和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件   作:鉄鋼怪人

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 ファンアートの紹介です。

 此方はXin.さんより、ヒロイン()集合イラストです。……断じて主人公連行じゃないよ?嘘じゃないよ?
https://www.pixiv.net/artworks/124604464

 此方はR-18注意。噗姆さんより第一一章一五五話場面白若丸です。多分本人は絶頂の幸せ状態です。
https://www.pixiv.net/artworks/124711769

 素晴らしいイラスト、誠に有り難う御座います!

 


第一八七話●

 逢見の屋敷の一室では香が満ちていた。甘過ぎる程甘い濃厚で、窒息してしまいそうなくらいに煙い薫りの暴力、脳を蕩かせる豊醇の世界……。

 

 蝋燭の灯のみが照らすそんな仄暗い室内にて蠢く影があった。悶え、喘ぎ、引き攣って、痙攣して、のた打ち回って絶叫する。狂乱恐慌……結界にて外に漏れぬ事なき故に行われる浅ましき恥態。内に籠りし師弟……。巫女と巫女。式使いと式使い。女と、肉壺だ。

 

 今の彼……彼女は最早人と言うべきではないだろう。薬と外科的切除により疎ましきものを排除して、大工事の果てに開通させてその性質を変換させたのは序の口に過ぎない。師の叡智によって、この元稚児は更に飛躍した。

 

 見掛けでは一切分かるまい。内の変貌は凄まじいの一言だ。不要な己の骨は痩せさせて、容赦なく削った。臓腑を異動させて、あるいは不要分は処理し、大事なものは伸ばして膨らませ、頑健とした。触感と食感も大切だ。感度を上げて、肉を溶けるように柔らかくして、旨味を醸造させている。摂取する薬膳は細心の注意を払っている。肉は雑味と雄臭を強めるので御法度だ。食は精進のための修行であり作業である。

 

 既に彼女は……かつて白若丸の名を冠した少年は、今となっては肉で出来た特大の吾妻形に等しい。あるいは生きた玩具穴とでもいうべきなのだろうか?何にせよ、目的のために研鑽して洗練させて変容させた肉体は本質的な意味で人体と呼ぶべきではなかった。呪具と呼ぶ方が適切だ。そして道具として十全にその目的を果たせる性能を持ち合わせていた。

 

 その華奢な身体は、しかし巨馬の鋼鉄の代物を根本まで完全に包み込む事が出来よう。のし掛かる巨躯による圧迫でも唯一強化された肋骨が生を繋ぐ内臓は守る故に死ぬ事はない。激しい抽撃の連続を何処までも受け止める事が出来よう。有象無象の百回分を一度に注がれようとも全て溜め込む事が出来るに違いない。締め付け、解き解し、絡まり、温め、甘やかす……その内の機構は文字通りに全てを受け止め盛大に持て成す事が出来るだろう。

 

 正しく傑作だ。師も弟子も仕上がりに大変満足していた。何処ぞの商家の小娘が掻き集める凡婦共とは訳が違う。あんな一山幾らの安物ではない。量より質である。最高の、使い捨ての玩具である。

 

 ……そうだ。これは使い捨ての玩具である。高級故に使い捨て玩具である。当たり前だ。ここまで上等に仕上げたのだ。人から逸脱した彼が、その尋常ならざる理性で以てしても何処まで堪えられるだろうか?一夜にして無惨な残骸が出来上がるのは想像に難しくない。一度きりの契りである。一夜の逢瀬である。百の交わりである。空前絶後の至上の悦楽により、永遠に彼の心に刻まれる傷痕……。

 

「そう。今の貴女の内は誰よりも甘いわ。誰よりも柔らかくて、誰よりもきめ細やかで、誰よりも芳醇で、誰よりも温かい……まさに傑作。最高傑作よ?」

 

 それこそ拘りの強く、尊大で、人を猿と蔑む神獣共すら目の色を変えるだろう出来上がり。何物も魅了する蠱惑の蜜壺……その入れ物を胡蝶は抱く。背後から指を搦めて、まるで蜘蛛が獲物を捕らえるように。

 

「甘い……おれ、が?おれ、なんか……がぁ?」

「えぇ。勿論ですとも。貴女は綺麗。綺麗な道具。彼に捧げても恥ずかしくない立派な玩具なの。彼の……希望なのよ?」

 

 師は耳元で艶かしく囁く。その妖しげに伸びる一方の腕は弟子の淫蕩なる紋の刻まれた肚を撫でる。今一方の腕が最も新しく清浄なる穴に触れる。愛撫して、解して、広げて……指を捩じ込む!

