住宅街を駆け回って十分くらい経った頃か。息切れどころじゃない程度まで体力が削られ、ランナーズハイでも起きねぇかなと呑気に思っていたところでやっと見つける事ができた。
人のいない場所に移動しそうだとは思っていたので出口の近くでその条件に合致しているところをひたすらに探し回り、やっと見つける事ができた。
「ジョーロっち……」
「ハァ…………、やっと見つけましたよ、チェリーさん……!」
この場所が暗くて少し見えにくいが、桃色の浴衣が涙に濡れているのはわかった。
つまり、この時点で結果を理解することができた。チェリーさんは……フラれたんだな。
この一ヶ月はずっと頑張っていたからダメージがさぞ大きいはずだ。
んでまぁ、俺がここに来た理由だが、正直と言っちゃあない。理由付けされれば大体それが当てはまる。多分一番大きな理由なら慰めに来たになるのか?
「何しに……きたの……?」
「あーっ……えっと、その」
「慰めに来た? それとも馬鹿にしに来た?」
「俺がそんなことを言いに来たと思いますか?」
しまった。反射的に答えてしまった。馬鹿にするわけないだろ。その点だけで怒るぞ。
「いや……そうだよね。ごめん……」
しまったをさらに気を落としてしまった。来たのはいいけどどうすればいいんだ……俺口下手だからわかんねぇよ……。
ただ……俺は、いつもチェリーさんが見せている笑顔に戻ってほしいと、どこかで思ってたかもしれない。女の子が泣いている時に思う感情としてはこれが正しいと、俺は思いたいんだ。
でもどうすればいいんだろ……。
「ジョーロっち……もしかして何も考えずにうちのところに来たの?」
「うっ……」
「あはは……ジョーロっちは優しいね。……じゃあうちの要求でも聞いてもらえないかな?」
「要求?」
俺にできることならしてみるけど……。何を求めているんだこの人は?
泣いてる女の子……欲しいもの…………男!? まっさかー!
「頭撫でて」
「……え?」
はい? 頭を……撫でる?
「なぜ?」
「言わなきゃ……ダメ?」
「い、いえ……なら、撫でさせていただきます」
なんぞこれ。……なんぞこれ!?
女の子の頭を撫でる状況になってるだと……!? 今まで撫でたことないから知らないんだけどそういうの!?
恐る恐る頭の上に手を優しく置く。髪をゆっくり、崩さないようにソフトに撫でていく。……うん。下手くそかもしれん。
「……上手だね」
「そ、そうですか? ならよかったです」
才能があったようだ。
これは……慰めてほしいって意味なのか? いや、違うか。安心感が欲しかったのか。大切な人に伝えた好意が届かなかったから、崩れた平静を覆い尽くすための……みたいな。
考察しても仕方ねぇがな。
だが触るたびに思うんだ。この役割は本来ホースか、つきみあたりになるはずだ。俺はこの場所にいるべきじゃねぇかもな。
「……いいんですか? 俺で」
「……ほんとはホースっちがよかった」
「無茶を言いますね……」
そりゃそうだ。相手の要望に答えているとはいえだ。俺はホースの代わりではない。似ているからとは言っても、ホースに見立てられても困る。
「……あはっ! 元気出してください、チェリーさん!」
「ないわー……」
「やめてください」
本気でモノマネしたのに……。あはっとかあいつあんま言わねぇもんな。……アニメ版はめちゃくちゃ言ってたけど。
意識の仕方が違うのかもしれない。もっとこう、ルルーシュとかジョーカーとかに似せれば……あー! やめやめ。不毛だわ。
「でも……ありがとね。うちのこんな意味わかんないことに乗ってくれて……」
「……まぁそれで元気が出てくれるならいいんですけど」
元気が一番で、この人には笑顔が似合う。そんなことを俺は思っている。
笑わせることができたなら……それだけでいいかな。精神的ダメージは大きいけどな……。何度でも俺は思う。この関係は歪んでるものだなぁとね。ただのホースに似ている立場で恋愛サポーターとしてのポジションなのに、俺は頭を撫でている。慰めて、安心感を覚えさせている。
心が重苦しくなる。俺はこの場所にいるべきなのか、もっと別の大事なことがあるのではないかと時折思ってしまう。けれど、今俺がこの場所にいる時点で、そんなクソみたいな考えは吐き捨てている。やると言ったらやるって言ってんだろうが。これが俺のやりたいことになるんだわ。
「落ち着きましたか?」
しまった。つい頭を撫ですぎてしまった。振られたばっかの人間に男が優しく駆け寄る状況だからな。なんだこれ。他の人に見られて、それがどちらかの知り合いだったら終わりや。
「うん……うん。ありがとね。もういいよ」
スッと頭から手を離す。目を合わせない。お互いに恥ずかしいのだ。
「もう大丈夫ですね。これからどうするんですか?」
「……一旦帰って寝よっかなぁ」
「それが一番です。……また今度」
「……もしかしてまだやることある?」
「……ただの自己満足になるんですけどね。そのやることっていうのは」
「いいじゃん、やりなよ。うちはもうやりきったんだからさ。ジョーロっちもしちゃいなよ」
「……なら、させていただきます」
……俺がこれから会いに行こうとしてる人物はホースだ。今頃ホースはつきみとなんやかんやしてるだろう。会話をしてまだそこに留まっていてほしい。
つきみには走り回っている時に連絡しておいた。時間を稼いでいてくれるはず。
「じゃあ、行きますね」
「うん! 今度遊びに行こうね、ジョーロっち!」
「えぇ、では」
ホースのいる場所はわかっている。……さぁ行くとしよう。覚悟を決めた。いざ、最終決戦だ!
