Cルート   作:油性

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うちが見たい未来は

 

「その……」

 

 ジョーロっちが答えを出したのは告白されてから少し後のことだった。

 

「嬉しいよ、ビエラ」

「ほんと? なら、答えは?」

「…………」

 

 少し悩んで、ジョーロっちが再び話し始める。彼としても思っていなかっただろう。まさかこんなところで告白されるなんて、突然にもほどがあるよ。

 

「待ってもらってもいいか?」

「…………」

 

 今すごい顔した。この期に及んで何言ってんだこいつ、とでも言いたそうな顔だ。

 うちは別に告白を待たされることに関しては特に何も思わない。成功したら嬉しいし、しなかったら心が押しつぶされるだけのこと。待つ時間が億劫に感じ、不安と焦燥に駆られる時間を過ごすことになる。嫌な人は多いはずだ。少なくともビオラっちは。

 

「どうしてか、聞かせてもらっても?」

「……俺はここ最近まで、外見を主軸において付き合いたいなとか思ってたんだが、最近になってどうにもその考え方が間違ってる気がしてきてな」

「……? 外見じゃダメなの?」

「別に悪いってわけじゃあねぇ。……つってもビオラの見た目は好みだし、大半の男なら惚れちまうのもわかる」

「なら」

「でも俺はそうじゃない、そうじゃなくなってきたんだ」

「…………」

「今日までいろんな女子と関わってきた、幼馴染も、生徒会長も、図書委員も、他校の女子達も、全員魅力的な女の子で、関わって行くうちに気づいたんだ」

 

 中身を見てこそってな、と、清々しい顔をしてに言いきった。見た目を重視することは別に悪いことではない。ジョーロっちの目指している欲望の果てはハーレムの形成とかのあたりだと思うけど、考え方が変わってきたみたいだ。

 というかあの言い方だとうちどころかつきみっちもヒロイン入りしてない? 

 

「で、俺も俺で確かめたいことがあるんだ。だから今は答えられねぇ」

「……そ。じゃあいつなら答えを出してくれるの?」

「…………クリスマスイブとか」

「なっが。焦らすね」

 

 来月か。今月ももう終わりが近いから気づいたらすぐそばまで来ていそうだ。顛末は気になるけど……うちには関わる権利はない。

 

「でも……、いいよ。その時までに答えを見つけなよ。魅力的な女の子ってやつが周りにいるならさ」

 

 ラブコメの主人公を見てるみたいだ。ホースっちがあんな感じだったらどうだっただろう。何か変わっていただろうか。

 

「じゃあ私帰るね。……あぁそうだ。うちの高校の文化祭来ない? 金曜日からやるんだけど、ねぇ先輩?」

「え、あぁ、うん! そうそう、金曜日から文化祭が始まるっしょ! ジョーロっちもパンジーっちも来ない?」

 

 急に話しかけられたから少したじろいでしまった。気を取り直して、うちはそのまま文化祭のプログラムを説明した。ジョーロっちもパンジーっちも都合が良さそうだと言い、行ってみるそうだ。

 パンジーっちが来てくれることに驚いた。彼女に取って、言い方は悪いな嫌悪の対象であるホースっちとその周りの女の子がいるというのに。……なんだか嬉しく思ってしまう。

 

「なら楽しみにしてるわね、じゃあ」

 

 そう言ってビオラっちは去って行く。そのまま特に会話することなく、うちらも帰路について行くのだった。

 

 

 第一回、うちの好きな人は誰なのかを確かめる回を開催するっしょ! 

