Cルート   作:油性

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俺は頭を抱えたい状況であっても逃げ出さない

「えっと……、ありがとねジョーロっち。うちを慰めてくれて……」

「いいんだよこれくらい」

「ところでさ……」

「はい?」

「口調すごいぐらい変わったね。なんで?」

「……あ〜」

 

 しまった。本気になりすぎてついそのままの状態になってしまった。

 誤魔化しできる? できないね。はい。

 

「これにはちょっと色々ありまして」

「……なんか嫌」

「は?」

「ジョーロっちが敬語使うの、さっきの剣幕の後だと違和感しかないよ。戻して」

「えぇ…………?」

 

 正気かって。このままの状態で行けってのか? ホースたちにもこれで?

 もう少しだけ演じさせてほしいんだが。

 

「先輩相手の前なら敬語なしでそのまま話すが、ホースたちの前ではさっきまでの敬語にするがそれでいいか?」

「うん、いいよ。……うち一応先輩なんだけど……まぁいっか!」

「いいんだ……」

 

 慮って先輩呼びはそのまま固定した。

 敬語にさよならバイバイ。俺はタメ語で行く。まぁ弱気な先輩を見た後だ。先輩呼びは固定されるでしょ。

 そんなことよりホースの元に戻らなければ。

 まだ花瓶に水を入れてすらいない。

 

「あっ! そうだった、花瓶持って行かなきゃ」

 

 満杯まで詰まった花瓶を手に持つチェリー先輩。不安しかねぇ。

 

「あっ」

 

 多分だけど、まだ瓶の方に水が付いていたから、それを滑らせたんだと思う。

 じゃなきゃ俺の頭から水なんてかかんねぇもんな。花瓶は外中全部無事だが俺は中は露わにしてしまったし、外はずぶ濡れだ。

 

「チェリー先輩」

「……はい」

「格下げで今日から呼び捨てで呼ぶか?」

「やめて! 先輩としての尊厳を保させて! せめて、せめてさん付けで! あと敬語も付けて!」

 

 俺はさん付けで呼ぶことにし、最低限敬語を出すことにした。一応先輩だからねこの人。

 これ以上繰り上げるつもりはなかった。だってこのドジで先輩は無理でしょ。

 

「落ち着いてくださいチェリーさん。ここから逆転です。野球で言えば九回裏ツーアウト満塁です」

「きつすぎるっしょ!?」

 

 今サンちゃんたちが野球してるからつい例えちまったぜ。

 とりあえず図書室に戻ろうと、チェリーさんに促して、俺は図書室に戻った。

 

「遅かったねジョ……、なんか濡れてない?」

「色々あってね」

 

 口調を戻して取り繕った笑顔で会話を始める。おいチェリーさん。笑いを堪えるな。

 

「チェリーさんも震えてるし……何かあった?」

「ちょっと僕がドジして花瓶が頭からぶつかっただけだよ。気にしないで」

「やっ、やっぱり僕口調似合わない……ぷっ」

 

 笑うなよ。

 

「えっ、それ大丈夫!?」

 

 その優しさを隣の女に見せてくれよな本当に。

 

「僕は問題ないよ。次は何をするんだい?」

 

 

 唐菖蒲高校の図書館で人が来ない理由に目星を付け終えて、俺たちは外に向かっていた。片付けしている時に考えていたことだが、本の位置で見にくくなったりしているところを意見で言ってみたり、図書室に行きたくなるような広告でも作ってみないかとと提案して、やることを終えたところだ。

 そんなこんなで廊下を歩いているってわけだ。

 

「…………」

 

 それはそうとつきみがこちらをまじまじと見ている。推測っていうか、ほぼ確信していることだが、つきみも今隣にいるホースのことが好きなはずだ。

 俺はチェリーさんを応援することになっているので、気にする必要はない。俺が勝負するわけでもない。

 

「ねぇ、ホース」

「なんだい?」

「君の友達の…………つきみ、かな? こっちばっか見てくるんだけど、僕何かしたかなぁ」

「つきみちゃんがそんなことするなんで珍しい。さっきチェリーさんと何かした?」

「いや、特に何も」

 

