和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件   作:鉄鋼怪人

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第一七四話

 薄暗い一室に神棚が鎮座している。細やかな供物が捧げられている。神前であり、神膳である。部屋を照らすのは幾つかの燭台に灯る灯のみであった。

 

 部屋の中は熱気に満ちていた。夏夜の蒸し暑さに密室。加えて燭台の炎が部屋を灼熱にしていた。

 

 そんな室内を汗を撒き散らしながら激しく女が舞っていた。それも一糸も纏わぬ有り様で、である。

 

「~~~~~!!」

 

 頭には榊を、一方の腕で鈴を打ち鳴らし、もう一方の手で以て御幣を振り回す。全身噎せ返るように汗の粒を滲ませて、激しく激しく踊り狂う。御神酒を吐き出さんばかりに呷り、呷りながら荒々しい美声で祝詞を唱え、吠えるように神楽歌を奏でる。それはこの上なく淫らにして、野蛮にして、しかしそれ以上に神聖に思える幻想の光景だった。

 

 神楽の踊り。その更に原初の原初まで遡ったもの……その再現の一例がこれである。酒は己の精神の輪郭を薄めて上位の存在と一となるためのものだ。嘗て日を取り戻した女神は何も纏わずに岩戸で舞ったと伝わる。そも、装束なぞというものは人の生み出した身を欺く偽りの衣に過ぎぬ。上位の存在の前で纏うのは非礼であった。

 

 ならばこの乱痴気の狂気もまた正道であろう。甘く、肉々しく、そして饐えた匂いが部屋を満たす。息絶え絶えの女の喘ぎ声が反響する。整えていた筈の黒い長髪はとっくに崩れていて、膝を突く女に従い床に垂れ下がる。その床には滴る汗で染みが出来る有様だった。

 

 濃厚で芳醇な牝の匂い。神聖な汁。霊気を染み込んだ水。人外の怪物共にとっての極上の御馳走……。

 

 ……幾刻を経たか。狂宴が終わりを告げる。燭台の火に照らされた人影が胸を上下させて佇む。影すらも艶かしい。部屋中に淫臭の残り香が立ち込める。それを為した張本人が嗤う。

 

 甘い。本当に甘いものだ。屋敷の主人は「これ」を想定出来なかったか?よくもまぁそんな甘さで生きて来られたものだ。 

 

 ……いや、主人の経験からすれば確かに抜け穴であるのだろうか?

 

「それならそれで、結構」

 

 彼の御仁に一泡吹かせたわけだ。誇らしい所業と言えよう。さてさて、あの男はこの戯れにどのように対応する事であろうか?

 

「くひひひ。楽しみ♪」

 

 ゆっくりと迫り来る狂乱と狂奔に、巫女擬きの巫女崩れは喜悦の言葉を吐き出した。本当に、本当に、楽しそうに、愉しそうに。そして……。

 

「……ふぅ。それはそうと。何か冷たいものが欲しくなっちゃったなぁ」

 

 そして、一仕事終えた彼女は子供っぽく口元に指を当てると閃いたように口元を歪めたのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「駄目か……」

「う、ぅ……」

 

 布団にくるまる白狐の少女に触れての一言。その白い筈の肌は朱く火照り、熱気を帯びている。余り良くない状態であった。

 

「白湯だ。取り敢えず飲め。水分は補給しないとな」

 

 正確には湯を沸かして冷まして、其処に塩と砂糖を少し溶かした代物。即席栄養ドリンク擬きである。脱水時は水だけ飲めば良い訳ではないのだ。

 

「んっ、んっ、……ぷ、はぁ……。もう、いいです」

「後で冷えた西瓜でも食うか?」

「種、とってくれますか……?」

「食べやすいように四角切りしてやるよ」

 

 苦笑しながら安心させるように頭数を撫でる。むずがるように、しかし素直に受け入れる白。

 

「そろそろ、行くぞ」

 

 そういって立ち上がり、部屋を出る。ゆっくりと障子を閉める。

 

「どうでしたか?」

「……困りました。熱が下がりません」

 

 障子の直ぐ外。縁側にて控えていた赤穂の姫の問い掛けに俺は深刻に答える。白が熱を出して、今日で丸々二日であった。

 

「咳はないのですね?何か別の病の可能性もありますね。半妖特有のものでしょうか?」

「薬を買った方が良いかも知れません。あるいは、医者を呼ぶか……」

 

 問題は適当に医者を呼べばいい訳ではない事だ。医学制度がまだまだ未熟な世界である。まともな教育を受けていない、誤った知識を学んだ詐欺師染みたやぶ医者なんて幾らでもいる。真っ当に教育を受けた医者だって半妖相手では何処まで役立つか……と言うか半妖を診てくれるか自体が疑問であった。

 

「私から要請してみましょうか?」

「紫様から?」

 

