和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件   作:鉄鋼怪人

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第二〇四話

 正しくそれは地獄絵図であった。

 

 其処ら中に血潮が撒き散らされていた。人の形をした肉が散乱していた。最早虫の息のままに蹲る者達がいた。贓物を零して、滝のように赤が垂れ流れて、混じ合って、紅い溜まりが床に幾つも際限なく満ち広がる。皆で用意した供物も御馳走も無惨にぶちまけられて、皆と混ざって、皆を被って、もうどうしようもなく台無しだ。

 

 そして……俺はその中央で佇んでいる。その手中に槍を手にして。

 

「ア、嗚呼アァぁ…aa……!!』

 

 呻くようで、、嘆くようで、感嘆するようで、狂喜するようで、相反する感情が混ざり合った人ならざる声音が生臭く漏れる。それも当たり前の事であった。この様では……。

 

『……ッ!!?』

 

 床に広がる血潮に己の醜悪な姿が映りこみ、その有り様に思わず『半分』が息を呑む。

 

 人ではなかった。否、人であって人でなかった。人である半分を蚕食していく残り半分の異形。顔の半分は苦痛と絶望に歪んでいて、残りは裂けるように嗤っていて、何よりも滴る真っ赤に染まっていて……。

 

『アア"……ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"a"a"a"ッ"!!!!』

 

 そして再び絶叫する。この部屋を満たす惨劇を誰が為したのか、それをこれ程にない程明確に理解させられたのだから。

 

 何故?どうして?馬鹿な。こんな筈では……違う。こんな答え、こんな締め括りは望んでいなかった!!

 

『マたしっパイしたマタ失敗しタマシッ敗しタ……!!!!』

 

 呪詛のように濁った声音で延々と吐き出される言い訳。どれだけ言葉を連ねようと結果は変わらない。俺は信用を裏切った。信頼を裏切った。いい加減に無責任に法螺を吹いた。その結果がこれだった。全ては御仕舞いだった。また振り出しだ。いや、もっと質が悪い。

 

 今度は、前回よりも更に一歩下がってからの始まりだ。延々と遠ざかる終着点。より一層険しくなる道程……。

 

「旦那様……」

『ッ……!!?』

  

 震える声音にパッと振り返る。尻から伸びる獣尾が床に倒れる骸を幾人かの一部を叩き打つが、それを気を止めてはいられなかった。

 

 部屋の門口に佇む親子三人を見れば、他に何も考えられなくなってしまう……。

 

『オ前タチは……!!』

 

 そして侵食される脳から必死に記憶を引っ張り出す。思い出す。事前に彼女には待機を命じていた事を。最悪の事態を思って、年少の連中を連れて避難しておくように命じていた事を。それを……よりにもよってこいつは娘二人を連れて!!

 

「旦那さま、どう……」

『グオ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ッ"h"h"h"ッ"!!!!』

 

 昂る激情に咆哮を向けていた。相手を竦めさせて、逃がさぬための威嚇の咆哮。華奢な体が身震いするのが見えた。娘らに至っては漏らしたのすら分かった。恐怖に満ちた眼差し。三人で抱き合って立ち竦む。鈴の微かな音色。逃げられない。逃がさない。……畜生!!

 

『サガっ……テろ!!三ニン纏めて……ブッコロされてェのか!!?』

 

 溢れる感情を抑えるので必死で、文面よりも更に乱暴な声質にてぶちまける警告。理性は限界だった。脳は既に食いつくされる寸前だった。目の前の肉共が狂おしかった。飛びかかりたくて仕方なかった。

 

 だから……!!

 

『ツギはっ!!アマり近ヅクナヨ!!!?』

「旦那様!?何を……!!?」

 

 遺言を残して、静止される前に理性が吹き飛び切る前に俺は決めた。顎を裂き開いて槍を咥えて、貫いた。頭蓋まで貫いて、かき混ぜて確実に仕留めた。回る視界。急速に消え行く視界。電源を落としたかのように。

 

 半狂乱になって駆け寄って来る親子の影が見た気がするが、定かではない。

 

 

 さぁ、せめてベターエンド目指してリトライと行こう。俺のSAN値が続く限り……。

 

 

  

 

 

 

捌伍回目

ーーーーーーーーーーーーー

「……夢?」

 

 それを自覚したと共にどっと流れる汗。安堵の汗。それに続くのは粘るような気持ち悪さ。苛立ち……。

 

 所謂白昼夢というものであろうか?突如脳裏に溢れ出した存在しない記憶。しかも余りにも唐突で、余りにも残酷で、余りにも不謹慎な内容……目覚めた今となってはどうしてあんな光景を空想したのか奇妙過ぎてひたすらに疑問であった。嫌な気分だ。厭な気分だ。

 

(きっと……ずっと不愉快なせいだ)

 

