Cルート   作:油性

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俺はお礼しに行ったんだ! 誰がなんと言おうともな!

 

「お待たせ! ……ってあっ!?」

「おっと……大丈夫ですか?」

「あっ……、う、うん。えっと、遅かったかな?」

 

 飛んで一週間後。チェリーさんがやってきた。あの時着ていた制服とは変わって私服になっている。

 ショートスカートとその上にシャツを着ている感じだ。語彙力がないから上手くいえないが、かわいい。

 来た瞬間何もないところでつまずいて転びそうになったのでなんとか身体を支えることができた。

 

「いえ、僕も来たばかりなので」

 

 完璧すぎない? 完全に“デート”の時のセリフだよね。客観視すれば圧倒的にデートに見えるだろう。しかしこれは違う。俺がもらった恩を返すために作ってもらったものだ。

 チェリーさんとワンチャン付き合える? あったらいいな程度しか思ってない。

 俺のヒロインはひまわりとコスモス先輩(予定)だからな。ガハハ。

 

「 なら早速行くっしょ!」

「はい。……それで、どこに行くんですか?」

 

 チェリーさんは肩にかけていたカバンから二枚のチケットを取り出した。映画のチケットのように見える。

 ……これは試されてるな。話作りのネタとしてジャンルは確認するべきだ。

 年頃の女性ならやはり恋愛ものだろう。この時期の女の子はだいたい恋愛したくなるんだよ。だってこれラブコメだし。

 恋愛じゃなくてもホラーとかコメディがあるからな。ホラーは問題ない。怖がった瞬間抱き寄せてかっこいい男アピールすればいい。コメディなら鑑賞終了後に放映してる時に笑ったところを言い合って会話を展開していけばいい。

 サンキュー、チェリーさん。何が何でも大丈夫だ! ドンと来い! 

 

「ポケモンを見に行こう!」

 

 ……おや? 以外にもアニメを選んでくるか。

 ポケモンか。なんでだろうな。どこか親近感を感じてしまうな。

 なんっつーか。名前を聞くとゴウッて気分になるっていうか。未来は俺の手の中にあるような感覚になるんだよな。なんでだろうな。

 でもその選択は意外だ。なんで選んだか訊いてみるか。

 

「なんでポケモンなんですか?」

「それはちょ〜っとまだ言えないかな……?」

 

 うっ、て言うほどのリアクションだと何か裏があるのではないかと思ってしまう。

 ポケモンで? 国民的アニメでか? 

 知り合いがポケモン好きで話を深めたいから見に行くぐらいの理由しか浮かばない。

 

「わかりました。じゃあ、行きましょうか」

「うん!」

 

 手に持っていたチケットをカバンにしまおうとするチェリーさん。

 ひまわり以外の女の子と遊びに行くことなんてほとんどない。中学生の頃もひまわりが一番だ。小学生の頃ならもっといたんだがな。

 ……? なんだこのやたら強い風は。夏の暑さを忘れるほどに涼しいじゃないか。

 俺を祝福してるのか?

 

「うわっ!? か、風でチケットが!?」

「えぇっ!?」

 

 手に握られていたチケットは風にあおられて空に舞って、そして見えないところにまで飛んで行った。そんなことある??? 

 

「そ、そんな……」

 

 チェリーさんは目に見えて落ち込み始めた。

 まずいな。そんな顔を見にここに来たんじゃないぞ。俺は。ならばここですべき俺の行動は……。一つしかないよな。

 

「じゃあ、僕が映画代全部出しますよ」

「……え?」

「払いますよ。これくらい」

 

 どう? このイケメンオーラ。どこに出してもおかしくない主人公だよね。

 しかし事故にもほどがあるな。急に風が吹くとか、定番のラブコメものでもあるまいし。

 

「いいの……?」

「これくらい大丈夫です。上映時間に遅れないように、早く行きましょう?」

 

 そして屈託のない笑顔を見せていく。

 効果音でキラ〜っと鳴いているような気がした。

 

「あ、ありがとう……。うん、行こう」

「はい」

 

 待ち合わせ場所から動いて映画館から動いていく。チェリーさんは隣にいるため、いつでも会話ができる距離にいる。

 

「わっ!?」

「危ない!」

 

 まだ何もないところにつまずいたぞ、この女。どんだけ転びたいんだよ。

 

「えっと、ごめんね? うち、人より転びやすいんだ」

「転びやすい……ですか?」

「うん。よく何もないところにつまずくんだよ……あはは」

 

 ドジっ娘か? ドジっ娘キャラなのか!? 

