和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件   作:鉄鋼怪人

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 イベントに託つけたちょっとした筆休め。因みに本編更新につきましては活動報告を確認して下さいませ。

 二次創作についてのご紹介をさせて頂きます。

 此方は貫咲賢希さんより二次創作小説。世界観につきましては作者より助言させて頂いております
https://syosetu.org/novel/312863/

 此方は寛さんよりファンアート。佳世ちゃんと澄影ですね。澄影の顔が微妙そうなのは多分そういう事
https://www.pixiv.net/artworks/106431154

 皆様、素晴らしい作品、誠に有り難う御座います!!


四月馬鹿短編企画●

 既に日は沈みかける頃合い、収容可能人数五万人を超えるドーム会場は完全に埋め尽くされて、その熱気は凄まじいものとなりつつあった。

 

 O229(オニツキ)プロダクション合同ドームライブ。有名事務所が主催する所属人気アイドル達の三日に渡るファン感謝祭、その最終日である。

 

 最終日、フィナーレという事もあってか未だライブ始まっていないにもかかわらず、会場内の盛り上がりは既に本番さながらであった。

 

「いやはや、凄いもんだな。アイドルファンの熱意には恐れ入る」

 

 舞台袖で観客の様子を確認した俺は思わず唸り、感じ入るものがあった。いや、マジでアイドルファンって怖いよ?彼らと最前線で対峙してきた俺が保証する。仕事の付き添いで彼氏扱いされて背後から刺された回数は十回を超えた所から数えていないくらいだ。……良く生きてるな、俺。

 

「まぁ、そんな日々もこれで最期となると少しは寂しくもなるか……?」

 

 休憩椅子に深く座りこんで、俺は天を仰ぎながらぼやく。

 

 仮名に伴部P、とでも名乗って置こうか。お世辞にも裕福とは言えぬ一般的扶桑国市民として生まれ、何の間違いか大手アイドルプロダクションに入社、そしてこれまた色々深い理由があって複数のアイドルを掛け持ちでプロデュースする事になった俺は、他に仕事を並行して、このライブまで多忙な毎日を繰り広げていた。繰り広げさせられていた。

 

「糞上司共め、最後だからって面倒事を押し付けくれやがって……!!」

 

 何か思い出すとイラッて来た。サビ残とかってマジですか!!?

 

 ……まぁ、それももうすぐ終わる。

 

 ライブが始まれば、アイドル達の仕事。そしてこれきり。裏方の最後の仕事は終いだ。後は特等席で己の仕事の出来映えを観賞させて貰うとするさ。

 

「あら伴部。そんなところにいてオサボリかしら?」

「……葵さん、ここではプロデューサーと言ってください」

 

 いつの間にか背後を取られた相手に、俺は先程までとは打って変わって社交辞令の言葉遣いで応対する。

 

 当然だろう。鬼月葵、O229プロダクションの所属アイドルにして、そのグループの御令嬢……彼女に汚い口を利くわけにはいかない。それこそ、天才子役時代に無理心中しようとしていたオッサンファンと取っ組み合いになった時に怒鳴り付けたくらいの事である。

 

(……いやはや、御立派になったものだよなぁ)

 

 振り向きながら、俺は長い付き合いのこの娘を見つめて、そして思う。幼い頃はただただ人を見下すための手段としてしか活動目的がなかった彼女が、何故未だにこの業界にいるのかが不思議だ。

 

 確かに外面はよく、本性の欠片も見せない猫被りな演技は完璧で、今も問題なくアイドル活動をしているが……全く、いつイメージが壊れて週刊誌に本性暴露されぬかと気が気ではなかったものだ。

 

「私が貴方をどう呼ぼうが勝手でしょう。他の牝共も自由に呼んでいるじゃない」

 

 ……今の言葉、記者に聴かれたら一発アウトだな。

 

「牝共って、同じプロダクションの仲間じゃないですか。言葉には気を付けてください。何人かは一緒に踊って、歌ってたりしてたでしょう?」

 

 何となしに周囲を窺いながら俺は彼女を宥める。因みに具体的なメンバーは豪商令嬢あざと可愛い金髪娘に白ロリ、ロリ妻とユニットを組んではずだ。……何とは言わぬが一人だけ色々突出する事で固定ファンをかっさらう卑劣な策略だな。

 

「確かに何人かはマシな子はいるけど、殆どは有象無象よ」

「有象無象……」

「それより貴方、聞いたわよ。このライブを機にプロデューサーを辞めるそうね」

「…………そうですか。いやまぁ、葵さんでしたら知っていても不思議ではありませんね」

 