 温もりに微睡みながら、俺は断定する。間違いない。己を蝕むこの感覚が元凶だ。

 

 ……そうだ。考えれば考える程、振り返れば振り返る程、違和感と疑念は膨れ上がっていくのだ。まるで、塞き止められた溜め池が決壊して濁流となるように。思えば思う程、どうして意識していなかったのか不可思議に思えて来る。

 

 この屋敷の異様な広さ。にもかかわらず気付けば元の場所へと舞い戻っていた。毎日提供されるあらゆる品物が何処から来たのか?一度たりともそれを目撃した事はない。何も考えずに、ただただ与えられたものを間抜けに口を開いて受け入れていた。

 

 何も知らない。思えば俺は俺自身が何者なのかすら知らない。記憶がない。ただ目覚めれば『旦那様』の立場に祀られて、それを流されるように受け入れていた。『外』については皆目見当つかない。無知にして蒙昧、そのものであった。

 

 何よりも、俺はこの内に渦巻く荒々しい感情を知らなくて……。

 

「旦那様、如何なされましたか……?」

 

 物思いに耽っていれば、正面からの甘い呼び掛けに意識を現実に引き戻された。まるで今一度夢から覚めたように。

 

(夢の中で夢を見て……二重夢、なんてな?)

 

 何なら本当は更に夢の内で三重夢……内心で下らぬ事を思い付いて、無言の内にその誠意と働きに謝罪して、オマケに言い訳も重ねる。

 

 そうして……漸く俺は声の方向に視線を向けた。途端に瑞々しい肌色が映りこんだ。

 

「旦那様?」

 

 視線を向ければ湯気の立ち込める中で微笑みを浮かべるのは女中の一人、辰の姿。歩き巫女の家系という彼女の、薄い布を巻いただけの湯女の出で立ち。先程と同じ声質で、先程の言もまた彼女のものである事を如実に証明していた。

 

「んっ……はぁ……。旦那、様?」

「ふぅ……ん、んんっ……どうなさいましたか?」

 

 同じように、あるいはそれ以上に肌色を晒して、絡まり湯女仕えする他の女中達が辰に釣られるように此方を見て、不思議そうに首を傾げる。石鹸に身を照りつかせて、泡に身を飾り立て、風呂椅子に座る己の身に密着しながらまるで仔犬が甘えるような仕草を向けて来る。火照る頬を緩めて、満面に愛想を向けて来る……。

 

「御加減は……どうかなさいましたか?」

「何故そんな事を?」

「少し怖いお顔でしたので……」

「そうか」

 

 俺はあしらうようにして軽くニ、三度程辰の頭の撫でてやる。追及を誤魔化すための適当な愛撫に、しかし何処か箱入り娘感のある辰は頬を緩めて上機嫌そうにする。直ぐにその手を頭から離せば、それは四方八方から伸びる皆によって絡め盗られて弄ばれていく……。

 

(……)

 

 別に特別な事はない。意識が目覚めてからこの方、それは何時もと変わらぬ光景だった。女中らが湯女として入浴する『旦那様』の身体を浄める手伝い。労いの湯所での奉公……日常の筈のそれが、次第にどうにも異様な事のように思えていた。それは最初に疑念が萌芽して以来、月日を重ねる程一層明瞭となっていく。

 

 背中に抱き着いて嬌声を漏らしながら背垢を削る蘭も、円香が己の右腕に抱き着いて上目遣いに媚びる眼差しを向ける事も、翻って左腕に絡まってその指に吸い付く篠も、愛しげに足に口付けを落としたかと思えば裏を丹念に舐め洗う凪の姿も、正面からのし掛かって腰をくねらせて身を束子代わりにする澪の恍惚の笑みも、そんな澪の更に下に潜って四つん這いとなって掃除をする幾人かの娘らも、そんな光景を見つめて周囲で順番待ちする辰達も……その全てが可笑しかった。普段通りのそれが異様なように思えていく。その行為が異常に思えて来る。日常が狂気に感じられている。

 

 ベチャベチャベチャベチャと。グチュグチュグチュグチュと。パシャパシャパシャパシャと。まるで思考を塗り潰すかのように擬音の強い水音が広い浴場に容赦なく反響し続ける。その身を剥き出しに晒して、はにかんで、微笑んで、のぼせ上がって、当然のようにその身で仕えて健気に奉仕して蕩ける表情を向ける彼女らに、俺は暫し沈黙するしかなかった。

 

(何故……?)

 

 文字通りの視界一面の肌の色。裸の付き合いである。風呂であれば一糸纏わぬのも当然。『旦那』である以上は女中共に湯での世話をさせるのも普通の業務の筈。これまでだって相手を代えて幾度も幾度も、何の気もなしに、なのに……今では何かが致命的に狂っているように思えて仕方ない。言語化出来ぬ、しかし確かな異常。そしてそれ以上の、心中に渦巻く衝動……!

