和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件   作:鉄鋼怪人

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 ファンアートのご紹介をさせて頂きます。

 此方はXin.さんより赤穂紫姫。もっと登場させてあげたい反面、登場したら指数関数的に死亡しそうな確率が上がる娘。
https://www.pixiv.net/artworks/132308597

 此方は噗姆さんより、妖狐義姉妹。何がとは言いませんがギリギリを超えたギリギリアウト(R-18)です。恐らく牝狐の卑劣な罠だと思われるが……。
https://www.pixiv.net/artworks/132545050

 素晴らしい作品、誠に有り難う御座います!
 


第ニ〇八話●

『あらぁ、まぁた坊やから来てくれたのですね?最近は沢山会えて、母は嬉しくて嬉しくて堪らないわぁ!』

 

『さぁさぁ、母に何を教えて欲しいのですか?肉袋の品質の見分け方ですか?未使用品の多頭飼いのコツですか?一晩連続五百連射の方法?秘技六穴抉責の体勢?……あ、もしかして!禁忌七重過剰受胎のさせ方ですか!!?……え、違う?それは残念』

 

『……まぁたそのお話ですか?母は退屈です~。そのお話ならもう何度も答えてあげた筈ですよ?つ・ま・り、メッ!』

 

『……可愛かったですか?お茶目ですか?ゆるきゃらぽかったですか?……キモい?うーん、最近の若い子の好みは難しいですねー?話を逸らすな?逸らしてなんて、いませんよ?』

 

『えぇ。駄目です。駄目駄目です。そのような事は決して、不可能です。無駄にして無意味です。徒労というものです。貴方自身のために、それはお勧め致しません』

 

『……どうもこうもありません。母は心からの善意から言ってあげているのですよ?確かに上等品が多いですけど、アレくらい今の貴方なら育てるのは容易でしょう?』

 

『だって……あら?ふふふ。残念。もう時間切れのようですね?では、今回はここまで』

 

『無理はいけませんよ?母を全力で受け入れるつもりなのならば構いませんが……そういう訳ではないのでしょう?ならば引き際を弁える事です。賢者は危うきに近寄らず!ですよぉ♪』

 

『あ!勿論、母は何時でも胸を開いて迎え入れる用意はありますよ!恥ずかしがらずに、何時でも御座れ!貴方が成るのを楽しみにしてますからね!』

 

『では、お早う。そしてお休みなさい。私の可愛い可愛い坊や……』

 

 

 

 

 

 

 

 

玖捌回目 

ーーーーーーーーーーーーー

 誘う。拐かす。捕らえる。食わせる。そして、屈伏させる。その繰り返し。

 

 誘う。拐かす。捕らえる。食わせる。そして、屈伏させる。その繰り返し。

 

 誘う。拐かす。捕らえる。食わせる。そして、屈伏させる。その繰り返し。

 

 繰り返す。繰り返す。繰り返す……その数は何時しか数十人にまで。隷属させた娘子の数である。お薬漬けにした女共の数である。

 

「……いや。改めて語ると酷い文面と光景だな、おい」

「……?義兄様、お早う御座います!何か言いましたぁ?」

「◼️◼️◼️◼️!!?◼️◼️ッ!?◼️◼️……!……」 

「……いや、何でもない」

 

 ふと出た純粋な感想を紡いだ独り言に反応して、お薬漬けにした娘らと共に新たな犠牲者を拘束して強制丸薬摂取をさせていたかやが呑気に振り返る。悶え暴れていた恭は、しかし次第にその哀れな抵抗も静かになり、魂が抜けたように惚けていた。完全に事案で事後な光景である。俺が命令した事だけども。

 

 ……けど覚醒しての最初の光景として見たくはなかったなぁ。

 

「だんな様ぁ……」

「前に命令した位置に戻りなさい」

「はい……」

  

 甘えるように呼び掛ける文に厳命すれば、彼女はぱっと立ち上がり俺から数歩遠ざかる。深い瞑想の前に記憶していた場所にちょこんと女子座りで座り込み、尚も上目遣いで媚びるように、物欲しそうに此方を見上げる幼子。その望みは分かりきっていて、それを与えるつもりは更々ない。

 

 ……というかお前、隙あらば睡姦するつもりだったな?待機命令したのに身体揺すって少しずつ移動して来るとかバグ技か?

 

「全く、油断も隙もない連中だ」

 

 この餓鬼ンチョに限らず、そんな態度の者はこの部屋にはゴマンといた。一人一人、女中共を支配していき増やした手駒。高確率で自分から御飯になりにいったり生け贄になりにイクような困った連中を優先して丸薬を咥えさせて、増えに増えたその数はそれでも全体の三割といった所か。先程も言ったように、油断したら命令の隙を狙って来るから薬漬けにしても完全に安心は出来ない。

 

「とは言え、基本的には命令に従順かつ絶対服従です。これだけ手駒にすれば最期の儀式の中断も容易かと」

「最期の儀式、ね……」

  

 はなの淡々とした言に、しかし俺は顔をしかめる。分かっているが、あの悪魔的な最期の乱痴気騒ぎは余り思い出したくなかった。お月見とは名ばかりの酒池肉林……いや、ある意味お月見だけど。お月ってそういう意味なの?