 口元に手を当てて暫し考え込んでからの、紫からの提案であった。

 

「貴方の立場では適当な医師なんて呼べないでしょう?私から働きかけた方が確実です」

 

 俺は少し前まで単なる下人の家人扱。しかも鬼月の家は色々と中がややこしい。下手に鬼月家に手紙なり使者を出して要請したら面倒である。ならば赤穂の家の伝を使うのが確実であった。同じ院内だから好意に与ったと言い訳も出来る。

 

「赤穂の名で呼び寄せれば雑な仕事をする者はいないでしょう。そうですね。一度屋敷に戻って相応しい者を尋ねてみましょう」

「宜しいので?御手間では?」

「あの狐は従姉様の従者と聞いています。従姉様のためと思えば安いものですよ」

 

 葵への点数稼ぎだと紫は不敵に笑う。何か頭の阿呆毛がぴょこぴょこ動いている。ご機嫌そうだった。

 

「……有り難う御座います」

 

 俺は素直に頭を下げる。当然の事だった。紫の立場では本来何もしてやる義理はない。寧ろ彼女の名誉が傷つく可能性もあった。それを理解しての行為である。全面的に感謝する。

 

「貴方のためではありません。そうですね、陽菜は置いておきます。彼女がいないと家事が回らないでしょうから。……但し!」

 

 俺のピシッと指差して紫は注意する。

 

「私がいない間に良からぬ事を幼子や陽菜にしない事です!何かあれば赤穂の武者として誠と義を通す事を忘れぬ事……分かりましたね?」

 

 念入りに釘を刺す紫。恐らくその脳裏に浮かぶ光景は先日の寝床でのものであろう。彼女の中では俺は上役がいなければ己の欲望を満たす野郎に思えたのだろう。風評被害である。

 

 ……まぁ。俺が化物になった時には心強いかも知れんが。

 

「承知致しました。その忠言、心して胸に刻みましょう」

 

 己の身体の問題に触れても仕方ない。無駄に心配させる事もなかった。粛々として受け入れる。

 

「何か上から目線で言われた気がしますが……まぁ、構いません。誓いを破った時は痛い目に遭って貰うだけの事です」

 

 ふんっ、と腰に手を当ててそっぽを向く紫。その仕草が何処か幼く見えて、思わず俺は昔の葵の事を思い出した。幼く尊大だった頃の桃色の幼女の姿を……。

 

(親戚か。成る程、今更ながら納得だな)

 

 あるいは葵の冷た過ぎる扱いは昔の己の愚かさを思い出すためなのかも知れぬとも思った。

 

「何ですか、そのふざけた面越しにも分かる温い視線は……?」

「気のせいですよ。……出立はいつ頃に?」

  

 ジト目の紫の指摘を受け流す。そして話を詰める。

 

「昼過ぎにでも。先ずは先触れの手紙を家に送ります。その後、腹拵えをしてから出ます。車で行きますよ」

「承知致しました。護衛は?」

「そうですね……一人残しましょうか。重ねていいますが私の目が無い事を良いことに邪な事は断じてせぬように。分かりましたね?」

「承知しておりますよ」

「本当でしょうか……?」

 

 俺の明言に尚も怪訝な視線を向けて、しかし最後は追及を止める紫であった。どの道出ないと行けないのだ。最後は信じるしかないのだ。

 

「……さて。先ずは朝支度して朝餉ですね。腹が減っては戦が出来ぬ、です。今日は何でしょうかね?」

「そう言えば日の出前に炊事場に宮鷹の姫が来てましたか……」

 

 朝風呂の要求に加えて、大層ご機嫌そうに炊事中の赤穂の女中に何か要望していたのを思い出す。確か、内容は……。  

 

「あら、御二人さん、密会?」

「うおっ!?」

「きゃあっ!?」

 

 氷のぶつかるような音と共に俺と紫の間に割りこむ淫姫の姿。突然の事に俺も紫も仰け反る。というか紫は転げて庭先に落ちそうになったのでバレエ染みて支える。因みに俺が支えなければ置石に頭蓋直撃コースだった。

 

「何その珍妙な体勢?」

「貴女のせいですけど!?というか手に持ってるのは何ですか!!?」

 

 悪びれる様子もない忍鴦に対する紫の糾弾。序でに手元の碗についても指摘する。実に涼しそうな硝子の碗を。

 

「これ?素麺だけど?」

 

 チュルリと、氷を入れた汁から白く細い麺を啜ると宮鷹の姫は大層ご機嫌そうに答えるのだった……。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

「はぁ。凄い!こんな暑くて、滾っていて……っ!!んっ!?出る!!?」

 

「白くて、こんなに沢山……!?はぅ。受け止め切れない!!駄目、いっちゃう!!?」

 

