和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件   作:鉄鋼怪人

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第一九六話

 ソレは読み取る。己を育む揺り籠の全てを取り入れて、生存に有用なる要素を解析して選別して行くために。

 

 ソレは脈打つ。柔らかく朧気な己の輪郭全体に毛細の血管を張り巡らせて行き、宿主から取り入れた因子を細胞一つ一つにまで反映させて行くために。

 

 ソレは蠢く。蠢く事で成長していく己のための空間を押し広げ、更にはその肉体を覚醒させて行くために。

 

 生暖かく赤黒く、何処までも暗い空間の内で、それは身を丸めて唸る。まるで赤子が愚図るように、唸りながら身体をのた打たせていく。己の身を育み、進化させていく。

 

 生誕の産声を上げるその刻は、もう間もなく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

「前方、三百歩程……随分とまぁ沢山お集まりな事だな?」

 

 先頭を進む入鹿が足を止めて冷笑するように宣った。後続も揃って足を止めると、次いで横に展開していく。

 

 彼ら彼女ら、鬼月家の派遣団一行は次の巡回先であった武甕家での任を、先方の本家に挨拶する事すらせずに放棄して引き返した。現地の武甕家の者が驚愕して必死に食い止めるのも無視してひたすら道を戻る。

 

 途上先方の下人衆が道を封鎖したのは入鹿が対応した。咆哮からの一撃で昏倒させて縛り捕らえた。実力行使である。流石に初手からこのような強硬策に打って出るとは思わなかったのだろう。完全なる不意打ちであり、一方的な戦いであった。

 

 武甕家はこの対応で完全に折れたように思われた。一族郎党の退魔士が差し向けられる気配はなく、何等の抵抗も受けずに一団は武甕家・十薬家の領境にまで辿り着いた。問題は、流石にここから先は容易には行かぬだろうという事である。 

 

「クンクン……退魔士が三人か?下人やら何やらが十名程度、それに式妖やら何やらがたんまりか。やる気が入ってるな?」

 

 鼻を鳴らして、風に流れて来る臭いから入鹿は潜んでいる者共の存在を認める。視線の先には複数の人影が見えるが、入鹿の嗅覚は実際には隠れている存在がその倍以上いる事を見抜いていた。

 

「入鹿……」

「どうする?強行突破するか?」

 

 背後から不安げに近寄って来る友人に向けて、振り向きながらの入鹿の提案。

 

 十薬家もよもや口上も述べずにいきなり突貫して来るとは思うまい。先手必勝で出鼻を挫くのは上策であった。……後先の犠牲を考えなけば。

 

「流石にそれは……」

「まぁ、だろうな」

 

 過激な提案に対する環の反応は、入鹿にとっては想定の範囲内であった。

 

 一団のほぼほぼ全員の記憶を操作して見せる呪い……入鹿の予想では、恐らくは食事に種があったのだろう。

 

 薬膳、医食同源とも言うように食と医と薬の結び付きは強い。実の所、入鹿の鋭敏な嗅覚は飯に含まれていた薬草類に当時から勘づいていたのだ。

 

 しかし、よもや正式な退魔士家が鬼月と朝廷に弓引くような大それた真似をし出かしてくれるとはその時は到底思わなかったし、そもそもそれら一つ一つの薬草自体は決して悪作用があるものではなかったのが……胃の中で積み重ね混ざり合う場合は果たしてどうか?十薬家の由来を思えば有り得ぬ話ではなかった。その面では何も言わなかった己は軽率であったと言えるかも知れない。

 

 尤も、その場合入鹿は兎も角としても盲目の虚弱な娘がどうして記憶を維持していたのかという疑問が生まれる訳であるが……しかし、そのような別の疑念が生じるとは言え、環達は自分達が記憶操作を食らった事実を否定し切る事が出来なかった。帳簿に残留物、業務担当の不在、欠落。それらは意識しようとすれば確かな不自然であり、同時にその認識は時間経過と共にまるで氷が融けるように薄らぎ、忘却していくのだ。正しく典型的な精神操作・記憶操作の症状である。

 

 ……よもや朝廷の命を受けた一団に対してそのような効能の飯を食わせる事が十薬家の持て成しの心という訳ではあるまい。環は膝詰めの友の説得と盲目の女中の懇願に折れた。確かに可笑しい。その感情が次の瞬間には霧散せんとしている状況は更に可笑しい。判然とせず、振り切れず、割り切れぬものの……最後には環は訴えを受け入れた。

 

 その結果がこれだ。領境まで無茶をして、無礼をして、強行して、そうして辿り着いた。……心中の疑念と不安にひたすら迷い続けながらの到着であった。

 

「入鹿、僕……」

「分かってるって。ここまで我が儘聞いてくれただけでも有難い話さ」

 