 

 ……あれは思いっきり中身化物な俺を覚醒させる舞台で、しかも物凄い勢いで犠牲が積み重なる場面であった。最難関といっていい。俺が自決した場面第一位である。犠牲が出た時点で再走確定であった。正確には再走させるために己から命を絶たねばならなかった。

 

 まぁ、どうにかして皆に協力して貰った周回でも無様に失敗しまくった俺の落ち度ではある。お陰様で今のようにお薬使わないと誰も協力してくれない事態に陥った訳で……信頼の失墜したら取り返しがつかないという事だ。

 

「……取り敢えず、全員生かさんとならんからな」

「策はあるのですか?」

 

 俺の呟きを聞き耳していたのか、はなが問う。俺は苦笑する。

 

「だから最近は瞑想してるだろ?」

「昼寝ではなかったので?」

「心外だな」

 

 淡々と放たれる無感情ながら辛辣な言への俺の心からの返答であった。まぁ、端から見たら誤解されるのも残当ではあるけど。

 

「こほん。……この『今』は術式による不確定の刻だ。言うならば現実であって現実じゃない。そうだよな?」

 

 夢現ともいう。また夢は死後や未来、神との繋がり連想するように、現実とそれ以外の境界の曖昧な、そして人と人外の境界が曖昧となる概念であり空間だ。俺は今現実を生きていて、しかし全ては夢幻であった。少なくとも、運命が確定するまでは。

 

 さて、俺を暴走させる存在は墜ちた地母神である。その因子である。俺の内に巣くう存在である。因子に刻まれた化物の疑似人格ともいうべきものである。夢は人の深層心理を表面化させる。そして……夢の内で見る夢は一層深く人の心の奥底を晒し出す。

 

 ならばこそ、今であって今でない。現実であって夢でもあるこの不確定な空間と時間の中で瞑想する事は、己の内に潜む化物と対話する絶好の機会でもあった。幾度やっても暴れ回り犠牲を強いる元凶を、根幹治療してやる……事が出来たら良かったんだけどなぁ。

 

「駄目な感じなんですかぁ?」 

 

 いつの間にか今日の被害者への処方と摂取と調整と調教を終えていたかやがやって来ていた。完全にトリップして床で大の字になってる女中を先行して犠牲となった他の犠牲者達が介抱する。お薬漬けとなった仲間を世話する。

 

「いっそ、寿命前借りでもさせろって言ってるんだけどな?」

 

 それこそ十年、二十年寿命縮めるのと引き換えに当座の暴走を止めるように、身体を真っ当に再生させるように直訴しているのだ。人を喰わずとも、食い物も飲み物も葵や佳世の伝を使えばそれこそ妖肉だって幾らでも手に入るだろう。死体だって手に入るかも知れない。定期的な瞑想の中、何度も説得した。代用品を提示した。代案を提案した。その答えは……ノーだ。圧倒的で、絶対的で、確定的なまでに、ノー、拒絶され続けていた。

 

「普段要らんお節介して来る癖にこういう必要な時に……毒親かよ」

 

 いや、そもそも親じゃないけども……何なのだろうか、あの異様な頑固具合は?

 

(まぁ、全く収穫がない訳でもない……)

 

 説得は出来ていないが、代わりこれまでの瞑想を通じた対話で一つ推測が確信に変わっていた。賭けに近いが……果たして?

 

「馬鹿蜘蛛……御神体は見付かってないんだよな?」

「それはぁ……あはは、探しているんですけどねぇ?」

「この儀式は神格が観測して確定する必要があります。なので絶対に何処かにはいると思いますが……」

 

 俺の質問に苦笑いするかや、そして難しげに語るはな。二人共サボっている訳ではないのだろうが、馬鹿蜘蛛の身元は知れぬようであった。ならば、やはり……?

 

「……無学な義兄から、幾つか質問しても?」

 

 俺は所詮元下人だ。儀式に対する見識は浅い。故に、まだしも界隈に聡い義妹二人に俺は問い尋ねて見ようとする。

 

「勿論!さぁさぁ遠慮なく!この胸にドンと来て下さい!」

「胸襟を開いて、どのようなモノでも受け止めます」

「おう、字面通りの常識通りに受け取るからな?」

 

 頼られた事が嬉しいのかウキウキな義妹共の返答に釘を刺すようにそのように前置きして、そして俺は語り始める。

 

 俺がここまでの経緯で抱いた疑問を、投げ掛け立てて見る。

 

 ……ふむ。これはやはり、俺の予想は正解かな?

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

「……もうこんな時間か。刻が過ぎるのは早ぇな」

 

 ……定期的に女中共がいらん事をしていないか確認しながらの義妹達との対談質疑応答は、気づけば相当に刻が経ていた。外を見れば既に夕刻近くを過ぎていた。外は夕焼け空に染まっている。夢幻の、夕焼け……。

 

「退出しろ。……の前に、細々と命令してやらんとな?ほら、先ずはお前からだ」

 

 未だお薬漬けの毒牙にかかっておらぬ者に自白されぬように、俺は一人一人目の前に立たせて、吟味して、手厳しく命令を下してから女中共を立ち去らせる。意図を伝えられぬように入念に言葉の落とし穴を潰して、命令を下していく。

 

「下着は誰にも見聞きされぬように破って捨てておけ。風呂にはここにいる連中とだけ入れよ?というか不用意に肌を見せるな。何もしてないと気取られる。ガタガタ脚を震わせておけ」

 