「ふふ。本当に沢山出したみたいねぇ……んっ。あむ。濃くて、くちゃくちゃ……はぁ。白いのが、こんなに口の中を満たして。ごくん。ふふふ。全部食べちゃった」

 

「おかわり?ふふふ。いいけど?何度でも出したら?全部全部、受け止めて、この口で啜ってあげましょう……?」

「あの、流し素麺の話ですよね?」

 

 日射し照りつけ蝉共が喧しく泣き叫ぶ夏日の朝、取り敢えず勝手に流し素麺の器具拵えて女中に麺を流させている宮鷹の姫に向けて俺は突っ込んでおいた。おいこら。言い方考えろ、言い方。

 

「ねぇー。わたしもあれがいー!」

「ながしてながしてー!!」

「お前さんらはあっちを食べなさい」

 

 実に涼しげな流し素麺の光景に糞餓鬼連中が駄々を捏ねるが、俺は桶に溜めた方を食わせる。流してる井戸水は式の人海戦術で汲んでる物だが煮込んで殺菌はしてないのである。可能性は低いが腹を壊すかもしれない。保護役としては到底容認出来なかった。

 

「ほら。汁に氷入れたら冷たくなるだろ?これで我慢しろ」

「えー、けち」

「けちで結構。西瓜は要らんな?」

 

 脅迫すれば一際問題児の蜥蜴娘がブーブー言いながら素麺を啜り始める。続くように観念した年少組も桶の素麺を食らう。

 

「ふふふ。残念ねぇ?こっちはオトナだけのお楽しみだからぁ。子供には早いってわけぇ?」

「いや、自分もこっち食べますけど?」

「……結構ノリ悪い?私が用意したんだけど?」

 

 何故か朝から素麺大会になってるのは眼前の淫姫によるものである。何か汗だくだから冷たいのがいいと文句をいって何処からか麺と氷と汁を揃えて女中に調理を命じたのだとか。因みにウォータースライダー染みた流し素麺ユニットも自作である。暇人かな?

 

「というか……正確には具材は此方持ちですよね?」 

 

 切った胡瓜に蕃茄、焼いた茄子に刻んだ陸蓮根、玉子焼き……素麺を彩る添え物については此方の提供である。飾らずに言えば勝手に孤児院の畑や鶏小屋から拝借していた。窃盗では?何故呪われないの?餓鬼連中の飯を兼任してるから?さいですか……。

 

「あー、冷たくて美味しいっ!!……けど何で葱は駄目な訳?薬味と言えば葱でしょ?」

「ここに来てからの飯を見てそれをいいますか」

 

 雑多な因子の半妖の大所帯である。葱類は特に注意しなければならぬ。危ない食材は成分がこびりついている可能性もある。根本的に使わない方がいい。……何かアレルギー対策みたいだな。

 

「生姜がありますのでそれで勘弁して下さい」

「山葵は?」

「山まで採りに行くつもりですか?どの道刺激が強過ぎるので止めて下さい」

 

 因みに山葵利用を却下した時、背景で素麺食べてた紫がほっとしていた。もしかして山葵嫌いなの?

 

「ねぇーおにさん、おだしついかしてー?」

「誰が鬼じゃ。ほれ、猪口貸せ猪口」

 

 出汁に追加をねだる糞餓鬼連中の猪口に砕いた氷を汁共々入れてやる。ひんやりとした出汁に冷ました白湯に入れた素麺を入れて啜る。冷たい!とけらけら笑う。

 

「西瓜もあとで出るからな。食べ過ぎるなよ、麺は膨らむぞ?」

 

 夢中で素麺を食べる小僧共に呼び掛けるが、どうせ殆ど聞いてはいまい。子供というのは一つに意識を取られると周囲なぞ見ちゃいないのだ。

 

「はいはい!次は胡瓜流しちゃって~♪おー、来た来た!ぶっといのぉ!!」

 

 ……いや、子供じゃないのに話聞いてない奴もいるな。というか何故丸ごと胡瓜を流す?

 

「んっ、ん……風流?」

「その胡瓜の食べ方は……?」

 

 態々流した極太胡瓜を舐めてしゃぶって咥える淫姫の言とそれに対する返答であった。それが風流なの?風流って何なの?(哲学)

 

「何ならこんな事も出来たりぃ?」

 

 そういってやって見せるのは胡瓜の一口食いであった。上向きに胡瓜を口の中に沈めていく。え、怖。どんな風にやってるのそれ?喉詰まんない?

 

「おー!」

「すごーい!!どうやったの!!?」

 

 ドン引きする俺や紫、女中とは逆にパチパチと拍手する餓鬼共。目を輝かせて忍鴦を称賛する。取り敢えず真似しないように注意しておく。良く噛んで食わんと死ぬぞ?