 

「あっ"、ひっ"、や"ぁ"ぁ……んっ!!?♡」

「あらあら。実に可愛い鳴き声な事。……感度が良くなってるわね。彼のおかげかしら?」

 

 以前の定期点検の時に比べて潤滑液の出が良くなっている。反応も良くなっている。火照りは早く、痙攣も激しい。肉も柔らかい。身体が快楽に順応している。考えられる可能性は一つのみ。

 

「暗摩ではあと一歩の所で御預けだったのでしょう?残念でしたわね?本当、残念……彼を苦しみから救えたかもしれないのに」

 

 弟子を優しく弄びながら、掻き乱しながらの黒蝶婦の何処までも悲しみを含んだ嘆息。それも当然であった。彼をその肉体の苦悩から永遠に救う機会を逸したのだから。悲劇である。惨劇である。

 

「……彼の身体に溜まる地母怪の因子は着実に彼に定着せんとしています。貴女のお役目は彼の身代わりとなる事。分かりますね?」

 

 胡蝶の冷たい甘言にうんうんと譫言のように頷く元稚児。今更言われずとも幾度も聞いて理解していた。百度は聞いた。それこそが彼女の存在価値である。穢れた稚児風情が大枚叩いて投資された意味である。

 

 言うなれば今の白若丸は汚水を濾過する濾過砂利であった。あるいは透析というべきか。雑巾というべきか。何にせよ、本質は変わらない。彼の穢れを肩替わりする。それこそが存在意義である。

 

 神すらも魅了する。即ち神の因子すら引き寄せる。彼の猛りを幾度も叩きつけられて、欲望と共に神の因子を搾り取る。蓄えて、吸い尽くす。そして彼を浄化する。……穢れを受け止めた肉触媒はどんな影響があるか知れぬ産業廃棄物なのでさっさと処分する予定だ。

 

 黒蝶婦による彼を救う救済の計画……その触媒。要。それが眼前の弟子。稚児巫女だ。

 

『清浄胎計画』と名付けたそれこそが知る限り最も安全性の高い彼を救う術であった。同志二人と結託して賛同を得たその計画推進責任者がこの御意見番である。歳の功から来る知恵による、自信に満ちた企みだ。

 

「貴女は計画の要です。貴女が何れだけ念入りに浄化出来るか。彼を夢中にさせられるかが肝要なのです。貴女が出来損なえば、彼の救済の道は細く険しくなります……」

 

 一応、同志たる商人の娘に予備の濾過装置を、その素質のありそうな肉穴を幾人か見繕うように要請している。弟子が浄化しきれなかった分をそれらを使って搾り取るためだ。勿論、予備の肉も使い潰した後は廃棄処理する必要がある。芽吹く事なき種は哀れだが、仕方ない。必要な犠牲である。

 

 ……小癪にもあの娘はそれを計画失敗時の予備計画にまで発展させて己の立場を高めようとしていた。彼が浄化されれば彼を楽しませるために、彼が浄化されなければ匿い、祀り、慰めるための神殿とするそうだ。実に商人らしい狡猾さである。彼に媚びを売って点数稼ぎをしようというのか。浅ましい。

 

「うん……おれ、がんばる……がんばる……こんどは、こんどこそはあにきを……あにきのために、……んっ♡」 

 

 きっと山での事を思い出して、目元を潤ませて宣言し、最後は激しく噴水して果てる弟子。すっかり快楽に溺れる今であるがしかし……胡蝶は知っている。あの日のそれはこれ以上だった。

 

 巨躯が己を組伏せた。数十の眼光が己の身体を視姦した。数十の腕が伸びて己の身体を触姦した。数百の蔓が己の身体を舐姦した。巨大な舌が口内を蹂躙して喉奥近くまで届いたものだ。己のあらゆる穴に這い寄った蔓達の愛を全力で受け止める。全身を甘噛みされた。首を締め付けられて、頭を掴まれた。頂きを舐めまわされて赤子のように吸い付かれた。弟子は全身が満たされて幸せの中にいた。何度も失神して目覚めていたのを観測している。

 

 ……だが最期の一押しが足りなかった。そして父のように、あるいは母の腹の中のような温もりに抱かれて、元稚児は己が役目を失念して甘えてしまった。内に迎えるよりも内に迎え入れられる事を優先してしまった。怠惰である。愚者である。背徳の背教である。罪人だ。そして、彼が天幕から去った後に余韻に耐えられずに致した乱行に比べたら、師のこの遊びは児戯である筈だった。

 

 にもかかわらずのこの溺れよう……彼の影響だろうか?耐性が出来る所か脆弱になっている?反応の良さを思えばあり得そうな話だ。彼も仕方ない人だ。潜在的に察してこのように仕向けたのだろうか?