 ちょっと喧嘩したり水かかったりしただけ、とは言えない。理由を追及されても説明ができないからな。

 校舎内から出て外に行くと、サンちゃんがちょうど投球をしていた。

 投げている球は当然ストレート。

 早いったらありゃしない。さすがは俺の親友でありうちのエースだ。ほんと、誇りに思う。

 

「げっ……」

 

 ワンアウト取って次に現れたのは俺が大大大嫌いなあいつ。前にサンちゃんのストレートを捉えて、逆転させてしまったあの男。

 

「おっ、フーちゃんが打席にいる」

「……フーちゃん?」

 

 何その可愛らしいあだ名。

 フーちゃんこと名前は特正北風だ。高身長のイケメンで運動神経は見る限りいい。

 頭の出来は知らない。サンちゃんはダメダメだ。授業中よく寝てるし。

 サンちゃんがロージンバックを下に置き、ボールを投げる。こちらから見てもわかる、真っ直ぐに投げ込まれるストレート。

 フーちゃん……、いや、特正は空振りだ。バットは空を切り、ボールは見事キャッチャーの元に届いた。

 ワンストライクを取った。だよなぁ。やっぱりあれマグレだって。あいつ運が良かったよな。そういえばそろそろ甲子園だっけ。

 一回戦で負ければいいのに。一回戦で負ければいいのに。大事なことだから二回言うぞ。

 

「君のところのピッチャー、本当に強いね。名前はなんて言うの?」

「大賀太陽。サンちゃんだよ。僕の、一番の親友」

「なるほど、あれが君の親友なんだね。……僕もフーちゃんが親友なんだよ」

 

 お互いに野球部のエースを親友で持っちゃったよ。そんな感じで二球目は……げっ。打ちやがった。でもファールボールだ。

 ボールは……えっと、こちらに向かってきてますね。チェリーさんの元に……、

 

「危ない!」

 

 考えるより先に身体が動いた。ヒーローの素質あるかもしれねぇな。

 チェリーさんの元に向かっていたボールは咄嗟の判断で俺が庇い、ちょうど背中に命中した。実はこれ二回目なんだよな……、あの時は巨乳のチャンネーを見ていたけど、今回は違う。明確な意思を持って庇った。

 後ろにはホースもいた。俺と同じ判断をしていたんだ。さすがだな。

 

「いつつ……」

 

 それはそれとしてくっっっっっっそ痛い。

 多分腫れてると思う。軟式の球だっただけよかったか。

 

「ジョーロっち大丈夫!?」

「ぜ、全然平気です……いってぇ」

 

 小言を漏らして無理矢理笑顔を作る。

 

「大丈夫かいジョーロ!」

「平気平気。問題ないよ……あはは」

 

 嘘です。ほんとはめちゃくそ痛い。

 けれどここは我慢だ。俺はまだチェリーさんをホースとくっつけるための策略を残している。ここで退場するわけには……。

 

「すぐに保健室に行こう! 僕が連れて行くよ!」

「大げさだって! いいから! このままで大丈夫だから!」

 

 そろそろ野球部の人間も駆け込んで来そうだよ。大丈夫なものは大丈夫なのだ。

 

「ならいいけど……痛くなったら言うんだぞよ?」

 

 めちゃくちゃ痛いけどチェリーさんのために頑張ってんだ。まだ終わるには早すぎる。

 

「えっと……ありがとね、ジョーロっち」

「いいですよ……これくらい」

 

 笑顔が似合うよな、ほんと。この人は。

 悲しませる顔とか出させたくなくなるよ。いつも笑顔ばっか見ているからか? 

 おっと、まるで俺がチェリーさんを好いているような言い方じゃないか。

 大丈夫だ。そんな気はない。うん。

 

「…………」

 

 そんな中でもまだ一人、俺のことをまじまじと見る女の子がいた。

 青髪にてんこ盛りされた胸の少女、つきみだ。

 

「つきみ……さん? 僕に何か付いてたりするかな? こっち見てるけど……」

 

 何か意図でもあるのか? 訊くだけ訊いてみようか。

 

「ううん。なにも」

「そ、そう……」

 

 本当になにもない表情をしている。と言うか表情を崩さないから何も言えない。

 眉毛一つ動かずに真顔でやはりこちらを見ている。うーん……、何かあると思うんだが……。

 まぁいいや! この後は俺がチェリーさんとともに今日という日までに考えた策略を見せる版だ! そのためにチェリーさんにも色々仕込んでもらったぜ。

 えっ!? どんな策略かってぇ? 教えてやろうか? しっかーし! こういうものは実際に目にしてから理解してもらおう! 