 

「大丈夫大丈夫、私は経験豊富だからぁ。……確かぁ、前に試した時は茄子でもいけたっけ?魅せてあげよっか?」

「結構です」

 

 本当に結構だった。というか経験豊富って何の経験?

 

「ナニの経験だと思う?」

「戯れも程々にして下さいませ。せめて時と場所を考えて下さい」

 

 頭にクエスチョンマークが出ている糞餓鬼共を見ながら俺は心から思う。変な知識得たらあとで俺が化け狸に殴り殺されるのである。

 

「ふふふ、照れなくてもいいのにぃ。じゃあ二人きりの時にでも実演してもいいけど?」

「お断りします。……紫様、止めて下さい。そんな目で見ないで下さい」

 

 蔑みを向けられるのも嫌だが、忍鴦の口元と俺の下腹部をキョロキョロと比べるように交互に見るのも止めて欲しい。

 

「本当に照れ屋さん。そんなに恥ずかしがらなくてもいいのにー?」

「恥ずかしがってる訳ではないですけど?」

  

 小悪魔ぶって思わせ振りな仕草は男にとってある種魅力的だが今更惑わされる訳がない。性病やら何やらの危険は置いておいても、救妖衆とも繋がってる時点で眼前の女は到底心の許せる相手ではなくて……。

 

「それ本当ぉ?」

「うおっ!?」

 

 突如、淫姫は距離を詰めて来ていた。身体を密着させて、水晶色の瞳が此方を至近より覗く。光を呑み込むような眼球の奥底が俺を見透かさんとする。

 

 あまりに暗い瞳の奥に、俺は思わず硬直する。押し退けようとする意思すら忘れて、ただただ向けられる視線に応じるのみであった。

 

「……あー。やっぱりぃ?」

 

 そして落胆したように嘆息した。生暖かくて甘気のある吐息が面を撫でる。

 

「『視えない』?というよりも……この色は?うーん、分かんないかぁ」

「何を……?」

「此方の話ぃ。……それよりちゃっちゃっと食べちゃいましょう?時間経つと麺が伸びるしぃ、水も温くなっちゃうでしょう?」

 

 そんな事いいながら宮鷹の姫はひょいと距離を取るとくるりと踵を返す。そして直ぐに素麺を食べるのに集中してしまい、それ以降此方に振り向く様子はなかった……。

 

「何なんだ……いてっ!?」

 

 困惑する俺の思考を引き戻したのは傍らの紫であった。ジト目で此方を見上げている。大層不機嫌そうにしていた。

 

「……紫様、何を?」

「鼻の下伸ばしている間抜けへの仕置きですが?」

「仕置き……」

「文句ありますか?」

 

 いや、言いたい事は分かるけども。というか面越しなのに鼻伸びてるのなんて分かるの?いや、そもそも伸ばしてないけどさ。

 

「……言っておきますがアレは冤罪ですよ?」

「どうだか。取り繕ってもこの目は誤魔化せませんよ?」

 

 従姉の好悪見抜けない節穴?……というのは辛辣過ぎるので黙っておく。黙って素麺を啜る。糞、上手いな。あの淫姫、良い店の取り寄せて来たな?

 

「だんまりですか?全く、男というのは都合が悪くなるとこうですね?」

 

 鼻を鳴らして呆れ返り、紫も硝子猪口の麺を上品に啜る。そしてそれで彼女の食事は終わった。

 

「御馳走様でした」

「もう宜しいので?」

「私も食が太い訳ではありませんので。支度も必要ですしね」

 

 医者を呼ぶための手紙と外出の事であろう。彼女は一番に朝餉を終えるようであった。

 

「陽菜、後程お話があります。忍鴦姫、馳走になりました。美味しかったですよ」

 

 端的にそのように言い放ち、紫は院の内へと向かう。「えぇ!?姫様!?今そちらに……!?」とか「ばいばーい♪」等と言う声が素麺スライダーの方から聞こえて来るが……まぁ、ええやろ(投げやり)。

 

「……そうだ。白の奴にも、な」

 

 そして俺は麺を幾分か分けると具材共々上から出汁と氷をかけてやる。予定は多少変わるが……細い麺なのだ。食べられるだろう。

 

「お、鬼さん!それ白ちゃんの?」

「……」

 

 集まりから離れた所で背後から呼び声。俺は胡乱な目付きでゆっくりと振り返る。不敵な蜥蜴娘が其処にいた。

 

「茜か。何事だ?もう食わんでいいのか?」

「五杯食べた!」

「よう食ったな」

 

 こいつの事であるので多分猪口一杯に容れた筈である。具も含めたらまぁ腹一杯だろう。

 

「白ちゃんの所行くんでしょ?付いて来てあげる!」

「いらんわ」

 

 元気一杯、恩着せがましく宣う茜に即答。喧しい奴がいたら迷惑である。

 

「えー、いいじゃん!私も御見舞いする!」

「見舞いされる側の事考えなさい。負担になる事はするな」

「しないわよ!!むしろ、絶対一緒の方がいいって!!白ちゃんだって寂しくないよ?」

「むっ……」

 

 最後の台詞には少しだけ迷う。白が寝込んでから基本的に接触は俺だけであった。病気を移さぬようにであるが……弱っていると確かに俺ばかりでは寂しくなるか?