 

「悪い娘」

「いぎゅ!?♡」

 

 倦怠してしなだれた弟子の肚を鈎が責めた。背骨が折れ曲がるのではないかと思える海老反りの痙攣。目を見開いて滝のような涙を流す。何にせよ、罪には罰をである。師の所業は当然だった。弟子は受け入れるしかない。

 

 例えそれが本質的に彼の影響だとしても、弟子を躾けぬ理由にはならぬ。寧ろ……利用してやろう。

 

「ふふふ。次の機会まで毎日特訓を致しましょうね?どんな快楽でも、どんな痛みでも、折れる事なく魅了し続けれるように。己の生まれた理由を果たせるように。為すべきを為せるように。ね?」

「ひゃい……おし、しょー……さまぁ、あ"、ぁ"、ぁ"!あ"!?あ"ぅ"!!?♡♡♡」

 

 残酷な宣告への途切れ途切れに紡がれる健気な返答。返答と共に痙攣して噴出し続ける。感度を上げる塗薬を未亡人は爪に塗っていた。効果は抜群だ。調合を命じられた時の薬師は胡乱な目をしていたが……まぁ、気にしない。

 

 ……出来るだけ心を砕いておかないと、これは呑ませられないから。

 

「口では幾らでも言えます。身を以て分からせてあげましょう。努力は必ず報われますよ?……前の穴だけでなくて残る穴も、良いですね?」

 

 その身の上故に、新しき清穴以外を毛嫌いしている弟子であったが、この機会に乗じて上も後ろも調教してやろうと胡蝶はオマケ感覚で考えていた。本来の計画よりもズレ込んでしまったのだ。吐き出すべき汚濁は当初の見積もり以上で、ならば穴の数もその分増やさねば。一穴だけでは壊れてしまったらどうにもならぬ。これは胡蝶の責任ではない。彼の責任である。弟子は無条件で受け入れなければならぬ。

 

 ……黒蝶婦に余念はない。このまま残る二穴も己と同じ味で拵えてやる。人に孵った彼は記憶に焼きついた極上の秘肉の味を追い求める。商人が用意した有象無象の牝では幾ら食らっても飢えは慰められぬ。弟子と同じ味付けの己以外は。

 

「美味しく美味しく、育ちましょうね?」

 

 性肉の餓えを満たすために、誰よりも己に執着して、己を求めて、己を組伏せて、己を責め立てて、己で何度も何度も果てる様を夢想して……悪辣な婦人は慈愛の眼差しで微笑んだのだ。

 

 妻と夫と娘とその妹弟……夢にまで見た温かな家庭を築くための踏み台向けて、何処までも優しい憐憫の微笑みを……。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 辺地六郡を三週間で回るのは北土においては容易な話ではあるまい。厳しい自然環境、舗装が不十分な街道、軍団による巡回は不足しているために妖や盗賊と遭遇する可能性は低いものではない。達成するとなればかなりの急行となるであろう。脱落者覚悟の無茶な行進となる筈だ。北土辺地であれば。

 

 四方の土と央土とでは辺地の単語すらもその意味合いが全く違う。これは差別ではない、差異である。十分な人手と予算、その必要性から街道は大半が平らに綺麗に整えられ、旅籠宿場町もまた充実している。軍団の迅速な展開のためであるが、俺達もまたその恩恵を存分に受ける事となった。他の土ならば倍近い日数を要しただろう。

 

 ……尤も、速過ぎる行軍には副作用もあるのだが。

 

「毬、身体の調子はどうだ?」

 

 蜜原邦串渚郡と矧弥郡の境界にある関所を兼ねた宿場町。その中でも特に一番豪勢な宿屋の一室にて俺は呼び掛けた。孫六に下ろされて座布団の上でちょこんと座り込む盲目の娘……。

 

「問題ありません。今日は……ここに泊まりを?」

「あぁ、そういう事になるな。郡境町で管轄も変わるからな。手続きやら出迎えやら色々と、な?」

 

 公言はされぬが推定で北土の辺境にて河童が再活性化している故に、更には国全土で妖被害が深刻化している故に、加えるならば恐らく俺と環の一行が行き先行く先で若干辛口の奏上文を出してる故に、色々と警戒されているのだろう。挨拶名目での郡司の代理官吏とこの先を管轄する退魔士家からの案内人が来るまで暫し足止めとなる予定であった。明日明後日には到着する筈であるが……。

 

「何にせよ、じっくりと腰を休められるのはいい事さ。ゆっくりとしておけ」

「ここの宿は飯の評判も良いそうですね。確か、良い塩鉱があるそうです。あと、鳥料理も評判だとか」

 

 凝った肩を鳴らしながらの俺の言に孫六が続く。耳敏い事だ。……焼鳥の塩だれとか旨そうだなぁ。

 

「それでは、久方ぶりに……御迷惑でなければ琴を、宜しいでしょうか?」

 

 移動に移動の連続故に、暫し毬のその琴の音の演奏を見ていなかった。どうやら本人も流石に長々と弾かぬとなれば腕が鈍ると思ったのだろう。練習を兼ねた演奏の琴弾を求める。

 

「構わないとも。勝手に聴いていても?」

「拙い音で良ければ、是非とも」

「よし。じゃあ決まりだな。孫六、後で酒と摘まみで一緒に聴くか?俺の上物くれてやるぞ」

「へへへ、喜んでお供致します!しかし……入鹿の姉御には言わんで良いのですか?後で何か言われるんでは?」

「酒も摘まみも全部持ってかれても良いのか?」

「がってん承知です!」

 

