和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件 作:鉄鋼怪人
続きましてファンアートのご紹介をさせて頂きます。
此方はXin.さんより、聖夜サンタコス雛姫です。いつの間にか布団の中に忍び込んでいそう……。
https://www.pixiv.net/artworks/125185019
此方は柵さんよりAIイラスト、毬ちゃんです。まさかこの娘が性知識皆無って訳じゃあないでしょう?
https://x.com/saku__shigarami/status/1869018198122938469
素晴らしいイラスト、誠にありがとうございます!
北土の名門退魔士家鬼月家本家直系には二人の娘がいる事は界隈では有名な話である。そしてそれに纏わる有象無象玉石混淆の噂に憶測もまた同様に知られている。
鬼月の二の姫についてはそれこそ前回の上洛に参加していた事もあって都人、貴人達の間では話題で持ちきりであった。両親共に名門の貴種である事は勿論、踊りに歌に書に華の道……全てが一流、教養に満ち溢れている。化け狐の騒動を解決した事で朝廷から報酬と官位を頂戴した事はより一層有名だ。橘の商会との結び付きが強く、その支援もあって動かせる金銭は膨大だとも。何よりもその美貌、和装に包んでも尚明瞭な豊満な身体付き……傲慢な所があるというがそれすらも愛嬌であろう。
血筋に身分、才能に富、美貌、名声……世間一般の評価では鬼月の二の姫は全てを持つ天に寵愛された娘であった。
女であれば羨まぬ者はいない。男なら欲せんとしない者はいまい。誰もが彼女のように成りたいと思い、誰もが彼女を御簾の内で組伏せ貪り、哭かせたいと望むだろう。それは当然の道理であると思われた。
……ではその長女たる一の姫は?実の所此方を知る者はそう多くはない。前回の上洛に参加してなかった事が大きい。長らく領地を含む北土に籠り任を果たしていたという。其処に尾びれはひれの付いた噂話が水面下で飛び交う。
曰く、賎しい妾腹から生まれた忌み姫である。
曰く、教養に疎く、野人の如き姫である。
曰く、故に婿になる者がおらぬ年増の行き遅れの女である。
曰く、妹よりも遥かに貧相で幽霊のような様相の姫君である。
それらは一の姫を貶める内容であった。妹に比べて劣る姉であるとする噂であった。鬼月の当主として不適格であると蔑むものであった。ある者は面白半分に、ある者は鬼月という家そのものに対する嫉妬で、あるいは二の姫の関心を惹こうとしてのもの、葵派の流言もあるかもしれない。
罵詈雑言が飛び交う一方で、彼女を讃える声もまた少なくない。
曰く、当主たる父より深く寵愛されている姫である。
曰く、質実剛健。退魔の才に優れた勤皇の刀士である。
曰く、烏濡羽色の髪が映える、凛々しく頼もしい麗人たる姫である。
曰く、当主のみならず、金庫番を兼ねる隠行衆頭の後ろ楯を得て、龍すらも従える正統後継者である。
特に先日の天狗の一件にて彼女と同行した家の者達は深く深く褒め称える。高慢で気分屋の妹と比べて己を律し、道理を弁え、勤皇のためには自己犠牲も厭わぬ凛々しく麗しく、それでいて勇も兼ね備えた魅事な姿に感心して感服したのだという。
その一の姫が、朝廷の式典に出席する。妹姫を差し置いて当主と共に参列する……これをどのように見るべきだろうか?如何にすれば鬼月の家と懇意となれる?あわよくばどちらかの姫君を妻として手に入れられる?あるいは当主の入婿としておこぼれに与れる?皆が関心を抱く……。
「……故に、今度の式典では貴女を皆が注目する事でしょう。貴女の器が量られて、貴女の底が量られて、貴女の価値が量られる筈です」
「はい」
場所は逢見の屋敷に設けられた道場。人払いした其処における舞踊衣装に着替えた鬼月菫と鬼月雛の会話であった。懇切丁寧に義理の娘に対してどのように見られているのかを継母は説明した。雛は淡々と黙々と、頷いて了解するのみであった。
「侮られてはいけません。しかし畏れられてもいけません。雅に麗しく、誠実に清廉に……少なくともそのように魅せる事が心掛けられます」
特に式に際して踊り歌いて帝を讃え、扶桑を讃え、霊脈の恵みを讃えて奉るのが彼女の役割だ。粗相は許されない……。
「……ですが不必要に気負う必要はありません。貴女は数多いる儀式の役方の一人に過ぎません。またその道の師でもありません。此度の式典はあくまでも朝廷の権威付けのための形式的なもの。粗相は許されませんが完璧も求められません。必要最低限の振る舞いさえこなせば、決して咎める者はおりません」
二の姫が異常なだけであり、教養は極めずとも基本さえこなせるのならば決して笑われる事はない。事実、昔菫自身も同じ儀式に参列した時も同様だった。刀狂いと噂された娘がどんな恐ろしいものかと怯えていた参列者達は大人しく古式に基づいた儀式に取り掛かる愛らしい幼姫の姿に心底安心して、夫人として義娘として迎え入れるか相談し合ったものだった。……次の日に外京で盗人をあっさり切り捨てたので無意味になったけれど。
「……何よりも、貴女の凛々しい美貌を以てすれば多少の脇の甘さ等細事でありましょう」
さて。僅かに鋭い冷たさを思わせる鬼月雛……眼前の娘の風貌を鑑賞して、当主夫人は評価する。感情の機微に乏しい所があるがその母親譲りの整った顔付きと麗しい黒髪もあって、それすら鬼月雛という娘の魅力に還元されているように思われた。
「特にその白衣は貴女の髪の色を一層映えさせるものです。ふふふ、良い質感ですね。これもまた異能の恩恵なのでしょうか?」
雛のなだらかで艶のある黒長髪を撫でる菫。光を反射して艶やかさすら抱かせる一の姫の髪。欠片の痛みも感じさせない髪の質感は日頃の手入れでは説明出来ない。
『滅却』……事象と概念すら否定するそれは鬼月雛の傷を癒すが、あるいは髪の傷みにも適用されているのかも知れなかった。性格故か、妹よりもずっと陽射しに当たる経験が多いにもかかわらず白過ぎる肌もそれが影響しているのだろうか?
