和風ファンタジーな鬱エロゲーの名無し戦闘員に転生したんだが周囲の女がヤベー奴ばかりで嫌な予感しかしない件 作:鉄鋼怪人
此方は寛さんより洋装佳世ちゃん。着道楽らしい秀逸なセンスです。……籠の中のその人形は?
https://www.pixiv.net/artworks/132709905
此方は柵さんよりAIイラストで蒼鬼様。身体は一流……(尚中身)
https://twitter.com/saku__shigarami/status/1939058734036349119?t=26P-KkeL1dEPFRmm2pmsdQ&s=19
素晴らしい作品、誠に有り難う御座います!
常世神……常世蟲とも称されるそれは扶桑の歴史の旧き章にて記述されている化外の神である。
民草を惑わせて、狂わせて、誑かせて、財貨を、作物を、畜獣を、乙女を、あらゆる富を差し出させたという異形の神。その由来は扶桑の勢力拡大に際して接触した辺地の堕神であるとも、大陸から渡来して来た災厄とも、権力闘争に破れた公家が生んだ呪いとも噂され、しかし結局は分からぬままに討伐された……。
『あれは確か……大陸王朝が原産でしたか?』
コロリと賽子を転がして、同郷たる狐が鈴のような美声で以て子細を語る。
『へぇー。そうなのぉ?アイツ全然会話通じなかったのって、他所の言葉使ってたわけ?』
『あ、其処は蛇様が正しう御座いますよ?所詮は人造の蟲ですもの。言の葉を扱うなぞ、そのような知恵はなし。あれは本能のままに赴くだけの怪物です』
『呪罠って奴さなぁ。いやはや、人ってのは浅ましいねぇ』
蛇の言を狐は否定して、横合いからケラケラと鬼は嗤う。
果たして幾代目の王統の易姓であったか。大陸王朝『黄』は黄金と絹にて栄えた国であった。特に呪具の原料たり得る霊絹は最大の産物であり、それを吐き出す蚕蟲は国家の秘中の秘であった。
如何なる理由があってか国外に流失した蚕蟲は、しかし仕掛けられていた呪いが羽化して人界に災厄をもたらした。扶桑もまたその例外ではなく、巡り巡りて、海を越えて来た災厄は国に多大な損失をもたらした。その余波で幾つかの有望な公家が没落したとも。
……古の昔、『黄』に赴いた商人が同じ目的の南蛮の者と結託して密かに蚕の卵を持ち出した事、その際に呪いを結託者に押し付けた事、その功績で以て公家として栄達した事、幾百年遅れて呪いが追い掛けて来た事を知る者は本当に本当に少ない。
何にせよ、所詮は大昔に討ち果たされた仮初の神格である。今となっては何等の脅威たり得ない。彼女が利用するまでは。あるいは……それ故に好都合。
『一族への呪い残滓を掻き集め、濃縮し、注入……依代上手くやったと言えばやったものですね』
一族の中でも特に怨みを買う己を誘引剤として、負の意思を食わせて残滓を養い、そして愛する人に植え付ける。祟り呪う模造神故に、炭化した芋虫の如きそれに残滓は躊躇せずに憑依した。そして、喰われた。
『たかが人が仕掛けた養殖神さ。あの糞親神には敵わんよ』
常世神の儀と平行してのもう一つ執り行われた儀式。その祭儀で奉る月女神は、地母神の一種でもあり、獣共の神であり、そして彼の者の内に巣くうそれと同郷……ある意味では派生と言えるやも知れぬ。代役、依代とも言える。親和性は非常に高い。
何にせよ、地を統べり獣を支配する神が、模造の蟲如きを支配出来ぬ道理はない。獣が蟲を喰らえぬ理由も、また。
『ムシャムシャムシャムシャ、まぁ神格である事には違いない。御馳走になったろうさ』
そうでなくても、芋虫というものは自然界において殊更寄生されやすい生き物なのだ。災をもたらすために呪の対象たる娘の想い人に憑依して、寄生したと思えば、逆に己こそが呑まれていた……その権能を、神威のみを奪われて、地母神の因子が息子を再生させるための原料とされる。常世の蟲神からすれば堪ったものではあるまい。既に全てが手遅れだけれども。
……そして、娘も地母神もこの程度で満足するような慎み深い性格ではなく、蟲神だけでなく、男にとってもまた元より全て手遅れなのだ。
『御百度詣り、常世蟲。其処に神双六、ですか。本当、良く思い付くものですね。こんな悪質な仕組みの深さを』
『正に手遅れの八方塞がりねぇ。最初から詰みじゃないのぉ。……貴女としては本当にこれでいい訳ぇ?』
少なくともそれの信条に基づけば勝ち目のない勝負である。最初からずっと大穴を狙って負け続けた結果として、その無駄に上等な全裸を堂々晒す鬼に向けて、狐と蛇は心配するように宣う。
……鬼自身、ましてや人間擬きな男に向けてのものでもない。癇癪を起こして全て卓袱台返ししまいかという意味での心配である。
『ケケケケ!』
そんな二匹を流し見て、全裸に脚を組み、頬杖をして、ニヤニヤと鬼は嗤う。謎の余裕である。
『だーかーらーこそさ!……ほーれ、糞餓鬼。此方来なっ!』
『!!』
呼び掛けに応じるようにテクテクテクと、足下に寄って来た小さな影をひょいと掴むと駒に紙に盤に賽子、皿に酒瓶と酷く散らかった台机に乗せてしまう蒼い鬼。ちょこんと尻から座りこんんで喃語を発して影は、机上の物を掴んでは投げてキャッキャと嗤う。