 ここまで来ても尚、環は己の選択を信じ切れずにいて、同行した鬼月に仕える者達も半信半疑で時には軽挙妄動を諌めんとして、それでも蝦夷の女を信じたのは友情故のものだった。環は責を取らされる覚悟をしていたし、其処までの覚悟で己を信じてくれた環に、入鹿もまたそれ以上強くは言えなかった。そもそも環を責めるのは筋違いだ。責めるべきは、御礼参りするべきは、別にいる。

 

「鬼月家の一団とお見受けする!既に武甕家より報せは受けている。如何なる用件でこのような無礼を働くのか?まだ遅くはない、直ちに引き返されよ!!」

 

 此方の存在を確認したのか、推定十薬家の者……出で立ちからして退魔士……が領境手前まで進み出て高らかに宣告する。警告でもあった。

 

「だってよ?」

「環殿、如何に?」

 

 入鹿は小馬鹿にするように、次いで派遣団に編入されていた隠行衆の長が各々呼び掛ける。隠行衆の班長・霧雨は直後に入鹿に非友好的な視線を向けていた。半妖の蝦夷の下人扱の罪人が大きな顔をする事への反発であった。視線だけで口を出さぬのは立場故の事であり、政治的な理由からである。ここまで来た以上は、下手に前に出るのは得策ではない。責任は環達に取って貰おうという腹積もりであった。

 

「……僕が出るよ。交渉して、道を退いて貰うさ」

「着いて行くぞ?護衛役だ。いいよな?」

 

 この期に及んでの穏当な意見に、入鹿は反発ではなく同行を要求した。環は頷いてそれを認める。派遣団全体には留まるように命じて、騎乗した環は徒の入鹿と共に前に進み出る。領境を越えぬようにして、相手方の白目が分かる所まで近付く。一拍深呼吸して、環は返答した。

 

「お出迎え、痛み入る。僕達は鬼月の派遣団だ。事前の連絡が無かった事は謝罪するよ。急ぎの用故に、道を譲って貰いたい」

 

 幾度も幾度も、事前に用意していた口上を思い出しながらの環の宣言であった。極度に緊張して内心で己の決断への自信を持ち切れなかった環の精一杯に紡いだ言葉は、幸い相手方はその動揺を見透かし切れぬようであった。

 

「……派遣団の長、家人で在らせられる蛍夜環殿ですな?その申し出、恐縮ですがこの場で受け入れる事は出来ませぬ。どうぞ理解して下さりますよう」

 

 環の発言に、先方は形式的に礼を述べながら拒絶する。これは当初の想定内の事であった。環は敢えて攻撃的な態度を取り、話を進める。

 

「何故か?此方は急ぎなのだけど?」

「ご明瞭な事をお聞きになりますな。ここから先は武甕家領にあらず、ましてや鬼月家領でもなし。我ら十薬家領故に。他家の領域を無断で土足で無許可で、ましてや我が物顔で踏み荒らすなぞ言語道断でありますぞ!これは朝廷より認められている権利なれば、それを侵すは帝の文机を叩くが如き所業である事を理解されよ!!」

 

 十薬の者は環に向けて、最初の宣言よりも更に高らかに。朝廷と帝の権威すらも掲げて環達の行動を糾弾する。ここまで強く指摘されてしまえば道理にも沿う事もあり、実際霧雨等は呻きながら苦虫を噛む。

 

 ……御上の権謀政争を意識する者達ならばどうしても躊躇する発言は、しかし計算違いもある。残念ながらこの場で矢面に立つ二人には退魔士界にどっぷり浸らぬ以上、然程の意味はない。

 

「全て承知の上さ。その上で敢えて要求するんだ。直ちに其処を退いて欲しい。領内への進出を認めて貰う」

「馬鹿な!一体何の権利があって!」

「退魔士としての義務として、朝廷より与えられた鬼月の家の権利と名誉を守るためさ!」

 

 十薬家の者の糾弾を、押し込めて跳ね返すかのように、強い怒気を纏いて環は語る。

 

「鬼月が臣従する家人扱下人、未だそちらの地にいると断じた!先の要望を受け入れぬならば、身柄を即座に引き渡して頂きたい!」

 

 環は大声で以て端的に要求を突きつける。其処には一切の妥協は許さぬという意志を滲ませていた。少なくともそのように見せていた。

 

「馬鹿な。何を以てそのように断じるか?何故領を退出する際に気付かなんだか!?我ら一族に要らぬ嫌疑を掛けるのか!!?言い掛かりなのかっ!?」

 

 応対する十薬の退魔士は本気で困惑しているように思われた。その余りにも明白な驚愕に、環は一瞬やはり自分達が思い違いをしているのかと疑う。

 

 環の迷いを見て、即座に傍らに控える入鹿が囁く。

 

「落ち着けって。捕まる可能性がある現場の連中に彼是全部教えてる訳ねぇさ」

「た、確かに……」

 