「……失礼ですが、それ以上髪に触れるのは止めて頂いても?」
二度三度。四度五度……垂れる髪を幾度も掻き撫でる継母に向けた、実に淡々とした雛の言であった。嘆願でもお願いでもない。それは義務的な要請に近い印象を聞く者に思わせた。
「……あら。ご免なさいね?確かに粗相だったわ。許して頂戴?」
菫は不快感を、少なくとも表には出さずに応じた。求めに応じて手を退いた。
「髪は女の命。大切な宝。編む訳でも飾り付ける訳でもないのに不躾に触れるのは良くないですわね?それこそ……良人くらいのものかしら?」
微笑みながら菫は語る。光の薄い瞳が義理の娘を凝視する。優しげな微笑みには何処か形容しがたい圧迫感と恐ろしさを感じられた。尤も……夫人の垂れ目がちの瞳に映る雛の表情には欠片の怯えも動揺もなかったが。
当たり前の話であった。そして雛の思考は彼方にあった。己の髪は良人のもの?当然だろう?己の髪一本に至るまで、彼のものである事は自明で明白だ。
雛は覚えている。己の頭を幾度も撫でて褒めてくれた彼の事を。お願いして彼に髪を編んで髪飾りを付けて貰った事も。お風呂で彼に髪を洗って貰ったのは毎日の事だ。この髪にはとっくの前から彼の手が数え切れない程に触れているのだ。この美髪は彼に捧げるものだ。
そうだ。彼の所有物だ。毎日香を染み込ませたこの髪薫に彼の顔を抱き沈めて味わわせてあげるのだ。彼が背後から愛してくれるならば己のこの髪を手綱のように捧げよう。彼の逞しさにこの髪を絡め巻け捕らえ愛してあげるのだ。その愛の濁りに一本一本まで和えて沈めて染み込ませるのは義務だった。彼の愛を頭の天辺から受け止めてて、浸り切った様で悪戯っ子のように笑うのだ。鎮座する彼の愛を、優しくあやして啄むように口づけよう……それは決定事項である。理であり、道理である。彼とのあるべき日常である。
故に、眼前の女の語る言葉に何も感じはしない。空は青いと言われて動揺する者はいないだろう?
「稽古の続きを、宜しいでしょうか?」
だから実に淡々と、雛は話を流した。愛情も憎悪もない継母に向けて、ただただ必要な事だけを求めた。儀式に求められる所作舞踊、歌の指導……煩わしい事この上ないが、仕方ない。それが父の望みなのだから。
……まぁいい。彼と添い遂げた時にも使えよう。一晩中の畑仕事から帰って来た彼を労うのに使えよう。共に湯に浸り踊り狂い、歌い狂うのだ。彼の一日の疲れを癒してあげるための肴である。そう思えばこの下らない面倒事にもやる気が出てくるものだ。
「良い心掛けです。……それではこれより、一挙一動まで丁寧に指導致しましょう。貴女が相応しい姫と育つために、ね?」
何処か意味深くも思える継母の賛辞の言葉に、しかし雛は一切関心も疑問も抱く事はなかった。彼女の心中を占めるのはただただ愛する人への想いだけで、その前に立ち塞がる全ての事象はただ滅却する対象でしかない。例え、眼前の激情を秘めた継母が相手であってもそれは変わらない。何も恐ろしくない。
だって、雛は信じていたからだ。誰よりも近く、誰よりも心強く、誰よりも信頼出来る味方が、彼との己の純愛の恋路を支えてくれる事を。
心から、純粋無垢に疑わず……。
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森の深く、奥深くを進んでいく。最初の接触以来妖との接敵こそなかったが厭な気配だけは少しずつ、しかし着実に濃くなっていた。
「余り良い話ではないな」
下等な妖ならば人の気配を察した途端に全力疾走してしても可笑しくない筈で、しかしそんな素振りは欠片もないのは知性のある上位存在によって統制されている証拠であった。思えば、外縁で出会した連中はどれもこれも擬態をしていたのも怪しかった。斥候、哨戒役であったのかも知れない。選択肢を間違えたのだろうか?