 頼むぞー!

 

 

「いやー、今日は楽しかったよ! 来てくれてありがとね、ジョーロ!」

「う、うん……」

 

 全部失敗した。

 チェリーさんのドジを利用して転んだ時はホースの元に行く、とか。ホースを利用してホースを濡らしたところを献身的にチェリーさんが慰めに行く、とか。

 とりあえずホースに全部失敗させてチェリーさんが尻をぬぐって、できる女アピールとか、そんなあたりのやつ。

 全部失敗した。具体的な理由? チェリーさんだよ。あの子全部ドジって失敗した。

 ホースに向かう前に転ぶし、水で濡れるのはチェリーさんだし、ホースに失敗させようとしたこと全部チェリーさんに飛んでいくし。

 なぜか置いてあった野球ボールに足を滑らせたり、これは俺が助けたが。

 というか大体俺がカバーしてた。考えたもの全部失敗して発案者が±0になった。

 その結果、

 

「ジョーロは凄いよ! チェリーさんのドジを全部身体で庇って守ってて! 僕も見習いたいなぁ……」

 

 ホースからの好感度めちゃくちゃ上がった。

 チェリーさんが転んだ先、毎回ホースの手が届かない場所に行くんだよな。

 人並み外れた動きをすれば話は別だが、ジャンルがラブコメになってる以上テコ入れの異能力バトルにはそうそうならない。

 漫画じゃねぇんだから。あっ、でもコミカライズ化はされてるわ。ジャンプ+さんから。

 みんな買ってくれよな! 

 

「……ごめんね、ジョーロっち」

「こちらこそ、俺がちゃんとしたものを考えとけば……」

「いや、前日にジョーロっちを招いておけばよかったよ……。リハーサルとかするべきだったかな?」

「五億理ありますね……」

「何話してるんだい、二人とも?」

「「なにも」」

 

 なんやかんやチェリーさんとの仲も深まってしまった。ホームグラウンドじゃ無理だ。

 学校外こそ正義。今度は自分が招くか……? 

 ……だがなんでだろう。

 ホースをうちの高校に招いたら絶対面倒なことになる気がする。

 時期的にも早いような……あと一年は早いような……。絶対ダメだ。行かせたらなんか拗れる気がする。

 

「野球部もいい試合だったしね!」

「そ、そうだね」

 

 結果は引き分けだった。一対一のゲーム。延長はないから、俺としては勝ってほしかったがサンちゃんが満足してたから別にいっかなぁ。

 なんやかんやサンちゃんと……フーちゃんか。切磋琢磨しあってるからいいライバル関係になりそうだ。

 

「……やばっ、妹たちが呼んでる。僕はもう帰るよ」

 

 妹もいるのか……。

 

「うん。またね」

「あっ待って、ホース。ワタシも帰る」

「うん! 行こっか、つきみちゃん」

「じゃあね。ジョーロ、チェリーさん」

「じゃあね〜! ホースっち、つきみっち!」

 

 手を振って二人が歩く姿を見守る俺たち。

 …………ん? 

 

「チェリーさんってつきみと仲いいんですか?」

「え? うちはつきみっちと仲悪くないよ? 悪かったのは……中学時代までだったかな。ね?」

「そうなんですか?」

 

 てことは俺の勘違いだったわけか。無駄に変な行動ばっかしちまったな。反省しねぇとな。

 

「ホースっちを巡った熱い戦いを交わした中だからね〜今では親友みたいなものっしょ!」

 

 会長候補と幼馴染か。本当に似てるよな、俺と。そういえばつきみはホースのことをどう思っているんだろうか。

 幼馴染だから多分好きだと思うけど、この前例が当てはまらなかったらチェリーさんに勝機はある。是非とも別の男に気を向かせてくれ。例えば俺とか、俺とか、俺とか。

 

「んじゃあ、ジョーロっち」

「……なにか?」

「反省会、しに行こっしょ?」

 

 