 知る必要がある者だけが知れば良い。十薬家が仮に黒であるとして、現場で出張る者を証拠たり得る機密を教える意味はない。寧ろ、知らせぬ方が欺瞞となり得る……環は虚勢を張って先方に反論する。

 

「それこそ、此方が問いたい話さ。それを確かめるために、そちらの地に足を踏み入れる必要があるのさ。此方に残る失踪者の残留物、武甕家領内では反応がなかった。ならば、そちらの結界の内ではどうか?確かめさせて貰いたい」

 

 領内の守護の一環として、退魔士家は自身の領内や領内拠点を結界で包む事が多々ある。流石に妖を遮断する程の結界を管轄地全体で結ぶのは難しいとしても、簡易な物探しの呪いを撹乱するくらいは出来る。

 

 人の作りし物である。縁がない筈がない。にもかかわらず武甕家領では呪いは欠片の反応もなかった。それは少なくとも武甕家領内では残留物の持ち主はいないという事になる。ならば直前の十薬家は?……強弁である。縁を遮断するくらいなら、幾らでもやり様はあるし、逆に高級な呪具を使えば多少の撹乱を無視して縁を辿る事も出来よう。実際、環達は持ち合わせていないが、鬼月宇右衛門等は金に物を言わせて強力な探知呪具を有していた。

 

「そのような事は……残念ながら認められませぬな」

「やっぱり、そうだろうね」

 

 少し失礼して呪いをさせて貰う……そんな軽い話ではない。それこそ、一度領内を過ぎる際に人か、あるいは標たる物を残置しておいて因縁を付けるなんて事も出来よう。十薬家からすれば真偽の是非は措いて受け入れられぬ話ではない。少なくとも現場の裁量では。

 

「当主殿の裁可、それに陰陽寮の仲裁、双方がなければ到底入れられませぬ。一旦お引き取り願いたい」

「断る。此方としても家臣の失踪は一大事だ。悠長に待つ暇なんてないだろう?」

 

 十薬の者の発言も、環の発言も、共に一理あった。道理であった。退く事は有り得なかった。

 

 無論、環もまた荒事になるのを望む訳ではない。故に進言する。

 

「当主殿、一進殿の許可を求めて欲しい。難しいならば直接話そう。それでは駄目かな?」

 

 環は十薬家当主との記憶を思い返して提案する。少なくとも表向き友好的な態度を取り続けていた彼が此度の失踪、記憶操作に関与しているとは環は思いたくはなかった。そして、その嫌疑を取り払うためにも彼を直接説得する必要があると考えていた。

 

「……待たれよ」

 

 十薬の退魔士は背後に控える隠行衆の部下と何やら囁くように語り始める。最初は穏当に、しかし、次第にその表情は苦虫を噛み締めるように引きつる。

 

「……おいおい。マジかよ」

「……どうしたの?」

 

 恐らく聞き耳を立ててるのだろう、狼耳を揺らす入鹿は、彼らと同じくらいに苦虫を噛んでいた。環が尋ねる。嫌な予感と共に。

 

「式で連絡が取れねぇてよ。上の伺いが取れないってこった」

「それは……」

 

 この状況での狙ったかのような音信不通。不穏な予感。何よりも事態の急な緊張に環は内心絶句する。この話題は断じても上の認可なく現場が裁量で決められる類いのものではない。それが連絡が取れぬとなれば……!

 

「……どうしよう?」

「『ドキツい』交渉、かね?……どうやら、向こうはもう決断したようだぜ?」

 

 茂みから現れる下人衆に式共の群れ。忍んでいた連中の半分が登場する。領境を守るように陣を組む。応対していた退魔士が宣言する。

 

「当主殿の許諾を得るのに刻を要する。それまで待たれよ」

「それは、いつ頃返答を?」

「……」

 

 沈黙が答えであった。十薬の者共が臨戦態勢を整える。入鹿が得物を手に庇うようにして環の前に出た。後方からも環を守護するために派遣団の者が駆けよる。環は制止すべきか迷う。一触即発の状況……!!

 

「えっ……?」

 

 それを目にした環の動きが止まる。その表情が困惑、動揺、疑念に彩られる。友の反応に声を掛けようとした入鹿は、数瞬遅れて同じく硬直する。更に遅れて鬼月家の派遣団の者達が次々とそれを凝視して動きを止める。者によっては互いに見合せる。

 

「何事だ……?」

 

 十薬の退魔士もまた、鬼月の者共の態度に困惑する。一瞬罠か何かを疑うが……それにしてはどうも様子が可笑しかった。一様に一方向を見据えていた。

 

 一瞬の迷い。しかし最終的には半ば程の好奇心と不安に背を押される。環達の視線に導かれるように、十薬家の退魔士は振り返り、そして……それを目撃した。

 

「何だ、あれは……?」

 