 やいのやいのとそんな事を言い合って、俺は寛ぐために佳世から贈られた舶来酒の瓶の一つをを取り出して、代わりに身につけていた重い各種装備を取り外していく。孫六はといえば肴を願うために宿の女中を探しに向かう。そして障子を開いて……控えていた老年の女将に思わず後退りした。

 

「うおっ!?な、何ですかい?」

「……鬼月家、家人扱様は何処に?」

 

 目をパチクリとさせて尋ねる孫六への返答は、老婆の重々しい一礼と皺嗄声だった。

 

「……俺だ。何用か?」

 

 俺は孫六を下がらせて正面に出る。俺の姿を一瞥して、僅かに眉を顰め……下人らしい面付き故だろう……取り繕うように女将は改めて一礼。そして答える。

 

「御客様で御座います。急ぎ、参上下さいませ。既に代表の姫様は出向かれておいでです」

 

 女将の意外な発言に、今度は俺が眉を顰めていた……。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

「まさか、御当主自らのお出迎えとは……御足労御掛けする事態、環姫共々大変恐縮の至りで御座います」

 

 旅籠で一番上等な客間にて、環の傍らに控えた俺は代弁する。誠心誠意、頭を下げて下手に出る。その必要が確かにあったからだ。

 

「いやいやいや。かの高名な鬼月家からの派遣団となれば、出迎えるのは寧ろ栄誉というものでしょう!そのような気遣いはされますな!」

 

 それは歳に似つかわしく厳かに、それでいて歳に似合わぬ溌剌とした声音の打てば鳴るような返答であった。其処には一欠片の影も嫌味もないように思えた。

 

「しかし……御期待頂けてました所、誠に申し訳御座いませんが、我らは彼の鬼月の血を引く者では御座いませぬ。鬼月に召し上げられた家人扱で御座います。到底当主様が足を運ぶような者ではありませぬ」

 

 俺がそのように明確に答えるのは眼前の人物の真意を探るためであった。頭を下げた状態で面の隙間から俺は相手を窺う。

 

 歳は外見では還暦を超えていそうな皺だらけで、しかしまだまだ逞しさを感じさせる肩幅の広い男だった。筋肉をひきつらせたような満面の笑みで以て、目を若干大きく広げて、「いやいやいや」と、首を横に振るう。何処か大袈裟にも思える振る舞いにも思えた。

 

 まぁ、前評判から思うと素の可能性も高いけども。

 

「謙遜されますな。鬼月に比べれば我が家の歴史は浅きもの……半分もありますまい。我ら一族郎党の腕なぞ鬼月から見れば児戯にも等しいでしょう。……家人であろうともそれは同様です。鬼月家の家人。聞いておりますぞ。中々の手練れ揃いであると。特に……」

 

 そして男は俺をじっくりと見やる。急ぎ故に礼服ではなく外着の仕事着そのままの出で立ちを。

 

「やはりでありますな。天狗羽の衣に、逸品の短刀を二本差し。それに……手車でしたかな?大蜘蛛の糸は聞く所によると鋼すら切り裂く代物であるとか?暗器も呪具も、取り揃え隠し持っておりますな?」

 

 男……央土退魔士家十薬一進は悠々と、悪びれる事も遠慮もなく指摘した。俺と環は一瞬硬直する。何なら環は此方をちらりと見やる。

 

「……急ぎの出向きでしたので。非礼を御許し下さいませ」

「いやいや!とんでもない!まさに常在戦場の心持ち、感服致しましたぞ!退魔の兵ならばこうでなければ!!」

 

 俺の繕った謝意を笑い飛ばすように、ははははと高笑いする十薬家当主。それは演技でも嫌味でもなく素であるように思われた。

 

 かつて退魔士家の中でも霊薬秘薬の技術で以て一勢力を誇った薬師寺家は、しかし最終的には救妖衆の暗躍に朝廷の方針等もあって最後は衰退し、断絶した。しかしながらその枝葉が全て潰えた訳ではない。寧ろ鬼月家に所属する家人家があるように、霊薬を取り扱うのに長けた故に分家は各方面に重宝されてその系譜は広く残存して受け継がれた。

 

 二百年の歴史を持つ十薬家は、薬師寺家傍流を起源とする正規の退魔士家だ。元々は別家の家人であったのが紆余曲折を経て独立した退魔士家に昇格したという。現当主はその四代目に当たる。そして……殺妖精神の強い人物である事で知られていた。

 

 央土の退魔士家が腑抜けの集団という訳ではない。実力者自体はいるし、並外れた術を扱う不可接触の家すらある。

 

 しかし、退魔士家らしく、己達の領地霊脈の維持管理を第一とする家が大半であるのも事実だった。そして央土は平穏の地である。中には陰陽寮に派遣している者以外は年数回下級妖を駆除するだけが実戦、という所もあるらしい。原作においては彼ら彼女らの事を「良く良く訓練された童貞の群れ」等と悪口を言った者すらいる。流石にそれは言い過ぎであるが何でもありの実戦慣れしていない者が多い事実は否めない。

