今日はリリスっちと遊びに行く日だ。
授業が終わってご飯食べて、街中をゆっくりと歩いてウィンドウショッピング!
『チェリーさんとのお出かけ……楽しいです!』
「うちもそう思うっしょ!」
と、言ったのはいい。タピオカ片手にスポポポと吸う隣でリリスっちはうちの隣にポジショニングしている。
わりかし近いっていうよりほとんど密接している。肌と肌が擦れあうくらいの距離感だ。夏だったらうちも匂いとか気にして離れてもらおうと思ってたけど、まぁ冬だからいいなってくらいの感覚で今の状況を受け入れている。悪い気はしないよね。感覚的にデートをしているような気分だけど。
『またチェリーさんとデートしたいなぁ……』
言っちゃったよデートって。
同性愛者に見られるのかな側から見れば。LGBTに理解ある方だけど、もしやリリスっちは……?
リリスっちはうちをどういう風に見ているのだろう。恋愛対象として見られているのだろうか。自意識過剰かな。
「次あっち行こうか」
とは思いながらもデートは続けていく。もうデートということにしておこう。
リリスっちがうちを好きならば、今どういう気持ちを抱いているのかな。幸せとか、至福、とか、喜びとか? スマホ見せられて喜びの二文字が書かれてたらどうしよう。感情を概念で表すタイプじゃん。かわいすぎて許しちゃう。
好きってどういう気持ちなんだろうか。ホースっちに抱いていた気持ちは鮮明ではないけど思い出せる。でもその感覚に疑いを持つと好き嫌いの天秤が揺らいでしまう。うちの真実をうちが見れない状況を作ることは避けないとね。その参考として、いっそのことリリスっちは好きな人がいた時何を考えるか訊いてみようかな。流石にうちを好きなわけないっしょ! まさかぁ……あはは。
「ねぇ、リリスっち」
『なんですか?』
「もし好きな人がいたらさ、リリスっちは何を思う?」
『すきなひとがいるんでふか?』
「いやそうじゃなくてね、そのさ」
若干動揺が見られる。落ち着いて話を進めていこう。
「うちの友達が好きな人がいるみたいでさ、で、他にも好きな人がいたりしてるから、うちもそろそろ彼氏を作るべきなのかなって」
『ホースに対しての気持ちがあったのでは?』
「そうなんだけど、最近その気持ちが本物かどうか疑問に思っちゃって……」
気持ちに疑問って言葉が意味不明だ。
哲学ってやつ? うちは何がしたいんだろうね。愛に飢えてるのかな。
『そうですね……』
そう打ち込んだ文を見せたリリスっちは顎に手を置いて少し考える。
目的地に着いたところでリリスっちは声を上げた。
「私は好きですよ、チェリーさんのこと」
「ほぇ?」
なんとも間抜けな声を出したにも構わずリリスっちは続けていく。
「恋愛の方にも傾きますけど……友達としてでもありますし、何より尊敬する先輩で」
「リリスっち……」
「一緒にいるだけで嬉しいんです。さっきも見せたように、喜びみたいな感情表現が出てくるくらい、語彙がなくなるくらいに嬉しさを感じるんです」
頰を赤らめたリリスっちにうちも緊張してしまう。ぴったりと肌をくっつけて、近づいてくるを
「それが好きって気持ちなんだと思います。……どうでしょう?」
「あ、ありがとう、リリスっち」
情けないなぁうちは。後輩に色々と教えてばっかりだ。先輩として、お姉さんとしてうちが引っ張る立場にいるというのに。
このままじゃ終わらないな、頑張ろう。
※
「あっ」
リリスっちと別れて家に帰る途中、ビオラっちに遭遇した。リリスっちの格好はいつも学校で見かける丸メガネ三つ編みスタイルだ。
目と目があったものの、発展があるというわけではない。なんとなーく気まずい雰囲気が流れていく。
事実を知らなければちょろっと挨拶してそのまま帰っていたところなんだけど、あの現場に居合わせた以上気まずいっあたらありゃしない。