 俺が反逆しているなぞ欠片も匂わせる事なく、何をしていたのかと問われれば彼女達は俺に散々になぶられたと答える事になっていた。それこそどれだけ懇願しても一方的に物のように責め立てられたとだけ答えるだろう。加えれば、次の獲物を誘導するようにも言付けている。……まるで鼠講だな。ふぅん、こうして性搾取の被害者が増えていくという事か。

 

「こんな所だな。……さぁ帰れ帰れ。もたもたしてると尻ぶっ叩くぞ」

「……臀部が大きい方がお好みなのでしょうか?」

「時と場合と気分によるな」

 

 誰のものであったか、去り際の何処か抜けた問い掛けに、義務もないのに返答したのは酔狂でなければ遊興でもない。単なる欺瞞である。薬漬けにした者とされた者、幾度も喰らった者と喰らわれた者、奉仕させ続けた者と奉仕され続けた者、本来ならば相容れぬ関係である事からの逃避であった。

 

 ……どうにか事態を解決した後、正気に戻った彼女達が向けてくる眼差しが如何なるものになるのかを思うと内心で陰鬱とならざるを得なかった。

 

「だったらやっぱり後腐れなくモグモグするのが一番気楽なんですけどねー?」

「薬漬けも一案」

「頭妖に頭退魔士の提案やめーや」

 

 唯一部屋に残った身内、義妹二人の平然とした返答への嘆息。まぁ、この辺りは牡丹やら葵に言っても似たり寄ったりなのだろうが……欺瞞のためなら痣くらい平気でつけそうだしなぁ。

 

「……夕餉にしようか。薬はあるよな?」

「はいはーい!薬粥なら此方にバッチリと!」

 

 此方が提案すれば、いつの間に拵えていたのか土鍋にたんまりと煮込まれた粥飯を見せつけるかや。玉子と共に混ぜこまれた葉菜根菜の欠片が白い粥に散りばめられている。強過ぎる程に強い芳ばしさ。薬草の臭い……。

 

 それは十薬の義妹らのお手製薬粥であった。各種の霊草には肉体の再生、性欲や食欲の抑制、何よりも記憶の補強の効果が見込まれていた。

 

 そうだ。記憶の補強……儀式の主体ではない俺は周回の度に表層的な記憶が初期化されてしまう。俺が最初に記憶を取り戻したプルースト効果と同じで、この薬粥の独特の後を引き続ける味には俺の魂に摂取時の記憶を次周回に刻みつける効果があった。

 

 ……はっきり言おう。ゲロ不味である。良薬口に苦しというが限度がある。折角の白米が台無しだ。玉子の旨味でもその猛烈な味は誤魔化し切れていない。

 

「ジュル……うぇぇ」

「可愛い義妹が作った御飯に何て酷い反応!……にゃはは、不味っ!」

「豚の餌に相応……」

 

 土鍋を家族?三人で囲んで、飯を愚弄しながらの夕餉。というか、お前らは食う必要なくない?

 

「折角の義兄様との御飯なのに、勿体無い!」

「家族団欒の時間」

「そりゃあどうも」

 

 相変わらず物好きなものだと思った。協力してくれるのは嬉しいが……。

 

(いや、身内だからこその協力か……)

 

 そうだ。家族故に損得も利害も超えて協力してくれているのだ。十薬家には最早戻れない。身内と言えるのは俺くらいのもの。だからこそこうして危険を冒してくれているのだ。糞不味い薬粥なんて、それに比べれば大したものではない。

 

「薬膳が何でも不味いって訳じゃないんだろ?俺を牢に繋いでいた時の粥はどうだったんだ?それとも飯不味だったりするのか?」

 

 ふと投げ掛けたからかうような質問は必ずしも必要なものではなかった。完全なる雑談であった。

 

「いやいやいや!あの香ばしい薫り!美味しいに決まってるじゃないですかぁ!それこそ、依存性タップリに仕上げましたよ?」

「依存性……」

 

 にゃはは、と元気一杯に反論するかやからの不穏な単語。まぁ、俺に契約させようとしていた時に持ち込んだ飯だからなぁ……そんな劇物食わされてこいつらは大丈夫だったのだろうか?

 

「私達は製造段階で毒や薬にある程度耐性を付与されてますので……」

「あー、成る程……」

 

 こいつらなら河豚や紅天狗茸でも平気で味わえるのではないか……そんな考えが脳裏に過る。

 

「あ、それくらいの毒ならイケますよー?」

「濃縮還元して薬物の原料精製も出来ます」

「高機能だな、おい……」

 

 というか、濃縮還元って……どうやって?

 

「どうやってて……ここから?」

「妖に捕らえられた際の罠としても有効」

「さ、さいですか……」

 

 けろっと下腹部を、内股向けて指差すかやと羞恥心なく淡々と補足説明してくれるはなに、俺はただ唖然とするしかなかった。いや、確かに妖の趣向を思えば致命的かつ有効な仕掛けではあるけども。

 

 ……飯食ってる時に俺達は何の話をしているんだ?

