和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件   作:鉄鋼怪人

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 新年明けましておめでとう御座います。

 此方、紹介が遅れましたが噗姆さんより聖夜佳世ちゃんです。これは健全、健全に違いない……(目逸らし)
https://www.pixiv.net/artworks/125665402

 素晴らしいイラスト有難う御座います!活動報告にて事前連絡しておりますが、カクヨム版にて短編も更新しておりますので宜しければ御覧下さいませ

 それでは、本年もどうぞ本作を宜しくお願い致します


第一九〇話 のるま達成!!●

 モグリ退魔士が密かに設けていた実験場、その探索を粗方終えた所で式を飛ばして事態を報告する。

 

 より入念な調査と各種機材素材等の回収のための十薬の派遣した引き継ぎ隊が来たのは一日後の事、それと交代する形で俺と案内人二人はその場を退いた。向かう先は十薬の領都。そして十薬家本家屋敷である。

 

 人口二千人程ながら霊脈の恩恵豊かな央土という事で相応に豊かな撫草村を抜けて、辿り着いた十薬の屋敷での歓迎ぶりはこれまで巡って来た他所の家での扱いを考えれば過剰にも思えるものだった。当主が態々屋敷の門前を出て来て家人扱に謝意を示して頭を下げるなぞ、仰天ものである。背後に控える者達がそれに八つ当たり気味の視線を此方に向けて来ないのも驚愕物であった。十薬家特有の文化なのだと思われた。極端な武闘派なのは伊達ではない。

 

 先に到着していた環と当主相手に子細を含めた正式な報告を口頭で以て行い、共に郡司や陰陽寮に向けた文を認めて印を押して、夜には大枚叩いたのだろう馳走が振る舞われた。それはこの任始まって以来一番豪勢な食事だった。

 

 旬の鱧の天婦羅はふっくらとしていて、山のような雲丹の身は濃厚な味わいだった。肥えた石鯛は丸々塩焼で。豪奢な海の幸は恐らく早馬を飛ばして急いで仕入れたのだろう。元の値に急行で仕入れたのだからかなりの額が必要だった筈だ。削氷に砂糖と果蜜を振りかけた甘味は夏場の贅沢である。

 

 質実剛健な十薬が華美な御馳走の山を用意する……それだけで先方がどれだけ誠意を見せているのかが分かろうものだ。地元の山の幸も盛り沢山。清酒もとっておきの上物である。至れり尽くせりの晩餐であった。

 

「ここまでして頂くと流石に恐縮ですが……」

「いやいや、そんな事はありませぬぞ?寧ろ感謝せねばなりますまい!家人扱殿には御家の恥の尻拭いをして貰ったものですからなぁ!!」

 

 当主の癖に上座から下座にまでやって来て、先程から傍らで褒め殺すかのように歓待する十薬一進。俺はと言えばこの当主相手にどのように接するべきなのか未だに答えを見出だせずにいた。下手に出過ぎても尊大になり過ぎても宜しくない……よな?

 

「屋敷に向かうまでの道程でも色々と調査をしていたとか?仕事熱心な事御苦労な事感服致します。……して、どうでしたかな?我が管轄域は?」

「やはり良く管理が行き届いていると思われます。妖の姿が全く見えない。今回のような事は例外と言えましょう。無論、これから数日掛けて未調査の地を巡回せねばなりませんが」

「家人扱殿が不審に思われた所があれば何時でもお声かけ下さいませ。必要ならば人を用意致しますし、我が家の図書も開きましょうぞ。どうぞ御遠慮は為されぬよう」

 

 案内兼お目付け役二人からの報告を聞いていたのだろう。此方の行動を把握してそのような提案をする当主。

 

(監視はしてるのに協力的なのは何処かあべこべ……でもないのか?)

 

 やって来た客人に手癖の悪い者もいるだろう。勝手に立場を利用して領内で乱行する者がいる可能性もある。逆に身内の粗相もあろう。問題が起きぬように、起きた時のための事後処理のために目付を付けて監視する事と、遣いの仕事に誠心誠意協力する事は決して矛盾はしない。寧ろ、その辺りは俺の方が感覚が可笑しくなっているのかも知れなかった。大家は足の引っ張り合い多いよマジでー。

 

「……」

「……どうか致しましたかな?何か懸念が?」

「うおっ!?」

 

 気付けば覗きこむように此方の顔……というか面……を見つめる当主に、その顔が近過ぎて思わず動揺して仰け反った。直ぐに俺は咳払いして態度を取り繕う。 

 

「いえ……良い酒ですね。もう酔いが回って来たようです。飲み過ぎは控えなければ」

「この職務は常在戦場ですからな。何時切った張ったするか分かりませぬ。酒に呑まれるのは確かに良くはない。……しかし其処は心配無用、ちゃんとこの屋敷の警備は手抜かりありませぬ。多少酔い潰れた所で忍び込んだ不届き者に寝首を掻かせるような真似は、この十薬の名を懸けて無き事を約束致しましょう!」

 

 自信満々に当主は答える。しかしこれで簡単に同意する事を、彼は望んではいまい。

 

「……では、身内が寝首を掻く可能性は残っているという訳ですね?」

「ははははっ!流石に油断ない!……宜しい。御約束致しましょう。この十薬一進の名に懸けて、家人扱殿の今宵の身の安全確約致しましょうぞ!」

「鬼月の一団の安全を、ですね」

 

 ちらりと十薬の家の者達と談笑しながら馳走になる環を一瞥した後、俺が冗談半分に其処を指摘するときょとんとする素振りすらなく、一層上機嫌に高笑いする当主様。どうやら彼の望んでた答えであったらしい。

 

「然り然り!御安心下さいませ。我が家には不届き者なぞ断じておりませぬ。……それとも、誓約が必要ですかな?」

「いいえ。単なる悪ふざけですから。……勤皇で知られる十薬家がよもや朝廷のお役目を果たす我らを害するなぞ、有り得ぬでしょう?」

 

 それこそ、厩での一件はお互い奥の手を温存した単なる挨拶代わりの手合わせに近い。……此方は結構ギリギリだった事は忘れる事にする。

 

