なので……その」

「うん。……聞けてよかったっしょ! ホースっの言葉!」

 

 止まって。止まって。涙が止まらない。うちが止めてって想っているのに身体は言うことを聞いてくれない。

 こうなることはわかっていた、と言われれば嘘にはならない。けれど、いいんだ。伝える事が、大事なんだから。

 

「じゃあ、さよなら、ホースっち! この後用事あるから、二学期からもよろしくっしょ!」

「っ……。わかりました。さよなら、チェリーさん」

 

 絆は絶たれていく。次会ったとき、うちはいつも通り接する事ができないだろう。

 後悔はしていない。うちはやりきった。このまま告白しないほうが後悔するに決まっている。

 ゆっくりと歩いて夏祭りの会場から出る。夜の住宅街には明かりが少なく、うちの泣き顔を見る人はいない。それにこの辺りにあまり人は通っていないから、誰にもこの顔を見られずに帰れる。

 

「……っ…………」

 

 立ち止まって大きく涙を流した。留めていたものを一気にかけながして、声を抑えて静かに涙が流れていく。うちの初恋は終わった。

 立ち直れる気がしないや……あはは。

 

「ハァ……ハァ……」

「……え?」

 

 聞き慣れた声が聞こえた。息を切らして現れた彼は、うちが会いたくなくて会いたかった人物だ。

 

「ジョーロっち……」

「ハァ…………、やっと見つけましたよ、チェリーさん……!」

 

 何をしに、ジョーロっちは来たんだろうか。

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