Cルート   作:油性

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俺は言いたかったことを遮られる

 

「迷惑をかけて本当に申し訳ございませんでした……」

「そ、そんなに落ち込まないでください、チェリーさん。俺は何も見てませんから! というかこっちも迷惑かけてますし!」

「うそ」

「嘘じゃありません!」

「がっつり見てたでしょ! 知ってるんだからね! あーもう! 責任取ってくれる!?」

「なんの責任!?」

 

 あのあと何事もなく部屋に戻れました……。

 大変だったぜ……けれど俺は成し遂げた。

 格好は浴衣に変わり、着替えを手荷物に戻し、飯を食って部屋に戻ってきた。

 あと少ししたらライがやってくる。心の準備は……当然できている。

 

「うがー! 落ち着かない! うちのこの不安定な心をどうしてくれるのさ!」

「台無し! 今からシリアスな雰囲気になる予定なのに全部台無しですっ!」

「関係ないっしょ! うちの裸見たじゃん!」

「見てないって言ってるでしょ!」

「えっジョー君チェリーさんの裸見たの!?」

「見てないって……ってライ!?」

「ふふっ、来ちゃいましたっ!」

 

 やっだかわいい〜! 最強の幼馴染じゃん! 

 この気まずさに気まずさが増しているだけで場がきつくなるような雰囲気を変えてくれる存在がやっと来てくれた! 

 けど裸云々のやつ聞かれちまったぜ! 終わりや。

 

「まっ、それはあとで聞きますが……、それでジョー君っ、私に何の用ですか?」

「……そうだな。俺はあの時のために、てめぇに会いに来たんだ」

「あの時……? あっ! 小学生の時のあれのこと?」

「あぁ。俺はそれのために、わざわざ来たんだ」

「えぇーっ!? 私そんな気にしてないよ!?」

「……あれ?」

 

 えっマジ? 憎しみ抱いてないの? 

 

「ほんとに言ってるのか?」

「うん! そりゃ最初は信じられなかったよ! 私がジョー君に助けを求めても何もしてくれなかったし……」

「うっ……」

「でも、そうだね。気にしてないって言い切れることはできても、私の心にできた傷は変わらないかな」

「…………」

「けど大丈夫っ。私はもう平気ですっ!」

「本当か? ……俺はその言葉に甘えてもいいのか……?」

 

 綻ばされているのなんて重々承知で、しかし俺は本来心の中で考えていた謝罪の言葉を全て押し殺してしまいそうなほど、ライの善意に甘えてしまいそうになる。

 

「……いや、でもダメなんだ。それでライが赦しても、俺自身が許さない」

「それがジョー君の本音?」

「あぁ。俺は、ライと思い出を作るために、ここに来たんだ」

「その思い出作りは、嬉しい申し出なのですけど……ひまわりが来てない理由を訊いていいかな?」

「……予定が合わなかっただけだよ」

「チェリーさんが来た理由は?」

「うちは単なる付き添いだよ。ジョーロっちに作られた借りを返しに来ただけっしょ」

「ふぅん……。チェリーさんはジョー君のこと好きなの?」

「いいや? うち別に好きな人いるよ」

「へ? 彼女自慢しに来たんじゃないの!?」

「「違うけど!?」」

 

 やっぱりそう思われてるよなぁ! 

 俺も薄々そう思ってんじゃないかって思ってたよ! 

 

「あはは、違う違う。うちはほんっとーに! 単なる付き添いなの!」

「そうなんですか……。なら、うん。言ってもいいよね」

「……ライ?」

「ジョー君、聞いて?」

 

 ライの表情は自信に満ち溢れている。その表情にドキッとしてしまう。

 優美で妖艶な身体と、それでいて子供の頃の面影を残した姿に、かつての自分の恋心が復活してしまいそうだ。これは言い訳でなか、当然だが俺はライに恋慕は抱いていない。

 ライが俺の手を握って、俺に言った。

 

「私と、恋人になってください」

「…………は?」

 

 なんて、言ったんだ? 聞き間違い……だよな? しかし、震える手から感じる温もりに俺は、その発言が本物じゃないかと思ってしまった。

 

「ふふっ。こんなムードもない場所で言うのもあれですけれど、いいですよね?」

 

 そう言ってライはチェリーさんを見る。

 そんなチェリーさんは口を開けて俺とライを見ていた。多分お互いに同じ感想を持ってる。

 

「ど、どうぞご自由に……うちは外に出てるっしょ〜……」

 

 あっ、こら! 気まずい雰囲気に拍車がかかったからって行かないでくれ! 