 

「にゃははは!寧ろ家族だからこその下世話話じゃないですかー?こんな話、他人相手には出来ませんって!」

「身内相手でも兄妹でするような内容じゃねぇと思うんだが?」

「義兄妹だから大丈夫……」

「何が大丈夫なんすかね?」

  

 二人の言に突っ込みながら俺は薬粥をかっこむ。うん、不味い。苦い薬の味しかしない。

 

「……今の内に、今回の周回が駄目だった場合の方針を言うぞ?」

 

 粥をお代わりして一掬い、匙を口元に含む直前に手を止めて、考えを整理し終えて……俺は実務的な会話に移る。それは、最悪を想定してのものであった。

 

 仮に今回の周回を失敗したとして、お薬漬けにした娘共は記憶を引き継ぎ次周の再走となるだろう。当然肉体を対象としたお薬の効果はリセットされる。次の周回、皆に俺の記憶が戻っている事が判明している以上、開始と共にいきなり拘束される可能性が高かった。そして、義妹達は……。

 

「取り敢えずお前達は再走と共に直ぐに姿を隠せ。この屋敷なら隠れる場所は幾らでもあるだろうし、そもそも女中共では相手にならん。俺は……駄目だったら隙を見て助けてくれ」

 

 俺も一応、目覚めると共に逃走中をする予定であるが、果たして上手く行くのか分からなかった。かやとはなが頼みの綱だった。

 

「分かりましたが……以降の展望については考えはあるんですか?」

「今回失敗したら、あと二回です。後がありません」

 

 二人の義妹は一時的にでも義兄を見捨てる事になる提案を否定はしなかった。その面では二人はシビアだった。寧ろ、その先こそを懸念する。

 

「それについてだが……女中共については牽制するネタはある」

 

 そして、俺は己の憶測を口にしていく。

 

「御百度詣の儀式は、神格に観測されてこそ確定する、だったか?つまりは観測する存在はこの空間に確実にいる訳だ。だが有力候補たる蜘蛛はいない……何故だと思う?」

 

 二人の義妹は互いの顔を見合う。そして俺の言い回しについて考え込み、共に此方を見据えた。

 

「観測してる存在はあの蜘蛛ではない、と?」

「という事は……ま、まさかっ!?」

 

 二人の反応に、我が意得たりと俺は頷く。そうだ。それならば、全て合点が行くのだ。

 

「俺も……こんなのでも一応神格の因子を引いているからな。あるいは、俺の中にいやがるあの化物が対象かな?何にせよ、灯台もと暗しって事だな?」

 

 俺の、あるいは俺の中の妖母がこの御百度の禁術の指定した観測者、お詣りされて願われる存在であるとしたらどうか?探してもそりゃあ見つかる訳もない。そして、俺が死亡する度に諦めずに女中共が再走する理由とも言えるだろう。観測する存在が死んでしまえば、運命の確定なぞ出来ないのだから。

 

「では問題だ。この儀式は百回が限度だそうだが……百回目で当の観測者がくたばったらどうなると思う?」

「それは……」

 

 かやとはなもその問いに困惑する。流石に断言出来ぬようだった。果たして百回目の最後の周回で確定するのか、あるいは観測して確定する存在がいない以上次の周回があるのか、儀式自体が無効化されるのか……禁術なのだ、試して見ないと分かるまい。

 

 つまり、その不確実性故にこのネタは脅迫として使える訳だ。ここまでの全てを無駄にしてしまうちゃぶ台返しの脅迫材料……これまで自殺してやった回数を思えばそれをブラフと高を括る事は出来まいて。

 

「で、ですけど!その場合……義兄様は?」

「どのような形で儀式が終結するか分からない以上、義兄様の命も……」 

「其処は……まぁな?しかし、だからこそ強迫の材料になるんだ」

 

 この脅迫はあくまでも女中共の牽制のためのものである。それも後先が無くなった今だからこそ有効な手であった。本当に死んでやる義理はない。そして、女中らには俺の心を読める訳もなく、何よりもこれまでの自決回数からして嘘と断言も出来まい。

 

「時間稼ぎしている間に瞑想してあの化物を言いくるめる事が出来れば上々……他に何か手がないかは考えてはいるが、こればかりはな」

 

 周回二回分で最大二か月の猶予である。それだけあればどうにか……なるのかなぁ?もっともっと、潜在意識の奥底まで沈む必要があるかもしれない。今の瞑想でも戻って来るのに一苦労なのだが。

 

「うーん……義兄様の計画は承知しました」

「取り敢えず、此方も色々薬を調合しておく」

 

 納得し切れぬように、しかし了承する義妹ら。まぁ、仮定に仮定を重ねたような想定で、しかも根本的には俺の暴走という最大の問題は宙ぶらりんなのだからさもありなん。

 

 それでも、真正面から反発しないのは身内の情というもの……だといいのだがな。

 

「……二人共、頼んだぞ」

 

 己でも気付かぬ内に祈るように呟いて、そして俺は目前の粥を飲み干す作業に戻るのだった。

 

 はっは、不味……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 何があろうとも刻は止まらない。新たな一月は間違いなく過ぎ去ろうとしていた。一人一人と手籠めて行き、悪足掻きの各種の薬を摂取して、そして瞑想に耽る。ひたすらその繰り返し。少しずつ、確実に、刻の猶予は目減りしていく。まるで鑢で削り取られるかのように。

 

 屋敷の内では幾度目かの御月見の準備が始まっていた。女中共はこれまでの周回と同じように、皆でワイワイと談笑しながら料理を造り、祝いの用意に取り掛かる。儀式の準備に取り掛かる。何もせぬ者はいない。

 

 唯一人、俺を除いて。

 