『ゲンキな焼き鳥屋』という店に来た俺たちは、店員さんに案内されて奥の方の席に座ることになった。焼き鳥専門店だからかは知らないが、年代がそれなりに上の人間が多く来ているように見える。

 適当に何を食べるか決めて……あっと、その前に母ちゃんに晩飯は食って帰ると連絡してかねぇとな。

 

「ここ始めてくるんだよね〜ほんとはホースっちと行きたかったけど、最近は失敗続きだから控えるしかないっしょ!」

「そこがいいところだと思うんですけどね」

「どこが!? よく転ぶ女の子とか嫌でしょ、ジョーロっち!」

 

 そうかぁ? 一人くらいいてもいいと思うんだがな、ドジっ娘枠は。

 

「何行ってるんですか。いつも明るく楽しそうな笑うし、失敗を恐れないチャレンジ精神とか尊敬してますよ。本当に」

「ぅえっ!? あ、ありがとうっしょ……」

 

 普通にいいところを言ったのに照れるなよ、こっちだって恥ずかしくなるだろ。

 彼氏ですらねぇんだぞ! 目の前の子好きな人いるんだぞ!

 勘違いしないでよね。本当のこと言っただけなんだからね! 

 中学時代の女子との関係性はそこはかとなく話した程度で、常にいたのはひまわりだからこういう会話は滅多にない。よって俺は慣れてないから口を滑らせてしまった、ということだな。はい。

 

「そ、そうじゃなくて! 今は反省会をするっしょ!」

「そ、そうですね! じゃあ今日実行した作戦でも振り返っていきましょうか! 

 

 手に持っていたスマホを起動してメモアプリを開く。そこに記してあったのは今日の作戦内容だ。言うまでもないことだが、全部失敗しているので、ここからどう変化させていくのが今日の肝だ。

 一個ぐらいは成功しても良かったと思う。ドジに愛されているよな、この人。

 

「じゃあ一つ目、本運びでさらっとホースと二人っきりになって少女漫画よろしくなことをする」

「これ結構アバウトに伝えてきたよね」

「手と手を偶然触れあうようにするって書いたほうがよかったですかね」

「十分伝わるから、平気っしょ!」

 

 名前の通りのやつだ。本を運ぶ口実を無理やり作って、二人きりな状況を作る。

 で、ホースが本を整理しようとした時に自分も割り込み、手と手が合う、瞬間、好きだと気づいた、ということになる……、止めもしてあるが、後半めっちゃ雑だな。

 

「まさかホースっちが自分から誘いに行くとは思えなかったっしょ……はぁ」

「つきみの存在を俺は知りませんでしたから、こうなるんですかね」

「……言ってなかったっけ?」

「名前っぽいものは上げてましたけど気にしてませんでしたね。なんで月見バーガーって送ってきたんですか。わかりませんよ、こんなの」

「……訂正してなくてごめんね。……うぅ。本当にこれで生徒会長になれるのかなぁ……」

 

 月見バーガーはガチ。

 その時の会話の時間帯は俺が寝る時間帯に近いこともあり、半ば寝ぼけていたので変な会話になっていた。

『明日月見バーガーっちも来るから!』

『わかりました!』

 と、会話をしている。一体何がわかったというのか。時期的にもまだ早い。

 当時のジョーロくんは何を思ってたんでしょうかね。解説のジョーロさんに解説を頼みたいところだが、時間の都合上カットさせていただく。

 

「つきみはやっぱり、ホースのことが好きなんですよね」

「うん。さっきも言ったけど、中学校の頃はそれで喧嘩とかよくしてたんだ。今では違うけどね」

 

 あのときのホースの、

『仲良いなぁ……。二人とも』

 発言は間違えではなかったわけだ。全部俺の勝手な勘違い。

 確認する時間がなかったからこれは俺が悪かった。反省点その一だ。

 とくに問題がないような思うかもしれないが、つきみに邪魔させないように引きつけてていた。意味はなかった。

 

「本って、チェリーさんが置いたんですよね?」

「そうそう! 大変だったよ〜。一人で何十冊も置いたからなぁ。何回転んだことか……」

 

 あぁ。道理で制服が汚れていたのか。

 