 葵の問い掛けに、俺は応じる。別に隠していた訳ではなかったし、認めたとして動揺するような性格ではない事は知っていた。プロデューサーとアイドルの距離はその仕事柄もあって近い。下手すると近すぎて色恋沙汰や痴話喧嘩に発展する事もあるが……こいつならば、問題は無かろう。

 

「俺はこのライブが最後でこの業界から足を洗います」

 

 まるでヤクザから足を洗うかのような物言いで俺は答えた。

 

「……そう」

「あっさりとした返事ですね」

 

 大騒ぎする事はないだろうが、ここまで平常運転だと少しだけ傷ついた。いや、こいつからしたらプロデューサーなんて誰だろうとどうでも良いのかも知れんが。

 

「貴方が何をしようと貴方の勝手でしょう。職業選択の自由があるもの、好きにするといいわ。……流石にそろそろ一人で務めるのが厳しくなってきたのでしょう?」

「御理解が早くて恐縮です」

 

 正直、このままでは過労で死んでしまう。

 

 いや、なんで俺だけで二〇人近いのアイドルをプロデュースしないといけないの?このままでは体が壊れてしまう。

 

(いや、分かっている。俺の立場はゴミ箱だからな……)

 

 眼前の小娘を筆頭に、俺のプロデュースしたアイドルはどれもこれも実力は兎も角性格その他の分野が大問題の問題児だらけだった。数多くのプロデューサー達が匙を投げて、最終的に俺の元に流れ着いた。取り敢えず問題児はこいつに押し付けとけ?俺はバイオマス発電所じゃないんだけど?

 

(上手くどいつもこいつも売り込めはしたが……流石にこの人数は無理がある)

 

 擦りきれて擦りきれた。疲れて疲れて疲れきっていた。余りの疲労のせいか物を最近、よく無くす。着ていた衣類がいつの間にか無くなっていたことすらよくあるほどだ。きっと、出張の先々で置忘れが多いのだろう。

 

 正直、ブラックだったが金は十分に稼いだ。弟妹達も大学を出て就職している。最早何の問題もない。だから退社してやるのだ。セカンドライフである。隠居生活である。

 

 確かにある程度の足場を作ったこの業界に未練がないと言えば嘘になるが、……この仕事と引継ぎが終われば全てとおさらばだ。

 

「急な事で申し訳ありません。ですが、色々と覚悟の上で選んだ結論なんです。許して下さい」

「謝ることはないわ。私は貴方の意思を尊重するわ」

「葵さん…………」

 

 最初は糞我儘なお嬢様だと思っていたが、いつの間にか丸くなっていたようだった。彼女も成長したのだろう。世話を沢山焼かされた俺からすれば感涙物である。……せめてあと三年早くその境地に達して欲しかったものだ。

 

「だから、貴方も私の意思を尊重して頂戴ね」

「?は、はぁ……」

 

 直後の彼女の突然の言葉に、俺は良く分からずに曖昧に頷いていた。葵は、微笑んだ。嫌な予感がした。

 

「はい言質とったわ。……じゃあ、私も今日でアイドル辞めるから一緒に婚姻証持って行きましょう?」

「はい……………は?」

 

 とんでも発言に俺は思わず唖然としていた。

 

「聞き捨てならない言葉だな」

「雛さんッ!!!」

「ちッ」

 

 突如として扉が大きな音と共に開いた。現役アイドルにして同輩プロデューサー、そして葵の姉である鬼月雛が現れる。

 

 確か姉妹関係は最悪の筈だが……流石に未成年である妹に手を出すのを阻むためにやってきたのか?いや、違う。それは誤解だ。

 

「伴部Pは既に私と同棲している」

「悪い、リントの言葉はさっぱりなんだ」

 

 彼女の発言の意味が理解出来ず、俺は思わず突っ込んでいた。

 

「いくら三十路間近の行き遅れだからって、勝手に同棲を嘯くのは如何かと思いますよ。お姉さま?」

「妄言ではない。私は伴部Pと同棲している。こいつの家の天井裏でだ」

「何それ怖い」

 

 葵が急に真顔になって呟いた。俺も真顔になった。……おう、冗談だよな?

 

「……」

「……」

「おい、止めろ。お前ら逃げるな」

 

 周りのスタッフはそそくさとその場から隠行して去り行く。止めろ俺を見捨てるな。そんな屠殺場送りの豚を見る目を向けるな。

 

 ……もうそろそろ、ライブが始まる時間なのになんでこんなおぞましい話聴かないといけないの?

