「ジョーロ! 今から外に行こうよ!」
「んんん?」
なぜ朝っぱらからひまわりが?
部活は今日ないのか? いや、そうじゃなくて、なんでここにひまわりが?
「なんで朝からひまわりがいるんだい?」
「今日はジョーロと出かけようと思ってねー! えへへ……」
なら昨日から言ってくれよな。
でも許すわ。今の笑顔で優勝したから。
惚れている女の表情ですよこれは。挿絵がないのが悲しくなるぜ……、所詮イラストのかけない二次創作作家よ。
おっと。これは俺の話じゃなかったな。
周りを見ると母ちゃんと父ちゃんはいない。時刻は午前九時。朝から出かけに行ったか? そんな予定あっただろうか。
姉ちゃんは多分男引っ掛けてまだ大学の方だから来てないと考えて……。
「ひまわり何時から来てたの?」
「ふぇ? えっとぉ……七時?」
「え? ……はっや。起こしに行ったかい?」
「うん! でもジョーロが幸せそうな顔で寝てたから、そっとしておいたの! わたし偉いでしょっ!」
「うんうん、偉い偉い」
「えへへー!」
頭を撫でてやる。ちくしょうかわいいなこの生き物。七時ならまだいるよなぁ両親。多分インターホン押して入れてもらったんだろう。この子いつも六時に起きてんのかな。
その後、適当に朝ごはんを食べて色々身支度を終えて椅子に座る俺は、ひまわりが考えた遊びの内容を訊くことにした。
「今日は何をするんだい?」
「これ!」
懐から取り出したのは泥だらけの紙だ……っ……た? ん? んんん?
そのチケット、見覚えがあるぞ?
下側は白く、文字列が羅列されていて、上側にはキャラクターがプリントされたもの。
これ最近見たんですよね。映画のチケット。
しかも、泥だらけ? は?
「……ひまわり、それどこで?」
「なんか歩いてたら目の前に現れたんだ! 交番に届けようと思ったけど、その時予定があって、ずっとひきづって今ここにあるの!」
「マジかよ」
あの時チェリーさんが手に持ってた映画のチケットが風に飛ばされて、偶然にもひまわりの手元に届いたということか?
「それ使って見に行くつもり?」
「ううん! 持ち主を探すの!」
「えっ、持ち主を?」
「そう! ここにさくらはらももって名前があるから、その人を見つけて直接渡そうかなって!」
「……交番に届けるというのは?」
「もう何日か経ってるし、忘れちゃってるかもしれないから! なし!」
「あぁ、うん。わかった。とりあえずトイレ行ってくるよ」
「いってらっしゃい!」
部屋から出て俺は頭を抱えてうずくまった! そりゃそうだよ! さっさと交番に届けろよ! でもあれか、部活とかひまわりの事情とかあって今日まで家に保管されていたってことだよな! 例えそうじゃなくても俺と遊ぶための理由づけだということにしておこう!
ひまわり理論は相変わらずむちゃくちゃだ!
だけど悪意がないのが幸いだ。これで映画見にいこうしかも持ち主の名前も書いてあるらしい。
とりあえず連絡しておこうか。スマホを起動してチェリーさんを選ぶ。
『チェリーさん。前に飛んで行ったチケットが見つかりました。今から会えますか?』
とりあえずこれでよし。今から大便を行うため時間に関しては問題ないな!