「ははははっ!その様子でしたらまだまだ呑めそうですなぁ!さぁさぁ、御一献!」

 

 一歩間違えれば無礼と思える発言すら道理があれば豪快に肯定する当主の快活な一笑であった。そして蟠りなぞなく徳利を差し出して来るので、此方は御猪口で以て受ける。注がれた熱燗をぐいっと呑めば今度は横合いから杯を差し出される。湯気の立つ白みを帯びた水面ならぬ酒面には脂が浮き、そして骨が沈んでいる。

 

「鯛の骨酒です」

「これは香ばしい。有り難く頂き……って、かや殿、ですか?」

 

 塩味と旨味の芳ばしさにご機嫌に手を伸ばして、そして声音に聞き覚えを感じて見上げる。

 

 髪を整え姫君の正装姿でニコリと上品気に微笑む十薬の姫の姿。先程覗いた時に環と話していた十薬の者の中にその姿があったのを覚えている。しかしこれは……。

 

(馬子にも衣装、という訳か。何処かで見たような気はしたが……)

 

 この距離で声を聴いてやっと気付けた事に我ながら愕然とする。それだけ様変わりしていたのだ。因みに彼女の後ろでは料理を持って待ちかねるスレンダーな姫の姿も見えた。此方もやはり礼装と仕事着とでギャップがある。というかこれはもしや……。

 

「……当主殿?」

「何事でしょうかな?」

「流石に売り込みが過ぎるのでは?」

「はて。何の事やら。さっぱりですなぁ」

 

 狙いを見抜いての指摘にしらを切る当主の態度に嘆息する。取り敢えず杯は受け取っておいた。うん、美味しいな畜生め。

 

「はぁ。高く評価して頂けるのは嬉しいですが……余り賢明な選択肢ではありませんよ?」

 

 霊力の高い者、あるいは秀でた異能持ちならば誘惑して種を搾ろうってのも分かる。だが俺の場合は違う。主体は政治の陰謀の力学。其処に原作知識、道具、技能……後付けのあれやこれでどうにか成り上がった、あるいは位打ちされた身の上である。俺自身の血統には何の価値もない。種を狙っても徒労に過ぎない。

 

 ……妖母因子?あれは寧ろマイナス評価では?冷静に考えると他所の家の血統にあの因子遺伝させるとか最早テロ行為だろ。

 

「いやはや、お堅い御方だ。……ふむ。二人共、下がれ」

 

 俺の態度に何を思ったのか、肩を竦めて微笑んでからの淡々とした身内への命令。黙ったまま二人はその場からさっと引き下がる。因みに料理の方は置いていってくれた。おもてなしの精神っすね。いや待て。この鮑まだ生きてるけど?生き焼きされて切れ目に染み込む醤油で悶えてるけど?絶叫しながら逝ってそうなんだけど!?何かのたうち方が卑猥なんだけど!!?

 

「……報告についてですが、どうやら手心がありますな?」

 

 俺の内心の突っ込みを知ってた知らずか、それは二人が退いてからの宴会の喧騒に紛れるような当主の質問であった。俺は現実に帰還して応対する事を強いられる。

 

「……さて。何の事やら」

「先程は惚けた事は謝りまする。酒の席での戯れ故に御容赦頂きたい」

 

 取り繕いのために咄嗟に振る舞った意趣返しの台詞に対する、それは当主の即断即決の頭垂であった。それはルール禁止っすよね?頭が軽過ぎるだろ。

 

「卑怯な御方だ」

「それが我らの仕事に不可欠な要素。違いますかな?私の頭で済むならば安いものでありましょう?」

「流石武闘派ですね。……多少擁護があるのは否定しません。ですが状況が特殊だったのも事実。単純な失態と思わないで頂きたい」

 

 観念して自白するが、大事な一線については指摘する。最期の蛸相手の動揺を除けば二人の行動に決してあからさまな失敗はなかった。少なくとも厳しい罰が必要とは思えない。

 

「気持ちは分かりまする。ですが、この仕事は僅かな油断怠慢が死を招くものなれば。己が死ぬだけならばいざ知らず、己の失敗は回り回って一族郎党の、領民の、この国の崩壊にも繋がる可能性があるのです。決して感情によるものではないのは御理解頂きたい」

「そうでしょうとも。ですがなればこそ彼女らに責任を取らせるだけなのは誤りでは?任命したのは当主御自身の筈。それも、純粋な闘い以外の要因を交ぜて……違いますか?」

 

 俺に案内人を二人付けたのも、それが彼女達だったのも当主の判断である。案内人を三人にしていれば?あるいは別の者を選んでいれば?あるいはもっと安全に事を終えられたのではないか?それを俺は尊大にも指摘する。

 

 ……因みに、これを允職時代に言っていたら無礼打ちで殺されても文句は言えない。俺もデカい態度をするようになったものである。

 

「……ごもっともですな。確かにそれは己の判断の誤りでしょう」

 

 俺の指摘に、逆上する事なく当主は受け入れた。身分ではなく道理故に素直に認めたのだと信じたいが……果たして?

 

「では、二人については不問で?」

「流石に示しがつきませぬ。軽い処分は勘弁願いたいですな」

「本当に軽い事を願いたいものです。……いえ。本来ならばこのような事に首を突っ込むのは非礼ではありますが。何卒、ご無礼を」

 

 指摘すべき事、是正すべき事を為せば改めて謝罪する。礼儀は大事である。帳尻合わせである。

 

「いや、構いませぬ。以前にも申しましたが外からそのように指摘して頂けるのは大変助かりまする。他所の家の事情に利もなく首を突っ込む者は少ないですからな。容赦は無用ですぞ?」

 

 一進は其処まで語って己の杯に注いだ酒を呷る。摘まみの漬物をボリボリと噛み砕く。ウンウンと機嫌良さそうに頷く。其処にはやはり陰険な所は一切見られない。実にカラリとした態度だった。しかし、今の言葉は……。

 

「他所から、ですか。……あのような売り込みも、でしょうか?」

 