 

(そうだ。何故、なんだ……?)

 

 それは思えば最初からあったような気もする。少しずつ成長していた気がしなくもない。葛との探検で、その最中のじゃれ合いでそれは明白になり、そしてそれに気付いてしまうとブクブクと膨らんで、今では耐え難い感情へと至りつつある。

 

「……」

 

 また纏わりつく彼女らに視線が向く。己とは性質の違う体つき。白く、傷跡はなくて、あるいは殆どなくて、長い髪に細く華奢過ぎる肢体。胸元は多かれ少なかれ肉が付いていて、下腹部は足りなくて、そんな己の身との差異を何の気なしにこれまで受け入れていたのに、今では気付けば狂ったようにその違いを凝視し続けている自分がいた。

 

「……?」

「旦那様?」

「あらあら……」

「くすくす……!」

「……!!!!!!」

 

 そして彼女達はそんな己に気付くと不思議がる事もなくて、愛しそうにすると何も言わず自ら差し出して、あるいは広げ見せてくれて、見せびらかして、そんな時に、俺はただそれを受け入れて、ひたすら見て、触れて……彼女達はそんな俺に向けて更に手を広げて迎えようとするのだ。そう、まさに今のように!

 

「…………!!!!………。………」

 

 彼女らの狂おしい誘惑に歯噛みして、打ち震えて、堪えて、そして静かに息を吐く。呟く。

 

「はい?」

「湯に入る。全部洗い落とせ」

 

 若干乱暴に、ぶっきらぼうに、吐き捨てるようにして命じていた。何時ものように。

 

 こういう風に、越えてはならぬ一線を抱いて、乱暴に場を潰して、あるいは黙って去り行くのは、もう幾度目の事であろうか?皆はそれをどう思っているのだろうか?それを尋ねるには臆病過ぎた。

 

「……承知致しました」

 

 少し名残惜しげにつつも、彼女らはやはり謹んで命を受け入れる。桶で掬った湯を頭から被る。熱い湯が俺と彼女らの肌の表面を洗い流して白く濁る。大理石の床に流されて、排水されていく。黒い、あるいは多彩な毛髪が流されていくのを俺は目撃した。

 

 絡まって、ぐちゃぐちゃになって、ぐちょぐちょになって、そして泡に滑って塊となって、共に排水の溝に堕ちていった……。

 

「……」

 

 黙って立ち上がる。纏わりつく湯女達を払い除ける。まるで害虫を散らすように。

 

「ふぅ……」

 

 そうやって俺は一人で勝手に湯に浸った。腰を深く落とす。周囲を見渡せば改めてその広さに嘆息する。

 

 軽く五十人は一度に入れるだろう。提灯が吊るされて、揺らめく湯面は暖色に照らされる。雄大な壁絵が四方に描かれていた。彫像からは湯が滝のように噴き出している。地下から噴き出したというそれの効能は滋養強壮に効果があるという。見事な、本当に魅事な浴場……。

 

「……っ!」

 

 水音と遅れて柔らかな感触。背中から抱き着いたのは悪戯っ気のある表情を浮かべた渚だった。遅れて右から、左から、正面から、続くように入浴した湯女が侍る。先程の風呂椅子での戯れをそのまま移設するかのようであった。

 

 それもまた、本来は何時も通りの光景で……いや、確かに近頃は段々執着的になっている気はする。しかし本質は同じで、そしてやはり、今の俺にとっては何処までも相反する感情を抱かせる。

 

「旦那様、お酒はどうでしょうか?それとも……玉子等は?」

「身体を解します。どうぞ楽にして下さいませ」

 

 気安く、善意に満ちた提案。そうやって皆の手が触れる。柔らかな肌がまた触れて来る。されるがままの奉仕に、踏ん切りをつけるように手を出して、押し退けようとして、弾力のある感触が掌を満たす。

 

「……何をしてる?」

「柔らかい感触で旦那様の掌を癒そうかと……迷惑でしたか?んっ♪」

 

 何処か惚けるような印象を与える凪の物言い。そしてそんな事を言っている間にも両手で捕らえた俺の腕を包んで、導くように一層己を揉みし抱かせる。掌一杯にしても尚溢れるような存在感、沁みるように感じ入る水風船のような心地好い感触……。

 

「っ!」

「あ……♪」

 

 思わず振り払いそうになって、直後に殴打の選択が強烈に思い浮かんで、それを否定した時には何故か凪を引き寄せて抱き寄せていた。既に幾人も纏わりついているのに、まるでそれを押し退ける形で凪が抱き着いた。

 

「これは……」

「旦那様に乱暴にされるのは嫌いじゃありませんよ?えへへ……求められるのは、もっと♪」

 

 胸板に、己の胸元を押し付けて、此方の首に手を回してぶら下がるように、最後に皆に勝ち誇るように見渡して、耳元向けて、甘えるように囁く。

 