 領地の山の一角より、幾筋もの黒煙が天に向けて立ち上がっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 十薬家の真にして秘密の本家要塞。その内で突如として生じた火事は同時多発的であった。異様に早い火の回りから、気付けば出火は単なるボヤ火から大火へと変貌していた。

 

「糞が!参番標本室と陸番実験室も燃えてやがる!!」 

「裏手の薬圃に行くなら気を付けろ!引っこ抜かれてる曼陀喇華共が散々泣きわめいている!!鼓膜が破れるぞ!!」

「畜生!苗木の草人形共め、火達磨のまま暴れてくれやがって!火の粉撒き散らすから延焼が止まらねぇだろうが!!」

「もっと水を寄越せ!早くしろよ!!?噴射器は!?」

 

 要塞に詰める理究衆筆頭とした十薬家の下僕に式共はてんやわんやの大混乱の中にあった。単なる火事程度ならば、それこそ実験において火を使う事もあるのだから対策も訓練も為されている。その筈だった。しかし、これは……。

 

「一体どうなってやがる……?」

 

 草人形共を使役して消火活動を行う年長の理究衆の男はひますら困惑する。凄まじい激しさで燃え盛る地下通路の獄炎に怖じ気づく。樽に詰めた井戸水を、あるいは噴射器を使って井戸から直接引き上げた噴水を次々とぶちまける草人形共。その働きは其処らの雑人共の軽く十倍はあったろう。それでも炎の激しさは、寧ろ時間経過と共に強まっているように思われた。それは異常だった。

 

「唯の火事じゃない……?」

 

 薬品か燃料の類いに引火したのか?理究衆の男は焦燥に駆られる。ならばこれで終わりではあるまい。寧ろ、ここから更に激しく……最悪は爆発もあり得た。確か消火活動中の部屋の近くには火薬庫すらあった筈で……。

 

「!!?」

 

 直後、火がまだ到達していないにもかかわらず発生した火薬庫の大爆散で、理究衆の男は衝撃で吹き飛び昏倒する事になった。それは指揮者の喪失であり、消火活動は更なる混沌と混乱に沈む事を意味していた……。

 

「…………」

 

 そんな喧騒と怒号の中、理究衆の黒尽くめの装束を着込んだ影が行く。隠行術は敢えて使わず、水桶を手に人の波が火の手に向かう流れに逆行するように、要塞の奥へ奥へと向かう……。

 

 通路をひたすら抜けて、何度も曲がって、扉を抜けて、足を踏み入れたのは養殖場であった。足下には障子堀を思わせる深い穴場が幾つも設けられていた。全ては霊石製で、強固な壁は削って足場を作るのも、無理矢理に登るのも困難を極める。

 

「ここも、だな」

 

 それは吟味の末の判断。穴場同士の敷居が足場となっていて、人影はその足場を縫うように歩み出す。暗い穴の底から響き渡るような咆哮がした。何かが蠢く気配がした。人の気配に反応してのものだ。それは給餌の合図と思ったのか、あるいは訪問者そのものを餌と思い興奮しているのかも知れない。

 

 理究衆の服装の人影は何も言わず、懐からそれを取り出した。法螺であった。天狗の法螺。回収後に工房室にて分析せんとして、しかし呪いによって折角入手したにもかかわらず放置されていた代物だ。正統なる持ち主でなければそれを活用せんとするだけで罰が下る。実際、真っ先に解析せんとしていた十薬の呪具師が当てられて、寝込む有り様であった。

 

 男はそれをひっくり返す。何かが流れ落ちて行く。明らかに法螺の体積を超えてひたすらひたすら終わりなく流れ落ちる。一つの穴場にある程度流れば次の穴場へと。それを繰り返す。繰り返す……。

 

「何をしているのですか?」

 

 冷たい問い掛けが鳴り響いた。男は振り返る。小柄な人影。不可視の杖を手にした仏頂面の十薬の娘。

 

「……」

「今一度問い掛けます。何をしているので?今は給餌の刻ではありませんよ?火事の消火に当たりなさい」

 

 無言に対しての十薬の娘の再度の問い掛け。十薬はなの追及。それは道化であった。三文芝居であった。黒装束も十薬の娘も、お互いに、もう全てを察していたのだから。

 

「……なぁ。聞かせてくれよ」

 

 沈黙の後、理究衆の『変装』をしていた男がゆっくりと覆面の下から口を開く。

 

「お前さんらはどうしてこの家に忠誠を?縛られているのか?助けは要らないのか?自由は欲しくないか?信じろよ、俺の力を評価してるんだろ?」

「警告します。全ての武装を放棄して手を上げて下さい。出来るだけ傷つけて捕らえたくはありません」

 

 呼び掛けに対してのはなの答えは杖撃の構えであった。男の甘言に対して欠片の揺らぎもなかった。それは正しく鋼の意志である。

 