 

 十薬家が異端なのは態々己の領地から一族郎党を連れて外征に行っている事だろう。一族郎党の大半が陰陽寮に所属して、あるいは公家やら武家やら豪商に雇われて、護衛やら助っ人として四方の土にて実戦経験を積んでいるという。中には海を越えた先での傭兵経験がある者もいるとか。これは原作知識ではない。家人扱となった事で得られた人脈からの情報である。

 

(そして、目の前のこの当主がそんな家を作り上げた張本人……か)

 

 齢八九歳。当主となったのが三〇歳の事らしい。御近所さんと似たような運営をしていた当時の十薬家をバリバリの半世紀掛けて武闘派に鍛え直したのがこの男なのだとか。おっかないおっかない……俺の身バレしたらぶち殺しに来そうだなぁ。

 

「家人扱殿。私の顔に何か付いていますかな?」

「っ!!?……いえ、事前にお話を聞いていたもので。流石十薬の勤皇士。お見事です。此方の視線を捉えられるとは」

 

 指摘に対して素直に俺は白状する。少なくともあからさまな嘘は見抜かれそうだ。嘘は、つかないでおく。

 

「はっはっはっはっ!いやいやお気になされるな。小生程度の名が知られているとは、寧ろお恥ずかしい限りの事です!……そちらは蛍夜郷より取り立てられた姫殿ですな?噂はかねがね聞いておりますぞ?」

「えっ!?あ、はい!?……噂、ですか?」

 

 環は突然話を振られて驚いて、そして噂と言われて困惑する。噂等と言われて嬉しい者はいまい。

 

「そうですとも!稗田郡での戦いぶりに宝落山の『迷い家』の討伐!詳細は知りませぬが関街においても御活躍をされたとか。いやはや、そのお歳で中々勇猛ですな。我が一族の若造共にも見習わせたいものです!!」

「は、はぁ……?」

 

 大声でのべた褒めに、その勢いに環は流されるように応答するしかなかった。色々と圧倒されていた。テンションについていけてないようだった。

 

(ある意味で面倒臭い事だな……)

 

 やる気のない者、ねちっこい者、媚びる者も面倒だがこの男のするように熱意持って気に入られるのも厄介だった。目を配られると色々とやりにくいものである。変に何か気取られたりしたら堪らない。俺も環も、厄ネタ持ちなのだから。

 

「おおっと。忘れておりました。此方は我が家からの粗品になります。どうぞ、お納め下さいませ!」

 

 俺の悩みに環の困惑を知ってか知らずか、話を進める十薬の当主殿。傍らに置いていた風呂敷を解き、漆塗の重箱が姿を現す。お高い箱の蓋を開帳する。

 

 そして差し出すのは……。

 

「……えっ、何これ?」

「何、といいましても……雀で御座いますが?」

「雀?」

「はい。雀です」

 

 環の問いに平然と応じる当主。環は引き攣った表情で重箱の中身を見る。敷き詰められた氷と共に納められたのは羽を毟って伸ばされた大量の雀肉(丸ごと三桁)である。一匹二匹ならば環も田舎育ちである。鶏やを絞められる姿くらい見ていようが雛鳥にも見えるそれが大量殺戮されている様は中々堪えるようであった。

 

「……因みにどうやって食べるの?」

「丸ごとですが?」

「丸ごと……」

「えぇ。丸ごと頭からですな」

「……」

 

 環がゆっくりと此方を見る。若干涙目で助け舟を求めてくる。

 

「……生肉ですね。足が早いと思われますが?」

「はい!ですので此度の夕餉に此方を献じ、直々に調理せんと思いまして!ははは、御心配なされるな!」

 

 俺の一応の質問に対しての当主の善意たっぷりの返答だった。環、残念だが逃げ場はないようだぞ?当主直々に振舞われる手料理から逃げるのはスゴイ・シツレイである。

 

 

 

 

 

 ……因みに雀素揚げの岩塩味付は普通に美味かったです。はい。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

「はぁ……疲れた」

 

 十薬家当主に旅籠街の街長、それに女将まで巻き込んでの接待兼酒宴兼夕餉を終えた俺の外で夜風に当たりながらのぼやきであった。環は今頃旅で疲れた身体を部屋で休ませている事だろう。

 

 唯の下人だった頃ならば今頃身内だけで飯食って、安酒でやいのやいのして、適当に花札やら双六やらで遊んでいいつの間にか寝込んでいた事だろう。……いや、一応輪番で警備はしているか?何にせよ、精神的には気楽ではあるが。

 

「何かを得るためには何かを捨てなければならない、か?上に行っても下に残っても労働は辛ぇな」

 

 肩を竦めて世の無常に嘆息。そして気を取り直して俺は見下ろす形で視線を街に向ける。

 

 ……真夜中の旅籠街は、しかし活気があった。央土の郡境にある事もあるのだろう。門こそ閉ざされているが柵の内の街を構成する大小百近い宿に長屋、露店は篝火に提灯で照らされてまだまだ人影が賑わい行き交っていた。