 なお参加者はうち一人だ。電話でつきみっちを呼び出そうと思ったけどまずは自分で結論を見つけたいので今回は無しの方向で行くことにした。

 さて、前までのうちは確かにホースっちのことが好きでいた。様々な人たちに手を差し伸ばし、助ける時はしっかりと助けるそんな男の子だ。学習能力に優れており運動神経も抜群の学園の人気者だ。

 改めて考えてみるとハイスペックだ。確かにうちも惚れるな。というか実際好きでいたし。

 なら“今”はどうだろう。今のうちは前までの自分の考え方と乖離しているような気がした。うちは好きな人に振り向いてもらえなくても、いつかは好きになってくれればいいというスタンスを貫いていた。

 ホースっちの今の好きな人はパンジーっちのはずだ。つきみっちとの考察では最近その可能性がなくなりつつあるという結論が出たが、やはり彼はパンジーっちが好きなんだと思う。

 仮に、もし仮に文化祭じゃなくて別の機会でホースっちとパンジーっちが再開する場面にうちが立ち会わせた時、それでいてまだ告白をうちがしていなかった時。うちはどうしていただろう。たらればだけど考えれば答えは見つかるかもしれない。

 そんな未来を観測してみる。そんな時、うちはどうするか。

 簡単な話だった。うちはホースっちのことを応援していただろう。言い訳にホースっちのことを考えてよとでも言って無理やり説得でもしたんじゃないかな。それでパンジーっちと付き合わせて、気持ちに一区切りつける、みたいな。

 ありそうだ。手段を問わずにそうしそうだ。

 でも今は違う。

 パンジーっちと友達になれて、時たま交流する関係になれている中で、うちがそんなことをできるだろうか。そりゃそんな関係になってなかったら恨んでいただろうね。実際に恨んでいたし、はよ付き合ってくるとも思ってたよ。

 だけどさ、そんな邪険に扱える心をもうちにはない。一人の友達にそんなことはできない。パンジーっちも同じだ。うちを信頼してくれているから、文化祭に来てくれるのだろう。

 そうそう分かり合えることがなかったから、今のうちは嬉しく思うよ。

 えっと、話は戻って、そのままホースっちがパンジーっちと再会して……、そうだな、告白したとしてみる。

 パンジーっちには好きな人がいる。その相手はジョーロっちで、ビオラっちが好きな人でもある。

 だから、予測するまでもなく断られることになるだろう。

 そしたらうちは何をするんだろう。振り向いてもらえるように努力するのかな、それとも、諦めていただろうか。

 一概には言えないけど、多分諦めずに振り向いてもらおうとしたと思う。つきみっちと競い合って、最終的に好きになれたらいいなって、そう思えただろう。

 じゃあ今は何か。

 

「…………」

 

 うちは今、ホースっちの気持ちをもう諦めている。この先振り向いてもらえないと、うちはもう決めつけている。

 その理由を、しかしうちは考えたことがなかった。言葉だけ出してそのまま別の行動に移行していた。

 諦められている理由は…………他に好きな人ができたから? 本当に? 

 すっぱりと切り替えて、もう新しい恋を探しているの? うちって。えっ、そうなの? 

 ただ他の可能性が見つからない。

 ……仮にね、仮にね? うちがジョーロっちを好きだとするよ? 

 どこが好きなのかってところを探さないといけないよね。いいところでも探してみる? 

 彼のいいところはなんだろ。

 

『こんなところで諦めんのか? 相手に好きな人がいるとわかっても、最後まで挑まないのか?』

 

 これは七月頃の言葉だったかな。うちがホースっちが好きでパンジーっちを憎んでた時だね。あったな〜〜〜っ、そんな頃。パンジーっちの頃憎いし嫌いだったな、あの頃。ジョーロっちが言ってくれたから、告白する勇気をもらえたんだよね。

 で、まぁ告白する前に北海道に二人で行って……二人で行くって実質デートだったよね。好きな人がいたはずなのに、うちはなんてことを。

 そこで、ライラックっちの告白を見て、逃げないで向き合える覚悟を貰った……のかな。

 で、そのあとはパンジーっちと仲直りしたんだ。

 

『……ただの自己満足になるんですけどね。そのやることっていうのは』

 