おっ、返信が来たぞ。どれどれ。
『チケット……?』
まさか本当に忘れてるとは思いもしなかったので、俺はさっさと言葉を付け加える。
『ほら、この前飛んで行った映画のやつです』
『あー! あれっしょ? うちが持ってたら風で吹き飛んだやつ!』
『その通りです。なんで名前書いてたんですか、それ?』
『なんかの拍子で無くすかと思って……、でもよかった!』
よかった。文面を見る限り、チェリーさんは喜んでいるぞ。このまま会えればいいんだが……。
『けどごめん! うち昼まで予定が入っちゃってさ! 昼からなら問題ないっしょ!』
『具体的には何時ぐらいですか?』
『十五時!』
午後三時まで時間を稼ぐ羽目になりそうだ。
ひまわりに具体的な方法を聞いていないし、手当たり次第人に訊ねて行くってのも難しい。平日の昼間だからな、一応。
マッチポンプで決めれたらいいんだがな。駅前まで誘導させるから
『どこに行くんですか? できるならそっちまで向かいますが』
『車を使って行くタイプだから多分難しいと思うよ?』
言う前に遮られてしまった。
読まれているわ。さすが生徒会長候補と言える。関係ないと思うけどそう言わなきゃ普段のドジのおかげで有能さが隠れてしまう。
この人はなんやかんや頼りになると俺は信じて止まらないんだよ。
携帯内でよくしてる作戦会議の時の会話めちゃくちゃ頼もしいから。実行時はダメダメだが。
『わかりました。他の人に受け取らせる手段というのは……』
『それも難しいかな。ホースっちもつきみっちも何かしら予定があるって聞いたよ』
全部無理だったわ。仕方ない。
『じゃあ、時間までに駅前にいますので、とりあえずはその時に。幼馴染を連れていますから多分わかります』
『わかった! なるべく早くすませるから、待っててほしいっしょ!』
『わかりました』
と、いうわけで。
俺はひまわりと外に出向き、手当たり次第人に名前の人物を訊くことになった。
「あっ見て見てジョーロ! 月末に夏祭りがあるんだって!」
「うん。毎年あるやつだね」
「今年も一緒に行こうね!」
「そうだね」
なったのはいいけど平日の午後前ということで、幸いにもそこまで人はいなかった。
せいぜいうちの学校の人間がいるぐらいだ。
「すみません、ちょっといいですか?」
「はい……、…………何か?」
なんでここまで間があるの?
えっとこの人は……おっ! 見たことがあるぞぉ! 三つ編みで、時代に合わないメガネ、絶壁! 三色院菫子じゃねぇか……ふへっ。
どうしてここに……?
…………図書委員か。あんまり人が来ているイメージはないが、そういえばこいつは図書委員の人間だ。俺が訪れた時はいつもいるような気がするよ。時間帯的に……学校に向かっている途中か?
「そうね。私は学校に向かっている途中よ」
ナチュラルに思考を読まれたことはスルーしておこう。原作ですら明かされいないことをここで明かすのはまずいってそれ一番言われてるから。
「このチケットの持ち主の名前に心当たりはありませんか? 桜原桃って言うんですけど」
言うだけ言ってみる。
……知らないなら知らないでいいんだがな。これやっぱり無理があるよなぁ。十五時までの辛抱だ。人がいないだけマシである。
ま、お前も知らないだろ? 解散解散。早よ図書室いけ。
「知ってるわ」
嘘だろオイ。
は? なんで知ってんの?
「と言っても中学校の頃の知り合いだから、今どこにいるかはわからないわ。せいぜいあっちの唐菖蒲高校に通っているくらいかしら」
めちゃくちゃ知ってる。ガチの知り合いだわこの人。うぇえ……? そんなラインいる? いらんだろこれ……。
おっと、いけないいけない。嫌な表情は表に出すなよ。とりあえずはお礼を言わねぇとな。
「わかった! ありがとう!」
「いいえ。これくらいなんともないわ。それでは」
何かお礼をするべきだろうか。それなら図書室に行って本を借りることがお礼になるかもな。いたらいたらでそういったお願いをあいつから聞けばいいし。
……やばっ。ひまわりがこっち来てる。この後唐菖蒲高校に行けってことなのかな……。無駄足なんだよなぁ。
「ジョーロジョーロジョーロ! 何かいいこと聞けた!?」
「うん。どうやら唐菖蒲高校にその名前の人がいるかもしれないらしいんだ」
今いないけどね。
「ほんとっ!? なら今から行こうよ! 走って!」
「えっ!? 無茶だよ! 僕、ひまわりの足の速さについていけないよ」
ガチでいけないから勘弁してもらいたい。
「じゃあ競争ね! よーい…………ドン!」
話を聞け。
場所を移動して唐菖蒲高校へ。校門まで向かって行くと、そこにあったのは閉まっている正門だった。今日は休校日らしい。
「どうやら空いてないみたいだね」
「えぇ〜〜〜? なんでぇ!?」
「まぁ僕たちは他校の事情なんてわからないしね」
さて、ここからどうするべきか。誰かひまわりに予定でも入れてくんねぇかな。
部活仲間とか今から遊びに行くみたいなイベント起こしてもいいんじゃない? ほら、もうなんかそんな空気流れてない? うん。ないっすね。
「うーん……今日は諦める?」
「やだ!」
「ですよねー」
「……ジョーロ?」
「「えっ?」」
後ろを振り向くとそこにいたのはつきみだ。
制服ではなく今日は私服だ。青いワンピースを着こなしていて……その、お胸が強調なさいまして……。
じゃねぇ! なぜここにいるんだ……?