 

「贅沢な事だ」

 

 都に白奥、あるいは関街もであるが油に薪を大量に使ってまで夜の街中を光で満たすのは金が掛かる。それ以前に光が妖を呼び寄せる可能性もあった。俺の故郷ではあり得ない贅沢である。日没と共に寝て、日の出と共に目覚めるのが実家での常識で、故に眼前の情景は見慣れた今であってもやはり贅沢で散財しているように思えて仕方なかった。

 

 あるいは、光に満ちた賑わいに疎外感を感じるからか……。

 

「……」

 

 光から逃れるように、俺は宿の裏手に向かう。

 

 陰になってる故か、表側に比べてずっと暗く静まり返っていた宿の裏手。人の気配もない。人夫や女中共も仕事を終えて去ってしまったように思われた。俺は蔵や菜園、鶏舎と併設された其処に足を踏み入れる。

 

「何処に何処に……よしよし。お前だな?」

 

 栗毛だらけの厩の一角。周囲を退けて一角を占拠する一際大きな青毛馬を見出だした俺は、蹴り殺されぬように注意しながらそれに迫る。橘の令嬢様から頂いた舶来の専用の馬である。相棒だ。

 

「良い子には……してないか。相変わらずのやんちゃ坊主だな。えぇ?」

『ブルルルルルルッ!!』

 

 俺が鬣を掻いてやると青毛馬は此方を見て鼻を鳴らす。おらもっとやれ♡もっとやれ♡みたいな態度で奉仕を催促してくる。その態度から己がぐっすり出来る敷地を得るために周囲のお仲間を押し退けていたのだろう事は容易に想像出来た。こいつは自分が馬界の中でもデカくて強い方であるのを理解していた。

 

「暴れるな暴れるな。たく、仕方のない奴だな?」

 

 偉そうで尊大な態度は癪であるが大事な相棒なので其処は我慢する。背を撫でて宥めて、餌桶の中に積み重なる馬草を取り上げると態々手掴みで束を差し出して、食わせてやる。馬草の束を必死に貪る馬野郎。偶にこいつは神経質になるのでこうして直接飼い主が食わせてやらねばならなかった。妖との戦闘時でも待機に避難はしても彼方に逃げ散るような事はないのだが……変な所で繊細だった。

 

 ……そして、己が草を食わせる馬を見つめながら己の末路を重ね合わせる。

 

「馬、ね……」

 

 朧気な記憶を振り返り、他者から伝え聞く限り、己の人外の姿が馬の類いに近似している事を俺は把握していた。

 

 相棒は舶来故に俺の背丈よりも、扶桑馬よりずっと大柄な大馬である。しかし、俺が変貌した時のそれは間違いなくそれ以上だと思われた。しかも眼前のこいつのように馬草では満足はしまい。

 

(草で良かったら、事が終わったら山奥に隠屯してしまってもいいんだけどな)

 

 人を辞めてしまっても人肉を求めずに済むならば、最悪人の手の届かぬ何処かに閉じ籠り人知れず朽ち果てるのを待つのも手であった。実際は寧ろ夢中で求めるし、そもそも馬妖に近い状態ですらまだかなり状態が安定している方だという事だ。過去の事例を振り返れば、更に理性が沸騰したら肉の塊みたいになっている。

 

 ……もう何度も思っている事だが皮膚の下がどうなっているのか想像したくもない。自分が次第に自分の振りをしたナニカに置き換えられている感覚はおぞましい。そして、それで発狂していないのは多分正しく脳細胞が置換されていて、精神が侵食されている証拠だった。

 

 あぁ、駄目だ。麻薬依存症ではないが、気休めが欲しくなる。薬が、欲しくなる……。

 

「丸薬は、確か……」

「ほほぅ。これは珍しい。立派な馬ですな?しかし……人夫共ではなく御自分で世話するのですかな?」

「……」

 

 背後から皺嗄れたようで高く溌剌とした声が響く。俺は懐から印籠を取り出そうとしていたのを止めて、振り返る。其処にいたのは夕餉で散々接待し合った十薬の当主殿……。

 

「気難しい所がありますので。顔を覚えて貰わないと振り落とされてしまうのですよ」

「それはまた難儀な。しかし、やはり良き駿馬ですなぁ。お見事です」

 

 大股で当然のように迫り来て、マジマジと馬を見やる一進。飾り気のなく純粋な振る舞いもあって俺は行為を咎める機会を逸していた。

 

「……主家が橘商会より頂戴した内の一頭です。これだけ青毛でして。お陰様で私なぞの下郎でも貸付けて頂けました」

「嫌々、謙遜は止して下され。鬼月と言えば御意見番殿と隠行衆頭殿の噂も良く聞きます。あの御二方が色程度を理由に下郎に名馬を与えますまい。今の大成を思えば期待を掛けられていたと思うべきでは?」

「流石に買い被り過ぎかと思われますが」

 