 新ヒロインキャラなのか!? マジかよ増えちまったな。こりゃ波乱な展開になりそうだぜ……、ひまわり、コスモス会長……! 

 

「どのくらい転ぶんですか?」

「えっと……、友達が言うには、十分に五回は転ぶって。流石におかしい?」

 

 ガチのやつじゃねーか! 

 

「いや…………うん、そうかも……しれませんね、はい」

「…………わりと気にしてることだからね、これ」

「ですよね」

 

 お互いに笑いあってそのまま歩く姿は言葉にするまでもない。ヒロインに格上げですよこれは。

 さて、サンちゃんとひまわりと話した通り、自分の考えた話の内容をここで出させてもらおうか。

 

「チェリーさん」

「ん? どうしたの?」

「今僕悩んでることがありまして」

「なになに? どんなやつ?」

 

 チェリーさんの先日連絡を交わした時にした会話に生徒会云々というものがあった。

 え? それしかない? なわけないじゃん。それ以外も会話してたぞ。

『※』の前に会話がもう終わったなんて理由はないんだぞ。

 

「生徒会に入ろっかなと思ってて」

「へー! なんでそう思ったの?」

 

 コスモス会長と付き合うため。

 なんて不純な理由は言わずに、それらしい理由を言っておこう。

 

「人の役に立ちたいと思ってるんです。人から好かれて、みんなから頼りにしてもらえるような、そんな人になりたいんです」

 

 当然ながらこれは嘘偽りない真実だ。

 コスモス会長とはワンチャンを握って俺の展開するラブコメメインヒロインBとしてキャラを確立させたいっていう欲望も八割はある。Aはひまわりだ。

 だがそれ以上にこの理由もあった。小学校の卒アルにもそれっぽいこと書いたし。

 

「だから、これから生徒会として役立つためにどんなことを言っていいか聞きたいかなって」

 

 ここ純情鈍感ポイント。みんなも真似するように。

 恥ずかしげに笑うことで醜い欲望を覆う。そうすることで不純な理由は相手からは見えなくなり、純粋な気持ちを受け取ってもらえることになる。

 中学校の頃はこれでなんとかなったぞ! みんなもやってみるんだ! 

 

「う〜ん……そうだね、うちがなりたいのは生徒会長だからね……、ジョーロっちはなんの役職になりたいのかな?」

 

 役職ならもう決めてある。

 

「書記です」

「書記?」

「はい。生徒会での活動を紙に残せる機会ですので、そこから覚えていこうかなと」

「おぉ……! いい感じじゃん!」

 

 何より会計より会長との距離が近いからな。副会長になるつもりはない。書記という定位置でコスモス会長とラブコメをしていくのだ。

 

「知り合いに副会長がいるので、推薦してもらおうと思ってます。単純作業で自分に敵うものはいないってアピールしました」

 

 チェリーさんは俺の言葉を聞くと不思議そうに俺の顔を見た。

 止して。照れちゃうっしょ。

 

「本気だね。そこまでしてやりたいんだ?」

「はい。一度決めたことなので」

 

 やると言ったらやるのがモットーだ。ラブコメを築き上げるための礎なのだよこれが。

 

「うちもそんな感じかな。人の前で立って、役に立ちたいっていうのはある」

「そうなんですか?」

「うん。それに……」

「それに……?」

「……いや、なんでもないかな。早く行くっしょ!」

 

 なぜそこで止めたんだ? 

 これなんかのフラグ? 大丈夫? なんか嫌な予感がしてきたんだけど……。

 まぁそんなことはないだろ。そう思って俺はチェリーさんと映画館内に入った。

 入った瞬間チェリーさんは転んだ。

 

 くっくっく……。ラブコメで定番イベントの映画で何が起こるか。みんなは当然わかってるよな? 

 ホラーなら怖がった勢いで俺の腕にしがみつく。恋愛なら感動して泣きそうな時に手を優しく触れる。

 しかし今回はポケモンだ。

 だが侮ってはいけない。映画ポケモンは投げる時は泣けるのだ。ミュウツーの逆襲とかね! 

 今回もそんな感じで感動を誘ってくるようなシーンがあることを願っているぞ! 頼むぞ! ポケモン! 『 ※』! 

 

 

「いや〜面白かったね! ジョーロっち!」

「そうですね!」

 

 普通に二人で感動して終わっちゃったよ! 

 これなら間違えて『いっけね! 間違えてホラーもん買っちゃった☆ ごめんチェリーさん☆』をしたほうがよかったじゃねぇか! 

 そうだよ、こっちのほうがよかったよ! 親交が深かったらこれぐらいできてたのに……! 