「本当に、俺のやる事はないのかよ?」

「んっ、ふっ……ふぅ。御安心下さいませ。行事の準備を執り行うは女中の仕事であれば、旦那様のお手を煩わせる事なぞ一つとして御座いません」

 

 障子を開いた部屋の内にて、月見の用意に忙しなく庭園を行き来する女中を鑑賞して尋ねる俺に対して、その背後で肩を按摩する何時もの女中筆頭が答える。小さな手で以て、健気に固い肩肉を揉み解さんと奮闘する。

 

「ふぅん。……そういうものか」

「はい。旦那様の楽しみは私達の楽しみ。旦那様の悦びは私達の悦び……故に、旦那様は、唯拵えられた場を楽しみ、供えられた供物を頂けば良いのです」

 

 無知を良い事にいけしゃあしゃあと女中筆頭が語る『設定』。嘘偽り無き欺瞞。記憶を失っている屋敷の主人である俺は、月見に執り行われる祭儀のために彼女らの歓待を受ける。何の危険もなく、何の気負いもなく、俺はただそれを待ち、それに備える。女中共の望むように、等価交換。如何なる傍若無人の所業すら、月見の儀に俺が立会う事の前には許される下らぬ細事に過ぎぬ……という事になっている。

 

 ……ここ暫くの周回における、設定のデフォである。今更ながら馬鹿にされている感があって微かに苛立ちすら覚える。

 

「寧ろ、それこそが祭事の成就の秘訣。それだけで、私達の労苦は報われるのです」

 

 心から信じているかのその物言いは慈悲を、哀れみを、良心を、男の価値観を狂わせる甘い言霊であった。全てを肯定するための、そして強いるための建前……。

 

「……」

「さて、えいっ!えいっ!」

「んっ……!?くっ、ふぅ……」

 

 そして愛らしい掛け声と共に肘で以て肩甲骨を攻め始める女中筆頭。硬く硬く凝り固まった筋肉が刺激されて、鈍くも心地好い快楽に満たされる。思わず気の抜けた吐息が漏れる。あるいは、甘言をより意識に染み込ませる効果を狙っているのかもしれない。

 

「ふふふ。うーんと、あはっ!ここですね?ここが良いのですね?」

 

 此方の反応を見てとって、蠱惑的に微笑んで彼女は更なる攻めに取り掛かる。華奢な手で、大した力もない癖に、的確に身体の凝りの急所を打ち抜いて来る様は見事と言う他なかった。

 

「ぐ、ふっ、くっ……こいつは、中々だな……?」

「御満足して頂けて光栄の至りで御座います。旦那様のお顔、随分と蕩けていて……ふふっ、可愛いですね?」

 

 小馬鹿にしているようにも聞こえる彼女の物言いに、しかし演技でも糾弾する気分にはなれなかった。それだけ気持ち良かったのだ。隙あらば按摩をしてくる女中筆頭の腕は、周回を経る度に、数をこなす度に、目まぐるしい程に洗練されているように思われた。

 

「堪らんな……うおっ!?」

 

 心地好さに微睡みつつあった意識が、不意に目覚めたのは落雷を思わせる下腹部への感触。気づけば背後から伸びていた白い片手。それが腰に回り、下腹部に至り、其処を容赦なく握り締めていた。そして締め付けて、揉みあげて、撫で回していた。

 

「おい……ナニやってやがる?」

「按摩の続きで御座います。普段使いで、草臥れておりましょう?優しく癒してあげませんと……♪」

 

 非難するように振り向いて睨み付けて、しかし彼女は欠片も悪びれる事なく、それ処か今一方の手まで伸ばして躊躇も羞恥もなく可愛がるように「按摩」を執り行い始めた。

 

「ぐっ、う……!!?」

「うふっ、皆から聞いております。良く悦ばせて下さっているのでしょう?でしたら婢の筆頭として誠心誠意礼を尽くさねばなりません。……あぁ、凄い。何て太くてお逞しい……雄々しい……」

 

 ビクリ、と思わず打ち震える。小さき故に両手でも全く収まらぬ肉塊を、丁寧に丁寧に揉みこんで、撫であやして、締め上げて、扱きあげて、甘い嘆息と共に彼女は崇拝と賛辞の言葉を贈る。まるで赤子を可愛がるかのようだった。

 

 それは確かに異常であり、しかしこの屋敷の女中達にとっては当然の事で、そして記憶を取り戻してからは必死に誤魔化し避け続けて来た筈の事態であった。完全に奇襲であった。抵抗しようにも、責め立てられている場所故に、乱暴に出るのにたじろいでしまっていた。

 

「もーみもーみ、よしよし、よしよーし♪」

「くっ……ふ……!!?」

 

 ……そして、それを狙ったように更なる快で以て、彼女は容赦なく責める。

 

「そしてここも……ふふ。たっぷり、ずっしり、ですね?」

「うおっ!?」

 

 下から掬うように、持ち上げられて、片側を掴まれて、揉み揉みと揉みしだかれる。彼女の小さい手では全体を覆う事は出来ず、しかしながら中身の輪郭を捉える事は出来た。優しく優しく、命を握られる錯覚……。

 

「さ、流石に……おい、ふざけるなよ!?」

「ふざけてなんていませんよ?これはれっきとした御奉仕で……あぁ、あったかい……それに、愛おしい……」

 