 そう答える俺の内心ではやりにくさで辟易としていた。蔑まれるのは慣れてるが、目上にここまでヨイショされるのは稀な事過ぎて反応に困っていた。加えるならば薬を飲もうとした直前の事なのもあって俺は場を誤魔化し取り繕うのに若干動揺していた。頭が混乱していた。

 

「ふむ。……では、家人扱殿。先に御詫びを入れさせて頂きましょうぞ?」

「詫び?何に対して?」

「これです」

 

 ……だから、俺は次の行動への反応に遅れた。

 

「……はい?っ!!?」

 

 直後、俺は顔面を襲った直撃に後退っていた。正確には衝撃を認識した瞬間に一歩下がっていた。気休めである。面が弾けて飛んでいった。

 

「な、にを!!?」

「はぁ!」

「くっ!?」

 

 有無を言わせぬように手刀が振るわれる。急ぎ横から払い軌道を逸らす。重い!霊力強化している……!?

 

「はぁ!は!セイッ!!」

「御当主!?っ!このっ……!?」

 

 呼び掛けと問い掛けを無視して、十薬一進は残像が見えるのではないかという速さで拳を振るう。空を切る音と共に貫手を繰り出す。手刀で薙ぐ。裏拳を回す。肘打ち、平手打ち、掌打、搗ち上げ、張手……多種多様な流派を織り交ぜた打撃技の連続は、十薬家らしい我流且つ実戦重視した完成度の高いものであった。

 

「ぐっ、おっ……!?」

 

 俺は霊力強化した上で応じるが、防戦一方に追い込まれる。元々対人戦なぞ慮外である。人を外れつつある六感故に寸前で対応するがそれは綱渡りそのものであった。押し込まれ。押し込まれ、押し込まれ……。

 

「足下が留守ですな!」

「なめるな!」

 

 上半身に意識が集中していると予想しての当主の足技を、俺は対応して見せる。足払いを擦り抜けて回し蹴りを仕掛ける。あ、捕まった。

 

「せい!」

「うおゅ!?」

 

 ぐるりと足を回されて、俺は関節が折れぬように咄嗟に同じ向きに跳ねるようにして回転した。思わず変な声が出た。姿勢を即座に立て直す。迫撃は容赦ない。膝を突いたままでその場で拳を弾き、受け流す。眼球に喉、こめかみ、額、急所を容赦なく狙って来ていた。押し負けるのは、時間の問題であった。

 

「終わる、かぁ!!」

 

 俺もまた足払いを仕掛ける。当主はその場で跳躍して回避される。微かな時間に体勢を持ち直す。攻める。前に出て拳を振るう。空で動けぬ相手に攻めかかる。

 

「ならば!」

「痛あっ!?」

 

 空中に跳ねていた当主は拳に対して頭突きで応じた。何か手品があるのかあるいは単純な強化か。鉄のような額の一撃に寧ろ此方の拳が負けた。痛みに腕を引く。必死の攻防は一瞬で再度逆転する。当主は目の前で足を曲げて着地するとそのまま曲芸のような後ろ回りをしながら両足で俺の顎を砕きに掛かった。想定外の攻撃に俺は大回りで退く。隙が出来る。既に回り終えた当主は眼前で拳を構えていた。

 

「これにて止め……!」

「咥えちまえ!」

 

 十薬当主の明らかにこれまで以上に力を込めた手刀は、しかし俺の頭を叩き割る事はなかった。当主の手が止まる。否、止められる。

 

「ぬっ!?」

 

 当主の装束の袖をがっちりと飼馬は咥えこんでいた。何なら磨り潰すように唾液を垂らしながら歯軋りすらしていた。予想外の事態に当主は一瞬だけ唖然として、そして俺の反撃を許す。つまりは……!

 

「お礼参りって訳でぇ……!!」

「ぬおっ!おっ!?」

 

 腕一本と腕二本。勝敗は明らかであった。俺の殴打の連続を片腕で必死にいなすが均衡は十数える事もなく崩れ去る。押し込まれていく。両の目を狙った一撃を当主は捉えて掴み捕らえるがそれで手札を切り切った。今一方の拳が当主の喉元直前で止まる。このまま指を伸ばせば喉元を突く事が出来て……。

 

『そこまで!』

 

 当主の通るような宣言。硬直。沈黙。軽い言霊術。一瞬だけ身が固まり、攻勢の機を逸する……。

 

「……参りましたぞ。流石鬼月の家人扱殿ですな」

「いやいやいや……この状況でそれを言いますか?」

 

 僅かな硬直。その間に当主は一歩足を進めていた。何時でも金的出来る体勢で停止している事に向けての突っ込みであった。

 

 仮にこのまま行けば俺は彼の喉を指で貫き、あるいは爪で裂けるかも知れない。その代わりに大事な部分が破裂する事になるだろう。あそこを保護する板を仕込んでいるが、まぁここまでの組手を思えば余裕で貫通される事確実である。上手くいって相打ちである。しかも……彼は明らかに本気ではない。得物も術も殆ど使っていない。純粋な武術と身体強化のみしか見せていなかった。

