Cルート   作:油性

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うちが好きなのは君だけだよ

 家でゴロゴロしながら、うちはカレンダを見た。今日は12月22日だ。

 うちは、明日ジョーロっちと遊びに行く。そのつもりで今日まで過ごしてきたし、実際に約束を取ることはできた。

 うちの気持ちは何度振り返っても変わらなかった。心に根付いた気持ちは変わらない。彼と一緒にいろんな場所に行きたいし、遊びに行きたいし、何より一緒にいたいという気持ちがとめどなく溢れてくる。それほどまでにうちはゾッコンしていたということか、ウケる。

 

「…………」

 

 熱に浮かされたように顔の温度が赤くなっているのがわかる。恥ずかしい気持ちはあれど、この気持ちはかつてホースっちに抱いていた気持ちよりもはるかに上回っていた。恋の再熱がここまで大きいものとは、うちは思わなかった。

 好きになって当然だったのはと最近になって思い始めている。夏休みに、もう言い方を誇張せずにいうがデートをしたり、目の前で泣いて本心を語ったり、果てには北海道に行ったりもした。ホースっちと遊ぶことは多かったが、そこまでの行動は行なっていなかった。思えば、いつからうちはジョーロっちに心を許していたのだろう。

 考え始めただけでにやけが止まらない。考えることで喜びを感じている自分がいて、恥ずかしくなってしまう。

 さっきからこれのループだ。もうやめたい。

 と、一丁前に冷静になった気分で思考をしたところで、うちは目の前のマフラーに目を向けた。

 桃色のマフラーだ。先ほど、うちが編み終えた。なんといってもうちの特技は編み物である。原作者がツイッターでアニメのキャラデザを担当している人に教えてた。

 なんか原作で使おうと思ってたけど結局出せなかったらしいよ。残念。次の巻以降うちの出番なさそうなのに。

 ともかく、うちの特技はこれである。初めての試みであるがあまりにもうまく行きすぎて自分でも驚いた。才能か、愛の力か。

 愛の力て。そんな恥ずかしいことを恥じらいもなく思考できるな、うちは。

 

「……」

 

 ガバッと、ベッドから立ち上がって、適当に上着を着た。なんか落ち着かない。

 うちは両親にちょっと散歩に行ってくるという旨を伝え、外に出た。

 時刻は夕刻、陽は落ちようとしている。流石は十二月の下旬といったところか、肌寒さが上着を越してくる。

 ゆっくりと、ポケットに手を入れて歩いていく。溢れた息が白く染まり、冬って感じがする。

 みずやま公園に着いたところで、うちは誘われるように中に入っていった。

 ちなみにこの公園は、アニメで出た公園だよ! 記憶にない人はアニメ見返してね! 

 とだけ言っておこう。なんか言っておいた方がいい気がする。

 周りには誰もいないため、ブランコに乗って揺らしていた。童心に返って遊ぶのはなんか楽しい。

 

「……何をしてるの、チェリーさん」

「ぅえ、つ、つきみっち!? うわっ!?」

 

 いつの間にか近くにいたつきみっちに動揺して、ブランコから転げ落ちてしまった。

 イタタ……と言いながら身体をさすっているとつきみっちが手を差し出した。うちはそれを掴んで、立ち上がる。

 

「……何してたの?」

「いやー、ちょっと暇つぶしにブランコに……」

「ほんと?」

「……あはは」

 

 隠せないものだ。

 女の勘という言葉はあるが、それは男に対して発揮するものじゃないの? 

 

「ジョーロのことでしょ」

「う゛っ」

「やっぱり。明日デートでもするの? いつから付き合ったの? とりあえずおめでとう」

「はやいっしょ! 流石にそこまではまだ……」

「嘘。まだ告白してなかったんだ」

「あぅ……」

 

 つきみっちはホースっちと付き合ってから一ヶ月が過ぎたくらいか。

 どっちから告白したんだろうなんて訊かずともわかる。ホースっちからだと思う。上から見てた。

 ……何度も思うが、うちはもうホースっちに対して未練は持っていない。そんなものは最初からなかったかもしれないし、あの時まで持っていた恋心に疑いを持つこともあった。それほどまでに自分の切り替えの早さに驚いている。

 軽薄な人間だ、とは思うが、仕方がない。これが恋なのだと自分に言い聞かせている。

 

