Cルート   作:油性

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うちがしてきたこと

 

 うちが虹彩寺さんこと……ビオラっちのことを語るためには、まずはうちが会長として活動するときに真っ先に現れた図書室の問題について語らなければならない。

 夏休みにジョーロっちが図書室の閉鎖の危機から脱するために協力してもらってたけど、結果として、それはいい方向に進むことがなかった。

 まず、うちが最初、ジョーロっちに頼んだ図書室の閉鎖の危機について話しておく必要がある。あの話は夏休みが始まる前から起こっていたんだ。

 夏休みに入る直前、六月末。梅雨が終わりを迎えて、本格的に夏に入ろうとした時、当時副会長だったうちが活動していた時のこと。

 

『助けて欲しいんです』

 

 廊下を歩いているときに颯爽と現れた少女───リリスっちは初対面のうちに向かってそう話しかけて(見せて?)きた。

 

「助けてって……何を?」

『図書室が閉鎖の危機になっているのを、知っていますか?』

「……え?」

 

 その情報はうちが知らなかった、把握漏れをしていたというわけではなく、単純に知られていなかっただけ。リリスっちがそれを知ったのは、リリスっちの友達である、ビオラっちから聞いた話だそうだ。

 最初は二人で案を考えて、実行してみたものの、結果は振るわず、利用者が増えなければ閉鎖という事実が目の前に近づこうとしていた。……ので、うちが空いた時間に積極的に手伝いに行った。

 図書委員はビオラっちしかおらず、他の役員は? と訊いてみると、あれこれ言いくるめられてそのままサボってしまうようだった。

 うちが助けに入り、あれやこれやと頑張っていたところで、ホースっちとつきみっちが図書委員として活動することになった。

 ……というか、自分からその役員として活動すると言い始めた。元の生徒の図書委員の座を譲り受け、二人で活動をし始めたのが夏休み直前。利用者が着々と増え始めたところで夏休みに入っていった。

 うちは夏休みの途中でも助けに入った。図書委員は仕事をそのまま全うていき、そのまま時が進んでいった。それでも増えない時は増えなかったため、悩んでいたところでジョーロっちが来た。

 そういえば、あの日はビオラっちが来ていなかったっけ。今にして思えば、菫子っちの三つ編みで、丸メガネをつけている姿は、どこかビオラっちと重なるようだった。

 そして夏休みが終わり、図書室の利用者が増えてきたところで、一つの問題に気付き始めたんだ。

 利用者が増えたのは喜ばしいことであり、存続が決定したため、嬉しい限りではあるんだ。ただ、増えた理由がダメだったのだ。

 

「ワタシとホース、チェリーさんが図書室に来ているから、利用者が増えてるよね」

「あっ」

『あっ』

 

 そもそもの話、である。

 図書室に割ける予算があまりにも少なく、存続の危機に陥っていたのを、うちらで助けに入ったけど、うちらがいなくなったら結局元のまま、ということだった。

 必死こいてつくったポップで紹介した本もも、学内に貼り付けた新聞も、整理した本も、今手元にあるのはうちらがオススメしたり、うちらがいたからこそ借りていた。ただそれだけだったんだ。

 

「思ったよりやばい問題だよね」

「そう。チェリーさんが卒業して、ワタシ達が卒業していなくなった後、結局同じことになる可能性がある」

「どうしようもなくない?」

 

 うちらが、いや、うちが助けたことで、図書館の閉鎖をただただ先延ばしにしただけなのに気づくのは早い方だと思う。

 

「助けてもらったジョーロには迷惑をかけた。今度お詫びしなきゃ」

「……いや、それはうちがやるよ。元々連れてきたのはうちだし、気づかなかったうちが悪いよ」

 

 利用者が低下して閉鎖する、といっても、冬になれば利用者は半強制的に増えていく。受験生にとっての勉強の場であるためだ。この学校に自習室なんてものはない。家での勉強が集中できない人のための、“教える人がいて、手元に調べ物が多々ある図書館”が欠かせない存在なのだ。

 

「そもそも、図書室の閉鎖の理由ってどういうものだっけ」

 