 売り込みというのは勿論、尻を突き出す娘二人についてである。俺が事前に各方から聞き込みする限り、あのような事があり得るなんて話は聞かなかった。まさか俺があんなサービス受ける第一号なんて事はないだろう。恐らく灰色のサービスとして接待された者は沈黙していたのだろう。

 

「ははは。早速容赦ありませんな?」

「御冗談はお止し下さい。下卑た話になりますが……自分程度にも宛がうという事は、同業者が訪問する際には常に?」

 

 苦味のある口調での俺の質問に、当主は不快な表情を見せる事はなく、首を静かに横に振るのみであった。

 

「見境なしと思われるのは心外ですな。一族の名誉に懸けてそれは否定させて頂きましょう。これでも勧める相手は吟味して選んでおりますぞ?」

「そのように言われましても……私なぞに二人も宛がわれた後ではどうにも信用するのは難しい話です」

 

 面の下に渋い表情を浮かべながら俺は焼き踊りを終えて絶えた鮑に箸を伸ばし、応じる。当主の言の通りならば尚更俺に二人も宛がわれる理由が分からなかった。何処がどうお眼鏡に叶ったのか納得が出来なかった。

 

「意趣返しではありませんがそれもまた他所から見えるものもある、という事ではありませぬかな?……ふむ。其処まで言われるならば私から二人に彼是言うのは止めましょう」

 

 すんなりと十薬当主の言。俺の遠回しに言わんとしていと要望を先読みして受け入れる。その素直さに俺は驚くが、それは次に来る提案のための前座に過ぎなかった。

 

「……如何かな?我が家に召し上がられるつもりはありませぬか?」

「それはまた急な、それも踏み込んだ話ですね?」

 

 内心かなり驚愕して、俺は箸を器の上に休ませると面を突き合わせて当主の提案に返答した。その突然の意図を訝る。

 

「……御言葉ですが、それが鬼月家に対する無礼だとは御理解しておりますか?」

「無論。それに提案するべき筋が違うのも理解しておりまする。本来ならば貴公ではなく所有者たる先方の当主殿に向けて要望するべきでありますからな」

 

 家人扱下人。家人の権利はあるもののそれは同時に下人である。そして家人だろうが下人だろうがどちちにしろ仕える家には忠を尽くす義務がある。しかも世間体では俺は賎しい身の上をヤンデレサイコファザーに引き立てられた大恩受ける立場である。常識的に考えた場合、例え身を粉にしてでも当主と鬼月に貢献するのが筋であった。他所の家に転職するなぞ特大の罰当たりであろう。……第三者から見たらの話である。

 

「ですが悪い話でもありますまい?……どうやら鬼月の家は内部で厄介な争いがあるそうですな?貴方が引き立てられた一因もそれであると聞きます。如何かな?火の粉が燃え上がる前に逃げるのも手ですぞ?」

「……」

 

 忍び囁くような当主の指摘に俺は無言となった。武闘派である事は政治に無理解な筋肉馬鹿という意味ではない。権力や金、政治力学ではなく純粋に妖殺優先という意味でしかないのだ。鬼月家に対する情報収集くらいはしているだろう事は分かっていたが……まさかここまで直球で提案するとは。

 

「完全な引き抜きは断るというのならば代案もありまするぞ?期限付きの師範、食客扱でも良いでしょう。当主には私から話をすれば良い」

 

 其処まで語り、当主は一旦酒を呷り、続ける。

 

「都は権謀渦巻く伏魔殿。上洛は御上の覚えめでたくし、顔繋ぎの機会。姫君二人共となれば次期当主の座を巡った暗躍暗闘は一層深まる事でしょう。鬼月の如き大家ならばそれはもう激しいでしょうなぁ。お立場を思えば、事が終わるまで一時避難するのも良いと愚考しますぞ?」

 

 そして善意たっぷりに彼は微笑むのだ。

 

「そちらに比べれば大分小所帯ですが故に実力主義かつ成り上がりも易いですからな。遣り甲斐はあるのでは?世俗の争いのために家人扱の身が危うくなるのは業界の、朝廷の、鬼月家にとっても長期的には損失でありましょう。如何かな?」

 

 それは、ある意味では黄金のように魅力的な提案であった。甘過ぎる誘いだった。俺でなければ乗る者もいただろう。俺も一瞬だけその誘惑に引かれる。全てを捨てて逃げ出す魅惑に惑わされる。しかし……。

 

「……嬉しい御提案ですね。しかし、やはり軽々しく乗って主家を捨てるのは世間体が悪い。慎んで、御断りさせて頂きたい」

 

 鬼月家の一員という立場を、少なくとも今の俺は手放すつもりは全くなかった。

 

 原作が終わり、妹達家族の無事を確信して、部下や孫六達の無事を確信して、そして無念を果たすまでは、俺は逃げる訳にはいかなかった。そして全てが終わった後には……だから俺は絶対に当主の提案に乗れなかった。例え、それが俺個人が少しでも長く生きるためには合理的であるとしても、それでは何の意味がなかった。

 

 それこそ、それが出来るならば俺はここにはいないだろうから……。

 

「……心変わりは人の世の常。何時でもお迎えの用意は整えておきますぞ?遠慮はなさらず、必要ならばお声を掛けて下され」

「御気持ちは有り難く受け取らせて頂きましょう」

 

 当主は可能性を繋ぐように語り、俺は形ばかり受け入れる。残念ながら全ての事が終わった時に自分が生きているのか知れぬし、生きていても人のままだと思うのは楽観的だった。人の理性が残っている可能性も同様に。

 

 ……まぁ、後者の場合は気難しい碧鬼様が綺麗さっぱりぶっ殺してくれるだろうから身内を襲ってしまう心配はしなくて良いだろう。ある意味気が楽だな。嫌なストッパーだ。

 

「はははは。さぁさぁ、これも食べて見て下され!我が家の料理人共の自慢の品でしてなぁ!これは薬草の……」

 

 俺の心中を何処まで察しているのかは知れぬ。ただ当主は此方の拒絶に不満を抱く事はなく、馳走を振る舞って行くのみであった。ここで意固地になるのは悪手と理解したのだろう。此方の警戒と悪印象を和らげるために歓待してくる。そして俺もまたそれを断り空気を悪くする理由もなかった。素直に酒と料理を頂いていく。