「少し話でもしますか、桜原先輩?」
と、うちが考えあぐねているところで話しかけてきた。うちは少したじろいで、頷いて、隣を歩く。
「明日、ジョーロ君とパンジーが来るじゃないですか」
「うん」
「どうにかしてジョーロ君と二人になりたいんですよね」
……それが目的だよね。
そりゃそうで、ビオラっちは告白した以上、自分の魅力を徹底的に相手に教えていかなければならない。言い方を変えれば植え付けるということになる。恋愛っていうのは頭脳がどうしたって絡む。
自分が有利になるように事を進めればそれがアドバンテージとなり、望む未来に手を伸ばせるかもしれない。
「協力してくれませんか?」
ニッコリと微笑みながら言う。
うーん……っと少しうなって、うちは結論を出した。
「難しいかな。うちそんなに動ける時間ないし」
嘘ではない。私情云々の話も絡むけれど、うちもうちとでやることがある。生徒会の仕事だ。人を動かす役目があり、記録に残す必要があり、うちに関しては開会式で言葉を発しなければならない。
動ける時間は多少あれど、ジョーロっちたちの予定と合えるかどうかは不明だ。
「あら、そうですか。それは残念」
「その割には残念そうじゃなさそうだけど……」
思った事をそのまま口にする。するとビオラっちは極めて悪どい顔でこう言い切った。
「勝てる戦いですからね、先輩が手伝ってくれればもう少し確率を上げられたんですけど、仕方ないですね」
ぞわぁっと、身の毛のよだつ肌寒さが身体の中に迸る。例えようのない怖さが目の前に突然現れてきた。本気でそう思っている人の顔だ。
「あはは……、うちもうちでやることがあるからさ、そっちはそっちで頑張ってね!」
とだけ言っておく。うちも出来る限りジョーロっちと二人で過ごす時間を作らないといけない……、というかうちがお出かけに誘ったら普通に来てくれるのでは? でも、ここは文化祭マジックに期待して、いや期待すんなし、本心を確かめたいのに落ちてどうする。
「はい、楽しみにしててください」
ビオラっちはうちがジョーロっちに対して恋心(偽)を抱いている事を知らない。知ったらどうなるのだろう。今までと同じ関係でいられなくなるのかな。それは、嫌だな。
「あ、そういえば先輩」
人通りを抜けて、周りに人がいない道を歩いていた。ビオラっちは少し前を歩いて、くるりとこちらを向く。
「私、先輩には感謝してるんですよ?」
「……えっ?」
「本が好きなので。図書室がなくなるなんて話を聞いたとき、転校も考えたんです。でもそれを、先輩と、リリスが解決してくれた……」
うちとビオラっちを紡いだ接点のことだった。純粋な行為百パーで働いた行いで、うちも結果として図書室の閉鎖がなくなったことに喜びを感じている。
「だから、ありがとうございます、先輩!」
まぶしく光る夕日が彼女を照らしている。その笑顔で、さっき感じてきた怖さが取り除かれていく。根はいい人なんだけど、環境によって少し歪んでしまったという印象だ。
うちも笑顔でどういたしまして、と答えた。ビオラっちは満足そうな顔をしてうちのことを見てくれていたので、おそらく何も悟られてはいないだろう。
「そういえば先輩、それ何が入ってるんですか?」
「毛糸。冬も本格的に入るから、マフラーでも作ろかなって、ビオラっちこそ、何が入ってるの? その袋」
「全部本ですね」
うちらはそのまま、ゆっくりと帰っていくのだった。
後日の話ではあるが、ビオラっちにはすでに見通されていたかもしれない。ビオラっちが人間観察に優れていることを知ったきっかけが、今日であるのかもしれない。そう思えるほどに、ビオラっちの行動は綺麗で、とても打算的であったんだ。