 甘い甘い甘い、幼さを残した低い声音で囁かれる。吐きかけられる吐息に背筋がぞわりとする。しかし、抵抗出来ない。不快感以上の快感が脳を冒していた。そしてナニよりも、俺の内に抑圧し続けていた激情に油を注がれていた。

 

 不能ではないのだ。四六時中に媚びて誘惑する女共が幾らでもいて、溜まらぬ筈もない。堪えようとも、一度油をぶちまけて火を付けられたような衝動は余りにも激しく燃え上がるのだ。

 

「……旦那様♪」

「……っ!!」

 

 思わず振り向いて、睥睨した。下ろして、睨み付けた。肉食獣の威嚇染みた態度に答えるように、生意気な娘が首を傾げてあざとく呼び掛けて来て、堪えに堪えていた我慢は、決壊する。

 

 咄嗟に手を挙げて、頬を叩こうと思ったのは懲罰のためで、投げ飛ばして、全て毟ってやろうと思ったのは全て本能であった。頬に掌が迫る。気付いているのか、いないのか、一層艶かしい微笑を女は浮かべて……。

 

「旦那様ぁ!見っつけましたよー♪お薬の時間でーす!」

 

 正に殴り付けようとしていた手を捕らえられて、続いて鳴り響く呑気な声音。義妹の、かやの宣言。俺は一瞬この闖入者を睨み付けて、しかし直ぐに我に返ると、虚を突かれた女中筆頭の手を払って立ち上がる。

 

 急速に冷える頭。戻る理性。常識的に考えて、親族の前で、妹の眼前で行為に及べる訳がないのだから当然であった。

 

「そうか、分かった。行くぞ」

「あ、旦那様。同行を……」

「失せろ、牝餓鬼がっ!!」

 

 尊大に、しかし実態は逃げるように、大股で俺は部屋を後にする。振り向きはしなかった。動揺を、そしてそれによって記憶の復活している事実を気取られたくなかったからだ。

 

「……済まん。助かった」

 

 縁側を出て、小さく囁くように俺は義妹に礼を述べる。

 

「いえいえいえ、お役に立ててナニよりですって!どうせお薬の時間は本当でしたし!……しかし危ない所でしたね?大分呑まれてましたよ?」

 

 それはつまり、蹂躙するだけでは済まないという事であった。責め殺すか、食い殺すか、兎も角も再走せねばならなくなる所という事だった。危ない。

 

「……糞、月見が近いから沸点が低くなってるのか?月神の儀式って奴か」

 

 御百度詣りと共に執り行われたと言う南蛮の月神に基づいた儀式が俺の本能を刺激してるのだと思われた。満月に近付く程に血が疼く。これまで幾度も経験した流れである。

 

 ……この辺りは特に瞑想を通じて因子に宿る堕神に嘆願してるのに、どうやら全く意味はないようだった。そんなのだから信仰失い堕ちたんだぞ糞が。

 

「儀式は明日、ですか……やはり幾度やってもこればかりは薬で抑えきれませんねぇ。やっぱり散々に発散するのが一番良い線じゃないですか?」

 

 かやの言うように、統計的に見ると直前にお薬されて乱行しまくったのが本番時に一番堪えられた周回だった。精魂使い果たせば本能が収まるという事か、あるいは地母神がスッキリして鎮まるのか……尚、文字通り精魂使い果たすのは相手の方である。いや、死んでんじゃねぇか。

 

「私とはななら大分持ちますけど?」

「やらんやらん。義妹相手にはやらん」

 

 専用器……じゃなくて、確かに繁殖機能も強化されてる故にそちらの耐久性も相当高いのだろう。しかしながら妹はどう考えてもアウトである。義妹でもアウトである。これまでの周回だって彼女らを相手した記憶がないのは本能が避けた……んだよな?多分、かっも、めいびー。

 

「というかお前らも昂ったら暴走するんだろうが。……頭から齧られるの御免だぞ」

「拘束して喉噛んでくれたら大丈夫ですよ?」

「特殊性癖を人で解消しようとするな」

 

 因みにはなの方は水責めと二穴責めである。淡々と説明しないで欲しいものであった。瞑想中に聞き付けた地母神に要らん技能伝授される所だったぞ。

 

「……兎に角瞑想で説得か。悟りの極致に至れば案外制御出来るかもな?」

 

 乾いた笑いは投げやりで、冗談であった。……そういや原作ゲームだと僧侶系ビルドに日常で林玄僧侶の説法聞く選択しまくれば精神耐久力バフ入ってステ上昇率マシマシになるんだったか。もっと説法参加した方が良かったか?