「……なめられたものだな?その杖はもう何度も手玉に取ってやったろうによ?」

「五、数えます。それまでに降伏して下さい。四」

 

 男の呼び掛けに一切応じぬ秒読みが始まる。強い怒気で、響くような声音で。杖を放つ用意。同時に何かを仕掛けんとする。

 

「おいおい、五飛ばしてねぇか?」

「三……」

「無視かよ。寂しいだろうが?」

「二……」

「……そうかい。頑固者め。だったら此方も手があるぜ?」

「一……!!」

「おらっ!!後ろから来るってのはオセアニアじゃあ常識なんだよ!!」

 

 秒読みの終わり。その少し前には男は放たれた不可視の杖を『敢えて』受ける事でその場から吹き飛ばされていた。そして刹那に彼は視認する。先程まで己がいた場所向けて背後の天井から飛び掛かろうとしていた十薬かやの姿を。空中で、此方向けて苦虫噛み締める表情で振り返る少女。互いの距離が交差して、遠ざかる微かの瞬間……。

 

「悪いが、容赦はしないぜ?」

 

 そして本当に容赦なく、黒死病医染みた出で立ちの男は彼女向けて法螺貝を向けた。そして、飛沫が四散する。

 

 それは、直後に部屋全体を舐める業火へと変貌した……。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 言ってしまえば他愛なく、十分過ぎる程に予見出来たネタであろう。 

 

 法螺より穴場に注がれていたのは所謂『燃える水』であった。燃料である。南蛮の火である。ナパームである。河童騒動にて朝廷直属の理究衆が運用していたのとほぼほぼ同類の代物であった。

 

 ……十薬家の倉庫の一室に保管されていた火炎放射器とその燃料は、単純な量としては朝廷が保有しているそれに匹敵しており、質の面では寧ろ改善されている面もあるように思われた。それの所持は法により退魔士家には禁じられている筈のものであった。

 

 過度に道具に頼る事による退魔士の質の低下を防ぐため、また危険な毒物故に朝廷が一元的に管理するが妥当……少なくとも表向きはそのような理由による禁を、しかし裏で散々禁制の研究に取り掛かっていた十薬家が応じる訳もなし。寧ろ、諸々の焼却処分の必要性を思えば所持していたのは当然なのだろう。些か過剰な量にも思えたが……何はともあれ有り難く頂戴した。

 

 暗摩の山の天狗から授けられた法螺貝の、その持ち得る能力の一つが収容だ。後に雛に聞いた話では俺はそれに熱湯を溜め込んで勢い良く噴射させて飛んでいたのだとか。帰還後に試した時には法螺に溜め込めるものはかなりルール無用で、故に俺は今回のアイディアを思い付いた。

 

 保管庫の燃料をガツ呑みさせて其処ら中にばら撒いた。着火すれば後は手がつけられない。火付け人である。放火魔である。捕まれば火炙りの刑確定である。

 

 ……なぁに。炙られる前に炙ればいいさ。

 

「という訳で墜ちて貰うぞ!!」

『( ・`ω・´)オチロカトンボ!』

「っ!!?かや、逃げて!!」

 

 部屋を急速に炎が包み込む中で、俺は不可視の杖の上に乗り移ると勢いに任せて駆ける。端から見たら空中を疾走しているようにも見えたであろう。実際は綱渡りレベル百である。人を超えた五感と第六感があればこその曲芸だ。俺の行動に察したのか、はなが杖を振るって俺を振り落とそうとするが……もう遅い!

 

「束縛遊びは御好きですか……!?」

「にゃは、どっちかというと火遊び……んぎっ!?」

 

 黒装束の袖口から放たれる縄がかやを捕らえる。捕らえた上で振り回す。振り落とす。縄を切り落とす。両手両足が拘束されたままかやは穴の一つに墜ちていく。紅蓮の炎が荒くれて、その底では怪物の絶叫が鳴り響き続ける穴の中に……。

 

「このぉ!!」

『Σ(´д`ノ)ノ゙ボウリョクハンタイ!!』

「考える事は同じかっ!!?」

 

 直後にはなが此方に何かを向けたのが分かった。小型の火炎放射器であった。衣服の下に隠していた一発限定の使い捨てと思われる代物。それが火を噴いた。

 

「ちぃ……!!?」

『(>ω<。)アチアチ……(* ゚∀゚)アツクナーイ!』

「そりゃあそうだろ!」

 

 跳び跳ねて直撃を回避する。理究衆の装束で以て消えぬ炎の火の粉に耐える。装束内に一緒に仕舞われている馬鹿蜘蛛も同様だ。転がる。穴に落ちそうになるのを縄を命綱にして凌ぐ。這い上がる。首を上げればはながサブウェポンの短刀二本立てで迫っていた。俺は桜の短刀を手にして叫ぶ。

 