「凪さん、狡いです!」

「旦那様、贔屓は良くないですよ?」

「そうです!私達も可愛がって下さいな!」

「平等、平等ですよ……!!」

「旦那様?どうぞ順番に甘えさせて下さいまし?」

「あっ、いや……」

 

 姦しく騒ぎ立てて、此方の言を遮って、次々と密着して来てはふざける女中共。有無を言わさず、あっという間に甘い柔肉に感覚が埋まる。抵抗せんとする両の手もまた、誰かも分からぬ柔らかさに包まれていた。

 

 柔らかい、柔らかい。温かい、温かい……。

 

「硬くて、ザラザラするだろう?離れても……いいんだぞ?」

 

 正面に抱く凪にというよりも、皆に向けての宣言は、蕩ける感覚に冒されて、途切れ途切れの呟きのようだった。のぼせる感覚は、湯によるものではないと脳に思われた。

 

「……?」

 

 そしてそんな訴えを聞いた皆は、キョトンとした表情を見せて、遅れてクスクス笑い出す。お互いを見合せて、此方を窺って、面白いものを見たと言わんばかりであった。凪が匂いを染み込ませんとでもいうように身体を全力で擦り付ける。首筋に頬擦りする。代表して口を開く。

 

「別に……硬いのは嫌いじゃありませんよ?大きいのも、太いのも、ザラッとしてるのも、熱いのも……逞しくて素敵じゃないですかぁ?それにぃ……」

 

 何か別の事を言ってるようにも聞こえる凪の言に、俺はそれを指摘しようとして、その前に凪はぎゅっと抱き着いて顔を俺に埋める。

 

「それに……臭い豚よりは、ずっといい……」

「……」

 

 それは普段明るい凪らしくもない淡々として陰のある独白だった。場が恐ろしい程に静かになった気がした。見渡せば同じように何とも形容し難い沈痛な表情を見せる女中共。それは俺が知らぬ、彼女らの一面であった。温かな湯中なのに、背筋が凍える……。

 

「……」

 

 以前から抱いていた感情、それから逃れるために皆を押し退けてしまおうか、叱責するべきか、払い除けてさっさと湯上がりしてしてしまおうか……そんな考えは消え失せていた。そんな事を出来る気分ではなかった。

 

 寧ろ、群れの頭として己の務めを果たすべきで、柱として己の務めを果たすべきで……俺は、何を、考えている?

 

「……」

「うふふ……」

「旦那様……♪」

 

 過った義務感の意味を理解する余裕は激しく滾る激情を抑えるため全くなくて、嗤い群がる彼女らを受け止めるので手一杯で、全てを両立させるために其処にあるという最低限の務めを果たす事で精一杯だった。

 

 支えのように、気が済むまで、ひたすら彼女らを纏い侍らせて、其処に有り続けて。

 

 それはまるで、苦界にもがく者達に飾られ縋られる偶像のように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 あらゆる疑問が渦巻き続けて、しかしそれを吐露する事は出来なかった。尽くしてくれて、縋る女中らに全てを吐き出す事に俺は躊躇していた。

 

 溜まる不安。溜まる苛立ち。溜まる疑念。疑問。それらを正しく解消するためにはどうするべきなのか、分からずに俺は見境なく手を出し続ける。

 

 ひたすら昼寝をしてみた。甘味を、辛味を、珍味を、酒を、暴飲して、暴食をしてみた。ひたすら遊戯をしてみて、読書を通じて己を見返してみた。芸事を乱雑に中途半端に手を出して、集中も熱中も出来ずに放り出した。無為な刻を浪費する……。

 

 ……それを見出だしたのは偶然だった。渦巻く激情を処理する術が分からずに、悶々として屋敷を徘徊していて目に留まった。

 

 これまで考えた事もなくて、何ならこんな物があった事にも気付いてなくて、ふと脳裏に残る夢を思って、何気なしにそれを手にすれば、妙にしっくりと収まって……意識した時にはそれを振るっていた。

 

「てぃ、やっ!はぁ!!」

 

 風を切る音。床を叩き踏む音。そして鋭い己の掛け声が反響する。

 

 道場を模した棟にて、飾られていた武具の一つ、槍を無造作にひたすらに我武者羅に振るって演武。槍舞。その見よう見真似ですらない擬き。激しく踊り、息を切らせて、それでも鋭く穂先を舞わせて、そして止める。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 緩急激しく、疾徐激しく、延々と、故に気付けば汗だくで、心臓は爆発するんじゃないかってくらいに躍動していた。鉄の味を呑み込んで、深く深く、深呼吸……。

 

「ふぅ……。意外と才能があったり?何てな?」

 

 額の汗を拭う。初めてにしては中々良かったのではないかと自惚れて自画自賛。実際の所は分からぬ。この程度皆でも出来るやも知れぬ。誰も見ていないからこそ格好をつけてみる。しかし、これは……。