 

「……」

 

 ……そして、馳走になりながら頭の片隅では思うのだ。一体このような人として人の食物を食べていられる機会が、後何回残っているのかと。

 

「……旨いな」

 

 本当に本当に、旨い飯だった……。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 程好く酔いが回った頃合いに宴席は御開きとなった。心地好さに、しかし泥酔する事はない絶妙な機会に切り上げたのは流石十薬家と言えた。酔い過ぎていざという時に不覚を取らぬように彼ら彼女らは酒との付き合い方を弁えているようだった。足るを知るという事だ。

 

 女中の案内で縁側を進み俺は其処に辿り着く。十薬の屋敷にて俺が宛がわれた部屋は十薬家当主と顔合わせした際に宿泊した旅館のそれ以上の代物と言えた。俺が調査に出ている間に世話役の孫六と毬は既に荷解きを終えていたようで、部屋に足を踏み入れると共に二人して出迎えてくれた。

 

「お疲れ様です、旦那」

「お帰りなさいませ。伴部様」

「あぁ。只今……というべきなのかね?」

 

 自宅ではないが、こういう時はどう答えるべきなのだろうか、そんな下らない疑問はふと脳裏に過る。

 

「そっちはどうだった?俺がいない間、羽は伸ばせたか?」

「そんな事言わないでくだせぇ。此方は心底心配してましたんですぜ?」

「毎晩無事にお帰り下さる事、兄共々深く御祈り致しておりました」

 

 俺の冗談めかした質問への二人の返答は想定の範囲内のものだった。特に毬の方は本当に純で困ったものである。気を遣う相手がいないのだから楽にしておけば良いだろうに、この言い様だと適当に口にしている訳ではないのだろう。入鹿が前に同居していた頃、俺が不在の時には一刻二刻は平気で祈り続けていたと呆れ果てた口調で俺に教えてくれたものだ。

 

「やれやれ。自分達の時間なんだからもっと自由に使えばいいだろうに……おや、これは?」

 

 ふと、部屋の片隅に見つけた囲碁盤。途中で終わった盤面。しかし、この打ち手は……。

 

「誰か来ていたのか?」

 

 片方は間違いなく毬であろう。しかしもう一方の打ち手に覚えはなかった。盤を見れば分かる。少なくとも孫六ではない。入鹿でもなかろう。一体何者か?微かな警戒を、あるいは嫉妬に似た感情を込めて尋ねる。

 

「蛍夜にお仕えする鈴音様は知っておりますか?」

「あぁ。……まさか、彼女が?」

 

 毬から妹の仮名を聞いてその意外性に一瞬驚く。直ぐに平静を装って俺は確認をする。

 

「はい。琴の稽古を御手伝いしておりまして、帰りに少し遊んでおりました。……御不快でしたでしょうか?」

 

 最後の方は少し心配げに毬は尋ねる。気分を害したと思ったらしい。俺の口調から負の感情を読み取ったか?

 

「いや。そんな事はない。そうか、彼女が……毬の方は、大丈夫なのか?」

 

 妹と毬が仲を深めている事を咎める理由はなかった。しかし病弱な彼女の身を案ずる。特に妹の素はやんちゃ娘だ。少なくとも俺が知る昔のアイツは。故に無理をしてないかと心配する。

 

「其処まで根詰めたものではありませんから。それに楽しかったです。入鹿様とは気軽に会えなくなってしまいましたし……あ、それに稽古で謝礼も少し頂いているんです!」

 

 そして彼女は謝礼金を見せる。正式な師範のそれに指導されるのに比べれば安いが、決して小銭ではない金額であった。

 

「どうぞ、御納め下さいませ」

 

 実に慇懃に頭を下げて、毬は稼ぎを差し出した。まるで献上するかのような振る舞いに、困惑するのは俺だ。

 

「お前の稼ぎだろうに。好きに使ってくれていいんだぞ?」

「はい。ですので御納め致します。それが私の望みですので」

「俺は紐か」

 

 病弱な盲目娘の稼ぎを大の男がピンハネ……いやこれ多分全額だ。搾取を越えた搾取だ。遣り甲斐搾取所ではない。畜生の所業だ。人でなしだ。……俺まだ人かな?

 

(しかし、断っても心苦しいんだろうな……)

 

 一見暴挙、無知故の愚行に思える行いは、あるいは役に立って己の立場に安心したいのかも知れない。以前にも幾度かそういう事を語っていた。断るのは寧ろ心労に悪いのかも知れない。ならば……。

 

「そうだな。取り敢えずは貯蓄といくか?いざって時の備えは大事だしな?」

 

 俺は預金を落とし所とする。有事の備えという玉虫色の結論を出す。そういえば佳世がこの前金庫番事業するっていってたな。今だけ預け入れ金利優遇らしい。老後の資産形成しなきゃ。年金なんて期待しちゃ駄目!

 

「そうだな。風呂上がりに一局打とうか?俺がいない間にどれだけ強くなったか確かめてやろうて?」

 

 因みに確かめ方は何手目で投了させられるかである。最近は四十手超える前に詰む事が多い。

 

「はい!喜んでお相手させて頂きます!」

 

 俺の要求に、毬は純粋無垢に喜び応じた。瞳を閉じたままにぱぁっと花の咲くような屈託なき幼さを醸し出す笑顔。喜びにぴょんと少し身体が跳ねた故にたぷんと震えた物から慌てて視線を逸らす。傍らの娘の兄を見る。苦笑いで会釈された。良いのかお前は。兄貴としていいのか?