「日が暮れて来ました。一端引き返す……というのは無理そうですね」
懐から方位磁石を見る。グルグルグルグルと愉快に爆転する針。次に周囲を見やる。異様なまでに画一的な深林な森林は最早自分達がどちらの方向から入っていったのかすら分からなくなってしまった。地図を見る。地形が食い違うように思えたのは何時からだろうか?二人に尋ねてみれば式の方も方位を見失ってしまったそうだ。
当初の予定では大昔に廃された駅跡地を目指す予定だったが、これは……。
「狐につままれたか、狸に化かされたか」
「これは下手に動かない方がいーですねぇ」
「ん。足下が悪い。夜の山林は危険」
嘆息する俺に向けて、同行する二人が意見を述べる。俺もそれに賛成すれば三人での野宿準備が始まる。
「お二人は焚き火の薪を集めて下さい。火打は自分が。……兵糧はある、か」
取り敢えず今日の夕餉はあるのを確認。二人が其処らで集めて来た枝木を以て火を焚いた。気付けば一寸先は闇のように周囲は黒く塗り潰されていた。間に合ったと思うべきだろう。焚き火が遅ければ真っ暗な中での作業だった。
「……飯にしましょうか」
「その後脱ぎましょーか?」
「戯れて用意しておきますか?」
「そうはならんやろ」
二人の同行者の言葉に淡々と突っ込んでから俺は湯を沸かす。鉄小鍋に水筒の水を注ぐ。味噌玉に干し飯を突っ込んで雑に茹でる。味噌粥飯である。七味を振りかけて三等分にして配る。
「んっ。良い香り」
「やっぱり疲れた時には味噌ですよねー?」
「さっさと食べてしまって下さい。夜明まで体力を温存しなければなりません」
「えっ?」
「えっ?」
「何処の文に対しての驚きなんですかね?」
この状況でも尚も下の事に余念がない使命感に、ある種感服しながら俺は味噌粥を啜る。うむ、塩味の強く滋養強壮のために薬草を良く混ぜた味噌は身体に沁み渡る。つかの間に幸せになれる。
「はふはふ。ふぅ……温まりますねぇ」
「ん、美味しい」
「それは結構な事で」
腐っても退魔士である。普段からそれなりに良い物を食ってるだろうから世辞である事は明らかであった。
「……」
山歩きで疲れているのだろうか?最初の内は会話を交えていた食事は、次第に無口に作業と化していた。どっと疲れが押し寄せて、眠気が襲って来る。眠気に抗わんとするがすればする程一層の眠気が襲う。
「ん、ん……」
箸が指の隙間から転がり落ちる音が響く。それを咎める者はいない。誰もが目を微睡ませていく。意識が遠退いていく。
項垂れる。吐息が静かに鳴り響く。焚き火の弾ける音……照らされる世界の外から魑魅魍魎が囲っていく。闇の中で無数の眼光が浮かび上がる。
……妖を生け捕らえる睡眠霊薬の原料として重宝される霊木がある。妖化品種改良したそれはある種の妖木と化して他の妖とある種の共生関係を見出だした。
葉から水気と共に蒸散する成分は人の睡魔を誘う。迷いに迷い疲れ果てた獣はその魔力に抗えない。深過ぎる眠りに落ちた獲物……耐性のある妖共は無防備と化した獲物を貪る。豪快に血飛沫を散らかして。
他妖によって殺された獲物の血を吸い取って成長する肉食植物妖怪……此度もまた哀れな犠牲者が増える。此度は何と霊力持ちの人間が三人も!内二人は柔らかそうな女の肉である。散々に弄び、弄びながら食らって、食らいながら犯して、絶叫の悲鳴の鳴り響く陰惨な宴会が始まる事になる。
涎を垂らした妖共はもう待ちきれない。誰と合図した訳でもなく、一斉に飛びかかる……!