 

「散らすのに丁度良い、か?」

 

 何を散らすか?それは苛立ちであり、鬱憤であり、形容し難い欲求不満。衝動である。一心不乱に虚空に槍を振るい、汗を噴き出し、疲労すると、しかし心中のもやもやとした感覚が一時的にでも解消されて思考が透き通る。それは今の俺が何よりも求めていたものであった。

 

 ……屈折したこの情動を発散せねば、女中の皆に何をしでかすのか、俺自身自信が持てなかったから。

 

「それに、自衛にも使えるかもな?」

 

 槍を今一度振るい回して、構えて見せての言い訳めいた発言。発言してみて、俺は自身のその意味を訝る。自衛?一体何に対して?知れた事だ。そうだ、葛も言っていただろう?それは……。

 

 チリン……鈴の音色に俺は身を止めて、意識がひきよさられる。

 

「これは……」

「旦那様……?」

「……甘鶴?」

 

 呼び掛けに振り返り、俺は門口に佇む人影を視界に収める。目を見開いて、顔を酷く青褪めさせた母女中。その視線は此方の手元に……その余りにも異常な様子に、俺は今一度その名を呼ぶ。

 

「甘鶴?一体どうし……」

「その槍から手を御離し下さい……!!」

「!!?」

「きゃっ!!?」

 

 はしたない程に足音を立たせて、喧しく鈴の音を鳴らして、必死の形相で駆け寄って来たかと思えば俺が手にしていた槍を掴んで引っ張り寄せる。手放せとばかりの強引な反応に、寧ろ俺は槍の柄を力強く握り締めて引き寄せていた。軽い故に、釣られるようにして甘鶴はよろけて半ば凭れるように倒れ込んで来たので支えてやる。ビクリと打ち震えて此方を見据える。何かに怯えたような表情を浮かべて……その姿に、俺は既視感を抱く。はて、何処かで……。

 

「だ、旦那様……」

 

 脳裏に浮かんだ疑問は、しかし眼前の女中が歯をカタカタと震えさせて恐怖に怯えきった態度に脇に押しやられる。気圧されつつ、狼狽えつつ、けれど彼女と真っ直ぐ視線を重ねる。逃げずに、相対する。

 

「な、なんだ……?」

「その……何故、槍等、を……?」

「……」

  

 今にも死にそうな表情での恐る恐るとした質問に、俺は槍を一瞥して微かに訝り……正直に答える。

 

「いや、大した理由はないんだけどな?……まぁ、運動って所かな?」

「運、動……?」

「あぁ。良い汗を出せた。今夜はぐっすりと眠れるよ。近頃は暑くて寝付きが悪くてな?」

「そう、ですか……」

「それに……外ってのは恐ろしいんだろ?皆を守れるように付け焼き刃でも、な?」

「……」

 

 俺の言に、甘鶴はまじまじとして此方を覗きこんだ。目を見開いて、驚きを含んだ表情。一体何を考えているのかまでは俺には分からなかった。それ程まで滲み見える表情は複雑であったからだ。少しバツが悪くなる。 

 

「……はは、素人の思い付きだけどな?」

 

 己の身体に刻まれた無数の傷跡を思って自嘲。弱いから酷い怪我をして記憶までトンでしまったのが現実である。無様な旦那様が俺だった。そんな奴の発言である。滑稽だろう。俺もそう思う。

 

「……」

「……甘鶴?」

 

 俺の戯れ言に、女中は無言であった。無言のままに、呆然と此方を見つめ続ける。まるで……何かを拝むように。

 

「甘鶴?」

「いえ……決してそんな事は。とても、とても嬉しく思います。旦那様がそのように私達を思ってくれるのは、本当に、本当に、本当に……」

 

 今一度呼び掛ければ、女中は漸く反応した。情念の籠ったように、確かめるように、幾度も繰り返すように紡がれる言葉……。

 

「……そりゃあ、嬉しいね」

 

 俺は困惑しながらそれを受け入れるしかなかった。彼女のその言葉に何処まで世辞が入っているのか、しかし、呟きながら目元から流れる一筋の涙にそれを追及するつもりにはなれなかった。

 

 女の涙は武器ともいうが、俺には其処に真実があるように思われた。少なくとも演技には感じられなかった。本当に、感動してるように思われた……。

 

「……申し訳御座いません。無様な姿をお見せしてしまいました」

「いや、いいんだ……」

  

 健気に涙を拭く甘鶴と、それをただ見守るだけの俺。元々幸薄な印象を与える故に一層哀れに見えた。手拭いでも差し出せれば良かったが残念ながら持ち合わせがなかった。

 

「それで……何だ、離してはくれないか?」

 

 そして、何時までも槍を掴む女中に申し出るが、涙を拭き終えた彼女は、しかし首を横に振るうのだ。

 