 これはうちが玉砕して、ジョーロっちがホースっちのところに行く前に言った言葉だったっけ。そう言えば、この言葉の後にホースっちはどこか変わっていった気がする。

 この言葉の真意も、うちは確かめなければならない。

 それで、そのあとは……ストーカー被害も解決してくれて、夏休みはジョーロっちの部屋に行くことも多かったな…………。

 

「…………」

 

 そうか。

 そういった楽しい思い出が、ホースっちと過ごした時間よりも多いんだ。ホースっちと出会って過ごした今日までの三年間よりも、五ヶ月の時間の中で、すでにうちは傾いていたんだ。

 あぁ、そうか。好きになるってこんな気持ちなんだ。

 うちの今の好きな人は……如月雨露なんだ。

 

 

「……ってね。な訳あるかって言いたいけど否定できない自分がいるんだよ」

「そう」

「ちょっと! うちが今の悩みをそうの二文字で片付けないでよ!」

「……でも意外」

 

 翌日。文化祭まで残り二日と迫っている中、今日も今日とでつきみっちとファミレスに来ていた。明日は午前授業だからリリスっちと遊びに行って、そして文化祭だ。

 そして、今日の要件はホースっちについて……だけだったんだけど、うちもうちとで抱えている問題があった。

 それがジョーロっちに実は恋愛感情を抱いているのではという問題だ。

 

「ジョーロを好きになるとは思わなかった。てっきりホースをずるずる引きずるかと」

「いやうちもそう思ったよ? でもなんか違うっしょって。それうちの本意じゃないよねって、心のどこかで否定している自分がいるんだ」

 

 うちは続けて言う。この気持ちを証明するには人の意見が聞きたい。

 

「ここでジョーロっちを好きになっていったら、今までホースっちへの気持ちなんなのって話。昨日はやっぱり好きという結論出してたけど今になって本当かどう悩んでる」

「チェリーさん」

「ん? 何かな?」

「チェリーさんが言いたいことは大体わかった。ジョーロが好きなのかどうかわかんないんだね」

「まぁ……うん、そうだね」

 

 つきみっちはうちの顔をじっと見てくる。いつの間にか顔に出ていたのだろうか。出てたら出てたで照明の裏付けになるけども。

 やっぱりこういうのは自分で気づきたいよねって。改めて、自分だけで結論を出さないで。物事を焦ったところで何になるか。

 

「文化祭にジョーロ来るんでしょ? 二人で行動すれば?」

「うぇぇ?」

「誘ったんでしょ?」

「そうだけど、二人での行動はできないよ?」

「なんで?」

「パンジー……あぁいや、菫子っちが来るから」

「…………………………………………菫子が?」

 

 複雑な顔をつきみっちがし始める。……うちがパンジーっちと仲直りしたの、言ってなかったわ。

 

「そういえば仲直りしてたもんね。ジョーロから聞いた」

「ありゃ、いつ聞いたの?」

「夏祭りの時」

 

 ……夏祭り? 

 もしかしてうちが告白を実行する直前辺りかな。その時ちょうど別れてたし。妙に都合よく行くなと思ってたけどそんなことがあったんだ。

 

「菫子っちが来るけど、つきみっちは大丈夫かな? ……その、ほらさ、うちらって」

「大丈夫」

 

 つきみっちは言う。表情一つ変えずに、ただその表情は決意の表れのように見えた。

 

「チェリーさんが仲直りできたなら、ワタシにもできるはず。ワタシ、今まで散々恨んでいたから」

「うん……そうだね」

 

 詳しくは四話のうちを見ればわかる。ヘイトしかなかったもんね。

 

「恨んできたけど、チェリーさんが告白して、ワタシも動かなきゃって思った。この先振られても、振り向いてもらえる努力を、していきたい」

「つきみっち……」

 

 ちょっと涙が流れてきた。そうだよね、人はこうやって成長していくんだなって。

 

「ワタシも仲直りする。何なら今会いに行こうと思ってる」

「アポなしで来るより明後日くるからその時に伝えればいいよ! うちが一言言っとくからさ!」

「一言言い合えるくらいには仲が良くなってるの?」

「うん! パンジーっちがオススメしてくれた本とか読んでるんだ!」

「パンジー?」

「パンジーは菫子っちのあだ名! 菫から取ってるあだ名だよ!」

「そうなんだ」

 