「その、つきみっちさ、ホースっちに告白された時、どうだった?」

「どうとは?」

「告白されると思ってなかったでしょ?」

「…………」

 

 眉をひそめて空を見ながら悩むつきみっち、少し経ってから話し始めてくれた。

 

「思わなかった……し、最初は疑った」

「疑った?」

「気を遣っているのかと思った。だってワタシ、ホースの好きな人は菫子だと思ってたから」

 

 その考え方は間違っていない。実際夏休みまではそうでいたのだからだ。だけれどホースっちは変わった。

 自身の考え方を変え、行ったことに対して振り返り、自分が本当に好きだと思う人に対して向き合った。その結果がこれだ。

 

「あの時した会話。今でも鮮明に覚えてる。熱烈な告白をされて、ワタシ陥落」

「へぇ〜、どんな感じ?」

「『君が必要なんだ。僕と付き合ってほしい』みたいな感じで」

「男らしいなぁ」

 

 君が必要なんてセリフ、うちの好きな人が言うだろうか。否、言わない。言うほどの度胸はジョーロっちにはない。

 

「ところでチェリーさん。明日告白しに行くんでしょ? 大丈夫?」

「問題ないっしょ! 多分……」

 

 なんやかんや不安ではある。

 まぁ断られたらどうしようって話だよね。心に病んじゃうよなぁ。癒えない傷を背負っちゃうことになるかもしれない。

 けれどそれでいい。告白せぬままに後悔したまま生きるよりはマシだからです。←結論。なんかセーラー服着たくなってきた。

 

「うん、問題ない」

「……それなら安心」

 

 つきみっちも納得した顔をして、うちを見た。

 

「何か奢る。来て」

「えっ、いいの? まだ何も成し遂げてないけど」

「いい。今日は気分がいい」

「なんかあった?」

「明日デートする」

「おぉ……」

 

 つきみっちがホースっちとの恋愛事情をうちに話しかけてくれるほどには、うちに対して信用を持っているかもしれない。

 もうホースっちに対しての後悔はない。前に進む時が来たんだ。

 

 

「お、お待たせジョーロっち! 今来たところ!?」

 

 めちゃくちゃ動揺してるわ。

 遊ぶ日当日、うちの緊張は全身にわたって伝わっていた。カバンに詰めたマフラーをいつ渡せるか不安になってしまう。

 

「今来たところですよ俺も。さ、今日はどこに行くんです?」

「いやまぁ、提案されて言うのもなんだけど、何も浮かんでなくてさ……あはは」

 

 実際ノープランだった。時刻は夕刻。遊ぶ時間はたんまりあるとはいえ、マジで何をすればいいかわからない。

 告白の仕方だけで今日まで過ごしてきた。誰か助けてください。

 

「じゃあ適当に歩きながら適当に気になった店にでも入りましょうか」

「う、うん」

「行きましょうか」

 

 なんかエスコート味強くない? 

 やだ惚れ直しそう。うちはジョーロっちに導かれるように後ろを歩いて、すぐに隣に立った。隣に立つことですら緊張し、心臓の鼓動がばくばくと活発に動く。

 一度だけ、たった一度だけだが、このドキドキをうちは吊り橋効果によるものだと考えていた。なんども言うがここまで簡単に恋する自分が信用できなかったからだ。

 だけども、うちはジョーロっちとこの先一緒にいたいと思っているし、なんだったら……いやいや、うちは重い女かよ。

 まぁそういうことだ。再三言うが、うちはジョーロっちが好きなのである。

 

「今日まで色々ありましたね」

 

 ジョーロっちが話題を投げかける。

 色々か、確かにあった。

 

「二学期始まってからうちは生徒会総選挙で忙しかったし、ジョーロっちもそうでしょ?」

「えぇ、まぁ。何事もなく終わりまたからね。語る必要すらありませんでしたね」

「本編未収録だからね」

 

 他に候補者がいないからすぐに決まった。うちのマニフェストに賛同してくれる人が多くて逆にびびったくらいだ。

 

「そういえばジョーロっちが生徒会に入りたい理由聞いてないような。なんだっけ?」

「あー……表面上の理由は奉仕活動を行いたいとか言った気がしますけど、違うんですよね」

「えっ、なにそれ聞いてない」

「俺外見から入る人間だから、生徒会長に目を奪われたんですよね。一目惚れってやつ?」

「は?」

 