 

「あー、まぁ、兎も角も用意は頼む。さて、あとは俺の方……か?」

 

 屋敷の客人用浴場がどちらにあるのかは女中に部屋まで案内の時点で知っていた。其処は問題ではなかった。目先の問題があるとすればそれは……。

 

 

 

 

 

 

「家人扱様ー、流石に宴会で酔っていますでしょー?酔い醒まし持って来ましたのでぇ一、一丁朝まで甲斐甲斐しく御世話してあげますよー?」

「風呂場は足場危ない。……身体、洗います?」

「悪りぃな。俺もう上がるんすわ」

 

 怪しげな甘い匂いを醸し出す薬を手に突貫してきた全裸娘二人に向けて、正に入浴を超特急で終えた俺は勝ち誇った表情でそう言い捨てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 原作「闇夜の蛍」に限らず、風呂場はエロゲの定番である。「闇夜の蛍」においては特に入浴は態々選択肢として表示される際は危険を伴うものであった。

 

 鬼月綾香との混浴お姉ちゃんプレイ(健全)は数少ない清涼剤である。大抵が装備全解除ソフトスキン状態のために襲撃されるのが御約束であった。暗殺者の刃が床から股間貫通したり妖に食い殺されたり熊の襲撃で首がビリヤードされるのは、残念ながら序の口だ。

 

 ゴリラ様が突貫してきて逆レされるのは取り敢えず生麦酒というくらいにレギュラーだ。お風呂で頭洗ってあげていた白狐が覚醒して手足落として逆レされる。御意見番に薬飲まされて意識朦朧のまま手淫十連白濁ガチャされる。少し捻った所では都を一望出来る旅館の露天風呂で妖怪大洪水の最中白若丸と逃避染みた一心不乱の『真の愛』に溺れ、妖の咆哮と共に画面ブラックアウトのバッドエンドなんてパターンも。因みに赤穂の娘とは初初しく入浴して胸元を隠す布を退かせようとした所で首がスパンされて強制的にR-18Gルートに移行する。   

 

 無論、これはゲームでなくて現実で、TSのせいで原作ルートから根底から外れているし何よりも俺は主人公様ではない。しかしフラグは参考になるものだ。

 

 任務先の村や屋敷にて『稀人様』やら『種馬様』と呼ばれてモブ娘準モブ娘との一夜の過ちを犯すプチサービスイベントが度々用意されてたものだ。*1美麗エロスチルやレアアイテム入手、性力始め各種ステータス向上と引き替えにヒロインの好感度を下げ、あるいは病み度を上げる諸刃の刃である。特に『性力』は場合によってはルート分岐や選択肢の成功判定にも関係したものだ。*2 

 

 さて、そんな中に俺が置かれていた状況に類似のパターンは確かにあった。

 

 この場合とっとと風呂場から上がってしまう選択肢を選べばニアミス扱いでイベントは空振る。用意された湯を使わぬ選択肢は無礼故にないとしても、宴席の装束やら化粧やらの始末に時間が掛かるもの。故にとっとと身体を洗って直ぐに湯から上がってしまえば遣り過ごせると俺は判断した。

 

 そして、その結果がこれよ……!!

 

「家人扱殿!ここはどーぞぐいっと一発!抜くつもりでお情けを!」

「どうぞいっぱーつ」

「いや、だからちょっと待てよ」

 

 湯船の中に浸かる俺は眼前で張形やら潤滑剤、強壮剤を差し出し全裸土下座する娘ら二人と、それに以前尻突き出された時と同じ突っ込みを入れる俺であった。可笑しい。この作品は十八禁ではないのでここは場面転換して話の流れを有耶無耶に誤魔化すパターンではなかったか?というかこれは……余りにも酷い光景だ。

 

「あの……取り敢えず布を身体に巻いたらどうっすか?流石に冷えますよ?」

 

 文字通り一糸纏わぬ有り様の二人にそのように勧める。余りにも惨め過ぎる姿であった。ここは泡風呂屋ではない。おいそれとさっさと場面転換しろ。流石にこれ以上は誤魔化し切れない。

 

「布地用意してません!」

「ませんー」

「では取りに行ったらどうですか?」

「そして逃げるんですね!」

「逃げるなんて狡いぞー」

 

 提案の意図を即座に見抜かれて糾弾される。やはり分かるか。そりゃあそうだ。

 

(強行突破しても……いや、無理か)

 

 妖化するなら兎も角、通常の霊力強化した状態だと組伏せられるのは俺の方だろう。そも、下手に騒いで人が集まると色々尊厳を失うのは俺の方だった。少なくとも環や雪音辺りからの印象は愉快ではあるまい。アレな行為や描写を全てさらっと流せる場面転換技法はここまでダラダラと文が続いてしまっては最早文の調和を乱す故に使えまい。……酒の影響だろうか?俺は一体何を語っている?*3 

 

「……」

 

 酔いを祓うように首を振り、思案に暮れて、俺はグルグル周囲を見渡して、最終的にはもう一度そちらに視線を向ける。先程からずっと全裸土下座する二人に意識が向く理由に邪な感情が含まれていないと否定するつもりはないが、それだけが理由でもない。

 

(縫い目……傷痕に手術痕、か?)

 

 隠す装束の無い故に明瞭に晒される女子の身体は確かに白いが凝視すれば唯の柔肌ではない事が分かろう。退魔士故に傷を負うのは宿命だ。あるいは何か身体に呪術的な細工をしている可能性もある。綺麗に縫われて治療されているが確かに全身に刻まれた痕跡……。

 

「はな、視線を感じる!今凄い視られてる!吟味してる!」

「視姦が趣味ですか?」

「違うわ」

 

 真面目な観察行為を邪に解釈されるのを阻止すべく俺は即座に否定する。因みに心中は兎も角行為は変わらないので見苦しい言い訳にしか聞こえない。悔しか。

 

「あのっ!視姦するのは良いのですがっ!でしたらもう少し視やすく致しますよ?拡げたりとか?」

「いや、それはいい。……って、待て。おい止めろ!お前まさか!?」

「あははっ!そのまさかでーすっ!!」

 

 華麗なる土下座姿勢から丸出しになるのを承知でぱっと立ち上がる。即座に傍らの今一人もそれに続いて俺は背後を向く他なかった。直後にちゃぷんと湯に浸かる音が浴場に反響する。柔らかい感触が背中に接触する。結構大きめだった。首回りに手が回されるのを、俺は無抵抗で受け入れるしかなかった。

 

「……当主殿から売り込みはしないという約束でしたが?」

「はい!当主様からの命令ではありませーんっ!」

「自主的に活動……」

「成る程、嵌められましたか」

 