「……小説で言えば、まぁそんな感じの描写になるのかね?」
『『『グオオゥ!!?』』』
狸寝入りから目覚めた俺が目撃したのは、見えない刃糸によってサイコロステーキになった怪物共の絶叫であった。
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……実の所、森に入ってかなり早い段階で三人揃って予感と予想はしていた。調査に向かった山森地帯は狭い訳ではないが広大な訳でもない。数十以上の下等妖怪を引き連れ支配出来る大妖なぞ百年二百年で成れるものでもない。何者かの作為が働いているのは明白だった。
元々薬師の一族を源流とするためか、薬学への知見があった案内役二人は森の木々の違和感に気付いていた。それとなく俺に合図して、三人で罠に嵌まりに行く。罠に嵌まった振りを装う。飯に眠気覚ましを混ぜ込んで、空寝をして油断を誘う。釣り上げる。逆撃の罠を張り巡らせる。
「いやぁ、切れ味凄いですねー?これが噂の蜘蛛妖怪の刃糸ですか!」
かやが細切れになって、あるいは中途半端に肉に深く切り込んで動けなくなってもがく化物共を見て感心する。年頃の娘の癖にスプラッタな惨状を見てのこの軽い態度は正に頭退魔士であった。
薪を集めさせる中で手袋を差し出して、共に馬鹿蜘蛛(前代)の刃糸を手渡した。鋭く細い糸を薪を集めながらワイヤートラッブ染みて巡らせた。その結果が眼前の惨状である。
「後続、来た」
はなが指摘する。同時に不可視の得物を振るっていた。蜘蛛糸トラップの合間を抜けて迫る妖を撲殺する。俺も、そしてかやもまたそれに倣った。槍で、そして弓で以て駆除していく。
『ギャウ!!?』
矢を受けた一際大柄な中妖の悲鳴。堪りかねたように生き残った怪物共は闇の中へと逃げ帰る。静寂が周囲に満ちていく……。
「仕留めたのは二十か其処らか……それも小妖ばかり、か」
推定中妖共も数体いたがそれらは後ろにいたので手負いにはしても仕留めてはいない。……仕留めないようにしていた。
「かや殿、首尾は?」
「万全ですよー?ほら、これ!」
かやが見せてくるのは方位磁石。方位磁石を模した呪具。典型的な探知呪具であった。同じ霊石から製鉄した鏃と針は引き寄せ合う。道を示す。道は開かれた。
「腹拵えは済みましたね?……では、一仕事と行きましょうか」
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『迷わし神』は昔は『袖捥ぎ様』共々退魔士家において良く使われている人造の路傍神である。いや、良く使われていた、というべきか。
十歳程の子供の木乃伊が原料として最適で、儀式と贄を以て降臨するそれの外見は笠に錫杖を手にした修行僧。修行僧の出で立ちの枯れ果てた木乃伊である。意識を誘導し、方向を誤らせる事で守護するべき一帯に侵入者を立ち入れさせぬ権能を有する。
禁術指定されて新規製造禁止が為されたのは百五十年は前の事。尤も北土で良く使われる『迷い家』同様に既存品は破壊せぬ事を許しているために探せば未だに領地や屋敷の防衛機構の一つとして稼働させている退魔士家は決して少なくないだろう。家が傾いた際に売りに出され豪商や公家が購入した事例すらあると聞く。見ただけで即座に咎める者はいない筈だ。
……そう。百五十年以上前の骨董品であるならば。
『……』
目玉のない眼孔で偽りの神は森を抜けて逃げ帰る妖共を見る。様相からして襲撃は失敗であった。即座に背後に控えさせていた本道式の大猿に逃げ帰った者共を殴り潰させた。
八つ当たりではない。逃げ帰ったのではない。逃げさせられた事を偽神に搭載された理論回路が判断したのだ。間違いなく追尾されていた。偽神の迷わせる力は標たるものがあると無意味と化す。大猿に応戦の態勢を取るように指示を出す。
「遅せぇよ」
括られた蜘蛛糸により大猿の首が切断される。偽神は眼球のない眼を見開き唖然として崩れ行く式の身体を見届ける。
天狗羽毛の外套……短期間に限り空を駆ける数多ある権能の一つを使い、着込む男は舞うように天を飛び越えて猿と偽神の背後に回った。手車の糸であっさりと待ち構えていた大妖を駆除してみせた。
『……!!』
状況を認識した『迷わし神』は反撃に出んとする。入力されている戦闘環境条件に当て嵌めて、手元の錫杖を掲げる。呪具であるそれは青白く光り……。
「の前にぃ、仕留めーる!!」
呑気な女の声音と共に視界が回転した。腹から下しかない木乃伊が崩れるのを目撃した。弓矢による一撃で胸元を射貫かれてそのまま上半身は爆発四散した。特に綺麗に千切れた頭部はまるで毬のように転がっていく。止まる。足で止められる。
「んっ」
女の漏れるような声と共にぐちゃりと偽神の意識は消失した……。