※
見つけたぞ、ホース。
つきみと楽しそうに会話を……そりゃしてないよな。お互いに事情を知っているもんな。チェリーさんがいない理由も自ずと理解してるだろう。
……つきみと目があった。こちらに気づいてくれたな。離れ……離れたな。行くか……はぁ。
こういう時にはどういうふうに現れたらいいんだろうな。……ニヒルに行くか……。
「……えっ、ジョーロ?」
「やぁホース。どうしたんだい? そんな顔をして、何か良いことでもあったか?」
物語が始まりそうな会話導入になったが……全てを知っている感じが出てきて俺の中でポイントが高い。高くない?
「……良いことか。他の人からすればそう見えるんだろうね」
僕モードで会話を始めているため、もうこのキャラで通すしかない。
「へぇ。それはそれは。僕としては興味があるなぁ」
これなんの話ししてんの俺。俺そんな会話の進み方をするつもりなかったんだけど? まぁいいや。しちまったもんは仕方ない。この調子で行こう。
「告白されたんだ……。チェリーさんに」
「マジか」
知ってる。知ってるけど知らないってことにしておこう。……ホースの察しが良ければ気づかれてるかもな。
「僕は知らなかった。チェリーさんの好意に……、知ってれば、もっと良い答え方ができたのかもしれない……」
……ホースには相手の裏の気持ちを知る能力が欠けている。というかわからないんだ。
そこらへんのラブコメ主人公なんだよ、要は。本物の純情鈍感BOYであり俺が進もうとした理想の体現だ。
だから知らないわからない理解ができない。……リトさんだってもう少しわかるぞ……。
「ジョーロは知ってたの? チェリーさんの、僕に対する気持ちを」
返答に気をつける必要はない。俺はホースと会話をしに来たんだ。……ホースに裏の気持ちを気づいてほしかったというのはあるが、こういう言い方をするとチェリーさんを利用してホースに気づかせようとしているように聞こえるかもしれない。……そう言われても仕方がないかもしれない。でもやる。
「うん。知ったてよ。……何ならずっと協力してたよ」
「えっ!?」
隠す必要はもうなくなったからな。これだと
答え合わせみたいな感じになっちまうな。
「い、いつから……?」
「ホースと初めて会った時から……かな」
「えぇっ!?」
これを素でやっているから厄介だ。……パンジーはもしかして、こういうホースの裏の気持ちが読めない部分を嫌っているのか? ホースの唯一の欠点だからな。そこ以外で嫌われる理由がない。
でもこの男は二回告白したんだよな。自分の好意を押し進めてか。
「教えてくれても……よかったんじゃないか?」
「教えたらダメでしょ。そういうのは」
「……そういうものなのかい?」
「そういうものだよ」
「そうか……、ねぇ、ジョーロ。もしかして、さ」
「なんだい?」
「他の人も……こう、僕のことを好きになってくれてる人っているのかな」
辿り着いたか。その境地に。この男の勝手な妄想なら良いんだが、あいにくそうではないので絶妙にはぐらかしながら話さなければいけない。こういうのは気づかせるべきだってじっちゃんが言ってた。
「さぁね? けれど、いるんだったらホースは気づいてあげないとね。人の気持ちに」
人の気持ちがわからないっていうのは、逆に言えば人を傷つけることになる。気づいてほしいのに気づいてくれない。伝えたいことを伝えられない状況にさせてるからな。
「そうだよね。……いや、もしかして僕はうぬぼれているのかな。そんなことは本当はないんじゃ……」
めんどくさっ! なにこの男! もう少しうぬぼれてろよ!