『あらあらあら、駄目ですね。物を投げては行けませんよ?』
『食い物でもないのを咥えるのもおよしなさぁい。……ちゃんと躾くらいしたらどうなのぉ?誤飲しちゃうわぁ』
狐が小さな手を捕らえ、吮児代わりに咥える賭け道具を蛇が舌で引っ手繰る。イヤイヤとばかりに絶望的な抵抗をする影をあやして叱って、同時に鬼を詰る。
『ごくごく……かーっ!いいんだよ。餓鬼なんてのは過保護に育てちゃあ成長しねぇだろ?獅子は子を谷底に落とすんだぜ?』
『お乳もあげない癖に良く言ってくれますね?』
『こらこら、逃げない……刷り込みって怖いわぁ。あんな毒親の所に自分から向かうんだからぁ』
酒を呷る鬼と、そんな鬼にジト目を向ける狐と蛇。赤子は四つん這いで鬼の元に逃げる。若干泣き顔で己の『母親』に助けを求める。血も種も繋がっていないけど。
『おいおい、喚くんじゃねぇよ。泣き虫だなぁ?』
そんな這って来る赤子の額をデコピン。よろけて泣いて、尚もハイハイして迫るのを指先で以て押し止める。
『ッ!ッ!ッ!!?』
『ほれほれ頑張れ頑張れ。この指へし折れるくらいに強き者になれよー?』
『無茶をいいますね……』
鬼による弱い者虐めに、口元を隠して呆れる狐。蛇は喉を鳴らして机上の紙面を見やる。
『次の周回、始まったわねぇ?爪用意して頂戴な?』
『へいへい』
蛇の催促に鬼は通せんぼしていた指を引き、ブチッと爪を剥いで投げ捨てる。赤子は阻む者がいなくなったのを良い事に一気に迫り、鬼の胸中へと沈むように抱き付いた。御満悦気に喉を鳴らす。慈味を求める。
『出る訳ねーだろ。ほれ、これ吸っとけ』
血の滴る指を咥えさせる鬼。まるで子牛が母牛の乳房に対してそうするように、食んで咥えて汁を啜る赤子。栄養価満点のそれに大満足だ。
『さぁてさぁて。こっから種バラシの始まりだ。どんな風に凌ぐのか。楽しみにしてるぜ?俺の英雄様よぉ?……お前も、そう思うだろ?』
欠片も根拠なく、自信満々に鬼は嗤う。心底心底愉しそうに。
『あ"ー"ッ"!!』
まるで応じるかのように、指から口を離しての名状し難き喃語が鬼の嗤いに続いた……。
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「常世生羽誕蠱儀……とでも呼称致しましょうか?この世界を形作る三つ目の儀式には面白い特徴があるんですよ」
始まったばかりの玖玖周目の世界で、何処までも妖艶に、何処までも無邪気に、橘佳世は説明する。悪夢の如き事実を一つ一つ、種明かしして語っていく。
「奉仕と貢納こそが封印の鍵……それは数多の化外の神と同じですが、彼の神はそれが殊更顕著であったそうです」
伝承によれば、多くの供物を捧げられて、神たる芋虫はしかし無力だったという。否、捧げられるからこそ無力だったというのだ。そして、にもかかわらず人々はより狂喜して全てを差し出した。
「常世の神が信仰する民草に与えた慈悲は『夢』であったそうです。浮世の苦しみに踠き苦しむ人々に幸福な夢を手向けた。まるで阿片のように」
現実は襤褸襤褸となり、しかし現実の如き幻術、夢の幸福に沈む亡者共は芋虫共を神として奉る。質が悪い事はこの事態を断たんとすれば蟲は羽化する事だ。
「亡者共の信仰を餌にして、同時に封印として、溜めに溜めた祈りは信者共を喪うと共に爆発的に覚醒したのだとか」
楯となる狂人共を根切りして、あるいは信仰を棄てさせて、しかし途端に祭壇に君臨する矮小な蟲は脱皮して荒ぶる神へと転身、災厄をもたらす。それは悪辣な罠といって良い。伝染病のようにジワリジワリと広がる蟲神の神威と洗脳は、しかし下手に討伐すればそれ以上に激しい破滅をもたらした。朝廷からすれば面倒この上ない。
「まぁ最後は刀聖の一族に名を連ねる武人の一刀により討ち果たされたそうですが……それはそれ。此度はそれに倣いました。どういう意味か、分かりますか?」
一拍置いて、反応を待って、令嬢は嗤う。彼の表情の変化に我が意得たりとばかりの満足げな御満悦。
「はい!そうです!この御百度は夢の内なんです!蠱の御百度は常世の夢の繰り返しなんですよ!」
屋敷に運び込まれた無惨な炭の塊を昂らせた。令嬢は獣共を従える魔女たる月女神を装って、獣の血を滾らせた。乳を与え、目覚めさせて、獣はその慈味にか細い生を得る。そして身を丸めて冬眠する。蛹へと変じる。崩れそうな焼け枯れた殻の内で、身を組み替える。蟲の因子を取り込んで、喰らい荒らして、その権能を発現させる。
常世の蟲神の、羽化せぬままに、誕生せぬままに、蛹の内にて魅せる理想郷が屋敷を満たした。その中で、彼女は、彼女達は御百度の儀式を執り行った。舞台は整った。
そうして夢を繰り返す。現と幻の境界を、朝と夜とを曖昧に、一夜を千夜にして延々と百度。無限に引き伸ばさせた堕落した夢に、逃避するように皆で沈む。夢に沈み、奉る。
「だけど夢は何時か覚めるもの……ですか?えぇ、勿論承知しておりますよ?それはとても悲しいお話です。この御百度の儀式では尚更に」