「もしかして朝早くから準備してました?」

「生徒会の業務があるって言って先に行ったっしょ! 実際あったからセーフセーフ!」

「なんか申し訳ないです……。これで失敗続きだから……」

「だぁーっ! こんなことで落ち込まないの! ほら、焼き鳥も来てるっしょ!」

 

 テーブルに焼き鳥が置かれていき、早速手にとっていただいていく。まぁ美味しいよなぁ。

 

「そういえばさ」

「……はい?」

「なんでジョーロっちは性格偽ってたの?」

「うげっ……」

 

 それ訊かれるかぁ……。そうだよなぁ。

 隠すようなやましい理由は……なくはない。

 

「このキャラなら人気者になれるかなーっと……」

「それだけ?」

「えっ」

「まだあるっしょ?」

「い、いや? ないですけど?」

 

 右手の親指と人差し指をすり合わせながら言う。知られたくないわけじゃない。

 ただ言えるほどの勇気を出せない。

 

「言いなよ。うちも昼に言ったじゃん。ホースの好きな人に嫉妬してやばかったー的なやつ」

「それは…………はぁ、わかりましたよ」

 

 一度ドリンクを飲んで、一息整える。

 言うしかないよなぁ。

 

「これは俺が小学生の頃の話です。

「今は猫かぶって性格偽って人気を得ようとしましたが当時はそんな思考はありません。

「どっちかと言えば今の性格よりもっとオドオドしてます。真性の純情鈍感BOYですね。

「そんな俺には好きな人がいまして、

「今はその人札幌の方に引っ越してはいるのですが、引っ越す前に色々とありまして、

「当時女の子の間で流行っていたシールがあったんです。

「クラスメイトのほとんどが持っている中、俺とその彼女だけ持ってませんでした。

「……察しの通り、それが紛失しまして、

「その時にその人が犯人として疑われたんです。状況が体育の授業の前だったので、その時その子と俺が最後まで教室にいたんです。

「だから疑われた。けれど違った。その人は……ライはやっていないと俺は知っていた。

「クラス会で皆が彼女に言い寄って攻めまくった。

「『前から欲しそうにこっちを見てた』『さっさと出せ』『盗んだよ私見た』

「勝手な思い込みを含んだ勘違いという輪は広がって、ほとんどの人間が彼女を攻めました。

「けれど俺は言えなかった。

「勇気が持てなかったとか、そんな理由じゃなくて。

「自己保身のために真実を言えなかったっていう、最低な考えから俺は発言できなかった。

「結局その問題は俺の幼馴染が解決してくれましたが、しかし俺と彼女の間には溝ができまして、

「その後引っ越して、俺は彼女と離れ離れになったんです。

「謝る時間も取れず、まともに顔を合わせる機会を失ってしまった。

「今でも覚えてますよ。悲しみと、失望と、そんでもって怒りを宿した目でこちらを見た姿を。

「チャンスがあると言えば来年北海道の修学旅行があるので、それに賭けるしかないんです。

「彼女の両親は旅館を営んでいるので、勤めている旅館の名前は小学校の頃から覚えています。

「まぁ……、要は、

「俺はその事件以来、こう言うことをちゃんといい、人当たりのいい人間にならなきゃと思ったんです。

「だから性格を偽った。

「女子と話してからかわれても、気にしないようになれる奴になろう。

「大人しく無害で、誰とでも仲良くなれる奴になろう。

「純情鈍感BOY兼巻き込まれ主人公、さながらラブコメよろしくな男になろうと思った。

「その辺りから俺のモットーも確立されましたね。

「やると言ったらやる、それが俺のモットー。

「この性格なら例え嫌なことが起きても自分から歩いて解決に踏み出せる。

 ついでに女の子にもモテる。結果はどうであれ。

「そんな感じで、今の俺がいるんです。

「こう考えると不気味に思えますか? 

「けれどこうしていかなきゃ自分が保てないような、そんな錯覚に陥った。

「ある意味一つの逃げかもしれません。けれどそれでいいと思ってます。

「万人ウケする性格だと俺は信じて今も進んでいますから」

 

 物語シリーズみたいになっちまった。

 いやさ? いちいち地の文とかチェリーさんのセリフとか入れようがないじゃん? 