 

「いや、しかし……せめて他の奴の方がよくないか?」

 

 孤児院の年長組ならばもっと大人しくてお利口な奴は幾らでもいる。こいつを連れていく理由にはならない。

 

「私を選ぶ理由?あるよ!?」

 

 そして自信満々に茜は俺を指差す。

 

「鬼さん!」

「誰が鬼じゃ」

 

 そして茜は己を指差す。

 

「龍!」

「蜥蜴では?」

 

 そして茜は仁王立ちになると宣言する。

 

「行こ!鬼龍のように!!」

「ちょっと待て。それは流石に不味い!」

 

 流石にこれまでパロっても固有名詞で明言してなかったのにそれはあかん。

 

「ん?何で?鬼と龍が御見舞いするんだから鬼龍だよね?」

「そこは先生と蜥蜴にしておけ」

 

 先生は固有名詞ではないし、お前に龍は過分過ぎる。おいこら、ブー垂れるな。

 

「私龍だよ!絶対龍だって!どらごんすれいやーだって!!」

「それ退治する側では?」

 

 多分橘商会辺り経由で娯楽用に舶来の絵本でも来て感化されたのだろう。呆れたものである。

 

「分かった分かった。連れてってやる。だから騒ぐなよ?」

「当たり前だー!」

「初手から心配にさせないでくれる……?」

 

 大声で応じる茜に見舞う前から心配になる俺であった。

 

「はぁ。よし、行くぞ……んん?」

 

 根負けして、兎も角麺が伸びる前に見舞いに行かんと俺は催促して、そして袖を掴まれて引かれる。視線を向ける。

 

 ……両手で袖を掴む牛娘がいた。

 

「だめ、どなどな、しないで。あかねおねえちゃん、どなどな、だめぇ……」

「……」

 

 泣き声で斜め上の懇願をする小娘に俺は、暫しの間天を仰いでどうするべきかと途方に暮れていた……。

  

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 疼く。疼く。疼く。容態が悪化していっているのを彼女は感じていた。身体の内がひたすらに熱い。関節が、筋肉が、悲鳴を上げている。軋み上げている。

 

 苦しい。苦しい。苦しい。装束がきつい。思わず脱ぎ捨てる。悶える。悶え苦しむ。

 

 荒々しく息をする。窒息しそうだ。肺が酸素を求めていた。血管に濁流のように血が流れる感覚が、激しい心の臓の鼓動を感じていた。汗が滝のように溢れ出る。辛い。辛い。辛い。

 

 一体どうしてこうなってしまったのだろう?どうしてこんなに苦しいのだろう?自分は死んでしまうのだろうか?どうして?どうして?どうして?

 

 悶えて、悶えて、悶えて……のたうち回る。そして掠れた視界にそれを見る。鈴を見る。

 

 思い出す。何かあればこれを使えと。助けを呼べと。もう堪えられなかった。助けて欲しかった。急いで手を伸ばす。伸ばして……気付く。己の腕の異変に。

 

 はて。自分の腕はこんなに長かったか?自分の掌はこんなに大きかったか?それに思い至り、疑念は困惑に至る。そして、汗だくの身体を起き上がらせる。

 

「っ……!!?」

 

 全身の筋肉痛に思わず悲鳴を漏らす。汗が床に零れ落ちる。ぼやける視界の中でそれを探し出して、見つける。手鏡を、見つける……。

 

 映りこむ光景に彼女は絶句して、青褪めて、そして……。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

「白?起きてるか?……寝ているのか?」

 

 白狐の白丁の寝込む部屋の眼前、障子一枚挟んだ先で俺は呼び掛けた。しかし、返事はない……。

 

「寝ている、のか……?」

「えー詰まんないの!」

「楽しむために見舞いに行く訳じゃないでしょ……?」

 

 既に勘違いしてる蜥蜴娘に注意。因みに牛の方は口元に手を当てて「どなどな……」と呟いている。

 

「……茜、梅、取り敢えず待て。先に俺が入る。いいって言ったら入れ」

 

 普通の風邪ならばまだ良い方で、麻疹なり水疱瘡なりといった不味い感染症、あるいは半妖故の病気もあり得る。今朝に見た時は熱くらいだったが……少し目を離した間に一気に悪化している可能性は十分にあった。安全を確認してからでなければ中に入れるのは避けたい。

 