本当に本当に悲しげに、己の頬に手を当てて、何処か演技がかった嘆き。赤い舌を出して、悪戯っ娘らしくはにかむ。
「そうですね。伴部さんはこの御百度の儀式の子細を知らないのでしたね?まさか……定められた限定的な範囲とは言え、運命を操作する代償がないとでも思いましたか?」
そして悪戯成功とばかりの華の開いた笑顔で、彼女は宣うのだ。
「はい、そうです!勿論、贄が要りますよ?人柱が要りますよ?沢山沢山、たぁくさん!」
それこそが御百度詣りの儀式が禁術として指定された一因。一度の周回に一人の生け贄。儀式に用意されるべき人柱は百人、周回を繰り返す事に一人の運命が定められる。破滅の運命……。
「玖玖周、九九人。儀式をぶち壊した所で無駄ですよ?今更です。もう手遅れです。見積代、解約金は支払わなければ。……事後払いの格安料金なだけ大分良心的ではあるんですけどね?」
ニチャリと嗤う。意地悪く嗤う。令嬢は艶かしく蠱惑する。私は贄ではなく主祭者なので別枠ですけどと付け足す。
「大変ですよね。今更運命を確定させても、儀式をぶち壊しても、何も変わりません。皆儀式の代金として取り立てられます。そして、奉仕を喪った伴部さんは常世の神として羽化をする。……ええ。知ってます。貴方はそんな悲しい運命を望まない事を」
打って代わって純情に純粋に、無垢に幼く、恋する令嬢は微笑んだ。そして囁くのだ。悪魔の計画を。
「仕込まれた最後の儀式は双六です。紙双六、神双六です」
愛する者の両頬に手を当てて、挟み込んで、顔を近付けて、彼女は語る。この悪魔的な儀式の肝を。
「貴方の運命は決まってる。貴方の末路は決まっている。羽化という未来は確定している。破滅は定まっている。だからこそ、この儀式は成立します」
その名も『双六廻振出狂儀』。紙双六とは、よりにもよって最後の最期に意地の悪いコマがあるものだ。それこそ、振り出しに戻る事すらも。それはしかし、同時に救いでもある。このような場合においては。
「……元々は神殺しの一手であったとか」
確定した未来を『上がり』として、其処に至る『過程』を紙双六として模して、繰り返す。何をしても終わりは変わらない。しかし過程を変える事は出来る。
世界に対して面にて生きる神格は、一度の死では殺し切れるものではない。故にその心を折るのは一つの手である。儀式にて討ち殺す直前を無限に繰り返し、そうして無気力と化した所を土地に封じるのは扶桑の下級神格討伐の一つの常套手段である。後には処断する罪人への最大の刑罰としても扱われた。
「皮肉ですよね?神殺しと断罪のための儀が神産みと罪の回避のために使われるのですから」
上がってしまえば愛する人は神となる。贄共は皆死に絶える。ならば振り出しに戻るしかない。今一度、御百度を繰り返すしかない。また百度繰り返したら?また振り出しに戻るのだ。
無限に無限に、永遠に永遠に、延々に延々に、正しく円環の理だ。終わる事なき享楽と快楽の楽土への誘い。それは堕落ではない。救済だ。善行だ。功徳だ。橘佳世は主張する。
……逃げ道はない。初めから詰んでいた。
「……納得は出来ない、ですか?ふふふ、分かりますよ、その表情を見れば。えぇ、分かりますとも」
だから、と佳世は口元を釣り上げる。
「運命を受け入れる事が如何に貴方のその優しい心に叶うのか、今からたっぷりと教えてあげますよ。彼女達が、貴方に、身も心も、分からせてあげますとも……」
その宣言と共に、囲み籠めていた贄達は蟻のように群がった……。
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それはこれまでの周回と同じで、しかしそれ以上に必死で、決死で、狂奔して、狂騒して、発狂して、熱狂しているように思われた。無数の手が伸びる。無数の舌が伸びる。吐息が肌を撫でる。淫臭に包まれる。頭痛から、俺は何も出来ない。
「ん"ん"ん"ん"っ"!"!"」
ズッシリとした重味と心地好い温もりと共に蘭のエグ味のある声が漏れた。眼前で最後まで腰を沈めた肉肉しい褐色の身が映りこむ。即座に彼女は己の為すべき事を、あるいは彼女自身が望む事を始める。
「はあぁぁぁっ、ァ!!!!旦那様っ!あはっ、だんなっ、さまっ!!」
それはもう激しく、荒々しく、爆発音とすら思える程に。馬乗りにのし掛かっての蹂躙は、しかしそれを行う方もまた死に絶えそうな程息絶え絶えに、それでも決して止まる事はなかった。止まってしまったら死んでしまうと言わんばかりであった。
「やめ、っ……」
制止せんと手を伸ばす。瞬く間に四方八方から白い手に捕らわれる。指先を幾つもの唇が咥えつく。掌一杯に柔らかさに包まれる。腕を挟まれる。肉の籠に籠められる。何も出来ない。
……快楽と共に頭痛が和らぐ。何かが、風景が、脳裏を掠める。燃える空が。暗い船底が。無数の視線が。
「……?」
思わずキョトンとしてしまい、馬乗りとなる女と視線が重なった。彼女の腰の動きがピタリと止まる。一拍置いて小首を傾げて微笑まれて、その眼は潤んでいた。
……泣いている?どうして?