 だけど面白いものは面白かった。会話のネタにはなるよな。ついでに映画物販のコーナーでお互いにキーホルダーとか買っちゃったし。

 

「僕はあそこの部分が面白かったです! まさかサトシがあぁなるとは……」

「うんうん! うちもそう思ってた! 気があうね!」

「そ、そうですか……? なんか照れますね……」

 

 俺がパーフェクトアンサーを見せたところで、次の予定を組み込んでいく。

 この予定というものはチェリーさんと遊ぶときにする会話のことだ。店内に着くまでの間を補うためのものだ。

 第一球は見事にストライクゾーンど真ん中に決めることができた。ここから攻めを展開して今回の会を楽しんで終わっていただく。

 

「チェリーさん。次どこ行きますか?」

「う〜ん……、昼ごはん食べに行くっしょ! ジョーロっち案内してよ!」

 

 そう来ると思ってたぜ! 

 リバースカードオープン! 昨日のサンちゃんとの会話! ……をするときに行った場所! 俺はあそこに案内するZE! 

 効果は説明するまでもない。あそこは美味しいから俺のおすすめってだけだ。

 マックとかサイゼリヤみたいなファストフード店を最初選ぼうと考えたが女の子相手にはオシャレな店を選択することができるという“できる男”アピールをしていきたい。

 ちなみにスタバではない。うん、ドトールじゃねぇから。タリーズでもねぇから! 

 

「わかりました。じゃあ案内しますね」

 

 ここからの流れは俺がやりたいことの理想を辿っていった。

 俺が訊きたいことを言うと快く答えてくれるし、チェリーさんはチェリーさんで受け答えもしっかりしてくれてるし、時折転ぶという点さえなければ完璧な女性だと思う。

 そういえば先輩だったわ。これからは先輩呼びの方がいいのかな。

 

「うちは確かに先輩だけど、ジョーロっちが好きな呼び方で呼んでいいよ?」

「……じゃあ、チェリー会長とか?」

「高校違うのに!?」

 

 まぁ先輩呼びで納得してもらったわけだが。

 服屋でチェリー先輩に似合いそうな服を俺が選んだり、オススメの店を教えるなどをしたわけだ。正直めちゃくちゃ楽しいよ。

 なんやかんや時間は過ぎてもう夕方だ。

 俺とチェリー先輩はたいよう公園に赴いていた。公園の名前は原作になかった? 何を言っているんだ。アニメにあっただろ? 

 覚えがないなら今すぐ見てくるんだ。いいね? 

 

「今日はありがとね! ジョーロっち!」

「はい。こちらこそ」

 

 まるで主人公のような笑顔で返答する俺。

 今日は完璧な日だったな。夏休み最初にこんないいことがあるとはな。ありがとな、神。

 

「……ジョーロっち」

「はい?」

「相談がある……あるんだけどさ……」

 

 相談だと? なんだなんだ? 急に悪寒が走ったんだけど気のせいか? 

 

「とりあえずこのベンチに座ってもらえないかな……?」

 

 ……なんだろう。あのベンチには座ってはいけない気がする。身体全体が冷や汗をかいている。何この感覚。防衛本能が働きまくりですよこれは。

 だが俺は座ることしかできなかった。そりゃそうでしょ。断る理由ねぇもん。

 

「それでね……その……」

 

 チェリー先輩は顔を赤らめて桃色の髪を指でいじってもじもじとしている。

 ピンときましたよ。これは告白ですな? 

 出会って約一週間で恋人になるってそれどんなラブコメ? あっ、これラブコメだったわ! いっけね! ジョーロいっけね! 

 ついにリア充としての道を歩くことができるんですね! 

 

「実はうちね、好きな人がいるの……」

 

 わぁお。誰が相手だろう。俺かな? 

 

「その人のことを考えると、胸がドキドキして、毎日その人のことを考えちゃうの……」

 

 うんうん。それもまた恋愛だね。

 

「ジョーロっち……」

 

 目と目が合う。バックの夕日がいい感じに公園を照らしてさながらハッピーエンド手前の恋愛ゲーのようだ。

 

「う、うちの……」

 

 俺は生唾を飲み込んでチェリー先輩の言葉を待った。

 

「うちの恋愛を手伝ってほしいっしょ!」

 

 ですよね〜

 ……いや、ですよねじゃねぇ! 話が全く見えねぇぞおい! 状況を整理しろ! 告白されたかと思ったら恋愛を手伝ってくれと言われた? なして? 