 入れても二行はいかないと俺は思います。

 もちろんだがこれは本当に起きた出来事だ。

 あの事件はひまわりが解決してくれたが、実際俺がそれより先にできていた。

 後悔の念が大きい。よってこうなった。

 

「…………」

「……黙らないでくださいよ」

 

 気まずくなるだろ。

 チェリーさんは顔を俯かせていた。置いてある焼き鳥に手をつけず、ただ下を向いて蹲っている。

 

「うぅ……」

「チェリーさん…………?」

 

 彼女は泣いていた。俺の話を聞いて、目元に涙を浮かばせていた。

 

「なんで泣いてるんですか。ご飯がまずくなっちゃいますよ」

「…………奢る」

「はい?」

「今日は奢らせて! ジョーロっちも色々と苦労してるの知ったし、今日のこともあるからそのお礼をさせて!」

「いや、んなこと言われても……」

「いいから!」

「はい……」

 

 押されてしまった。そういえば、こういった話をするのは初めてだ。

 俺の親友であるサンちゃんにも話していない話だ。と言っても話せる人で仲いいのサンちゃんとひまわりしかいないのだが。

 姉に話す必要もないし、両親にも話す必要はない。だから心の中に押し留めていた。

 心中を吐露したのは初めての経験だ。

 俺はそれほどまでにチェリーさんに気を許していた。友達だと思う以上に、それ以上の何かに昇華しようとしているのか……? 

 

「えっと……、その、ジョーロっちの初恋の人? 今はどうなの?」

「? どう、とは?」

「好きなの?」

 

 小学校の頃の彼女の姿───ライラックの姿を思い出す。本名は香紫花丁。文字を入れ替えたら紫丁香花となるからライラック。俺はライと呼んでいた。

 銀髪の少女で、ライラックのアクセサリをつけていた少女。記憶の中で朧げになっている面影は小学校の頃のままで止まっている。

 今彼女に好意を抱いているか? 決まっているだろ? 

 

「ありませんよ。俺はもう……小学校の頃とは違いますから」

 

 まぁそういうことだ。俺にとっての“その時”の恋愛事情は小学校に置いてきた。

 だから、抱くことはもうない。

 

「…………ジョーロっち」

「なんでしょう、チェリーさん?」

「来週予定ある?」

 

 八月前半の週だ。特に予定入れていない。

 何を企んでいるんだ? 

 

「ありませんけど」

「うん。ならよかった」

「はい? よかったとは?」

「来週札幌行こうよ」

「………………………………?」

 

 ??????????????????? 

 今なんつった? 

 

「なんと?」

「いや、だから札幌に行こうっしょって」

「はぁぁぁぁあああああ!?」

 

 いやいやいやいや、いやいやいやいや!! 

 何考えてんだこの人は! 

 そんなことあるかよ! 会話の流れ的に来年仲直りしますよって言ってるじゃん! 

 具体的に言えば12巻! 

 

「このままないがしろにして来年仲直りすればいっかなーなんて思ってるっしょ?」

「……はい」

「うちに聞かれたのが間違いだったね。うちにもお礼をさせてよ」

「お礼……ですか?」

「うししし。そうだよ、お礼。ここ何日間、うちの恋愛サポーターになってくれたお礼」

「それが……仲直りだと?」

「そういうことっしょ! はいかYESで答えてね!」

 

 ひ、否定が許されない……。

 正直否定はしたい。だけれどさっきの涙を俺は見ていた。

 心身になって思ってくれている証拠。俺のことを助けてあげたいという気持ちが伝わってくる。金なら問題はない。日雇いのバイトがあるからだ。それに加えて俺の今までの小遣いを使えば……。やっば、不安になってきた。

 

「金銭の問題をなんとかすれば……」

「なら、うちと一緒にバイトしよ! 日雇いのやつ!」

「……その予定はありましたけど」

「なら決定だね!」

 

 可愛いらしい笑顔でほだされてしまいそうだ。

 あぁもう! わかったよ! 行くしかねぇ! 

 来週はチェリーさんと札幌旅行だ! 

 正直全部逃げ出したい! だけれど。行くっきゃない、やるっきゃない、絶対やってやる! 

 

「よし! じゃあ次の反省点を上げて行くっしょ!」

「……はい!」

 

 こうして俺はチェリーさんとこの後じっくりと反省会をして、帰路につくのだった。

 

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