「はぁ、はぁ、はあぁぁ……だんなさま、あぁ、なんて、なんてお可哀想に……」
本当に本当に心から哀れむように、同情するように。その両の手で慈愛を以て俺の頬に触れる。分からない。分からなかった。どうしてそんな顔を向けて来るのか分からない。
いや、分かってる。全て分かっている。何故なら交わっているから。肉を通じて記憶が交わってるから。目の前の女の全てが分かる。言葉にしなくても分かってしまう。記憶が流れ込んで来る。無数の記憶の奔流の中から、彼女の記憶が、深い深い肚の繋がりを通じて、一際鮮明に。
……漁から帰り、生まれ育った漁村は地獄と化していた。村は焼かれた。村は消毒された。村の者は感染者も、疑惑のある者も、無垢の者も見境なしに、殺された。発砲音。そして火炎放射。小舟を必死に漕いで逃げた。皆がのたうち回り崩れ去るのを網膜に焼きつけた。
……何日も漂流した末に海賊に捕らえられて、その薄暗い船底で地獄の日々を過ごして、そんな海賊共が討伐されても地獄は終わらない。身元の分からぬ人間なんぞ格好の商品であった。
……首輪に手錠で、布の一切れすら許されず肌を晒されて、見せ物にされて、不躾に鑑賞されて、触れられて、拡げられて、もうそんな事すらどうでも良くなって。帰る所も、大事な人々も、何も無い。隷呪故に生かされているに過ぎない。
……其処に蜂蜜色の髪の尊大な娘が現れて、商品たる己を吟味して、仕方無しに連れて行かれて。そして、彼女は居場所を得た。
それは箱庭の安寧、同類達と傷を舐め合う逃げ場、救いの主を奉る神殿……。
「旦那様の居場所は、ここではいけませんか?」
「それ、は……」
抱き締められる。柔らかな彼女の肉に埋められる。脚を回して逃げられないようにして、そして悲しく投げ掛けられる言葉。甘えるようで、乞われるようで、懇願されるようで……想いは嫌な程に分からされる。
深淵を覗けば深淵に覗かれる。人の記憶を見れば記憶を見られるのも道理であろう。その言の葉に籠められる心は、より一層……心身の深い繋がり。
「今の……うおっ!!?」
「あはっ、は!!旦那、様!慰めます!!お慰めさせて!おねがい……おねがいっ!!」
まるで此方の発言を遮るように、激しく責めが再開した。いや、先程よりも遥かに激しく、猛々しい。隠すものなんて、羞恥なんて、尊厳なんて、何もないかのように。何もかも捨て去るように。彼女の過去を思えばそれは当然過ぎた。そしてそんな彼女を賤しいと思うのも、汚いと押し退けるのも、出来なかった。
「本当、ですかぁ?嬉しいっ、うれしいです。ごめんなさい。ごめんなさぃ……!!」
再びの馬乗り。荒馬への騎乗。髪を掻きあげて揺らして、汗を節操なく撒き散らかしての乱行。普段の大人らしさを捨て去って、剥き出しに歓喜して、怯え切って、悲しんで、激情に呑まれていて、見掛け以上にその事を本質的に俺は知覚していた。俺が哀れむ程に、彼女は嘆き、彼女は悦び、そして奉仕しているようにも思えた。全身全霊で、己の全てで楔を打たんとばかりに。
「ひぐっ、いぐっっ、!!ぐひっ、!!?いぃ、あぁぁァァっん!!!??」
いっそ馬鹿みたいに海老反りに腰をへし折って、人よりも獣に近い咆哮をぶちまけて、一人で勝手に果て絶えてしまって、無様に崩れる彼女を、咄嗟に支えてやらないといけないと思って、しかしそれを遮るのは周囲だった。
そんなもの、どうでも良いではないですか……口にせずとも、皆との心繋がりでそれが分かった。皆の心中には嫉妬と期待が渦巻いていた。それを裏切る事は出来なかった。
「ふふふ。次は私ですね?」
四方八方から引き摺って引き離して、空いた空間に予定調和のように潜り込んだご機嫌な巡。当然のようにのし掛かり、躊躇も容赦もなかった。蘭より細く華奢な身の癖に最後まで、己を串刺して壊してしまうつもりだった。
「ふふっ!!ひっ"、ぐっ"ひぃ"!!」
先程の蘭の荒々しさと対比するように、粘り気のある責め立て。グルグルグルグルと渦を巻くように。悲鳴を上げて、嗚咽を漏らして、しかし動きは止めず、必死に取り繕った蠱惑。
「どう、ですかぁ?私は、お役に立てていますか……?」
「役にって……っ!?」
小首傾げての媚びた感想の要求。直後に脳裏に再び錯綜した幾つかの光景。後妻に責め立てられて、躾られて、父親に疎まれて、金子の袋と引き換えに男共に連れていかれる巡と良く似た町娘……。