 

「ちょっと、何してるのさ!!」

 

 流石にここまで騒いでいたら、他の人間もやってきたではないか。

 

「二人共、いい加減にしてよ!!」

 

 登場したのはボーイッシュガールで明るく男女共に人気を得てる蛍夜環!よし、そのカリスマ性で二人の目を覚ましてくれ!!

 

「伴部くんは僕のお義父さんになるんだよ?」

『……』

 

 環の言葉で鬼月姉妹の温度が急激に冷えた。というか俺も冷えた。……お父さん?はい?何言ってんのこの子?おいおい、どうしたんだよ環。今のは冗談だよね?そうだよな?なんでドロドロの瞳でこっちを見てるんだ?確かに孤児院からスカウトしたのは俺だよ?父親代わりしてやるって言ったよ?けどね?そういう意味じゃないと思うんだよ?

 

「ちょっと、何を揉めて、ぎゃふん!」

 

 騒ぎを見て新たに現われたドジっ子ツンデレアイドル赤穂紫はコードに引っ掛かりこけた。というかコードに首が絡まって何か苦しんでる。……うん、あのくらいならば大丈夫そうだ。

 

 よくある事なので今は無視とする。

 

「環さん?冗談も時と場合を考えて……」

「あらあら。環さん。こんな所にいたの?もう、慌てん坊ねぇ?」

 

 俺が環に注意しようとすると環の背後から妖艶な美女が現れる。

 

 O229(オニツキ)プロダクション経営陣の一人にして、名プロデューサー、そしてかつては有名アイドルであり環にダンスや歌のレッスンも仕込んでいる鬼月胡蝶氏である。年齢詐称物の美容ケアによって三十台にしか見えぬその容貌は最早固有結界だ。胡蝶の部屋でもやってるの?

 

「胡蝶さん。貴女からも何とか言って下さい。環さんはこれから大事な時期なのに冗談では済まないようなふざけた話を……」

「うふふ。お父さんの所に先に向かっちゃうなんて本当に慌てん坊さんよねぇ?本当、仕方ない子」

「……」

 

 まるで本物の親子のように寄り添いあう胡蝶と環が眼前にいた。そして二人して此方をにこりと見る。まるで身内に向けて、父に向けて、夫に向けてのように……。

 

「これからは家族サービスして下さいね、貴方?」

「沢山遊ぼうね、お父さん!」

 

 取り敢えず俺はその場から全速力で立ち去った。これ以上ここに居たら危険だと本能が叫んでいた。職務放棄?知らんがな。

 

「きゃっ!?」

「うおっ!!?」

 

 背後から追いかけて来る駆け足に恐怖しながら俺は通路を走った。途中で十字路を曲がるとプロデュースしているアイドルの一人と鉢合わせする。

 

「佳世さん!?」

「伴部Pさん!!?っ……!!」

 

 お互いに驚愕、しかし即座に佳世は事態を察したのか俺の手首を掴む。そして、側にあったロッカーの中に俺を押し込んだ。そのまま己も押し入る。

 

「何を……!?」

「黙って下さい!!」

 

 俺の口を塞いで、佳世は低い声で命じる。その迫力に思わず俺は呼吸も忘れる。

 

 通り過ぎる足音。緊張。心臓の鼓動。沈黙。静寂……。

 

「……もう、大丈夫そうですね」

 

 どれ程時間が経ったか、佳世は漸く息を吐いた。ロッカーの中の緊張が解れる。

 

「佳世さん……」

「追われていたんですね?予想はしていました。伴部Pさんが退社するって話、聞いていましたから」

 

 どうやら、俺が辞めるという話は知らぬ間に広がっていたらしい。

 

「注意してくださいね?皆さん、意外と伴部Pさんの事、慕っているんですから。……問題児アイドル最後の希望なんです。吊り橋効果もあって結構重い人多いんですよ?」

「成る程……ううん?」

 

 納得仕掛けて、しかし途中でやはり俺は首を捻る。確かにプロデューサー達が半ば悪意含めて厄介者を俺に押し付けて、どうにか俺は彼女らを育て上げた。育て上げたというのは傲慢でも大成するまでのサポートは確かにした。しかし……うん。雛や胡蝶氏は関係なくない?

 

「細かい事はいいんですよ。この話自体ネタなんですから」

「えぇぇ……?」

 

 佳世の身も蓋ない台詞に俺はげんなりとするしかなかった。第四の壁越えようとするのは止めよう?