 どうするんだよこの状況……。初めての告白に心バックバクなんだよ……。

 

「えっと、その……」

「答えは今じゃなくてもいいよ? うーん……帰る時に聞かせてほしいかな?」

「…………わかった」

「何日語後?」

「明後日だ。……じゃあ俺からも、したいことを言わせてくれ」

「うんっ。いいよ、ジョー君の頼みなら」

 

 告白云々は、ともかくだ。

 とりあえずは俺がライとしたいことを言わせてください……お願いします……マジで。

 冷静にさせてください。

 

「明日は暇か?」

「明日……、えーと、うん、暇だけど……」

「よかった。じゃあ、俺たちと遊びに行こう」

「俺……たち……?」

「あぁ」

 

 ここはキメ顔で言わせていただいて、だ。

 流石にチェリーさん一人置いて出歩くわけにはいかない。温情です。かわいそうって言葉をビブラートに包ませてください。

 あの人多分気を遣って二人にさせてくると思うけど、告白された後だと……もう何か、意識しちゃうでしょ! 

 

「私はいいけれど……、チェリーさんは断ると思うよ?」

「二人で来て一人で待っていてくださいって言えるほどの心を持ち合わせてないんだ……」

「うーん……わかったっ! なら明日、部屋に行くからっ!」

 

 そう言って立ち上がって、ライは俺に笑みを見せて踵を返す。

 

「楽しみにしてますねっ! ジョー君!」

「お、おう……」

 

 ライは出ていった、入れ替わりでチェリーさんが入ってきて、俺の目の前に座る。

 

「……めっちゃ会話が聞こえたっしょ!」

「えっ」

「うちに気を遣ってない?」

「遣ってません」

「なら二人で行けばいいっしょ! そこのところどうなの?」

「いや別にそれでもいいんですけど……」

「あっ、いいんだ」

「けど、俺をこの場に連れてきてくれた恩人を置いて行けるほど、腐った心を持ち合わせてはいませんので」

「……そ、そう」

「どう思われてもかまいません。一緒に来てください」

「ヘタレ」

 

 返す言葉もない。

 

「……うん、そういう理由なら仕方がないよね! うちも行かせてもらうっしょ!」

 

 よし。

 当然のことでこれは本音で。もともとチェリーさんの提案がなければ俺はこの地に足を踏み入れることはなかったのだ。

 言い過ぎかもしらんが俺にとってこの人は、チェリーさんはライと俺を引き合わせてくれた恩人なのだ。マジで言い過ぎだと思うよ。

 言葉を変えればこういうことになるのだ。

 なので、ライの思い出作りにチェリーさんを無理矢理入れさせてもらう。

 来年行くときは単独行動でライと過ごすことにしておこう。一層の事こっちに来てくれたら嬉しいんだけどね。

 

「話は変わって、ライラック……っちってすごいね」

「ライラックっちって言いにくくないですか?」

「気にしてたこと言わないで……、じゃなくて! うちとは大違いだなって」

「大違い?」

 

 チェリーさんは薄ら笑いをして、カップを手に持ちながら、俯いて話す。

 

「うちは忖度ばっかして、ホースっちに一度も告白なんてしてないからさ……。自分の恋心にも気づいていないから、告白しても無駄だって決めつけて」

 

 その言葉は低く、暗く、自分の行いに後悔をしているような表情だ。

 

「しかもさ、菫子っちの気持ちも考えずに好き勝手言っちゃって、うちってなんなんだろうね」

「チェリーさん……」

「そうでしょ? 自分の都合だけ考えて、けれど菫子っちと離れているはずなのに告白をするわけでもなく、ただただ後ろからワンチャンかけてアピールするだけっしょ? うちが滑稽に見える?」

 

 ……本気で答えろよ、俺。

 選択次第では嫌な展開に発展する気がする。

 これはラブコメであっても、ゲームではない。ここでセーブして戻りますね! なんてできないんだ。

 

「いや……見えませんよ。だって本気だったんですから。……俺が見ていた限りは」

 

 この付け加えは必要だったか否かは訊かないでくれ。

 

「ま! ジョーロっちがいなかった時は……今よりも控えめだったっしょ! ジョーロっちが来てからは、なんというか、自信が持てたのかな?」

「自身……ですか?」

「そう! 映画仮想デートも、本当は誘う勇気があまり持てなかったんだ。誘っても進展しないんじゃって恐れちゃってね……」

「チェリーさん……」

 