「構ってる暇はないんだよ!……こいつと遊んでな!!」

「っ!!?」

 

 肉薄して鍔迫り合う直前、それは登って来た。垂らしておいた縄を伝って必死に這い出して来た六つ目の妖虎。ナパームで生焼けになって興奮しているそれは、俺がしゃがみ込んだために結果として眼前のはなに向けて突っ込んだ。か細い足場である。衝撃で纏めて仲良く穴場に滑り落ちる……。

 

「はぁはぁはぁ……」

『( ^ω^)タノシイプロレスゴッコダッタワ!』

「プロレスごっこ、ねぇ……はぁ、はぁ、否定は出来んなぁ」

 

 馬鹿蜘蛛の妄言に、しかし冷笑。息を整える。自身の装束の上で燃える火種を払う。理究衆の装束は霊糸と鞣した妖皮で出来ていた。防水であり、難燃であり、熱を通しにくく、刃物にも強い。降り掛かる火の粉でも問題なかった。

 

 問題は黒死病医染みた覆面の方である。防毒マスクと類似の機能があるそれは、しかし取り込む空気の熱まではどうにもならぬようだった。息苦しさを抑える事は出来ない。さっさとこの部屋から脱出した方が良さそうだった。

 

 身体を引き摺るようにして細い渡り道を進む。黒炎が視界を遮り始める。炎の弾ける音、穴の底からの火達磨になって絶叫する魑魅魍魎の咆哮が部屋に無限に反響していく。鼓膜を不愉快に反響させる。この不愉快さから逃れるように、俺は奥の扉へと向かい……。

 

「……イメチェンか?お洒落のセンスがないな?」

「にゃははは。良く分からないけど、何か意味分かるよ?指摘するのは止めてよね?可愛くないのは良く知ってるんだから!」

 

 それが腰元からあるいは背中から、長大な節足を伸ばして背後の穴から這い上がって来たかやとのやり取りだった。俺は黒死病医の覆面越しに彼女を見上げる。

 

 装束は半ば以上焼け爛れていて、晒け出された四肢は肉と脂肪が焼け落ちてだらりと垂れ下がっていて、しかしその下からは頑強な甲殻の染みた骨格が覗く。その風貌に視線を向ければ無邪気げだった表情のその顎は痛々しく裂けていて、何よりも眼孔は大きく見開かれていた。次第に彩度が失せて真っ黒に染まっていく瞳。理性が蒸発していく様が明瞭に見えた。

 

 牝蟷螂……そんな単語が脳裏に過る。

 

「にゃはハハハ。改めテ自己紹介しまスネ?十薬家帳外血族の十薬禍蠱デス!ドウゾ、オ、ミ、シ、リ、オキオ"オ¨ォ¨ォ¨ォ¨ォ¨!!!!』

「あぁそうかい……!!」

『(* ^ー゜)ノオコヅカイチョウダイ!』

 

 完全に理性の消えた瞳孔の見開いて、肉食の蟲らしく俊敏な動きでかやは、禍蠱が迫る。文字通り目にも留まらぬ速さで変則的に疾走してくる。業火は何の意味もなかった。人の皮膚を爛れさせる熱気を、平然と突き抜けて禍蠱は突撃する。それこそ、突きつけた法螺から放たれるナパームの炎に躊躇なく突破して……!!

 

「マジかよ……!!?」

 

 真上から降り掛かる禍蠱の、三対六つの脚に踏み潰されぬようにその間隙に身体を潜り込ませる。短刀を振るい脚を切り落とす……普通に脚が持ち上がり斬撃を避けられた。何なら此方に向けて鉤が迫る。

 

「うおっ、おっ、!?痛てぇっ!!?」

『(;゜∀゜)マサカコレガツイスターゲーム!?』

「んな訳あるかぁ!?」

 

 突っ込みとは裏腹に、俺はツイスター染みた曲芸で姿勢を変えて行く事を強いられる。頭を踏みつける一撃を避けて、足を踏み潰さんとする一撃を折り曲げて避けて、腹に向けた一発を身体を転がせて紙一重で回避する。横腹が掠れて痛みが走る。おい、防刃性能役に立ってなくない?