「ジョーロ、この人は?」
「あ、あぁ、この人は草見さんだ」
「はじめまして。つきみって呼ばれてる」
「わたしは日向葵! ひまわりって呼ばれてるんだ!」
「そう。よろしくね、ひまわり」
「うん!」
「それで、ジョーロはなんでここに?」
「それはだね……」
俺はチケットを取り出して、つきみに見せた。名前の部分を強調させて見せたから、これで大丈夫だと思うのだが……。
「これ、チェリーさんのみたい。ワタシが渡しておくよ」
「ほんとっ!? ありがとー!」
「ありがと。つきみ」
「これくらい大丈夫。ワタシこのあと会う予定あるから」
そろそろ十五時になるのか? ……まだ昼前か。
ってことは、昼から会う予定を作っていたってことか。
「じゃあね」
「うん! じゃあね!」
つきみはチケットを持って歩いて行った。
うん。これで今日やるべきことは終わったな。あとで報告しておこう。
「今日はありがとジョーロ!」
「いいよ、これくらい。このあとは?」
まぁ遊ぶ予定だろ。幼馴染だから当然このあと遊ぶ予定が……
「帰る! 見たいテニスの試合が始まるんだ! よかった〜間に合って……」
ありませんでした。
「ジョーロも見る?」
「……じゃあ僕の家で見ようか」
「うん!」
パーフェクトコミュニケーション……!
※
『チケット届いたよ! ありがとね、ジョーロっち!』
『どういたしまして。これはもうこのチケットでホースを誘うしかないですね』
『……その手が!?』
あるだろ。というかそれしかないっすよパイセン。ここで映画を決めてホースを振り向かせるんだ。あいつはただのアピールじゃ靡かないと俺は見ている。
『今週のうちに誘って、来週はあれですよね。はい』
『うん。だから今週が勝負っしょ!』
気が乗らないといえば嘘になる。憂鬱だよ。今更どんな顔をして会いに行けばいいんだろうね。ため息ついてスマホとにらめっこする。
『デートコースはどうするんですか?』
『ジョーロっちと行くときに利用したところかな。いいお店知ってるね、ジョーロっち』
まぁ知っていたのは大親友のサンちゃんなんだが、言わないでいいだろう。
『ただホースってすごく鈍感らしいじゃないですか。どうするんです』
『なんとかする、的なっしょ?』
『不安しかないっしょ』
『だよね……けど頑張る!』
『応援してますよ』
と、ここで連絡を止めてコンビニに入る。
菓子でも食べようと考えていたからだ。暇ってのも理由になるが。
おっと。歩きスマホはしてないぞ。入店前に連絡し合っただけだ。
そんで持って夕方な今、ひまわりとテニスの試合を見終えたってわけだ。
「あっ」
「……また会った」
いたのはつきみだ。今日はよく会うな。
袋を手に持っている姿を確認した。チェリーさんとの予定を終えてここに来ていると見ていいな。
「そうだ。ワタシ、ジョーロに話がある。このあと暇?」
「えっ……、暇だけど……」
「よかった。じゃあ待ってるから、用を終えたら外に来て」
つきみが俺に……? 一体何の用だろうか。
コンビニでの買い物なんて後でもできるし、今から済ましてしまおう。
「今からでいいよ。どこに行くんだい?」
「本当? なら、こっちに」
そう言って案内された場所は公園。
流れるようにベンチに座り始めた。なんでベンチに座るんだ。ブランコじゃダメなのか。
というか、この状況どこかで……、うっ頭が……。
「じゃあ、隣に座って」
「……はい」
ベンチに座って顔を赤らめて、髪の毛をクリクリと動かしている。嫌な予感しかしねーぜ!
「実はワタシ好きな人がいるの」
うん。
ホースだろ? 幼馴染だもんな。惚れるのは自明の理だもんな。
……いやま・て・よ? これ実は俺なのでは? 実はホースに惚れていないで、俺に一目惚れをしたのでは?
ワンチャンない? 多分4話でチェリーさんが『うちら』って単語用いてたけどあれつきみのことじゃないよね?
「ジョーロ……」
「うん」
「ワタシは……」
つきみがこっちを向く。
これは俺だな! 勝ったな、ガハハ!
幼馴染枠がひまわりから変更!? 笑し! 二人に増えただけだ! 理想のその先を行くラブコメになってしまったぜ……大変だな、主人公は……。
「ホースが好き」
ですよね。
そうじゃなかったら逆に怖いよ。
「それで、ジョーロにはワタシの恋愛をサポートしてほしい」
まさかの二人目だと……。
他校の俺がどうしてこんな役回りに……? フーちゃんという男ではダメなのか?