「あはっ、旦那様……私達、似た者同士ですねぇ?」
「巡っ……!ぐおっ!?」
荒く荒く、己の内が荒れようが破れようがぶっ壊れようが気にしないかのような所業。ただ相手のをより愛でて持て成すためだけの行為。涎を垂らして、酒に酔ったかのように朦朧として、淫蕩に蕩けた風貌を見せ付けて来る。
「旦那様ぁ、私に家族を下さいましぃ……わたしに、この屋敷を、かえるべきおうちに、おうちに、させてくださぃ……」
若干幼児退行した口調での切実な要望。彼女にとってこの屋敷が、女中仲間との日々が如何なるものであったを繋がりを通じて濃厚に猛烈に叩きつけられる。孤独から救われて、家事を楽しめて、心を開ける日常。それを守りたいという必死の願い。
目の前の男に向けた父のようで、兄のようで、夫のような情……縁として、その硬くて大きい身体に守られたいという欲求。
「っ……!!?」
「ひぎぃっ♪」
思わず突き上げたのは彼女の願いの根源の反映だった。力を魅せつけられたいという彼女の願い。爪を立てて腰を掴みあげて、あっという間に主導権を奪っていた。己の赴くままに責め立てて、グラグラと突き揺らされて、しかしその事への悦びしか伝わって来なかった。
「あは、あははっ!!あはははっ!!あ、あ"ぁっ"、あひゅ"、ぁ"ァ"ァ"ァ"!!?」
爆発して、屈伏させた。逃げられないように拘束して、深く深くで。白目を剥いて失神した。また引き摺り出される。黒髪の堀の深い娘が次に出た。
「黒江……」
「んっ、ん……!!あは、ぎゅっと抱き締めて下さいませ♪」
自分から無理矢理押し拡げて最奥まで迎え入れて、苦悶に目元に涙の粒を浮かべて腰をガクガクに震わせて、しかし両手を広げて笑顔を魅せる。その瞳は紅く染まっていて、気づけば蝙蝠を思わせる翼が生えていた。肚を見れば皆に一様に刻まれていた刻印が、彼女は二重に光っていた。
まるで導かれるように自然に上半身を起こして、抱き締めて、二人と同じように。いつの間にか頭に生えていた角を疑念もなく支えのように掴んでいた。耳元に甘い声音の囁きが響く。
「旦那様っ、大好きです!愛しております!!てごめてっ、わたしを、しはいしてっ、満足サセテ!お腹一杯ッ!アはッ、すきぃ!!」
……嵐のような求め、そして光景が脳裏に浮かぶ。半淫魔として常に飢えて来て、蔑まれて来て、しかし血に目覚めるまで育った教会の教えで貞淑も理解していて、貞操帯を着けたままに監獄に連行される馬車から逃げ出して、飢えて捕らえた盗賊共は危険を理解していて直ぐに好事家向けに奴隷商に投げ売った。彼女に起きた全ての経緯を、即座に理解する。理解させられる。
「しゅご、っぃ!いひっ、やっば、これっ、わたし、いひっ、まけちゃ、うぅ……!!?」
その敗北宣言は余りにも嬉しさに溢れていた。教えを理解している。己の強欲を理解している。誰それ構わず、淫欲に溺れて腹上死させるのは許せなかった。自分を堕とす存在との出会いは運命にしか思えなかった。歓喜であった。己の終着地は、終着家は、終着主はここだと確信していた。
「来て旦那様ぁ!来て!来て下さい!ぶっこわして!!ぶっつぶして!来て!!きて!きてきてきてきてっ!!!?きひぇ!!ひぃひぇっ!!!?」
対面して抱き合う姿勢で、耳元で囁かれる言葉は次第に不明瞭となり、熱量は破裂せんばかりに。釘打ちの連続。破局の時は、決壊の時は、爆発の時は余りにも間近だった。
「い"ひゅ"ぃ"ぃ"っ"!"!"?"」
前の二人に比べれば健闘したが、結末は変わらない。馬鹿馬鹿しい歓喜の絶叫。抱き潰されて、何処までも充実して充足して、従属して、半魔の娘は倒れ伏した。そして、次の者が彼女を投げ捨てて填まる。
対面で、あるいは騎乗させて、あるいは交差して、あるいは組伏せて、尻を突き出させて、抱き抱えて、逆さになって、持ち上げて、吊し上げて、百花繚乱を多種多様に、其々の好みの、情に合わせて、癖に合わせて、皆の最適な立ち位置を、体勢を、あぁ、分かってしまう。
それは地母神の因子によるものだけではなかった。あれはどちらかと言えば相手を一方的に染め上げて、塗り潰して、侵し尽くす代物だ。これは違う。双方向だ。相乗だ。相関だ。
「気付きましたか?ふふふ、十薬の人達に調合して貰ったんですよ。皆の髄液を含ませた……さしずめ交感薬って所でしょうか?何周分も重ね呑みしているので、効果は人一倍でしょう?」