 

「畜生、食らえ!!」

 

 跳ねるように身を起き上がらせる。上方から蹴りつけて来た足を見定める。視線誘導して迫る今一本による脚払いを寸前で避けて、蹴りつけて来た節足を遂に切り捨てた。

 

 血は虫ではなく人の色だった。悲痛な咆哮が響く。退くどころか、彼女からは一層激しい攻撃が繰り出される。

 

 彼女の腕が裂けた。前腕の肉がブチブチ千切れて隠し腕めいて鎌腕が現れる。四腕に爪脚が、まるで嵐のように連続して此方を攻め立てて来た。

 

「っ!?しかも器用な……!?」

『(>ω<。)ヒットアンドウェイ!!』

 

 何本あろうが切ってしまえば此方のもの、とはいかない。此方は一本で手数で完全に圧倒されていた。腕一つ落とした途端に残る腕で八つ裂きにされかねないし、相手はそれを覚悟しているようにも思えた。何だったらそれすら叶わないかも知れない。鎌腕は機敏に此方を両腕を狙っていた。鋭い鋸染みた刃が並ぶ鎌腕に掴まれたら切断か、そうでなくても使い物にはならぬだろう。

 

『シャ"ア"ア"ア"ア"ッ"!!!!』

「なめんな!絞まれやっ!!」

『(;`∀´)イケッ!ワガケンゾク!』

 

 此方の腕を持って行こうとした一際大きな鎌腕の薙ぎ払いを避け切って、俺は反撃の走縄を振るう。意思を持つ縄は滑るように床を這いかやの接足の一本を捕らえる。己の腕に意識を集中させる。瞬間的に、爆発的に、人を逸脱した膂力で脚を引き寄せる。不安定な床でそれを行えばどうなるかは知れたものだ。

 

『シャ、シャ"ガァ"ァ"!!!!??』

「駄目押しよ!!」

『(* ゚∀゚)カナシイケドコレセンソウナノヨネ!』

 

 慌ててかやが千鳥足染みて姿勢を保とうとするに、追い討ちを掛けるように更に足の一本を切り落とす。二本の足を失い、そして一本は囚われた。其処に俺は攻める。咄嗟に鎌腕で応戦するかや。しかしそれは姿勢を回復させる事を諦めるのと同意である。

 

 崩れる姿勢。穴に転がりかける。必死に残る手脚を壁に床に引っ掻けて相当無理な体勢で灼熱の穴底への転落を回避する。

 

 ……転落を凌ぐので精一杯である。此方を相手出来る手足はない。 

 

『グギュ"ウ"ウ"ウ"ウ"ウ"ッ"!!』

 

 瞳孔の開き切った眼孔が此方を凝視する。俺が知る十薬かやその者と同じとは到底思えなかった。裂けた顎から剥き出しの牙が、真っ赤な歯茎が覗いていた。年頃の娘らしい美貌は、文字通りの怪物と化していた。

 

 嫌悪感よりも、軽蔑感よりも、憐憫こそを胸の内に抱く。本人は決して喜ばないだろうけど。

 

「……悪いな。俺の責任だな」

 

 彼女が、あるいは彼女達がこうなってしまったのは己のせいであると知っていた。知ってしまっていた。責任を取るべきだった。しかし……責任の取り方が分からなかった。差し伸ばした手は払われてしまった。

 

「まぁ、あとでじっくり話そうか?取り敢えず今は頭冷やしてくれよ?」

『(。・`з・)ノスコシアタマヒヤシナサイ!』

『ギャッ……ッ!!?』

 

 そして俺は短刀を振るって更に節足の一つを切り落とした。身体を支えきれずに穴底に墜ちるかや……絶叫と共に紅蓮の中へと沈んでいく。

 

「さぁて、もう一人!!」 

『(>ω<。)アンブュッシュヨパパ!』

 

 気配を殺して迫り寄り、死角から飛び掛かるそれに回し蹴りを振るう。かや同様装束が焼け落ちて、晒された肌は爛れて炭化して、しかしそんな身体でありながら四つん這いで疾走する速度は尋常ではなかった。鰐を思わせる大顎に、しかし俺は躊躇なく脚を突っ込んだ。

 

『ア、ゴ、ガァ!!??』

 

 容赦のない一撃による咽頭反射によって思わず退くはな。荒々しく舞う髪の隙間からギョロリと覗く眼孔は獣というよりも爬虫類を思わせた。一旦距離を取らんとする彼女に対して、俺はそれを許さない。

 

 威嚇せんとするはなに向けて、敢えて迫る。突貫する。仕掛ける……!!

 

『ア、ガ……ッ!!?』

「そぅら一丁……!!」

 

 想定外の行動に狼狽えるはな。俺は間髪容れず、まるで首を締めるようにしてその顎に下方から掌撃を叩き付けた。ガクンと言う衝撃音が響き仰け反る。顎を捕らえて押さえつける。それで彼女の一番の武器は無力化された。鰐の顎の圧力は強大だが、顎を開く力は余りにも弱いのだ。

 

「そして押し倒す……!!」

『フゴッ……!!?』

 

 そのまま俺は彼女の線の細い身体を押し倒した。唯でさえか細い足場である。はなの抵抗は、しかし己の落下の恐れを理解してか激しくはなかった。その瞳には、かやと違い未だ理性の気配が垣間見えた。

 

「動くな、脱皮しようとしているのは分かっているんだ。……止めを刺されたくはないだろ?」

『(* ゚∀゚)ゲームセットネ!』

 