 積極的に売り込む命令はしない。単に娘共二人が自発的に嘆願しているだけ……そういう形式という訳だ。悪辣だ。流石退魔士汚い。

 

「いやいやいや!其処は信用して下さいですよー?真面目に当主様は何も知りませんよぉ!?」

「本当。マジ。真実は何時も一つ」

「っ……。口では幾らでも言えますからね」

 

 背後に抱き付いたままピョンピョン動いて軽い憤慨をするかやと此方の正面に回って来て身体と同じくらいに薄っぺらい自己弁護を語るはな。はなの身体が視界に入らぬように俺は視線を更に逸らす。糞、何なんだこのエロゲ染みたシチュは……ここエロゲ世界やんけ。

 

「……仮に」

 

 異常な状況、艶かしい吐息。甘い匂い。心中で煮えた滾る灯を誤魔化すように、俺は切り出した。一瞬言葉に詰まり、言葉を改めて吟味して、紡ぎ出す。

 

「仮に、当主の指示ではないとします。自主的にこのような行為をする意味は?私の如き成り上がりの立場相手に、それも数日程度の面識しかない男相手にとなれば……当主の指示でない以上、一層警戒するのは当然では?」

 

 美人局。それこそ個人的に貶めるために誘惑しているように思われても仕方ないだろう。関係の浅い若い娘二人揃って卑しい血統の男に身体を売りこんで来るなんて遊女でなければ有り得ぬ状況だ。当主命令でなければ尚更だ。

 

「……ちょっと警戒心高過ぎないですか?」

「勉強で教えられた内容と違うね……」

「寧ろこれでイケると思った理由は?」

 

 俺の反応に二人で大層困惑するので、俺もこの異常を忘れて釣られて困惑してしまう。寧ろこれで墜ちると思ったエビデンスは?何を参考にしたの?どんな教育されたの?

 

「艶本です!お薦めは非時香菓先生の『邪馬乱行贄牝神儀』です!」

「馬鈴草先生著、『貴姫剛槍釘打卑種受胎』……」

「まさかの返答!?」

 

 先人からの指導ならばいざ知らず、まさかのエロ本である。というか何その禍々しい題名は!?

 

「一杯勉強しましたよっ!!」

「再現出来るよう、道具で一杯練習した」

「無駄な努力過ぎる!」

 

 創作とリアルは区別して!エロ本のプレイは現実では無理なのばかりよ!?現実の牡の物は高性能じゃないよ!?

 

「というか、さらっと流そうとしてますが此方の質問に答えていませんよね?」

「にゃは、バレました?」

「うむ。意外と鋭い」 

「はな殿……結構酷い事言ってません?」

 

 此方の指摘にブリっ娘して誤魔化すかやと、淡々と罵倒に近い言葉を呟くはなである。此方を教養なき下人と思ってなめないで欲しかった。

 

「なめてはいませんよぉ!えーと、理由はですねぇ……」

 

 此方の面越しの冷たい視線に慌てて弁明するかや。そして首に回していた両手をモジモジと交えさせて何やら言葉を選ぶようにどもる。因みに結構形大きさの均整が取れたものが直に背中に擦り込まれるように当たっている。まるで蛇の這うかのような艶かしい感触に、理性を律して平静を努める。仏よ、我を救いたまえ。

 

「……貴方が帰ると、次の相手が来ます」

 

 かやのどもる姿に呆れたように、正面で湯に浸るはなが代わりに答えた。言いながら、すっと懐に入って来る。此方の足に乗り掛かり、正面から華奢な身体が密着する寸前まで迫れば目隠れしそうな眼差しで上目遣いを仕掛けて来る。誘惑、しかし……待て。今の発言、次といったか?

 

「次の相手、ですか。……それに、不満が?」

「あははは……そのぉ、はい」

 

 発言の意図を察して尋ねればかやが引き継ぐように応じた。バツの悪そうな苦笑いを漏らす。

 

「元々、私達はそういう人材生産のお役目もあって育てられてましてぇ……いや、まぁちゃんと衣食住が整っているのですから文句言うのは筋違いだとは思うんですけどぉ……其処はほら?少しでもマシな相手が良いじゃないですか?」

 

 誤魔化すように、照れるように、諦めるように、納得するように、納得させるように……かやは語る。

 

「何時か誰かってのは仕方ないですしぃ、どうせ色々相手にする事になるのはそうなんですけど……せめて一発目くらいは真っ当なのがいいんですよね?」

「卑しい下人出身が真っ当と?」

「比較対象が……うん」

 

 俺が怪訝に指摘すればげんなりとした表情で呟くはな。彼女のこれまでで一番感情の籠った表情であった。言い淀み二人で顔を合わせる。そこまで、なのか?

 

「それでこのような行為を?それを信じろと?」

「信じて欲しいなぁ、というのが切実な所でしてぇ……」

「序でにお情けが欲しい。本気で」

 

 俺の指摘、疑念に向けての二人の返答は文面の以上に切実な口調であった。滲み出るような苦渋を感じさせた。そして更に続ける。

 

「えっと……まぁ、こうして説明してるのは確かに同情して貰って種付けして貰ったら助かるってのはあるんですけど、別に個人的に家人扱殿が嫌って訳じゃあないんですよ?」

「助けられた。失敗を弁護して貰った。恩義がある。御礼」

「流石にそれで初物の身体を湯女扱いってのは安売りし過ぎだと思いますけどね」

「そうですか?」

「そう?」

「あ、うん……」

 

 二人の発言、反応に俺は価値観の違いを思い知らされる。あるいは、俺が純なだけなのだろうか?いやまぁ、仕事柄犯される可能性は常にある仕事である。遊郭に売られる事なんて辺境では珍しくない。夜鷹が二束三文で春を売るなんて良くある事である。妾もある。生まれた村は違うが土地によっては祭日に無礼講で緩くなる淫習がある所もあるとか……そも、史実においても過去に遡る程そちらの文化は案外乱れているものだ。先ずもってここエロゲ世界だし。

 

「……」

「……えっと、家人扱殿?」

「ん?えっと……?」

「お情け、貰える?」

 