「いけません。……旦那様、お怪我をしてしまうかも知れません。旦那様は未だ万全では御座いません。無理をなさらないで下さいませ。浅傷の一つも……許されません」

 

 こればかりは譲れぬとばかりの甘鶴の言。固い固い決心と信念が滲み出ていた。

 

「しかし、なぁ……そんな事ばかり言われて、三週間だ。流石に気怠くなって来たぞ?」

 

 それこそ、文や詩ら餓鬼ンチョ共との蹴鞠に乗り気であったのは何時までも安静にさせられてる事への逼塞感があった。読書に遊戯、遊びではこの内の感情を効率的に発散する事が出来なかった。その点、槍を振っている内は抑圧されていた衝動を吐き出せた気がした。

 

「それにな。槍を振るっている時に懐かしい感覚もしたんだ。記憶を刺激されるような……。なぁ?もしかして俺はこの道場で槍舞とかしていたのか?」

 

 この『屋敷』は俺のものであれば、当然道場の存在も知っていた筈だ。飾られていた槍も……ならば、利用していても不思議ではない。過去を思い起こすために、期待を込めて問い掛ける。しかし……。

 

「……私は、旦那様が槍を御使いになる様を見た事がありません」

 

 甘鶴の発言は淡々としていた。そして、嘘の気配はなかった。

 

「……そうか」

「せめて今少し……次の月見の頃合いまで御待ち下さいませ。その頃には旦那様の御体は万全に整う筈で御座います。その後ならば、幾らでも激しくお動きになられても宜しいかと」

 

 記憶を取り戻す取っ掛かりを失って落胆する俺を慰めるように、甘鶴は恭しく提案する。

 

「月見……」

「はい。丁度次の満月は十五夜、旦那様の健康を祈り、盛大に祝いましょう。そうです、そう致しましょう……!!」

 

 名案とでもいうように勧める甘鶴。彼女らしくない積極性にも思えたが……しかし、悪い提案という訳でもないか。区切りをつけるのは踏ん切りをつけやすいものだ。

 

「悪くはないな。……祝うからには供え物がいるな?」

「皆さんと既に相談しております。団子に、月餅に、芋煮に……他にも皆で丹精込めて作らせてもらうつもりです」

「それはそれは……楽しみだな」

 

 楽しげに語る女中の振る舞いに、此方も表情が緩む。甘鶴の手を優しく解し、槍を手放させる。

 

「旦那様……」

「分かってるさ。お前達に無用の心配はさせたくないしな」

 

 飾られていた場所に槍を戻す。名残惜しいが……旦那とは言え好き勝手し尽くす訳にはいくまい?

 

「少しくらいは手伝っても?そうだな……薄や供え物を飾るくらいなら良いだろう?言っては悪いが暇でな?」

「それは……分かりました。葛さんに私からも御伝えさせて頂きます」

「宜しく頼むよ」

 

 そして一拍置いて、俺は問い掛ける。

 

「そう言えば……職場の訪問の話だったかな?行く行くといっておいてすっかり忘れてしまってた。その……悪いな?」

 

 改めて彼女の出で立ちを一瞥した後に、俺は言葉を詰まらせる。牛役としての夏場の仕事着。牛柄のそれは汗が滲んでいた。今更ながらこの服装の甘鶴とここまで普通に会話していた事実に色々と麻痺している気がしていた。

 

「……?」

「どうした?」

「いえ……御訪問のお話なぞ、しましたでしょうか?」

「ん……?」

 

 甘鶴の指摘に、俺は首を捻る。はて?確かに俺は……。

 

「……勘違い、か?」

 

 思い違い……なのだろうか?納得し難いが……甘鶴がこんな事で嘘をついていると言うのも無意味な話である。何のためにそのような事をする必要がある?

 

「すまん。俺が間違えただけだろう。妙な事を言った」

 

 突然知らぬ事を言われて困惑したであろう、取り敢えず甘鶴に謝罪する。

 

「いえ、そのような事は……」

 

 甘鶴は謝罪を遠慮がちに受け取って、そして続ける。

 

「その……失礼ながら仕事場に訪れるのは遠慮して下されば」

「それは……いや、お前がそういうのなら仕方あるまい。無理強いは出来んわな」

 

 立場を盾に、必要性もないのに相手に望まぬ要求を強要するのは本意ではなかった。それでは、彼女らに強いて来た『外』と何も変わらぬ事ではないか。

 

「有り難う……御座います。この御恩は必ずや埋め合わせを」 

「構わん構わん。このくらい、な?……えっと、確認してもいいか?」

「何を、でしょうか?」

 

 物悲しげに此方を見る甘鶴の態度にやりにくさを思いつつ、俺はそれを問う。

 

「お前さんに娘がいるんだったか?二人、でいいよな?」

「それが……何か?」

「いや……そう言えば顔を合わせた事あったかな?記憶違いかも知れんが、お前さんの職場訪問で一緒にって約束した気がしたんだが……」

「女中見習いの娘達は全員、旦那様に無用の御迷惑を掛けぬよう、目につく場所にはお出しせぬ事を指導しております」

「そう、か……」

 

 それは実質的な断定の即答の否定であった。そしてそれはやはり嘘であるようには思えなかった。言われてしまえば、確かにその通りだと俺自身の記憶も答える。ならば、何故……?