 ……改めて、何度も言うがホースは純粋鈍感主人公、つまるところラブコメ主人公だ。

 ラブコメの主人公に対するイメージはわかるよな? 純粋無垢、鈍感、巻き込まれ体質。撫でポニコポで女の子を星の数並みに落とすヤベー奴。それがホースだ。

 当然といえば当然だが、あいつから見れば俺は脇役だ。でもってハイスペック。これは図書室にいた時に散々思い知らされた。

 加えて好きな人もいる。ホースはその子にしか恋愛感情を向けていない。

 多分だが、その子が本気で拒絶してもホースは近くに行くだろう。今までの情報を清算するに、ホースは自分の善意を押し進めていくはずだ。だから周りが見えない。

 

「……ほんっと、ヤベー奴ですね、ホースって」

「うちの好きな人をやばい奴扱いするのやめるっしょ! わからなくはないけど……でも───」

「わかってますよ。ホースにはその欠陥的な部分を覆い尽くすほどの、優れた能力を持ってるなんて」

 

 だからこそ、あいつはかっこいい。そう思えてしまうんだ。

 

「……はい! この話はやめやめ!」

「チェリーさん?」

「うちからした話だけど、この話は一旦、ここで終わり! 今からするのは明日ジョーロっちがするべきことっしょ!」

「明日俺がするべきこと……ですか?」

 

 はて? 俺は最初からライと思い出作りをするために各地の観光名所を一緒に歩くつもりでいるのだ。特筆してまで言うことはあるだろうか? 

 

「ジョーロっちは男の子らしく、ライラックっちをエスコートすべきなのさ! こう、なんか、ガッと手を繋ぐ感じで行こう!」

「ハードル高すぎません!?」

「でもあの子めちゃくちゃ可愛いよ? 男の子を見せてコロッと落としちゃいなよ!」

「いやいやいや! さすがに女の子として見れないっていうか……、彼女にするつもりなんてないですよ」

「だよねー! よかったよかった!」

「は?」

「自分に無条件で好意を持っていて、それでいて胸が大きい女の子に絆されるやわな男の子じゃないって安心したよ!」

「いやーあはは、それはまぁどうも?」

 

 だいぶ怪しかったと思います。

 というか的確に自分の好きなタイプ言い当てられてるんですけど!? 怖すぎる! 

 

「ほんとに断れるの? ジョーロっち」

「やると言ったらやりますよ、だってそれが俺のモットーですから」

 

 これ名言ね。本の帯にもつくし後の世の中にまで語り継がれる金言になるから。

 

「ふぅん、そっかそっか!」

 

 チェリーさんはニコリと笑って、俺に向かってこう言った。なのに……どこかその表情は暗く見えた。

 

「初めは、ジョーロっちとホースっちは似てるって思ってた、けど……やっぱり違うかな」

「……自分は似てるっていうより、上位互換だと勝手に思ってましたけどね」

「うわ、その言葉すごいくらい似合ってるね!」

「うっ……」

「ジョーロっちは……こう、なんて言うかな……えっと……」

 

 続く言葉が見つかっていないのか……? 

 

「別の意味でやさしいね!」

「言葉が無理矢理すぎませんか!?」

「うしし! じゃあもう今日は寝ようか!」

「早くないですか? まだ九時ですよ?」

「いいからいいから!」

 

 ……その後俺は言われるがままに眠りにつくのだった。俺が意識を失う直前に、何か物音が聞こえたのだが気のせいだろうか? 

 

 

 ……もう寝たかな。

 ここからはタイトルを変更するよ!

『うちが好きなのは君だけだよ』を始めるっしょ! 

 と、言うわけでまずは自己紹介! 

 知ってると思うけど、うちの名前は桜原桃! 名前の原の部分をなくせば桜桃になってチェリーになるんだ! だからみんなチェリーって呼んでるよ! 

 ……さて。ジョーロっちが寝たと確認して、うちは部屋を出た。

 うちにはまだやるべきことが、なるべく今日のうちにやりたいことがあったからだ。

 だから無理矢理ジョーロっちを早めに寝かせたってわけ。同じ部屋で寝ることになるなんて思わなかったけどね! 