「これは……『迷わし神』、ですかね?」
天を見れば空はまだ明るく、四散した骸の正体ははっきりと見る事が出来た。どうやら結界の内では偽りの夜を見せられていたらしかった。日没が早いように思えたのは気のせいではなかったようだ。
「見る限り、比較的新しい。恐らく……百年は経てなさそうだ」
糸を手車に仕舞った俺は門番の残骸を観察して事実を述べる。つまりはこいつは違法製造品であるという事だ。加えるならば動きに感情らしきものがあり、簡単な判断能力すらあるように思われた。即ち……。
「改良された禁製品……妖を使役しての本道式。そして、駅ですか」
正面を向く。駅があった。放棄されてかなりの年月は経ているであろうに綺麗に建てられた真新しい駅。
「言っておきますけどー、別に我が家の秘密の実験場とか研究所って訳じゃありませんよー?」
俺の心情を読んだようにかやが宣う。己の家の自己弁護を行う。
「其処は疑っていませんよ。恐らくモグリ辺りが流れて拠点としていた、という所でしょうか?」
彼女らの家がやっていたのであれば俺の指摘に対して調査を許すとは思えない。少なくとも時間稼ぎして証拠隠滅くらいするだろう。どの道、真相は直ぐに分かる。
「地面を探して下さい。隠し扉か何かがある筈です」
駅はって?いや、入る訳ないじゃん。あれどう考えても誘ってるもん。堂々と屹立するそれが見せ札の囮の罠であるのは狡猾な妖と相対する退魔士ならば即座に分かる事である。事実、案内人二人も一切疑問を持たずに俺の指示に従っていた。
……即座に三人で同じ判断出来た時点で俺も大概頭退魔士である。
「……?見つけた?」
爬行するように這いながら地面を探っていたはなが違和感に気付いた。膝立ちになると短刀も使って地面を払っていく。土塊と砂を排除して、そしてそれが現れる。埋没式の、持ち手のない鉄製の地下扉……。
「……どうしますか?」
「先行する」
「あ、やっぱり」
俺の確認の言葉へのはなのズレた回答。引き返すという選択肢はないらしい。いや、それも彼女達からすれば道理であろう……。
「式を偵察に送りましょう。自分が扉を開きます。式の投入ははな殿が、かや殿は周辺警戒を」
俺は指示と共に扉の隙間に折り畳み式の円匙を突き立てる。捩じ込むように刃を詰めて、梃子の原理で浮かせていく。重いが……いける!
「よし……!!」
浮かんだ扉の端を掴み、身体強化した腕力で一気に持ち上げる。冷えて黴臭い空気が立ち込めた。こいつは……。
「……いけ」
はなが式を放つ。小鳥を模した式が暗闇の中に消えていく。視界を共有したはなは瞼を閉じて沈黙する。俺は広がる闇の中を睨み続ける。必要ならば即座に扉を封印出来るように用意する。
……沈黙の中で刻が経過する。
「……?」
「どうかしましたか?」
何とも言えぬ困惑の表情を浮かべたはな。それに反応して俺が尋ねれば彼女はどういったものかと困り果てた視線を俺に向けた。
「……何を見ましたか?」
迷う彼女に配慮して、俺は質問の仕方を変える。そして漸くはなはそれに答える言葉を見出だす事が出来たように短い説明文を紡ぐのだった。それは……。
「いざ決戦!と思えば全くの拍子抜けですねぇー?」
地下の実験室におけるかやの呆れ果てた失望であった。俺達の眼前にあるのは木乃伊であった。正確に言えば木乃伊化した死体であった。
「検死結果は?」
「外傷なし。推定病死ないし毒死」
「毒死……実験でドジを踏んだかな?」
幾つかに区切られて重ねるようにして設けられた地下空間。地下研究室。禁術の類いに手を染めていたのだろう。あからさまにこれは禁じられてると思われる瓶詰標本が並んでいた。棚には禁書に観察記録らしきものが詰められていて、何等かの実験の最中らしい埃まみれの機材が机の上に広がる。そしてその足下に転がった瓶と木乃伊……それは本当に本当に拍子抜けな結末であった。覚悟決めていた分肩透かしである。
「あはは、毒って何それ?間抜け過ぎぃー!」
俺の脱力とは翻って、腹抱えて陽気に高笑いするのはかやの方である。薬師寺家の分派なだけありある程度薬学にも通じている十薬家の者からすれば実験中に毒で自爆するのは滑稽過ぎる話なのだろう。というか笑い過ぎて過呼吸で死にそうになっていた。無口な相棒に背中を叩かれて必死に息を整えている。俺は武士の情けのように視線を逸らす。改めて木乃伊を見る。
「一体何十年放置されていたのやら……カビカビだな」
黒く腐蝕してひび割れた皮膚。骨が浮き上がって水分は抜け切っているようにも思えた。顔の判別は大分難しいだろう。そも、もう知ってる者はお亡くなりしている可能性もあるし、正規退魔士家とは交流のない市井の出身の可能性もある。こいつが何処の仏様かは研究室の残留物やら所持品類に期待する他あるまい。