 ここで一番俺が訊くべきことは……。

 

「なんで、僕なんですか?」

 

 この一点のみだ。だいたい俺である必要がないのだ。俺以外にも彼女には友達がいるはずだろう? 生徒会長を目指している人間が持っていないはずがない。断言してやる。

 

「ジョーロっちは似てるんだ。うちの好きな人に」

「……は?」

 

 好きな人に、似てる? ドッペルか? 

 

「それってどういう意味で……?」

「好きな食べ物答えてみて?」

 

 急な質問に驚いたが、これが必要な行為ということなのか? 

 

「春菊です」

「嫌いな食べ物は?」

「いくらです」

「だよね」

 

 だよね? 

 

「ジョーロっち。君とうちの好きな人はあまりにも似ているにもほどがあるんだ」

「えぇ?」

「好きな食べ物から嫌いな食べ物。多分趣味も同じだと思う。それでいて雰囲気から動きまで全部、うちの知っている動きしかしない」

 

 はぁ? どんな奴だよそれ。

 けれどなんでだろうな。不思議とそいつとは会いたくない。

 いや待てよ。ポケモンを選んだのはそいつが理由か? そいつが好きだから話をついていけるようにしたのか? それくらい言ってもいいのに、隠す理由があるのか? 

 

「いや、でも待ってくだいよ。それって単なる偶然かもしれませんって」

「いいや! うちの目は正しいと思う! うちの目に狂いはない!」

 

 ドジっ娘が何を言うか。

 

「そんなに似ているんですか?」

「うん! なんなら今呼ぼうか?」

「えっ」

 

 いや、それはちょっとな……。今会おうとは思いたくない。そんな奴が本当にいるなら、確かに会いたいとは思う。思うんだが。

 ベンチに座る前みたいな拒否反応が身体を走ってるんだわ……。なんぞこれ。

 

「いや、流石にいいですよ。もう暗くもなりますし───」

 

「……あれ、チェリーさん?」

 

「えっ?」

 

 前を向くとそこにいたのは一人の好青年。

 時期的にはどこの学校も夏休みだというのに唐菖蒲高校の制服を着ていたそいつの顔は、どこか自分が憧れている純情鈍感BOYのように見えた。

 

「ほ、ホースっち!?」

 

 ホース……? ホース!? 

 なんだその名前は! ジョーロより圧倒的に強い名前じゃねぇか! ちんたら水を撒くより一気に水を撒けるしな! 

 これもしかして俺の上位互換じゃねぇの? 名前だけで決めるのは早計か? 

 

「やぁ。こんなところで会うとは偶然だね」

「そ、そう思う! うちもそう思うっしょ!」

 

 そんな深刻な悩みを抱えてしまった俺のことを気にせずにホースと呼ばれる男と会話するチェリー先輩。

 表情を見れば誰だってわかる。チェリー先輩は目の前のあの男が好きなんだろう。

 俺と話す時よりも恋する乙女の表情をしよる。ただ、なんだろうな。

 チェリー先輩の好意にホースくんは気づいていないように見えるぞ……? 

 

「ところで、その人は? もしかして彼、ー

「あ、あぁ! この人はね……!」

 

 まずい。もし本当にチェリー先輩の好きな人がこの人なら、男と一緒にいる時点であらぬ勘違いをもたらしてしまう。

 俺を彼氏だと思われたくないだろうな。

 しょうがない。ここは手伝ってやりますか……! 

 

「あはは。僕はただ、桜原さんが落としたキーホルダーを探してただけですよ。ですよね?」

「! ……そ、そう! この親切な人に助けてもらったっしょ!」

 

 俺は右手の親指と人差し指をさすりながら言った。

 よし。俺の考えをわかって乗ってくれたようだ。ここを起点にしてこちらのペースに持っていこう。自己紹介から始めるか。

 

「僕の名前は如月。如月雨露だよ」

「僕の名前は葉月。葉月保雄だ。よろしくね」

 

 手を取り合って握手するだけでもわかる。笑顔が眩しすぎるわ。こんな笑顔を出せる人間なんて、生まれてからずっとしてるやつ以外にはそうそういねぇぞ。

 

「みんなからはホースって呼ばれてるから、ホースって呼んでくれると嬉しいよ」

「僕も友達からジョーロって呼ばれてるんだ。こっちもそう呼んでくれると嬉しいよ」

「本当かい? ならジョーロ。これからよろしくね!」

「うん。よろしく、ホース!」

 

 仲良くなりたくね〜〜〜。俺の直感が言ってる。こいつとは何かややこしくなる関係になるんじゃねぇかって。

 チェリー先輩は俺の方を見て期待させたような目をしている。

 何? ここからさらに何かしろと言うのか? 