 うちって昔からこんな感じ。肝心なところでドジをして台無しにさせてしまったり、何もないところでなんでかは知らないけど転んでしまったり。世間でいうところのドジっ娘? にうちは分類されてるかもね。

 そんな感じのうちにとっての救世主はホースっち。中学の頃は本当に大変だった。

 だって、ほとんどの女子生徒はみんなホースっちの虜になっていたからさ! うちが隣に立ってられる状況になったのはほんと奇跡! 生徒会様様だね! いや、ホースっちがいてもいなくても生徒会長の座に着く予定だったからそんな不純な思いは……ないよ? 

 さて、旅館内を歩いていると、うちが会いたかった人物がそこにいた。

 ライラックっちだ。

 

「……チェリーさん?」

「やっほー、ライラックっち。今時間ある?」

「ありますよ? というかそろそろ寝ますっ」

「ごめんごめん……ほんの少しだけでいいんだ。だから……」

「いいですよ。それで、何を話すんですかっ?」

「恋愛相談……かな」

 

 そういことっしょ。うちが今からするべきことなんてこれしかないんだ。

 

「会って一日目の人間に相談ですか?」

「うん。……まずは、その。君は、ジョーロっちのことが好きなんだよね? ……本気で」

「はい。それはもうっ」

「だから……うちにはそれがわからない。それを訊きに来た」

「わからない……ですか?」

 

 そう。わからないんだ。

 ジョーロっちから聞いた話と整合性がとれない。ジョーロっちはライラックっちを救わなかった。証拠と、確実性のある言葉を持っていながら助けずして、その状態のまま離別したはずなのに。

 ご都合主義がすぎるっしょ、ジョーロっち。君は主人公なのかな? って言葉を押さえたくなるよ。少し行動が控えめなホースっちじゃんこんなの。

 

「ジョー君から私のことって聞いてます?」

「うん……。だからこそだよ。なんで好きなの?」

 

 これを聞かなきゃ、うちの話は始められない。そう思っている。

 

「と言っても、単純なことですよ? ジョー君に助けてもらえなかったことを引きずって転校したんですけど、その後に気づいたんです」

 

 ライラックっちは、恍惚そうな表情で上を向いていた。思い馳せている男の子を浮かばせているはずだ。

 あぁ。なんだかわかるな。顔から読み取れる気持ちだけで、共感するべき点が多々ある。

 

「胸にポッカリと穴が空いた気持ちになるんですよ。その穴を埋めていたもの……いや、人ですね。それを気づいてしまった」

「……つまりそれが?」

「はい、ジョー君なんです。私実はジョー君が好きなんだなって気づいちゃったんです。恐ろしいと思いませんか?」

「恐ろしい?」

「だって、自分のことを助けてくれなかった人間を恋しているんですよ? 友達にも相談できませんよ。あはは……。絶対言われますよ。『えっ!? その人憎んでないの!?』みたいな。いやまぁ、憎んでいたけれど」

「あっ、憎んでたんだ」

「でも……好きなんだ。好きと気づいちゃったら、もう止められない。だから、ここに来た時は驚いちゃったっ!」

「だよね……すごいな」

「すごいですか? そんなに?」

「うん」

 

 だって、だって。

 

「うちは告白する勇気さえ持てないだから……」

「好きな人がいるんですか? ジョー君?」

「違うっしょ」

「あっ違うんだ……よかった」

 

 やめて、その表情。

 うちは知っているんだ。ジョーロっちが告白を断ることなんて。

 その顔が崩れることを、うちは知っている。

 

「でも、ジョー君が告白を断っても、私は別にいいんですっ」

「へ? なんで?」

「これは私の持論ですけど、告白の意味って秘密にしていたこととか、思っていたことを打ち明けること、じゃないですか? 私たちは愛という文字がありますが、秘密や、好きなものを言う時だって告白だと思うんです」

「それは……そうだね、うん。確かにその通りだ」

「だから私は思うんです。伝えることが大事なんだって。私が、今日この日までに抱いていた、この恋心を」

 

 胸をキュッと抑えて言う仕草は可愛らしい。うちが持っていないモノをライラックっちは持っている。

 うちは惨めだなぁ……本当に。

 だから、うちがこれからするべきことが何かを決めてしまってもいいんだ。

 

「……で、訊きたいことってなんですか?」

「ううん。もう大丈夫! ありがとね!」

「? お力になれたらいいんですけれど……」

「めちゃくちゃなったよ!」

「そうですか! それならよかったです! では、また明日っ!」

 

 うちは部屋に戻る。

 覚悟は固まり始めた。あとは……あと人に会って、それで向き合おう。

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