「俺だ。入るぞ?……聞こえているか?鈴か何か合図をくれないか?」   

 

 今一度確認してみる。しかし……やはり返事はなかった。

 

「……びょうき、わるい?」

「その可能性は低いとは思うんだがな……」

「じゃあやっぱり寝てる?」

 

 牛、鬼、蜥蜴の順での台詞である。

 

「入るぞ?いいな?」

 

 俺は警告した上で障子を開く。その先は薄暗く、先は見えない。

 

「……?」

 

 陰り?日陰になったか?思わず振り返る。ギラギラとした日射しが容赦なく照りつけていた。俺は正面を向き直る。

 

「何が……?」

 

 俺は一歩、歩み出す。不用意であり、油断であった。吾妻雲雀の呪いにより守られた屋敷。それを前提にしていた故の軽挙であった。

 

 部屋に片足が入り込んだのと、白く長い何かが足首に巻き付いたのは同時だった。

 

「っ……!!?」

 

 即座に踵を返して離脱する試みは即座に水泡に帰した。腕に、そして首回りに同じく白い何かが巻き付いた。あっという間に俺は部屋の奥へと引き摺られた。

 

「鬼威さん!!?」

「どなどなぁ~!!?」

 

 引き摺られる俺に追い縋るように驚き顔で餓鬼二人が部屋に足を踏み入れる。馬鹿!入るなって……!!?

 

「んふっ、ん!!?」

 

 制止の言葉を叫ぶ前に、白い毛皮が俺の視界を包み込むようにして覆って……。

 

 

 

 

 

「んぁ……?」

 

 次に意識を取り戻した時、俺は拘束されていた。四方八方から伸びる白い布地……?胴体に巻き付き、腕に巻き付き、足に巻き付き、首に巻き付き、俺を捕らえ、縛り、吊るして、俺の自由を束縛する。

 

「……」

 

 沈黙のままに視線だけを動かす。周囲を観察する。余りにも奇妙な空間だった。彼方此方白い布地が垂れ下がり、掛けられて、散乱している。遠近の感覚が捉えにくい。視覚が混乱しそうな空間だった。

 

「っ!?茜、それに梅も……!!」

 

 そして暫しの観察の後、遂に俺は彼女らを見つける。俺と似たように布地によって捕らえられて吊るされた子供が二人。意識を失っているようにぐたりと俯いている。

 

「く、今助け……」

「ほぅ、漸く起きたのか?」

 

 布の拘束から抜け出そうとした刹那、耳元に囁くような声を掛けられる。そして一瞬遅れて、面の隙間から何か頬を撫でた。生温かく、蛞蝓のように滑った感触に思わず身震いする。

 

 そして、俺はその声音に硬直する。硬直して、ゆっくりと面の穴から視線を動かす。

 

 己の面と触れあうように頬を当てる白い女が其処にいた。白い狐が其処にいた。白が其処にいた。いや、これは……!?

 

「狐璃……、白綺?」

 

 驚愕と動揺と共に紡いだその名に、小さな装束を脱ぎ捨てた殆ど裸の牝狐は九つの白尾を蠢かせると、何処までも蠱惑的で凶悪な笑みで以て応じたのだった。

 

 正しくそれは獲物を食らわんとする、肉食獣そのもの美貌で……。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

「朝早くからご免なさいね?折角雛の御相手をして下さっている時に時間なんか取らせちゃって」

「いえ、そのような事は。義母様の申し出であれば何時でも御遠慮なさらないで下さいませ」

 

 それは逢見の屋敷の一室での、鬼月の御意見番と当主夫人の会話であった。

 

 面会は突然の事で、当時屋敷の道場にて義娘に刀の朝稽古を指導していた鬼月菫はそれを切り上げると着替えをした上で自室に夫の母を、己の義母に当たるその女を丁重に迎え入れた。

 

「茶で御座います」

「あら、有り難う」

 

 静かな微笑みと共に、煎じた茶を夫人は義母に差し出す。悠然と微笑み礼を言い、しかし湯煙のたなびかせる湯呑を手にする事はない。

 

 それは厚意に対する無礼にも思えたかも知れない。だが御意見番が黒蝶婦として知られていた事を思えば到底驚くに値はしない。彼女の茶に毒を入れたい者の数は十や二十では済まない。必要だったとは言え当時の彼女はかなりの無茶苦茶をしたものであった。

 

 いや、それ以上に……。

 

「……この薫り。西土の磐枝かしら?」

「はい。昔から良く飲んでおりました。高級とは言い難いながらとても安心する味わいですわ」

「ふぅん。そう」

 

 内心で胡蝶は唾を吐いていた。磐枝茶葉、磐枝、ばんし、伴死……それを飲めと?呑めと?挑発にも程があるだろう?