 

「それは家人扱殿も同様でしょう?しかも此方は不意打ち込み、最後に言霊術まで使ってのこの惨状です。お恥ずかしい」

「此方も場外戦術を使ってますので……」

「ははは。良き馬ですな。調教が行き届いておられる!」

 

 いや、多分飯の邪魔されて怒ってるだけ……とは言う必要がないので口にはしなかった。

 

「改めて、失礼致しまつる。……件の家人扱殿の実力、是非ともこの目で見てみたいと思ったものでしてな」

 

 戦闘態勢を解いて礼を述べる十薬当主。俺もまた戦闘態勢を解いて、それに応える。……二歩、下がって金的の射程から逃れて。

 

「流石ですな。不意打ちを想定してのものですかな?」

「不意打ちはこの業界の基本でしょう?」

 

 袖を離した青毛の相棒を落ち着かせて馬草を改めて食わせながらの返事であった。ニンジャと違ってアンブッシュは挨拶前の一度きりなんてルールはない。相手が本気で殺すつもりだったら油断させて禁断のアンブッシュ二度打ちくらいあり得た。

 

「ふむ。やはり鬼月の認めし者。見事な心構えですな。感服致しました。……後程、謝罪を兼ねて礼物を贈らせて頂きましょう」

 

 此方の心持ちに甚く感心したような微笑みに俺は内心で酷く脱力してうんざりする。あー、経歴から読めてたがこの家はこういう系ねぇ。

 

(松重の爺さんとかと仲良く出来そうだな)

 

 面を回収して装着する。若干傷が刻まれてしまったのは諦める。今一度警戒。流石に大丈夫らしい。

 

「それには及びませぬ。私なぞに心遣いは無用です」

 

 本音は賠償金払えコラであるが呑み込む。何事もないように振る舞う。馬の元に向かって世話を再開しながら、そして代わりとばかりに要望する。

 

「……それよりも御願いが。自分は兎も角、環様に同じ行いは止めて頂いても?嫁入り前の姫様故、間違いがあってはいけませぬ」

 

 馬の頭を撫でながらの俺の言。卑劣が常に頭の中にある俺は兎も角、環が先程のような行動に何処まで対応出来るか怪しい。顔に傷が出来る可能性で以て先程のような乱暴な腕試しを拒絶する。

 

 ……将来的には必要かも知れんがこれは流石に荒療治に思える。もう少し段階踏ませて学ばせたいと考えるのは過保護なのだろうか?

 

「御安心下され。代表殿に対してはそのような真似はやりませぬ。その必要はありませぬからな」

 

 しかし、俺の心配を杞憂とばかりに力強く十薬家当主は首を横に振り否定する。それは何らの誤魔化しもない誠心誠意の真実であるように思われた。

 

「それは結構。しかし……ならば、何故?」

 

 何故俺だけ試したのか?下人上りだからであろうか?否、一見あり得そうな理由であるがここまでのこの男の振る舞いからしてそのような俗過ぎる理由であるとは考えにくかった。もっと別の、斜め上の理由があるように思われた。

 

「流石ですな。頭も悪くないご様子。重ね重ね、見事という他ない」

 

 面越しに俺の洞察、疑念を察したように当主は賑やかに頷く。腹立つくらいに大層機嫌良さそうに微笑む。そして提案してくる。

 

「実は願いがありましてな。その適性があるかどうかを見極めるために、非礼ながら先程は試させて頂いた次第。無礼を許されたい。……して、頼まれて下されるかな?」

「頼む、ですか?……何を?」

 

 俺の訝るような、それでいて無礼でもある返答にしかし、当主は尚も微笑む。そしてそれに答えるように「此方へ」と叫ぶ。

 

 直ぐに呼び掛けに応じるように影が二人。厩に足を踏み入れた。認識阻害の効果のあるのだろう外套を着こんだ一方は細身で、今一人は恵体であるように思われた。年齢は……若い、か?

 

「用意を」

 

 当主の命に頷いて、闖入者二人は壁際に立つ。此方に背を向けて、手摺を掴んで、腰を曲げた。外套の頭巾を脱ぐ。男だったら長く伸ばし過ぎているだろう美髪が垂れ下がる。一人は線が細く気怠げで、今一人は愛嬌ある童顔だった。そして……躊躇なく袴を脱いだ。

 

「へ?」

 

 唖然。そして此方が反応する前には最早丸出しの臀部を当然のように突き出して来ていた。何がとは言わぬが豪快に拡げた奥を並べて見せつける。

 

「では手始めに一発ずつ。安心為されよ、初物ですぞ?才も質も悪くありませんしな!」

 

 あっけらかんとした表情で、まるで今年の米の出来具合を語るかのような当主の言い種だった。爽やかな笑声。

 

 僅かに沈黙が厩の内を支配して……。

 

「いや、ちょっと待てよ」

 

 斜め下過ぎる猿展開に、俺は余りにも自然に語録を使っていた……。

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