嬌声に混じるように、何処からか幼声が聞こえた。呑気に陽気に脳を犯す快楽と記憶の正体を語っていく。
交感薬。脳髄の汁を採取したそれは摂取者に原料の持ち主との繋がりを持たせる。相手の感情を、五感を、そして記憶を流し込む。
かやとはなから貰った幾つもの薬、交感薬は其処に混ぜられていた。屋敷の皆の髄汁を一つ一つ、俺は幾度に渡って摂取していた。何周にも渡って、因果に幾重にも刻み込んでいた。そして皆もまた恐らく……。
「あ、安心して下さいね?伴部さんの髄からは採ってませんから。……もう触媒はありましたので」
口の中でコロリと何かを転がして、彼女は耳元で囁く。意味が分からなかった。しかし、そんな配慮はどうでも良かった。
こうしている間にも女共の記憶が、情が、快楽が纏めて脳を侵して来ていた。そして俺の記憶が、情が、快楽が女共に伝わる。その繰り返し。その円環。その循環。全ては無限に相乗して、高まり合う。際限なく増幅する。その上での情報の濁流。多過ぎて俺の脳は処理し切れない。一つ一つを認識出来ない。しかし、深く繋がる事で漸く個のそれを解するのだ。
美貌故に村の娘らに詰められて、男共に手籠められそうになり逃げ出した篠を見た。
歩き巫女の母が因習蔓延る辺地にて生け贄として人柱にされたのを見せ付けられた辰を見た。
命辛々燃える城から抜け出して、家族を喪い途方に暮れて声を失う夕を見た。
売られた。買われた。殴られた。虐められた。閉じ込められた。責められた。騙された。付き纏われた。呪われた。犯された。奪われた。殺された。引き離された。壊された。貶められた。追い払われた。繋がれた。縛られた。
屋敷での日々でアッケラカンとしていて、ふざけていて、姦しくて、仲睦まじくて、恐ろしくて、しつこくて、そんな彼女らの過去が、記憶が、絶望が、次々と流れ込んで来る。その時の感情すら生々しく、鮮明に、明瞭に。無間地獄のように。容赦なく。
……ある意味ではそれらはありふれた光景だった。常世は厳しい。怨み辛みばかりで渡る世間は鬼ばかり。苦界そのものだ。しかし、日常であるからといって理不尽に翻弄される本人が納得仕切れる筈もなく、割り切って耐えきれるとは限らない。うんざりして、厭世して、しかし出家出来るとは限らぬし、自ら命を絶てる勇気があるとも限らない。死んだように生かされる事だって珍しくない。
常世蟲。常世夢施。あぁ、だから救済を求めるのだろう。誰かが救ってくれるのを求めるのだろう。喩えそれが紛い物でも、道を外れても、そんな事はどうでもいい。今この瞬間の張り裂けそうな情念から逃れられたら、もうどうなってもいい。快と楽に沈んで何も考えたくもない……そんな彼女らの思いが雪崩れて来る。そんな彼女らの思いに同情する。そんな彼女らの思いを否定出来ない。否定出来る、訳がない。
その苦しみは、十分過ぎる以上に俺にも分かってしまうから……。
「だんな、さまぁ」
「……っ!!」
何人目だろうか?何回目だろうか?何周目?何日目?気付いた時には臀部を突き出して情けなく蹲っている少女がいた。そんな少女にのし掛かり、頭を掴んで枕に捩じ込んで。吼えながら責め立てていた己の行為を今更に認識する。まるで夢から覚めたように。夢の中の夢から覚めただけであった。
「くふっ!?くひゅ、♪かひゅっ!!♪」
まるで獣のように、相手を物のように扱う所業……そして脳を犯す多幸感は目の前で貶められている者のそれであった。間違いなくこの女は幸福の中にあった。夜鷹以下、婢以下、人とすら見られぬ扱いですら、満足であるらしかった。
「んっ、はぁ。あぁ。も、もっと、……ね?くださいなぁ。たくさん、たくさん、しあわせをくださいませ」
「ぐっ!!」
殆ど反射的に彼女の願いを受け止めて、お望みのままに首を締め、背後から手を回して揉みしだいてまさぐって、そして責めに責めて果てに果てる。息絶え絶えの少女を労うように頭を撫でていると、しかし直ぐに失神した彼女は皆で俺から引き剥がされて、次が来る。期待するように紅潮して、晒して魅せて、俺に目茶苦茶にされに来た。目元を潤ませて、はにかみながら熟れた身を拡げる。
「…………ッッ!!!!」
言葉にせずとも分かる求め。言葉以上に明瞭な意思。それに応じて飛び掛かる。歓喜の悲鳴が上がる。直ぐに甘い絶叫に変わる。