 

「しかし、困った。もうすぐ本番なのに……あの様だと到底会場には出れないな」

 

 特に環。なんか目のハイライトが消えていた。あんな姿で出たらアイドルとしてのキャラが壊れる。折角作り上げたイメージのぶち壊しは良くない。

 

「折角、最後の大仕事なのにな……」

 

 龍頭蛇尾というべきか、終わり良ければ全て良しとも言うが逆説的に言えば終わりが駄目ならば全ておじゃんなのだ。最後の瞬間に勝っていたのが勝者だって魔術師も言ってた。つまり、この状況は全くのナンセンスだった。

 

「どうしたものか……」

「うふふ。伴部Pさんも大変ですね?」

 

 心から悩む俺を見て、佳世は朗らかに笑う。ロッカーの中なので、密着して俺の胸元に顔を押し付けての忍び笑いだった。小悪魔的なあざとい愛らしさが売りの彼女である。その破壊力たるや相当なものだった。

 

(しかも、服装が……)

 

 露出は少なくとも、少しぴっちりしたドレス衣装。大人ぶった子供を思わせるそれは薄い生地である事もあって彼女の柔らかな身体の感触がダイレクトに感じ取れた。その、胸の膨らみの感触がした。腹の辺りに。

 

「その、何だ……そろそろロッカーから出ようか?」

 

 僅かに感じる己の下腹部の熱を思って、俺は提案する。間違いは兎も角、彼女に此方の生理的反応を気づかれたくはなかった。

 

「そうですね、そろそろ皆さん揃ったようですしね」

「……はい?」

 

 佳世の言葉に俺は間抜けに答えて、直後に無数の視線を感じ取ってぞわりと身体が震え上がる。そして見る。ロッカーの扉を。そして、認める。ロッカーの扉の隙間からの視線を。

 

 何人もの、此方を覗く自身がプロデュースしてきたアイドル達の光のない瞳を。

 

「ひゅっ!?」

「ふふふ。私が一番乗り。それとも、一番絞りでしょうかね?」

 

 思わず漏れた悲鳴。同時にがちり、と俺の身体を拘束するように捕らえる佳世だった。身体を密着させて、にちゃりと微笑んだ。

 

「アイドルとプロデューサーがコンサート前に淫らな行為、きっと週刊誌ですっぱ抜き……ああ、プロデューサーじゃないので問題ありませんね!!」

「問題大有りじゃ!!」

 

 俺の突っ込みは殆ど強がりだった。次の瞬間にはロッカーの扉が勢い良く開かれる。無数の腕が伸びる。俺のスーツを掴む。そして、そして、そして……!!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

「うおおっ!!?止めろっ、てぇ!?」

『おはよー』

 勢い良く寝床から飛び上がった俺はそのまま転げて頭を痛める。痛めると共に睡魔が一気に引いていく……。

 

「ここ、は……?」

『まいほーむ!』

 自宅であった。傍らを見る。毬が眠りこけていた。何なら何か馬鹿蜘蛛も籠から出ていて将棋盤の上で雑魚寝していた。外を見る。日が暮れていた。時刻は恐らく逢魔が時。

 

 卯月の一日の……逢魔が時。

 

「確か俺は……」

『私と一緒にお昼寝してたのよ?』

 休暇に毬の将棋の相手をしていて、疲れて一緒に昼寝をしていたのだったか?どうやら寝すぎたらしい。時節の影響か、お陰様で酷い夢であった。

 

「いや、ヤンデレは可笑しいだろ」

『やんでれらー』

 何だあの夢は。確かにこの世界の元ネタはヤンデレだらけのウキウキ物語であったのは間違いない。しかし先程のそれは余りにも……。

 

「あー、嫌な夢だったな」

『わたしもぷろでゅーすしてー?』

 頭に手をやって項垂れる。あれは怖い。マジで怖い。何人かキャラ崩壊していたし。

 

「……まぁ、取り敢えず」

「んんっ……」

『あとで虐めてやるー』

 漸く衝撃から復活した俺は、傍らで同じくうたた寝していた毬に毛布をかける。もう温かくなって来たものの風邪を引くのはやはり困る。

 

「お前は此方だ」

『(-_-)zzz(´Д`)パパノプロデュースデワタシハナンバーワンアイドルッ!』

「いや、お前もかよ」

『……』

 というか蜘蛛をどうやってアイドルに仕立てんの?パウルくん路線で行くの?預言者するの?兎も角籠に閉じ込める。

『私はたまちゃんみたいな愛され系よ?』

「はぁ、完全に目覚めたな。……孫六の奴でも手伝うかね?」

『ごっはーん!』

 肩を鳴らして俺は裏手で湯を沸かしているだろう孫六の元へと向かった。嫌な夢を見た後は、身体を動かして忘れるに限るのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

『……』

『……』

 

 無数の式神が背後から病みきった眼差しで盗撮している事に、相変わらず下人は知る由もなかった……。


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