「まぁ、何はともあれ血を流さずに平和的に解決するのが最良というものです。これで一応の一件解決……あー、じゃあ無さそうですね」
兎も角も荒事にならずに済むと思っていた期待を捨てて、俺はその気配に振り向いた。得物の槍を構えた。傍らにいた二人も同様に、薄暗い研究室の奥の扉を見据える。
あからさまに南京錠されて封符を焼糞気味に貼りつけられて、鉄板製の閂三枚立てられた重々しい鉄扉……直後、それが凹んだ。
「っ!?」
相当厚いだろう鉄扉の、エゲツない凹み具合に思わずたじろぐ。地下に荒々しく反響する衝撃音。緊張が走る。はなが唾を呑む音が響いた。弓を強く引く音が鳴る。再び衝撃音。凹みが大きくなる。南京錠で繋がれた鎖が震える。
「……はな殿、扉の側面側に。かや殿、可能ならば頭を狙って下さい。距離を詰められたら扉から後ろの部屋に」
返答はない。そんな暇はない。二人は無言で了承した。俺が囮と壁になる。かやはひたすら弓を射て、お出まししてきた誰かさんが迫れば俺が足止めする。はなはその間に横合いか背後からアンブッシュするのだ。何等かの権能で全滅しないための分散の意味合いもある。
三度目の衝撃。幾重にも結ばれた鎖が一つ切れ落ちた。四度目の衝撃。更に二本落ちた。封符が数枚裂け落ちる。五度目に至っては閂が一つ外れた。
衝撃。衝撃。衝撃。凹む。凹む。凹む。鎖が落ちる。符が剥がれる。鉄扉に亀裂が走る。もう、限界だった。
「……!!」
十数える前に扉が粉砕されるのは確実で、俺は槍を一層強く握り締めた。何が出てきても、何が起きても、最後まで始末をつける。覚悟を決める。そして、激しい衝撃が連続で鳴り響いて……止まった。
「……?」
突如として訪れた異様な静寂。思わず困惑して弛緩して、しかし直ぐにそれがフラグだと理解して、即座に俺は「御約束」を理解すると駆け出していた。
「はな!伏せろぉ!!」
『ッッッッ!!』
怒声にはなはしゃがみこみ紙一重で生き永らえた。壁を貫き彼女の頭があった場所を何かが通り抜ける。問題は生き永らえ続ける事が出来るかであった。壁を突き抜けた何かはそのまま真下のはなに迫り……!!
「させるかぁ!!」
滑り込むように両者の間に文字通りに横槍を入れる。槍を潜り込ませてそれを払、う!?
「払え、ねぇ!?」
今更に触手のようなそれの造形を認識して、触れた槍が引っ付いたように離れない事に俺は焦燥する。というか、これは触手というよりも……。
「海星……いや、蛸足!?っ……!?」
絡まりついた蛸足のようなそれに触れてはならないと俺は直感で悟った。即座に槍を離す。蛸足が槍に巻き付いてバキバキとへし折って投げ捨てた。ひくひく吸盤が蠢く触手は……暫し探索する。そして此方向けて振るわれる!!
「っ!?」
はなを抱いて、床を転がって蛸足を回避。嫌な音に視線を向ける。見事に切り込みの入った石造りの床。俺とはなは即座に立ち上がって後退する。そして振り返ってその姿を目撃する。
衣蛸か。あるいは蛸入道だろうか?壁を突き破って出てきたそれは取り敢えず蛸が一番近い造形だった。正確には二足歩行の足と胸下までの身体に蛸が丸々くっついているような様相だった。滑る赤黒い肌。八本以上ありそうな蛸足が花弁のように広がる。その中央部にあるのはデタラメな生え方をした幾重もの牙である。粘液を垂らして白い吐息を漏らす。
はっきり言おう。尋常な光景ではない。少なくとも蛸焼きにしても美味しくはなさそうだ。
「な、何ですか、あれ!?蜘蛛!?」
「蛸だよ、蛸!!」
「蛸って何ですか!?」
「蛸知らないんですか!?」
お出ましになった怪物の姿に滅茶苦茶動揺するのがかやである。因みにはなも動揺していた。んな馬鹿な。スプラッタ見ても平気な癖にたかが蛸に……って。
「ここ内陸だからなぁ!!?」
叫ぶと共に鋭く飛んで来た蛸足を避けて、そして短刀にて切り払った。桜の短刀の方である。蛸の足は、余りにも綺麗に切り裂かれた。化物は驚きと痛みであろうか、引き下がって悶える。千切れた蛸足は床でグネグネとのたうち回る。
「弓を!!」
「っ!?了解!!」
此方の指示に直ぐに我に返ったかやが弓を引く。二度、三度、四度、五度。瞬く間の連続の射撃。蛸頭らしき部分に矢が突き刺さる。霊力で強化された剛力による強弓は、しかしそれでも弾力に富んだ蛸擬きの肉に浅く突き刺さるのみだった。
『ッッッッ!!』
満開の花弁のように足を部屋の隅に届く程打ち広げ、牙を振るわせながら大顎広げて蛸は咆哮する。取り敢えず激怒なのは分かった。そして恐らく次の行動は……。
「後ろの部屋に逃げろ!!」
俺達が踵返して駆け出すのと、蛸の突貫は同時だった。細い二本足に上半身から生える蛸足も使って爆走しながら迫って来る。名状しがたい奇声と共に口内から粘液を噴き出す。キモいキモい!!