 

「……」

「旦那様、お望みでありましたら娘達を連れて来ましょうか?」

 

 俺の態度に何かを抱いたのか淡々と提案する甘鶴。一瞬、その提案に妙な期待感を抱くが、即座に首を横に振る。

 

「いや……いいんだ。見習い共に無用の気苦労を掛ける事もあるまい」

「左様で」

「あぁ」 

「……」

「……」

 

 そうして互いに沈黙して、愉快ではない静寂が場を満たす……。

 

「……失礼するぞ」

 

 俺は逃げるように、口を開いた。そして甘鶴の横を通り抜けて立ち去る。まるで、逃げるように。

 

 一体何から逃げようとしていたのか。それは己でも分からなかった……。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 胸を締め付けられるような思いだった。己の胸元に手をやって、歯を食い縛って、心中の吐き気と激情をじっと堪える。静かに、押し止める。

 

 何て哀れなのだろう。何て虚しいのだろう。何て苦しいだろう。何て悔しいのだろう。何て……あぁ、何てあの人は愛しいのだろう?何度繰り返そうとも、その思いは変わらない。止まらない。

 

 幾度でも繰り返して、幾度でも重ねて、それは愚かしくて、だからこそ、私達は……。

 

「旦那様……」

「甘鶴、逢瀬はどうでしたか?」

 

 あの人に思いを馳せて、そして背後からの声音に緊張して振り返る。黒い襦袢に卯めいた装飾を飾った目尻の鋭い女中筆頭の姿……此方に淡々と歩み寄る。

 

「葛さん……肆漆回目の記憶が混濁していたようです。取り敢えず、記憶違いとして誤魔化しました」

「何故、娘達に逢わせようとしたのですか?それは方針違反ですよ?」

 

 報告に対しての返答は糾弾。敵意と猜疑心を滲ませて、悲壮ですらあった。そして甘鶴はそれに反発する事は出来ない。本人もそれを自覚していたからだ。しかし……。

 

「あの子達が……可哀そうで……。もう、何度も逃げ出そうとしていて、泣いていて……だから……」

「折檻が足りないという事でしょう?躾けが足りぬだけではないですか」

 

 母親としての側面のある甘鶴の弁明に対して、葛の返答は冷たかった。そして、やはり甘鶴は否定出来ない。それを誤りとは口を裂けても言えない。誤りならば……それこそこれまで皆が幾度も重ねて来たのだから。あの人を犠牲にして。

 

「貴女も意志薄弱ですね?四度目の折檻を受けたいのですか?また暫く『休み』にしますか?」

「それは……それは、余りにも……!」

 

 葛の計画に甘鶴は悲惨な表情に変貌する。それは無体で残酷だった。娘達を、幼い子らを見れば分かる。あの人の傍で、あの人を支え、あの人に尽くす権利を奪われるのがどれだけ辛い事であるか。その姿を目にし、その声を聞いて、その身体に触れる事が出来ぬ事がどれだけ心を渇望させるのか。それはもう慣れて来た死より苦しかった。そんなのなら死んだ方がマシだ。死んでも、逃れられない苦行……。

 

「でしたら決まりは守って下さい。苦しいのは貴女だけではないのですから」

「はい……」

 

 葛の苦悩を滲む言。他の者らと違いここまで来て尚一度として愚かな抜け駆けも裏切りも心変わりもせずに真っ直ぐあの人のために、儀式のために尽くし続けている事を甘鶴は知っている。その過程で命を落とした周回も両手の指の数では足りぬだろう。だから……その仕打ちを以てしても誰も彼女を恨まない。正確にはこの無間に等しい繰り返しを通じて最早誰も恨むつもりにはなれない。それだけ皆、失敗して、あの人を苦しめる末路に至らせたのだ。

 

「下手に交流させると私達に情が湧いてしまいます。私達の過去を語るのも御法度。少しでも口にした者は折檻……と言っても、もう焼き付いてしまっているのでしょうね」

「子供達だけではありません。槍についても、恐らく……」

 

 道場を見渡して甘鶴は眉を垂らして嘆く。彼女にとっては猶更辛かった。己のために二度も、自分達の『旦那様』はその手にした槍で……思い出すと胸が張り裂けそうになる。己の馬鹿さが恨めしくなる。今すぐにでもあの人の元に走って、その足に縋ってひたすら贖罪したくなる。身も心も魂も、己の全てを捧げて、罰されて、所有されて、支配されて、使い潰されたくなる。それだけの事がこれまであったのだ。積み上げられて来たのだ。