 

 他のステ上昇率はどうかって?ククク……。

 

「……彼方を選べば此方が立たぬ、か。やれやれ人の世は斯様にままならんものだな」

「私達、人かって言うと色々疑問符着きますけどねー?」

「己を人だと信じる気概こそが大事だぞ?」

「精神論ですか?」

「反論出来んな……」

 

 かやの軽くも鋭過ぎる指摘に俺は静かに落ち込む。精神論……全く以てその通りだ。流石、薬学嗜む理系様である。肉体労働者な俺とは違う。手厳しい。

 

「……」

「……」

「……あー、ちょっと話変わるんですけどーいいですか?」

「……何だ?」

 

 暫しの間沈黙しながら互いに縁側を進んだ。そして厠近くに差し掛かると、ふと決心したようにかやは立ち止まり、そして口を開いた。応じて、先の言葉を求める。

 

「えっと、あのー、流石にそれはちょっと。……部屋に行く前に、抜いちゃいましょうか?」

「……」

 

 片手でシコシコ示唆する動作、もう片方の手は指差してのアッケラカンと提案。俺はその指し示す方向に沿って下方を見る。立ち止まる。無言で、息を吐き、考えを整理する。そして決断する。

 

「厠に寄るから先に行ってろ」

 

 取り敢えず義妹の提案を、それ故に拒絶する事にする。

 

 ……手早く七二連発、軽く始末を終えた俺は先に行かせたかやに続いて部屋に向かうのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

「……今回やったのは沙羅と黒江か」

 

 薬師な義姉妹の仕事部屋に入室した俺の第一声であった。広くもなく狭くもない室内に詰めるお薬漬けの女中共の中に新顔を見つけての言であった。今日この日の犠牲者であった。適当に理由をつけて、招き入れ、待ち構えていた薬中達で拘束してお仲間にしてやった事後という事だ。相変わらず酷い絵面である。

 

「それ、お前ら端に退け、端だ。……はな、そいつは団子か?」

「吉備団子、お薬入りです」

「あぁ、成る程」

 

 不用意に部屋に鎮座していた菓子請けに乗る出来立ての吉備団子。どうやら儀式の時に一気に漬けてしまおうという腹積もりらしかった。

 

「……この中に厨房入りの奴が何人かいたな。後でバレないようにすり替えとけよ?」

「はい」

 

 お薬入りの団子と替えろ等という犯罪的な俺の命令に恭しく数人の女中の返答。今更である。俺は頷き、かやを探す。はて?

 

「かやは?先に行かせたんだが」

「用事があるから出ていきました」

「用事ね。……要らん事じゃないだろうな?」

 

 ふざけていても根は役目は果たす性格であるが、見掛けの軽薄さはやはり否めない所である。自己主張の少ないはなの方がどうしても信用出来てしまう。

 

「頼んでいた薬、あるか?」

「んっ」

 

 俺が要望すれば、そそくさと硝子瓶を差し出すはな。それは強力な強力な睡眠薬のようなものである……らしい。

 

「こいつか……」

 

 瞑想、そして夢の内でこそ深く深層心理に沈む事が出来る。更に言えば生死を彷徨う事によってもだ。眠り殺す薬を致死量寸前まで、残る時間も少ない。一つ深く潜るのも手であろう。

 

「……はな」

 

 周囲に控える女中共を見渡して俺が呼び掛ければ頷いて、はなは皆に刃物を、短刀を配っていく。粛々と短刀を受け取った娘共は、微かに困惑しているようだった。

 

「命令だ。俺が変異したら、グサッと殺れ。滅多刺しにしろ。分かったな?」

 

 深淵を覗けば深淵に覗かれる。瞑想中にヤラカして呑み込まれて、化物になる時にそれを阻止して次の周回を始めるための命令であった。皆が息を呑む。

 

「旦那様、それは……」

「黙れ。命令だ。従え」

 

 そして俺は薬を呷ると胡座を掻く。精神を統一して、身を引き締める。

 

「ぐっ……!?」

 

 かなり強い薬らしい。頭痛がした。鈍痛がして、思考が纏まらなくなる。

 

「旦那様……」

「お止め下さい。やはり危険です」

 

 此方の苦悶の表情を見てか、幾人かの女中が恐る恐ると再考を求める。

 

「くどいぞ。お前達に意見は聞いていない。良いから黙って外から人が来ないか見ていろ」

 

 薬の作用による激しい頭痛、集中が途切れる事もあって、俺は若干苛立ちながら言い捨てる。

 

「ですけども、旦那様!」

「一度安静にされてからの方が……お顔が悪う御座います!」

「煩いな。そう思うなら喋るな。頭に響、く……」

 

 そして、漸く俺は、今更に気付く。

 

「……おいお前ら。何で黙れって命じてるのにさっきから話せてる?」

「「「……」」」

 

 疑念への返答は室内全体を埋め尽くす沈黙だった。部屋の空気が豹変したのを感じた。皆の目付きが変貌したのに気付いた。

 

「……!!」

 

 俺は先手を打つために立ち上がる。身構えて、霊力を纏わんとする。身体強化である。

 

 ……続くようにグサリと、背中に走った感触。

 

「…………。ははは、こりゃあ参ったな」

 

 背後を見やる。開いた障子。そして其処には心底済まなそうな表情を浮かべるかやがいた。その手には真刀があって、俺を背中から突き刺していた。深く深く突き刺していた。

 

 更にそのその背後には女中筆頭。……否、何等かの認識阻害の結果であろうか?今では彼女の正体が明白に分かる。寧ろどうして気付かなかったのだろうかとすら思う。認識阻害を解除した、あぁ、どうして今まで分からなかったのだろうか?橘佳世の無邪気で屈託のない、満開の華の如き満面の笑顔が視界に映りこんでいた。

 

 ……あぁ、糞。掌の上って事かよ。

 

「か、よ……お前……グッ!?」

 

 正面に気配。腹を突き刺す感覚。はなは真っ正面から俺を切腹させてくれた。駄目押しのニ所責めなシスターズサンドの二度打ち……良く考えたら前後からヤられるのは三度目だった。最初の最初は十薬家での事である。