 

(いけないわ。平静、平静……)

 

 思わず感情が表情に出てしまいそうになるのを堪えた。普段ならばこの程度の事で怒り狂う事はないのだが……彼の事となるとどうしても感情を優先してしまいそうになるので困る。

 

「茶葉と言えば……」

 

 己を落ち着かせる目的もあって、胡蝶は雑談を始める。茶葉の話を、茶道の話を、そして教養、習い事と自然に話を誘導していく。眼前の夫人はそれに微笑みながら受け答えする……。

 

「そうそう。夫人に差し上げたいものがありましたの」

 

 そしてその合図と共に部屋に足を踏み入れる人形の式が二体。二体がかりで式は唐櫃を運び入れる。

 

「これは?」

「息子が、当主が目覚めて公事にお出になる機会も増えましたでしょう?夫人のために拵えましたの」

 

 蓋を開く。そして御披露目されるのは実に見事な単であった。鮮やかに染められた装束は、しかもその艶に肌触りの素晴らしさと言ったら……!!

 

「あらあら。これは何と魅事な事でしょうか?」

 

 直に触れて、その彩りを鑑賞して、菫はそれが一流の代物である事を認める。感嘆の声を嘯く。

 

「息子の妻、鬼月の夫人に相応しい逸品でしょう?贈りますわ。無論、息子の分も用意しておりますわ。御揃いで着込んで頂ければ大層素晴らしい光景でありましょう」

 

 かしづくように、胡蝶は讃える。

 

「……絹地では御座いませんね?一体何を御使いに?」

 

 暫し単の生地を確かめていた菫の言に、胡蝶は微笑む。

 

「蜘蛛の糸でありますわ。噂には聞いておりましょう?」

「はい。成る程、道理で」

 

 菫が鬼月の本家に戻る以前に討たれた上位の蜘蛛妖怪。その巣穴に、その腹の内にあった糸はその特性ごとに仕分けされ、朝廷と退魔士家に分配されたという。それは特上の生地の原料であり、呪具の原料でもある。

 

「また随分と贅沢に御使いになられましたね?」

「息子と義娘のためとあらば、無理を言って蔵を開けさせましたわ。……それに、必ずしも限りあるものではありませんわ」

「……」

 

 胡蝶の含みのある物言いに、夫人は沈黙する。感情の窺えぬ視線を義理の母へと向ける。笑みは貼り付けたようにそのままである。

 

「子蜘蛛……そちらで預かっているのでしょう?此方に委ねて下さりませんか?」

「……家人扱の秘密と解しておりましたが、まさか御知りでありますとは驚きましたわ」

 

 菫の惚けるような言に、黒蝶婦は微笑む。彼が都郊外の孤児院に派遣される際に、その命綱にして心臓でもある蜘蛛を差し出されている事を胡蝶は察していた。逃亡防止の一環だろう。暴虐な。

 

 罵倒を吐きそうになって、胡蝶はそれを呑み込むと言葉を紡ぐ。

 

「泳がせていただけの事で御座いますわ。そして、あの蜘蛛は鬼月の貴重な資産であり、危険でもありますわ」

 

 神気を内在した子蜘蛛。それ自体が霊薬の材料となり得る。その体液、その糸もまた同様。金の卵を産む鶏である。まさに資産だ。

 

「同時に露見した時の事を思えば危険な存在でもありますわ。朝廷から没収、あるいは駆除を命じられるやも。隠していた罪に問われるかも知れませんわ」

 

 胡蝶の言は決して大袈裟ではない。十分にあり得る話であった。多くの退魔士家が御禁制の秘術秘具を隠しているが、隠しているからこそ罪に問われないのである。露見すれば当然某かの沙汰はある。

 

「息子のために、老い先短く秘め事多き母が背負ってあげようと言うのです。病み上がりの当主に負担をお掛けするのは宜しくありませんでしょう?」

 

 そういって胡蝶は愛する人の生命線を寄越すように要求した。それこそがこの席を用意した全てであった。

 

「旦那様のために御自身の御立場を犠牲になされると?」

「あら、当然の事でしょう?」

 

 菫の問いに胡蝶は当然のように肯定した。肯定して、否定した。

 

 旦那のために犠牲となる。しかし、誰の旦那のためとは明言していない。

 

「私からの精一杯の愛情というものですわ。余り甘やかす事も出来ませんでしたから。せめて、ね?」

 

 あの人の血を引いて、あの人と良く似ていて、あの人のように愛する彼をもっと可愛がってあげたかった。それが出来なかったから。せめてこういう時に少しでも身体を張らなければなるまい。

 

「それはまた……義母様らしからぬ御言葉で御座いますね?」

「そんな事はありませんわよ?夫婦は負担を分かち合うもの。そして親子は負担を肩代わりするものですわ。それが理想の家族というものですわよ?」

 

 ほほほほ、と朗らかに笑う御意見番。嘘はいっていない。彼女はそれを信じている。ただ、世間で認知される彼女の家族と彼女にとっての家族が違うだけなのだ。

 

 鬼月胡蝶は鬼月家の家族に対して然程愛着はなかったし、守る価値も見いだし得なかった。愛してもいない男の子である。強いて言えば捨てられた初めの子と末の宇右衛門の事はまだ愛着を抱いているといえるだろうか?