望み通り、貪るようにその華奢な身体と尊厳を徹底的に汚してやって、同時に視線は先程果てた者が引っ立てられて連行される部屋の片隅に向かっていた。投げ捨てられた女の山が視界の端に映る。
精魂尽きて、しなだれて、全身汚れ切って、跡だらけで、互いに慰め合って、肚を撫でて、そして事後の幸福に酔しれる。意識すれば一層にその心情が直接的に伝わって来る。あらゆる煩わしさと悩みから解放されて解脱したかのような感覚。欲望のままに、悪徳のままの所業なのに、まるで善行を働いたかのように思えてしまう。観音菩薩の救いを得られたかのように満たされている。
……そんな風に思いながら、身体は今も彼女達を貶めている。
「……!……ッ!……ッッ!!……ッッッッ!!!?」
吼える。吼える。吼える。怒鳴る。怒鳴る。怒鳴る。絶叫。絶叫。絶叫。僅かに理性を取り戻していたのに、時間の感覚がまた曖昧になる。飲み食いすらせずに、一体何れだけの間行為に及んでいるのだろうか?途中から日が出入の回数を数えられなくなっていた。
自分が好色な妖のように思えてしまった。酷く醜く思えていた。そんな己を制御出来なかった。否、彼女達が俺にそれを止める瞬間を与えなかった。実に巧妙だった。
何よりも俺が乱行を止められないのは多幸感故であった。文字通りの多幸だった。皆の幸せを感じていた。皆の悦びが流れ込んで来る。自分が悪を為していると思えなくなる。
彼女らの苦しみを知っている。彼女らの救いも知っている。今の彼女らの想いも知っている。故に止められない。彼女らのために。……そんな己の言い訳を彼女らは知っていて、そして、俺はそんな浅ましい意識を優しく受け入れて身も心も捧げようとしている彼女らの深い献身の願いを理解してしまっていた。
牡の醜く汚れきった欲望すらも内包して、奉仕して幸せに浸る皆を思うと、もうどうしようもなかった。取り繕う事が、偽る事が、自制する事こそが悪であるかのようにすら感じられた。
だからいっそ、このまま彼女達の元に沈んでしまう事こそ最善なようにすら思えてしまって…………。
『おや、本当にそう思うのかい?』
喘ぐ牝叫の合唱の中で、それは余りにも余りにも明瞭過ぎる理性の声音だった。澄み切った晴天の青空のようで、暖かな温かな日向の日射を思わせた。慰め慰められる熱く冷たい肉海の中で、背後から抱き締められていた。日溜まりのような温もりに包まれる錯覚。母に抱かれるような感触。
「……た、まき?」
戻って来た理性で以て、漸く認識した間近で此方を見下ろす女。膝枕して覗きこむ顔。不敵な笑顔。その容貌を見て、思わず呟いた名。ニンマリと、鑑賞して、観察して、見定めるように、興味深げに口元を小さく釣り上げる。
『誰の名かな?駄目じゃないか。見掛けで判断しちゃあ。だからこんな子供騙しにコロリと騙される。中途半端な夢に丸め込まれる。常世の蟲だけに、ね?』
麗人を思わせる存在はクスリと笑う。大の大人が幼児の失敗に肩を竦めるように。先達として駆け出しの後輩に言い聞かせるように。
……だってそうだろう?その繋がりは所詮肉を通じての繋がりだ。脳を通じての共感だ。脳の見せる幻だ。所詮は共通夢。固たる物質を通じての、上部の感応に過ぎない。違うかな?
『肉は檻、肉は器、唯の監獄だよ?』
故に魂の溶け合う交わりには遠くに及ばない……君ならばそれが理解出来る筈だ。二重に、三重に。分かり過ぎる程に。何せ……*1『おっとっと、危ない危ない。深入りし過ぎちゃったよ』
「……っ!?」
突然我に返り、俺は唖然として愕然とする。完全に呑まれていたのを理解する。俺は……何をされた?
『ふむふむ……へぇ、そういう運命も有り得るのか。興味深いね?彼が関心を抱く訳だ』
「何をっ!!?」
膝枕したままにウンウンと頷いて、瞳を細め、興味深気に納得していた女に、俺は一瞬遅れてその顔面を掴んで押しのけていた。周囲に蔓延る女共も払い除ける。陶酔しながら激しく腰の上で舞っていた汐は小気味良い音と共に抜けるとそのまま床に転がり落ちたきりであった。
「何が、くっ……何、が!?」
跳び上がって立ち上がる。俺は件の女を探す。彼方此方と振り向いて、肉海を掻き分けて、探していく。丁度皆の視線の髙さで揺らして突きつけて、叩きつけてしまう事すら気にせずに。そんな余裕はなかった。
可笑しい。何処にもいない……?