 即答した一文字とクエスチョンマークで圧をかけていく。

 

「い、今は違いますけど……」

 

 ならよし。

 今は違うと言うことは、何かしら心境の変化があったということか。訊いてみよう。

 

「今は違うというのは?」

「まぁ……なんっていうか……、その答えを言うのは今はなしってことにさせてくれます?」

「……いいけど」

 

 焦らすな。何があったのかだけ訊きたいというのに。

 ならば話を変えていこう。街中を歩きながらだというが、会話をしているだけでも楽しい。

 

「じゃあ話題変えようか。文化祭とか?」

「あー……確かに結構ありましたしね、ホースとつきみが……、つきみ?」

「つきみっちがどうしたの? ……って、あそこにいるのつきみっちとホースっち、だよね。……あー、そういうこと?」

「普通にイチャコラしてますね。正直羨ましい」

「あはは……」

 

 腕を組んで楽しそうだ。こちらに気づかないで楽しんでほしいという気持ちがいっぱいだ。楽しそうに、服を見たり、仲良く会話している。

 お店に入って姿が見えなくなった。うちもこんな感じの関係になりたいな。そんな気持ちが胸の中でいっぱいになった。

 

「……メインイベントとしてはまぁ、俺の知らないところで終わってましたね。あの時のホース、告白を頑張るって意気込んでましたよ」

「あ、そうなの? うちはつきみっちとホースっちの好きな人を考察してた」

「えっ、何それは」

「ホースっちが書いた小説あったでしょ。あれまんまホースっちの気持ちが出てたから、そこから好きな人が誰かを探してた」

「その答えが、つきみだったと?」

「……まぁ、本人気づいてなかったけどね」

「えぇ……」

「最後の最後まで、パンジーっちが好きな人だと思ってたよ。……パンジーっちが」

「言ってましたね、ホースの好きな人って。でも、パンジーの好きな人は」

「ジョーロっちだもんね」

「………………」

 

 顔が曇る。胸の奥が苦しくなる。パンジーっちと隣に立って、歩く姿を考えたくない。想像したくない未来ほど頭によぎり、うちの気分は次第に悪くなっていく。

 

「あはは、ごめんね! この話、変え───ジョーロっち?」

 

 うちが話を変えようと、先に進んだところで、うちの左腕をジョーロっちが掴んだ。

 

「ジョーロっち?」

「…………ちょっと来てもらってもいいですか?」

「う、うん……」

 

 何を言われるんだろう。怒られるのかな。それともうちが前にしたみたいに、恋愛相談のサポートでもされるのだろうか。

 不安だ。嫌な予感が積もり積もって良くない想像を掻き立ててくる。

 歩いて数分、うちが連れてこられたのは公園だった。ただの、なんの変哲も無い公園ではなかった。桜の木が生えている。

 確か、冬桜だったか。秋から冬の間に咲く桜。見かける機会はテレビくらいだけど、実物を見るのは初めてだ。

 そして、ベンチに座って、うちとジョーロっちは、冬桜を見た。

 

「さっき、俺は言い澱みましたよね。今は違うって。なんで違うか……、言いたいと思います」

「……うん」

 

 なんとなく、なんとなくだけど。うちが想像してる未来は目の前にあるような気がした。

 心が満たされていく。これはフラグなんかじゃなくて、そういう確信が目の前に今広がっている。

 

「俺はもう外見で見ることはない。なぜなら……好きな人ができたから」

 

 顔が真っ赤に染まっている。目をキョロキョロと動かしている。緊張がほとばしって行く。

 

「その人のことを考えると胸が苦しくなって、会えるだけで幸せになる。……本当は毎日会いたいですけど、お互いの事情があってなかなか会えない」

 

 これはあれかな、ビオラっちのことだな! 

 いやー、ジョーロっちの好きな人はビオラっちだったかー! そりゃそうだよねー! あんなに可愛くて無条件で優しくて、一生懸命尽くす女だもんね! 