 つきみっちが質問して、うちが思い出していく。利用者の低下と、本の購入に使う予算が少なくなったという理由だった気がする、確か。予算が少なくなる理由、それは入学者の増加により、教室を増やそうとしているからだそうだ。夏休みに入る前は見込み、だったのだが、甲子園を優勝しだ結果、数多の県から入学希望者が増加したことに拍車がかかった。

 

「……だったっしょ?」

「どうしよう……」

 

 二人で考えあぐねているうちに最終下校時刻が近づく。

 

「あ、あの……」

 

 そんな時、ビオラっちが声を出し始めた。その方向にうちらが向いたところで、か細い声で、

 

「も、もう大丈夫ですから、図書館がなくなっても、私は、大丈夫……です……」

「「…………」」

 

 涙を流しながら言うその言葉を、うちらは重く受け取り……そして。

 

「なんとかしよう」

「うん」

 

 決意を新たにして、さらに硬く、強く固めたんだ。

 先生に抗議をすることを最初に考えて、一応話を聞いたところで、入学希望者の見込みと、割り当てる教室の図表をもらうことに成功した。でももらったところで発展したわけではない。というわけで別の意見を聞いてみようとうちは考えた。

 ……御察しの通りジョーロっちである。今はただ意見が欲しかった。

 

『えっ、無理では?」

『だよね』

『期待してないんかい』

『いやー、意見が欲しくてねー。なんかない?』

『えぇ……?』

 

 猫の手も借りたいとはこのこと。つきみっちもつきみっちでホースっちと話し合いをしているとかなんとか。

 見取り図を見ながら考える。こうして見ると図書室のスペースは広かった。

 

『そもそも利用者が減ってるから図書館をなくすという考えがわかりません。図書館法で定められているのでは?』

『意外と博識』

 

 私立学校だからかな? といってもうちはそういった知識には詳しくないため、そこのところの事情は把握できない。深く聞きにいったところではぐらかされるだけである。

 

『うちとしては図書館の存続さえできればいいんだ。何かないかな?』

 

 ジョーロっちに送る。既読がついたまま返信がやってこない。思考しているのだろう。

 利用者を増やすという手段は現実的ではない。今増えてる理由がうちらが図書館にいるからなのであり、それらを除けば一定数存在はしているのだ。つまりは彼らの場所として機能さえできればいい。

 要は図書館の広すぎるスペースを改装して、空き教室として機能させたいのだ。

 

『見取り図とかってあります?』

『はい』

 

 送って再度考える。

 図書委員が機能していないのも問題になる。ビオラっちとホースっちとつきみっちが基本的に活動し、他の役員は仕事をしない。……この問題は考えるまでもないか。うちらにはカリスマ性がある。学内のアイドルにあたり、人望が厚いのだ。よって、頼み込めばいける……はず。

 

「大丈夫だよね? ね?」

 

 答えの来ない確認をする。そんなこんなで時間が過ぎていく。案がまとまらないまま眠気が来てしまう。……おっと、通知が来た。

 

「うわっ! つぅ……、いったぁ……!」

 

 手に持ったスマホが指から滑って頭からぶつかってしまう。

 少し涙を流して、頭を抑えながらスマホを持ち上げる。完全に眠気が覚めた。

 

「どれどれ……?」

『できるかどうかはわかりませんけど』

 

 続いて、ポンと送られてきた内容は、図書館の場所を変える、というものだった。

 

 

「無理があるようでないような」

 

 つきみっちが言う。確かにとうちは思っていた。見取り図を送った後のジョーロっちの言葉はこうだ。

 

『使用していない倉庫を図書室に改装するというのはどうでしょうか』

『見取り図の隅っこに書いてあった倉庫(使用してない)って文字がありましたし、そこを変えるのは有効活用になるのではないでしょうか』

 

 と、言うものだ。言われてみればうちらは盲点だった。室内のことしか見ていなかったため、そんなものあったな程度の感覚が大きかった。

 

「一応見に行こうか」

 