「旦那様?」
「落ち着いて下さいませ。如何なさいましたか……?」
「誰か具合の良い物がおりましたか?」
「そんなはしゃがれては皆に当たりま……んっ♪」
呑まれて、溶きって、浸りきりかけていた俺が正気に立ち直った事に仰天しているのが分かった。必死に傅いて、持て成して、労って、奉ろうという魂胆が分かった。今一度、俺を堕とそうとしていた。手に取るように、脳に直接雪崩れ込む情念……。
「喧しい!」
頭に響く雑音に、間抜けに豪快に揺らしながらの暴言。全裸での上から目線の高圧的な命令に、しかし部屋の連中は揃って従順に沈黙する。それこそ、心中すらも、静寂に。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
そして俺は肩を揺らしながら荒い息を整える。深呼吸する。いや……待て。それは可笑しい。俺は本当に酸素を吸っているのか……?
「……そう、か」
そして俺は結論に辿り着く。全てを自覚して、理解する。あぁ、成程。それが……ならば。
「退いてくれ」
俺の呼びかけに、まるで海が割れるように皆が道を譲った。その先にあるのはいつの間にか拵えられていた扉である。
それは存在しない筈の扉。先程まで影も形もなかった筈の扉。俺が願った扉。それはこの周回を終わらせる出口であった。
……ここは俺の魅せる夢。ならば、それくらい出来て当然の事だろう?
「……」
いつの間にか下人装束を着込んでいた俺は、面の位置を整えるとさっと歩み出す。扉に向かう。誰も文句は言わない。抵抗もしない。唯耐える。恐怖と絶望に堪える。彼女らは自分達の敗北と喪失を覚悟して、諦念して、互いに寄り添い抱き締め合う。せめて少しでも、お互いの心を慰めるために……。
「……安心しろ、と言ってもな」
口先だけで、否、心中が分かったとしても実が伴わなければ意味がない。夏休みの目標と同じである。約束を確約する保証がなければ。
……大丈夫だ。保証はある。余り愉快なやり口じゃないけども。
「旦那様……」
「済まないな」
端的に口にした言葉に籠められる想いは複雑だった。懺悔であり、感謝でもあった。皆までは言わない。その必要はなかった。キラキラではないがこういつ時に長々と説明せずに済むのは助かる。
「……信じております」
「……一旦さらばだ」
誰の発した言葉だったのか分からない。唯応じる。そして俺は先の見えない扉を開いた。足を踏み出した。堕ちていく感覚。真っ暗になる。そして……。
『いらっしゃーい、可愛い坊や♪……その分だと全て把握した上で私に御願いする感じかしらぁ?』
「まぁな。……お前さんを丸め込む材料も用意してきた」
扉の先。周回の打ち切り。周回と周回の合間。儀式の観測者にして、願いの聞き届け人として設けた一瞬の間に、刻すら曖昧となった内なる世界で、俺はソイツと顔を合わせる。全てを畳むために。全てを収めるために。取引のために。適切な願いを嘆願するために。
『けど、それを私が受け入れると思う?』
肉塊たる下半身に乗り掛かるようにして頬杖して、覗きこむようにして問い掛ける。試すように、からかうように。意地悪するように。
「……受け入れるからこうして会話出来てるんだろ?」
断るならば、それこそ接触を拒絶して強制的に次の周回に、最後の周回を走らせれば良い。それをしない。面会を許した。ならば……違うか?
『私も全て視えてる訳じゃないわよ?特に他の神格や貴方が関わると尚更よ?』
先程横槍を入れて来た存在を思ってか、少しだけ嫌な表情を浮かべての柱の言。だから言葉にして約束しろと、迂遠に邪神の因子は、欠片は、端末は、優し強く、傲慢に要求する。
「あぁ、分かったよ。誓約しよう」
鼻を鳴らして、諦めて、納得して、俺は内なる化物の要求を受け入れた。そうでもしないと梃子でも動かないだろうから。手助けしてくれないだろうから。
逆に言えば、それさえ受け入れればこいつは絶対にこの事態に手助けしてくれる事も、こいつの助けがなければどうにもならない事も、俺は分かっていた。
『宜しい!でーはっ、指切りげんまんしましょうか?』
「あぁ。……あー、うん。いや待て、その前に一つさ、誓約とは別にちょっとお願いしても?」
『……?』
此方の心中を察してか、満足げに、ご機嫌に、白い小指を差し出した母を自称する化物。しかし場の空気も流れも脇に置いて、誓約とは無関係に、話が逸れるのも妥協して、何よりも優先してそれを要望する。
「その……一応、この夢界の主体は俺なんすよ。キラキラ空間って訳でもないので褌くらいは履かせて貰ってもいいっすか?」
折角纏った衣を容赦なく全裸に剥かれてから面会する事になった俺は、神格相手にタフ味を込めてそう申し出た……。