 言ってて悲しくならんのかうちは。不安と興奮が駆け回って行く感覚がする。息が苦しくなりそうだ。

 心臓の音が聞こえてくるようだ。これで本当にビオラっちなら、数秒後のうちはどんな顔をしているだろうか。

 

「お、俺は……」

 

 ジョーロっちの顔が近づいてくる。ゆっくりと、確実に。恋する男の表情ってこんなものなのか、という感想が出てきてしまった。お互いの吐息がかかる距離まで近づいて、瞼を強く閉じる。

 来る。ジョーロっちの告白が。対象が誰であれ、うちは受け止めるぞ。

 

「俺は、チェリーさんが好きなんです!」

「……ふぇ?」

 

 なんて自分でも間抜けな声を出したものか。うちの顔は完全に真っ赤。思考が回らず、お互いにしどろもどろになってしまう。

 

「……といっても、変ですよね。恋愛サポーターに回った側の人間が、好きになっちゃうって」

 

 そんなことないという言葉を放つ前に、ジョーロっちは話を進めて行く。

 

「だから、これだけを伝えたかったんです。……明日俺、パンジーとビオラに告白されますけど、断るつもりでいます。気持ちに嘘はつけませんから」

 

 ジョーロっちは立ち上がる。涙を流しそうな瞳だった。目を、奪われる。

 

「伝えたかったことは伝えました。……チェリーさんも伝えたいことがありますよね。だから俺を今日誘ったんでしょ?」

「そうだけど……、じゃあ聞いてくれる?」

「……わかりました」

 

 心の準備は整った。

 今から言う。告白をするのは人生で二度目だ。失敗しないように、失敗しないように───!! 

 

 

「───で、意気込んだ結果噛んだと」

「やめてジョーロっち! 掘り返さないでほしいっしょ!」

 

 翌日の夜。うちとジョーロっちは隣り合って歩いていた。昨日より距離は近い。実際には手と手を繋いでいる。

 まぁそういうことである。うちとジョーロっちは付き合うことになった。意外とあっさりしてるな、と思った人もいると思う。案外こんなもんなんだなとも自分でも思った。

 けれど嬉しく思っている、自分の求めていた答えをつかむことができたのだから。

 後悔しなかった代わりに崩れ去っていったものは大きい。恋愛と友情の両立は難しい。人間関係の縺れの主な原因はこれに当たると思う。自分勝手だけど前と同じような関係に戻りたいなとは思っている。うちの努力次第だけどね。

 

「正直通るとは思わなかったよ、告白して帰ろうと正直思ってたし」

「まぁうちにも色々考えることがあったし……、ていうかマフラーにあってるね。桃色カラーがフィットしてるっしょ!」

「そりゃ愛する彼女からもらったものですから無理やりコーデを合わせるわ。昨日帰った後姉の部屋にあるファッション雑誌読み漁ったからな」

 

 そういえば、うちとジョーロっちは付き合った結果、敬語を取りやめて、お互いにさん付けをやめてもらった。ぶっちゃけ距離感あるよね、さん付けとかすると。

 

「……まぁ話は戻って、チェリーに何があったかは俺にはわからん。けど、告白が通ったからそういうことなんだろうなって」

「ジョーロっちとアホみたいに遊んだから多分夏くらいにはホースっちより高感度高かったと思うよ」

「そんなことある?」

「あったから、こうしてるんだよ?」

 

 ぎゅっと肌を寄せた。

 緊張してきた。寒空の下、雪の降る街中でくっついて歩く。

 

「…………俺、さっき二人の告白を断ったんだよ」

「……うん」

「この絆が壊されるのが怖い。でも、停滞するばかりじゃ前に進めないから、俺は切り捨てた」

 

 ジョーロっちの選択を咎める権利はうちにはない。当然、彼女らにもないためジョーロっちの行いに対して糾弾することもできない。するなら当然うちにだ。来るなら来い、言いくるめてやる。

 

「後悔なんかしない。俺がやると決めたことは最後までやる、それが俺のモットーだから」

 

 ジョーロっちがカッコつけて言い切る。

 うちは笑って、ジョーロっちの顔を見た。顔を真っ赤に染めたジョーロっちに向かって、うちは言う。

 

「うちが好きなのは君だけだよ!」

 

 そう言って、うちはジョーロっちの頰に唇をつける。不意をついた一撃でジョーロっちは驚く。すぐに落ち着いたか、ジョーロっちはうちの頭を撫でた。

 こんな生活がこの先続いていくことに、うちは幸福に思う。どうか、この幸せが壊れないように───

 




 一応話はここで終わり。原作1巻部分をやりたいけど収集つかなくなって頭抱えてるからしばらく続きは出ないかな
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