 

 あの人は覚えていない。まだそれは焼き付いていない。何よりも……信じてくれたとしてもそれはまたあの人を破滅させるだけだ。

 

「ある意味愚かな人です。あんな甘くて、恰好つけて……いっそ、安易な道を歩んでくれたら……」

 

 自分達は元より虜であった。教育されて、躾けられて、依存させられて、それだけでも十分過ぎた。肉は完全に堕ちていて、それだけで全てを捧げる覚悟は出来ていた。それが……酷い人だ。最悪だと葛は思う。

 

(本当に、酷い……)

 

 堕ちる前の初めての出会いを思い出して、この月日を重ねて心まで堕ちに堕ちてしまった。他の者らも似たようなものだろう。だから周回次第で裏切る者がいて、馬鹿な事をする者がいて、その度に皆で監視しあって、折檻しあって、それでも性懲りもなくまたやらかすのだ。そして更にドツボに嵌まってあの人も含めて全員どうにもならなくなってしまう。

 

 本当、もうどうにもならない。どうにもならぬままにあの人の羽化の刻は迫っている。このままではそれは……全ての蛹が無事に羽化出来る訳ではないというのに。

 

「いっそ、物扱いの方がどれだけ気楽だったでしょうか」

 

 公家の娘の独白に、遊女は沈黙のままに小さく頷く。

 

 此方の事なんて欠片も考えず、欲望を優先してくれたら。踏みつける事を、奉仕される事を、搾取する事を、強いる事を、支配する事を、使い潰す事を、利用する事を……目の前の格下の存在を何をしても良いと思って貰って、気兼ねなく使い捨ててくれて、身勝手にしてくれればこの円環は終わるのだから。だから皆でそれを教え続けて、仕込み続けて、焼き付け続けた。

 

「……それにしては全く結果が出ていませんね?」

「っ!?」

「……!!?」

 

 いつの間にかその場にいた闖入者に二人して息を呑む。怖じ気づく。久方ぶりに調教師はそんな二人を嘲笑するように満面に笑み。

 

「今回は駄目ですね。甘鶴さんへの態度を見れば一目瞭然です。あーぁ、残念。これはまた振り出しですね?」

 

 詰るような、いたぶるような悪戯っ娘の罵倒。年上の女二人、心底打ち震える。その様を冷たく冷たく見下す。お前達にそんな権利はないだろうと言うように。

 

「今回はまぁ諦めましょう。この分では終わりは知れてます。次は……私が一肌脱ぎましょう」

 

 その言葉に今度こそ二人は凍りつく。青ざめる二人に天使のような笑顔。そんな二人の様子を気にせずに少女は容赦なく続きの言葉を紡ぐ。

 

「私が旦那様を正しき道へと導きます。皆さんは補佐を。分かりますね?」

「で、です、がっ……!!?」

 

 有無を言わさぬ命に、それでも必死に甘鶴が意見しようとして、しかし叶わない。鋭い痛みが、そして疼くような快楽が、彼女の身体を襲った。チリンと、乱雑に音色が響く。手を突っ込まれて、引き裂かれるように引っ立てられる。漏れる悲鳴。そんな同僚を脇目に姿勢を正して、葛はただただ息を潜めて沈黙するばかり……。

 

「お黙りなさいね?貴女達に意見は求めていません。ここまでずっとずっと振り出しに戻り続けているのは流石に呆れました。本当に馬鹿の集まりですね?」

 

 つねりながら、抉りながら、こね繰り回しながら、いたぶりながら笑顔で朗らかに吐き捨てる。愚弄して当然だと少女は思っていた。だってそうだろう?どいつもこいつも感情に負ける愚物ばかり。彼に残された時間がもう相当に限られているのに何をしているのか?本当に本当に愚図の集まりだ。

 

 ……まぁ良い。蛹の内で大成のための成熟は進んでいる。あともう一押しだ。それで決めれば良い。己が決めれば良い。だから己はここまでコイツらに任せていたのだ。前座として。ここからが、本番だ。

 

「待っていて下さいね?今度こそ、今度こそ……貴方を偉大な存在に堕として差し上げますね?」

 

 着込む衣装を脱ぎ落としながら、馬鹿な遊女を押し倒して躾ながら、蜂蜜色の髪の少女は愛を囁くのだった。

 

 

 

 

 

 そうして此度、皆の愛狂う男は予見の通りに破滅した。自らの腹を裂いて上がりを迎えた。

 

 そしてまた全ては振り出しに戻る。人生双六のように。永遠に続く……一月が始まる。

捌陸回目

「旦那様、お早う御座います♪」

 

 ……蜂蜜色の新しい参加者を加えて。

 

 

 

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