「扉閉めろ!」
先に潜り込んだはなとかやに向けて叫ぶ。同時にスライディングして俺も入室。鉄板扉が閉まる。閉じると共にボコリと凹んで少し貫通した。蛸足の先端が覗き出る。
「しゃあ!!」
即座に足の先を切り落とした。はなに向けて手車を差し出す。はなは直ぐに意味を解した。
「囮になりまぁす!!」
弓矢を三本束ねて引きながらのかやの宣言。俺は応じて配置に就く。手車の糸を引き回す。扉が抉れて化物が隙間から顔を突っ込ませて来た。眼球が何処にあるのか分からないが明らかに直線上にいたかやを向いて咆哮する。
「卑猥な面で見ないで欲しいなぁ!!」
赤黒くビラビラとしたアギトから牙を剥き出す化物へ向けてのかやの罵倒だった。同時に放たれる強弓。空を切る音。突き刺さる。内側が外側より柔なのは道理である。
『ッッッッ!!!?』
三本中二本がくぱぁと豪快に広がっていた化物の口内を貫通した。蛸頭を振るって奇声の悲鳴が上がる。だがかやの矢には命を刈り取りそうな返しが付いていた。矢自体は折れても鏃は寧ろ一層深く肉に食い込む。しかも、毒まで塗っていた。
「あはは。……けど、効果は今一つ?」
十薬の家の毒である。自慢の猛毒だったのかも知れない。それが殆ど効果が無さそうに思える怪物の暴れように若干傷ついたようにかやは苦笑い。それでもひたすら射続けて、矢玉尽きれば山刀を引き抜いて構える。
『ッッッッ!!』
そうしている内に蛸妖怪は軟体の身体を活かして鉄扉を潜り抜ける。そして前屈みに近い姿勢となって唸り、かやに向けて疾走した。……そして足を切断されて口から床に突っ込んだ。
「ザマァ!!」
かやで意識を逸らし、はなと共に手車で糸を足下に張って息を殺しての禁断のワイヤートラップ二度打ちである。綺麗に切断された足々が何が起きたのか分からぬようにのたうつ。本体も同様に青い体液を噴き出しながら混乱しているようであった。必死に口周りの足で立ち上がろうとする。
「はな!」
「んっ!!」
其処に掛け声を掛ければ不可視の鈍器で以てはなが飛び掛かる。蛸頭を後頭部から撲殺するように叩きつければ漸く立ち上がろうとしていた蛸は再びずっこける。内部構造が蛸同様ならば内臓にかなりの衝撃が走った筈だった。
「止めはもう一丁……!!ぐっ!?」
手車で今度は頭を切り落としてやろうとするのを阻んだのは切断された蛸足だった。腕に巻き付いて締め上げて来る。解こうにも吸盤がきっちり貼り付いて来ていた。骨が折れそうな力が込められて思わず悲鳴が上がる。
「家人扱……!くっ!?」
蛸頭を何度も殴打していたはなが俺の異変に気付いて振り返る。隙であった。暴れる蛸の足が彼女を吹き飛ばす。口から泡を吐きながら生き絶え絶えの化物はかやを睨む。睨んだように口を向けた。
「あ、不味い?」
かやが嫌な予感に呟いた。足りない足で怪物が無理矢理の疾走をかまして来る。その速度、勢い、何よりも造形は見る者の足を竦めさせるに十分で、故にかやは迫り来る怪物相手に対応が遅れ……。
「此方に食らいつけぇ!!」
全力投球でばら蒔かれたそれに、怪物の意識は向かう。かやの傍らを通り抜けて床に散らばった粒を舐め回してしゃぶり尽くして貪る。
虫除けポロックこと、『身代舎利』を、その最上等品を手持ち分全てばら蒔いた効果は抜群だった。かやへの憎悪悪意敵意全てが霧散したように必死に床の銀舎利を喰らう怪物。おぞましさと滑稽さが入り交じった凄まじき光景であった。
「っ……!!?」
「かや殿!下がって!!」
俺は彼女の手を引いて無理矢理に下がらせる。化物が舎利を喰いきって振り向いたのは同じ瞬間で、無数の蛸足が俺を捕らえたのは瞬間的な事であった。
「うごっ、ぎっ!!?」
全身の骨から嫌な音がする。まだ、まだ折れてはない、がぁ……!!