 

 無理矢理の種づけ、忌まわしき男の子……しかしながら頭の子はあの男に捨てられ、末の子は疎まれた。だからこそ逆に胡蝶は母親として愛する事が出来た側面があっただろう。宇右衛門の場合、愛する少年にそれなりに良くしていた事も理由だ。可愛げがある。許してやろう。

 

 ……あの子を害するならば容赦はしないし、あの子が求めるならば手を下す程度の愛情であるが。

 

「……私の一存では。私は所詮外様。夫人に過ぎませんわ。あの人の御意見を仰がなければ」

 

 暫しの逡巡、そして応答。それが贈り物の効果であるとは胡蝶は思っていない。脅迫に対して当座の時間稼ぎであろうと理解していた。御意見番の朝廷に対する人脈は幽牲が長らく喪心していた事もあって遥かに広く、そして遥かに深い。息子と引き替えに蜘蛛を確保する事は容易でなけれど不可能ではなかった。それを理解する故の結論の引き延ばし……。

 

(けれど、実家の助けは仰げないでしょう?)

 

 赤穂家本家の者は西土の関街での騒動もあって末娘以外は誰も都を不在としている。義娘は赤穂の家でもある種の不可接触の存在であったが助けを求められれば便宜を図る可能性は十分にあった。西の騒動はその意味では都合が良くて、そしてだからこそこの機に胡蝶は仕掛けたのだ。

 

「即座にとは言いませんわ。ですけれど、出来るだけ早めの返答を頂けますと嬉しく思いますの。秘密は刻が経つ程に漏れやすくなるもの。違います?」

「……」

 

 胡蝶の甘い圧力に、菫はただただ静かに微笑むのみである。そんな義娘の態度に、義母は今一度、攻めるかと判断する。

 

「そうそう。一度、件の幼神を見せて頂けます事?今どれ程の物になっているのか確認しなくては。それに、どのようにして囲っているのかも吟味させてくれないかしら?」

 

 管理体制の確認……それを出汁とした追及。それは正統なる要求であり正当なる道理。菫は断る事は出来ない。

 

「少しお待ちを」

 

 御見せするのは避けられぬ事を認めて菫は立ち上がる。そして部屋に持ち込んだ棚を探りそれを取り出す。封符を無数に貼り付けた木箱を、取り出す。

 

「霊木の箱に封綱、封符……窃盗対策は?」

「木箱自体に呪いを仕込んで御座います」

 

 彼の心臓ともいうべきものを封じた木箱を一見しての胡蝶と菫の会話であった。探りと牽制でもあった。力尽くでの確保を許さぬという宣言と義母は認める。

 

「成る程。中身には?」

「神格そのものを呪うなぞ……人を呪わば穴二つで御座います。ましてや神格ともなれば。それこそ神をも恐れぬ所業でありましょう?」

 

 でしょうね、と胡蝶は内心で冷笑する。彼の二の舞はしたくないだろう。息子が強硬な選択をしていないのは幸いだ。あの息子の事だ、眼前の女を呪神の人柱にするくらい有り得たのだが……やはり葵の抑えとしてまだ温存しておきたい、といった所だろうか?

 

(何にせよ、馬鹿な女ですけれど)

 

 木箱の封印を一つ一つ丁寧に解除していく赤穂からの嫁に向けた辛辣な評価であった。己を愛さぬ男のために良くもまぁ娘を捨てて支えようとするものである。それどころかきっと、望まれれば己自身すらも……到底胡蝶には理解出来ない異常者であった。

 

 ……第三者からすれば半ば程鏡に向けた罵倒であるが胡蝶は気にしない。同じとは欠片も思っていないので問題なかった。

 

「……さて。これにて最後」

 

 義母の内なる罵倒を続けている間にも義娘は封印を解いていき、そして最後のそれをも解除する。最後の最後。木箱の内の壺の蓋を開く。中を覗く。そして……。

 

「あら?」

「?これは……っ!?」

 

 菫は静かに首を傾げる。胡蝶は絶句して壺の内を覗きこむ。愕然とする。血の気が引いていく。菫を見る。

 

「貴女……!!?」

「よもやこのような……参りました。どう致しましょうか?」

 

 非難に近い鋭い眼光を向ける胡蝶と、何処か他人事で相談する菫であった。それはまるで対照的な反応であった。

 

 相対する二人の間にあるのは、空っぽの壺のみだった……。

 

 

 

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