「その……前にいたフーちゃん? ではダメなのか?」
「ダメ。フーちゃんは女の子が埴輪に見えるから」
日本語おかしくないか?
「それに、ジョーロはチェリーさんの恋愛支えてた。ワタシのも付き合ってほしい」
「……気づいてたの?」
「うん」
あのときじっと見つめていたのはそういうことかよ。はー伏線。いらん伏線。
「それで、返事は?」
「…………」
あの日見たチェリーさんの感情はつきみにもあるはずだ。たった一人の、ホースの好きな人が憎くて仕方がないはずだ。
けれど俺は、
「ごめん、僕は手伝えないかな」
「なんで?」
「チェリーさんしか応援したくないから」
俺は断った。
あの時のチェリーさんの涙と訴えが心の中に強く残り続けている。
なんとか成就させたいという気持ちが強く残っている。だからダメなんだ。
「やっぱり。チェリーさんも言ってた」
「……え? チェリーさんが?」
「うんさっきのことなんだけど……」
そこからつきみはさっき何が会ったかを話し始めた(※ その場には俺がいなかったので今回はモノローグなしの台詞だけでお楽しみください。場所は駅前のベンチに座っていた時のことだそうです)。
※
「チェリーさん。ジョーロをワタシの恋愛サポーターにしたい。ダメ?」
「え? う〜ん……」
「悩むことなの?」
「……ダメ。ジョーロっちはうちの味方。もうそんな立ち位置になってるっしょ」
「なんで?」
「ちょっち色々あってね……うちの思ってること全部吐露しちゃったんだよね……あはは」
「えっ? チェリーさんが? ……ジョーロといつ知り合ったの?」
「つい最近のことだよ。仲良くなるスピードが早すぎるかな?」
「そう思う」
「だよねー! ……でも、ジョーロっちはそんなうちの面倒な悩みを解決しようとしてるんだ」
「……」
「そんなジョーロっちにさらに迷惑かけてはいけないと思うっしょ!」
「でもチェリーさんの恋愛には絡んでくる」
「それが今、ジョーロっちのしたいことって知っちゃったからさ。今更断ろうとしても、それをさらに断ってくるっしょ!」
「まるでホースみたい」
「うちもそう思った! だからジョーロっちに頼んだの!」
「だよね。なんかどことなく似てる。けど違いはある」
「どんなところか聞いていい?」
「ジョーロは鈍感じゃない」
「えっ、そこ?」
「チェリーさんのために一生懸命になるし、本の時だってチェリーさんのために用意したものでしょ?」
「あっ、それわかってたんだ」
「あれでわからないのはホースだけ。……って言いたいけど、図書室から外した時に増えてたからそうかなって」
「あの時つきみっちいたんだね。後から入ってきたから、その時に来たのかと」
「だから利用しようとしたけど、ホースが台無しにした」
「うちからしたらつきみっちに邪魔されたら台無しになるけど」
「まぁまぁ。はい、これ」
「あっ、チケット。ジョーロっちから訊いてたけど、その時会ったのって偶然なの?」
「うん。たまたま見た、幼馴染の子といた」
「幼馴染いるんだ……なんか似てるなぁ」
「うん。ワタシもそう思う」
※
「こんな感じ」
「だいたいわかったよ」
チェリーさんそんなことを……。確かに、今更チェリーさんにそんなこと言われても俺は続けようとするだろう。
女の涙に弱い男になっちまった。
「てか、それでも僕に頼みにくるんだね」
「うん。ジョーロはすごい人だから」
「すごい人?」
「ホースと対等な関係で、チェリーさんのドジを常に耐えながらさらに恋愛をサポートをするすごい人。まさしく愛の狩人(ラブ・ハンター)」
なにその二つ名。不名誉すぎる。
「断られたの残念。でも、ジョーロがいてもいなくても、ワタシはホースを諦めない」
つきみは立ち上がって、俺に向かってそう言った。
「今日はありがとう。それじゃあ、またね」
「うん。またね」
つきみは帰っていった。
……まぁこれ以上こういうの増やしたら俺の苦労が積もりすぎてやばくなるからな。
しかしまさかチェリーさんも否定したとはな。
俺たちの関係はなんなんだろうか。友達? しっくりこない。
まぁいいや。俺は立ち上がって、再度コンビニに向かうのだった。