 どうしろと? 

 

「ジョーロって僕と同じくらいだよね? 高校はどこなの?」

 

 おっと。考える間も無く話しかけてきたか。ボロが出ないように会話をしねぇと。

 

「僕は西木蔦高校に通ってるんだ」

「……あぁ! 今年の地区大会で僕たちの高校が決勝戦で戦った高校か!」

 

 その通りだぜこんちくしょうが! 

 あの時打たれなければ甲子園行きが決まってたのに……。くっそ。自分のことのようにムカつくぜ。

 でも来年だ。来年リベンジだ。サンちゃん達野球部もそれに向けて練習しているしな。

 

「うん。あれはいい戦いだったよね。……だけど、次に勝つのは僕たちの高校だよ。ホース」

 

 ホースに言ったところで意味はないけど、とりあえず言わなきゃいけないような気がしたので言ってやった。

 

「僕たちが試合するわけでもないのにね。君にとって野球部は大事なものなの?」

「そうだよ。僕の親友が所属していて、活躍していて、それを応援したい。だから自分のことのように大切なんだ」

 

 ……紛れもなく本心を言ってしまった。

 実際そう思ってるからな。サンちゃんには頑張ってほしいよ。

 

「……そうだ、ジョーロ! 君に頼みたいことがあるんだ!」

「……え?」

「…………ホースっち?」

 

 その言葉に俺とチェリー先輩は驚いた。

 何をしようとしているんだ? この男は。

 

「今うちの学校の図書館が閉鎖の危機でね……、別の高校に通っている人に意見を聞きたいと思ってたんだ」

「へ?」

「だから君を誘おうかなって、どうかな?」

 

 なんだこの主人公力。この作品の主人公俺だよね? これ第二期? 主人公交代してましたっけ。前作主人公の方ですかって。

 まだあって五分も経ってないんだぞ。グイグイ来すぎて逆に引くわ。

 

「どうだい? 早ければ明日……、いや、今週中にどうかな?」

「あ、あぁ……いいよ。行くよ」

 

 つい了承をしてしまった。

 行ったからには行くしかない。断る理由が見つからねぇんだよ。

 

「本当!? よかった、嬉しいよ。じゃあ僕とLINEでも友達になろう。何かあったら連絡してくれ」

「お、おう……」

 

 急に交換とか言われてたじろいたが、すぐにスマホを出してせっせと登録作業をした。

 ホースのアイコンか。ジョーロがちっぽけな存在に見えて仕方がならない。

 

「じゃあ僕はそろそろ帰るよ。これ以上妹たちを待たせたら何を言われるかわからないしさ」

「そ、そうだね。ホースっちは妹がいっぱいいるし、そう思うのも当然っしょ」

 

 チェリー先輩。別れを惜しむのはいいけどまた明日会えるから別にいいのでは? 

 一か八か、声をかけてみるか……はぁ。

 

「あ、あの、ホースく」

「じゃあね!」

「「あっ」」

 

 ホースはこちらを振り返ることなく夕日に向かって走っていった。

 眩しすぎる。まさしく主人公のような男だ。

 

「……ジョーロっち」

「は、はい……」

「また明日から協力……してくれる……かな?」

 

 チェリー先輩の言葉と、表情を見るに、この人は本当にあのホースという男が好きだということがわかった。

 正直断る理由はなくははない。知り合ったばかりの人間にこんなお願いをするなんて普通はしないだろう。

 だが……チェリー先輩のあの表情は本物だ。常に性格を偽っている俺なんかとははるかに違う差がそこにある。

 だから、俺は……

 

「わかりました。いいですよ」

 

 特に断ることなく、俺は協力をした。

 夏休み期間だし、どうせ暇になるからこれくらいなら問題はない。強いて予定を作るなら野球部とテニス部の練習の見学くらいだ。

 

「ほ、ほんと!? 嬉しい!」

 

 ギュッと手を掴んでく、バッカお前。

 惚れちゃうだろ! 男ってこういう動作でころりと言っちゃうの! もう……。あと五分は握ってくれよな! 

 

「じゃあ次に会うのはうちの高校の野球部の練習の時……かな?」

「そうですね。その時の僕の予定が合えば、行かせていただきます」

「うん! わかったっしょ! じゃあ今日の夜は一緒に作戦を考えよ! ホースっちと付き合うために!」

「はい! 頑張ってください!」

 

 正直クソめんどくせぇ状況だけども、やると言ったらやるしかないのだ。

 ただお礼をしに行っただけでこうなるとは……、そんなことあるか? 普通。

 

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