 時間帯は昼。昼休みが終わるにはまだ時間があったため、うちとつきみっちは件の倉庫に向かっていった。

 学校を出て少し歩いた先、今は使われていない古びた倉庫。中はそれなりに大きく、外からでもその大きさがわかる。そんな倉庫に、うちは副会長の立場をフルに使って鍵を先生から貸してもらい、中へ這入っていった。

 

「「うわぁ」」

 

 中身はごちゃごちゃとしており、まさしく今は使われていない感じだった。

 あたりにはゴミが散見している。あっこれ、去年体育祭で使った服装だ。なんでこんなところに放置しているんだろ。

 ……至る所を見れば様々なものがある。今手に持ったのは教科書だ。裏表紙には三年生の名前が書かれている。

 

「去年までいた先輩方のもの?」

「多分そうだろうね……。家では捨てられないようなゴミをここに置いているのかな……」

 

 だとしたらなんてことを。偏差値が高い高校だから入る人間も優れてると勝手に抱いていたうちの偏見が崩れ落ちた瞬間でもあった。

 

「……チェリーさん、見てこれ」

「どれどれ……って!」

 

 成人向けの本!? 

 なんでこんな本置いてあるの!? アホっしょ! 置いた人! 

 というかつきみっち動じてないじゃん!

 

「うぇぇ……、つきみっちはなんとも思わないの?」

「…………そうでもない」

 

 そう言うつきみっちの表情は変わらないものの、ほんの少し耳を赤らめていた。

 

「ホースがこういう本持ってる時あるから」

「……なるほど」

 

 男の子、そういう本持ちがち。まだ十六歳なのにね。ホースっちの誕生日はちなみに八月一日だよ! ちゃんと祝ったからね! 告白する前だからね。うちなんで言い訳してんだろ。

 そういえばジョーロっちも持ってたな。あの……なんだっけ、バニーコスチュームで巨乳の女の子がメインの本。あれどういうところで売ってるんだろうね。Amazon? 

 

「見てみてチェリーさん。ここの体位すごい卑猥」

「でしょうね! はいそれ没収!」

 

 スパァン! そんな軽快な音が聞こえるようにエロ本を取り上げてそのまま奥の方にぶん投げた。

 

「あぁ……」

「何を残念そうな顔をしてんのさ! もう少し中身を見ていくっしょ!」

「エロ本の?」

「違う!」

 

 なんやかんや全員思春期だった。

 ……時間は進んで中の捜索に移行した。捨てられた教科書、使われていない備品の数々。ぶっちゃけ問題だらけだった。なんでこれ放置されてたんだろう、と疑うほどにだ。

 これは後にわかったことなんだけど、この倉庫にはうちが入学する前よりもさらに前、唐菖蒲高校が設立してすぐからそうなっていたらしい。当時の唐菖蒲高校はお世辞にも今より偏差値が低く、まぁ、いわゆるヤンキーが跋扈していたそうで。その人たちが卒業後、または中退する時に空き倉庫に教科書をぶん投げたことが広まっていき、ごくたまにいるとかなんとか。

 色々と整理しようとしたけれど、思っていたよりも物量が多く、昼休みの時間内では流石に探索しきれなかった。

 

「一旦戻ろうか……つきちっち」

「そうだね……」

 

 そのまま昼休み終了予鈴のチャイムが鳴って、校内に入った後すぐに分かれた。教室に戻って自分の席に座る。

 若干匂いが気になってきたので汗拭きシートでこっそり身体を拭いていき、授業に臨んで行こうとした。

 ほどなくしてあそこの倉庫をどうするかをうちは考え始めた。授業に集中することができなかったのである。

 ノートにどうにかする方法を適当に書いていく。人を集める、業者に頼む、放置する……などなど。直感で思いついたものを書いては消して書いては消しての繰り返しだ。

 人を集めてどうにかする、が一番いい方法だ。うちが一声かければどれだけの人を集められるだろうか……。人を集めた後は掃除用具が必要になる。それの準備にも時間がかかるなぁ……。

 

「う〜ん……」

 