「ははっ、だからそれは卑猥だろう……!!?」
眼前で広がる赤黒い穴。針のように鋭い牙の無造作な並び。舌なのだろうか蚯蚓のような触手が元気にピチピチ出てきた。沢山だ。
頭から、踊り食いするつもりだった。
「その前に!こいつからどうぞ……!!」
俺は拘束されつつある腕を動かして懐から必死にそれを取り出す。霊術で着火する。
「おら、ちと早めのクリスマスプレゼントだっ!!」
そして俺は頭からパックンしようとくぱぁと広がるアギト向けて、それを放り込む。真っ白な『身代舎利』を含んだ爆薬を詰め込んだ炮烙玉を、化物は本能的にゴックンした。
爆音と共に化物の腹が弾けた。肉片と粘液と青い汁が舞い散った。崩れ去る怪物。俺も巻き添えに。下敷きに。
「ひでぶっ!!?」
蛸の巨体の崩れ方が悪かったし、この手の怪物は致命傷を得ても手足が勝手に暴れているものだ。身体は痙攣する蛸足に掴まったままで、本体の骸がのし掛かって圧死しそうになっていた。
「今、助けます……!!」
「んっ!」
かやとはなが駆け出して駆け寄る。かやが下敷きの俺を引き摺り出して、はなが蛸足を殴打して引き剥がして俺を解放していく。酷く激しく抵抗する足を二人で叩きのめして引っ剥がす。俺を解放する。
「こほっ、こほっ……うぇっ!た、助かった!」
肺の圧迫の影響か咳き込みながら俺は謝意を示す。視線を向ければ二人が各々弓と不可視の武具を振り被って見下ろしていた。剣呑な視線で、殺意を込めて。
「……っ!!」
そしてそれが、得物が此方に向けて思い切り振り下ろされる。……横から迫っていた蛸足を払い除けて叩き潰すために。青い血飛沫が舞い散った。グタリ、と力尽きて蛸足共は鎮まり、静まり返る。
「はぁはぁ……もう、死んだか?」
「待って。確かめる」
俺の問い掛けにはなが蛸頭を何度も殴打する。反応はない。かやも其処らに散らばる蛸足を一つ一つ山刀で突き刺していきみっちりと確認作業を行う。周囲を見渡す。何も潜んでいるようには見えない。安全は間違いなく確保された。
まぁ。つまりはだ。
「終わったぁ……」
漸く気が抜けて俺はその場で脱力する。何だったら案内人二人も同様だ。
無論、本来ならば宜しくない油断。気の抜けようであるが、今はどうしてもそれが必要なように思われた。森に足を踏み入れて半日も経ていない筈なのに、どっと押し寄せた疲労は何処までも大きかった。
「あははは、お疲れ様ですぅ……」
「……ん。お疲れ様です」
背中合わせにして倒れ込む二人。油断しても死角はないのは流石十薬の退魔士なのだと真っ当に感心した。
「あぁ。お疲れ。……意外とギリギリでしたね。よもや三人でこれとは」
大妖を単独で駆除出来るのが正規退魔士の下限……というのは一つの目安である。今しがた駆除したのも精々上位大妖であろう。そう思えば三人でこの命懸けの泥試合というのは中々に問題であった。まぁ、二人の場合はビジュアルがデバフだったり俺の場合は下駄履いてたりも理由であろうが。
「ははっ。……帰ったら鍛練だな。こりゃあ」
己を鍛え直さねばならぬ。戦闘を終えた今から思えば振り返れば失敗した選択も少なくなかった。化物の力に頼る事が多くなって地力が落ちたのではなかろうか?情けない……。
「あははは。それは此方もですよぉ。此方の不始末が原因ですしぃ?この様だと多分帰ったら当主様に滅茶苦茶厳しくシゴかれちゃいますぅ」
「報告書では弁護しておきますよ」
「助かりまぁす!!」
かやが俺の言葉に感激して感涙する。いやいやガチ泣きやんけ。どんだけ当主スパルタなんだよ。……スパルタの武闘派だったわ。無口なはなの方もウンウンと首をブンブンとさせて頷く。そこまでか。
「はぁ。助かったねぇ?……あ、そうだそうだ。そうだったぁ!」
俺の助け舟に心底安堵したように胸を撫で下ろすかやは、そして遅れて気がついたように振る舞う。疲れた身体でパッと立ち上がる。そして俺の前まで来るとクルリと回って……当然面で尻を突き出した。
「修羅場の後はムラムラしますよね!ここは一発出しちゃってスッキリしちゃいましょう!!」
「……」
舌ペロ出しウィンクしてのかやの明け透けなセールストークであった。遅れてはなも倣うようにして尻を突き出す。無表情のままでかやの振る舞いと口調を模倣して見せる。色気皆無である。尻が並んでいる。
……まぁ、うん。あれだ。
「折角の空気が台無しっすね。忌憚のない意見って奴っす」
本当に本当に、余韻が台無しだった。
……今年最後の投稿の末尾の情景か、これが?