「人の好意に気づけないからそう思ってしまうんじゃない?」
多分そんなことはないと思うけどそれっぽい言葉を添えておこう。ほら、なんかそれっぽいじゃん? 今の動揺状態ならワンチャン頭に残ってくれるっしょ。
「そうなのかな……。それなら、僕は酷いことをしていたのか?」
「なんで?」
次に飛んでくる言葉はわかっているが、ホースの口から吐き出させたい。だからしばらく俺は聞き手に回る。
「仮に……仮にだよ? 僕の周りの女の子が僕のことを好きだったとする」
言葉だけ聞いたらぶん殴りたくなるな。
「僕が今まで関わってきた女の子が、もしそれだったら……僕は告白するタイミングを自分から潰させたということになるのかな?」
「どうして?」
「だって……僕には好きな子がいるから……。中学生の時はいつも彼女のそばにいたから…………っ。待って、もしかして……」
彼女を指しているのはパンジーだ。このあたりの事情は把握している。
パンジーは告白を二度断っている。ついでに嫌いとも言及している。二度断っているということは一度は中学生の時だったって可能性がある。もう一回は今年の地区大会だからな。それで、本当に中学生の時で、卒業するまでホースがパンジーのそばにいたのなら、パンジーはかなり迷惑していたはずだ。
自分のそばにいてほしくないのに、その気持ちに気づかずいつも隣にいる。
「菫子ももしかしたら……嫌だったのかな。僕がそばにいたことを……」
「僕にはその辺りの事情は知らないけど……もしかしたら間違った行動をしていたのかもしれないね。知らないけど」
明日から使える魔法の言葉、知らないけどだ。みんなも、返答に困った時は知らないけどって言っておこうな。
「僕は自分のことしか見てなかった……。相手のことを見ていなかったんだ…………!」
主人公さんがいい感じに成長してきたぞ。
ホースの欠点がこれで消えていけばいいんだが……。さて、この辺りで俺の目的を言わせてもらおうか。ホースに相手の裏の気持ちを理解することで、チェリーさんにホースから告白させる作戦だ。
本当は今日の告白で成功すればよかったんだが……、行かなかったので今回は俺の自己満足としてホースに成長してもらう。
それで後からチェリーさんの魅力に気づいてハッピーエンドに向かってもらう。
これの成功率は低い。なぜならこれにはホースがパンジーの好意をそのままに置く可能性と、他の女の子と付き合う可能性という二点が付いているからだ。
この中だとパンジーに対する好意とチェリーさんの魅力に気づいて自分から告白の可能性が同じぐらいの可能性になると信じている。
夏休み最後のお節介だな。
「教えてくれジョーロ……。僕はどうすればいいんだろう」
ここでチェリーさんの名前だしたら、逆に関わらない気がする。というよりチェリーさんが関わりに行かない可能性がある。なので……。
「うーん……。身近にいる人ならいいんじゃないかな?」
チェリーさんとかチェリーさんとかチェリーさんとかね。しつこく関わってくれ。
「身近にいる人……?」
「それか、いつも話している人かな。いつも通りに振る舞って、しっかり考えて発言をして、普段の行動から読み取るしかないんじゃないかな……」
この辺りは適当に言ってるけど大丈夫かな。
ラブコメ主人公と会ったことないからこの辺りにどういう言葉を使えばいいかわかんねぇ……。助けてくれ……楽さん……リトさん……咲太さん…………同じ電撃文庫の人間として……。
「そうかな…………そうだね! うん、ありがとうジョーロ!」
「どういたしまして、だね」
「じゃあ、僕はこれで。本当にありがとうジョーロ。僕にとって必要なものを、気づかせてくれて……」
「僕は何もしてないよ。会話しただけじゃないか。あはは☆」
☆マークつけとこ。なんでも知ってる感出しとこ。知ってることしか知らないけど。
「じゃあね、ジョーロ! これからもよろしくね、友達として!」
「うん!」
ホースは場を去っていった。じゃあ……俺も家に帰るか。さて、俺がやるべきことは終わった。チェリーさんがもしかしたらホースと付き合える可能性を俺が作り出したことで、二学期からはさらに唐菖蒲高校内でのラブコメは加速していくだろう。
「ただいまっと……」
家に帰ってシャワーを浴びて、食べ足りなかった分を補給して、今日1日が終わる……と言ったところで、こので重大発表がある。
この物語は俺の独断で終わらせようと思う! いやもう、本当に疲れた! 俺のやるべきことは終わった! 仕事は果たしたし、もうこの物語を展開する必要はないかな! 二次創作って疲れるんだよなぁ……読まれない時は読まれないし、ネタが浮かばなかった瞬間エタるしな!
……さて、いよいよその時は訪れたな。もうこの話も終わりだな。
なんかいい感じに締めくくれたし、これで終わり!
皆……また会おうな!
【完】
朝目が覚めて、俺はスマホを起動した。
スマホには一つのメールが届いている。……え? マジ? これなんかのフラグ? まだ続くの?
チェリーさんから届いた連絡だ。内容はなんだ……、こんな朝早くから見る内容だ。くだらなかったら許さんぞ全く……この話は完結したんだぞ。後日談にはまだ早いぞ。
……で、内容は?
『緊急事態が発生したから助けてほしいっしょ! あと明日暇?』
「……えっ」
……これは第二シーズンの始まりですね、間違いない。