 沈黙していた俺に呼びかける二人。窺うように顔を近付けて来る。期待するように、願うように、此方に視線を向けて来る……。

 

「……無理ですね」

 

 それは暫しの沈黙の後の、俺の拒絶の言葉であった。

 

「……了解しました。じゃあ、諦めます」

「うん。迷惑かけた」

 

 俺の言葉に、二人は素直に受け入れた。俺に密着していたかやは身体を離すとちゃぷんと湯に浸る。僅かに寂しくなった背中の感触。はなもまた湯中で此方の足に乗って来ていたのを退けて距離を取る。

 

「意外とあっさりとしてましたね?もっとごねるのを覚悟してましたが」

「騒ぎになると当主様に怒鳴られますしぃ。それに……」

「恩義がある。迷惑かけるの良くない」

 

 二人は湯に浸りながら脱力気味にあっさりと退いた理由を語る。それは何処か諦念したような態度であった。

 

「お言葉ですが、この行為自体がかなり迷惑では?」

「駄目元。自棄糞」

「そもそも普通は可愛い女の子二人にお種お願いされて拒絶されるなんて思わないじゃないですか!やっぱ男色趣味なんですか?鬼月には美麗な少年がいるっぽい話を聞きましたよ?まさかそうなんですか!?」

 

 何処か吹っ切れて礼の敷居が下がったような態度だった。完全に、ではないが幾分か先程よりは素に近いのだろう。

 

「そんな馬鹿な。……単純に段階を飛ばした関係に抵抗があるだけですよ。御二人共可愛らしくて魅力があるのは認めます」

 

 葵のような、あるいは毬のような特例ではないが二人共普通に美形と呼べる顔立ちであった。尤も、そのような役割がある故に交配やら呪術的干渉やらで調整されているのかも知れないが。

 

「……美しいじゃなくて可愛いって、馬鹿にしてます?」

「子供扱い?」

「まさか。……訂正しましょうか?」

「良いです!手遅れです!……可愛いと表現されたのは初めてですので少し困惑しましたけど」

 

 かやは拗ねたように見せて照れて見せる。あざとい。一体何処まで計算しての仕草なのやら……。

 

「加えるならば、立場上まだまだ金欠でしてね。家族を養える程じゃないんですよ。認知やら養育費やら考えると到底、ね?」

「認知……」

「養育費……」

 

 俺の若干冗談めいた理由を反芻して、遅れて二人は噴き出したように苦笑を漏らす。大層愉快げに腹を押さえる。

 

「流石に!この状況でそれ意識するのは艶本でも見ませんでした……!!」

「認知……!種付けで、養育費……!」

 

 俺の発言が其処まで琴線に触れたのか、本当に本当に笑い転げるように二人は身体を震わせる。

 

「寧ろ其処は艶本だからでは?……他所は兎も角、自分の場合は種付けして御仕舞いって割り切れるような性格ではないですよ。もしかしたら、生まれ故郷のせいかも知れませんね」

 

 餓鬼を無責任にポンポン生み過ぎたら冬は地獄である。その意味もあってか俺の生まれ育った村では私生児は本当に珍しかった気がする。死ぬのも想定しても精々夫婦で三人が限度だった。子作りの季節も決まっていたのかも知れない。弟妹達も、村の他の子供も例外あれどおおよそ生まれる月は似たようなものだった。俺以外。

 

 ……だからこそ、俺は自分を売る事に躊躇しなかったけな?

 

「……まぁ、そういう事です。納得して下さい。俺がそんな事したらそれはそれで鬼月との関係が拗れるでしょう?」

 

 俺は脳裏の暗い記憶。感情を押し退けるとそのように理由を締め括る。互いの上無視して生ませた他所様の餓鬼を認知して養育費払おうなんて絶対に面倒事になるだろう。

 

「はぁはぁ……まぁ、それなら仕方ないですねぇ?」

「ふぅ、ふぅ……確かに、お金大事」

 

 本音はどうかは知れぬ。しかし漸く堪え落ち着かせた笑いは本物で、二人は俺の言葉に表面上は納得する。そして、恐らく内心で自分達を待ち受ける運命を諦めていた。瞳の奥に微かに宿る暗い感情……。

 

「……」

 

 それを見つめ、ふと過る一つの案。其処までする義理は本来全くない。しかし……。

 

「……一つ、提案があります」

 

 決して二人に敵意悪意がある訳でもない。短いながらも共に戦った間柄である。酷い目にあって欲しい訳でも不幸になって欲しい訳でもない。だから俺は提案する。二人の視線が向いたのを確認して、俺は言葉を続ける。

 

「どういう訳か。自分はそちらの当主に気に入られているようですね?」

「みたいですねー」

「凄く優遇されてる。狡い」

 

 俺の確認の言葉に二人は完全肯定の完全合意する。後者からは若干の恨み節すら感じた。俺は場を誤魔化すような苦笑いで流して、そして本題に入る。

 

「何時でも客人として迎える用意はあるとの事。ならば……多少我が儘を言っても受け入れてくれるかも知れません」

「我が儘?何を?」

「っ!分かった!」

 

 俺の言わんとする事を先に察したのははなの方であった。相棒に耳打ちする。

 

「あぁ!成る程!予約!!」

「其処まであからさまな言い方はアレですが……」

 

 合点のいったように頷くかや。俺は明け透けな物言いに眉をへの字にして何とも言えぬ表情を浮かべる。しかし、意味合いは間違っていない。

 

 予約……つまり、将来的に自分が勧めを受け入れる際の待遇についての要求である。当主は物好きな事に此方の種を狙っているようだ。ならば此方にはその相手を指定する権利はある。それを利用するのだ。己の要望する相手を『新品』として取置きさせる。事前予約する……。

 

「物扱いは不愉快とは思いますが……これで一、二年程度ならば時間稼ぎは出来るかと」

 

 無限に引き延ばしは不可能で、そもそも己が破滅したら自動的に契約解除である。そしてそれは遠い話ではない。故にこれは単なる時間稼ぎに過ぎず……しかし、若い彼女達にとってはそれは砂金のように大切な時間に違いなかった。