 喉元に桜色の短刀を当てて囁けば彼女の抵抗はピタリと止む。その瞳に映る明白な死への恐怖……彼女は向けられる短刀が己の『権能』を突き抜ける代物だと理解していたのだ。

 

 ……そしてそれは、俺が会話の絶対的な主導権を握った事を意味していた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……首を振って答えろ。十薬一進は化物共と手を結んでいるのか?」

『……。……ッ!』

 

 俺の問い掛けに暫しの沈黙の後、ゆっくりと首を横に振るう。荒い息は恐怖に震えていた。

 

 それは時間稼ぎでなければ、策略のためでもない、ある意味では純粋で正直な返答であったかも知れない。……褒められたやり方ではないが。

 

「はぁ、はぁ……。次の質問だ。奴は……『アレ』はここに封じられているのか?」

『……。ッ』

 

 次はゆっくりと肯定。成程成程。それは良かった。封じられてはいるんだな?そいつは幸運だ。そう、信じたいものだね。

 

「はぁ、はぁ……ふぅ……。三番目の質問だ。お前達だけか?他には、いないのか?」

『…………』

 

 はなは意図を図りかねたように若干迷い、微かに迷いを滲ませて横に首を振った。俺はそれを信じる事にする。少なくとも、彼女達程のものは他には出来なかったのだろう。それを幸運なのか不幸なのか、俺は断定出来なかった。

 

 ならば、最後は……。

 

「そうか。じゃあ、最後の質問だ。お前達は……」

 

 俺は最後の質問を問う。はなは震える瞳を見開いて俺を見つめた。沈黙。緊張。恐怖。そして歓びの感情がその瞳に映る。万感の想いを込めて、彼女は首を縦に振るった。そうか。そうか……。

 

「……当主殿と話して来る。邪魔しないでくれ。分かったな?」

『(o´・∀・)oコマッタトキハオタガイサマヨ!』

 

 俺は拘束を解いて立ち上がる。はなは反抗しない。俺の口にした言葉は彼女にとって牙を突き立てるものではなかったからだ。当然だ。お話に行くだけで殺される云われはない。故に、彼女達に俺を遮る義務はない……。

 

「かやの……頭が冷えたら引き揚げてやってくれ。悪い事した。三本も足を切っちまった」

 

 俺は痛みに横腹を押さえながら謝意を示す。俺の横腹の傷は兎も角、彼女の節足は直るのだろうか?消えない傷物にしたのならば本当に申し訳ないとしか言い様がなかった。

 

 ……そもそも業火の中に突き落としておいて頭が冷えるも何もあったものではないのは言わぬ約束である。

 

『……』

 

 脱力したように床にベッタリと座り込んだはなはだんまりで、しかし微かに名残惜しげに此方を見つめ続けて、だがやはりだんまりだった。何を口にするべきなのか彼女自身判断がつかずに迷っているようであった。

 

「……」

 

 俺もまたこれ以上語れる言葉を持たず、そんなはなを背にして無言で部屋を出る。燃え盛る部屋に二人を置いて立ち去る。ぶ厚い扉を開いて、通路に出る。通路を進む。壁に寄り添いながら、伝うようにして歩む。横腹を押さえて、息絶え絶えに歩を進める。一歩でも先に、一瞬でも早く向かうために。無理にでも前に進んでいく。

 

 ……耐え難き胸の疼きに、思わず膝を折る。

 

「か、はっ……!!はは。そろそろ……限界かっ!」

『ヽ( ゚д゚ )ノヒィヒィフーヨッ!!?』

「お前は助産婦か……!」

 

 突っ込みと共に黒死病面を脱ぐ。黒装束を剥ぐ。汗びっしょりなのは業火によるものだけではなかった。胸元の異変。布越しで分かる、皮膚の下に蠢くナニカ。全身が暑い。熱い。熱過ぎる。

 

「……はっ!九ヶ月目、って所か?早産かよ!」

 

 当てずっぽうでの検診は、しかしそれ程間違ってはないだろう。後回しにしてきた問題だが……流石にこれ以上後ろ倒しには出来なかった。どうせなら流れてくれれば良かっただろうに!!

 

 ……失敗したな。感情的になって薬やら道具やら探すよりも燃やすのに夢中になっていた。

 

「仕方、あるまい……!」

『(>ω<。)ナンザンダケドアキラメナイワ!!』

 

 俺は掌に掴む短刀を一瞥する。ここで、やるか!

 

「畜生め!母親なんかにゃならねぇぞ……!!?」

 

 短刀を強く握り、俺はその最後の手段を決行する事を決意する。胸の内のこいつを完熟した状態で産む訳にはいかなかった。己の因子を反映させた怪物を産み落とす訳にはいかなかった。

 

 ましてや『妹』との仔を産むなぞ、冗談ではないのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はっぴーばーすでぇー、まいぐらんどどーたー♪』

 

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