 

「グッ、フッ……!?」

 

 胃の奥から押し上げられる赤い熱。口内を満たす鉄の味。俺は義理の妹達を見る。俺を囲む女中共を見る。そして佳世を見る。

 

 ……まぁ、あれだな。あれ。

 

「よくも騙シタなアアァァぁぁっ!!!ダマして、クレたなあァァぁぁっ!!!?」

 

 それは最早咆哮だった。人ならざる物の絶叫だった。膝を屈して、半ば倒れ伏して、それを手で突き立てて支えて、天に届かんばかりの遠吠え。部屋の空気を、屋敷すらも震わせんばかりの怒りの発露。

 

「「「……っ!!」」」

 

 余りの激震故に、皆が後退る。色と狂に満ちていた女中共すら打ち震えて怯え切り理性が瞳に宿る。かやとはなはさっと退く。唯一人だけが違う反応をした。

 

「何をやっているのですか!囲んで籠めてしまいなさい!!何のための貴女達ですか!!」

 

 叱責。そして女中共が再び狂気と狂喜を瞳に灯す。四方八方から殺到する、ある意味八方美人。俺はこれに似た流れを知っていた。

 

 中途半端に怪物となった己が気安く手を振るえばどうなるか。数人の犠牲で済めば幸運だ。そして手負いの俺が理性を取り戻せる可能性は高くなくて、彼女らにとって多少の犠牲は望む所だった。流れる血が多い程、俺は獣に近付くのだから。

 

 何よりも、突き刺された刃や直前に飲んだ薬の事を思うと、今回の周回を続ける危険は大き過ぎた。実際、頭痛はこうしている間にも激しく、意識はまるで溶けるようで……。

 

 だから……こうするのがきっと、脅迫も兼ねて選べる最善の手だった。

 

「あっ……」

「ジゃ、あばヨ」

 

 腹から引き抜いた刃を己の喉に突き刺して、捻って、首を落とした。視界が落ちて、転がりながら、血の気の引いた女中共の顔を見て、息を呑む義妹共を見て、そして……。

 

(あぁ、お前はそんな顔するのか……)

 

 死になれてしまって、思わずそんな軽いノリで今際の感想を抱いて、俺の視界は闇に沈んだ。

 

 ……そして、次の周回を迎える。

 

 

 

 

玖玖回目 

ーーーーーーーーーーーー

「……!!かはっ!!?」

 

 生き返ったかのように目覚めた。目覚めて、身構えるようにして跳び上がって、そのまま倒れ伏した。

 

 余りにも激しい頭痛。嘔吐感。何かが無数に頭の中に雪崩れ込んで来るような感覚。思わず頭蓋を押さえる。頭が爆発してしまいそうだった。

 

「こ、これ、はっ……!!?」

 

 尋常ではない頭痛。行動すら出来ぬ程に。このような事はこれまでの周回ではなかった。有り得る可能性は一つしかなかった。

 

「く、すりぃ、かぁ……!!」

 

 魂に刻む事で周回を持ち越せる記憶補強薬があるのだ、他にも効果を持ち越せる薬があるのは当然。刀か、瞑想前に飲んだ薬か、どちらかがこの頭が割れるような激痛をもたらしているのだろう。俺は何も出来なくなった。そして、彼女らは既に迫っていた。

 

「……」

 

 幽鬼のように寝所に忍び寄って、あっという間に取り囲んでいく彼女ら。女中共。淑女にあるまじき乱れた服装で、中には纏ってすらいなくて、俺は何一つ抵抗出来ずそんな彼女らの思うがままであった。

 

「苦しいですよね?当然です。沢山頭の中に記憶が雪崩れ込んでいるのですから」

 

 彼女が、俺を膝枕する。優しく優しく慈愛の言葉を掛ける。蜂蜜色の髪を揺らす令嬢が。

 

「か、よぉ……!!」

 

 怒りの形相で睨み付けて、しかしそれに少しも怖じける事はなく、彼女は尚も優しく微笑む。悪意の欠片も滲ませず、労るような美貌を向ける。

 

「残念ですけど、予想はしてました。伴部さんならばここまで食らいついて来るかもーって。ですから、意地悪ですけど……私も対策をさせて貰いました。先に手を打たせて頂きました。貴方は既に詰んでいます。今からそれをたっぷりと教えてあげます」

 

 悲しげに、楽しげに、両手で以て両頬に触れて、覗き込むように顔が迫る。

 

「二つに一つ、選んで下さい。ここで永遠に私達と堕ちて頂くのか、それとも、刻を確定させて羽化してしまうのか。……皆を犠牲にして完全な自由と支配を得るのか」

「う、かぁ……?」

 

 鈍痛の中で、彼女の言葉を途切れるように反芻する。その意味を、理解しようとする。お前は、何を、言って……?

 

「ふふふふ。そうです。羽化。羽化なんです。……貴方の自由は皆の犠牲によってしか選べない。皆の救いと慈悲は貴方の堕落でしか選べない」

 

 だから堕ちて下さい、と彼女は今一度宣った。妖艶に無邪気に微笑んで、甘く囁く。

 

「貴方のために、私達のために、この無限の円環の内で永遠に延々に、貴方に貢ぎ捧げさせて下さいませ。私達の……いいえ、私だけの常世神様?」

 

 そして、答え合わせが始まろうとしていた……。

 

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