 閑話休題。

 パンジーっちの話題を一区切りつけて、うちは話を一旦戻した。

 

「……で、そのジョーロっちとパンジーっちが明後日来るんだけど、色々と問題があるよねって話」

 

 問題は三つ。うち二つは私情なんだけども。

 一つ目はうちがジョーロっち好きかどうか問題。これはどうにかして二人の状況を作ってうちが勝手に判断すればいい。

 

「ワタシのクラス、お化け屋敷で二人きりになれるからそこで確かめればいいと思うよ」

「おぉ……って思ったんだけどねぇ……」

「?」

 

 ここで問題二つ目。ジョーロっちを現時点で好きな人だ。

 つまりビオラっちとパンジーっちになる。

 

「……ビオラはそういう人だったんだ。あと菫子もそうなんだね」

「意外と驚かないんだね」

「何か裏がありそうとは思ってた」

 

 さておき、この二人は何したってジョーロっちと二人きりになれる状況を作ると思うんだ。どうにかして阻止してうちの私情を入れたい。

 ……正直悪いことをしようとしている自覚はある。特にパンジーっちには本当に悪い。パンジーっちの恋愛事情を聞いて、うちも助けたいとかほざいといて、この体たらく。パンジーっちにとってうちは伏兵だ。仮にジョーロっちと付き合ったらうちはこの先どう友好関係を築いていいかわからない。

 友情が破壊されてしまう。友情と恋愛は厳しいなんてわかりきったことだ。うちも相応の覚悟と、業を背負う必要がある。

 だから、今、うちは悪魔にでも契約するかの勢いで思う。

 仮にうちがジョーロっちを好きというのなら、本気で付き合いに行く、と。

 

 さて問題三つ目。

 

「あとはホースっちなんだよね」

 

 ホースっちがどう動くかだ。

 パンジーっちが来るということは、ホースっちが率先して関わりに来る可能性がある。

 パンジーっちはいつもの三つ編み丸メガネスタイルで来ると思うけど、ホースっちのことだ、おそらく一瞬で見抜いてくるだろう。

 ここでうちらの考察が活きてくると嬉しいんだけどね。

 

「ホースは菫子のことが好きじゃないかもしれないって結論だったよね」

「そう。今日までホースはセンチメンタルで、菫子の事一つ口に出さない。小説のことも鑑みればその可能性が高い」

 

 中学の頃なんかは常にパンジーっちの周りにいたからね。愛の深さは高かったよ。

 でも今は違うかもしれない。ホースっちもホースっちで何か考えているかもしれない。

 そういえば、うちは今日までホースっちとろくに会話することがなかった。……特に悪いことしたわけでもないのに妙に気まずいのは、告白を失敗した影響があるからだ。

 けじめだ。これはつけるべきもの。うちの目標としてホースっちと文化祭で仲直りをするを加えよう。

 で、うちとホースっちの関係を自分から作ろうとしてるんだね、うちは。地獄か? 

 

「大丈夫、チェリーさん? さっきから汗が止まってないけど」

「……大丈夫だよ。うちはやり遂げるよ」

 

 うちのやるべき事は自分の気持ちの確認とホースっちとの、仲直りだ。パンジーっちには申し訳ないなんて思って当然だ。この気持ちを確認できたらすぐに伝えるべき事項だ。

 それを知ったらパンジーっちは何を思うだろうか。間違いなく嫌な気持ちになるはずだ。

 ……だったらこの気持ちを隠した方がいいのでは、と思うけども。一番安全な策ではある。その辺りのことは明後日のうちに任せるか! 今考えてもしょうがないね! 

 

 うちはやるべきことを決めた。つきみっちも一応協力してくれる。

 たとえ何が起ころうとも、うちはやり切るよ。後悔のないように。

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