 頭を悩ます。倉庫を整理してそこを図書室にするというアイデア自体は突飛だけど悪くはない。現実的ではないけど現実にできればうちとしても、学校側としても利益が出るはずだ。と、なると学校に頼んで掃除道具を……、いや頼れない。図書室を教室にしようとする側の人にまかり通せる気がしない。

 そういえば用務員室にまだ掃除道具とかあっただろうか。生徒会権限で鍵を借りることはできるからそこから使用許可を貰って、人を集めて、倉庫を整理する。集めたものを処理して中身を掃除する。これに限るかな。

 

 

 翌日。

 

『これでどうでしょうか、チェリーさん』

「おっけー! いい感じ! みんなも準備はいいー!?」

「「「うおおおおおおお!!!!!!!!!」」」

 

 うちがしたことは簡単なことだった。朝の朝会でうちが倉庫の整理をしたいという旨を話して人を集め、リリスっちに頼んで掃除用具の確認、点検、その他諸々をしてもらった。結果人がめちゃくちゃ集まった。集まりすぎてうちがドン引きするほどにだ。

 

『チェリーさんはすごいです! こんなに人を集められるなんて!』

「えぇ〜? そうかなぁ?」

 

 うちは若干調子に乗っていた。もはや天狗だ。生徒会長もこの調子でいけそう! とかその時思ってた。

 

「書類は書類で集めて、使えなさそうなものは隅っこに置いて! 使えそうなものかどうかはつきみっちとホースっちが確認するっしょ!」

 

 名前だけ出したけどこれはつきみっちが連れてきたのだ。で、「ワタシはホースと使えるかどうか確認するから」とだけ言ってうちにサムズアップしてきた。うちは彼らを信用しているからね。ここは任せるよ。

 

「よし、やるよ!」

 

 ……という感じで、進行をしていった。うちが以前ぶん投げた成人向けの本も男子生徒が拾い上げ、黙々と処理していく。不必要なものから今でも使えるものまで分けられて行き、掃除は思っていた以上に早く終わった。中でも目立ったのは汚れて中が読めない本が散見していたことだ。かつて使われていた教科書なんかがいい例。なぜそこに置いたのかわからないし、置こうという考えに至った経緯もわからない。そんな生徒が今どこで何をしているかなんてうちにはわからないし。

 その教科書の数が思ってたより多いのが問題でもあるけどね。四クラス分はあるんじゃないかな。成人向けの本も多かった。と言っても今あるような本ほど卑猥なものはない。というかこの辺りの解説は地の文でもしたくない。

 

『次は清掃ですね』

「そうだね! よーし! みんな、この調子で頑張るっしょ!」

 

 生徒たちの活気溢れる声が倉庫内に響く。前述してた、うちには人を集める力があるっていうのが実証されて内心喜んでいる部分があった。生徒会選挙も勝ったなとか思ってたと思う。というか実際に勝った。

 とまぁこんな感じで事が進んでいき、日が暮れる頃には見間違えるほどに倉庫は変化していった。天井付近の清掃はできないものの、とはいえ側壁から床までピカピカだ。菱形のエフェクトが目に浮かんでいるようだった。

 うちは最後にみんなを集めて、マイクを手に持って話す。

 

「みんな……ありがとう! みんなのおかげで、うち、したい事ができそうだよ!」

 

 当然本音であり、うちは実際に涙を流しながらいった。今思うと案外涙もろいなぁ、うちは。生徒からは喜びの声、教師陣からは拍手喝采。あとは図書室をここに移行すればという提案をするだけだ。

 そんな時、先生が手を挙げてこういうのだった。

 

「図書室の閉鎖は見送りで」

 

 うちはマイクをぽろっと落とした。

 ……というのがオチ。図書室の閉鎖は見送りになり、倉庫を綺麗にしたことは無駄寄りの無駄になった……けど、図書室をここに移動させるという考え自体は好評らしく、もしかしたら検討するかもしれない、だそうで。

 その話をビオラっちに告げると、ビオラっちは笑顔で、

 

「ありがとうございます」

 

 とだけ言うのだった。

 その笑顔を、うちは見たかったのだ。

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