 

「適当な所で契約自体は反古にします。自然消滅するかも知れませんね。其処から先は二人次第です。其処は理解して下さい」

「結局、ヤるつもりはない感じ?」

「先程言った通り、無責任に散らかして逃げるようなのは好みではありませんので」

「婿入りは?」

「勘弁して下さい。武闘派で老衰出来る自分なんて想像出来ません」

 

 というか、雑に植えた俺の種からどんな化物が生まれて来るか知れないし、二年先に己が人として生きているとも思っていないのだが……其処まで語る必要もない。俺のこの人皮の下の真相を知った途端、二人とも俺を害虫を見る目で蔑むのは想像するに易い。そういうものだ。知らぬが仏である。綺麗な思い出のままで終わろう。

 

「何か色々とそっちは面倒って聞いてますけど、物好きですねー?」

「人には各々飲み慣れた水があるものですよ」

 

 俺が一般論をいえば二人はそういうものか、と一応の理解の態度を示して互いを見やる。

 

「それじゃあ……御願いしても?」

「どうぞ御願いします」

「任されました」

 

 湯の中で全裸で此方に頭を下げる年頃の娘二人。冷静に考えれば異常事態であるが、ここに至っては最早何でもなかった。

 

「……それじゃあ、思い立ったら吉日ですね。交渉して来ましょう」

「っ!」

「!!?」

 

 そして大義名分を見出だして俺は立ち上がる。ぎょっとして硬直する二人を見て、訝り、直ぐに理由を理解する。

 

「いやいや、ここまでやっておいて一目見てそれですか。……やっぱり断って正解でしたね?」

 

 一目見ただけでこの生娘そのものの反応に、俺は肩を竦めて己の選択肢が正解だったと確信する。擦れていて割り切れているように見えて、やはり根は乙女だったのだろう。……意地悪くジロジロ見せるのも下品なので直ぐに隠して、俺は浴場から退出する事にする。俺は露出狂ではない。御目汚しはしない。

 

 ……いや、そもそもこいつらと混浴してるのが可笑しいってのは、何度も指摘してる話だけれど。

 

「それでは。……湯を上がるのは暫く経ってからにして下さい。続けて出る所を見られたら勘繰られますよ?床で土下座していたから身体も冷えてるでしょうし、もう少し浸っておくと良いでしょう」 

「はい」

「はい」

 

 退出直前の俺の要請に、二人は湯の中で機械染みて端的に返答する。おいおいおい、どんだけ乙女だったんだよ。男耐性皆無じゃねぇか。見せるのは出来ても見せられただけでこれとは……やっぱ艶本なんかでシミュレーションしてるようなのじゃあ駄目だな。

 

「……いや、良く考えれば見せてドヤ顔してる俺もアレなんだけどさ」

「いっそ、仁王立ちしてやれば良かったんじゃあないか?鼻先でブンブン振るってみてよ?俺の御立派な槍捌き魅せてヤるよってな?あぁ、特大の二連母衣捌きもかな?」

 

 身体を拭いて着替え終えて、予定よりの長風呂で火照る身体で屋敷の薄暗い廊下に出た俺の独り言に向けて、当然のようにそんなふざけた提案が為された。

 

「……」

 

 全てを予見していた俺は嘆息の後、ジト目で振り返る。姿形は暗くて分からない。しかし確かに何時もの奴がいる。隠行術である。鋭敏になった感覚でも未だに曖昧にしか分からないのが悔しい。

 

 まぁ、取り敢えず……。

 

「現れたな、愉快犯の碧鬼(ブルーオーク)。今回もその糞みてぇな地雷原抜けきったる」

「おいおいおい。相変わらず鬼の善意を無下にしてくれるたぁ酷いじゃないか?……まぁ、お前さんが簡単に流されて猿みたいに腰振るだけの男なら塵殺してるから均衡は取れてるんだけどな?」

 

 ずっと処するか監視していたであろう鬼との綱渡りで紙一重の笑いを装飾した命懸けの掛け合いであった。鬼は返答に笑う。俺は有り得た可能性に顔をしかめる。そして……怪物は怪物らしい悪辣な満面の笑みを見せつける。

 

「面白れー話があるんだ。まぁ、一丁聞いておくれや?」

 

 そして、蒼い鬼は此方の心中なんて欠片も気にせず一方的に嘯き始めるのだった。

 

 実に実に不愉快で不本意な話に、俺を巻き込んだ……。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 鬼と馬の愉快で不愉快な掛け合いが始まっていた頃、残された浴場は酷く静寂に包まれていた。

 

「……」

「……」

 

 家人扱の男が退出して広くなった湯船の中で、十薬の娘二人はただただ黙って湯に首元まで浸っている。それは現実を受け入れて、感覚を整えて、感情を落ち着かせて、姿勢を正すためであった。

 

「……ねぇ」

「なに?」

「凄かったね」

「……うん」

 

 一足先に態勢を立て直したかやの発言とはなの応答であった。最低限の短い会話。再び訪れる静寂……。

 

「……あれ、平時だと思う?」

「……多分」

「……平時だよね?」

「……恐らく」

「当然面してたけど、ヤバくない?」

「……破城槌」

「というか国崩?」

 

 現実を受け入れて、常識に照らし合わせて認識を擦り合わせる努力。彼女らの心はかつてない程に一つだった。

 

「……」

「……」

「……お湯、取り替えた方がいいよね?」

「……」

 

 かやの言葉に、はなは返事すらせずに頷くのみだった。

 

 立ち込める湯気から生臭いものが感じられる理由を知るのは、当事者達のみであった……。

*1
攻略サイトにて四四パターン確認済み

*2
尚、一度もイベント行わない場合難易度は自動的にルナティックとなる仕様

*3
『不要なくっきぃーは削除♪』




Q.主人公は何でナニの異常に気付かないのですか?
A.超高性能OS『YOUBO』有料版は個体の生存・繁殖上不要な特定疑問を自動選定・削除しストレスを軽減するサービスを提供致します。無料御t『無料御試し版もありますから、みなさんもどうぞ一度ご利用してみて下さいねー?』
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